(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接着性重合体100質量部当たり、前記ジフェニルエーテル系界面活性剤および前記アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤を合計で0.2質量部以上1.5質量部以下含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物。
前記接着性重合体100質量部当たり、ポリアクリル酸化合物を0.1質量部以上1質量部以下含む、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物は、リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物の調製に用いられる。また、本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、リチウムイオン二次電池の電極の形成に用いられる。そして、本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物から形成される電極合材層を備えることを特徴とする。更に、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を備えることを特徴とする。
【0021】
(リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物)
本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物は、接着性重合体と、界面活性剤と、溶媒とを含む。そして、本発明のバインダー組成物は、界面活性剤としてジフェニルエーテル系界面活性剤およびアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤を、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤の配合量に対するジフェニルエーテル系界面活性剤の配合量の比が1/9以上9以下となる量で含む。かつ、本発明のバインダー組成物は、THFゲル含有量が70質量%以上95質量%以下であり、THF溶解成分の重量平均分子量が5000以上40000以下である。
そして、上述した本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物によれば、リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物の泡立ちを抑制しつつ分散性を高めて、当該スラリー組成物の高速塗工性を向上させることができる。
【0022】
<接着性重合体>
接着性重合体は、本発明の二次電池電極用バインダー組成物を用いて電極を形成した際に、製造した電極において、電極合材層に含まれる成分(例えば、電極活物質)が電極合材層から脱離しないように保持しうる成分である。
ここで、接着性重合体としては、リチウムイオン二次電池用電極においてバインダーとして使用可能なものであれば特に限定されない。接着性重合体としては、例えば、ジエン重合体、アクリル重合体、フッ素重合体、シリコン重合体などを用いることができる。中でも、本発明のバインダー組成物を負極合材層の形成に用いる場合は、接着性重合体として、ジエン重合体を用いることが好ましく、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する共重合体を用いることが特に好ましい。剛性が低くて柔軟な繰り返し単位であり、接着性を高めることが可能な脂肪族共役ジエン単量体単位と、重合体の電解液への溶解性を低下させて電解液中での接着性重合体の安定性を高めることが可能な芳香族ビニル単量体単位とを有する共重合体は、接着性重合体としての機能を良好に発揮し得るからである。上述した重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
以下、脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する共重合体を例に挙げ、その好適な組成について詳述する。
【0023】
[組成]
脂肪族共役ジエン単量体単位および芳香族ビニル単量体単位を有する共重合体を接着性重合体として用いる場合、脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体としては、特に限定されることなく、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などを用いることができ、中でも1,3−ブタジエンが好ましい。なお、脂肪族共役ジエン単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0024】
接着性重合体において、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が10質量%以上であることで電極の柔軟性を高めることができる。一方、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が50質量%以下であることで、電極合材層と集電体の密着性を良好なものとし、また、本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物から形成される電極の耐電解液性を向上させることができる。
【0025】
また、接着性重合体の芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、特に限定されることなく、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどが挙げられ、中でもスチレンが好ましい。なお、芳香族ビニル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0026】
接着性重合体において、芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。芳香族ビニル単量体単位の含有割合が40質量%以上であることで、電極の耐電解液性を向上させることができ、80質量%以下であることで、電極合材層と集電体の密着性を良好なものとすることができる。
【0027】
また、接着性重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含むことが好ましい。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を形成しうるエチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されることなく、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノカルボン酸およびジカルボン酸、並びに、その無水物等が挙げられる。中でも、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸が好ましく、イタコン酸がより好ましい。なお、エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0028】
接着性重合体において、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合が上述の範囲内であれば、接着性重合体の凝集が抑制されることでスラリー組成物の分散性を高めることが可能となり、また当該スラリー組成物から得られる電極合材層と集電体の密着性を向上させることができる。
【0029】
接着性重合体は、上述した脂肪族共役ジエン単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよい。そのようなその他の単量体単位を形成しうる単量体としては、例えば国際公開第2012/026462号に記載の、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルポン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体や、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0030】
[製造方法]
接着性重合体の製造方法は特に限定されないが、接着性重合体は、例えば上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造される。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、通常、所望の共重合体(接着性重合体)における繰り返し単位の含有割合と同様にする。
なお、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
また、得られる接着性重合体は非水溶性であることが好ましい。本発明において重合体が「非水溶性」であるとは、25℃において、その重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90質量%以上となることをいう。
【0031】
<界面活性剤>
本発明のバインダー組成物は、界面活性剤として、ジフェニルエーテル系界面活性剤およびアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤を所定の比率で含有することを必要とする。本発明者の研究によれば、ジフェニルエーテル系界面活性剤は、界面活性剤の中では比較的スラリー組成物を泡立たせ難く、一方でアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤はスラリー組成物の分散性を良好に高めることが可能である。そして、これらの二種の界面活性剤を所定の比率で使用することで、スラリー組成物の分散性を確保しつつ泡立ちを抑制し、結果としてスラリー組成物の高速塗工性を高めることが可能となる。なお、ジフェニルエーテル系界面活性剤がスラリー組成物を泡立たせ難い理由は定かではないが、以下の理由によるものであると推察される。すなわち、泡立ち発生のメカニズムは、例えば溶媒として水を用いたスラリー組成物である場合、界面活性剤が疎水部と水との接触面積を減少させるべく水中でミセルを形成し、表面エネルギーを低下させるためと考えられているところ、ジフェニルエーテル系界面活性剤は、疎水部であるジフェニル構造がミセルを形成させにくく、消泡効果を有するためと推察される。
なお、本発明のバインダー組成物は、上記二種の界面活性剤以外の界面活性剤を含んでいてもよい。
【0032】
[ジフェニルエーテル系界面活性剤]
ジフェニルエーテル系界面活性剤としては、ジフェニルエーテル骨格を有する界面活性剤であれば特に限定されないが、例えばジフェニルエーテル骨格と、親水性基(スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基など)とを有する化合物およびその塩が挙げられる。そして、ジフェニルエーテル系界面活性剤としては、スラリー組成物の泡立ちを十分に抑制する観点から、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩が好ましく、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸塩がより好ましく、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムが更に好ましい。なお、ジフェニルエーテル系界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0033】
[アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤]
アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩が挙げられる。そして、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤としては、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムがより好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが更に好ましい。なお、ジアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0034】
[界面活性剤量比]
本発明のバインダー組成物において、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤の配合量に対するジフェニルエーテル系界面活性剤の配合量の比(質量基準、以下「界面活性剤量比」という。)が1/9以上9以下であることが必要であり、1/4以上であることが好ましく、3/7以上であることがより好ましく、4以下であることが好ましく、7/3以下であることがより好ましい。界面活性剤量比が1/9未満であると、スラリー組成物の泡立ちを十分に抑制することができず、またリチウムイオン二次電池の電池特性が低下する。一方、界面活性剤量比が9超であると、スラリー組成物の分散性が低下し、また電極合材層と集電体の密着性が確保できず、電池特性(特にサイクル特性)が低下する。そして、界面活性剤量比を上述の範囲内とすることで、高速塗工においても泡立ちが抑制され、かつ分散性に優れたスラリー組成物を得ることが可能となる。
【0035】
[二種の界面活性剤の合計配合量]
本発明のバインダー組成物において、ジフェニルエーテル系界面活性剤およびアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤の合計配合量は特に限定されないが、当該合計配合量は、接着性重合体100質量部当たり、好ましくは、0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.35質量部以上であり、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.2質量部以下、更に好ましくは1.0質量部以下、特に好ましくは0.9質量部以下である。これら二種の界面活性剤の合計配合量が0.2質量部以上であれば、スラリー組成物の分散性を高め、高速塗工において平滑な塗工が容易となる。加えて、電極合材層と集電体の密着性を高め、またリチウムイオン二次電池の電池特性(特に出力特性)を向上させることができる。一方、これら二種の界面活性剤の合計配合量が1.5質量部以下であれば、スラリー組成物の泡立ちを十分に抑制することができる。加えて、電極合材層と集電体の密着性を高め、またリチウムオン二次電池の電池特性を向上させることができる。
【0036】
<溶媒>
本発明のバインダー組成物の溶媒としては、特に限定されることなく、既知の溶媒を用いることができる。中でも、溶媒としては、水を用いることが好ましい。なお、バインダー組成物の溶媒の少なくとも一部は、特に限定されることなく、接着性重合体を調製する際に使用した単量体組成物に含まれていた重合溶媒とすることができる。
【0037】
<その他の成分>
本発明のバインダー組成物は、上述した成分の他に、分散安定剤、増粘剤(分散安定剤に該当するものを除く)、導電材、補強材、レベリング剤、電解液添加剤等の成分を含有していてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
なお、バインダー組成物を用いて得られるスラリー組成物中の分散状態を安定させて分散性を高める観点からは、バインダー組成物は、分散安定剤を含むことが好ましい。分散安定剤としては、例えばポリアクリル酸化合物や、リン酸化合物が挙げられる。
ポリアクリル酸化合物としては、ポリアクリル酸およびその塩が挙げられ、スラリー組成物の分散性を高める観点からは、ポリアクリル酸塩が好ましく、ポリアクリル酸ナトリウムがより好ましい。またリン酸化合物としては、スラリー組成物の分散性を高める観点からは、トリポリリン酸塩が好ましく、トリポリリン酸ナトリウムがより好ましい。
なお、分散安定剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの分散安定剤のバインダー組成物中の配合量は特に限定されない。スラリー組成物の分散性を高める観点から、ポリアクリル酸化合物の配合量は、例えば、接着性重合体100質量部当たり0.1質量部以上1質量部以下であることが好ましい。また、同様にスラリー組成物の分散性を高める観点から、リン酸化合物の配合量は、例えば、接着性重合体100質量部当たり0.5質量部以上1.5質量部以下であることが好ましい。
そして、本発明のバインダー組成物は、スラリー組成物の分散性を一層高める観点から、分散安定剤として、ポリアクリル酸化合物およびリン酸化合物の双方を含むことが好ましい。
【0038】
<バインダー組成物の調製>
本発明のバインダー組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、上記各成分を混合することにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分を混合することにより、バインダー組成物を調製することができる。
また、本発明のバインダー組成物は、例えば、ジフェニルエーテル系界面活性剤およびアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤を含む単量体組成物を重合して接着性重合体の水分散液を調製し、得られた接着性重合体の水分散液に対し、任意に溶媒およびその他の成分を添加して調製することもできる。
【0039】
<バインダー組成物の性状>
[THFゲル含有量]
本発明のバインダー組成物は、THFゲル含有量が70質量%以上95質量%以下であることが必要であり、75質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以下であることが好ましい。THFゲル含有量が70質量%未満であると、スラリー組成物の乾燥時における泡抜け性を確保することができず、均一な厚みの電極合材層の形成が困難となる。そして、電極合材層と集電体の密着性が損なわれ、リチウムイオン二次電池の電池特性が低下する。一方、THFゲル含有量が95質量%を超えると、スラリー組成物の分散性が損なわれ、高速塗工の際における平滑な塗工が困難となる。加えて、電極合材層と集電体の密着性が損なわれ、リチウムイオン二次電池の電池特性が低下する。
なお、バインダー組成物のTHFゲル含有量は、接着性重合体の調製条件(例えば、使用する単量体、重合条件など)を変更することにより適宜調整することができる。具体的には、THFゲル含有量は、重合温度、重合開始剤の種類、
連鎖移動剤の量、反応停止時の重合転化率(モノマー消費量等)を変更することによって調整することができ、例えば、重合時に使用する連鎖移動剤であるtert-ドデシルメルカプタン(TDM)の配合量を少なくするとTHFゲル含有量を高めることができ、TDMの配合量を多くするとTHFゲル含有量を低下させることができる。また反応停止時の重合転化率を上げるとTHFゲル含有量を高めることができ、重合転化率を下げるとTHFゲル含有量を低下させることができる。
【0040】
[THF溶解成分の重量平均分子量]
本発明のバインダー組成物は、THF溶解成分の重量平均分子量が5000以上40000以下であることが必要であり、7000以上であることが好ましく、8000以上であることがより好ましく、10000以上であることが更に好ましく、15000以上であることが特に好ましく、40000以下であることが好ましく、30000以下であることがより好ましく、25000以下であることが更に好ましく、20000以下であることが特に好ましい。THF溶解成分の重量平均分子量が5000未満であると、低分子量成分が増加するためスラリー組成物の泡立ちが起こり易くなり、高速塗工の際に均一量での塗工が困難となる。加えて電極合材層と集電体の密着性が確保できず、またリチウムイオン二次電池の電池特性が低下する。一方、THF溶解成分の重量平均分子量が40000を超えると、スラリー組成物の粘度が上昇し、高速塗工が困難となる。
なお、バインダー組成物のTHF溶解成分の重量平均分子量は、接着性重合体の調製条件(例えば、使用する単量体、重合条件など)を変更することにより適宜調整することができる。具体的には、THF溶解成分の重量平均分子量は、重合温度、重合開始剤の種類および量、
連鎖移動剤の量を変更することによって調整することができ、例えば、重合時に使用する連鎖移動剤であるTDMの配合量を少なくするとTHF溶解成分の重量平均分子量を高めることができ、TDMの配合量を多くするとTHF溶解成分の重量平均分子量を低下させることができる。また重合開始剤の配合量を少なくするとTHF溶解成分の重量平均分子量を高めることができ、重合開始剤の配合量を多くするとTHF溶解成分の重量平均分子量を低下させることができる。
【0041】
[pH]
本発明のバインダー組成物のpHは、7.5±1.5の範囲内、すなわち6.0以上9.0以下の範囲内であることが好ましい。pHが上述の範囲内であるバインダー組成物は安定性に優れ、長期保存が可能となる。なお、バインダー組成物のpHは既知の方法で調整することができる。例えばpHを上昇させる場合は、アンモニア水等のアルカリ水溶液を添加すればよい。
【0042】
(リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物)
本発明のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物は、電極活物質と、上述した本発明のバインダー組成物を含む。そして、本発明のスラリー組成物は、上述した本発明のバインダー組成物を含んでいるので、泡立ちが抑制されつつ分散性が良好であり、優れた高速塗工性を発揮する。
【0043】
<電極活物質>
電極活物質は、リチウムイオン二次電池の電極(正極、負極)において電子の受け渡しをする物質である。そして、リチウムイオン二次電池の電極活物質(正極活物質、負極活物質)としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
【0044】
[正極活物質]
具体的には、正極活物質としては、遷移金属を含有する化合物、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属との複合金属酸化物などを用いることができる。なお、遷移金属としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。
【0045】
ここで、遷移金属酸化物としては、例えばMnO、MnO
2、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2、Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、非晶質MoO
3、非晶質V
2O
5、非晶質V
6O
13等が挙げられる。
遷移金属硫化物としては、TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2、FeSなどが挙げられる。
リチウムと遷移金属との複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0046】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(Co Mn Ni)O
2)、Ni−Mn−Alのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、LiMaO
2とLi
2MbO
3との固溶体などが挙げられる。なお、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物としては、Li[Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3]O
2、Li[Ni
1/3Co
1/3Mn
1/3]O
2などが挙げられる。また、LiMaO
2とLi
2MbO
3との固溶体としては、例えば、xLiMaO
2・(1−x)Li
2MbO
3などが挙げられる。ここで、xは0<x<1を満たす数を表し、Maは平均酸化状態が3+である1種類以上の遷移金属を表し、Mbは平均酸化状態が4+である1種類以上の遷移金属を表す。このような固溶体としては、Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2などが挙げられる。
なお、本明細書において、「平均酸化状態」とは、前記「1種類以上の遷移金属」の平均の酸化状態を示し、遷移金属のモル量と原子価とから算出される。例えば、「1種類以上の遷移金属」が、50mol%のNi
2+と50mol%のMn
4+から構成される場合には、「1種類以上の遷移金属」の平均酸化状態は、(0.5)×(2+)+(0.5)×(4+)=3+となる。
【0047】
スピネル型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)や、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)のMnの一部を他の遷移金属で置換した化合物が挙げられる。具体例としては、LiNi
0.5Mn
1.5O
4などのLi
s[Mn
2-tMc
t]O
4が挙げられる。ここで、Mcは平均酸化状態が4+である1種類以上の遷移金属を表す。Mcの具体例としては、Ni、Co、Fe、Cu、Cr等が挙げられる。また、tは0<t<1を満たす数を表し、sは0≦s≦1を満たす数を表す。なお、正極活物質としては、Li
1+xMn
2-xO
4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物なども用いることができる。
【0048】
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)などのLi
yMdPO
4で表されるオリビン型リン酸リチウム化合物が挙げられる。ここで、Mdは平均酸化状態が3+である1種類以上の遷移金属を表し、例えばMn、Fe、Co等が挙げられる。また、yは0≦y≦2を満たす数を表す。さらに、Li
yMdPO
4で表されるオリビン型リン酸リチウム化合物は、Mdが他の金属で一部置換されていてもよい。置換しうる金属としては、例えば、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、BおよびMoなどが挙げられる。
【0049】
[負極活物質]
また、負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
【0050】
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0051】
炭素質材料は、炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させることによって得られる、黒鉛化度の低い(即ち、結晶性の低い)材料である。なお、炭素化させる際の熱処理温度の下限は特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる。
そして、炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0052】
黒鉛質材料は、易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られる、黒鉛に近い高い結晶性を有する材料である。なお、熱処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下とすることができる。
そして、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0053】
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0054】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiO
x、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
ケイ素を含む合金としては、例えば、ケイ素と、アルミニウムと、鉄などの遷移金属とを含み、さらにスズおよびイットリウム等の希土類元素を含む合金組成物が挙げられる。
【0056】
SiO
xは、SiOおよびSiO
2の少なくとも一方と、Siとを含有する化合物であり、xは、通常、0.01以上2未満である。そして、SiO
xは、例えば、一酸化ケイ素(SiO)の不均化反応を利用して形成することができる。具体的には、SiO
xは、SiOを、任意にポリビニルアルコールなどのポリマーの存在下で熱処理し、ケイ素と二酸化ケイ素とを生成させることにより、調製することができる。なお、熱処理は、SiOと、任意にポリマーとを粉砕混合した後、有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、900℃以上、好ましくは1000℃以上の温度で行うことができる。
【0057】
Si含有材料と導電性カーボンとの複合化物としては、例えば、SiOと、ポリビニルアルコールなどのポリマーと、任意に炭素材料との粉砕混合物を、例えば有機物ガスおよび/または蒸気を含む雰囲気下で熱処理してなる化合物を挙げることができる。また、SiOの粒子に対して、有機物ガスなどを用いた化学的蒸着法によって表面をコーティングする方法、SiOの粒子と黒鉛または人造黒鉛をメカノケミカル法によって複合粒子化(造粒化)する方法などの公知の方法でも得ることができる。
【0058】
<バインダー組成物>
スラリー組成物に配合し得るバインダー組成物としては、上述した接着性重合体と、ジフェニルエーテル系界面活性剤およびアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤と、溶媒とを含む本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物を用いることができる。
なお、バインダー組成物の配合量は、特に限定されることなく、例えば電極活物質100質量部当たり、固形分換算で、接着性重合体が、好ましくは0.5質量部以上、そして好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下となる量とすることができる。
そして、スラリー組成物中の接着性重合体、ジフェニルエーテル系界面活性剤およびアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤は、バインダー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、バインダー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
【0059】
<その他の成分>
スラリー組成物に配合し得るその他の成分としては、特に限定することなく、本発明のバインダー組成物に配合し得るその他の成分と同様のものが挙げられる。また、その他の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0060】
<スラリー組成物の調製>
上述したスラリー組成物は、上記各成分に、必要に応じて水などの溶媒を追加し、混合することにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と水系媒体とを混合することにより、スラリー組成物を調製することができる。なお、上記各成分の混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行うことができる。
【0061】
<スラリー組成物の性状>
[粘度]
スラリー組成物は、粘度が500mPa・s以上であることが好ましく、3500mPa・s以下であることが好ましく、3000mPa・s以下であることがより好ましく、2500mPa・s以下であることが更に好ましい。スラリー組成物の粘度が上述の範囲内であることで、スラリー組成物の分散性を確保しつつ泡立ちを十分に抑制することができ、高速塗工性を高めることができる。
【0062】
[固形分濃度]
スラリー組成物は、固形分濃度が40質量%以上であることが好ましく、43質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることが更に好ましく、55質量%以下であることが好ましく、53質量%以下であることがより好ましく、52質量%以下であることが更に好ましく、51質量%以下であることが特に好ましい。スラリー組成物の固形分濃度が40質量%以上であれば、スラリー組成物が適度な流動性を有するため高速塗工において均一な塗工が可能となり、またスラリー組成物を乾燥して電極合材層を得る際の乾燥効率が確保される。一方、スラリー組成物の固形分濃度が55質量%以下であれば、スラリー組成物の分散性が高まり、また高速塗工において平滑な塗工が可能となるため塗膜の透けが抑制される。
【0063】
(リチウムイオン二次電池用電極)
本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物を用いて調製した上記リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物(負極用スラリー組成物および正極用スラリー組成物)は、リチウムイオン二次電池用電極(負極および正極)の製造に用いることができる。
具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備え、電極合材層が、通常、上述したリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物の乾燥物よりなる。そしてこの電極合材層には、少なくとも、電極活物質と、上述した接着性重合体と、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤と、ジフェニルエーテル系界面活性剤とが含まれている。なお、電極合材層中に含まれている各成分は、上記スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
そして上記リチウムイオン二次電池用電極は、層厚均一性および集電体との密着性に優れる電極合材層を備えているので、リチウムイオン二次電池に優れた電池特性を発揮させることができる。
【0064】
(リチウムイオン二次電池用電極の製造方法)
なお、本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、例えば、上述したリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を集電体上に塗工する工程(塗工工程)と、集電体上に塗工されたリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物を乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
【0065】
[塗工工程]
上記スラリー組成物を集電体上に塗工する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗工方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗工してもよいし、両面に塗工してもよい。塗工後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0066】
ここで、スラリー組成物を塗工する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては、銅箔が特に好ましい。また、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0067】
[乾燥工程]
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用電極を得ることができる。
【0068】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。
さらに、電極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、電極合材層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
【0069】
(リチウムイオン二次電池)
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、正極および負極の少なくとも一方として、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を用いたものである。そして、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を備えているので、出力特性およびサイクル特性などの電池特性に優れる。
【0070】
<電極>
上述のように、本発明のリチウムイオン二次電池用電極が、正極および負極の少なくとも一方として用いられる。即ち、リチウムイオン二次電池の正極が本発明の電極であり負極が他の既知の負極であってもよく、リチウムイオン二次電池の負極が本発明の電極であり正極が他の既知の正極であってもよく、そして、リチウムイオン二次電池の正極および負極の両方が本発明の電極であってもよい。
【0071】
<電解液>
電解液としては、溶媒に電解質を溶解した電解液を用いることができる。
ここで、溶媒としては、電解質を溶解可能な有機溶媒を用いることができる。具体的には、溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等のアルキルカーボネート系溶媒に、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、酢酸メチル、ジメトキシエタン、ジオキソラン、プロピオン酸メチル、ギ酸メチル等の粘度調整溶媒を添加したものを用いることができる。
電解質としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらのリチウム塩の中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、電解質としてはLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましい。
【0072】
<セパレータ>
セパレータとしては、例えば特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜が好ましい。
【0073】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
リチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電などの発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。リチウムイオン二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、バインダー組成物のTHFゲル含有量およびTHF溶解成分の重量平均分子量、スラリー組成物の粘度、分散性、泡立ち抑制、および高速塗工性(平滑性と均一性)、負極合材層と集電体の密着性、並びにリチウムイオン二次電池の出力特性およびサイクル特性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0075】
<THFゲル含有量>
バインダー組成物を50%湿度、23〜25℃の環境下で乾燥させて、厚み約0.3mmに成膜した。成膜したフィルムを3mm角に裁断し、精秤した。
裁断により得られたフィルム片の質量をw0とする。このフィルム片を、100gのテトラヒドロフラン(THF)に24時間、25℃にて浸漬した。その後、THFから引き揚げたフィルム片を105℃で3時間真空乾燥して、不溶分の質量w1を計測した。
そして、下記式にしたがってTHFゲル含有量(質量%)を算出した。
THFゲル含有量(質量%)=(w1/w0)×100
<THF溶解成分の重量平均分子量>
バインダー組成物約10mgを5mlのTHFに溶解し、25℃で16時間放置後、0.45μmメンブランフィルターを通し、測定用試料とした。
次いで得られた測定用試料を用いて、以下の測定条件、カラムにより、THF溶解成分の重量平均分子量(Mw)をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによるポリスチレン換算(RI検出)で求めた。
[測定条件]
温度:35℃
溶媒:THF
流速:1.0ml/分
濃度:0.2重量%
測定試料注入量:100μl
[カラム]
東ソー(株)製、「GPC TSKgel α−2500」(30cm×2本)を用いた。(Mw1000〜300000間のLog
10(Mw)−溶出時間の一次相関式が0.98以上の条件で測定。)
<粘度>
JISZ8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計(25℃、回転数=60rpm、スピンドル形状:4)により測定し、測定開始60秒後の値をスラリー組成物の粘度とした。
<分散性>
スラリー組成物の固形分濃度を15質量%に調整し、この固形分濃度調整後の分散液をさらに500倍に希釈した希釈液を準備した。そして、レーザー回折式粒子径分布測定装置(島津製作所社製「SALD−7100」)により粒子径分布を測定した。得られた粒子径分布について、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を求め、これをスラリー組成物中の凝集粒子(負極活物質や接着重合体等で構成される)の体積平均粒子径D50とした。このスラリー組成物中の凝集粒子の体積平均粒子径D50の、負極活物質の1次粒子径(負極活物質が複数種の負極活物質からなる場合は、これら複数種を混合してなる負極活物質の1次粒子径)に対する比(粒子径比)を算出し、以下の基準で評価した。この粒子径比が小さいほど、スラリー組成物中の凝集粒子の体積平均粒子径D50が負極活物質の1次粒子径に近く、スラリー組成物が分散性に優れることを示す。
A:粒子径比が1.4倍未満
B:粒子径比が1.4倍以上1.6倍未満
C:粒子径比が1.6倍以上1.8倍未満
D:粒子径比が1.8倍以上
<泡立ち抑制>
スラリー組成物100mlを容器内に置いて密閉し、スターラを用い23℃、20rpmで撹拌しながら0.9kgf/cm
2に減圧した。そして減圧開始から泡が出なくなるまでの時間(消泡に要する時間)を測定し、以下の基準で評価した。消泡に要する時間が短いほど、スラリー組成物の泡立ちが抑制されていることを示す。
A:消泡に要する時間が3分未満
B:消泡に要する時間が3分以上5分未満
C:消泡に要する時間が5分以上8分未満
D:消泡に要する時間が8分以上
<高速塗工性(平滑性)>
スラリー組成物を、水平方向に30m/分の速度で走行する銅箔(厚さ15mm、有機溶剤処理を施したもの)上に、ダイコーターを用いてダイより吐出して塗工した。塗工後、120℃で5分間乾燥して、銅箔上に厚さ70μmの電極合材層を形成した。得られた電極合材層の中心部を長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出した。そして、電極合材層表面を目視および光学顕微鏡(倍率:10倍)を用い観察し、下記の基準で評価した。
A:塗工ムラがなく、均一に塗工されている。
B:塗工ムラはないが、光学顕微鏡による観察では細かなスジが確認される(目視による観察ではスジが確認されない)。
C:塗工ムラはないが、目視による観察でスジが1〜3本確認される。
D:以下の(i)〜(iii)の少なくとも何れかに該当。
(i)塗工ムラがあり銅箔上に未塗工の箇所が存在する。
(ii)目視にて4本以上のスジが確認される。
(iii)ハジキの発生が見られる。
<高速塗工性(塗工量の均一性)>
スラリー組成物を、水平方向に30m/分の速度で走行する銅箔(厚さ15mm、有機溶剤処理を施したもの)上に、ダイコーターを用いてダイより吐出して塗工した。塗工後、120℃で5分間乾燥して、銅箔上に厚さ70μmの電極合材層を形成した。得られた電極(電極合材層+銅箔)を直径16mmの打ち抜き刃で打ち抜いて円形電極を10個作製し、重量を測定してそれぞれの円形電極における電極合材層の重量を算出した。そして、10個の電極合材層の重量の最大値から最小値を差し引いた値を、最大値と最小値の平均値で除した値に100を乗じて得られるばらつき度(%)を算出し、下記の基準で評価した。ばらつき度の値が小さい程、高速塗工の際の塗工量が均一であるといえる。
A:ばらつき度が1.5%未満
B:ばらつき度が1.5%以上3.0%未満
C:ばらつき度が3.0%以上5.0%未満
D:ばらつき度が5.0%以上
<負極合材層と集電体の密着性>
作製したリチウムイオン二次電池用負極を長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とし、負極合材層を有する面を下にして負極合材層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した(なお、セロハンテープは試験台に固定されている)。測定を3回行い、その平均値を求めてこれを剥離ピール強度とし、以下の基準により評価した。剥離ピール強度の値が大きいほど、負極合材層と集電体の密着性に優れることを示す。
A:剥離ピール強度が5N/m以上
B:剥離ピール強度が4N/m以上5N/m未満
C:剥離ピール強度が3N/m以上4N/m未満
D:剥離ピール強度が3N/m未満
<出力特性>
作製したリチウムイオン二次電池を、電解液を注液した時点から25℃の環境下で24時間静置した。その後、25℃の環境下で、0.1C、5時間の充電の操作を行い、充電後一時間経過したときの電圧V0を測定した。その後、−30℃の環境下で、0.2Cの放電レートにて放電の操作を行い、放電開始15秒後の電圧V1を測定した。そして、ΔV=V0−V1で示す電圧変化を求め、下記の基準で評価した。この電圧変化が小さいほど、内部抵抗が小さく、低温出力特性に優れていることを示す。
A:電圧変化ΔVが0.6V未満
B:電圧変化ΔVが0.6V以上0.7V未満
C:電圧変化ΔVが0.7V以上0.8V未満
D:電圧変化ΔVが0.8V以上
<サイクル特性>
作製したリチウムイオン二次電池を、電解液を注液した時点から25℃の環境下で5時間静置した。その後、25℃環境下で、0.2Cの定電流・定電圧法によって4.2Vに充電し3.0Vまで放電する充放電の操作を行い、初期放電容量C0を測定した。さらに、60℃の環境下で、0.5Cの定電流・定電圧法によって4.2Vに充電し3.0Vまで放電する充放電サイクルを繰り返し、100サイクル後の放電容量C1を測定した。そして、サイクル特性を、ΔC=(C1/C0)×100(%)で示す容量維持率にて評価した。この容量維持率の値が高いほど、放電容量の低下が少なく、サイクル特性に優れていることを示す。
A:容量維持率ΔCが80%以上
B:容量維持率ΔCが75%以上80%未満
C:容量維持率ΔCが70%以上75%未満
D:容量維持率ΔCが70%未満
【0076】
(実施例1)
<リチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物の調製>
攪拌機付きの耐圧容器Aに、芳香族ビニル単量体としてスチレン57.4部、脂肪族共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン40部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてイタコン酸2.6部、イオン交換水50部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン(TDM)0.4部、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.6部、並びにアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を投入して攪拌し、乳化物Aを得た。続いて、攪拌機付きの耐圧容器Bに、イオン交換水100部、ジフェニルエーテル系界面活性剤としてのドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.25部を投入し、攪拌した。その後75度に加熱し、イオン交換水10部、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.6部を添加し、混合物Bを得た。この混合物Bに上記乳化物Aを240分間にわたり連続的に添加した。乳化物Aの添加終了後、温度を90℃に昇温し、さらに240分反応させて重合転化率が99.0%になった時点で冷却し反応を止め、接着性重合体の水分散液を得た。次いでこの水分散液に、分散安定剤としてのポリアクリル酸ナトリウム(東亜合成社製、アロンT−50)0.5部を添加した後、アンモニア水でpHを8.5に調整し、固形分濃度40%のバインダー組成物を得た。このバインダー組成物のTHFゲル含有量とTHF溶解成分の重量平均分子量を評価した。結果を表1に示す。
<リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製>
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として人造黒鉛(体積平均粒子径D50:20μm、比表面積:4m
2/g)を70部およびSi−O−C系の活物質(体積平均粒子径D50:10μm、比表面積:6m
2/g)を30部、並びに導電材としてアセチレンブラックを5部加え、低速羽根のみを用いて20分間混合した。
その後、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(第一工業製薬株式会社製「ダイセル1380」)を固形分相当で1.0部を加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整し、25℃で60分混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整し、さらに25℃で15分混合し、混合液を得た。
前記混合液に、負極活物質100部当たり、上述のバインダー組成物を接着性重合体の固形分相当で1.0部加えた。さらにイオン交換水を加え、最終固形分濃度が48%となるように調整し、10分間混合し、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を得た。このスラリー組成物の粘度、分散性、泡立ち抑制、および高速塗工性(平滑性と均一性)を評価した。結果を表1に示す。
<リチウムイオン二次電池用負極の製造>
上述のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を、ダイコーターで、厚さ20μmの銅箔(集電体)の片面に、膜厚が200μm程度になるように30m/分の速度で塗工した。その後60℃で2分間乾燥し、さらに120℃で2分間加熱処理して負極原反を得た。
この負極原反をロールプレスで圧延して負極合材層の厚みが70μm、密度が1.7g/cm
3のリチウムイオン二次電池用負極を得た。この負極を用いて、負極合材層と集電体の密着性を評価した。結果を表1に示す。
<リチウムイオン二次電池の製造>
上記で得られた負極を、80℃で10時間真空乾燥した後、直径12mmの円盤状に切り抜いた。この円盤状の負極の負極合材層側に、セパレータ(ポリプロピレン製多孔膜、円盤状、直径18mm、厚さ25μm)、正極(コバルト酸リチウム、円盤状、直径10mm、厚さ75μm)、エキスパンドメタルをこの順に積層し、積層体を得た。この積層体をポリプロピレン製パッキンが設置されたステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。次いでこの容器中に電解液を注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、外装容器を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのリチウムイオン二次電池(コインセル型)を作製した。得られたリチウムイオン二次電池について出力特性およびサイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
ジフェニルエーテル系界面活性剤としてのドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムとアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの量を表1のように変更し、分散安定剤としてポリアクリル酸ナトリウムに替えてトリポリリン酸ナトリウムを1.0部使用した以外は、実施例1と同様にしてバインダー組成物、スラリー組成物、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例3、4)
連鎖移動剤としてのTDMの量をそれぞれ0.50部、0.35部に変更した以外は、実施例1と同様にしてバインダー組成物、スラリー組成物、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例5、6)
ジフェニルエーテル系界面活性剤としてのドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムとアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの量を表1のように変更した以外は(界面活性剤量比は実施例1と同じ5/4)、実施例1と同様にしてバインダー組成物、スラリー組成物、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例7、8)
ジフェニルエーテル系界面活性剤としてのドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムとアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの量を表1のように変更した以外は(界面活性剤量比はそれぞれ1/4、4)、実施例1と同様にしてバインダー組成物、スラリー組成物、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例9)
分散安定剤としてのポリアクリル酸ナトリウムおよびトリポリリン酸ナトリウムを表1の量で使用した以外は、実施例1と同様にしてバインダー組成物、スラリー組成物、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例10)
分散安定剤としてのポリアクリル酸ナトリウムを使用しない以外は、実施例1と同様にしてバインダー組成物、スラリー組成物、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例11、12)
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の固形分濃度を、それぞれ52%、43%となるように、スラリー組成物の調製の際に加えるイオン交換水の量を変更した以外は、実施例1と同様にしてバインダー組成物、スラリー組成物、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例1)
重合転化率が90%の段階で接着性重合体の重合反応を停止させた以外は、実施例1と同様にしてバインダー組成物、スラリー組成物、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(比較例2〜4)
連鎖移動剤としてのTDMの量をそれぞれ0.50部、0.60部、0.30部に変更し、そして比較例2、3については更に芳香族ビニル単量体として架橋剤であるジビニルベンゼンを表1の量で使用した以外は、実施例1と同様にしてバインダー組成物、スラリー組成物、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(比較例5、6)
ジフェニルエーテル系界面活性剤としてのドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムとアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの量をそれぞれ表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてバインダー組成物、スラリー組成物、負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
なお表1中、
「ST」はスチレンを示し、
「DVB」はジビニルベンゼンを示し、
「BD」は1,3−ブタジエンを示し、
「IA」はイタコン酸を示し、
「DPES」はドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを示し、
「DBS」はドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを示し、
「SPA」はポリアクリル酸ナトリウムを示し、
「STPP」はトリポリリン酸ナトリウムを示し、
「THF」はテトラヒドロフランを示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1の実施例1〜12および比較例1〜6より、実施例1〜12では、スラリー組成物の泡立ちを抑制しつつ分散性を高めて、優れた高速塗工性を確保できていることがわかる。さらに実施例1〜12では、電極合材層と集電体の密着性が十分に確保され、加えてリチウムイオン二次電池が優れた電池特性(出力特性、サイクル特性)を発揮できていることがわかる。
ここで、表1の実施例1、3および4より、バインダー組成物のTHFゲル含有量およびTHF溶解成分の重量平均分子量を調節することで、スラリー組成物の分散性、高速塗工性および泡立ち抑制、電極合材層と集電体の密着性、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性を更に向上させ得ることがわかる。
また、表1の実施例1、5および6より、二種の界面活性剤(ジフェニルエーテル系界面活性剤およびアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤)の合計量を調節することで、スラリー組成物の分散性、高速塗工性および泡立ち抑制、電極合材層と集電体の密着性、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性を更に向上させ得ることがわかる。
そして、表1の実施例1、7および8より、二種の界面活性剤(ジフェニルエーテル系界面活性剤およびアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤)の量比を調節することで、スラリー組成物の分散性、高速塗工性および泡立ち抑制、電極合材層と集電体の密着性、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性を更に向上させ得ることがわかる。
加えて、表1の実施例1、2、9および10より、分散安定剤を使用することで、スラリー組成物の分散性、高速塗工性および泡立ち抑制、電極合材層と集電体の密着性、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性を更に向上させ得ることがわかる。特に実施例1、2および9より、分散安定剤としてポリアクリル酸化合物およびリン酸化合物の二種を併用することで、スラリー組成物の分散性を更に向上させ得ることがわかる。
更に、表1の実施例1、11および12より、スラリー組成物の固形分濃度を調節することで、スラリー組成物の高速塗工性および泡立ち抑制、電極合材層と集電体の密着性、並びにリチウムイオン二次電池の出力特性を更に向上させうることがわかる。