特許第6839382号(P6839382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6839382金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ及びその製造方法、並びに、金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6839382
(24)【登録日】2021年2月17日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ及びその製造方法、並びに、金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20210301BHJP
   C23C 18/30 20060101ALI20210301BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20210301BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20210301BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20210301BHJP
   B32B 15/14 20060101ALI20210301BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20210301BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   C23C18/20 Z
   C23C18/30
   H05K3/00 R
   H05K3/18 A
   H05K3/18 E
   H05K1/03 610L
   H05K1/03 610T
   B32B15/14
   B32B15/092
   C08J5/24CFC
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-29072(P2017-29072)
(22)【出願日】2017年2月20日
(65)【公開番号】特開2018-135546(P2018-135546A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2020年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】島田 悟
(72)【発明者】
【氏名】中尾 幸道
(72)【発明者】
【氏名】堀内 伸
(72)【発明者】
【氏名】李 成竺
(72)【発明者】
【氏名】樫村 賢治
(72)【発明者】
【氏名】曽根 倫成
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正洋
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−038802(JP,A)
【文献】 特開2000−098620(JP,A)
【文献】 特開平03−124735(JP,A)
【文献】 特開2007−043236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08
B32B 1/00−43/00
H05K 1/03
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有するシート状エポキシ樹脂プリプレグと、
前記エポキシ樹脂プリプレグの表面上に積層される金属めっき膜と、
を有することを特徴とする金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ。
【請求項2】
金属めっき膜が一面側から他面側に架けて貫通する貫通孔を有する請求項1に記載の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ。
【請求項3】
炭素数が1〜4のアルコール及び炭素数が1〜4のケトンから選択される有機化合物の水溶液、並びに、下記一般式(1)で表される長鎖アルキル第四級アンモニウム塩の水溶液の少なくともいずれかを含む前処理液に柔軟性を有するシート状エポキシ樹脂プリプレグを浸漬する前処理工程と、
前記前処理工程後の前記エポキシ樹脂プリプレグをパラジウムコロイド及び白金コロイドのいずれかのコロイドに浸漬して前記エポキシ樹脂プリプレグの表面上にパラジウム及び白金のいずれかの触媒粒子を付与する触媒付与工程と、
前記触媒付与工程後の前記エポキシ樹脂プリプレグを無電解めっき液に浸漬して前記表面上に無電解めっき膜を形成する無電解めっき工程と、
を含むことを特徴とする金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造方法。
【化1】
ただし、前記一般式(1)中のRは、炭素数が8〜18の直鎖又は分岐のアルキル基を示し、R〜Rは、それぞれメチル基を示し、Xは、塩素イオン、臭素イオン、過塩素酸イオン及び水酸イオンのいずれかを示す。
【請求項4】
更に、無電解金属めっき膜の表面上に電気めっき膜を形成する電気めっき工程を含む請求項3に記載の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項5】
シート状エポキシ樹脂プリプレグ硬化体と、
前記エポキシ樹脂プリプレグ硬化体の表面上に積層され、一面側から他面側に架けて貫通する貫通孔を有する金属めっき膜と、
前記エポキシ樹脂プリプレグ硬化体中のエポキシ樹脂成分と同一の成分を含有して形成され、前記金属めっき膜の表面上に積層されるコート層と、
を有することを特徴とする金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体。
【請求項6】
金属めっき膜のエポキシ樹脂プリプレグ硬化体に対するはく離強度が、小さくとも0.50kN/mである請求項5に記載の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体。
【請求項7】
請求項1から2のいずれかに記載の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを加熱して硬化させる加熱工程を含むことを特徴とする金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体の製造方法。
【請求項8】
加熱工程が金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを全体又は一部を湾曲ないし屈曲させた状態で行われる請求項7に記載の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱硬化前のエポキシ樹脂プリプレグを金属めっき膜で被覆する、金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ及びその製造方法、並びに、金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリプレグとは、炭素繊維やガラス繊維などの繊維状補強材に、硬化剤を混合した熱硬化性樹脂を含浸させた繊維強化プラスチック材料であり、加熱成型することで目的とする形状の硬化体を得ることができる。
前記熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いるエポキシ樹脂プリプレグは、プリント配線基板、航空機や乗用車のボディなどを形成するために広く利用されている。
【0003】
前記エポキシ樹脂プリプレグとしては、用途に応じて、耐雷性や電導性を付与するための金属との複合化が求められる。
前記エポキシ樹脂プリプレグと前記金属との一般的な複合化方法として、前記エポキシ樹脂プリプレグの表面上に金属箔や金属網を配した状態で、これらの積層体を加熱成型する方法が挙げられる。
しかしながら、この方法では、前記金属箔や前記金属網と前記エポキシ樹脂プリプレグとが別体であるため、加熱成型時に前記金属箔や前記金属網と前記エポキシ樹脂プリプレグとの位置合わせが必要となるほか、位置合わせした状態で加熱硬化を行うための専用の金型が必要であることから、加工性に難がある。
【0004】
前記エポキシ樹脂プリプレグと前記金属との複合体に対し、より制約の少ない加工性を得る方法として、前記エポキシ樹脂プリプレグに対し、無電解金属めっきを行い、前記エポキシ樹脂プリプレグと前記金属のめっき膜とを一体化させたうえで、加熱成型する方法が有効である。
即ち、このような方法によれば、前記一般的な複合化方法が持つ問題がなく、加えて、硬化前の前記エポキシ樹脂プリプレグが有する柔軟性を利用して、湾曲形状ないし屈曲形状を含む自由な形状で加工を行うことができる。
しかしながら、このような方法は、前記樹脂として熱可塑性のナイロンやポリプロピレンを用いる場合に行われるものの、前記エポキシ樹脂プリプレグに対し、無電解めっきを行うことで無電解金属めっき膜を被膜した報告例は、存在しないのが現状である。
【0005】
ところで、ガラス繊維エポキシ樹脂プリプレグに対し、予備的に加熱して硬化させた後、この硬化体を有機溶媒に浸漬してエッチング処理を行い、その後、無電解銅めっきすることで銅めっきが被膜されたガラス繊維エポキシ樹脂を得る方法が提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、この提案は、予備的な加熱に基づき、前記ガラス繊維エポキシ樹脂プリプレグの硬化状態を制御することで、前記有機溶媒を利用したエッチング速度を律する方法を提案するものであり、硬化前の前記エポキシ樹脂プリプレグに対し、前記無電解金属めっき膜を被膜することを提案するものではない。
また、前記ガラス繊維エポキシ樹脂プリプレグの硬化体と前記銅めっきとの間の密着性が得られにくい問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−177534
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、より制約の少ない加工性を得るため、硬化前の前記エポキシ樹脂プリプレグに対し、直接、前記無電解金属めっき膜の被膜を行う手法について、鋭意検討を重ねた。
その結果、硬化前の前記エポキシ樹脂プリプレグに対する、前記無電解金属めっき膜の被膜を妨げる要因は、硬化前の前記エポキシ樹脂プリプレグをそのまま無電解金属めっき液に浸漬させると、前記エポキシ樹脂プリプレグからめっきを阻害する物質が溶出することにあるとの知見に至り、更に、前記無電解金属めっき液に浸漬させる前に、硬化前の前記エポキシ樹脂プリプレグを特定の前処理液に浸漬させる前処理を行うと、前記めっきを阻害する物質を溶出させることなく、硬化前の前記エポキシ樹脂プリプレグに直接、前記無電解めっきを行うことができるとの知見を得た。
【0008】
本発明は、従来技術における前記諸問題を解決し、エポキシ樹脂プリプレグの加熱硬化体と金属めっき膜との間の密着性に優れ、かつ、加熱硬化時の加工性に優れた金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ及びその製造方法、並びに、金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 柔軟性を有するシート状エポキシ樹脂プリプレグと、前記エポキシ樹脂プリプレグの表面上に積層される金属めっき膜と、を有することを特徴とする金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ。
<2> 金属めっき膜が一面側から他面側に架けて貫通する貫通孔を有する前記<1>に記載の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ。
<3> 炭素数が1〜4のアルコール及び炭素数が1〜4のケトンから選択される有機化合物の水溶液、並びに、下記一般式(1)で表される長鎖アルキル第四級アンモニウム塩の水溶液の少なくともいずれかを含む前処理液に柔軟性を有するシート状エポキシ樹脂プリプレグを浸漬する前処理工程と、前記前処理工程後の前記エポキシ樹脂プリプレグをパラジウムコロイド及び白金コロイドのいずれかのコロイドに浸漬して前記エポキシ樹脂プリプレグの表面上にパラジウム及び白金のいずれかの触媒粒子を付与する触媒付与工程と、前記触媒付与工程後の前記エポキシ樹脂プリプレグを無電解めっき液に浸漬して前記表面上に無電解めっき膜を形成する無電解めっき工程と、を含むことを特徴とする金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造方法。
【化1】
ただし、前記一般式(1)中のRは、炭素数が8〜18の直鎖又は分岐のアルキル基を示し、R〜Rは、それぞれメチル基を示し、Xは、塩素イオン、臭素イオン、過塩素酸イオン及び水酸イオンのいずれかを示す。
<4> 更に、無電解金属めっき膜の表面上に電気めっき膜を形成する電気めっき工程を含む前記<3>に記載の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造方法。
<5> シート状エポキシ樹脂プリプレグ硬化体と、前記エポキシ樹脂プリプレグ硬化体の表面上に積層され、一面側から他面側に架けて貫通する貫通孔を有する金属めっき膜と、前記エポキシ樹脂プリプレグ硬化体中のエポキシ樹脂成分と同一の成分を含有して形成され、前記金属めっき膜の表面上に積層されるコート層と、を有することを特徴とする金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体。
<6> 金属めっき膜のエポキシ樹脂プリプレグ硬化体に対するはく離強度が、小さくとも0.50kN/mである前記<5>に記載の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体。
<7> 前記<1>から<2>のいずれかに記載の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを加熱して硬化させる加熱工程を含むことを特徴とする金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体の製造方法。
<8> 加熱工程が金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを全体又は一部を湾曲ないし屈曲させた状態で行われる前記<7>に記載の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、エポキシ樹脂プリプレグの加熱硬化体と金属めっき膜との間の密着性に優れ、かつ、加熱硬化時の加工性に優れた金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ及びその製造方法、並びに、金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1(a)】金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造工程を示す図(1)である。
図1(b)】金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造工程を示す図(2)である。
図1(c)】金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造工程を示す図(3)である。
図1(d)】金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造工程を示す図(4)である。
図1(e)】金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造工程を示す図(5)である。
図2】金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した電子顕微鏡像を示す図である。
図3】金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した電子顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ)
本発明の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグは、エポキシ樹脂プリプレグと、金属めっき膜とを有する。
【0013】
<エポキシ樹脂プリプレグ>
前記エポキシ樹脂プリプレグは、柔軟性を有するシート状の部材とされる。
また、前記エポキシ樹脂プリプレグは、炭素繊維やガラス繊維などの繊維状補強材に、硬化剤を混合させたエポキシ樹脂(プレポリマー)を含浸させた繊維強化プラスチック材料であり、加熱することで前記プレポリマーを架橋させて硬化体を得ることができる。
このような前記エポキシ樹脂プリプレグとしては、前記エポキシ樹脂を含むプリプレグであれば、特に制限はなく、目的に応じて公知のものから適宜選択して用いることができる。
【0014】
前記エポキシ樹脂プリプレグは、加熱硬化前の前記プレポリマーを含む部材であり、前記柔軟性を有する。
本明細書において、「柔軟性」とは、JIS L 1096:2010 織物及び編物の生地試験方法 8.21剛軟度 A法(45°カンチレバー法)に準じて測定される剛軟性が250mm以下であることを示す。
このような柔軟性を有することで、前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを平板状の形状のほか、湾曲形状や屈曲形状等の複雑な形状に成形した状態での加熱硬化が可能とされる。
【0015】
前記金属めっき膜は、前記エポキシ樹脂プリプレグの表面上に積層される部材とされる。
前記金属めっき膜を形成する金属材料としては、無電解めっきによるめっき形成が可能な材料であれば、特に制限はなく、例えば、銅、ニッケル、金及びこれらの金属を含む合金などが挙げられる。
前記金属めっき膜の厚みとしては、特に制限はないが、厚くとも200μmを超えないことが好ましい。前記厚みが200μmを超えると、前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを複雑な形状に成形した状態で加熱硬化することが困難となることがある。
【0016】
前記金属めっき膜としては、特に制限はないが、一面側から他面側に架けて貫通する貫通孔を有することが好ましい。
このような貫通孔を有すると、前記エポキシ樹脂プリプレグのエポキシ樹脂成分が前記貫通孔を通じて前記金属めっき膜上に流れ出し、前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを加熱するだけで、前記金属めっき膜の表面上に前記エポキシ樹脂成分で形成されるコート層を形成することができる。
以上に説明の前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグとしては、以下の方法で製造することができる。
【0017】
(金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造方法)
本発明の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造方法は、前処理工程と、触媒付与工程と、無電解めっき工程とを含み、必要に応じて、その他の工程を含む。
【0018】
<前処理工程>
前処理工程は、有機化合物の水溶液及び長鎖アルキル第四級アンモニウム塩の水溶液の少なくともいずれかを含む前処理液に前記柔軟性を有するシート状エポキシ樹脂プリプレグを浸漬する工程である。
【0019】
−有機化合物の水溶液−
前記有機化合物の水溶液は、炭素数が1〜4のアルコール及び炭素数が1〜4のケトンから選択される有機化合物の水溶液とされる。
前記炭素数が1〜4のアルコール及び炭素数が1〜4のケトンから選択される有機化合物は、常温で液体の有機溶媒として知られる。
これら有機化合物(有機溶媒)は、エポキシ樹脂を溶解させるが、水溶液として調製すると、前記エポキシ樹脂中の成分の中でも、2量体、3量体の低分子量成分を溶解させ、これ以上の分子量の高分子量成分を溶解させにくい。
そのため、前記前処理工程において前記前処理液に前記エポキシ樹脂プリプレグを浸漬すると、前記エポキシ樹脂プリプレグの表面近傍における前記低分子量成分が除かれ、前記エポキシ樹脂プリプレグの表面側に、残存した前記高分子量成分で形成される第1のバリア層が形成される。
前記第1のバリア層は、前記無電解めっき工程において前記エポキシ樹脂プリプレグを無電解めっき液に浸漬させた際、めっきを阻害する物質が前記無電解めっき液中に溶出することを抑制し、前記エポキシ樹脂プリプレグに対して、直接、無電解めっきを行うことを可能とする。
したがって、前記有機化合物(有機溶媒)としては、水溶性が求められる。
また、前記有機化合物(有機溶媒)としては、前記前処理工程において前記エポキシ樹脂プリプレグ中に残存、付着したものが、大気中、常温で数時間以内に揮発して前記エポキシ樹脂プリプレグから除去可能な揮発性が求められる。
【0020】
以上から、有機化合物を用いる場合、前記水溶性及び前記揮発性の条件に基づき、前記炭素数が1〜4のアルコール及び前記炭素数が1〜4のケトンから選択される有機化合物とする。即ち、炭素数が5を超えるアルコール及びケトンでは、前記水溶性及び前記揮発性が得られにくい。
【0021】
前記炭素数が1〜4のアルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、iso−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、iso−ブタノール、t−ブタノールなどが挙げられる。
また、前記炭素数が1〜4のケトンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
前記水溶液中の前記有機化合物の好適な濃度としては、特に制限はなく、種類によっても差異が生じるが、前記濃度が高すぎると前記高分子量成分を溶解させて前記第1のバリア層の形成が不十分となることがあることから、0質量%を超え90質量%以下とすることが好ましい。
【0022】
−長鎖アルキル第四級アンモニウム塩の水溶液−
前記長鎖アルキル第四級アンモニウム塩の水溶液は、下記一般式(1)で表される長鎖アルキル第四級アンモニウム塩の水溶液とされる。
【0023】
【化2】
ただし、前記一般式(1)中のRは、炭素数が8〜18の直鎖又は分岐のアルキル基を示し、R〜Rは、それぞれメチル基を示し、Xは、塩素イオン、臭素イオン、過塩素酸イオン及び水酸イオンのいずれかを示す。
【0024】
前記長鎖アルキル第四級アンモニウム塩の水溶液は、前記エポキシ樹脂の成分と反応して前記エポキシ樹脂プリプレグの表面近傍に前記無電解めっき液に難溶性の第2のバリア層(前記第1のバリア層と異なる)を形成する。
前記第2のバリア層は、前記無電解めっき工程において前記エポキシ樹脂プリプレグを無電解めっき液に浸漬させた際、めっきを阻害する物質が前記無電解めっき液中に溶出することを抑制し、前記エポキシ樹脂プリプレグに対して、直接、無電解めっきを行うことを可能とする。
【0025】
前記第2のバリア層の形成のため、前記長鎖アルキル第四級アンモニウム塩としては、常温で水に可溶であることが求められる。
そのため、前記一般式(1)中のRは、炭素数が8〜18の直鎖又は分岐のアルキル基から選択され、R〜Rは、それぞれメチル基とされ、Xは、塩素イオン、臭素イオン、過塩素酸イオン及び水酸イオンのいずれかから選択される。
前記水溶液中の前記長鎖アルキル第四級アンモニウム塩の好適な濃度としては、特に制限はなく、構造によっても差異が生じるが、前記濃度が高すぎると前記第2のバリア層の形成が不十分となることがあることから、0.001質量%〜5質量%とすることが好ましい。
【0026】
前記前処理液に対する前記エポキシ樹脂プリプレグの浸漬時間としては、特に制限はないが、前記第1及び第2のバリア層(以下、単に「バリア層」)を好適に形成する観点から、1分間〜48時間が好ましい。
また、前記エポキシ樹脂プリプレグを浸漬させる際の前記前処理液の温度条件としては、特に制限はないが、前記バリア層を好適に形成する観点から、50°以下が好ましく、15℃〜30℃以下がより好ましく、20℃〜25℃が特に好ましい。この温度条件は、室温環境下においても前記前処理工程を実施可能であることを意味し、製造プロセスの簡略化に寄与する。
【0027】
<触媒付与工程>
前記触媒付与工程は、前記前処理工程後の前記エポキシ樹脂プリプレグをパラジウムコロイド及び白金コロイドのいずれかのコロイドに浸漬して前記エポキシ樹脂プリプレグの表面上にパラジウム及び白金のいずれかの触媒粒子を付与する工程である。
前記コロイドとしては、特に制限はなく、公知のものから目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特開2010−248663号公報、特開2016−132795号公報、特開平5−245365号公報などに記載のものを用いることができる。
また、前記触媒付与の条件としては、特に制限はなく、公知の条件を参照して適宜設定することができる。
【0028】
<無電解めっき工程>
前記無電解めっき工程は、前記触媒付与工程後の前記エポキシ樹脂プリプレグを無電解めっき液に浸漬して前記表面上に無電解めっき膜を形成する工程である。
前記無電解めっき液としては、特に制限はなく、公知のものから目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記無電解めっき膜を形成する金属として、銅、ニッケル、金及びこれらの合金を含むものなどが挙げられる。
また、前記無電解めっきの条件としては、特に制限はなく、公知の条件を参照して適宜設定することができる。
この際、前記無電解めっき膜の厚みとしては、前記エポキシ樹脂プリプレグの前記無電解めっき液に対する浸漬時間、浸漬温度の条件に応じて、適宜調整することができる。
製造する前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグにおいて、前記金属めっき膜に一面側から他面側に架けて貫通する貫通孔を付与することを目的とする場合、前記金属めっき膜を厚く形成すると、前記貫通孔が得られないことがあるため、前記無電解めっき膜の厚みを調整することで、前記貫通孔の付与調整を行う。
【0029】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電気めっき工程が挙げられる。
【0030】
−電気めっき工程−
前記電気めっき工程は、前記無電解金属めっき膜の表面上に前記電気めっき膜を形成する工程である。
前記無電解めっき工程は、電気めっきによるめっき処理を阻害するものではなく、前記無電解めっきにより形成した金属めっき膜の厚付け等を目的として、前記無電解めっき工程に続いて前記電気めっき工程を実施することができる。
前記電気めっき工程としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の電気めっき方法にしたがって実施することができる。また、前記電気めっき工程により形成される前記金属めっき膜の厚みは、公知の電気めっき条件を適宜調整することで、調整することができる。
【0031】
前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造方法における製造プロセスを図1(a)〜(e)を参照しつつ説明する。なお、図1(a)〜(e)は、金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造工程を示す図(1)〜(5)である。
【0032】
先ず、図1(a)に示す、エポキシ樹脂プリプレグ1を用意する。なお、図中、エポキシ樹脂プリプレグ1は、後掲のバリア層2の簡明な説明のため、エポキシ樹脂含有層1aが炭素繊維等で形成される強化繊維シート1b上に配されるように示しているが、実際には、強化繊維シートの繊維間にエポキシ樹脂が含浸される形で一体化されている。
次いで、図1(b)に示すように、前処理液2にエポキシ樹脂プリプレグ1を浸漬する(前処理工程)。このとき、エポキシ樹脂プリプレグ1の表面近傍にバリア層1a’が形成される。
次いで、図1(c)に示すように、エポキシ樹脂プリプレグ1をコロイド3に浸漬してエポキシ樹脂プリプレグ1の表面上に触媒粒子3aを付与する(触媒付与工程)。
次いで、図1(d)に示すように、エポキシ樹脂プリプレグ1を無電解めっき液4に浸漬してエポキシ樹脂プリプレグ1の表面上に金属めっき膜5を被膜する(無電解めっき工程)。このとき、金属めっき膜5は、触媒粒子3aと無電解めっき液4との酸化還元反応に基づき、無電解めっき液4の液中で被膜されるため、これらの界面には、ボイドが発生せず、エポキシ樹脂プリプレグ1を加熱硬化したときに、良好な密着性を示す。
また、この段階のエポキシ樹脂プリプレグ1は、硬化前の柔軟性を有する状態であるため、一般に硬化体に対して無電解めっきを行う際の前処理として実施するエッチング処理を行うことなく、エポキシ樹脂プリプレグ1に対して、直接、無電解めっきを行うことができる。
以上により、図1(e)に示す、エポキシ樹脂プリプレグ1と、エポキシ樹脂プリプレグ1の表面上に積層される金属めっき膜5と、を有する金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ10を製造することができる。
【0033】
金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ10では、エポキシ樹脂プリプレグ1と金属めっき膜5とが一体に形成されるため、従来における金属箔や金属網とエポキシ樹脂プリプレグとで硬化体を得る手法と比較して、加熱硬化時に前記金属箔や前記金属網と前記エポキシ樹脂プリプレグとの位置合わせを行う必要がなく、また、位置合わせした状態で加熱硬化を行うための専用の金型も必要がないことから、優れた加工性を有するといえる。
また、金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ10では、硬化前のエポキシ樹脂プリプレグ1の柔軟性を利用して、様々な形状に成形することができるため、平面形状のみならず、湾曲形状ないし屈曲形状を含む自由な形状で加熱硬化体を得ることができ、この点からも優れた加工性を有するといえる。
【0034】
(金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体)
本発明の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体は、シート状エポキシ樹脂プリプレグ硬化体と、前記エポキシ樹脂プリプレグ硬化体の表面上に積層され、一面側から他面側に架けて貫通する貫通孔を有する金属めっき膜と、前記エポキシ樹脂プリプレグ硬化体中のエポキシ樹脂成分と同一の成分で形成され、前記金属めっき膜の表面上に積層されるコート層と、を有する。
【0035】
前記エポキシ樹脂プリプレグ硬化体としては、本発明の前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを加熱硬化することで形成することができる。
また、前記金属めっき膜は、本発明の前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造方法の前記無電解めっき工程において、形成する前記金属めっき膜の厚みを調整すること、更に、前記電気めっき工程を実施する場合には、この工程で形成する前記金属めっき膜の厚みを調整することによって、前記貫通孔を有する状態で形成することができる。
また、前記コート層は、加熱硬化前及び加熱硬化時において、前記エポキシ樹脂プリプレグ表面側の一部のエポキシ樹脂成分が前記貫通孔を通じて前記金属めっき膜上に流れ出し、このエポキシ樹脂成分が加熱硬化されることで形成される。
【0036】
ここで、前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体は、本発明の前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグにより製造されるため、前記エポキシ樹脂プリプレグ硬化体と前記金属めっき膜との界面にボイドが入り込むことがなく、良好な密着性を示す。
したがって、前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体では、前記金属めっき膜の前記エポキシ樹脂プリプレグ硬化体に対するはく離強度を、小さくとも0.50kN/mとすることができ、実用上、十分な密着性が得られる。
【0037】
(金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体の製造方法)
本発明の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ硬化体の製造方法は、本発明の前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを加熱して硬化させる加熱工程を含む。
【0038】
前記加熱工程としては、前記被覆エポキシ樹脂プリプレグに応じて設定された硬化温度に基づき、加熱を行うことで実施することができる。
また、前記加熱工程においては、硬化前の前記エポキシ樹脂プリプレグの柔軟性を利用して、平面形状の状態で行うことのみならず、前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの全体又は一部を湾曲ないし屈曲させた状態で行うことができる。
【実施例】
【0039】
(第1のパラジウムコロイドの調製)
先ず、イオン交換水(950mL)に塩化ナトリウム(2.5mmol)、塩化パラジウム(II)(0.5mmol)、デキストラン(100mg)及びグルコース(1g)を溶解させた後、常温下で撹拌しながら40mmol/L水素化ホウ素ナトリウム水溶液(50mL)を加えて混合液を調製した。
次いで、この混合液を80℃で1日間撹拌して第1のパラジウムコロイドを調製した。
【0040】
(第2のパラジウムコロイドの調製)
前記デキストラン(100mg)及び前記グルコース(1g)に代えて、前記イオン交換水に蔗糖(10g)を溶解させたこと、前記混合液に対し80℃で1日間撹拌することに代えて、25℃で30日間静置すること以外は、第1のパラジウムコロイドの調製と同様にして、第2のパラジウムコロイドの調製を行った。
【0041】
(金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造)
<実施例1>
先ず、130℃硬化型のシート状炭素繊維エポキシ樹脂プリプレグ(三菱レイヨン社製、TR3110 381GMX(PPG381))を10cm×16cmの大きさで切り出し、片面にテフロン(登録商標)テープを貼ることでマスキングを行った。
次いで、この状態の前記エポキシ樹脂プリプレグを25℃の70質量%メタノール水溶液中に15分間浸漬させた後、水洗した。更に、この状態の前記エポキシ樹脂プリプレグを25℃の0.3質量%塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液中に3分間浸漬させた後、水洗した(前処理工程)。
次いで、この状態の前記エポキシ樹脂プリプレグを前記第1のパラジウムコロイド中に5分間浸漬させて、前記エポキシ樹脂プリプレグにパラジウム触媒を付与した後、水洗した(触媒付与工程)。
次いで、この状態の前記エポキシ樹脂プリプレグを32℃に温度調整された3Lの無電解銅めっき液(奥野製薬工業社製、ATSアドカッパーIW)中に15分間浸漬させて無電解銅めっきを行い(無電解めっき工程)、前記エポキシ樹脂プリプレグの片面が厚み252nmの銅めっき膜で被覆された実施例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを製造した。
なお、前記銅めっき膜の厚みは、前記エポキシ樹脂プリプレグに対する前記無電解めっき工程前後の重量差から求めることとした。
【0042】
<実施例2>
前記エポキシ樹脂プリプレグを2cm×4cmの大きさで切り出し、片面にテフロンテープを貼ることでマスキングを行った。このエポキシ樹脂プリプレグに対し、25℃の70質量%メタノール水溶液中に15分間浸漬後、水洗すること、及び、25℃の0.3質量%塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液中に3分間浸漬後、水洗することに代えて、0.01質量%塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液中に30分間浸漬後、水洗及び風乾して、前記前処理工程を行ったこと、並びに、前記触媒付与工程後の前記エポキシ樹脂プリプレグを32℃に温度調整された3Lの前記無電解銅めっき液中に15分間浸漬させることに代えて、25℃に温度調整された5mLの前記無電解銅めっき液中に15分間浸漬させて前記無電解めっき工程を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、前記銅めっき膜の厚みが98nmの実施例2に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを製造した。
【0043】
<実施例3>
実施例2における前記エポキシ樹脂プリプレグ(2cm×4cm)に対し、25℃の70質量%メタノール水溶液中に15分間浸漬後、水洗すること、及び、25℃の0.3質量%塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液中に3分間浸漬後、水洗することに代えて、25℃の70質量%メタノール水溶液中に5分間浸漬後、水洗することのみで前記前処理工程を行ったこと、並びに、前記エポキシ樹脂プリプレグを前記第1のパラジウムコロイド中に30分間浸漬させて、前記エポキシ樹脂プリプレグに前記パラジウム触媒を付与した後、水洗することに代えて、途中、水洗しながら上村工業社製のスルカップ・プレディップPED−104中に3分間、同社製のスルカップ・アクチベーターPED−104&AT−105中に10分間、同社製のスルカップ・アクセレレーターAL−106中に5分間、順次浸漬して前記触媒付与工程を行ったこと以外は、実施例2と同様にして、前記銅めっき膜の厚みが294nmの実施例3に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを製造した。
【0044】
<実施例4>
先ず、150℃硬化型のシート状ガラスエポキシ樹脂プリプレグ(寺岡製作所社製、5100 0.2、G−EP−PPG)を2cm×4cmの大きさで切り出し、片面にテフロンテープを貼ることでマスキングを行った。
次いで、この状態の前記エポキシ樹脂プリプレグを25℃の0.01質量%塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液中に1日間浸漬させた後、水洗した(前処理工程)。
次いで、この状態の前記エポキシ樹脂プリプレグを前記第2のパラジウムコロイド中に30分間浸漬させて、前記エポキシ樹脂プリプレグにパラジウム触媒を付与した後、水洗した(触媒付与工程)。
次いで、この状態の前記エポキシ樹脂プリプレグを30℃に温度調整された5mLの無電解ニッケルめっき液中に15分間浸漬させて無電解ニッケルめっきを行い(無電解めっき工程)、前記エポキシ樹脂プリプレグの片面が厚み112nmのニッケルめっき膜で被覆された実施例4に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを製造した。
なお、前記無電解ニッケルめっき液は、0.1mol/L塩化ニッケル(II)、2mol/Lアンモニア及び0.1mol/L次亜リン酸ナトリウムの溶液に塩酸を加えてpHが8.9となるように調整したものである。
【0045】
<比較例1>
前記前処理工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造を試みた。
しかしながら、めっきは全く起らず、前記エポキシ樹脂プリプレグ上に前記銅めっき膜の存在を確認することができなかった。
【0046】
(柔軟性)
実施例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグと同様に製造した金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグに対し、柔軟性の評価を目的として、JIS L 1096:2010 織物及び編物の生地試験方法 8.21剛軟度 A法(45°カンチレバー法)に準じた剛軟性の測定を行った。
具体的には、試料の剛性を考慮して、20mm×約250mmの大きさで長尺帯状に切り出した前記炭素繊維エポキシ樹脂プリプレグ(三菱レイヨン社製、TR3110 381GMX(PPG381))を用いて、実施例1と同様の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを製造したものを試験片とした。
この試験片を45°カンチレバー試験機の水平台上に取り付けた後、水平面から鉛直方向に45°傾斜した前記カンチレバー試験機の斜面台に向けて、前記試験片を前記水平台上で緩やかに滑らせて、前記試験片の移動先の先端の中央点が前記斜面台と接したときの前記水平台上の前記試験片の基端の位置をスケールを用いて読み取った。前記剛軟性は、前記スケールで読み取られた前記試験片の前記水平台上での移動距離(mm)で示される。なお、測定温度は、室温23℃とした。
また、比較のため、20mm×約250mmの大きさで長尺帯状に切り出した前記炭素繊維エポキシ樹脂プリプレグ自身(未処理)と、特許文献1に基づく予備的な加熱として、130℃、5分間の条件で加熱した前記炭素繊維エポキシ樹脂プリプレグとのそれぞれを試験片として、前記剛軟性の測定を同様に行った。
また、実施例4に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグと同様に製造した金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグに対して、同様の前記剛軟性の測定を行った。
具体的には、試料の剛性を考慮して、20mm×約250mmの大きさで長尺帯状に切り出した前記ガラスエポキシ樹脂プリプレグ(寺岡製作所社製、5100 0.2、G−EP−PPG)を用いて、実施例4と同様の金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを製造したものを試験片として、前記剛軟性の測定を同様に行った。
また、比較のため、20mm×約250mmの大きさで長尺帯状に切り出した前記ガラスエポキシ樹脂プリプレグ自身(未処理)と、特許文献1に基づく予備的な加熱として、130℃、5分間の条件で加熱した前記ガラスエポキシ樹脂プリプレグとのそれぞれを試験片として、前記剛軟性の測定を同様に行った。
前記剛軟性の各測定結果を下記表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
前掲表1に示すように、実施例1と同様に製造した前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ(炭素繊維エポキシ樹脂プリプレグ使用)は、硬化前であるため、未処理の前記炭素繊維エポキシ樹脂プリプレグと同等の柔軟性を有している。
一方、特許文献1に基づく加熱を行った前記炭素繊維エポキシ樹脂プリプレグでは、加熱による硬化のため、前記水平台上の前記試験片が前記斜面台上に垂れ下がらず、前記剛軟性を測定できない結果(柔軟性なし)となった。
また、実施例4と同様に製造した前記金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ(ガラスエポキシ樹脂プリプレグ使用)は、硬化前であるため、未処理の前記ガラスエポキシ樹脂プリプレグと同等の柔軟性を有している。
一方、特許文献1に基づく加熱を行った前記ガラスエポキシ樹脂プリプレグでは、加熱による硬化のため、前記水平台上の前記試験片が前記斜面台上に垂れ下がらず、前記剛軟性を測定できない結果(柔軟性なし)となった。
【0049】
(金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体の製造)
<実施例5>
実施例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを電気めっき用の治具にセットし、厚付けを目的とした電気銅めっきを行った。
具体的には、めっき液として、銅めっき液(JCU社製、光沢硫酸銅めっき液、EP−30)を用い、アノードとして、含燐銅板(10cm×20cm)を用い、液温25℃、電流密度3.0A/dmの条件で、実施例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグをカソード(めっき対象)とする電気銅めっきを行った。
ここで、前記電気銅めっきでは、めっき時間を約80分間とし、前記無電解銅めっき膜上に電気銅めっき膜を50μmの厚みで形成した。なお、前記電気銅めっき膜の厚みは、前記電気銅めっき前後の重量差から求めることとした。
次いで、水洗後の実施例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを、25℃、1分間の条件で、変色防止剤(メルテックス社製、エンテックCU−56)に浸漬させた後、水洗のうえ風乾した。
以上により、前記電気銅めっきが厚付けされた金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを調製した。
【0050】
実施例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造に用いた、前記エポキシ樹脂プリプレグ(10cm×16cm)を更に12枚用意した。
次いで、これら12枚の前記エポキシ樹脂プリプレグを下地として、前記電気銅めっきが厚付けされた金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを最上面に配し、積層体を作製した。
前記積層体を縦160mm、横100mm、深さ3mmの穴部が形成されたステンレス製金型内に設置し、ホットプレス機により140℃、30分間加熱することにより、エポキシ樹脂を硬化させ、厚み約3mmの板状体として、実施例5に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体を製造した。
【0051】
<実施例6>
電気銅めっきにおいて、めっき時間を約80分間とし、前記無電解銅めっき膜上に電気銅めっき膜を50μmの厚みで形成することに代えて、めっき時間を約160分間とし、前記無電解銅めっき膜上に電気銅めっき膜を100μmの厚みで形成したこと以外は、実施例5と同様にして、実施例6に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体を製造した。
【0052】
<実施例7>
実施例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグに代えて、実施例2に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを用いたこと以外は、実施例5と同様にして、実施例7に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体を製造した。
【0053】
<実施例8>
実施例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグに代えて、実施例3に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグを用いたこと以外は、実施例5と同様にして、実施例8に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体を製造した。
【0054】
<参考例1>
前記電気銅めっきが厚付けされた金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグに代えて、実施例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造に用いた、前記エポキシ樹脂プリプレグ(10cm×16cm)を用いて、合計13枚の前記エポキシ樹脂プリプレグを重ねた状態とし、更に、これらの最上面に厚み50μmの銅箔を配し、積層体を作製したこと以外は、実施例5と同様にして、参考例1に係る金属箔被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体を製造した。
【0055】
<参考例2>
前記電気銅めっきが厚付けされた金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグに代えて、実施例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造に用いた、前記エポキシ樹脂プリプレグ(10cm×16cm)を用いて、合計13枚の前記エポキシ樹脂プリプレグを重ねた状態とし、更に、これらの最上面に厚み100μmの銅箔を配し、積層体を作製したこと以外は、実施例5と同様にして、参考例2に係る金属箔被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体を製造した。
【0056】
<比較例2>
前記電気銅めっきが厚付けされた金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグに代えて、実施例1に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの製造に用いた、前記エポキシ樹脂プリプレグ(10cm×16cm)を用いて、合計13枚の前記エポキシ樹脂プリプレグで積層体を作製して前記積層体の硬化体を製造したこと、及び、前記積層体の硬化体に対し、実施例6と同様の電気めっきを行い、厚みが100μmの電気銅めっき膜を形成したこと以外は、実施例6と同様にして、比較例2に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体を製造した。
【0057】
(密着性)
前記金属めっき膜及び前記金属箔の前記エポキシ樹脂プリプレグの硬化体に対する密着性を確認するため、実施例6に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体及び参考例2に係る金属箔被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体に対し、JIS K6854−1による90度はく離試験を行った。
前記90度はく離試験の結果、実施例6に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体では、前記金属めっき膜の前記エポキシ樹脂プリプレグの硬化体に対する、はく離強度が0.57kN/mであった。
また、参考例2に係る金属箔被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体では、前記金属箔の前記エポキシ樹脂プリプレグの硬化体に対する、はく離強度が0.69kN/mであった。
これら試験結果から、実施例6に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体は、参考例2に係る金属箔被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体と比較して、やや低いものの、0.50kN/mを超える前記はく離強度を有しており、実用上、十分な密着性を有していると評価することができる。
一方、参考例2に係る金属箔被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体は、実施例6に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体と比較して、やや高い前記はく離強度を有しているものの、加熱硬化前の前記積層体において、前記金属箔と前記エポキシ樹脂プリプレグとが別体とされるため、前記金属箔と前記エポキシ樹脂プリプレグとの位置合わせが必要となるほか、位置合わせした状態で加熱硬化を行うための専用の金型が必要であり、前記エポキシ樹脂プリプレグの柔軟性を利用した自由な加工性を持たない。
【0058】
また、前記エポキシ樹脂プリプレグの柔軟性を利用した自由な加工性を得る目的で、一旦、加熱により前記エポキシ樹脂プリプレグの硬化体を得た(自由加工)後、この硬化体に前記無電解銅めっき膜を形成した、比較例2に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体では、前記90度はく離試験で確認される前記はく離強度が、0.1kN/m以下であり、実用に耐え得る密着性が得られない。
実施例6に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体では、加熱硬化前の前記柔軟性を有する前記エポキシ樹脂プリプレグに対して、前記無電解銅めっき膜を形成するため、一般に硬化体に対して無電解めっきを行う場合に前処理として行うエッチング処理を行わない条件下で前記無電解めっきを行った場合でも、十分な密着性が得られるものと考えられる。
なお、実施例5,7,8に係る各金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体についても、実施例6に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体と同様、十分な密着性が得られている。
【0059】
実施例6に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した電子顕微鏡像を図2に示す。
図2に示すように、銅めっき膜と前記エポキシ樹脂プリプレグの硬化層との界面にボイドが確認されず、良好な密着性を確認することができる。
また、収束イオンビーム(FIB)加工により約100nmに薄膜化することで、実施例6に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した電子顕微鏡像を図3に示す。
図3に示すように、高倍率観察において、炭素繊維と前記銅めっき膜との間に前記エポキシ樹脂成分が存在し、良好な密着性が得られていることが確認される。
【0060】
(コート層)
また、実施例6に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体では、図2に示すように、エポキシ樹脂プリプレグの硬化体(図中の「CFRP」)上に銅めっき膜の形成が確認されるとともに、前記銅めっき膜上にコート層(図中の「銅めっき膜」上の層)の形成が確認される。
ここで、前記エポキシ樹脂プリプレグは、繊維間に未硬化のエポキシ樹脂が入り込んだ部材であり、前記前処理工程時において、前記表面近傍における2量体、3量体のエポキシ樹脂を含む幾分かが前処理液に溶出することから、前記無電解めっき工程(及び前記電気めっき工程)時において、表面に前記繊維の網目形状に基づく凹凸形状が現れた状態とされる。
したがって、前記エポキシ樹脂プリプレグ上に形成される金属めっき膜は、前記無電解めっき工程(及び前記電気めっき工程)時に、前記凹凸形状に追従して被膜されることとなる。
そのため、前記金属めっき膜は、前記エポキシ樹脂プリプレグの前記凹凸形状と同様の凹凸形状を持った膜として形成されるとともに、微視的に見ると、前記エポキシ樹脂プリプレグの前記凹凸形状の起伏に追従し切れない部分において貫通孔を有した状態とされる。
このような金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグでは、加熱硬化前及び加熱硬化時において、前記エポキシ樹脂プリプレグ表面側の一部のエポキシ樹脂成分が前記貫通孔を通じて前記金属めっき膜上に流れ出し、このエポキシ樹脂成分が加熱硬化されて、前記コート層が形成されることとなる。
【0061】
(耐雷性)
前記コート層の有用性を確認するため、実施例5,6に係る各金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体及び参考例1,2に係る各金属箔被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体に対して、耐雷性試験を行った。
前記耐雷性試験は、インパルス電流発生装置(スイス、Haefely社製)を用い、接地した各硬化体に対し、上方3mmに設置したステンレス製放電電極から、直撃雷インパルス電流(10/350μ秒、30kA)を印加することで行った。
【0062】
前記耐雷性試験の試験結果について、説明する。
参考例1に係る金属箔被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体では、放電による電圧が印加された表面において、直径約30mmの円状の範囲で、銅箔(厚み50μm)に欠損が生じ、目視により、下地の前記エポキシ樹脂プリプレグの硬化体が露出した状態が確認された。
また、参考例2に係る金属箔被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体では、放電による電圧が印加された表面において、直径約20mmの円状の範囲で、銅箔(厚み100μm)に欠損が生じ、目視により、下地の前記エポキシ樹脂プリプレグの硬化体が露出した状態が確認された。
実施例5に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体では、放電による電圧が印加された表面において、直径約10mmの円状の範囲で、銅めっき膜(電気めっき膜の厚み50μm)に欠損が生じ、目視により、下地の前記エポキシ樹脂プリプレグの硬化体が露出した状態が確認された。また、直径約20mmの円状の範囲で前記銅めっき膜に斑状の変容が確認された。
実施例6に係る金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体では、放電による電圧が印加された表面において、前記銅めっき膜(電気めっき膜の厚み100μm)に欠損は確認されず、直径約20mmの円状の範囲で前記銅めっき膜に斑状の変容が確認されるに止まった。
【0063】
以上のように、実施例5,6に係る各金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体では、参考例1,2に係る各金属箔被覆エポキシ樹脂プリプレグの硬化体と比べ、放電による電圧が印加されたときの欠損を抑制することができ、耐雷性に優れると評価することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 エポキシ樹脂プリプレグ
1a エポキシ樹脂層
1a’ バリア層
1b 強化繊維シート
2 前処理液
3 コロイド
3a 触媒粒子
4 無電解めっき液
5 金属めっき膜
10 金属めっき膜被覆エポキシ樹脂プリプレグ
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図1(e)】
図2
図3