特許第6840419号(P6840419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪瓦斯株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特許6840419ハロモナス菌を用いたγーアミノ酪酸の製造方法。
<>
  • 特許6840419-ハロモナス菌を用いたγーアミノ酪酸の製造方法。 図000003
  • 特許6840419-ハロモナス菌を用いたγーアミノ酪酸の製造方法。 図000004
  • 特許6840419-ハロモナス菌を用いたγーアミノ酪酸の製造方法。 図000005
  • 特許6840419-ハロモナス菌を用いたγーアミノ酪酸の製造方法。 図000006
  • 特許6840419-ハロモナス菌を用いたγーアミノ酪酸の製造方法。 図000007
  • 特許6840419-ハロモナス菌を用いたγーアミノ酪酸の製造方法。 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840419
(24)【登録日】2021年2月19日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】ハロモナス菌を用いたγーアミノ酪酸の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/52 20060101AFI20210301BHJP
   C12R 1/01 20060101ALN20210301BHJP
【FI】
   C12P7/52
   C12R1:01
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-21792(P2016-21792)
(22)【出願日】2016年2月8日
(65)【公開番号】特開2017-139969(P2017-139969A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年11月22日
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10995
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 功
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓
(72)【発明者】
【氏名】河田 悦和
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−227245(JP,A)
【文献】 特開2009−159840(JP,A)
【文献】 特開2012−170385(JP,A)
【文献】 特開2013−081403(JP,A)
【文献】 特開2015−204769(JP,A)
【文献】 河田悦和,ハロモナス菌による木材から3−ヒドロキシ酪酸等の生産技術開発に関する研究(3K123009),平成26年度 環境研究総合推進費補助金 研究事業 総合研究報告書,2015年 3月,p.1-96
【文献】 Bioresource Technology,2013年,vol.140,p.73-79
【文献】 J. Biosci. Bioeng.,2012年,vol.113, no.4,p.456-460
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)および(2)を含むγーアミノ酪酸またはその塩の製造方法;
(1)ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株(FERM BP−10995)を、有機炭素源および無機塩を含有する液体培地中で、35℃〜40℃にて培養する工程(1)、
(2)工程(1)によって得られる培養液中から、γーアミノ酪酸またはその塩を回収する工程(2)。
【請求項2】
前記工程(2)が、培養液を脱塩する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロモナス菌を用いたγーアミノ酪酸(GABA、γ−aminobutanoic acid)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーのみならずケミカル・リファイナリーのバイオベース化、工業用原料の石油からバイオマスへの転換等が課題となっている。
【0003】
γーアミノ酪酸は高等動物では神経伝達物質、血圧降下剤、コレステロール低下などに効果があることが知られている。これは、微生物では、根粒菌の窒素固定などに関与している。酵母、乳酸菌、バシラス菌などではストレス耐性、酸素ダメージ除去、pH維持、浸透圧耐性などに関与している。例えば、乳酸菌などの微生物においては、図1に示すようなGABA回路という代謝システムが存在する。
【0004】
GABA回路では、TCA回路に属するα―ケトグルタル酸を出発物質として、これからグルタミン酸デヒドロゲナーゼを触媒にしてグルタミン酸が生成され;これからグルタミン酸デカルボキシラーゼを触媒にしてγーアミノ酪酸(GABA、γ−aminobutanoic acid)が生成され;これかれγーアミノ酪酸アミノトランスフェラーゼを触媒にしてコハク酸セミアルデヒドが生成され;そして、これからコハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼを触媒にしてコハク酸が生成される。GABA回路は、TCA回路中のα―ケトグルタル酸からのコハク酸の生成を迂回するルートを有するために、GABA−shunt−pathweyとも呼ばれる。
【0005】
このような微生物が有する回路を利用して、例えば乳酸菌を用いた発酵法によるγーアミノ酪酸の製造方法が試みられている(非特許文献1)。
【0006】
ハロモナス属に属する菌体は、これを培養する際に用いる培地の塩濃度の高さ、pHの高さに起因して、他の菌のコンタミネーションを生じにくい傾向を有するため、様々な物質の発酵生産に向いていることが知られている。例えば、ポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)およびそのモノマー成分である3−ヒドロキシ酪酸の製造方法(特許文献1〜5)、乳酸および/または酢酸の製造方法(特許文献6)、ピルビン酸の製造方法(特許文献7)などが挙げられる。
【0007】
これらの文献には、ハロモナス属に属する菌体を単に増殖させるための基本的な条件で培養するか、または培養条件、培地組成などを上記の条件から適宜変更することで、所望の物質を効率的に製造することができる発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特願2011−050337号公報
【特許文献2】特願2011−083204号公報
【特許文献3】特願2009−077678号公報
【特許文献4】特願2013−081403号公報
【特許文献5】国際公開2015/072456
【特許文献6】特開2010ー273582号公報
【特許文献7】特開2015−204769号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】漬物からγ‐アミノ酪酸(GABA)の高生産性乳酸菌の分離とその応用 生物工学会誌85巻3号P109−114(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記非特許文献1に記載の方法は、原料としてグルタミン酸を用いる必要があるので、γーアミノ酪酸の製造方法として、コスト的に不利である。したがって、コスト的に有利なγーアミノ酪酸の製造方法の開発が求められている。すなわち、本発明は、安価で簡便に、γーアミノ酪酸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
斯かる課題を解決すべく、発明者らが鋭意検討を重ねた結果、ハロモナス属に属する菌体の1種の菌体内の代謝解析により、斯かる菌体が上述のGABA回路を有していることが明らかとなった。
【0012】
本発明はこのような知見に基づいて完成されたものであり、下記に示す様々な態様の発明を包含する。
項1 以下の工程(1)および(2)を含むγーアミノ酪酸またはその塩の製造方法;
(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源および無機塩を含有する液体培地中で培養する工程(1)、
(2)工程(1)によって得られる培養液中から、γーアミノ酪酸またはその塩を回収する工程(2)。
項2 前記工程(2)が、培養液を脱塩する工程を含む、上記項1に記載の製造方法。
項3 前記好塩菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株(FERM BP−10995)である、上記項1または上記項2に記載の製造方法。
項4 γーアミノ酪酸またはその塩の製造用である、ハロモナス属に属する好塩菌。
項5 ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株(FERM BP−10995)である、上記項4に記載の好塩菌。
項6 γーアミノ酪酸またはその塩の製造のための、ハロモナス属に属する好塩菌の使用。
項7 好塩菌がハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株(FERM BP−10995)である、上記項6に記載の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によると、他の菌によるコンタミネーションを防止する特別な手段を取ることなく、γーアミノ酪酸の製造方法を提供することができる。
【0014】
本発明の製造方法によると、安価で簡便なγーアミノ酪酸の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】GABA回路を説明する図。
図2】実施例に示すハロモナス菌の培養試験結果。
図3】実施例に示すハロモナス菌の各種時間における培養後の菌体内の、リビトールに対するグルタミン酸の相対値を示す結果。
図4】実施例に示すハロモナス菌の各種時間における培養後の菌体内の、リビトールに対するγーアミノ酪酸(γ−aminobutanoic acid)の相対値を示す結果。
図5】実施例に示すハロモナス菌の各種時間における培養後の菌体内の、リビトールに対するコハク酸セミアルデヒドの相対値を示す結果。
図6】実施例に示すハロモナス菌の各種時間における培養後の菌体内の、γーアミノ酪酸(γ−aminobutanoic acid)の絶対量を示す結果。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のγーアミノ酪酸またはその塩の製造方法は、以下の工程(1)および(2)を含む。
(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源および無機塩を含有する液体培地中で培養する工程(1)、
(2)工程(1)によって得られる培養液中から、γーアミノ酪酸またはその塩を回収する工程(2)。
【0017】
工程(1)
<A:好塩菌>
工程1において用いる好塩菌はハロモナス属に属する好塩菌である。このようなハロモナス属に属する好塩菌は、酸化的代謝と嫌気的代謝とを使い分けることができ、培地中の遊離酸素の存在の有無にかかわらず生存が可能で、且つ、遊離酸素の存在下のほうが生育し易い傾向を示す、いわゆる、通性嫌気性菌の性質を有する菌体である。
【0018】
上述のハロモナス属に属する好塩菌は、0.1〜1.0M程度の範囲内の塩濃度を適とする好塩性を有し、時には塩を含まない培地においても生育する細菌である。そして、上述のハロモナス属に属する好塩菌は、通常はpH5〜12程度の範囲内の培地中において生育する。
【0019】
このようなハロモナス属に属する好塩菌として、例えば、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株が挙げられる。ハロモナス・エスピーKM−1株は、平成19年7月10日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に受託番号FERM P−21316として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP−10995である。当該ハロモナス・エスピーKM−1株の16S rRNA遺伝子は、DDBJにAccession Number AB47
7015として登録されている。
【0020】
また、上述のハロモナス属に属する好塩菌の生育特性などに鑑みて、工程1において用いることができる好塩菌として、ハロモナス・エスピーKM−1株以外に、ハロモナス・パンテラリエンシス(Halomonas pantelleriensis:ATCC 700273)、ハロモナス・カンピサリス(Halomonas campisalis:ATCC 700597)、ハロモナス・メリディアナ(Halomonas meridiana:NBRC15608)なども挙げることができる。
【0021】
さらに、16SリボゾームRNA配列による分析から、ハロモナス・ニトリトフィルス、ハロモナス・アリメンタリア、およびハロモナス・メリディアナなども、工程1において用いるハロモナス属に属する好塩菌として採用できることが推定される。
【0022】
なお、本発明で用いられるハロモナス属に属する好塩菌は、遺伝子導入または変異導入などが施されていない野生型株であることが好ましいが、人為的および偶発的を問わず、これらの導入が施されているものであってもよい。導入される遺伝子および/または変異は、本発明の製造方法において、γーアミノ酪酸またはその塩の生産効率などを向上させる機能を発現させるものであれば特に限定されない。
【0023】
例えば、上記のGABA回路において働く各種の酵素をコードする遺伝子などを遺伝子導入することが挙げられる。これらの遺伝子の当該菌体への導入方法は、一般的な方法を採用することができる。
【0024】
<B:培地>
上記工程1において用いる培地は、無機塩とおよび有機炭素源を含有する液体培地である。このような培地のpHは特に限定されず、例えば、上記好塩菌の生育条件を満たすpHであることが好しく、具体的にはpH5〜12程度の範囲内であることができる。より好ましくはpH8〜10程度である。本発明では、コンタミネーションを防止するための特別な手段を取ることは必須ではないが、アルカリ性の培地を用いれば、ハロモナス属に属する好塩菌以外の混入をより効果的に防止することができる。
【0025】
工程1において用いる培地に配合する無機塩は特に限定されない。例えばリン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩;ナトリウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅、コバルトなどの金属塩などを採用することができる。
【0026】
例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩を無機塩として採用する場合であれば、NaCl、KNO、KNO、NaNO、NaNO、NaHCO、NaCO、NaHPO4、NaHPO、KHPO、KHPOなどを用いることができる。
【0027】
これらの無機塩は、上記ハロモナス属に属する好塩菌にとって窒素源、リン源などとなるような化合物であることが好ましい。
【0028】
窒素源としては、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム塩、尿素などを用いればよく、特に限定はされない。例えばNaNO、NaNO、NHCl、尿素などの窒素含有化合物を用いることができる。好ましくは、硝酸塩、亜硝酸塩などである。
【0029】
窒素源の使用量は、γーアミノ酪酸またはその塩の生産目的が達成される範囲において適宜設定することができる。具体的には、培養初期の培地100ml当たり通常であれば硝酸塩として250mg程度以上、好ましくは1000mg程度以上、より好ましくは1250mg程度以上である。
【0030】
リン源としては、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩などを用いればよく、特に限定はされないが、例えばNaPO、NaHPO、NaHPO、KPO、KHPO4、KHPOなどの化合物を用いることができる。
【0031】
リン源の使用量も、上記の窒素源の使用量と同様の観点から適宜設定すればよく、具体的には、リン酸二水素塩として培地100ml当たり通常は50〜400mg程度の範囲内とすればよく、好ましくは100〜200mg程度である。
【0032】
これらの無機塩は単一で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
無機塩は、総量で通常は0.1〜2.5M程度の範囲内となる濃度で用いればよく、好ましくは0.2〜1.0M程度、より好ましくは0.2〜0.5M程度である。
【0034】
工程1において用いる培地に配合する有機炭素源は、特に限定はされない。例えば、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロースなどの六炭糖;リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボースなどの五炭糖;スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオースなどの二糖;エリスリトール、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール;トリプトン、イーストエキストラクト、可溶性デンプン、エタノール、n−プロパノール、酢酸、酢酸塩、プロピオン酸、廃グリセロール、廃蜜糖、木材糖化液、ピルビン酸、アセチルCoA、クエン酸、αーケトグルタル酸、コハク酸、フマール酸、リンゴ酸、オキザロ酢酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0035】
これらの有機炭素源は1種または2種以上を適宜組み合わせることで用いることができる。また、有機炭素源の使用量は特に限定はされず、通常は0.0056〜0.1666M程度の範囲内となる濃度で用いればよく、好ましくは0.0278〜0.1389M程度、より好ましくは0.056〜0.111M程度である。
【0036】
本発明の製造方法では、塩濃度が比較的高い条件の培地で、ハロモナス属に属する好塩
菌を好適に培養できるので、他の菌体の混入および増殖の恐れなどをほとんど排除できる。したがって、上述の培地に対して滅菌処理などを行わずに、簡便な設備で培養することも可能である。
【0037】
<C:培養方法>
上記工程1における上記ハロモナス属に属する好塩菌の培養方法は、特に限定はされない。具体的な培養方法の1態様を以下に示す。
【0038】
先ず、5ml程度の適当な培地に上記好塩菌を植菌し、通常は30℃〜37℃程度、攪拌速度は120〜180rpm程度で1晩振盪しながら前培養を行う。続いて前培養して得られた菌体を、三角フラスコ、発酵槽、ジャーファーメンターなどに入った上記<B:培地>において詳述した培地中に100倍程度に希釈し本培養(これを、本明細書中、単に培養と称する場合がある。)する。
【0039】
上記の本培養は、通常は20℃〜45℃程度の範囲内で設定することができる。好ましくは、30℃〜45℃程度、更に好ましくは35℃〜40℃程度、36℃〜38℃程度が最も好ましい。
【0040】
本培養の方法としては、特に限定はされない、例えば、回分培養、半回分培養、流加培養、連続培養などの培養方法が挙げられる。特に本発明の方法では他の菌が混入、増殖などのする危険性が極めて低いので、長期の連続培養も採用可能である。このようにγーアミノ酪酸またはその塩を効率よく製造できる点で好ましい。
【0041】
工程(2)
本発明の製造方法の工程2は、上記工程1によって得られた培養液から、γーアミノ酪酸またはその塩を回収する工程である。「培養液」とは、(1)培養後の培地の液、または(2)これと増殖した菌体とを含む液である。
【0042】
工程2における回収の前に、上述の増殖した菌体を破砕する工程に供してもよい。増殖した菌体を破砕する場合には、公知の方法を採用すればよい。例えば、超音波破砕法、フレンチプレス法、乳鉢、ホモジナイザーを用いた粉砕法、またはガラスビーズなどの各種粉砕用ボールを用いた粉砕法を挙げることができる。
【0043】
工程2における回収は、工程1によって得られる培養後の培地の液中にγーアミノ酪酸が存在している場合に限り、工程1の培養を停止して実施することもできる。培養液中のγーアミノ酪酸またはその塩の存在を確認する方法は、菌種、培地成分、培養条件などにより変わり得るものであり、これらの要素を考慮して適宜決定され得る。例えば、継時的に培養液を採取し、これをLC−MS、HPLC、分析キットなどによる分析方法に供して、培養を停止するのに好ましい時期を決定することができる。
【0044】
具体的な回収方法は特に限定はされない。たとえば遠心操作、濾過、膜分離などの固液分離の方法が挙げられる。さらに、固液分離の後に得られる液体画分を、公知の精製工程に供することも、工程2の回収に包含される。具体的な精製方法は特に限定はされない。例えば、脱塩工程、各種カラムを用いたクロマトグラフィーなどを挙げることができる。なお、脱塩の手段としては、上記カラムを採用することもできるし、この他にED法を採用することもできる。
【0045】
すなわち、工程2の一態様として、工程1によって培養して得られた菌体を破砕することなく、斯かる菌体をそのまま脱塩処理に供する工程が挙げられる。これによって、γーアミノ酪酸またはその塩を簡便に製造することもできる。すなわち、本発明の一態様では、工程2は培養液を脱塩する工程を含む。また、本発明の別の一態様では、工程2は培養液を脱塩する工程からなる。このような方法で製造されたγーアミノ酪酸は、例えば、健康食品などの機能性食品にそのまま配合することができる。
【0046】
なお、γーアミノ酪酸は、培養液中または菌体内に含まれる無機塩に基づくナトリウム、カルシウムなどのアルカリ金属;アルカリ土類金属などの陽イオンと反応した塩として回収されてもよい。
【0047】
そして、上記の増殖した菌体内からは、特許文献1〜7などに記載の手法に従い、バイオポリマーであるポリヒドロキシブチレート(PHB)、または3−ヒドロキシ酪酸などを回収することも可能である。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明をより詳細に説明するための実施例を示す。なお、本発明が以下に示す実施例に限定されないのは言うまでもない。 下記の試験例において用いるSOT改6培地は、下記の表1に示す組成を有する。本実施例では、3Lの発酵槽に張り込み培地(1.5L)として、下記のSOT改培地に10%(w/w)のグルコースおよび1.2%(w/w)の硝酸ナトリウムを加えた培地を用意した。次いで、前培養したハロモナス属に属する好塩菌KM−1株を張り込み培地に植菌し、好気培養を開始した。培養温度を37℃に維持し、およびDOを培養開示時は10%に設定し、および培養開始の2.5時間後から、50%に上昇させた。また、撹拌羽根の回転数は200rpm〜1000rpmの間に調整した。
【0049】
培養開始の5時間後から、0.5mL/分の割合で、上記SOT改培地に60%(w/w)のグルコースを添加した300mLの流加培地を加え、培養開始の1時間後から、0.1mL/分の割合で、上記SOT改6培地に17%(w/w)の硝酸ナトリウムを添加した148mLの流加培地を加えた。なお、pHは8.5となるように調整した。
【0050】
培養開始から5時間後、8時間後、12時間後、14.5時間後、及び27時間後に培養液をサンプリングした。分光光度計を用いてサンプリングした培養液の波長600nmの光学濃度(OD)を測定し、およびグルコースセンサーによって培養液中のグルコース濃度を測定した。
【0051】
【表1】
【0052】
サンプリングした培養液(各500μL)は、16,500gで5分間遠心し、沈殿を蒸留水で洗浄して、再度遠心し、得られた菌体を液体窒素で凍結保存した。菌体を常温で溶かし、ここにジルコニアボールを2個入れ、次いでボールミルを用い、20Hzで5分間粉砕処理に供した。
【0053】
処理物に、Mix solvent(MeOH/HO/CHCl=5:2:2)の1000μLの混合液を加えて、ボルテックスミキサーで混合した。次いで、0.2mg/mlの濃度に調製した60μLのリビトール水溶液をここに加えて混合し、37℃で30分間、12000rpmで振とうさせた。
【0054】
浸とう後のサンプルを、4℃で3分間、16000gの条件で遠心して、上清の800μLを新しい1.5mLのエッペンチューブに移した。ここに400μLの蒸留水を加えて、4℃で3分間、16000gの条件で遠心して2相分離し、新しいエッペンチューブに上清の700μLを移した。これを、メタノールが無くなるまでSpeedvac concentratorを用いて室温で濃縮し、その後、凍結して、凍結乾燥器で水分が無くなるまで乾燥させた。
【0055】
上記の凍結乾燥サンプルに、用事調製した100μLのMethoxyamine hydrochloride pyrideine溶液(20mg/ml)を加えて溶解させ、30℃で90分間、1200rpmの条件で振とうして、サンプルのメトキシ化を行った。
【0056】
メトキシ化を行った40μLのサンプルに、40μLのMSTFAを添加して、37℃で30分間、1200rpmで振とうして、サンプルのトリメチルシリル化を行った。反応終了後、16000rpmで5分間遠心して上清をGC−MS(島津製作所)用バイアル瓶に全量を移して、24時間以内にGC−MS(GCMS−QP2010Ultra 島津製作所)を用いてハロモナス属に属する好塩菌KM−1株の代謝物を分析した。上記の実験は3回行った。各種結果を図2〜6に示す。
【0057】
図2は、培養過程における培地中のODおよびグルコース濃度を示す。好気培養によって培地中のグルコースが減少し、培養開始から約25時間には完全に消費された。また、ODについては、最終的に(培養開始から25時間程度で)150〜200付近に到達した。
【0058】
そして、図3〜5に示すように、ハロモナス属に属する好塩菌KM−1株の菌体内では、培養開始と共に、グルタミン酸、γーアミノ酪酸、およびコハク酸セミアルデヒトが代謝物として存在量が増加したことから、ハロモナス属に属する好塩菌KM−1株はGABA回路を有していることが明らかとなった。また、図6に示すように、γーアミノ酪酸は、培養開始から14.5時間付近で、150mg/Lもの高い収量で生産されることが明らかとなった。
【0059】
ハロモナス属に属する好塩菌KM−1株はPHBの産生菌として知られる。今回の実験では、KM−1株におけるPHBの蓄積を促す条件によって、γーアミノ酪酸も蓄積したことは、確認はされていないが、次のような事が考えられる。
【0060】
PHBの蓄積にはC/N比において、窒素欠乏状態が必須となる。γーアミノ酪酸は、KM−1株においてGABA回路を介して窒素源であるNHをトラップすることになるので、結果的に菌体内での窒素源の供給を抑制する作用を奏する。これによって、KM−1株におけるPHBの蓄積の時期に、γーアミノ酪酸の生産量が増加することが示唆される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6