特許第6840939号(P6840939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6840939ポリイソシアネート組成物およびそれを用いた塗料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840939
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】ポリイソシアネート組成物およびそれを用いた塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/09 20060101AFI20210301BHJP
   C08G 18/16 20060101ALI20210301BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20210301BHJP
   C08G 18/28 20060101ALI20210301BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20210301BHJP
   C09D 201/06 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   C08G18/09
   C08G18/16
   C08G18/73
   C08G18/28 015
   C09D175/04
   C09D201/06
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-103219(P2016-103219)
(22)【出願日】2016年5月24日
(65)【公開番号】特開2017-210519(P2017-210519A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岸本 龍介
(72)【発明者】
【氏名】長岡 毅
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−287240(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/166983(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/093107(WO,A1)
【文献】 特開2013−224350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00− 18/87
C08G 71/00− 71/04
C09D175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アロファネート・イソシアヌレート化触媒として、カチオン構造がオクチルトリメチルアンモニウム、またはドデシルトリメチルアンモニウムであり、かつ、アニオン構造が炭酸メチルである4級アンモニウム塩の存在下、ヘキサメチレンジイソシアネートと炭素数1、または2のモノアルコールとを反応させて得られるポリイソシアネート。
【請求項2】
請求項1に記載のポリイソシアネート中のアロファネート基/イソシアヌレート基のモル比が50/50〜20/80であることを特徴とするポリイソシアネート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリイソシアネート中のウレトジオン体量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定におけるピーク面積として5%以下であり、かつ25℃における粘度が500mPa・s以下であるポリイソシアネート。
【請求項4】
アロファネート・イソシアヌレート化触媒として、カチオン構造がオクチルトリメチルアンモニウム、またはドデシルトリメチルアンモニウムであり、かつ、アニオン構造が炭酸メチルである4級アンモニウム塩の存在下、ヘキサメチレンジイソシアネートと炭素数1、または2のモノアルコールとを反応させることを特徴とするポリイソシアネートの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載のポリイソシアネートとポリオールを含む2液型自動車塗料用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂を得る場合などの硬化剤として有用な低粘度ポリイソシアネート組成物とこれを硬化剤とした塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料・塗装及び接着剤分野においては、1,6−ヘキサメチレンジイソアネート(以下HDIという)などの脂肪族イソシアネートより誘導される無黄変ポリイソシアネートは耐候性に優れているが、その中でもイソシアヌレート結合を含有するポリイソシアネートタイプが化学的、熱的安定性が高く、特に耐候性、耐熱性、耐久性に優れているため、その用途に応じて幅広く使用されており、一層の用途展開が期待されている。
【0003】
このイソシアヌレート結合を有するタイプは硬化剤として使用する場合、粘度が高いためにハンドリングが悪く、有機溶剤等で希釈して使用しなければならない。最近では、環境負荷低減の意識が高まり、有機溶剤の使用量を削減するために,硬化剤として使用されるポリイソシアネートの低粘度化が提案されている。ポリイソシアネートを低粘度化することで、塗装時のハンドリング性が向上し塗料組成物に使用される有機溶剤の使用量削減が可能となる。
【0004】
現在、ポリイソシアネートの低粘度化技術として、ウレトジオン結合を有するポリイソシアネートが挙げられる。ウレトジオン結合を有するポリイソシアネートは低粘度化を実現できるが、熱的安定性や耐候性が悪いという問題があった。(特許文献1、2)
【0005】
また、低粘度化技術の一つとして、HDIと脂肪族モノアルコールとを反応させて得られるアロファネート結合を有するポリイソシアネートも挙げられる(特許文献3)。アロファネート基はウレトジオン基と比較すると熱的安定性や耐候性に優れている。しかしながら、アロファネート結合を含有するポリイソシアネートも前述したイソシアヌレート結合と比較すると化学的、熱的安定性が悪く、耐候性も悪いという問題もあった。
【0006】
HDIと炭素数11〜20のモノオールとを反応させて得られるアロファネート結合、イソシアヌレート結合を含むポリイソシアネートが開示されている(特許文献4)。しかし、1分子中に有するイソシアネート基の量(以下、イソシアネート含有量)が低いという問題があった。
【0007】
ポリオールとの組み合わせから成る塗料組成物において、イソシアネート含有量が多いほど、塗料組成物全体のポリオール中のヒドロキシル基と反応して得られるウレタン結合の濃度が高くなり、ウレタン塗膜の機械物性の向上につながることから、イソシアネート含有量の高いポリイソシアネートが切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−32759号公報
【特許文献2】特開2013−224350号公報
【特許文献3】特開2003−137966号公報
【特許文献4】特開2012−255101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した背景技術に鑑みてなされたものであり、低粘度ながら化学的、熱的安定性を保持しつつ、高いイソシアネート含有量を確保し、機械物性、密着性、耐候性に優れたポリイソシアネート組成物およびこれを硬化剤とした塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、検討を重ねた結果、特定のアロファネート・イソシアヌレート触媒の存在下、特定のモノアルコールとHDIとを反応させて得られる脂肪族ポリイソシアネートにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、以下の実施形態を含むものである。
【0012】
[1]アロファネート・イソシアヌレート化触媒として4級アンモニウム塩の存在下、ヘキサメチレンジイソシアネートと炭素数1〜3のモノアルコールとを反応させて得られるポリイソシアネート。
【0013】
[2]上記[1]に記載のポリイソシアネート中のアロファネート基/イソシアヌレート基のモル比が50/50〜20/80であることを特徴とするポリイソシアネート。
【0014】
[3]上記[1]又は[2]に記載のポリイソシアネート中のウレトジオン体量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定におけるピーク面積として5%以下であり、かつ25℃における粘度が500mPa・s以下であるポリイソシアネート。
【0015】
[4]アロファネート・イソシアヌレート化触媒として4級アンモニウム塩の存在下、ヘキサメチレンジイソシアネートと炭素数1〜3のモノアルコールとを反応させることを特徴とするポリイソシアネートの製造方法。
【0016】
[5]上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリイソシアネートとポリオールを含む2液型自動車塗料用組成物。
【0017】
上記[1]で規定しているポリイソシアネートは、アロファネート・イソシアヌレート化触媒として4級アンモニウム塩の存在下、HDIと炭素数1〜3のモノアルコールとを反応させることによって得ることができる。このポリイソシアネートは、複雑なアロファネート・イソシアヌレート化反応を経て生成し、一部高分子化合物の生成、アロファネート基、イソシアヌレート基以外の結合基をもつもの、例えばウレトジオン基等が生成する場合もある。このような反応が複合的に起こることから、各個別の結合基の構造を示すことはできるものの、得られる重合生成物全体の構造は非常に複雑となるため、それらを構造式で表すことは到底できないのが現状である。すなわち、上記[1]で規定するポリイソシアネートは、その構造により直接特定することができず、ポリイソシアネートを得るためのプロセスによって初めて特定することが可能となるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリイソシアネート組成物は、低粘度ながら化学的、熱的安定性を保持しつつ、高いイソシアネート含有量を確保し、機械物性、基材密着性、耐候性に優れたポリイソシアネート組成物およびこれを硬化剤とした塗料組成物を提供することができる。
【0019】
また、低粘度という特徴から中塗りや下地といった下層塗膜への浸透性を付与し、複層塗膜としての物性向上が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明について詳しく説明する。
【0021】
本発明のポリイソシアネートは、アロファネート化及びイソシアヌレート化を促進する触媒(以下、アロファネート・イソシアヌレート化触媒と言う)として4級アンモニウム塩の存在下、HDIと炭素数1〜3のモノアルコールとを反応させて得られるものである。
【0022】
本発明のポリイソシアネート組成物に用いることのできる脂肪族ジイソシアネートモノマー(以下、単に脂肪族ジイソシアネートとも言う)とは、その構造中にベンゼン環を含まないジイソシアネート化合物である。脂肪族ジイソシアネートとしては、HDI、テトラメチレンジイソシアネート、2−メチル−ペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチル−ペンタン−1,5−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリオキシエチレンジイソシアネート等を挙げることができる。なかでも、耐候性、工業的入手の容易さから、HDIが好ましい。脂肪族ジイソシアネートは、単独で使用または併用してもよく、イソホロンジイソシアネートやノルボルネンジイソシアネートに代表される脂環族ジイソシアネートと併用してもよい。
【0023】
本発明のポリイソシアネート組成物に用いることのできるアルコールとは、炭素数1〜3のモノアルコールであるメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールが挙げられる。上記アルコールは単独で使用しても併用しても良い。この中で、イソシアネート含有量を高くする上で、メタノール、エタノールがより好ましい。炭素数4以上のモノアルコールは、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、イソアミルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3,3,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1−トリデカノール、2−トリデカノール、2−オクチルドデカノール、ペンタデカノール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、トリメチルシクロヘキサノール等が挙げられるが、これらを変性剤として用いた場合、イソシアネート含有量が低くなり、これを用いたポリイソシアネートを硬化剤としたウレタン塗膜中のウレタン結合の量が減少し、機械物性の低下が懸念される。
【0024】
本発明のポリイソシアネート組成物の構成成分の1つである、イソシアヌレート基とは、ジイソシアネートモノマー同士が環化重合したもので、次式で示される。これは3量化または5量化、多量化したイソシアヌレート基を有するポリイソシアネートとなる。
【0025】
【化1】
【0026】
[式中Rは、ヘキサメチレン基を表す]。
【0027】
また、本発明のポリイソシアネート組成物のもう1つの構成成分であるアロファネート基とは、上記モノアルコールのヒドロキシル基と脂肪族ジイソシアネートのイソシアネート基とが反応しウレタン結合を形成した後、ウレタン基にさらに別のイソシアネート基が反応して得られるもので、次式に示される。
【0028】
【化2】
【0029】
[式中Rはヘキサメチレン基を表す。R’は炭素数1〜3のアルキル基を表す]。
【0030】
また、本発明のポリイソシアネート組成物中に含有するイソシアヌレート基とアロファネート基のモル比は、イソシアヌレート基/アロファネート基を50/50〜80/20の範囲で得ることができる。イソシアヌレート基のモル比が下限値未満の場合には、塗膜物性や耐候性が低下する恐れがある。また、上限値を超える場合には、ポリイソシアネートの粘度が増加する恐れがある。
【0031】
本発明のポリイソシアネート組成物に記載されているウレトジオン基とは、イソシアネート基が直鎖状に重合したもので、次式で示される。本発明のウレトジオン体はジイソシアネートモノマー2分子からなる、ウレトジオン基を有するジイソシアネート2量体を指す。
【0032】
【化3】
【0033】
[式中Rはヘキサメチレン基を表す]。
【0034】
本発明のポリイソシアネート組成物は含有するウレトジオン体がポリイソシアネート全組成中の5%以下で得ることができる。5%以下であれば、塗膜の熱安定性や耐候性を確保することができ、ウレトジオン体の量が5%を越える場合には、塗膜の熱安定性や耐候性が悪化する恐れがある。
【0035】
本発明のポリイソシアネート組成物の25℃における粘度は、500mPa・s以下が好ましく、450mPa・sがより好ましい。500mPa・sを超えると、使用した塗料の粘度が上昇し、ハンドリングが悪くなる恐れがある。
【0036】
次に、ポリイソシアネート組成物の具体的な製造方法について説明する。
【0037】
第1工程では、有機ジイソシアネートとモノアルコールを、水酸基に対してイソシアネート基が過剰になる量を仕込んで、有機溶剤の存在下または非存在下、20〜60℃でウレタン化反応させてイソシアネート基末端プレポリマーIを製造する。ここでウレタン化反応の目安としては、中和滴定法によるイソシアネート基含有量と屈折率上昇値により完結の有無を判断する。
【0038】
第2工程では、イソシアネート基末端プレポリマーIにアロファネート・イソシアヌレート化触媒を仕込み、目的とするイソシアネート基含有量、及び分子量になるまで、50〜150℃にてイソシアヌレート化・アロファネート化を行ってイソシアネート基末端プレポリマーIIを製造する。
【0039】
第3工程では、イソシアネート基末端プレポリマーIIに反応停止剤を添加することによって、反応の停止を行う。
【0040】
これら第1工程〜第3工程においては、窒素ガス、若しくは、乾燥空気気流下で反応を進行させる。
【0041】
第4工程では、イソシアネート基末端プレポリマーIIを薄膜蒸留又は溶剤抽出によって、遊離の有機ジイソシアネートの含有量を1質量%未満になるまで除去する。
【0042】
ここで、第1工程における「イソシアネート基が過剰になる量」とは、原料仕込みの際、有機ジイソシアネートのイソシアネート基とモノオールの水酸基とのモル比が、R=イソシアネート基/水酸基で20〜75になるように仕込むことが好ましく、R=15〜50になるように仕込むことがさらに好ましい。下限未満の場合には、目的物よりも分子量の高いポリイソシアネート組成物の生成量が多くなり、粘度の上昇を招く恐れがある。上限を超える場合には、ポリイソシアネート組成物のアロファネート体が少なくなることによる粘度の上昇及び製品収率が下がり、生産性の低下を招く恐れがある。
【0043】
また、本発明のウレタン化反応の反応温度は、20〜70℃が好ましく、30〜60℃がさらに好ましい。尚、ウレタン化反応の際、公知のウレタン化触媒を用いることができる。具体的には、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機金属化合物や、トリエチレンジアミンやトリエチルアミン等の有機アミンやその塩を選択して用いる。これらの触媒は、単独または2種以上併用することができる。
【0044】
ウレタン化反応の反応時間は、触媒の有無、種類、および温度により異なるが、一般には10時間以内、好ましくは1〜5時間で十分である。
【0045】
第2工程におけるアロファネート・イソシアヌレート化触媒としては下記に示すアロファネート・イソシアヌレート化触媒が挙げられる。
【0046】
アロファネート・イソシアヌレート化触媒としては、一般に塩基性を有するものが好ましく、例えばテトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、オクチルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム等のアルキルアンモニウムの酢酸、カプリン酸等といったカルボン酸やアルキル炭酸等の有機弱酸塩、酢酸、カプロン酸、オクチル酸、ミリスチン酸等のアルキルカルボン酸の例えば錫、亜鉛、鉛,ビスマス等の金属塩等が挙げられる。
【0047】
これらの中でHDIとの溶解性やアロファネート、イソシアヌレート反応活性といった点からアルキルアンモニウムの有機弱酸塩が好ましい。
【0048】
アロファネート・イソシアヌレート化触媒の使用量は、有機ジイソシアネートと、モノアルコールとの合計質量に対して0.001〜1.0質量%が好ましく、0.005〜0.1質量%がより好ましい。
【0049】
下限未満の場合には、アロファネート化反応とイソシアヌレート化反応が十分に進行せず、ポリイソシアネート組成物の前駆体であるウレタン基含有ポリイソシアネートの生成量が多くなり、平均官能基数の低下に伴う塗膜物性の低下、及び生産性や収率の低下を招く恐れがある。また、上限値を超える場合には、目的物よりも分子量の高いポリイソシアネート組成物の生成量が多くなり、粘度の上昇、及び反応性制御の低下を招く恐れがある。
【0050】
また、アロファネート化反応、及びイソシアヌレート化反応の反応温度は50〜150℃が好ましく、60〜100℃がさらに好ましい。
【0051】
また、得られるポリイソシアネート組成物中に含有するアロファネート基とイソシアヌレート基のモル比は、反応時間を適宜に調整することでイソシアヌレート基/アロファネート基を50/50〜80/20の範囲にすることが可能である。イソシアヌレート基のモル比が下限値未満の場合には、機械物性や耐候性が低下する恐れがある。また、上限値を超える場合には、ポリイソシアネートの粘度の上昇を招く恐れがある。
【0052】
また、ポリイソシアネート組成物の製造においては、有機溶媒等を含まずに反応を行う方法や有機溶媒の存在下で反応を行う方法が適宜選ばれる。
【0053】
有機溶媒の存在下で反応を行う場合には、反応に影響を与えない有機溶媒を用いることができる。有機溶媒の具体例としては、オクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル類、ジオキサン等のエーテル類、ヨウ化メチレン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホニルアミド等の極性非プロトン溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
反応で使用した有機溶媒は、第4工程における遊離の有機ジイソシアネートの除去時に同時に除去される。
【0055】
第3工程におけるに反応停止剤としては、触媒の活性を失活させる作用があるものであり、具体的には、リン酸、塩酸等の無機酸、スルホン酸基、スルファミン酸基等を有する有機酸およびこれらのエステル類、アシルハライド等公知の化合物が使用される。これらの反応停止剤は、単独または2種以上を併用することができる。尚、添加時期は、反応終了後、速やかな添加が好ましい。
【0056】
また、反応停止剤の添加量としては、反応停止剤や使用した触媒の種類によって異なるが、触媒の0.5〜10当量となるのが好ましく、0.8〜5.0当量が特に好ましい。反応停止剤が少ない場合には、得られるポリイソシアネート組成物の貯蔵安定性が低下しやすく、多すぎる場合はポリイソシアネート組成物が着色する場合がある。
【0057】
第4工程の精製工程では、反応混合物中に存在している遊離の未反応の有機ジイソシアネートを、例えば、10〜100Paの高真空下、120〜150℃で薄膜蒸留による除去法や有機溶剤による抽出法により、遊離の未反応の有機ジイソシアネート残留含有率を1.0質量%以下にする。尚、有機ジイソシアネートの残留含有率が上限値を超える場合は、臭気の発生や貯蔵安定性の低下を招く恐れがある。
【0058】
精製して得られたポリイソシアネート組成物は、ポットライフの延長や塗料組成物の一液化を目的として、公知のブロック剤を用いてブロックイソシアネートとすることも可能である。これにより、ブロック化されたポリイソシアネートは、常温時は不活性であるが、加熱することでブロック剤が解離し、再びイソシアネート基が活性化することで、活性水素基と反応する潜在的な機能を付加することができる。
【0059】
本発明に用いることができるブロック剤としては、活性水素を分子内に1個有する化合物であり、例えば、アルコール系、アルキルフェノール系、フェノール系、活性メチレン、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系、イミド系、ピラゾール系化合物等がある。
【0060】
このようにして得られたポリイソシアネート組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定(以下GPC測定もしくは単にGPCという)から得られた数平均分子量より求められる平均官能基数が2.0〜5.0の範囲である。下限未満の場合には、架橋密度が低下し耐溶剤性や塗膜物性が低下する恐れがある。また、上限値を超える場合にはポリイソシアネートの粘度の上昇を招く恐れがある。
【0061】
ポリイソシアネート組成物の数平均分子量は、500〜3000が好ましく、500〜2500がさらに好ましく、500〜2000が最も好ましい。下限未満の場合には密着性が低下する恐れがあり、上限値を超える場合にはポリイソシアネートの粘度の上昇を招く恐れがある。
【0062】
また、一連の反応で得られたポリイソシアネート組成物は、ポリオールを配合することによって、本発明の塗料組成物を得ることができる。
【0063】
ここで、本発明の塗料組成物に使用されるポリオールとしては、特に限定されるものではないが、イソシアネート基との反応基として活性水素基を含有する化合物であり、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、アクリルポリオール、シリコーンポリオール、ヒマシ油系ポリオール、フッ素系ポリオール、2種類以上のポリオールのエステル交換物、及びポリイソシアネートとウレタン化反応した水酸基末端プレポリマー等が好適に用いられ、これらは1種類又は2種類以上の混合物として使用することもできる。
【0064】
<ポリエステルポリオール>
ポリエステルポリオールの具体例としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、グルタコン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、α−ハイドロムコン酸、β−ハイドロムコン酸、α−ブチル−α−エチルグルタル酸、α,β−ジエチルサクシン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸またはこれらの無水物等の1種類以上と、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物、ビス(β−ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の分子量500以下の低分子ポリオール類の1種類以上との縮重合反応から得られるものを挙げることができる。また、ε−カプロラクトン、アルキル置換ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、アルキル置換δ−バレロラクトン等の環状エステル(いわゆるラクトン)モノマーの開環重合から得られるラクトン系ポリエステルポリオール等を挙げることができる。更に、低分子ポリオールの一部をヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、モノエタノールアミン等の低分子ポリアミンや低分子アミノアルコールに代えて得られるポリエステル−アミドポリオールを使用することもできる。
【0065】
<ポリエーテルポリオール>
また、ポリエーテルポリオールの具体例としては、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールA、ビス(β−ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール類、またはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、トルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、キシリレンジアミン等の低分子ポリアミン類等のような活性水素基を2個以上、好ましくは2〜3個有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のようなアルキレンオキサイド類を付加重合させることによって得られるポリエーテルポリオール、或いはメチルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル類、フェニルグリシジルエーテル等のアリールグリシジルエーテル類、テトラヒドロフラン等の環状エーテルモノマーを開環重合することで得られるポリエーテルポリオールを挙げることができる。
【0066】
<ポリカーボネートポリオール>
また、ポリカーボネートポリオールの具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物、ビス(β−ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオールの1種類以上と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート類、ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジアントリルカーボネート、ジフェナントリルカーボネート、ジインダニルカーボネート、テトラヒドロナフチルカーボネート等のジアリールカーボネート類との脱アルコール反応や脱フェノール反応から得られるものを挙げることができる。
【0067】
また、ポリカーボネートポリオールとポリエステルポリオールと低分子ポリオールのエステル交換反応により得られたポリオールも好適に用いることができる。
【0068】
<ポリオレフィンポリオール>
ポリオレフィンポリオールの具体例としては、水酸基を2個以上有するポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレン等を挙げることができる。
【0069】
<アクリルポリオール>
アクリルポリオールとしては、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル〔以下(メタ)アクリル酸エステルという〕と、反応点となりうる少なくとも分子内に1個以上の水酸基を有するアクリル酸ヒドロキシ化合物及び/又はメタクリル酸ヒドロキシ化合物〔以下(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物という〕と、重合開始剤とを熱エネルギーや紫外線または電子線などの光エネルギー等を使用し、アクリルモノマーを共重合したものを挙げることができる。
【0070】
<(メタ)アクリル酸エステル>
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、炭素数1〜20のアルキルエステルを挙げることができる。このような(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシルのような(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリル酸の脂環属アルコールとのエステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジルのような(メタ)アクリル酸アリールエステルを挙げることができる。このような(メタ)アクリル酸エステルは単独または2種類以上組み合わせたものを挙げることができる。
【0071】
<(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物>
(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物の具体例としては、ポリイソシアネートとの反応点となりうる少なくとも分子内に1個以上の水酸基を有しており、具体的には、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどのアクリル酸ヒドロキシ化合物が挙げられる。また、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレートなどのメタクリル酸ヒドロキシ化合物が挙げられる。これら(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物は、単独または2種以上を組み合わせたものを挙げることができる。
【0072】
<シリコーンポリオール>
シリコーンポリオールの具体例としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを重合したビニル基含有シリコーン化合物、及び分子中に少なくとも1個の末端水酸基を有する、α,ω−ジヒドロキシポリジメチルシロキサン、α,ω−ジヒドロキシポリジフェニルシロキサン等のポリシロキサンを挙げることができる。
【0073】
<ヒマシ油系ポリオール>
ヒマシ油系ポリオールの具体例としては、ヒマシ油脂肪酸とポリオールとの反応により得られる線状または分岐状ポリエステルポリオールが挙げられる。また、脱水ヒマシ油、一部分を脱水した部分脱水ヒマシ油、水素を付加させた水添ヒマシ油も使用することができる。
【0074】
<フッ素系ポリオール>
フッ素系ポリオールの具体例としては、含フッ素モノマーとヒドロキシ基を有するモノマーとを必須成分として共重合反応により得られる線状または分岐状のポリオールである。ここで、含フッ素モノマーとしては、フルオロオレフィンであることが好ましく、例えば、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリクロロフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロメチルトリフルオロエチレンが挙げられる。また、ヒドロキシル基を有するモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル、ヒドロキシアルキルクロトン酸ビニル等のヒドロキシル基含有カルボン酸ビニル又はアリルエステル等のヒドロキシル基を有するモノマーが挙げられる。
【0075】
また、ポリオールは、1分子中の活性水素基数(平均官能基数)が1.9〜6.0であることが好ましい。活性水素基数が下限値未満の場合には、塗膜物性が低下する恐れがある。また、上限値を超える場合には、密着性が低下する恐れがある。
【0076】
また、ポリオールの数平均分子量は、750〜50000の範囲にあることが好ましい。下限値未満の場合には、密着性低下の恐れがあり、上限値を超えると低極性有機溶剤に対する溶解性の低下や密着性低下を招く恐れがある。
【0077】
また、二液型塗料組成物のポリイソシアネート組成物と、ポリオールとの配合の割合は、特に限定するものではないが、イソシアネート組成物中のイソシアネート基とポリオール中の水酸基のモル比が、R=イソシアネート基/水酸基で0.5〜2.5となるように配合することが好ましい。下限値未満の場合には水酸基が過剰になり、密着性の低下を招く恐れがある。また、架橋密度が低下し耐久性の低下や塗膜の機械的強度が低下する恐れがある。上限値を超える場合にはイソシアネート基が過剰になり、空気中の水分と反応し、塗膜の膨れやこれに伴う密着性の低下を生じる恐れがある。
【0078】
また、希釈溶剤として使用する有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸セロソルブ等のエステル類、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット、ナフサ等の炭化水素類等からなる群から、目的及び用途に応じて適宜選択して使用することができる。これらの溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
また、二液型塗料組成物は、ポットライフ、硬化条件、及び作業条件等を考慮し、適宜に公知のウレタン化触媒を用いることができる。具体的には、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機金属化合物や、トリエチレンジアミンやトリエチルアミン等の有機アミンやその塩を選択して用いる。これらの触媒は、単独または2種以上併用することができる。
【0080】
また、二液型塗料組成物の硬化条件としては、特に限定されるものではないが、硬化温度が−5〜120℃、湿度が10〜95%RH、養生時間が0.5〜168時間であることが好ましい。
【0081】
本発明によって得られた二液型塗料組成物には、必要に応じて、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、溶剤、難燃剤、加水分解抑制剤、潤滑剤、可塑剤、充填材、帯電防止剤、分散剤、触媒、貯蔵安定剤、界面活性剤、レベリング剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0082】
また、本発明によって得られた二液型塗料組成物は、スプレー、刷毛、浸漬、コーター等の公知の方法により被着体の表面上に塗布され、塗膜を形成する。
【0083】
ここで被着体は特に限定されるものではなく、ステンレス、リン酸処理鋼、亜鉛鋼、鉄、銅、アルミニウム、真鍮、ガラス、スレート、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート−ABS樹脂、6−ナイロン樹脂、6,6−ナイロン樹脂、MXD6ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリアセタール樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、NBR樹脂、クロロプレン樹脂、SBR樹脂、SEBS樹脂などの素材で成形された被着体、コロナ放電処理やその他表面処理を施されたポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、または前記被着体表面に中間形成となりうる塗膜層が形成された被着体を用いることができる。
【0084】
被着体表層に形成される塗膜の膜厚は、リコート性や耐久性に優れるため、被着体に少なくとも10μmの膜厚を形成すれば良い。膜厚が10μm未満である場合には耐久性が低下し、衝撃により塗膜の破れ等を生じる恐れがある。
【0085】
本発明のポリイソシアネート組成物は、非常に低粘度であるため、二液型塗料組成物とした場合、高固形分化が可能となり、有機溶剤の削減ができる。
【0086】
以上のように、本発明のポリイソシアネート組成物、及び二液型塗料組成物は自動車塗料用途へ好適に用いられる。
【実施例】
【0087】
以下に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
<ポリイソシアネート組成物の合成>
<実施例1>
攪拌機、温度計、冷却管、および窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネート(東ソー社製、NCO含量:49.9質量%、以下HDIという)990g、およびメタノール10gを仕込み、これらを撹拌しながら40℃に加熱し、1時間ウレタン化反応を行った。その後60℃に昇温し,この反応液中にイソシアヌレート化触媒であるドデシルトリメチルアンモニウムメチル炭酸塩(2−エチルヘキサノール10%希釈)0.85gを添加し、70℃にて所定の反応転化率に達するまで反応させた後、反応停止剤である酸性リン酸エステル(JP−508、城北化学工業社製)0.11gを添加し、50℃で1時間停止反応を行った。ここで反応生成物から、薄膜蒸留(条件:140℃,0.04kPa)により過剰のHDIを除去し、NCO含量21.9質量%、粘度(25℃)415mPa・s、遊離のHDI含量0.2質量%の変性ポリイソシアネートP−1を250g得た。変性ポリイソシアネートP−1をNMR測定したところ、イソシアヌレート基とアロファネート基のモル比率は59/41であった。またGPC測定したところ、全成分中のウレトジオン体は1.8%であった。
【0089】
<NMR:アロファネート基・イソシアヌレート基・ウレタン基含有量の測定>
(1)測定装置:ECX400M(日本電子社製、1H−NMR)
(2)測定温度:23℃
(3)試料濃度:0.1g/1ml
(4)積算回数:16
(5)緩和時間:5秒
(6)溶剤:重水素ジメチルスルホキシド
(7)化学シフト基準:重水素ジメチルスルホキシド中のメチル基の水素原子シグナル(2.5ppm)
(8)評価方法:8.5ppm付近のアロファネート基の窒素原子に結合した水素原子のシグナルと、3.7ppm付近のヌレート基の窒素原子に隣接したメチレン基の水素原子のシグナルの面積比から結合基の含有量を測定
【0090】
<ウレトジオン体濃度の測定>
数平均分子量測定と同様なGPC測定を行い、ジイソシアネートの2倍の分子量に相当するピーク面積%をウレトジオン体量とした。
【0091】
<GPC:分子量の測定>
(1)測定器:HLC−8220(東ソー社製)
(2)カラム:TSKgel(東ソー社製)
・G3000H−XL
・G2500H−XL
・G2000H−XL、G1000H−XL
(3)キャリア:THF(テトラヒドロフラン)
(4)検出器:RI(屈折率)検出器
(5)温度:40℃
(6)流速:1.000ml/min
(7)検量線:標準ポリスチレン(東ソー社製)
・F−80(分子量:7.06×105、分子量分布:1.05)
・F−20(分子量:1.90×105、分子量分布:1.05)
・F−10(分子量:9.64×104、分子量分布:1.01)
・F−2(分子量:1.81×104、分子量分布:1.01)
・F−1(分子量:1.02×104、分子量分布:1.02)
・A−5000(分子量:5.97×103、分子量分布:1.02)
・A−2500(分子量:2.63×103、分子量分布:1.05)
・A−500(分子量:5.0×102、分子量分布:1.14)
(8)サンプル溶液濃度:0.5%THF溶液
【0092】
<実施例2〜6、参考例
表1に示す条件で合成を行い,実施例1と同様な手順にて各変性ポリイソシアネートを得た。
【0093】
<比較例1>
攪拌機、温度計、冷却管、および窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、HDI996g、およびメタノール4gを仕込み、これらを撹拌しながら50℃に加熱し、イソシアヌレート及びウレトジオン化触媒であるトリオクチルホスフィン1.4gを添加し、50℃にて所定の反応転化率に達するまで反応させた時点で、反応停止剤であるp−メンタンハイドロパーオキサイド2.0gを添加し、50℃で2時間停止反応を行った。この反応生成物から、薄膜蒸留(条件:125℃,0.04kPa)により過剰のHDIを除去し、NCO含量22.0質量%、粘度(25℃)100mPa・s、遊離のHDI含量0.3質量%の変性ポリイソシアネートH−1を250g得た。変性ポリイソシアネートH−1をNMR測定したところ、イソシアヌレート基とアロファネート基のモル比率は95/5であった。またGPC測定したところ、全成分中のウレトジオン体は40%であった。
【0094】
<比較例2>
攪拌機、温度計、冷却管、および窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、HDI970g、およびメタノール30gを仕込み、これらを撹拌しながら85℃に加熱し、3時間ウレタン化反応を行った。その後、この反応液中にアロファネート化触媒であるオクチル酸ジルコニウム0.1gを添加し、110℃にて所定の反応転化率に達するまで反応させた後、反応停止剤である酸性リン酸エステル(JP−508、城北化学工業社製)0.1gを添加し、50℃で1時間停止反応を行った。この反応生成物から、薄膜蒸留(条件:140℃,0.04kPa)により過剰のHDIを除去し、NCO含量20.1質量%、粘度(25℃)100mPa・s、遊離のHDI含量0.1質量%の変性ポリイソシアネートH−2を300g得た。変性ポリイソシアネートH−2をNMR測定したところ、イソシアヌレート基とアロファネート基のモル比率は2/98であった。またGPC測定したところ、全成分中のウレトジオン体は1.0%であった。
【0095】
<比較例3>
攪拌機、温度計、冷却管、および窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、HDI997g、1,3−ブタンジオール2g、およびフェノール1gを仕込み、さらに、イソシアヌレート化触媒であるドデシルトリメチルアンモニウムメチル炭酸塩(2−エチルヘキサノール10%希釈)0.85gを仕込み、50℃で1.5時間反応させた。その後、直ちに65℃に昇温して1時間反応させ、所定の反応転化率に達するまで反応させた時点で反応停止剤である酸性リン酸エステル(JP−508、城北化学工業社製)0.11gを添加し、1時間停止反応を行った。この反応生成物から、薄膜蒸留(条件:130℃,0.04kPa)により過剰のHDIを除去し、NCO含量23.2質量%、粘度(25℃)1,180mPa・s、遊離のHDI含量0.2質量%の変性ポリイソシアネートH−3を130g得た。変性ポリイソシアネートH−3について赤外吸収分析(IR)をしたところ、イソシアヌレート基の強い吸収が確認されるとともに、アロファネート基の弱い吸収も確認された。変性ポリイソシアネートH―3について、NMR測定したところ、イソシアヌレート基とアロファネート基のモル比率は90/10であった。またGPC測定したところ、全成分中のウレトジオン体は1.5%であった。
【0096】
<比較例4>
攪拌機、温度計、冷却管、および窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、HDI995g、および1,3−ブタンジオール5gを仕込み、これらを撹拌しながら60℃に加熱し、1時間ウレタン化反応を行った。この反応液中にイソシアヌレート化触媒であるドデシルトリメチルアンモニウムメチル炭酸塩(2−エチルヘキサノール10%希釈)0.85gを添加し、70℃にて所定の反応転化率まで反応させた後、反応停止剤である酸性リン酸エステル(JP−508、城北化学工業社製)0.11gを添加し、50℃で1時間停止反応を行った。この反応生成物から、薄膜蒸留(条件:140℃,0.04kPa)により過剰のHDIを除去し、NCO含量22.3質量%、粘度(25℃)1500mPa・s、遊離のHDI含量0.2質量%の変性ポリイソシアネートH−4を250g得た。変性ポリイソシアネートH−4をNMR測定したところ、イソシアヌレート基とアロファネート基のモル比率は60/40であった。またGPC測定したところ、全成分中のウレトジオン体は1.1%であった。
【0097】
<比較例5>
攪拌機、温度計、冷却管、および窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、HDI990g、およびブタノール10gを仕込み、これらを撹拌しながら40℃に加熱し、1時間ウレタン化反応を行った。その後60℃に昇温し,この反応液中にイソシアヌレート化触媒であるドデシルトリメチルアンモニウムメチル炭酸塩(2−エチルヘキサノール10%希釈)0.85gを添加し、70℃にて所定の反応転化率まで反応させた後、反応停止剤である酸性リン酸エステル(JP−508、城北化学工業社製)0.11gを添加し、50℃で1時間停止反応を行った。この反応生成物から、薄膜蒸留(条件:140℃,0.04kPa)により過剰のHDIを除去し、NCO含量22.1質量%、粘度(25℃)350mPa・s、遊離のHDI含量0.2質量%の変性ポリイソシアネートH−5を170g得た。変性ポリイソシアネートH−5をNMR測定したところ、イソシアヌレート基とアロファネート基のモル比率は37/63であった。またGPC測定したところ、全成分中のウレトジオン体は1.6%であった。
【0098】
<比較例6,7>については表1に示す条件で合成を行い,比較例5と同様な手順にて各変性ポリイソシアネートを得た。
【0099】
【表1】
【0100】
<二液塗料組成物の調製>
配合量は表2に示すように、ポリオールと、得られたポリイソシアネート組成物とをR(イソシアネート基/水酸基のモル比)=1になるように配合し、更に顔料として酸化チタン(商品名:CR−90、結晶構造:ルチル型、石原産業社製)、及び有機溶剤で固形分が50%になるように配合し、二液塗料組成物(S−1〜S−14)を調製した(配合量の単位はg)。ここで、ポリオールには、アクリルポリオール(商品名:アクリディックA−801、水酸基価:50mgKOH/g、固形分:50%、DIC社製)を使用し、有機溶剤には、酢酸ブチルを使用し調製した。
【0101】
【表2】
【0102】
<塗装方法及び試験片の調製>
調製した二液塗料組成物を、それぞれメチルエチルケトンで脱脂した鋼板(JIS G3141、商品名:SPCC−SB、処理方法:PF−1077、パルテック社製)アプリケーターを用い、任意の膜厚になるように塗布した。その後、温度60℃の乾燥機中で1時間加熱処理を行い、続いて温度23℃、相対湿度50%の環境下で7日間養生し、コーティング塗膜S−1〜S−14を得た。
【0103】
<耐候性>
表2に示す配合で得られた塗料から作成したコーティング塗膜を下記の条件で耐候性の加速試験を行った。
・試験装置:QUV(Q−LAB社製)
・ランプ:EL−313
・照度:0.59w/m2
・λmax:313nm
・1サイクル:12時間〔UV照射:8時間(温度70℃)、結露:4時間(温度50℃)〕
・試験時間:864時間
<評価基準>
JIS Z8741に準じて、ヘイズ−グロスリフレクトメーターで60°における光沢度を測定し、光沢保持率を算出した。光沢保持率は次式により求めた
光沢保持率(%)=100×耐候試験後光沢度÷初期光沢度 (式)
・50%以上:(評価:A)
・45%以上〜49%未満:(評価:B)
・40%未満:(評価:C)
【0104】
<浸透性評価>
下地用プライマーとして、水性アクリルポリオール(製品名:バーノックWE−303、DIC社製)をアプリケーターを用いてPP板状に塗布し、常温にて40分予備乾燥後、60℃の乾燥機中で20分加熱処理を行った。さらに表2で調製した二液塗料組成物をプライマーの上からアプリケーターを用いて塗布し、常温にて15分予備乾燥後、90℃の乾燥機中で30分加熱処理を行った。その後PP板から塗膜を剥がし、プライマー側の塗面をIRにて測定を行った。
<評価基準>
測定されたIRスペクトルの波数700のピーク吸光度を基準に、波数2270のピークの吸光度を測定し、吸光度比として次式により算出した。
(波数2270のピークの吸光度/波数700のピークの吸光度)×1000 (式)
1.0以上:A
1.0未満:B
【0105】
<密着性評価>
表2で調製した二液塗料組成物をアクリル板にアプリケーターを用い、任意の膜厚になるように塗布した。その後、温度23℃、相対湿度50%の環境下で一時間養生し、80℃の条件で10時間加熱処理を行い、コーティング塗膜を得た。
<評価基準>
得られた塗膜をJIS K5600−5−6に準じて、クロスカット法による付着性試験を実施した。
分類0〜1:A
分類2〜5:B
【0106】
【表3】