特許第6840970号(P6840970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840970
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】回転速度検出装置付きターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/487 20060101AFI20210301BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20210301BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20210301BHJP
   F01D 25/24 20060101ALI20210301BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   G01P3/487 Z
   F01D25/00 V
   F01D25/00 L
   F02C7/00 C
   F02C7/00 A
   F01D25/24 E
   F02B39/00 C
   F02B39/00 R
   F02B39/00 U
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-184004(P2016-184004)
(22)【出願日】2016年9月21日
(65)【公開番号】特開2018-48883(P2018-48883A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099597
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 賢二
(74)【代理人】
【識別番号】100124235
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100124246
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 和光
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】鬼本 隆
【審査官】 岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−219455(JP,A)
【文献】 特表2008−536038(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/025754(WO,A1)
【文献】 特開平10−206447(JP,A)
【文献】 特開昭62−194466(JP,A)
【文献】 実開昭59−60557(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 3/00− 3/80
G01D 5/00− 5/252
G01D 5/39− 5/62
F01D25/00−25/36
F02B39/00−39/16
F02C 7/00− 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気により回転駆動されるタービンホイール、前記タービンホイールの回転により回転駆動されるコンプレッサホイール、並びに前記タービンホイール及び前記コンプレッサホイールと一体に回転するように固定されたシャフトを有する回転体と、
前記回転体を収容する収容空間が形成された金属製のハウジングと、
前記回転体の回転速度を検出する回転速度検出装置と、を備え、
前記回転速度検出装置は、前記シャフトに固定された強磁性体と、該強磁性体の磁界を検出する磁界検出素子と、を有し、
前記磁界検出素子は、前記ハウジングに形成された収容孔に収容されており、
前記収容孔は、前記ハウジングの外面から内面に向かって形成された非貫通孔であり、
前記収容孔は、前記収容空間側の端部が前記ハウジングの一部であるハウジング蓋部により閉塞されている、
回転速度検出装置付きターボチャージャ(ただし、磁界検出素子の感磁方向が回転体の径方向に直交するように配置された回転速度検出装置付きターボチャージャは除く)
【請求項2】
排気により回転駆動されるタービンホイール、前記タービンホイールの回転により回転駆動されるコンプレッサホイール、並びに前記タービンホイール及び前記コンプレッサホイールと一体に回転するように固定されたシャフトを有する回転体と、
前記回転体を収容する収容空間が形成された金属製のハウジングと、
前記回転体の回転速度を検出する回転速度検出装置と、を備え、
前記回転速度検出装置は、前記シャフトに固定された強磁性体と、該強磁性体の磁界を検出する磁界検出素子と、を有し、
前記磁界検出素子は、前記ハウジングに形成された収容孔に収容されており、
前記収容孔は、前記収容空間側の端部が樹脂からなる栓部材により閉塞され
前記強磁性体と前記磁界検出素子とは、前記シャフトの軸方向と直交する方向に一直線上に配置されている、
回転速度検出装置付きターボチャージャ。
【請求項3】
前記強磁性体は、前記シャフトの両端部のうち一方の先端部に固定されている、
請求項1または2に記載の回転速度検出装置付きターボチャージャ。
【請求項4】
前記強磁性体は、前記タービンホイール又は前記コンプレッサホイールに前記シャフトを固定する固定部材である、
請求項に記載の回転速度検出装置付きターボチャージャ。
【請求項5】
前記磁界検出素子は、巨大磁気抵抗素子又はトンネル磁気抵抗素子である、
請求項1乃至の何れか一項に記載の回転速度検出装置付きターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッサホイールの回転速度を検出する回転速度検出装置付きターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されたターボチャージャの回転速度を検出する回転速度検出装置として、永久磁石と検知コイルとを備える回転検知機構を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、回転速度検出装置として、電磁ピックアップを用いたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の回転速度検出装置では、コンプレッサホイールを回転軸に固定する六角ナットが永久磁石化され、エナメル線を巻回して形成された検知コイルが、回転軸と直交する方向に配置されている。そして、六角ナットは、コンプレッサホイールの回転の周方向に分極されている。コンプレッサホイールの回転に伴って磁石化された六角ナットが回転すると、六角ナットから発生している磁界が検知コイルを横切り、検知コイルに電磁誘導による電流が生じる。この電流は正弦波となり、この周波数を計数することでコンプレッサホイールの回転数を検知することができる。
【0004】
また、特許文献2に記載の回転速度検出装置では、コンプレッサの回転翼を固定するナットが回転翼の回転面と平行な平面内に磁界が発生するように磁化され、電磁ピックアップがナットの磁束を検出するように構成されている。ターボチャージャが回転するときに、ナットの磁束を電磁ピックアップで検出することにより、その回転数を検出することができる。ケーシングには貫通孔が形成されており、電磁ピックアップはこの貫通孔に取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−206447号公報
【特許文献2】特開昭62−194466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の回転速度検出装置では、検知コイルがハウジングの外側に設けられている。しかし、このような位置に検知コイルを配置すると、ハウジングの厚みにより、検知コイルと永久磁石との間隔が広がってしまい、特にコンプレッサホイールに高速回転時には、十分な検出感度が得られないおそれがある。
【0007】
また、特許文献2に記載の回転速度検出装置では、電磁ピックアップが貫通孔に配置されているため、電磁ピックアップが吸気通路に吸入される吸気に曝される。このため、電磁ピックアップが吸気の影響を受けて振動し、磁束の検出に悪影響を及ぼしてしまうおそれがある。また、電磁ピックアップがハウジングに貫通して、すなわち、ハウジングの内側に突出して配置されると、コンプレッサホイールの高速回転によってハウジング内に乱流が発生し、コンプレッサホイールの回転に悪影響を及ぼすおそれもある。
【0008】
そこで、本発明は、検出感度が良好であり、かつ、振動が抑制される回転速度検出装置が搭載された回転速度検出装置付きターボチャージャを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、排気により回転駆動されるタービンホイール、前記タービンホイールの回転により回転駆動されるコンプレッサホイール、並びに前記タービンホイール及び前記コンプレッサホイールと一体に回転するように固定されたシャフトを有する回転体と、前記回転体を収容する収容空間が形成された金属製のハウジングと、前記回転体の回転速度を検出する回転速度検出装置と、を備え、前記回転速度検出装置は、前記シャフトに固定された強磁性体と、該強磁性体の磁界を検出する磁界検出素子と、を有し、前記磁界検出素子は、前記ハウジングに形成された収容孔に収容されており、前記収容孔は、前記収容空間側の端部が閉塞されている、回転速度検出装置付きターボチャージャを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、検出感度が良好であり、かつ、振動が抑制される回転速度検出装置が搭載された回転速度検出装置付きターボチャージャが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る回転速度検出装置付きターボチャージャの概略構成図である。
図2図1に示す回転速度検出装置付きターボチャージャの要部拡大図である。
図3】回転速度検出装置の概略構成図である。(a)は、磁気抵抗素子の電気抵抗が大きいときの回転速度検出装置の状態を示す概略図であり、(b)は、磁気抵抗素子の電気抵抗が小さいときの回転速度検出装置の状態を示す概略図である。
図4】本発明の一変形例に係る回転速度検出装置付きターボチャージャの回転速度検出装置の磁界検出素子として用いるトンネル磁気抵抗素子の概略構成図である。
図5】本発明の第2の実施の形態に係る回転速度検出装置付きターボチャージャの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の一実施の形態に係る回転速度検出装置付きターボチャージャの概略構成図である。図2は、図1に示す回転速度検出装置付きターボチャージャの要部拡大図であり、図1に示すA部の拡大図である。図3は、図1に示す回転速度検出装置付きターボチャージャから回転速度検出装置を抜き出して示す概略構成図であり、図3(a)は、磁界検出素子として用いる磁気抵抗素子の電気抵抗が大きいときの回転速度検出装置の状態を示し、図3(b)は、磁界検出素子として用いる磁気抵抗素子の電気抵抗が小さいときの回転速度検出装置の状態を示す。
【0014】
(ターボチャージャの説明)
図1に示すように、回転速度検出装置付きターボチャージャ1(以下、単に「ターボチャージャ1」と記載する。)は、車両の内燃機関(不図示)の吸気通路22に設けられるコンプレッサ2と、内燃機関の排気通路32に設けられるタービン3と、を備えている。
【0015】
コンプレッサ2は、複数のコンプレッサ羽根211を有するコンプレッサホイール21を備えている。コンプレッサ羽根211を含むコンプレッサホイール21は、導電体であるアルミニウム(またはアルミニウム合金)により構成されている。
【0016】
タービン3は、複数のタービン羽根311を有するタービンホイール31を備えている。タービンホイール31は、内燃機関からの排気をタービン羽根311で受けて回転する。
【0017】
コンプレッサホイール21とタービンホイール31とは、後述するシャフト41により連結されており、コンプレッサホイール21が、タービンホイール31の回転により回転駆動されるように構成されている。これにより、ターボチャージャ1では、内燃機関からの排気により回転駆動させたタービンホイール31の回転に伴ってコンプレッサホイール21が回転駆動され、これにより吸気を圧縮して内燃機関へと送り込む。タービンホイール31、コンプレッサホイール21、及びシャフト41は、一体となって回転する。以下、タービンホイール31、コンプレッサホイール21、及びシャフト41が一体化された構成体を回転体4とする。
【0018】
具体的に、タービンホイール31及びコンプレッサホイール21は、シャフト41の両端部において、固定部材により一体に回転するように連結されている。より具体的に、固定部材は、上面視において六角形の形状を有するナット51A,51Cと、環状のワッシャ51B,51Dとを含んで構成されている。ナット51Aは、シャフト41のコンプレッサホイール21側の先端部に形成された雄ねじ部411Aに螺合している。ナット51Cは、シャフト41のタービンホイール31側の先端部に形成された雄ねじ部411Bに螺合している。ワッシャ51D,51Bは、タービンホイール31とナット51Cとの間及びコンプレッサホイール21とナット51Aとの間にそれぞれ配置されている。
【0019】
シャフト41は、ナット51Cが締め付けられることにより、タービンホイール31の底面31a(図示下側の端面)がシャフト41の大径部412に突き当てられて、タービンホイール31と一体に回転するように固定される。また、シャフト41は、ナット51Aが締め付けられることにより、コンプレッサホイール21の底面21a(図示上側の端面)がシャフト41の中径部及び小径部の間に設けられた段差部413に突き当てられて、コンプレッサホイール21と一体に回転するように固定される。
【0020】
このため、ナット51A及びナット51Cの回転速度、すなわち単位時間あたりの回転数は、コンプレッサホイール21及びタービンホイール31の回転速度、すなわち単位時間あたりの回転数とそれぞれ等しい。このため、ナット51A又はナット51Cの回転速度を検出することにより、それぞれ、コンプレッサホイール21又はタービンホイール31の回転速度を検出することができる。つまり、ナット51A又はナット51Cの回転速度を検出することにより、回転体4の回転速度を検出することができる。
【0021】
ターボチャージャ1は、回転体4を収容する収容空間61が形成されたハウジング6をさらに備えている。ハウジング6は、コンプレッサホイール21を収容するコンプレッサ側ハウジング62と、タービンホイール31を収容するタービン側ハウジング63と、コンプレッサ側ハウジング62とタービン側ハウジング63とを連結する軸受ハウジング64とからなる。
【0022】
コンプレッサ2は、コンプレッサ側ハウジング62内に、コンプレッサホイール21を収容して構成されている。タービン3は、タービン側ハウジング63内に、タービンホイール31を収容して構成されている。シャフト41は、軸受ハウジング64に回転可能に支持されている。軸受ハウジング64には、シャフト41の潤滑及び冷却用の潤滑油が供給される油路641が形成されており、油路641に供給される潤滑油による冷却効果により、タービン3側の熱がコンプレッサ2側に伝わることを抑制している。
【0023】
ハウジング6は、アルミニウム等の金属からなる金属製のものである。より具体的に、本実施の形態では、ハウジング6は、導電体であるアルミニウム(またはアルミニウム合金)により構成されている。
【0024】
ハウジング6には、後述する磁界検出素子52を収容する収容孔620が形成されている。また、収容孔620は、ハウジング6の外面から内面に向かって形成された非貫通孔である。本実施の形態では、収容孔620は、コンプレッサ側ハウジング62に形成され、また、コンプレッサ側ハウジング62の外面から内面に向かって形成された非貫通孔である。また、収容孔620は、その底部側に収容された磁界検出素子52が、シャフト41の軸方向において、コンプレッサホイール21側のナット51Aと対応する位置に配置されるように形成されている。ナット51Aと磁界検出素子52とは、シャフト41の軸方向と直交する方向に一直線上に配置されている。
【0025】
(回転速度検出装置の説明)
ターボチャージャ1は、回転体4の回転速度を検出する回転速度検出装置5をさらに備えている。回転速度検出装置5は、シャフト41に固定された強磁性体としてのナット51Aと、ナット51Aから発生する磁界を検出する磁界検出素子52と、磁界検出素子52の出力を基にコンプレッサホイール21の回転速度を検出する図示しない検出回路と、を備えている。
【0026】
ナット51Aは、鉄、コバルト、ニッケル等の金属材で構成され、コンプレッサホイール21にシャフト41を固定するために取り付けられた後に、ナット51Aの側面のうち所定の一側面とこの一側面と反対側の他面とがそれぞれN極とS極となるように強磁性化(以下、「着磁」と記載する。)されている(図3参照)。本実施の形態では、具体的に、ナット51Aは、鉄クロムコバルト磁石(FeCrCo)で構成され、着磁される。この鉄クロムコバルト磁石は、高強度、高キュリー点、熱減磁が少ないという点で利点がある。
【0027】
また、ナット51Aを強磁性体とすることにより、ナット51Aが、コンプレッサホイール21にシャフト41を固定する固定部材としての役割と、磁界検出素子52が検出する磁界を発生させる強磁性体としての役割とを兼ねることができ、部品点数を低減することができる。
【0028】
磁界検出素子52は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の絶縁性樹脂からなる樹脂モールド53により覆われている。磁界検出素子52は、上述した収容孔620にその全体が収容されており、収容孔620の内面が磁性検出素子52を囲んでいる。前述のように、収容孔620は非貫通孔であり、コンプレッサ側ハウジング62のコンプレッサホイール21を収容する収容空間61側には貫通していない。そのため、磁界検出素子52は、コンプレッサ側ハウジング62の一部を挟んで、ナット51Aとシャフト41の径方向に並んでいる。換言すれば、図2に示すように、磁界検出素子52とナット51Aとの間には、コンプレッサ側ハウジング62の内部と収容孔620との連通を遮る、ハウジング6の一部としてのハウジング蓋部621が設けられている。すなわち、収容孔620の収容空間61側の端部はハウジング6の一部であるハウジング蓋部621により閉塞されている。また、樹脂モールド53からは磁界検出素子52と電気的に接続された信号線が延出されており、この信号線が磁界検出素子52の外部に設けられた検出回路に接続されている。なお、検出回路は樹脂モールド53内に設けられていてもよい。
【0029】
検出回路の構成は特に限定するものではないが、検出回路は、例えば、磁界検出素子52の電気抵抗を測定する測定部と、測定部が測定した電気抵抗の変動の周波数を計数することで、ナット51Aの回転の周波数を計数し、コンプレッサホイール21の回転速度を算出する算出部と、を備えて構成される。
【0030】
<巨大磁気抵抗素子の説明>
本実施の形態では、磁界検出素子52としての巨大磁気抵抗素子(GMR:Giant Magneto Resistance)を用いる。巨大磁気抵抗素子は、外部の磁界によって電気抵抗が変化する現象、すなわち、磁気抵抗効果を利用して、外部の磁界の変化を検出する素子である。
【0031】
図3に示すように、磁界検出素子52としての巨大磁気抵抗素子52は、強磁性の性質を有する固定層521及び自由層522と、固定層521と自由層522との間に配置され、固定層521と自由層522とを反強磁性的に結合する非磁性の絶縁障壁層523とを備えている。これら層の材質は上述の性質を満たすものであれば特定の材質に限定されるものではないが、例えば、固定層521には硬磁性体であるコバルト等を、自由層522には軟磁性体であるニッケル鉄合金(NiFe)等を、絶縁障壁層523には非磁性体の銅等をそれぞれ用いることができる。
【0032】
固定層521及び自由層522は、各々の層内に存在する電子のスピンの向きによって、各層全体として所定の方向に磁化されている。なお、図3では、説明の便宜上、固定層521と自由層522とに生じている巨視的な磁化の方向(以下、単に「磁化方向」と記載する。)を、それぞれ矢印で示した。
【0033】
固定層521は、外部の磁界の影響によって磁化方向が変化しないように構成されている。具体的に、図3(a)及び図3(b)に示すように、固定層521は、外部の磁界としての、ナット51Aから発生する磁界の方向によらず、所定の一方向に磁化されている(矢印521a参照)。なお、図3では、ナット51Aから発生する磁界を破線にて模式的に示している。
【0034】
一方、自由層522は、外部の磁界の影響によって磁化方向が変化するように構成されている。具体的に、図3(a)及び図3(b)に示すように、自由層522の磁化方向は、外部の磁界としての、ナット51Aから発生する磁界の向きに依存して変化する。例えば、図3(a)に示すように、ナット51Aから発生する磁界のうち自由層522を通る部分が所定の方向(図示上向き)に延出している状態において、自由層522が上向きに磁化されているとした場合に(矢印522a参照)、ナット51Aが時計回り又は反時計回りに180度回転した状態では、図3(b)に示すように、ナット51Aから発生する磁界のうち自由層522を通る部分は上述の所定の方向と反対の方向(図示下向き)に延出し、これによって自由層522は下向きに磁化される(矢印522b参照)。すなわち、ナット51Aが回転すると、自由層522の磁化方向が変化する。
【0035】
図3(a)に示すような、固定層521の磁化方向と、自由層522の磁化方向が互いに同じ方向のときは、電子が両層の界面で散乱されにくく容易に移動できる。そのため、磁気抵抗素子の電気抵抗は小さくなる。一方で、図3(b)に示すような、固定層521の磁化方向と、自由層522の磁化方向が互いに反対の方向のときは、電子が両層の界面で散乱されやすく容易に移動できない。そのため、磁気抵抗素子の電気抵抗は大きくなる。
【0036】
コンプレッサホイール21が回転し、コンプレッサホイール21の回転に伴い、シャフト41の回転を介して、ナット51Aが回転すると、自由層522が受ける磁界の方向がナット51Aの回転に伴い連続的に変化する。かかる磁界の変化の影響を受け、自由層522の磁化方向が変化する。これにより、磁気抵抗素子の電気抵抗が変化する。つまり、コンプレッサホイール21の回転に伴い磁気抵抗素子の電気抵抗が変化する。このようにして、磁気抵抗素子の電気抵抗を測定することにより、コンプレッサホイール21の回転速度を検出する。より具体的に、電気抵抗の変動の周波数を計数することでコンプレッサホイール21の回転数を検出する。以上のようにして、回転速度検出装置5は、回転体4の回転速度を検出する。
【0037】
(変形例)
磁界検出素子52は、巨大磁気抵抗素子に変えて、トンネル磁気抵抗素子(TMR:Tunnel Magneto Resistance)とすることもできる。
【0038】
<トンネル磁気抵抗素子の説明>
図4は、磁界検出素子52として用いるトンネル磁気抵抗素子52Aの概略構成図である。図4に示すように、トンネル磁気抵抗素子52Aは、巨大磁気抵抗素子と同様に、強磁性の性質を有する固定層521A及び自由層522Aを備えている。また、固定層521Aと、自由層522Aとの間には、数ナノメートルの厚みを有する極薄板状のトンネル障壁層524が設けられている。トンネル障壁層524は、絶縁体で構成することができ、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、窒化アルミニウムなどで構成することができる。なお、図3では、説明の便宜上、トンネル障壁層524の厚みを固定層521A及び自由層522Aに対して厚く描いているが、実際はより薄いものである点に留意されたい。
【0039】
トンネル磁気抵抗素子52Aは、トンネル障壁層524を通して固定層521Aと自由層522Aとの間に流れるトンネル電流を検出して、外部の磁界の変化を検出する。巨大磁気抵抗素子と同様に、固定層521Aの磁化方向と、自由層522Aの磁化方向が同じときは、磁気抵抗素子の電気抵抗は小さく、固定層521Aの磁化方向と、自由層522Aの磁化方向が互いに反対のときは、磁気抵抗素子の電気抵抗は大きくなる。
【0040】
トンネル磁気抵抗素子52Aでは、抵抗の変化する割合が、巨大磁気抵抗素子と比較して数倍大きいため、トンネル磁気抵抗素子52Aは巨大磁気抵抗素子よりも微弱な信号を読み出すことができる。
【0041】
<その他の素子について>
磁界検出素子52は、必ずしも磁気抵抗素子に限られるものではなく、例えば、マグネットとコイルとを備えて構成されたピックアップセンサや、ホール効果を利用して磁界を検出するホール素子等でもよい。
【0042】
<その他の変形例について>
本実施の形態では、ナット51Aを取り付け後に着磁を行ったが、予め着磁されたナット51Aを取り付けるようにしてもよい。ただし、コンプレッサホイール21の回転バランスの調整のため、例えば、ナット51Aやコンプレッサ羽根211を削る場合に、ナット51Aが予め磁化されている場合、ナット51Aの磁力で削り屑を吸着してしまう恐れがある。そのため、ナット51Aの着磁は固定後に行うことが望ましいといえる。
【0043】
また、本実施の形態では、ナット51Aを着磁して強磁性体としたが、これに代えてワッシャ51Bを強磁性体とする構成であってもよい。
【0044】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態及びその変形例によれば、以下のような作用及び効果が得られる。すなわち、磁界検出素子52が、ハウジング6に形成された収容孔620に収容されている構成とすることにより、コイルをハウジングの外側に設ける場合よりも、磁界検出素子52をコンプレッサホイール21側に近づけることができる。また、磁界検出素子52は、シャフト41の軸方向において、ナット51Aと対応する位置に配置されるとともに、ナット51Aを強磁性体とすることにより、磁界検出素子52と磁界の発生源であるナット51Aとの距離を小さくすることができる。
【0045】
例えば、吸気通路22が横断面視において直径略20〜30ミリメートルの円形状の形状を有する場合に、略4ミリメートルから10ミリメートルの対角距離を有するナット51Aを用いると、コンプレッサ側ハウジング62の内面側の先端面からナット51Aの一側面までの距離を略8から10ミリメートルとすることができる。そして、ハウジング蓋部621の厚み、すなわち、コンプレッサ側ハウジング62の収容孔620に対応する部分の厚みを、略1ミリメートルとすると、磁界検出素子52とナット51Aとの距離を、略9から11ミリメートルまで縮めることが可能となる。
【0046】
以上のように、ハウジングの外側にコイルを設ける従来のセンサの構成と比較して、磁界検出素子52とナット51Aとの距離を小さくする、すなわち、磁界検出素子52を磁界の発生源である強磁性体に近づけることができ、これにより、磁界検出素子52の検出感度を良好にすることができる。その結果、回転速度検出装置5の検出精度を高めることができる。
【0047】
さらに、収容孔620は非貫通孔であり、コンプレッサ側ハウジング62の収容空間61側には貫通せず、収容空間61側の端部はハウジング6の一部としてのハウジング蓋部621により閉塞されている。これにより、磁界検出素子52は吸気通路22に吸入される吸気に曝されないため、吸気の影響を受けずに、回転体4の回転速度の検出を行うことができる。その結果、磁界検出素子52の振動を抑制することができる。また、磁界検出素子52が収容孔620から収容空間61側に突出しないため、コンプレッサホイール21の高速回転による乱流の発生を抑制することができる。さらに、収容孔620の内面が磁界検出素子52を囲んでいることにより、ハウジング6の外側からのノイズ(交流磁界)を遮蔽することが可能となり、より高い検出精度を得ることができる。
【0048】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図5を参照して説明する。上述した第1の実施の形態のターボチャージャ1と同一の構成要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明は省略する。第2の実施の形態は、磁界検出素子52側が、ハウジング6の一部としてのハウジング蓋部621で閉塞されるのに代えて、栓部材65で閉塞されている点で、第1の実施の形態と異なる。
【0049】
図5に示すように、収容孔620は、ハウジング6の内外面間を貫通している。また、コンプレッサ側ハウジング62のコンプレッサホイール21に対向する内面側の開口は、ナット51Aとシャフト41の径方向に並ぶ位置に形成されている。そして、収容孔620の収容空間61側の端部は、栓部材65によって閉塞されている。本実施の形態では、栓部材65は、樹脂で形成されている。ここでいう樹脂とは、プラスチック等の合成樹脂に加え、ゴム素材や接着剤を含むものとする。
【0050】
収容孔620の収容空間61側の端部が樹脂からなる栓部材65で閉塞されていることにより、第1の実施の形態と同様に、磁界検出素子52は吸気通路22に吸入される吸気に曝されないため、吸気の影響を受けずに、回転体4の回転速度の検出を行うことができる。その結果、磁界検出素子52の振動を抑制することができる。また、磁界検出素子52が収容孔620から収容空間61側に突出しないため、乱流の発生を抑制することができる。さらに、栓部材65が樹脂部材で形成されているため、栓部材65の部分には渦電流が発生せず、非貫通孔の場合にコンプレッサホイール21の高速回転によって生じ得る渦電流の発生を防止することができる。
【0051】
(変形例)
図示はしないが、シャフト41を強磁性体とすると共に、軸受ハウジング64に形成された収容孔に、シャフト41の軸方向と直交する方向に向かって磁界検出素子52を配置し、シャフト41の回転を検出するようにした構成であってもよい。また、磁界検出素子52が収容される収容孔を、タービン側ハウジング63に形成し、第1の実施の形態に係る強磁性体を、タービンホイール31にシャフト41を固定するナット51Cとする構成であってもよい。
【0052】
変形例の構成によっても、第1の実施の形態と同様に、磁界検出素子52を磁界の発生源であるナット51Cに近づけることにより、磁界検出素子52の検出感度を良好にすることができる。また、収容孔620Aの収容空間61側の端部が閉塞されていることにより、磁界検出素子52の振動や、タービン側ハウジング63内での乱流の発生を抑制できる。さらに、ハウジング6の外側からの磁界を遮蔽することが可能となる。
【0053】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0054】
[1]排気により回転駆動されるタービンホイール(31)、前記タービンホイール(31)の回転により回転駆動されるコンプレッサホイール(21)、並びに前記タービンホイール(31)及び前記コンプレッサホイール(21)と一体に回転するように固定されたシャフト(41)を有する回転体(4)と、前記回転体(4)を収容する収容空間(61)が形成された金属製のハウジング(6)と、前記回転体(4)の回転速度を検出する回転速度検出装置(5)と、を備え、前記回転速度検出装置(5)は、前記シャフト(41)に固定された強磁性体と、該強磁性体の磁界を検出する磁界検出素子(52)と、を有し、前記磁界検出素子(52)は、前記ハウジング(6)に形成された収容孔(620)に収容されており、前記収容孔(620)は、前記収容空間(61)側の端部が閉塞されている、回転速度検出装置付きターボチャージャ(1)。
【0055】
[2]前記強磁性体は、前記シャフト(41)の両端部のうち一方の先端部に固定されている、[1]に記載の回転速度検出装置付きターボチャージャ(1)。
【0056】
[3]前記強磁性体は、前記タービンホイール(31)又は前記コンプレッサホイール(21)に前記シャフト(41)を固定する固定部材である、[1]に記載の回転速度検出装置付きターボチャージャ(1)。
【0057】
[4]前記磁界検出素子(52)は、巨大磁気抵抗素子(52)又はトンネル磁気抵抗素子(52A)である、[1]乃至[3]の何れか1つに記載の回転速度検出装置付きターボチャージャ(1)。
【0058】
[5]前記収容孔(620)は、前記ハウジング(6)の外面から内面に向かって形成された非貫通孔であり、前記収容孔(620)の前記収容空間(61)側の端部は、前記ハウジング(6)の一部であるハウジング蓋部(621)により閉塞されている、[1]乃至[4]の何れか1つに記載の回転速度検出装置付きターボチャージャ(1)。
【0059】
[6]前記収容孔(620)の前記収容空間(61)側の端部は、樹脂からなる栓部材(65)により閉塞されている、[1]乃至[4]の何れか1つに記載の回転速度検出装置付きターボチャージャ(1)。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0061】
1…回転速度検出装置付きターボチャージャ(ターボチャージャ)
21…コンプレッサホイール
31…タービンホイール
4…回転体
41…シャフト
5…回転速度検出装置
52…巨大磁気抵抗素子(磁界検出素子)
52A…トンネル磁気抵抗素子(磁界検出素子)
6…ハウジング
61…収容空間
620…収容孔
621…ハウジング蓋部
65…栓部材
図1
図2
図3
図4
図5