【課題を解決するための手段】
【0016】
本課題を解決する為、筆者らが鋭意検討したところによれば、Li、K及びBrを含む組成物が、300℃以上800℃以下の温度下で熱媒体として利用可能であり、かつ、当該温度域における鉄系材料に対する腐食性も低いことから、熱媒体として好適に使用可能であることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明はLi、K、及びBrを含む組成物を提供することをその要旨とする。
【0018】
以下、本発明の組成物について説明する。
【0019】
本発明は、Li、K及びBrを含む組成物(以下、「本発明の組成物」という。)である。これにより耐熱性に優れ、なおかつ、鉄系材料に対する腐食性が低くなる。当該組成物は、広い温度範囲における熱媒体として好適に使用できる。また、好ましくは本発明の組成物はLiBr及びKBrを含む。
【0020】
本発明の組成物は以下の組成、
[Li] 25原子%以上95原子%以下
[K] 5原子%以上75原子%以下
を有することが好ましい。ここで[Li]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総モル量に対する、Liの含有モル量の比の百分率を表し、[K]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総モル量に対する、Kの含有モル量の比の百分率を表す。
【0021】
さらには、本発明の組成物は以下の組成、
[Li] 25原子%以上75原子%以下
[K] 25原子%以上75原子%以下
[Ca] 0原子%以上45原子%以下
を有することが好ましい。ここで[Ca]は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総モル量に対する、Caの含有モル量の比の百分率を表す。
【0022】
本発明の組成物は、好ましくはCaを含む。この場合、好ましくは本発明の組成物はCaBr
2を含む。これにより、本発明の組成物はより低い腐食性を示す。
【0023】
またさらには、本発明の組成物は以下の組成、
[Li] 25原子%以上65原子%以下
[K] 5原子%以上65原子%以下
[Ca] 5原子%以上45原子%以下
の組成を有することが好ましい。これにより、より凝固温度の低い組成物を提供する事が出来る。
【0024】
本発明の組成物は以下の組成を有することが好ましい。
[Cl] 0原子%以上 85原子%以下
[Br] 15原子%以上100原子%以下
ここで[Cl]は、ハロゲン元素の総モル量に対する、Clの含有モル量の比の百分率を表し、[Br]は、ハロゲン元素の総モル量に対する、Brの含有モル量の比の百分率を表す。これにより、凝固温度を300℃以下に抑える事が可能となり、熱媒体として利用した際にポンプ動力をより低く抑える事が可能となる。
【0025】
さらには、本発明の組成物は以下の組成、
[Cl] 0原子%以上 65原子%以下
[Br] 35原子%以上100原子%以下
を有することが好ましい。これにより、鉄系材料に対する腐食性を著しく低減できる組成物となる。
【0026】
本発明の組成物は、所望の組成を達成できていれば構成する化合物に特に制限は無く、好ましくは構成するアルカリ金属及びアルカリ土類金属の臭化物である。具体的には、LiBr、KBr、CaBr
2などが利用可能である。Clを含む場合は、さらにLiCl、KCl、CaCl
2を含むことが好ましい。
【0027】
本発明の組成物は、鉄系材料に対する腐食性が低い。鉄系材料に対する腐食性としては、JISZ2290およびJISZ2293に記載の方法で評価することができる。JISZ2290およびJISZ2293に従い、SUS310S鋼材を、大気中650℃の条件下で本発明の組成物に浸漬し、24h接触させる。この際の腐食量から、組成物の鉄系材料に対する腐食速度を算出する。本発明の組成物は、年率換算した場合の腐食速度として0.5mm/年以下の性質を有する。
【0028】
本発明の組成物は、好ましくはNa、Mg、又はZnからなる群の少なくとも1種を金属状態で含む。前述の金属状態とは単体又は合金のいずれかの状態である。これにより、本発明の組成物は、鉄系材料に対してより低い腐食性を示す。ここで、特定の元素を金属状態で含むことは組成物を組成分析することで確認できる。
【0029】
本発明の組成物は、好ましくはMg又Znの少なくともいずれか、さらに好ましくはMgを単体の金属状態で含む。これにより本発明の組成物は、取り扱いが容易になる。
【0030】
これらの原因は定かではないが、上述の金属が組成物中の溶存酸素を除去することにより鉄系材料の腐食を抑制していることが考えられる。すなわち、ハロゲン系溶融塩による金属部材の腐食は、系中に含まれる水や酸素などの酸化物により促進される事が知られている。水分については上述加熱処理等によりある程度除去可能であるが、溶融塩中の溶存酸素については不活性ガスのバブリング等を行っても完全に除去するのが困難な場合がある。そこで酸素との反応性が高い金属を溶融塩に添加する事で、例えば式(1)の反応により系中から酸素を除去する事が可能であり、この結果、ハロゲン系溶融塩による金属部材の腐食速度を大幅に低減している可能性がある。式(2)には酸素との反応性が高い金属(M)の一例として、Mgと酸素との反応式を示す。
xM+y/2O
2→MxOy・・・(1)
Mg+1/2O
2→MgO・・・(2)。
【0031】
上述の金属を含む組成物とすることで、例えば大気中650℃の腐食条件においても、一般的なステンレス鋼のひとつであるSUS310S鋼の腐食速度を、プラント設計の目安となる0.1mm/年以下に抑える事が可能となる。この腐食速度以下であれば、例えば配管等の設計減肉量を2mmとすると、計算上は20年以上の寿命を得られる。
【0032】
本発明の組成物は、Li、Na、K、Ca、Mg、Zn、Cl及びBr以外の元素を含む事が出来るが、その結果、耐熱温度が低下する、凝固温度が上昇する、腐食速度が増大するなどの好ましくない影響が有る場合については、不純物の含有量を低く抑える事が好ましい。
【0033】
本発明の組成物は、熱媒体として使用することができる。前記熱媒体は、熱移送システムにおいて好適に用いることができる。
【0034】
本発明の組成物は、蓄熱体として使用することができる。前記蓄熱体は、蓄熱システムにおいて好適に用いることができる。
【0035】
本発明の組成物を利用した熱移送・蓄熱システムの例を
図1に示す。
【0036】
前記熱移送システム、または前記蓄熱システムの少なくともいずれかを備える再生可能エネルギープラントは、エネルギー使用効率に優れる。
【0037】
前記熱移送システム、または前記蓄熱システムの少なくともいずれかを備える化学プラントは、エネルギー使用効率に優れる。
【0038】
より詳細には、本発明の組成物は、熱を移送・貯蔵する種々の用途に利用可能であるが、特に再生可能エネルギープラント用や化学プラント用の熱媒体や蓄熱材として好適に利用する事が出来る。再生可能エネルギープラントとしては、太陽熱発電プラント、太陽熱化学水素製造プラント、風力熱発電プラント、風力熱水素製造プラント等に好適に利用する事が出来る。
【0039】
本発明の組成物は高耐熱性で有る為、例えば発電プラントに利用した場合は、より高温の蒸気を利用する事が出来る為、タービンの効率が向上し、より効率的な発電を行う事が出来る。また、水素製造プラントや化学プラントに利用した場合には、反応温度を高める事が出来る為、反応速度の向上や反応収率の向上などが期待できる。
【0040】
本発明の組成物は凝固温度が低い為、特に太陽熱プラントなどで夜間に温度が下がった場合に、熱媒体の凝固防止の為のヒーターの電力を抑える事が出来る、また熱媒体の溶融立上げ時のヒーター電力を抑える事が出来る、あるいは粘性率の低減によるポンプ動力の削減による、エネルギー消費を低減できる等、多くの利点を有する。
【0041】
さらに、最高使用温度と最低使用温度の差であるΔTを大きく取る事が出来る事から、同じ体積の熱媒体で比べた場合、より多くの熱量を移送・貯蔵する事が出来る為、好ましい。再生可能エネルギーにおける電力の平準化は、再生可能エネルギー導入における大きな課題の一つであり、より多くの熱量を貯蔵できると言う事は、より少量の蓄熱材で平準化が行える、あるいはより長時間の平準化が行える事を意味する。
【0042】
また、本発明の組成物は、資源制約が少なく比較的安価な元素で構成されている事から、特にトラフ型の太陽熱プラントなど、集熱部分の配管が非常に長く、さらには夜間運転を実現する為に大型の蓄熱タンクを備えるプラント用などの、大量の熱媒体を使用する用途に好適に用いる事が出来る。
【0043】
なお、本発明の組成物は吸湿性が高く、取り扱い・保管・運搬等は湿度の低い環境で行う事が望ましい。また溶融して熱媒体として使用する前に、200℃程度の温度で予備加熱を行い、十分脱水してから使用する事も可能である。
【0044】
以下、本発明の組成物の製造方法を説明する。
【0045】
本発明の組成物の製造方法は、Li、K、Brを含む原料を混合する混合工程を有する。
【0046】
本発明の組成物の原料は、所望の組成を達成できるものであれば特に制限は無く、構成アルカリ金属及びアルカリ土類金属の臭化物である。具体的には、LiBr、KBr、CaBr
2などが利用可能である。
【0047】
また、各金属の水酸化物である、Li(OH)、K(OH)、Ca(OH)
2の水溶液を、HBrで中和した後、乾燥する事で、本発明の組成物の原料を得る事も可能である。この場合、当該水酸化物と当該臭化水素の各溶液を、目的の組成となるように混合し、この溶液を乾燥する事で直接、組成物を得る事も可能である。
【0048】
具体的には、前記混合物は、以下の組成を有することが好ましい。
[Li] 25原子%以上95原子%以下
[K] 5原子%以上75原子%以下
この場合、原料としてLiBr,KBrを混合して混合物を得ることが好ましい。
【0049】
さらには、前記混合物は以下の組成、
[Li] 25原子%以上75原子%以下
[K] 25原子%以上75原子%以下
[Ca] 0原子%以上45原子%以下
を有することが好ましく、またさらには、以下の組成、
[Li] 25原子%以上65原子%以下
[K] 5原子%以上65原子%以下
[Ca] 5原子%以上45原子%以下
を有することが好ましい。この場合、原料としてLiBr、KBr及びCaBr
2を混合して混合物を得ることが好ましい。
【0050】
前記混合物は以下の組成、
[Cl] 0原子%以上85原子%以下
[Br] 15原子%以上100原子%以下
を有することが好ましく、さらには以下の組成、
[Cl] 0原子%以上65原子%以下
[Br] 35原子%以上100原子%以下
を有することが好ましい。この場合、原料としてLiBr、KBr、CaBr
2、LiCl,KCl又はCaCl
2混合からなる群の少なくとも1種を混合して混合物を得ることが好ましい。
【0051】
原料の形態についても特に制限は無く、粉末、チャンク、塊状原料、融体など様々な形態が利用可能である。粉末の場合はそのまま、チャンクや塊状原料の場合はそのまま若しくは粉砕した物を、所望の組成比となる様に秤量した後、磁性乳鉢、ブレンダー、ボールミル、などの混合手段で混合すれば十分である。
【0052】
本発明の組成物は、前述の混合物を、るつぼ等の耐熱容器に投入したものを600℃程度の温度で溶融し、再凝固させてもよい。すなわち、本発明の組成物の製造方法は、混合工程得られた混合物を550℃以上750℃以下の温度で溶融する溶融工程を有することが好ましい。この場合、当該溶融物を解砕してもよい。
【0053】
また、前記溶融工程では、耐熱容器に上述原料を所望の組成比となる様に秤量した物を投入し、550℃以上750℃以下の温度で加熱溶融し、プロペラ等の撹拌機構により混合する事でも同様に組成物を得る事が出来る。このとき、加熱溶融した液体をポンプ等により配管内を循環させる事によっても混合効果が得られ、同様に組成物を得る事が出来る。
【0054】
また、本発明の組成物が、Na、Mg又はZnからなる群の少なくとも1種を金属状態で含む場合、前述の金属の添加方法としては、組成物中において当該金属が酸素と反応可能な状態となる方法であれば特に制限は無く、あらかじめ組成物の粉末に混合しておく方法、又は組成物を加熱し融解後に別途添加する方法のいずれでもよい。前述の金属状態とは単体または合金の少なくともいずれかである。
【0055】
前述の金属の形状としても特に制限は無く、粉末、小球、チャンク、リボン又はブロックからなる群の少なくとも1種の形状であることが好ましい。発火、爆発等のリスクを低減する為に、小球、チャンク、リボン又はブロックからなる群の少なくとも1種の形状であることが好ましく、組成物中での酸素との反応性を考慮すると、組成物との接触面積が比較的大きな、小球、チャンク又はリボン状からなる群の少なくとも1種の形状が好ましい。