(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機官能基を含有するオルガノポリシロキサン化合物は、耐熱性、耐水性、耐候性、耐衝撃性、耐クラック性、離型性、加工性等の特性を有する硬化物を与えることから、塗料、成形材料、医療用材料、自動車用材料、各種コーティング材料等の分野で樹脂改質剤やコーティング剤として広く利用されている。
【0003】
従来の有機官能基を含有するオルガノポリシロキサン化合物は、シロキサン鎖の末端にアルコキシ基、またはヒドロキシ基などの縮合性官能基を多数有するものが多い。
しかし、このようなオルガノポリシロキサンを縮合することにより形成された硬化物は、残存する縮合性官能基の経時での縮合反応により収縮が起き、クラックが生じるなどの問題を有している。
【0004】
一方、ラジカル重合性を有する不飽和化合物として、多官能(メタ)アクリレートおよび不飽和ポリエステル等が広く利用されている。しかし、従来のラジカル重合性を有する不飽和化合物にオルガノポリシロキサン化合物を混合した場合、両者の相溶性が悪いため、オルガノポリシロキサン成分が遊離する等の問題点を有している。
【0005】
また、化合物の構成要素にウレタン結合を含有させることで、分子同士をウレタン結合由来の水素結合により凝集させ、硬化物の靱性を向上させる検討が行われている。
例えば、特許文献1,2には、ウレタン結合を含有する、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合性の官能基を有するオルガノポリシロキサンおよび当該オルガノポリシロキサンを含有する活性エネルギー線硬化性組成物が開示されている。
【0006】
具体的に、特許文献1では、ウレタンアクリレート構造を有する3官能のアルコキシシランを加水分解してシルセスキオキサンを合成した例が開示されているが、得られたシルセスキオキサンの末端には縮合性官能基が存在しているため、経時変化が起こりうるという課題を有している。
一方、特許文献2では、ポリジメチルシロキサンを出発原料に用いたウレタンアクリレート基を有するオルガノポリシロキサンを合成した例が開示されているが、2官能型のジメチルシロキサンを構成要素に多く含んでいるため、その硬化物はゴム状となり、表面硬度と耐屈曲性の両立が困難であるという課題を有している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
(1)オルガノポリシロキサン化合物
本発明に係るオルガノポリシロキサン化合物は、下記一般式(I)で表される構成単位および下記一般式(II)で表される構成単位を有し、かつ、ケイ素原子の数に対するケイ素原子に直接に結合したアルコキシ基および水酸基の数の合計の比が0.3以下のものである。
【0014】
式(I)において、R
1およびR
2は、互いに独立して炭素原子数1〜10の2価の炭化水素基を表し、R
3は、水素原子またはメチル基を表す。
また、式(II)において、R
4は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜8のアルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、またはグリシドキシプロピル基を表す。
【0015】
R
1およびR
2の炭素原子数1〜10の2価炭化水素基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、デシレン基、シクロヘキシレン基等の直鎖、分岐または環状のアルキレン基;フェニレン基、キシリレン基等のアリーレン基などが挙げられる。
これらの中でも、炭素原子数1〜5のアルキレン基が好ましく、エチレン基、トリメチレン基がより好ましい。
【0016】
R
4の炭素原子数1〜8のアルキル基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられ、これらのアルキル基は、その水素原子の一部または全部が、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
中でも、R
4としては、炭素原子数1〜4のアルキル基またはフェニル基が好ましく、メチル基またはフェニル基がより好ましい。
【0017】
特に、一般式(I)および(II)の構成単位を有するオルガノポリシロキサン化合物の重合性不飽和化合物との相溶性や、当該オルガノポリシロキサン化合物を含む硬化性組成物の硬化性、並びに当該組成物から得られる硬化物の硬度、耐クラック性、耐屈曲性、および耐水性の観点から、一般式(I)において、R
1がトリメチレン基であり、R
2がエチレン基であり、R
3が水素原子であり、一般式(II)において、R
4がメチル基であることが、好適である。
【0018】
本発明において、上記式(I)および(II)で表される構成単位を有するオルガノポリシロキサン化合物としては、特に、下記平均式(III)で表される化合物が好ましい。
【0020】
式(III)において、R
1〜R
4は、上記と同じ意味を表し、R
5は、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、またはi−プロピル基を表し、a、b、c、dおよびeは、0.1≦a≦0.5、0≦b≦0.2、0≦c≦0.4、0≦d≦0.4、0.2≦e≦0.7、a+b+c+d+e=1を満たす数を表し、fは、0≦f≦0.3を満たす数を表す。
【0021】
上記aは0.1≦a≦0.5を満たす数であるが、0.2≦a≦0.5が好ましい。aが0.1未満の場合は、オルガノポリシロキサン化合物の相溶性が不十分なものとなり、また、当該オルガノポリシロキサン化合物を含む組成物の硬化性、並びに硬化物の硬度、耐擦傷性、耐クラック性、および耐屈曲性に劣るものとなる場合がある。
上記bは0≦b≦0.2を満たす数であるが、0≦b≦0.1が好ましい。bが0.2を超えると、得られる硬化物が耐クラック性、耐屈曲性に劣るものとなる場合がある。
上記cは0≦c≦0.4を満たす数であるが、0≦c≦0.2が好ましい。cが0.4を超えると、得られる硬化物が耐クラック性、耐屈曲性に劣るものとなる場合がある。
上記dは0≦d≦0.4を満たす数であるが、0≦d≦0.3が好ましい。dが0.4を超えると、得られる硬化物が硬度に劣るものとなる場合がある。
上記eは0.2≦e≦0.7を満たす数であるが、0.3≦e≦0.6が好ましい。eが0.2未満の場合は、オルガノポリシロキサン化合物が高粘度となる場合があり、作業性および加工性の観点から好ましくない。eが0.7を超えると、得られる硬化物が硬度に劣るものとなる場合がある。
上記fは0≦f≦0.3を満たす数であるが、縮合性官能基による縮合反応の抑制に効果的であることや、得られる硬化物の耐クラック性、耐水性、および耐候性の観点を考慮すると、fは0≦f≦0.1を満たす数が好ましい。
【0022】
本発明のオルガノポリシロキサン化合物は、単一の組成でも、組成の異なる複数の化合物の混合物であってもよい。
【0023】
本発明のオルガノポリシロキサン化合物の平均分子量は特に限定されるものではないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で500〜100,000が好ましく、700〜10,000がより好ましい。500未満では縮合が十分に進んでおらず、オルガノポリシロキサン化合物の保存性が低くなる可能性があり、また経時で縮合反応が生じ、耐熱耐湿試験で良好な結果が得られない可能性がある。100,000超の高分子量体では、当該オルガノポリシロキサン化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させたフィルム、または被覆物品において良好な硬度や耐屈曲性が得られない可能性がある。
【0024】
本発明のオルガノポリシロキサン化合物の粘度は特に限定されるものではないが、作業性および加工性の観点から、回転粘度計により測定される25℃における粘度が200〜50,000mPa・sが好ましく、300〜5,000mPa・sがより好ましい。
また、本発明のオルガノポリシロキサン化合物は、有機溶剤等を除く不揮発分が96質量%以上であることが好ましい。揮発分が多くなると、組成物を硬化した際のボイド発生による外観の悪化や機械的性質の低下の原因となる場合がある。
【0025】
本発明のオルガノポリシロキサン化合物は、一般的なオルガノポリシロキサンの製造方法に従って製造することができる。
例えば、ウレタン結合および(メタ)アクリロイルオキシ基を有する有機基を含む加水分解性シランを縮合して本発明のオルガノポリシロキサン化合物を得ることができる。
具体的には、下記式(IV)で表される加水分解性シラン、および必要に応じてその他の加水分解性シランを用いて、触媒の存在下で加水分解縮合を行ってオルガノポリシロキサン化合物を製造する方法が挙げられる。
【0026】
R
6SiX
3 (IV)
(式中、R
6は、ウレタン結合および(メタ)アクリロイルオキシ基を有する有機基を表し、Xは、互いに独立して、塩素原子または炭素原子数1〜6のアルコキシ基を表す。)
【0027】
Xの炭素原子数1〜6のアルコキシ基としては、その中のアルキル基が直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。
R
6のウレタン結合および(メタ)アクリロイルオキシ基を有する有機基としては、上記式(I)におけるケイ素原子に結合した下記に示される基が挙げられる。
【0028】
【化6】
(式中、R
1〜R
3は、上記と同じ意味を表す。)
【0029】
一般式(IV)で表される加水分解性シランの具体例としては、下記一般式(IV’)で表される加水分解性シランが挙げられる。
【0030】
【化7】
(式中、R
1〜R
3およびXは、上記と同じ意味を表す。)
【0031】
また、必要に応じて用いられるその他の加水分解性シランとしては、上記一般式(IV)で表される加水分解性シランとともに加水分解縮合することでオルガノポリシロキサン化合物を製造できるものであれば特に限定されるものではない。
その具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシランなどが挙げられる。
【0032】
縮合に用いられる触媒としては、特に限定されるものではないが、酸性触媒が好ましく、その具体例としては、塩酸、ギ酸、酢酸、硫酸、燐酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、炭酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応を速やかに進行させるとともに、反応後の触媒の除去の容易性を考慮すると、加水分解性シラン1モルに対して0.0002〜0.5モルの範囲が好ましい。
【0033】
加水分解性シランと、加水分解縮合反応に要する水との量比は、特に限定されるものではないが、触媒の失活を防いで反応を十分に進行させるとともに、反応後の水の除去の容易性を考慮すると、加水分解性シラン1モルに対し、水0.1〜10モルの割合が好ましい。
加水分解縮合時の反応温度は、特に限定されるものではないが、反応率を向上させるとともに、加水分解性シランが有する有機官能基の分解を防止することを考慮すると、−10〜150℃が好ましい。
【0034】
なお、加水分解縮合の際には、有機溶媒を使用してもよい。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0035】
(2)活性エネルギー線硬化性組成物
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、上述した本発明のオルガノポリシロキサン化合物、および光重合開始剤を含有するものである。
光重合開始剤としては、活性エネルギー線によりラジカル種を発生する開始剤であれば特に限定されるものではなく、アセトフェノン系、ベンゾイン系、アシルフォスフィンオキサイド系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の公知の光重合開始剤から適宜選択して用いることができる。
光重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、チオキサントン誘導体、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アシルフォスフィンオキサイド誘導体、2−メチル−1−{4−(メチルチオ)フェニル}−2−モルフォリノプロパン−1−オン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルファイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィン等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
光重合開始剤は市販品として入手することができ、市販品としては、例えば、ダロキュア1173、ダロキュアMBF、イルガキュア127、イルガキュア184、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア379EG、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア784、イルガキュア819、イルガキュア819DW、イルガキュア907、イルガキュア1800、イルガキュア2959、ルシリンTPO(いずれもBASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0037】
光重合開始剤の使用量は、硬化性を良好にするとともに、硬化後の表面硬度の低下を防止することを考慮すると、本発明のオルガノポリシロキサン化合物、および必要に応じて用いられる重合性不飽和化合物の総量100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましい。
【0038】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、本発明のオルガノポリシロキサン化合物以外の重合性不飽和化合物を含有していてもよい。
重合性不飽和化合物の具体例としては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、エステルアクリレート等が挙げられる。
重合性不飽和化合物を用いる場合、その含有量は、本発明のオルガノポリシロキサン化合物100質量部に対して、1〜1,000質量部が好ましい。
【0039】
なお、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、金属酸化物微粒子、シリコーンレジン、シランカップリング剤、希釈溶剤、可塑剤、充填剤、増感剤、光吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、熱線反射剤、帯電防止剤、酸化防止剤、防汚性付与剤、撥水性付与剤、消泡剤、着色剤、増粘剤、レベリング剤等の各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0040】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、上記各成分を常法に準じて均一に混合することにより得られる。
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物の粘度は特に限定されるものではないが、成形または塗布作業性を良好にし、スジムラ等の発生を抑制することを考慮すると、回転粘度計により測定される25℃での粘度が、500mPa・s以下が好ましく、300mPa・s以下がより好ましい。なお、25℃における粘度の下限は10mPa・s以上が好ましい。
【0041】
上述した本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、コーティング剤として好適に使用可能であり、基材の少なくとも一方の面に、直接または少なくとも1種のその他の層を介して塗布し、それを硬化させることにより被膜を形成した被覆物品を得ることができる。
また、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物は、フィルムとしても好適に使用可能である。
【0042】
上記基材としては、特に限定されるものではないが、プラスチック成形体、木材系製品、セラミックス、ガラス、金属、およびそれらの複合物等が挙げられる。
また、これらの基材の表面が、化成処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸やアルカリ液で処理されている基材や、基材本体と表層が異なる種類の塗料で被覆された化粧合板等も用いることもできる。
【0043】
さらに、予めその他の機能層が形成された基材表面に、本発明のコーティング剤による被覆を施してもよく、その他の機能層としては、プライマー層、防錆層、ガスバリア層、防水層、熱線遮蔽層等が挙げられ、これらのいずれか一層または複数層が基材上に予め形成されていてもよい。
【0044】
被覆物品は、本発明のコーティング剤からなる塗膜が形成された面に、さらに、CVD(化学気相成長)法による蒸着層、ハードコート層、防錆層、ガスバリア層、防水層、熱線遮蔽層、防汚層、光触媒層、帯電防止層等の1層または複数層によって被覆されていてもよい。
さらに、被覆物品は、本発明のコーティング剤からなる塗膜が形成された面とは反対側の面が、ハードコート層、防錆層、ガスバリア層、防水層、熱線遮蔽層、防汚層、光触媒層、帯電防止層等の1層または複数層によって被覆されていてもよい。
【0045】
本発明のコーティング剤は、表面に耐擦傷性および耐磨耗性の付与が必要とされる物品、特に液晶ディスプレー、CRTディスプレー、プラズマディスプレー、ELディスプレー等の各種表示素子等の表面に塗布し、硬化被膜とすることにより、これらの表面に耐擦傷性、耐磨耗性、耐屈曲性、および耐クラック性を付与することが可能である。
【0046】
コーティング剤の塗布方法としては、公知の手法から適宜選択すればよく、例えば、バーコーター、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フローコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコート等の各種塗布方法を用いることができる。
【0047】
活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させるための光源としては、通常、200〜450nmの範囲の波長の光を含む光源、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯等が挙げられる。
照射量は特に制限されないが、10〜5,000mJ/cm
2が好ましく、20〜1,000mJ/cm
2がより好ましい。
硬化時間は、通常0.5秒〜2分であり、好ましくは1秒〜1分である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、下記において、揮発分はJIS C2133に準じて測定した値であり、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、HLC−8220 東ソー(株)製)を用いてテトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒として測定した値である。
また、平均式(III)におけるa〜fの値は、
1H−NMRおよび
29Si−NMR測定の結果から算出した。
【0049】
[1]ウレタン結合を介して結合したアクリロキシ基を含有するオルガノポリシロキサン化合物の合成
[実施例1−1]
反応器中でヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製)696.6g(6.0mol)を撹拌しているところにKBM−9007(信越化学工業(株)製)1231.8g(6.0mol)を添加後、25℃で1時間撹拌し、下記式(V)で表される化合物1,928.4g(6.0mol)を得た。
ここに、ヘキサメチルジシロキサン649.5g(4.0mol)、メタンスルホン酸10.8gを配合し、均一になったところでイオン交換水194.4gを添加し、25℃で4時間撹拌した。キョーワード500SH(協和化学工業(株)製)54.1gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。得られた反応物は、粘度1,900mPa・s、揮発分1.5質量%、重量平均分子量2,200の25℃で粘稠な液体であった。NMRの結果から算出した平均式(III)におけるa〜fの値は、それぞれa=0.44、b=0、c=0、d=0、e=0.56、f=0.06であった。
【0050】
【化8】
【0051】
[実施例1−2]
上記式(V)で表される化合物1,285.6g(4.0mol)、メチルトリメトキシシラン272.4g(2.0mol)、ヘキサメチルジシロキサン649.5g(4.0mol)、メタンスルホン酸8.9gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水194.4gを添加し、25℃で4時間撹拌した。キョーワード500SH(協和化学工業(株)製)44.8gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた反応物は、粘度3,100mPa・s、揮発分1.4質量%、重量平均分子量1,780の25℃で粘稠な液体であった。NMRの結果から算出した平均式(III)におけるa〜fの値は、それぞれa=0.30、b=0、c=0.15、d=0、e=0.55、f=0.06であった。
【0052】
[実施例1−3]
上記式(V)で表される化合物1,928.4g(6.0mol)、ジメチルジメトキシシラン360.7g(3.0mol)、ヘキサメチルジシロキサン649.5g(4.0mol)、メタンスルホン酸11.9gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水259.2gを添加し、25℃で4時間撹拌した。キョーワード500SH(協和化学工業(株)製)59.6gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた反応物は、粘度2,300mPa・s、揮発分2.1質量%、重量平均分子量2,600の25℃で粘稠な液体であった。NMRの結果から算出した平均式(III)におけるa〜fの値は、それぞれa=0.36、b=0、c=0、d=0.18、e=0.46、f=0.05であった。
【0053】
[実施例1−4]
上記式(V)で表される化合物1,285.6g(4.0mol)、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン468.6g(2.0mol)、ヘキサメチルジシロキサン649.5g(4.0mol)、メタンスルホン酸9.9gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水194.4gを添加し、25℃で4時間撹拌した。キョーワード500SH(協和化学工業(株)製)49.7gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた反応物は、粘度450mPa・s、揮発分2.6質量%、重量平均分子量2,120の25℃で粘稠な液体であった。NMRの結果から算出した平均式(III)におけるa〜fの値は、それぞれa=0.29、b=0、c=0.16、d=0、e=0.55、f=0.05であった。
【0054】
[実施例1−5]
上記式(V)で表される化合物1,928.4g(6.0mol)、ヘキサメチルジシロキサン487.13g(3.0mol)、メタンスルホン酸10.0gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水99.0gを添加し、25℃で4時間撹拌した。キョーワード500SH(協和化学工業(株)製)50.0gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた反応物は、粘度1,630mPa・s、揮発分2.2質量%、重量平均分子量1,490の25℃で粘稠な液体であった。NMRの結果から算出した平均式(III)におけるa〜fの値は、それぞれa=0.54、b=0、c=0、d=0、e=0.46、f=0.16であった。
【0055】
[2]ウレタン結合を含有せず、アクリロキシ基を含有するオルガノポリシロキサン化合物の合成
[比較例1−1]
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン1,505.8g(6.0mol)、ヘキサメチルジシロキサン649.5g(4.0mol)、メタンスルホン酸8.2gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水194.4gを添加し、25℃で4時間撹拌した。キョーワード500SH(協和化学工業(株)製)41.0gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた反応物は25℃で液体であり、粘度120mPa・s、揮発分2.9質量%、重量平均分子量1,580であった。NMRの結果から算出した平均式(III)におけるa〜fの値は、それぞれa=0、b=0、c=0.45、d=0、e=0.55、f=0.07であった。
【0056】
[3]多数の縮合性官能基を有し、ウレタン結合を介して結合したアクリロキシ基を含有するオルガノポリシロキサン化合物の合成
[比較例1−2]
上記式(V)で表される化合物1,928.4g(6.0mol)、メタンスルホン酸7.6gを反応器中に配合し、均一になったところでイオン交換水90.0gを添加し、25℃で4時間撹拌した。キョーワード500SH(協和化学工業(株)製)37.8gを投入し、2時間撹拌して中和した。減圧下にてメタノール等の揮発成分を留去し、加圧濾過を行った。
得られた反応物は25℃で液体であり、粘度2,780mPa・s、揮発分2.5質量%、重量平均分子量1,650であった。NMRの結果から算出した平均式(III)におけるa〜fの値は、それぞれa=1、b=0、c=0、d=0、e=0、f=1.4であった。
【0057】
[4]活性エネルギー線硬化性組成物およびその硬化物の製造
[実施例2−1〜2−5,比較例2−1,2−2]
上記実施例1−1〜1−5および比較例1−1,1−2で得られた各オルガノポリシロキサン化合物10質量部、ダロキュア1173(ラジカル系光重合開始剤、BASF社製)0.5質量部を混合し、厚さ0.2mmとなるように離形フィルムを貼り付けた型に流し込み、高圧水銀灯で積算照射量600mJ/cm
2となるように光を照射し、硬化させることでフィルムを製造した。
得られたフィルムについて鉛筆硬度および耐屈曲性を測定した。結果を表1に示す。
(1)鉛筆硬度
JIS K5600−5−4に準じて750g荷重にて測定した。
(2)耐屈曲性
JIS K5600−5−1に準じて円筒形マンドレル(タイプ1)を用いて測定し、耐屈曲性に関して、8mmφ試験でクラックが生じたフィルムに対しては、>8mmφとした。
【0058】
【表1】
【0059】
さらに、得られたフィルムについて、85℃、85%RHの環境下で10日間静置した後の鉛筆硬度および耐屈曲性を上記と同様の手順で測定した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
[5]コーティング組成物および被覆物品の製造
[実施例3−1〜3−5,比較例3−1,3−2]
上記実施例1−1〜1−5および比較例1−1,1−2で得られた各オルガノポリシロキサン化合物4.5質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(MIWON社製)4.5質量部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート1.0質量部(大阪有機化学工業(株)製)、ダロキュアー1173(ラジカル系光重合開始剤、BASF社製)0.5質量部を混合し、このコーティング組成物をバーコ−タ−No.14を用いてポリカーボネート基板上に塗布し、高圧水銀灯で積算照射量600mJ/cm
2となるように光を照射し、硬化させることで被膜物品を製造した。
得られた被覆物品の硬化膜について鉛筆硬度および煮沸密着性を評価した。結果を表3に示す。なお、鉛筆硬度は上記と同様の手順で測定した。
(3)煮沸密着試験
100℃の沸騰水に2時間試験片を浸した後、JIS K5600−5−6に準じて25マスによるクロスカット試験を行い、(剥離せず残ったマスの数)/25として表した。
【0062】
【表3】
【0063】
表1に示されるように、ウレタン結合を有する実施例2−1〜2−5および比較例2−2の活性エネルギー線硬化物では高い耐屈曲性がみられるが、ウレタン結合を有しない比較例2−1の活性エネルギー線硬化物では耐屈曲性を示さないことがわかる。
また、表2に示されるように、シロキサン末端の縮合性官能基数が制限された実施例2−1〜2−5および比較例2−1の活性エネルギー線硬化物では、鉛筆硬度および耐屈曲性共に耐熱耐湿試験の前後での変化が小さいが、多くの縮合性官能基を有する比較例2−2においては、鉛筆硬度が硬くなり、耐屈曲性が悪化している傾向が顕著にみられることから、鉛筆硬度および耐屈曲性の変化は、シロキサン末端の縮合性官能基が経時で縮合反応することにより引き起こされた結果であると考えられる。
さらに、表3に示されるように、コーティング組成物を塗布した被膜物品において、ウレタン結合を有し、かつシロキサン末端の縮合性官能基数が制限された構造において、煮沸密着試験が良好な結果が得られており、本発明の重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン化合物の優位性を示唆している。