特許第6841063号(P6841063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6841063-組成物、製造方法およびその用途 図000006
  • 特許6841063-組成物、製造方法およびその用途 図000007
  • 特許6841063-組成物、製造方法およびその用途 図000008
  • 特許6841063-組成物、製造方法およびその用途 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841063
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】組成物、製造方法およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/12 20060101AFI20210301BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   C09K5/12 E
   F28D20/00 B
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-16768(P2017-16768)
(22)【出願日】2017年2月1日
(65)【公開番号】特開2018-123243(P2018-123243A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2020年1月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人科学技術振興機構 SIP(戦略的イノベーション創出プログラム) 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新井 一喜
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0192792(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104388059(CN,A)
【文献】 特開昭57−102982(JP,A)
【文献】 特開平04−309756(JP,A)
【文献】 特開2004−066190(JP,A)
【文献】 特表2016−538401(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/031788(WO,A1)
【文献】 特開昭52−071634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/12
F28D 20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiCl、KBr及びCaClを含み、さらにNa、Mg又はZnからなる群の少なくとも1種を金属状態で含む組成物であって、以下の組成を有する組成物。
[Li] 25原子%以上65原子%以下
[K] 5原子%以上65原子%以下
[Ca] 5原子%以上45原子%以下
[Cl] 0原子%以上85原子%以下
[Br] 15原子%以上100原子%以下
【請求項2】
Mgを金属状態で含む請求項に記載の組成物。
【請求項3】
Li、K、Brを含む原料を混合する混合工程を有する請求項1又は2に記載の組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の組成物を含む熱媒体。
【請求項5】
請求項に記載の熱媒体を用いた熱移送システム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の組成物を含む蓄熱体。
【請求項7】
請求項に記載の蓄熱体を用いた蓄熱システム。
【請求項8】
請求項に記載の熱移送システム、または請求項に記載の蓄熱システムの少なくともいずれかを備えた再生可能エネルギープラント。
【請求項9】
請求項に記載の熱移送システム、または請求項に記載の蓄熱システムの少なくともいずれかを備えた化学プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化物及び臭化物を含有する組成物に関するものである。またその組成物を用いた熱媒体および蓄熱材に関するものである。さらには、太陽熱などの再生可能エネルギーの輸送・貯蔵技術等に利用可能な、低凝固温度かつ高耐熱の熱媒体および蓄熱材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光などの再生可能エネルギーを利用したプラントは、化石燃料を利用したプラントに代わる次世代のエネルギープラントとして注目されている。化石燃料を利用した火力発電は、資源の枯渇、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出等の問題が有り、再生可能エネルギーへの転換が喫緊の課題と成っている。
【0003】
近年、大型のミラー等で太陽光を集め、集光部で熱に変換し、当該集光部に熱媒体を通過させ、その熱媒体によりボイラー/タービンで発電を行う集光型太陽熱発電所の導入が進んでいる。この際に熱媒体として耐熱性の高い物質を用いると500℃以上の昇温が可能となる。ボイラー/タービン発電に於いては、一般に、より高温で運転する事により発電効率が高まるため、前述の高温環境下でも劣化しない、高い耐熱性を有する熱媒体の開発が求められている。
【0004】
また、このことは風力熱発電でも同様である。すなわち、風力熱発電は、風車による回転力を熱に変え、この熱を利用して発電を行う。この用途に於いても、より高温で運転する事で発電効率や蓄熱効率が向上するため、高い耐熱性を有する熱媒体の開発が求められている。
【0005】
さらに、集光型太陽熱発電等により得られた電気を用いて、水電解により水素を製造する技術も開発されている。特に高温水蒸気電解技術に於いては、固体電解質の開発による低温運転技術が検討されてはいるが、それでも600℃〜700℃程度の高温運転が必要とされている。
【0006】
また、太陽熱をそのまま熱化学反応に利用し、化学的に水素を製造する技術も開発されている。本熱化学反応についても、触媒の改良により反応温度の低減が図られているが、600℃以上の高温が必要とされている。
【0007】
現在、一般に用いられている有機系熱媒体としては、ビフェニルとジフェニルオキサイドの共晶混合物[例えばダウケミカル社のダウサーモA(登録商標)]などが知られている。さらに、より高い温度域で利用可能な無機系熱媒体として、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合物(例えばソーラーソルト:非特許文献1)などの硝酸塩系熱媒体が知られている。さらに、硝酸塩に塩化物を添加することで融点を下げ、より広い温度範囲で利用可能な熱媒体(特許文献1)なども開示されている。近年では、より高温で利用可能な無機系熱媒体として、Li−Na−K−Cs−Sr−Clの塩化物系の無機組成物が開示されている(特許文献2)。
【0008】
一方、前述の各技術において、熱媒体は鉄系合金製の配管又は容器内で流動させて使用される。しかしながら、無機系組成物の熱媒体は鉄系合金を腐食させることが課題となっている。そこで、MgCl−KCl組成物の溶融塩に腐食抑止剤として金属Mgを添加する事で、Ni基合金[例えばHaynes230(登録商標)]に対する耐食性が向上する事が知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015−67670
【特許文献2】US2013/0180520 A1
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】N.Boerema,G.Morrison,R.Taylor,G.Rosengarten,Solar Energy,86(2012)(2294頁)
【非特許文献2】B.L.Gracia−Diaz,et.al.,J.South Carolina Academy of Science,14(1)(2016)(12頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、有機系熱媒体は高温では分解、発火等の危険が有り、使用可能な上限温度は400℃程度に制限される。より耐熱性が高い硝酸塩系熱媒体であっても、温度の上昇と共に硝酸塩の熱分解反応が進行する事から、使用可能な上限温度は580℃程度に制限されている。
【0012】
一方、特許文献2の塩化物系熱媒体は、熱分解温度が比較的高い塩化物を利用している為耐熱性は高い。しかしながら、資源的な制約が有りかつ高価なCsやSrを含有すると言う構成元素特有の課題が有る。更に、金属部材表面に緻密な酸化被膜を形成する硝酸塩系熱媒体に比べ、塩化物を主成分とする熱媒体は配管や集熱管などの部材腐食が起こり易いと言った課題が有った。
【0013】
また非特許文献2に記載のMgCl−KCl溶融塩は、融点が最も低くなる共晶組成に於いても融点が400℃以上である為、溶融状態を保持する為に多大なエネルギーを必要とし、太陽熱プラント等の再生可能エネルギープラントに用いられる熱媒体としては不適切であった。また耐食性についても高級材料であるHaynes230(登録商標)に対するものであり、一般的な構造材料であるステンレス等に対する耐食性については不明であった。
【0014】
本発明の目的は、ステンレス鋼などの一般的な構造用鉄系部材に対する腐食性が低く、長期間にわたり高温条件下での熱媒体として使用可能な無機系の組成物を提供する事にある。
【0015】
また、これらの溶融塩を用いた熱移送システムや蓄熱システム、更には、これらを備えた再生可能エネルギープラントや化学プラントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本課題を解決する為、筆者らが鋭意検討したところによれば、Li、K及びBrを含む組成物が、300℃以上800℃以下の温度下で熱媒体として利用可能であり、かつ、当該温度域における鉄系材料に対する腐食性も低いことから、熱媒体として好適に使用可能であることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明はLi、K、及びBrを含む組成物を提供することをその要旨とする。
【0018】
以下、本発明の組成物について説明する。
【0019】
本発明は、Li、K及びBrを含む組成物(以下、「本発明の組成物」という。)である。これにより耐熱性に優れ、なおかつ、鉄系材料に対する腐食性が低くなる。当該組成物は、広い温度範囲における熱媒体として好適に使用できる。また、好ましくは本発明の組成物はLiBr及びKBrを含む。
【0020】
本発明の組成物は以下の組成、
[Li] 25原子%以上95原子%以下
[K] 5原子%以上75原子%以下
を有することが好ましい。ここで[Li]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総モル量に対する、Liの含有モル量の比の百分率を表し、[K]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総モル量に対する、Kの含有モル量の比の百分率を表す。
【0021】
さらには、本発明の組成物は以下の組成、
[Li] 25原子%以上75原子%以下
[K] 25原子%以上75原子%以下
[Ca] 0原子%以上45原子%以下
を有することが好ましい。ここで[Ca]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総モル量に対する、Caの含有モル量の比の百分率を表す。
【0022】
本発明の組成物は、好ましくはCaを含む。この場合、好ましくは本発明の組成物はCaBrを含む。これにより、本発明の組成物はより低い腐食性を示す。
【0023】
またさらには、本発明の組成物は以下の組成、
[Li] 25原子%以上65原子%以下
[K] 5原子%以上65原子%以下
[Ca] 5原子%以上45原子%以下
の組成を有することが好ましい。これにより、より凝固温度の低い組成物を提供する事が出来る。
【0024】
本発明の組成物は以下の組成を有することが好ましい。
[Cl] 0原子%以上 85原子%以下
[Br] 15原子%以上100原子%以下
ここで[Cl]は、ハロゲン元素の総モル量に対する、Clの含有モル量の比の百分率を表し、[Br]は、ハロゲン元素の総モル量に対する、Brの含有モル量の比の百分率を表す。これにより、凝固温度を300℃以下に抑える事が可能となり、熱媒体として利用した際にポンプ動力をより低く抑える事が可能となる。
【0025】
さらには、本発明の組成物は以下の組成、
[Cl] 0原子%以上 65原子%以下
[Br] 35原子%以上100原子%以下
を有することが好ましい。これにより、鉄系材料に対する腐食性を著しく低減できる組成物となる。
【0026】
本発明の組成物は、所望の組成を達成できていれば構成する化合物に特に制限は無く、好ましくは構成するアルカリ金属及びアルカリ土類金属の臭化物である。具体的には、LiBr、KBr、CaBrなどが利用可能である。Clを含む場合は、さらにLiCl、KCl、CaClを含むことが好ましい。
【0027】
本発明の組成物は、鉄系材料に対する腐食性が低い。鉄系材料に対する腐食性としては、JISZ2290およびJISZ2293に記載の方法で評価することができる。JISZ2290およびJISZ2293に従い、SUS310S鋼材を、大気中650℃の条件下で本発明の組成物に浸漬し、24h接触させる。この際の腐食量から、組成物の鉄系材料に対する腐食速度を算出する。本発明の組成物は、年率換算した場合の腐食速度として0.5mm/年以下の性質を有する。
【0028】
本発明の組成物は、好ましくはNa、Mg、又はZnからなる群の少なくとも1種を金属状態で含む。前述の金属状態とは単体又は合金のいずれかの状態である。これにより、本発明の組成物は、鉄系材料に対してより低い腐食性を示す。ここで、特定の元素を金属状態で含むことは組成物を組成分析することで確認できる。
【0029】
本発明の組成物は、好ましくはMg又Znの少なくともいずれか、さらに好ましくはMgを単体の金属状態で含む。これにより本発明の組成物は、取り扱いが容易になる。
【0030】
これらの原因は定かではないが、上述の金属が組成物中の溶存酸素を除去することにより鉄系材料の腐食を抑制していることが考えられる。すなわち、ハロゲン系溶融塩による金属部材の腐食は、系中に含まれる水や酸素などの酸化物により促進される事が知られている。水分については上述加熱処理等によりある程度除去可能であるが、溶融塩中の溶存酸素については不活性ガスのバブリング等を行っても完全に除去するのが困難な場合がある。そこで酸素との反応性が高い金属を溶融塩に添加する事で、例えば式(1)の反応により系中から酸素を除去する事が可能であり、この結果、ハロゲン系溶融塩による金属部材の腐食速度を大幅に低減している可能性がある。式(2)には酸素との反応性が高い金属(M)の一例として、Mgと酸素との反応式を示す。
xM+y/2O→MxOy・・・(1)
Mg+1/2O→MgO・・・(2)。
【0031】
上述の金属を含む組成物とすることで、例えば大気中650℃の腐食条件においても、一般的なステンレス鋼のひとつであるSUS310S鋼の腐食速度を、プラント設計の目安となる0.1mm/年以下に抑える事が可能となる。この腐食速度以下であれば、例えば配管等の設計減肉量を2mmとすると、計算上は20年以上の寿命を得られる。
【0032】
本発明の組成物は、Li、Na、K、Ca、Mg、Zn、Cl及びBr以外の元素を含む事が出来るが、その結果、耐熱温度が低下する、凝固温度が上昇する、腐食速度が増大するなどの好ましくない影響が有る場合については、不純物の含有量を低く抑える事が好ましい。
【0033】
本発明の組成物は、熱媒体として使用することができる。前記熱媒体は、熱移送システムにおいて好適に用いることができる。
【0034】
本発明の組成物は、蓄熱体として使用することができる。前記蓄熱体は、蓄熱システムにおいて好適に用いることができる。
【0035】
本発明の組成物を利用した熱移送・蓄熱システムの例を図1に示す。
【0036】
前記熱移送システム、または前記蓄熱システムの少なくともいずれかを備える再生可能エネルギープラントは、エネルギー使用効率に優れる。
【0037】
前記熱移送システム、または前記蓄熱システムの少なくともいずれかを備える化学プラントは、エネルギー使用効率に優れる。
【0038】
より詳細には、本発明の組成物は、熱を移送・貯蔵する種々の用途に利用可能であるが、特に再生可能エネルギープラント用や化学プラント用の熱媒体や蓄熱材として好適に利用する事が出来る。再生可能エネルギープラントとしては、太陽熱発電プラント、太陽熱化学水素製造プラント、風力熱発電プラント、風力熱水素製造プラント等に好適に利用する事が出来る。
【0039】
本発明の組成物は高耐熱性で有る為、例えば発電プラントに利用した場合は、より高温の蒸気を利用する事が出来る為、タービンの効率が向上し、より効率的な発電を行う事が出来る。また、水素製造プラントや化学プラントに利用した場合には、反応温度を高める事が出来る為、反応速度の向上や反応収率の向上などが期待できる。
【0040】
本発明の組成物は凝固温度が低い為、特に太陽熱プラントなどで夜間に温度が下がった場合に、熱媒体の凝固防止の為のヒーターの電力を抑える事が出来る、また熱媒体の溶融立上げ時のヒーター電力を抑える事が出来る、あるいは粘性率の低減によるポンプ動力の削減による、エネルギー消費を低減できる等、多くの利点を有する。
【0041】
さらに、最高使用温度と最低使用温度の差であるΔTを大きく取る事が出来る事から、同じ体積の熱媒体で比べた場合、より多くの熱量を移送・貯蔵する事が出来る為、好ましい。再生可能エネルギーにおける電力の平準化は、再生可能エネルギー導入における大きな課題の一つであり、より多くの熱量を貯蔵できると言う事は、より少量の蓄熱材で平準化が行える、あるいはより長時間の平準化が行える事を意味する。
【0042】
また、本発明の組成物は、資源制約が少なく比較的安価な元素で構成されている事から、特にトラフ型の太陽熱プラントなど、集熱部分の配管が非常に長く、さらには夜間運転を実現する為に大型の蓄熱タンクを備えるプラント用などの、大量の熱媒体を使用する用途に好適に用いる事が出来る。
【0043】
なお、本発明の組成物は吸湿性が高く、取り扱い・保管・運搬等は湿度の低い環境で行う事が望ましい。また溶融して熱媒体として使用する前に、200℃程度の温度で予備加熱を行い、十分脱水してから使用する事も可能である。
【0044】
以下、本発明の組成物の製造方法を説明する。
【0045】
本発明の組成物の製造方法は、Li、K、Brを含む原料を混合する混合工程を有する。
【0046】
本発明の組成物の原料は、所望の組成を達成できるものであれば特に制限は無く、構成アルカリ金属及びアルカリ土類金属の臭化物である。具体的には、LiBr、KBr、CaBrなどが利用可能である。
【0047】
また、各金属の水酸化物である、Li(OH)、K(OH)、Ca(OH)の水溶液を、HBrで中和した後、乾燥する事で、本発明の組成物の原料を得る事も可能である。この場合、当該水酸化物と当該臭化水素の各溶液を、目的の組成となるように混合し、この溶液を乾燥する事で直接、組成物を得る事も可能である。
【0048】
具体的には、前記混合物は、以下の組成を有することが好ましい。
[Li] 25原子%以上95原子%以下
[K] 5原子%以上75原子%以下
この場合、原料としてLiBr,KBrを混合して混合物を得ることが好ましい。
【0049】
さらには、前記混合物は以下の組成、
[Li] 25原子%以上75原子%以下
[K] 25原子%以上75原子%以下
[Ca] 0原子%以上45原子%以下
を有することが好ましく、またさらには、以下の組成、
[Li] 25原子%以上65原子%以下
[K] 5原子%以上65原子%以下
[Ca] 5原子%以上45原子%以下
を有することが好ましい。この場合、原料としてLiBr、KBr及びCaBrを混合して混合物を得ることが好ましい。
【0050】
前記混合物は以下の組成、
[Cl] 0原子%以上85原子%以下
[Br] 15原子%以上100原子%以下
を有することが好ましく、さらには以下の組成、
[Cl] 0原子%以上65原子%以下
[Br] 35原子%以上100原子%以下
を有することが好ましい。この場合、原料としてLiBr、KBr、CaBr、LiCl,KCl又はCaCl混合からなる群の少なくとも1種を混合して混合物を得ることが好ましい。
【0051】
原料の形態についても特に制限は無く、粉末、チャンク、塊状原料、融体など様々な形態が利用可能である。粉末の場合はそのまま、チャンクや塊状原料の場合はそのまま若しくは粉砕した物を、所望の組成比となる様に秤量した後、磁性乳鉢、ブレンダー、ボールミル、などの混合手段で混合すれば十分である。
【0052】
本発明の組成物は、前述の混合物を、るつぼ等の耐熱容器に投入したものを600℃程度の温度で溶融し、再凝固させてもよい。すなわち、本発明の組成物の製造方法は、混合工程得られた混合物を550℃以上750℃以下の温度で溶融する溶融工程を有することが好ましい。この場合、当該溶融物を解砕してもよい。
【0053】
また、前記溶融工程では、耐熱容器に上述原料を所望の組成比となる様に秤量した物を投入し、550℃以上750℃以下の温度で加熱溶融し、プロペラ等の撹拌機構により混合する事でも同様に組成物を得る事が出来る。このとき、加熱溶融した液体をポンプ等により配管内を循環させる事によっても混合効果が得られ、同様に組成物を得る事が出来る。
【0054】
また、本発明の組成物が、Na、Mg又はZnからなる群の少なくとも1種を金属状態で含む場合、前述の金属の添加方法としては、組成物中において当該金属が酸素と反応可能な状態となる方法であれば特に制限は無く、あらかじめ組成物の粉末に混合しておく方法、又は組成物を加熱し融解後に別途添加する方法のいずれでもよい。前述の金属状態とは単体または合金の少なくともいずれかである。
【0055】
前述の金属の形状としても特に制限は無く、粉末、小球、チャンク、リボン又はブロックからなる群の少なくとも1種の形状であることが好ましい。発火、爆発等のリスクを低減する為に、小球、チャンク、リボン又はブロックからなる群の少なくとも1種の形状であることが好ましく、組成物中での酸素との反応性を考慮すると、組成物との接触面積が比較的大きな、小球、チャンク又はリボン状からなる群の少なくとも1種の形状が好ましい。
【発明の効果】
【0056】
本発明により、300℃以上800℃以下の温度下で熱媒体として利用可能であり、かつ、当該温度域における鉄系材料に対する腐食性も低いことから、再生エネルギープラント又は化学プラントにおける熱媒体として好適に利用できる組成物を提供する。
【0057】
また、本発明の組成物は、SUS310S鋼材を大気中650℃の条件下で浸漬した際の腐食速度を0.1mm/年以下に抑える事が可能であり、再生可能エネルギープラントや化学プラントで期間使用する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】本発明の組成物を利用した熱移送・蓄熱システムの例である。
図2】比較例1および実施例31、39〜42で得られた組成物の凝固温度を、組成物中のBr比率に対してプロットした図である。
図3】比較例1および実施例31、42で得られた組成物の、SUS310S鋼材に対する腐食速度を組成物中のBr比率に対してプロットした図である。
図4】実施例43〜47で得られた組成物の、SUS310S鋼材に対する腐食速度をMg添加量に対してプロットした図である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0060】
なお、実施例、比較例における各測定方法は以下の通りである。
【0061】
(凝固温度の測定)
試料を白金製サンプルパンに秤取り、リガク製TG−DTA装置TG8120、もしくは日立ハイテクノロジー製TG−DTA装置STA7200RVを用いて、流量200ml/分の不活性ガス(ArもしくはN)中で、10℃/分の速度で600℃(もしくは700℃)まで昇温し、30分間保持した後、10℃/分の速度で降温した際に現れる最初のピーク(初晶ピーク)について、ピークの高温側より計測した外挿温度を凝固温度とした。
【0062】
(耐熱温度の測定)
試料を白金製サンプルパンに秤取り、リガク製TG−DTA装置(TG8120)を用いて、Arガス中(200ml/分フロー)、10℃/分の速度で昇温した際に、重量が基準値より3%減少する温度を耐熱温度とした。なお、試料中の水分による重量減少の影響を除去する為、300℃での重量を基準値として耐熱温度を求めた。
【0063】
(腐食性試験)
JISZ2290およびJISZ2293に準拠して腐食性の評価を行った。すなわち、SUS310S鋼材(約15×15×1mmt)を組成物粉末中に埋設し、これを大気中200℃−12時間脱水処理したのち、引き続き大気中650℃で24時間保持した。試験後のSUS310S鋼材を、金属腐食抑制剤(インヒビター)を添加した10%塩酸水溶液に10分間浸漬後、軟質研磨材を用いてゴムシート上で研摺を5分間行い、鋼材表面に形成されたスケールの除去を行った。さらに、このスケール除去作業を3回繰り返した。腐食試験前の鋼材重量とスケール除去後の鋼材重量、および鋼材の表面積から、年率換算の腐食速度[mm/年]を求めた。
【0064】
実施例1〜38
LiCl、KBr、CaCl(全て和光純薬製特級グレード)の各試薬を、表1に示す組成比となる様に所定量を計り取り、乳鉢で混合した後、磁製るつぼに投入し、200℃で10時間脱水処理を施したのち、大気中600℃(融点の高い組成については700℃)で1時間溶融した。得られた溶融物をるつぼから取出し、乳鉢で解砕し評価用の試料とした。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1〜38の凝固温度及び耐熱温度を表1に示す。50%LiCl−40%KBr−10%CaCl組成(実施例31)に於いて、最も低い凝固温度311℃を示した。
【0067】
比較例1、実施例39〜42
LiCl、KCl、CaCl、LiBr、KBr、CaBr(全て和光純薬製特級グレード)の各試薬を表2に示す組成比となる様に、実施例1〜38と同様の手順で調合し、組成物を作製した。つぎに実施例1〜38と同様の手順で組成物の凝固温度および耐熱温度を求めた。
【0068】
【表2】
【0069】
比較例1、実施例31、39〜42の凝固温度及び耐熱温度を表2に示す。また、ハロゲンの総量(Cl+Br)に対するBrの比を横軸に、凝固温度を縦軸にプロットした図を示す(図2)。Brが20原子%以上では、Brの増加と共に凝固温度が低下して行き、Brが80原子%付近で最小値である270℃(実施例41)を示した。
【0070】
つぎに、JISZ2290およびJISZ2293に準拠し腐食試験を行った。まず、比較例1、実施例31、実施例42の各組成物を粉砕した粉末約40gを、各々磁製るつぼに投入した。その際、砥粒番手#500で表面を研磨したSUS310S鋼材(約15×15×1mmt)を各組成物粉末中に埋設し、これを大気中650℃で24時間保持し腐食試験を行った。次に腐食試験後のSUS310S鋼材を、金属腐食抑制剤(インヒビター)を添加した10%塩酸水溶液に10分間浸漬後、軟質研磨材を用いてゴムシート上で研摺を5分間行い、鋼材表面に形成されたスケールの除去を行った。さらに、このスケール除去作業を3回繰り返した。腐食試験前の鋼材重量とスケール除去後の鋼材重量、および鋼材の表面積から、年率換算の腐食速度[mm/年]を求めた。
【0071】
【表3】
【0072】
比較例1、実施例31、実施例42の腐食速度を表3に示す。また、ハロゲンの総量(Cl+Br)に対するBrの比を横軸に、腐食速度を縦軸にプロットした図を示す(図3)。
【0073】
実施例43
実施例31と同様の方法により溶融塩組成物を作製し、実施例31と同様の方法でSUS310S鋼材(約15×15×1mmt)を溶融塩組成物粉末中に埋設した。これを大気中200℃−12時間脱水処理したのち、引き続き大気中650℃で24時間保持し腐食試験を行った以外は実施例31と同様の手順で、年率換算の腐食速度[mm/年]を求めた。
【0074】
実施例44〜47
実施例31と同様の方法で組成物を作製し、作製した粉末中に鋼材を埋設後、金属Mgリボン(高純度化学製、99.9%、テープ状)を組成物に対して表4に示す組成比となる様に計り取り組成物粉末の表層に埋設した以外は、実施例43と同様の方法で腐食試験を行い、腐食速度を求めた。
【0075】
【表4】
【0076】
表4および図4に実施例43〜47の、SUS310S鋼材に対する腐食速度を示す。Mg添加量が増えると共に腐食速度が低下し、Mg添加量4%以上では、0.1mm/年以下の腐食速度を示した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の組成物は、再生可能エネルギープラントや化学プラントの、熱媒体や蓄熱材として利用できる。
図1
図2
図3
図4