(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
曲面形状を有する基材の被印刷面に、弾性変形可能なスクリーンを有するスクリーン印刷版をスキージで押し下げて所望の印刷パターンの印刷層を形成するスクリーン印刷装置であって、
前記スクリーンは、前記基材の被印刷面上に隙間を有して配置され、
前記スキージが前記スクリーンを押し下げて印刷方向へ掃引する際に、前記スクリーンと前記基材の被印刷面との隙間は、前記印刷方向の上流側が下流側よりも広くなるように掃引され、
前記印刷層の印刷方向、該印刷方向に交差して配置される前記スキージの幅方向、及び前記印刷方向と前記幅方向に直交する前記被印刷面の高さ方向に前記スクリーンが弾性変形して生じる印刷パターンずれを、目標とする前記所望の印刷パターンに一致するように補正した補正印刷パターンが前記スクリーンに形成されていることを特徴とするスクリーン印刷装置。
曲面形状を有する基材の被印刷面に、弾性変形可能なスクリーンを有するスクリーン印刷版をスキージで押し下げて所望の印刷パターンの印刷層を形成する、曲面形状を有する印刷層付き基材の製造方法であって、
前記スクリーンは、前記印刷層の印刷方向、該印刷方向に交差して配置される前記スキージの幅方向、及び前記印刷方向と前記幅方向に直交する前記被印刷面の高さ方向に前記スクリーンが弾性変形して生じる印刷パターンずれを、目標とする前記所望の印刷パターンに一致するように補正した補正印刷パターンを有し、
前記スキージが前記スクリーンを押し下げて印刷方向へ掃引する際に、前記スクリーンと前記基材の被印刷面との隙間を、前記印刷方向の上流側が下流側よりも広くなるように掃引することを特徴とする曲面形状を有する印刷層付き基材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<第1構成例>
図1は本発明のスクリーン印刷装置の概略的な構成図である。
スクリーン印刷装置100は、曲面形状を有する基材13の被印刷面15に所望の印刷パターンの印刷層を形成する。スクリーン印刷装置100は、スキージ17と、台座19と、スクリーン印刷版21と、スキージ駆動部23と、を有する。
【0010】
スクリーン印刷版21は、台座19上に配置され、基材13の被印刷面15との間に所定の間隙を形成する。スキージ17は、スキージ先端部25がスクリーン27を押圧可能にスクリーン印刷版21の上方に配置される。スキージ駆動部23は、スキージ先端部25をスクリーン27に向けて押し下げ、スクリーン27に摺接させながらスキージ17を図中矢印で示す印刷方向に沿って移動させる。スクリーン27は、スキージ先端部25に押圧されることで、下側へ突出して基材13の被印刷面15に当接する。これにより、スクリーン上に載せた印刷材料は被印刷面15に転写され、被印刷面15にスクリーン27の印刷パターンが印刷される。本構成のスキージ17は、印刷方向と直交して配置されるが、直角以外に交差させて配置してもよい。
【0011】
台座19の材料としては、基材13より柔らかい材料、例えば、カーボンや樹脂を使用できる。樹脂としては例えば、ベークライト(登録商標)、ピーク(登録商標)、塩化ビニル、ジュラコン(登録商標)などを使用できる。これらの樹脂は、導電性を付与するための導電膜などによる表面処理やカーボンなどの混合などが施されていてもよい。また、台座19は、基材13の被印刷面15と略同じ形状の、下に凹となる湾曲形状の台座表面19aを有する。また、台座19は、基材13を収容する凹溝19bが、台座表面19aから窪んで形成される。基材13は、この凹溝19bに収容された状態で、被印刷面15を僅かに台座表面19aから突出させている。
【0012】
台座19(少なくとも表面)の体積抵抗率は、10
9Ωm以下が好ましく、10
7Ωm〜10
8Ωmがより好ましい。これにより、印刷時に発生する静電気を抑制し、被印刷面15からのスクリーン27の版離れがよくなり、更に印刷材料の切れがよくなり、版を汚染することなく印刷精度を向上できる。また、静電気を低減できるため、埃などの異物を引き寄せず、良好な印刷層を形成できる。
【0013】
なお、基材13の台座19への固定は、基材13と同一形状の凹溝19bを台座10に設けて、この凹溝19bに嵌め込む方法に限らない。例えば、図示は省略するが、台座19の表面に、真空装置に接続された外部空気を吸引する複数の孔を開口させ、基材13を真空吸着する方法でもよい。また、凹溝19b内に吸引用の複数の孔20を設けてもよい。
【0014】
図2(A)はスクリーン印刷版の平面図、
図2(B)は(A)のA−A断面図である。
スクリーン印刷版21は、弾性変形可能な矩形形状のスクリーン27のスクリーン縁部が、四角形状の樹脂製の枠体29に接着剤等により固定される。スクリーン27は、テトロン、ナイロン、ポリエステル等の樹脂材料、又はステンレス材等の金属材料により構成される。
【0015】
本構成においては、
図1に示す曲面形状を有する基材13に印刷するため、スクリーン27をスキージ17で押し込む必要がある。つまり、通常の平坦なスクリーン印刷版と比較して、基材13の曲げ深さ(最大高低差)が存在する分、スクリーン27と被印刷面15の間隔を広げる必要がある。そのため、スクリーン27の材料としては、伸延性の高いナイロンを好適に使用できる。
【0016】
なお、スクリーン27と被印刷面15との隙間(クリアランス)は、最小隙間が好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上である。また、最大隙間は好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下である。上記の範囲であればスクリーン27を被印刷面15まで確実に押し込め、良好な版離れが得られる。
【0017】
図3はスクリーンの平面図である。
スクリーン印刷版21に取り付けられるスクリーン27には、同図に示すように印刷像に対応する補正印刷パターン31が形成される。一般に、スクリーン印刷版21の印刷パターンは、スキージ17により被印刷面15に押し下げて印刷方向へ掃引する際、印刷方向と該印刷方向に直交する幅方向とにスクリーン27が弾性変形する。この弾性変形によって印刷位置がずれてしまう。そこで、スクリーン27に形成する補正印刷パターン31を、発生するずれ量に応じて、目標とする所望の印刷パターンに一致させるように補正する。本スクリーン印刷版21は、予め定めた基材13とスクリーン27との位置関係から一義的に補正印刷パターン31を決定する補正印刷パターンの設計方法に基づいて作製される。
【0018】
補正印刷パターン31は、印刷材料を通過させる低密度部33と、印刷材料の通過を制限する高密度部35とを有する。低密度部33は、高密度部35に隣接して配置される。補正印刷パターン31は、低密度部33と高密度部35との境界線の少なくとも一部が補正線37となって形成される。本構成例によるスクリーン印刷版21は、基材13の被印刷面15上の印刷像が矩形枠となるパターンを有し、補正線37は曲線となる。ここでいう「曲線」は短い線分を繋ぎ合せて所望の曲線に近似した形状であってもよい。この短い線分の長さとしては300mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましく、10mm以下が更に好ましい。この範囲の線分を繋ぎ合せて曲線を近似し補正線37を形成することにより、所望の曲線と同じ程度の印刷精度が得られ、かつスクリーン印刷版21の製造コストが抑えられる。なお、下限値は特に制限はない。
【0019】
図4は
図3に示す補正印刷パターン31のスクリーン27で印刷した矩形状の印刷像を示す平面図である。なお、図中点線は基材13の外周縁を示しており、基材13には、スクリーン27の低密度部33に対応する印刷像39が形成される。この場合、スクリーン27の低密度部33は、基材13の外周縁よりも更に外側に伸ばされ、基材13の外周縁外側にも印刷像39が形成される。しかし、基材13の外周縁外側の印刷像39は台座19に転写されるため、基材13には、
図5に示すように矩形状の印刷像39aが形成されることなる。ただし、台座表面19aに対して基材13が100〜300μm程度突出しており、印刷像39による印刷材料が台座に付着することは無く、基材を汚染しない。
【0020】
上記したスクリーン印刷版21のスクリーン27は、
図3に示すように、低密度部33が、高密度部35を囲んで形成される。また、スクリーン印刷版21は、スクリーン27が、X方向に関するスクリーン中心線L
Vと、Y方向に関するスクリーン中心線L
Hとの2つの対称軸を有する。本構成のスクリーン印刷装置100に用いるスクリーン印刷版21は、上記例に限らず、対称軸が1つでもよく、2つ以上であってもよい。また、対称軸が存在しないものであってもよい。
【0021】
スクリーン27に補正印刷パターンを形成する方法としては、フォトレジストを用いたマスク処理を含むエッチング等、公知の手法を使用できる。
【0022】
<補正印刷パターンの設計方法>
次に、スクリーン印刷版21の補正印刷パターン31の設計方法について説明する。
(補正処理の基本概念)
(A)印刷方向のずれについて
図6は印刷方向のずれを説明する模式図である。
スクリーン27をスキージ17で押圧した場合、スクリーン27上のP
x点が被印刷面15に印刷される位置は、P
x点の鉛直真下Qではなく、P
xa点にずれる。Q点とP
xa点とのずれ量は、印刷方向におけるスクリーン27の中心である基準位置P
0に近づくほど、また、スクリーン27と基材13とのクリアランスhが短いほど小さくなる。この印刷像のずれ量は(1)式で表される。
【0024】
Δleftは、スキージ17の印刷上流側(
図6の左側)におけるスクリーン27の伸び量(AQ−AP
x)である。Δrightは、スキージ17の印刷下流側(
図6の右側)におけるスクリーン27の伸び量(BQ−BP
x)である。スクリーン27の中心の基準位置P
0よりも印刷上流側の印刷パターンは、印刷上流側に向けてずれ、基準位置P
0よりも印刷下流側の印刷パターンは、印刷下流側に向けてずれる。また、図中のA点及びB点で示す枠体29に近づくほど印刷像39のずれ量ε
1は大きくなる。
【0025】
(B)スキージ幅方向のずれについて
図7は印刷方向に直交する方向のずれを説明する模式図である。
スクリーン27をスキージ17で押圧した場合、スクリーン27はスキージ幅方向(Y方向)にも広げられる。印刷方向(X方向)のずれの場合と同様に、図中左側の枠体29までの部分の伸び量と、図中右側の枠体29までの部分の伸び量により、ずれ量ε
2が(2)式により計算できる。
【0027】
また、印刷像39は、スキージ17の幅方向中央を基準位置P
0とすると、基準位置P
0より図中左側の枠体29までの印刷パターンは、左側の枠体29に向けてずれ、基準位置P
0より図中右側の枠体29までの印刷パターンは、右側の枠体29に向けてずれる。また、各枠体29に近づくほど、印刷像39のずれ量ε
2は大きくなる。
【0028】
上記関係から、スクリーン上の任意の位置におけるずれ量は幾何学的に求められる。この補正印刷パターン31を幾何学的に求める手法としては、例えば目標とする所望の印刷パターンの各位置におけるずれ方向及びずれ量を求め、このずれ方向と反対に同じずれ量だけ戻した点を補正点とする処理等が挙げられる。
【0029】
そこで、作製したい印刷層付きの基材から、低密度部33と高密度部35との界面の補正線37を決定する。例えば、
図8に示すように、基材13の被印刷面15に印刷像39aを印刷する場合、印刷像39aの内周部の座標M(X,Y)を、平坦な状態のスクリーン27の座標N(x,y)にすればよい。
【0030】
具体的には、スクリーン27の補正印刷パターン(x,y)31を、上記のずれ量ε
1,ε
2を使用して(3),(4)式により補正して求める。
【0032】
ここで、X,Yは、基材13における曲面形状の被印刷面15上の座標である。(3),(4)式のずれ量ε
1,ε
2は、次のようにして求められる。
まず、ずれ量ε
1については、(1)式のΔleftが(5)式、Δrightが(6)式で求められる。
【0034】
(5),(6)式により、ずれ量ε
1は(7)式で表せる。
【0036】
すなわち、ずれ量ε
1は、MのX座標、クリアランスh、スクリーン幅Lにより、近似的に求められる。
【0037】
次に、ずれ量ε
2について考える。まず、スクリーン版の伸張率kは(8)式で求められる。
【0039】
Waはスキージで押し込んだときのスクリーンのy方向(印刷方向に直交する方向)の長さ、Bはスキージ17の印刷方向に直交する方向の幅、f
Lは
図7の左側の枠体29からスキージ端部までの長さ。f
rは
図7の右側の枠体29からスキージ端部までの長さである。
【0040】
(2)式のΔleftは(9)式、Δrightは(10)式で求められる。
【0042】
よって、ずれ量ε
2は、(11)式から求められる。
【0044】
すなわち、ずれ量ε
2は、MのY座標、クリアランスh、スクリーン幅W,f
L,f
rにより、近似的に求められる。
【0045】
上記のずれ量ε
1,ε
2を用いて補正される補正印刷パターン31は、所望の印刷パターンとは異なるパターンに形成される。
図9(A)は目標とする所望の印刷パターンの模式図、(B)は歪んで印刷された印刷像39の模式図、(C)は補正印刷パターンの模式図である。
【0046】
図9(A)に示すスクリーン27に形成された印刷パターンP(i,j)は、押し下げられた際、スキージ17からの押圧力と枠体29からの反力によって伸びてずれる。その結果、スクリーン27に形成されている目標とする所望の印刷パターンよりも実際の印刷像39は、
図9(B)に示す拡大された印刷パターンQ(i,j)となって歪む。そこで、
図9(A)に示す目標の印刷パターンP(i,j)を、上記のずれ量ε
1,ε
2に応じて変換し、
図9(C)に示す補正印刷パターンR(i,j)を形成する。ここで、i,jはスクリーン上の位置を表す指標である。
【0047】
なお、スクリーン27は、
図3に示す補正印刷パターン31に限らず、印刷像の外周縁を補正印刷パターンによって形成するものであってもよい。その場合、
図10に示すように、低密度部33の外縁形状を補正線37と同様に補正された補正線38にする。これにより、基材13の被印刷面15に補正線37,38による矩形状の印刷像が形成される。
【0048】
更に、スクリーン27は、
図11に示すように、高密度部35が第一高密度部351と第二高密度部352とを有してもよい。この場合、低密度部33は、
図3の高密度部35のように、第一高密度部351の外周縁部に形成されることが好ましい。この低密度部33と第一高密度部351との境界を補正線37とすることで、枠状の印刷層のうち、基材中心に近い側の境界線の印刷精度を向上できる。
【0049】
また、低密度部33は、
図11に示すように、その外周縁部に第二高密度部352が形成されることが好ましい。この低密度部33と第二高密度部352との境界を補正線38とすることで、枠状の印刷層のうち、基材中心から遠い側の境界線の印刷精度を向上できる。
【0050】
次に、上記した構成の作用を説明する。
本構成のスクリーン印刷装置100、及びこれを用いたスクリーン印刷方法によれば、スクリーン27が基材13側に押し下げられた際の印刷パターンのずれがなくなり、印刷精度の低下が抑制される。すなわち、スクリーン27は、スクリーン縁部が枠体29によって固定され、押し下げられた際に、スキージ17からの押圧力と枠体29からの反力によって伸び、枠体29の近傍では枠体側にずれる。
【0051】
その結果、スクリーン27に形成されている印刷パターンよりも実際の非補正印刷像43(
図9(B)参照)は、拡大する方向にずれて歪む(ただし、スキージ17との摩擦によるスクリーン27の伸縮や、スクリーン27の張力変化等は無視する)。このずれ量は、印刷方向におけるスクリーン27の中心である基準位置P
0(
図6,
図7参照)に近づく、つまり、枠体29から離反するほど、スクリーン27と基材13との隙間が小さいほど小さくなる。この現象は、印刷方向に直交する方向においても同様となる。
【0052】
これらずれ量は、上記した計算式により幾何学的に求められる。求められた幾何学的条件(補正点の集合したずれ線)に基づき印刷パターンに補正を加える。すなわち、発生するずれ量を相殺するように印刷パターンを縮めた形状の補正印刷パターン31を作成する。スクリーン印刷装置100は、この補正印刷パターン31を用いて印刷することにより、目標とする所望の印刷パターンに一致した印刷像39を形成できる。
【0053】
また、このスクリーン印刷装置100では、印刷材料は、低密度部33で通過し、高密度部35で通過が制限される。すなわち、低密度部33と高密度部35の境界線は、印刷像39の輪郭線を形成する。スクリーン印刷装置100は、この境界線の少なくとも一部を補正線37として補正印刷パターン31を形成することにより、伸びによる歪みの補正が可能となる。
【0054】
このスクリーン印刷装置100では、中央部を包囲する枠状部分の印刷精度が要求される印刷に特に適しており、例えばディスプレイ用途の加飾印刷を始め、各種の装飾印刷等でも、目標とする所望の印刷パターンで高精度に印刷できる。
【0055】
上記の構成のスクリーン印刷装置100によれば、スクリーン印刷した結果からずれ量を測定し、そのずれ量に基づいてスクリーン版を作製する方式と比較して、スクリーン版の製造コストを低減でき、版製造期間を短縮できる。つまり、本構成のスクリーン27は、基材13の形状や、基材13とスクリーン印刷版21との位置関係が決定すれば、一義的に補正印刷パターン31を決定できる。そのため、作業時間を要する煩雑なスクリーン印刷版21の試作が不要となる。例えば、新規に製造ラインを構築する場合や、既存の製造ラインの段取り替えを行う場合に、基材13の形状とスクリーン印刷版21との位置関係さえ決定すれば、他の製造ラインの各部詳細を取り決める前に、スクリーン印刷版21の仕様を決定できる。よって、スクリーン印刷版21の作製を早い段階で開始でき、所望の基材の製造ラインを短時間で、しかも低コストで構築できる。
【0056】
<第2構成例>
次に、台座に支持される基材を傾斜させて、版離れを更に良化させる構成例について説明する。
図12は曲面形状を有し且つ傾斜した被印刷面にスクリーン印刷する状況を示す模式図である。
本構成のスクリーン印刷装置110は、台座19が、刷り始めのスクリーン27と基材13の被印刷面15とのクリアランスが最大となる姿勢に基材13を支持する。基材13を傾斜させて支持する構成としては、上面が傾斜した台座19を用いることでもよいが、その他にも台座19を台座ホルダ(図示略)上に複数のアジャスタ(図示略)を介して固定する構造等であってもよい。その場合、台座19は、印刷方向上流側のアジャスタ長を短く、印刷方向下流側のアジャスタ長を長く設定する。これにより、刷り始めの上記クリアランスが最大となる姿勢に基材13を支持できる。
【0057】
上記構成のスクリーン印刷装置110においては、基材13が、台座19によりスクリーン27と対面配置され、スクリーン27と基材13の被印刷面15とのクリアランスは、印刷方向の上流側のクリアランスh
1が下流側のクリアランスh
2よりも広くされる。
【0058】
つまり、台座19は、刷り始めのスクリーン27と基材13との隙間が最大となるような姿勢で、基材13を支持する。スクリーン27と基材13の被印刷面15とは、印刷方向下流側に向けて漸次近づき、クリアランスh
1がh
2へと小さくなる、上り傾斜となっている。
【0059】
一般に、スクリーン27と被印刷面15とが平行な場合、刷り始めの位置においてスキージ17により押し下げられたスクリーン27の被印刷面15との成す角度は、印刷方向上流側が印刷方向下流側よりも大きくなる。これにより、スクリーン27は、版離れを良好にできる。しかし、刷り終わりの位置では、スクリーン27の被印刷面15との成す角度は、印刷方向上流側が印刷方向下流側よりも小さくなる。つまり、スクリーン27の被印刷面15との成す角度は、刷り始めと刷り終わりで逆転する。このため、印刷方向下流側においては良好な版離れが得にくくなる。
【0060】
そこで、本構成の台座19は、刷り終わりの位置においても、印刷方向上流側におけるスクリーン27と被印刷面15との成す角度が、印刷方向下流側よりも大きくなるように、被印刷面15を傾斜させて基材13を支持している。
【0061】
スクリーン27には「紗張り強さ」という製造パラメータが存在する。紗張り強さは、紗(スクリーン)張り後に、スクリーン27の中央にある決められた荷重を印加した際の「押し込まれ量」として定義され、押し込まれ量は、テンションゲージ(プロテック社、型式STG−75M)を用いて測定できる。紗張りが強ければ、押し込まれ量は小さくなり、紗張り強さが弱ければ、押し込まれ量は大きくなる。
【0062】
発明者らは、曲面基材へのスクリーン印刷品質においては特にこの紗張り強さが重要な要素であることを見出した。スクリーン27の押し込まれ量は1mm以上4mm以下が好ましく、1.15mm以上3mm以下がより好ましい。スクリーン27の押し込まれ量がこの範囲であると、版離れがよくなり、高精細な印刷層を形成できる。
ここでスクリーン27の寸法は、長辺側が600〜1000mm、短辺側が400〜800mmの物を用いている。より小さなスクリーン27を用いる場合は上記の範囲より小さな押し込まれ量が好ましく、より大きなスクリーン27を用いる場合は上記の範囲より大きな押し込まれ量が好ましくなると考えられる。
【0063】
図13は
図12に示した状況において使用される補正印刷パターンを概略的に示した平面図である。
このスクリーン印刷版21の補正印刷パターン41は、刷り始めは、スキージ17を多く押し込むため、補正量r
1が大きく、刷り終わりに向けて、徐々に補正量r
2が小さくなる。
【0064】
上記構成のスクリーン印刷装置110は、上記の補正印刷パターン41と、この基材13の傾斜支持可能な台座19とを備えることにより、高精度で、且つにじみのない印刷像39を得られる。この場合、印刷パターンのずれ量は、刷り終わりに向かって漸次減少する高さ方向(Z方向)の隙間に応じて変化する。このため、補正印刷パターン41は、この漸次減少するクリアランスh
1〜h
2(
図12参照)に応じて変化する印刷パターンのずれ量も加味して補正される。その結果、このスクリーン印刷装置110では、刷り始めから刷り終わりまで版離れが良好となる。
【0065】
したがって、本構成例のスクリーン印刷装置110によれば、基材13とスクリーン印刷版21のクリアランスを大きくしても、常に高精度で、しかも、にじみの小さい印刷が可能となり、印刷パターンのひずみを抑制できる。
【0066】
また、スクリーン27は、その対称軸が、印刷方向に沿う方向、及び印刷方向に直交する方向の向きで枠体29に支持される。これにより、補正印刷パターン31を得るために必要な幾何学的条件が平易に求められる。また、対称軸を有さない補正印刷パターンを有するスクリーン27であっても、基材13の曲面形状に応じた補正印刷パターンを前述した計算式によって一義的に求められ、製造コストの低減や、スクリーン版の作製時間の短縮が可能となる。
【0067】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0068】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 曲面形状を有する基材の被印刷面に、弾性変形可能なスクリーンを有するスクリーン印刷版をスキージで押し下げて所望の印刷パターンの印刷層を形成するスクリーン印刷装置であって、
前記スクリーンは、前記基材の被印刷面上に隙間を有して配置され、
前記スキージが前記スクリーンを押し下げて印刷方向へ掃引する際に、前記印刷層の印刷方向、該印刷方向に交差して配置される前記スキージの幅方向、及び前記印刷方向と前記幅方向に直交する前記被印刷面の高さ方向に前記スクリーンが弾性変形して生じる印刷パターンずれを、目標とする前記所望の印刷パターンに一致するように補正した補正印刷パターンが前記スクリーンに形成されていることを特徴とするスクリーン印刷装置。
このスクリーン印刷装置によれば、スクリーンが押し下げられた際の印刷パターンずれによる印刷精度の低下が抑制される。すなわち、幾何学的にずれ量を相殺するよう印刷パターンを縮めた補正印刷パターンを作成する。この補正印刷パターンを用いて印刷することにより、目標とする所望の印刷パターンに一致した印刷像が得られる。
【0069】
(2) 前記スクリーンは、印刷材料を通過させる低密度部と、前記印刷材料の通過を制限する高密度部とを有し、前記低密度部は、前記高密度部に隣接して配置され、前記高密度部との境界線の少なくとも一部が補正されてなる、(1)のスクリーン印刷装置。
このスクリーン印刷装置によれば、印刷材料は、低密度部で通過し、高密度部で通過が制限される。すなわち、低密度部と高密度部の境界線は、印刷像の輪郭線を形成する。スクリーン印刷装置は、この境界線の少なくとも一部を補正線として補正印刷パターンを形成することにより、伸びによる歪みの補正が可能となる。
【0070】
(3) 前記低密度部は、前記高密度部を構成する第一高密度部を囲んで形成されている、(2)のスクリーン印刷装置。
このスクリーン印刷装置によれば、中央部を包囲する枠状部分の印刷精度が要求される場合でも、目標とする所望の印刷パターンを高精度に印刷できる。
【0071】
(4) 前記低密度部は、前記高密度部を構成する第二高密度部に囲まれて形成されている、(2)又は(3)のスクリーン印刷装置。
このスクリーン印刷装置によれば、枠状印刷の外周部の印刷精度が要求される場合でも、目標とする所望の印刷パターンを高精度に印刷できる。
【0072】
(5) 前記スクリーンは、少なくとも1つ以上の対称軸を有する、(1)〜(4)のいずれか1つのスクリーン印刷装置。
このスクリーン印刷装置によれば、スクリーンは、対称軸が、印刷方向に沿い且つ印刷方向に直交する方向の中央となる向きで枠体に支持される。これにより、補正印刷パターンを得るために必要な幾何学的条件が平易に求められる。
【0073】
(6) 前記スクリーンは、平面視で多角形形状を有する、(1)〜(5)のいずれか1つのスクリーン印刷装置。
このスクリーン印刷装置によれば、スクリーンの補正印刷パターンを得るために必要な幾何学的条件が平易に求められる。
【0074】
(7) 前記スクリーンは、平面視で矩形形状を有する、(1)〜(5)のいずれか1つのスクリーン印刷装置。
このスクリーン印刷装置によれば、スクリーンは、一辺が印刷方向と平行となるように枠体に支持されることで、印刷ずれを縦横の2種類で捉えることが可能となる。これにより、補正印刷パターンを得るために必要な幾何学的条件が平易に求められる。
【0075】
(8) 刷り始めの前記隙間が最大となる姿勢に前記基材を支持する台座を有する、(1)〜(7)のいずれか1つのスクリーン印刷装置。
このスクリーン印刷装置によれば、台座は、刷り終わりの位置においても、印刷方向上流側におけるスクリーンと被印刷面との成す角度が、印刷方向下流側よりも大きくなるように、被印刷面を傾斜させて基材を支持可能としている。これにより、スクリーン印刷装置は、刷り始めから刷り終わりまで版離れが良好となる。
【0076】
(9) 前記スクリーンと前記基材の被印刷面との隙間は、前記印刷方向の上流側が下流側よりも広い、(1)〜(8)のいずれか1つのスクリーン印刷装置。
このスクリーン印刷装置によれば、刷り始めから刷り終わりまで版離れが良好となる。
【0077】
(10) 弾性変形可能なスクリーンのスクリーン縁部が枠体に固定された、曲面形状を有する基材にスクリーン印刷するためのスクリーン印刷版であって、前記スクリーンは、印刷材料を通過させる低密度部と、前記印刷材料の通過を制限する高密度部とを有し、前記低密度部は、前記高密度部に隣接して配置され、前記高密度部との境界線の少なくとも一部が曲線であることを特徴とするスクリーン印刷版。
このスクリーン印刷版によれば、印刷材料は、低密度部で通過し、高密度部で通過が制限される。すなわち、低密度部と高密度部の境界線は、印刷像の輪郭線を形成する。スクリーン印刷は、この境界線の少なくとも一部を補正線として補正印刷パターンを形成することにより、伸びによる歪みの補正が可能となる。
【0078】
(11) 前記低密度部は、前記高密度部を構成する第一高密度部を囲んで形成されている、(10)のスクリーン印刷版。
このスクリーン印刷版によれば、中央部を包囲する枠状部分の印刷精度が要求される場合でも、目標とする所望の印刷パターンを高精度に印刷できる。
【0079】
(12) 前記スクリーンは、少なくとも1つ以上の対称軸を有する、(10)又は(11)のスクリーン印刷版。
このスクリーン印刷版によれば、スクリーンは、対称軸が、印刷方向に沿い且つ印刷方向に直交する方向の中央となる向きで枠体に支持される。これにより、補正印刷パターンを得るために必要な幾何学的条件が平易に求められる。
【0080】
(13) 前記スクリーンは、平面視で多角形形状を有する、(10)〜(12)のいずれか1つのスクリーン印刷版。
このスクリーン印刷版によれば、スクリーンの補正印刷パターンを得るために必要な幾何学的条件が平易に求められる。
【0081】
(14) 前記スクリーンは、平面視で矩形形状を有する、(10)〜(13)のいずれか1つのスクリーン印刷版。
このスクリーン印刷版によれば、スクリーンは、一辺が印刷方向と平行となるように枠体に支持されることで、印刷ずれを縦横の2種類で捉えることが可能となる。これにより、補正印刷パターンを得るために必要な幾何学的条件が平易に求められる。
【0082】
(15) 弾性変形可能なスクリーンのスクリーン縁部が枠体に固定され、前記スクリーンにスキージを押し当てて、曲面形状を有する基材の被印刷面に所望の印刷パターンの印刷層を形成するスクリーン印刷版の製造方法であって、
前記印刷層の印刷方向、該印刷方向に交差して配置される前記スキージの幅方向、及び前記印刷方向と前記幅方向に直交する前記被印刷面の高さ方向に前記スクリーンが弾性変形して生じる印刷パターンずれを、目標とする前記所望の印刷パターンに一致するように補正する補正印刷パターンを求める工程と、
求めた前記補正印刷パターンを前記スクリーンに形成する工程と、
を含むことを特徴とするスクリーン印刷版の製造方法。
このスクリーン印刷版の製造方法によれば、スクリーンが押し下げられた際の印刷パターンずれによる印刷精度の低下が抑制されたスクリーン印刷版が得られる。すなわち、幾何学的にずれ量を相殺する補正印刷パターンを用いて印刷することにより、目標とする所望の印刷パターンに一致した印刷像が得られる。
【0083】
(16) 曲面形状を有する基材の被印刷面に、弾性変形可能なスクリーンを有するスクリーン印刷版をスキージで押し下げて所望の印刷パターンの印刷層を形成する、曲面形状を有する印刷層付き基材の製造方法であって、
前記スクリーンは、前記スキージが前記スクリーンを押し下げて印刷方向へ掃引する際に、前記印刷層の印刷方向、該印刷方向に交差して配置される前記スキージの幅方向、及び前記印刷方向と前記幅方向に直交する前記被印刷面の高さ方向に前記スクリーンが弾性変形して生じる印刷パターンずれを、目標とする前記所望の印刷パターンに一致するように補正した補正印刷パターンを有する、
ことを特徴とする曲面形状を有する印刷層付き基材の製造方法。
この印刷層付き基材の製造方法によれば、スクリーンが押し下げられた際の印刷パターンずれによる印刷精度の低下が抑制された印刷層付き基材が得られる。