(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記架橋性基を有する単量体が、水酸基、加水分解性シリル基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基またはオキセタニル基を有する単量体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水性分散液。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「単量体に基づく単位」とは、単量体1分子が重合することで直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換することで得られる原子団との総称である。なお、単量体に基づく単位は、以下、単に「単位」ともいう。
含フッ素重合体が有する各単位の含有量(モル%)は、含フッ素重合体を核磁気共鳴スペクトル法により分析して求められるが、各単量体の仕込量からも推算できる。
「架橋性基」とは、硬化剤と反応することにより架橋構造を形成可能な基、または架橋性基同士が反応して架橋構造を形成可能な基を意味する。
「硬化剤」とは、「架橋性基」と反応可能な基を2個以上有し、架橋性基と反応することにより架橋構造を形成可能な化合物を意味する。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの総称である。
【0011】
本発明の水性分散液は、フルオロオレフィンに基づく単位および架橋性基を有する単量体に基づく単位を有する含フッ素重合体が水性媒体に分散した水性分散液であり、過硫酸塩およびその分解物からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分(以下、「塩成分」ともいう。)を含み、塩成分の含有量が、含フッ素重合体の100gに対して過硫酸塩換算で0.01〜0.22mmolである。
本発明の水性分散液は、後述の水性分散液の製造方法で説明する重合法により得られた水性分散液である。したがって、本発明の水性分散液は、水性媒体、含フッ素重合体および塩成分を少なくとも含んでおり、これら以外に重合の際に用いた成分を含んでいてもよい。重合の際に用いる成分としては、後述の水性分散液の製造方法で説明する乳化剤、連鎖移動剤等が挙げられる。
【0012】
本発明における水性媒体としては、水、または水と水溶性有機溶媒の混合物である。
水溶性有機溶媒としては、tert−ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
水性媒体が水溶性有機溶媒を含有すると、重合時の水性媒体への単量体の分散性、および生成した含フッ素重合体の分散性が向上し、生産性が向上する。
水溶性有機溶媒の含有量は、水100質量部に対して、1〜40質量部が好ましく、3〜30質量部がより好ましい。
【0013】
本発明における含フッ素重合体は、フルオロオレフィン(以下、「単量体1」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位1」ともいう。)および架橋性基を有する単量体(以下、「単量体2」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位2」ともいう。)を有する。
含フッ素重合体は、必要に応じて、単量体1および単量体2以外の単量体(以下、「単量体3」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位3」ともいう。)をさらに有していてもよい。
【0014】
水性分散液中の含フッ素重合体の含有量は、水性分散液の全質量に対して、10〜70質量%が好ましく、20〜60質量%が特に好ましい。含フッ素重合体の含有量が上記下限値以上であれば、重合が速やかに進行し高い反応率が得られる。一方、上限値以下であれば、水性分散液中での含フッ素重合体の分散安定性と、その着色安定性がより優れる。
【0015】
本発明における単量体1は、オレフィンの水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された化合物である。単量体1においては、フッ素原子で置換されていない水素原子の1個以上が塩素原子で置換されていてもよい。
単量体1としては、CF
2=CF
2、CF
2=CFCl、CF
2=CHF、CH
2=CF
2、CF
2=CFCF
3およびCF
2=CHCF
3が好ましく、得られる塗膜の耐候性の点から、CF
2=CF
2およびCF
2=CFClがより好ましく、CF
2=CFClが特に好ましい。
単量体1は、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明における単量体2の架橋性基は、水酸基、加水分解性シリル基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基またはオキセタニル基が好ましく、水酸基またはカルボキシ基が特に好ましい。
【0017】
架橋性基が水酸基である単量体2(水酸基を有する単量体)としては、ヒドロキシアルキルビニルエーテル(ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等。)、水酸基とビニルオキシ基を有するシクロアルカン(シクロへキサンジメタノールモノビニルエーテル等。)、エチレングリコールモノビニルエーテル(ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル等。)、ヒドロキシアルキルアリルエーテル(ヒドロキシエチルアリルエーテル、ヒドロキシブチルアリルエーテル等)、水酸基とアリルオキシ基を有するシクロアルカン(シクロへキサンジメタノールモノアリルエーテル等)、ヒドロキシアルキルビニルエステル(ヒドロキシエチルカルボン酸ビニルエステル、ヒドロキシブチルカルボン酸ビニルエステル等。)、水酸基とビニルオキシカルボニル基を有するシクロアルカン(((ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メトキシ)酢酸ビニルエステル等。)、ヒドロキシアルキルカルボン酸アリルエステル(ヒドロキシエチルカルボン酸アリルエステル、ヒドロキシブチルカルボン酸アリルエステル等。)、水酸基とアリルオキシカルボニル基を有するシクロアルカン(((ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メトキシ)酢酸アリルエステル等。)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等。)が挙げられる。水酸基を有する単量体としては、ヒドロキシアルキルビニルエーテルおよびヒドロキシアルキルアリルエーテルが好ましく、ヒドロキシアルキルビニルエーテルが特に好ましい。
【0018】
架橋性基がカルボキシ基である単量体2(カルボキシ基を有する単量体)としては、不飽和モノカルボン酸(3−ブテン酸、4−ペンテン酸、2−ヘキセン酸、3−ヘキセン酸、5−ヘキセン酸、2−ヘプテン酸、3−ヘプテン酸、6−ヘプテン酸、3−オクテン酸、7−オクテン酸、2−ノネン酸、3−ノネン酸、8−ノネン酸、9−デセン酸、10−ウンデセン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、桂皮酸等。)、飽和モノカルボン酸ビニルエーテル(ビニルオキシ吉草酸、3−ビニルオキシプロピオン酸、3−(2−ビニルオキシブトキシカルボニル)プロピオン酸、3−(2−ビニルオキシエトキシカルボニル)プロピオン酸等。)、飽和モノカルボン酸アリルエーテル(アリルオキシ吉草酸、3−アリルオキシプロピオン酸、3−(2−アリロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸、3−(2−アリロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸等。)、飽和多価カルボン酸モノビニルエステル(アジピン酸モノビニル、コハク酸モノビニル、フタル酸ビニル、ピロメリット酸ビニル等。)、不飽和ジカルボン酸またはその分子内酸無水物(イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物等。)、不飽和カルボン酸モノエステル(イタコン酸モノエステル、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル等。)が挙げられる。カルボキシ基を有する単量体としては、不飽和モノカルボン酸が好ましく、10−ウンデセン酸およびクロトン酸が好ましい。
【0019】
架橋性基が加水分解性シリル基である単量体2(加水分解性シリル基を有する単量体)としては、(CH
2=CHC(O)O(CH
2)
3Si(OCH
3)
3、CH
2=CHC(O)O(CH
2)
3Si(OC
2H
5)
3、CH
2=C(CH
3)C(O)O(CH
2)
3Si(OCH
3)
3、CH
2=C(CH
3)C(O)O(CH
2)
3Si(OC
2H
5)
3、CH
2=CHC(O)O(CH
2)
3SiCH
3(OC
2H
5)
2、CH
2=C(CH
3)C(O)O(CH
2)
3SiC
2H
5(OCH
3)
2、CH
2=C(CH
3)C(O)O(CH
2)
3Si(CH
3)
2(OC
2H
5)、CH
2=C(CH
3)C(O)O(CH
2)
3Si(CH
3)
2OH、CH
2=CHC(O)O(CH
2)
3Si(OCOCH
3)
3、CH
2=C(CH
3)C(O)O(CH
2)
3SiC
2H
5(OCOCH
3)
2、CH
2=C(CH
3)C(O)O(CH
2)
3SiCH
3(N(CH
3)COCH
3)
2、CH
2=CHC(O)O(CH
2)
3SiCH
3[ON(CH
3)C
2H
5]
2、CH
2=C(CH
3)C(O)O(CH
2)
3SiC
6H
5[ON(CH
3)C
2H
5]
2等の加水分解性シラン基を有する(メタ)アクリレート、CH
2=CHSi[ON=C(CH
3)(C
2H
5)]
3、CH
2=CHSi(OCH
3)
3、CH
2=CHSi(OC
2H
5)
3、CH
2=CHSiCH
3(OCH
3)
2、CH
2=CHSi(OCOCH
3)
3、CH
2=CHSi(CH
3)
2(OC
2H
5)、CH
2=CHSi(CH
3)
2SiCH
3(OCH
3)
2、CH
2=CHSiC
2H
5(OCOCH
3)
2、CH
2=CHSiCH
3[ON(CH
3)C
2H
5]
2、CH
2=CHSiCl
3等のビニルシラン、加水分解性シラン基を有するビニルエーテルが挙げられる。加水分解性シリル基を有する単量体は、部分的に加水分解された縮合物であってもよい。
【0020】
架橋性基がアミノ基である単量体2(アミノ基を有する単量体)としては、アミノアルキルビニルエーテル、アミノアルキルビニルエステル、アミノメチルスチレン、ビニルアミン、アクリルアミド、ビニルアセトアミド、ビニルホルムアミド等が挙げられる。
架橋性基がイソシアネート基である単量体2(イソシアネート基を有する単量体)としては、2−イソシアネートエチルメタクリレート、2−イソシアネートエチルアクリレート、2−イソシアネートエチルエトキシメタクリレート、2−イソシアネートエチルビニルエーテル等が挙げられる。
架橋性基がエポキシ基である単量体2(エポキシ基を有する単量体)としては、グリシジルビニルエーテル、グリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロへキシルメチルメタクリレート、3,4−エポキシシクロへキシルメチルビニルエーテル、4−ビニロキシメチルシクロへキシルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0021】
他の単量体2の好ましい例示としては、架橋性基と親水性部位を有する単量体(以下、「マクロモノマー」ともいう。)が挙げられる。
親水性部位とは、親水性基を有する部位か親水性の結合を有する部位、またはこれらの部位の組合せからなる部位を意味する。親水性基としては、イオン性、ノニオン性、両性のいずれであってもよい。
水性分散液の化学的安定性の点からは、ノニオン性または両性の親水性基を有する部位と他の親水性基を有する部位とを組合せるか、または親水性基を有する部位と親水性の結合を有する部位とを組合せるのが好ましい。
【0022】
マクロモノマーの具体例としては、J−Q−[O−Y−]
n−ORで表される化合物、J−Q−O(C(O)−Z−O−)
mRで表される化合物等が挙げられる(ただし、それぞれの式中、Jはビニルオキシ基またはアリルオキシ基、Qは炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数6〜10の環構造を有するアルキレン基、Yは炭素数1〜4のアルキレン基、Rは水素原子、nは2〜20の整数、Zは炭素数1〜10のアルキレン基、mは1〜30の整数を示す。以下同様)。
−[O−Y−]−で表される基は、オキシエチレン基(すなわち、Yがジメチレン基である。)が好ましい。また、−[O−Y−]
n−で表される親水性部位は、2種以上の−[O−Y−]−で表される基(たとえば、−OCH
2CH
2−と−OCH
2CH(CH
3)−)で構成されていてもよい。2種以上の基で構成される場合のそれぞれの基は、ブロック、ランダムのいずれの型で配列されていてもよい。
マクロモノマーとしては、J−Q−[O−Y−]
n−OHで表される化合物(ただし、J、Q、nは上記の通り。Yは炭素数2〜4のアルキレン基(ただし、n個のYの少なくとも一部はジメチレン基である。)が好ましい。Yがジメチレン基以外のアルキレン基である場合は、−CH
2CH(CH
3)−が好ましい。n個のYの50%以上がジメチレン基であることが好ましく、80〜100%がジメチレン基であることがより好ましい。
【0023】
また、マクロモノマーは、親水性のエチレン性不飽和単量体がラジカル重合した鎖を有し、片末端にビニルオキシ基またはアリルオキシ基等のラジカル重合性不飽和基を有する単量体であってもよい。
かかるマクロモノマーは、Polym.Bull.,5.335(1981)に記載される方法により製造できる。すなわち、縮合可能な官能基を有する重合開始剤および連鎖移動剤の存在下に親水性基を有するエチレン性不飽和単量体をラジカル重合させて縮合可能な官能基を有する重合体を製造する。次いで、この重合体の官能基にグリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテル等の化合物を反応させ、末端にラジカル重合性不飽和基を導入する方法である。
エチレン性不飽和単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、ジアセトンアクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートおよびビニルピロリドン等が挙げられる。
単量体2は、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明における単量体3は、特に限定されず、オレフィン(エチレン、プロピレン等。)、アルキルビニルエーテル(エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等。)、シクロアルキルビニルエーテル(シクロヘキシルビニルエーテル等。)、アルキルビニルエステル(ブタン酸ビニルエステル、オクタン酸ビニルエステル、ピバリン酸ビニルエステル等。)、アルキルアリルエステル(ブタン酸アリルエステル、オクタン酸アリルエステル、ピバリン酸アリルエステル等。)、芳香族ビニル(スチレン、ビニルトルエン等。)、アリルエーテル(エチルアリルエーテル等。)、(メタ)アクリレート(メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等。)が挙げられる。単量体3としては、アルキルビニルエーテル、シクロアルキルビニルエーテルおよびアルキルビニルエステルが好ましい。
【0025】
また、他の単量体3としては、前述した、J−Q−[O−Y−]
n−ORで表される化合物、またはJ−Q−O(C(O)−Z−O)
mRで表される化合物であって、Rが炭素数1〜3のアルキル基に置換された化合物を挙げられる。
【0026】
本発明における含フッ素重合体は、単位1としてCF
2=CF
2またはCF
2=CFClに基づく単位を有し、単位2としてヒドロキシアルキルビニルエーテルまたはCH
2=CHO−Q−[O−Y−]
n−OHで表される化合物に基づく単位を有する重合体であるか、単位1としてCF
2=CF
2またはCF
2=CFClに基づく単位を有し、単位2としてヒドロキシアルキルビニルエステルまたはCH
2=CHCH
2O−Q−[O−Y−]
n−OHで表される化合物に基づく単位を有する重合体であるのが好ましい。
【0027】
本発明における含フッ素重合体において、単位2の含有量(モル%)に対する単位1の含有量(モル%)の割合(単位1の含有量/単位2の含有量)は、0.5〜800が好ましく、1.5〜300がより好ましい。該割合が、この範囲にあれば、水性分散液における分散性がより向上するだけでなく、得られる塗膜の耐候性、耐水性がより良好になる。
本発明における含フッ素重合体が単位3をさらに含む場合においては、単位1と単位2の総含有量に対する単位3の含有量の割合(単位3の含有量/単位1の含有量と単位2の含有量の和)は、0.1〜1.5が好ましい。
含フッ素重合体中の単位1の含有量は、含フッ素重合体が有する全単位に対して、30〜70モル%が好ましく、35〜65モル%がより好ましく、40〜60モル%がさらに好ましい。
含フッ素重合体中の単位2の含有量は、含フッ素重合体が有する全単位に対して、0.5〜30モル%が好ましく、1.0〜20モル%がより好ましく、1.5〜15モル%がさらに好ましい。
含フッ素重合体中の単位3の含有量は、含フッ素重合体が有する全単位に対して、20〜70モル%が好ましく、25〜65モル%がより好ましく、30〜60モル%がさらに好ましい。
【0028】
本発明における含フッ素重合体の好適な具体的としては、重合体の全単位の合計量に対して、単位1を29.5〜70モル%、単位2を0.5〜30モル%および単位3を20〜70モル%有する重合体が挙げられ、更に好適な具体例としては、単位1を34〜65モル%、単位2を1.0〜20モル%および単位3を25〜65モル%有する重合体が挙げられる。
【0029】
本発明の水性分散液において、含フッ素重合体は水性媒体中に粒子状に分散しているのが好ましい。粒子状に分散した含フッ素重合体の平均粒子径は、200nm以下が好ましく、180nm以下が特に好ましい。下限値は、一般に50nmである。平均粒子径が200nm以下である場合、水性分散液の着色安定性の効果が顕著となる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
水性分散液に分散する含フッ素重合体の粒子の平均粒子径が小さい程、含フッ素重合体の粒子と塩成分に由来する着色成分との相互作用(光散乱等。)が強くなると考えられる。さらに含フッ素重合体が有する架橋性基が水酸基またはカルボキシ基である場合は、特に水性分散液の着色安定性が低下しやすいと考えられる。しかし、本発明における塩成分の含有量の規定が、かかる着色安定性の低下を抑制する要因として顕著に機能する。その結果、含フッ素重合体の粒子の平均粒子径が小さい場合でも、本発明の水性分散液は着色安定性に優れていると考えられる。
なお、含フッ素重合体の平均粒子径は、ELS−8000(大塚電子株式会社製)を用いて動的光散乱法により求められるD50の値である。ここで、D50は、動的光散乱法により測定した粒子の粒度分布において、小さな粒子側から起算した体積累計50体積%の粒子直径を表す。
【0030】
本発明における塩成分は、含フッ素重合体を製造する際に重合開始剤として用いた過硫酸塩の残存物および/または過硫酸塩の分解物である。重合の際に重合開始剤の使用量が多いと、水性分散液中の塩成分の含有量が多くなり、使用量が少ないと、その含有量が少なくなる。塩成分は、貯蔵時に更に分解するなどして水性分散液の着色の原因となるだけでなく、水性分散液のpHの経時的な低下の原因ともなる。
本発明における過硫酸塩は、過硫酸アンモニウム塩、過硫酸カリウム塩、または過硫酸ナトリウム塩が好ましい。
【0031】
水性分散液中の塩成分の含有量は、含フッ素重合体の100gに対して、過硫酸塩換算で0.01〜0.22mmolであり、0.01〜0.15mmolが好ましく、0.01〜0.10mmolがより好ましく、0.01〜0.05mmolがさらに好ましい。なお、塩成分の含有量とは、過硫酸塩およびその分解物の合計含有量である(過硫酸塩およびその分解物のいずれか一方を含まない場合も含む。)。
塩成分の含有量が上記下限値以上であれば、重合が速やかに進行し、単量体が高い反応率で重合するため、効率的に含フッ素重合体が得られる。
塩成分の含有量が上記上限値以下であれば、水性分散液、水性塗料および水性塗料から形成される塗膜(以下、本塗膜ともいう。)の着色安定性が優れるだけでなく、水性分散液および水性塗料のpH安定性が良好になる。その結果、水性分散液および水性塗料のチクソ性の安定性が良好となる。
【0032】
さらに、水性分散液および水性塗料の経時による着色安定性が良好になるため、本塗膜の着色安定性がさらに良好になる。また、水性塗料のチクソ性の安定性が良好になるため、水性塗料の「塗りやすさ・垂れにくさ」が向上し、物品(被塗装物)に対し均一に塗装でき、本塗膜の均一性が向上する。
つまり、水性分散液から水性塗料を調製する際には、通常、増粘剤を添加して水性塗料のチクソ性を適切な範囲に調整する。増粘剤の作用は、水性分散液のpHの影響を受けるため、水性分散液のpHが経時的に変化すると水性塗料のチクソ性も変化してしまい、調整した範囲から外れて、塗装の際の均一性が低下してしまうが、本発明の水性分散液および水性塗料では、塗装の均一性が低下しない。
【0033】
本発明の水性分散液の製造方法は、前記本発明の水性分散液の製造方法であって、単量体1および単量体2を含む単量体混合物を、過硫酸塩の存在下、水性媒体中で重合させる方法である。
過硫酸塩の使用量は、単量体混合物の総量100gに対して0.01〜0.22mmolである。
単量体混合物は、必要に応じて、単量体3をさらに含んでもよい。
ここで、単量体1、単量体2および単量体3のそれぞれ種類および水性媒体の定義は、前述の本発明の水性分散液で説明したとおりである。また、含フッ素重合体の好適態様も、本発明の水性分散液で説明した通りである。
【0034】
たとえば、単量体1、単量体2、および必要に応じて使用される単量体3は、製造される含フッ素重合体の単位1と単位2と単位3が所望の割合になるように使用できる。
含フッ素重合体の好適な具体例としては、単位2の含有量(モル%)に対する単位1の含有量(モル%)の割合(単位1の含有量/単位2の含有量)が、0.5〜800である含フッ素重合体が挙げられ、より好適には1.5〜300である含フッ素重合体が挙げられる。
また、含フッ素重合体が単位3をさらに含む場合においては、単位1と単位2の総含有量に対する単位3の含有量の割合(単位3の含有量/単位1の含有量と単位2の含有量の和)が、0.1〜1.5である含フッ素重合体が挙げられる。
単量体1と単量体2の総モル数に対する単量体3のモル数の割合(単量体3のモル数/(単量体1のモル数+単量体2のモル数))は、0.1〜1.5が好ましい。
【0035】
本発明の製造方法における過硫酸塩は、過硫酸アンモニウム塩、過硫酸カリウム塩または過硫酸ナトリウム塩が好ましい。
過硫酸塩の使用量は、単量体混合物の総和100gに対して0.01〜0.22mmolである。また、過硫酸塩の使用量は、単量体混合物の総和100gに対して過硫酸塩換算で、0.01〜0.15mmolであることが好ましく、0.01〜0.10mmolであることがより好ましく、0.01〜0.05mmolであることがさらに好ましい。
なお、過硫酸塩の使用量は、理論的に、塩成分の含有量と等しくなる。
過硫酸塩の使用量が多いと、得られた水性分散液において、塩成分の含有量が多くなり、水性分散液の貯蔵時等の着色安定性が損なわれるだけでなく、水性分散液のpHが経時的に低下しやすい。一方、過硫酸塩の使用量が少ないと、重合の進行が遅くなり、単量体が高い反応率で重合しない。その結果、効率的に含フッ素重合体が得られず、場合によっては重合が全く進行しなくなる。過硫酸塩の使用量が上記の範囲であれば、得られる水性分散液の着色安定性、pH安定性および重合時の生産性がより良好となる。
【0036】
本発明の製造方法では、過硫酸塩と組合せて、他の重合開始剤を併用してもよい。
他の重合開始剤としては、過酸化水素と亜硫酸水素ナトリウム等との組み合わせからなるレドックス開始剤、第一鉄塩、硝酸銀等の無機系開始剤を混合させた重合開始剤、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタール酸パーオキシド、アゾビスブチロニトリル等の有機系重合開始剤等が挙げられる。
他の重合開始剤を併用する場合の使用量は、過硫酸塩に対して、1〜100モル%が好ましく、5〜95モル%がより好ましい。
【0037】
本発明の製造方法における水性媒体中での重合は、乳化重合であることが好ましい。乳化重合においては、通常、乳化剤が使用される。
乳化剤は、ノニオン性乳化剤またはアニオン性乳化剤が好ましい。
ノニオン性乳化剤としては、アルキルフェノールエチレンオキシド付加物、高級アルコールエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー等が挙げられる。
アニオン性乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等が挙げられる。
乳化剤の使用量は、単量体の種類によって決定すればよく、前述したマクロモノマーが乳化剤のような重合系の安定化効果を有する場合には、乳化剤を使用しなくてもよい。
【0038】
本発明の製造方法では、連鎖移動剤を用いて含フッ素重合体の重合度(分子量)を調節してよい。また、水性媒体中の単量体の濃度の合計を高めることもできる。
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン(tert−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、ステアリルメルカプタン等。)、アミノエタンチオール、メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸、3,3’−ジチオ−ジプロピオン酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸n−ブチル、チオグリコール酸メトキシブチル、チオグリコール酸エチル、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、四塩化炭素等が挙げられる。
連鎖移動剤の使用量は、単量体混合物に対して0〜2質量%が好ましい。
本発明の製造方法の重合方式は、特に限定されず、バッチ重合法、単量体混合物を滴下する滴下重合法、連続重合法等による方式が挙げられる。
【0039】
本発明の水性塗料は、本発明の水性分散液を含む水性塗料であり、塩成分を含み、塩成分の含有量が、含フッ素重合体の100gに対して過硫酸塩換算で0.01〜0.22mmolである。
本発明の水性塗料は、通常、上記の本発明の水性分散液を水性媒体等により希釈し、必要により添加剤を含ませて得られる。
希釈に用いられる水性媒体は、本発明の水性分散液で説明した水性媒体と同様である。
希釈に用いられる水性媒体の使用量は、特に限定されないが、水性塗料中の含フッ素重合体の含有量が、水性塗料の全量に対し、5〜60質量%となる量が好ましく、10〜50質量%となる量がより好ましい。含フッ素重合体の含有量が上記下限値であれば耐候性により優れた塗膜が得られ、上記上限値であれば塗膜の透明性がより優れる。
【0040】
水性塗料における塩成分の含有量は、含フッ素重合体の100gに対して過硫酸塩換算で0.01〜0.22mmolであり、0.01〜0.15mmolが好ましく、0.01〜0.10mmolがより好ましく、0.01〜0.05mmolが特に好ましい。塩成分の含有量が上記の範囲内であれば、水性塗料の保管時における着色や水性塗料のpHの経時的な低下を抑制できる。
なお、水性分散液に種々の添加剤等を添加して水性塗料を調製する場合、塩成分が混入する場合がある。例えば、含フッ素重合体を追加したり、他の重合体を添加したりする際に、それら重合体の重合開始剤に由来する塩成分が混入する場合がある。しかし、添加剤等から塩成分が混入した場合においても、本発明の水性塗料における塩成分の含有量は上記の範囲が好ましい。
【0041】
本発明の水性塗料は、必要に応じて、本発明の作用効果を妨げない範囲で、水性分散液および希釈に用いる水性媒体以外に、含フッ素重合体以外の他の重合体、乳化剤、着色剤、硬化剤、その他の添加剤を含んでもよい。
たとえば、本発明の水性塗料には、着色剤を含ませることができる。
また、本発明の水性塗料に硬化剤を含ませることにより、得られる塗膜の、耐候性、耐水性、耐薬品性、耐熱性等がさらに向上する。本発明の水性塗料は、一液型であってもよく、二液型であってもよいが、硬化剤を含ませる場合、二液型とし、使用直前に両液を混合するのが好ましい。
【0042】
該他の重合体としては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系重合体、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、フェノール系樹脂、アルキド系樹脂等が挙げられる。
該他の重合体を含有する場合において、水性塗料中の他の重合体の含有量は、10〜60質量%が好ましい。他の重合体の含有量を上記下限値とすれば、他の重合体が有する特性を発揮でき、一方、上記上限値であれば、含フッ素重合体が有する特性を損ねない。
【0043】
本発明の水性塗料には、乳化安定性を向上させる目的で、乳化剤を添加してもよい。水性塗料中に含有される乳化剤の種類は、本発明の水性分散液で説明した乳化剤と同様である。
着色剤としては、染料、有機顔料、無機顔料等が挙げられる。
着色剤の含有量は、水性塗料の総量100に対して1〜300質量%が好ましい。
硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンイソシアネート三量体等のブロックイソシアネートまたはその乳化分散体、メチル化メラミン、メチロール化メラミン、ブチロール化メラミン等のメラミン樹脂、メチル化尿素、ブチル化尿素等の尿素樹脂等が挙げられる。
硬化剤の含有量は、使用する単量体の総量、10〜150モル%が好ましい。
【0044】
その他の添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、皮バリ防止剤等が挙げられる。
【0045】
本発明の塗装物品は、物品の表面に本発明の水性塗料の塗膜を有する。
本発明の塗装物品は、物品の表面に本発明の水性塗料を塗布し、乾燥して塗膜を形成することにより製造できる。
物品としては、特に制限されず、金属板、木板、プラスチック板、ガラス板、アスファルト、コンクリート等が挙げられる。
塗布方法としては、刷毛、ローラー、ディッピング、スプレー、ロールコーター、ダイコター、アプリケーター、またはスピンコーター等の塗装装置を用いて行う方法が挙げられる。
塗膜の厚みは、5〜50μmが好ましい。塗膜の厚みが上記下限値であれば、視認性、意匠性の高い蛍光塗膜が得られ、上記上限値であれば、塗膜の表層と内部の硬化度合いに差がなく、均一な塗膜が得られる。
塗布後の乾燥温度は、25〜300℃程度が好ましい。
【0046】
本発明の水性分散液の製造方法によれば、重合の際に用いる過硫酸塩の使用量が少ないため、塩成分の含有量が少ない本発明の水性分散液を製造できる。
本発明の水性分散液は、塩成分の含有量が少ないため、着色安定性、pH安定性に優れる。前述したとおり、水性分散液から水性塗料を調製する際は、増粘剤等を添加することにより、塗料として最適な粘度となるように粘度を調整する場合が多い。水性塗料の粘度は水性分散液のpHにより変化することが知られており、そのpHが経時的に変化してしまうと、水性塗料を調製する際に粘度を最適に調整しても、経時的にpHの変化に伴って粘度が変化し、水性塗料の使用時の粘度が最適値から外れてしまう。本発明の水性分散液は、pH安定性に優れるため、水性塗料とした場合に、粘度の変化が少なく、チクソ性に優れる。
また、本発明の水性塗料は、チクソ性の安定性に優れており、塗料の粘度が最適な範囲に保持されるため、物品に対し均一に塗装できる。
したがって、本発明の水性塗料およびこれを用いて形成される塗膜も、着色安定性、均一性に優れる。
また、単位1および単位2を有する含フッ素重合体を含む本発明の水性分散液から調製される、本発明の水性塗料から形成される塗膜は、耐候性、耐水性、耐薬品性、耐熱性等に優れる。
【実施例】
【0047】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されない。
後述の各例で用いた測定方法を以下に示す。
【0048】
<測定方法>
[過硫酸塩量の算出]
(水性分散液を加えた硫酸アンモニウム鉄(II)の滴定)
水性分散液のW(g)をイオン交換水の10gに溶解し、これを試料溶液とした。
試料溶液に、90g/L硫酸アンモニウム鉄(II)水溶液の20mLおよびリン酸の20mLを加えて、混合液を得た。該混合液に0.02mol/L過マンガン酸カリウム水溶液を、溶液が微紅色を呈するまで滴下した。その際の滴定量をA(mL)とした。
【0049】
(硫酸アンモニウム鉄(II)の滴定)
イオン交換水の10gに、90g/L硫酸アンモニウム鉄(II)水溶液の20mLおよびリン酸の20mLを加えて、混合液を得た。該混合液に0.02mol/L過マンガン酸カリウム水溶液を、溶液が微紅色を呈するまで滴下した。その際の滴定量をB(mL)とした。
【0050】
(過硫酸塩量の算出方法)
まず、下式(1)により、水性分散液中の過硫酸塩の濃度C(質量%)を算出した。なお、水性塗料における過硫酸塩の濃度も同様にして算出できる。
C={(B−A)×f×Mw×0.00005/W}×100 ・・・(1)
f:0.02mol/L過マンガン酸カリウム水溶液の濃度の程度を示すもので当該過マンガン酸カリウム水溶液中に含まれている過マンガン酸カリウム量を補正する値。
Mw:過硫酸塩の分子量。
【0051】
ここで、上記の滴定は、予め試料溶液中の過硫酸塩を硫酸アンモニウム鉄(II)と酸化還元反応させ、過剰の硫酸アンモニウム鉄(II)を過マンガン酸カリウムで逆滴定して過硫酸塩量を測定する方法である。
硫酸アンモニウム鉄(II)と過マンガン酸カリウムの酸化還元反応は下式(61)で示される。
5FeSO
4(NH
4)
2SO
4+KMnO
4→5Fe
3++10SO
42−+10NH
4++K
++MnO
46− ・・・(61)
硫酸アンモニウム鉄(II)と過硫酸塩の酸化還元反応は下式(62)で示される。
2FeSO
4(NH
4)
2SO
4+QS
2O
8→2Fe
3++4SO
42−+4NH
4++2SO
42−+Q ・・・(62)
Q:アミン類、アルカリ金属類等のカウンターカチオン。
上記の滴定の結果である、滴定量A、滴定量B、および式(61)、式(62)より下式(63)が導かれる。
C={(B−A)/1000×0.02×f×5/2×Mw/W}×100・・・ (63)
式(63)の定数を計算することで式(6)が導きだされる。
fの具体的な数値は、容量分析用「標準物質」を用いて行う標定法(以後、直接法という)や、すでに直接法でファクターを決めてある容量分析用「標準液」を用いて行う標定法(間接法という)により求められ、本測定においては1.003である。
【0052】
次いで、下式(7)により、水性分散液中の含フッ素重合体固形分100g当たりの残存過硫酸塩の量Y(mmol)を算出した。
Y=(C/X)×100/Mw ・・・(7)
X:水性分散液中の含フッ素重合体固形分濃度(質量%)。
【0053】
[硫酸イオン量の算出]
以下の手順で、過硫酸塩の分解物である硫酸イオンの量を算出した。なお、水性塗料における硫酸イオンの量も同様にして算出できる。
製造した水性分散液を超純水で1000倍希釈した試料溶液を限外ろ過器に入れ、半径13cmのローター(コクサン社製「H−18」)を用い、4000rpmの条件で60分間遠心分離した。ろ液を超純水で10倍希釈し、試料希釈液を得た。
次いで、イオンクロマトグラフィーシステム(日本ダイオネクス(株)製、ICS−3000)を用いて、該希釈液中の硫酸イオン濃度I(μg/mL)を測定した。
その結果から、下式(8)により、水性分散液中の含フッ素重合体固形分100g当たりの硫酸イオン量(過硫酸塩換算)Z(mmol)を算出した。なお、式中の96は、硫酸イオンの分子量である。
Z=10×I/(d×X×96) ・・・(8)
d:水性分散液の比重。
X:水性分散液中の含フッ素重合体固形分濃度(質量%)。
【0054】
[色度(YI値)の測定]
実施例1〜6および比較例1で得られた水性分散液(製造直後)をそれぞれイオン交換水で10倍に希釈して希釈試料とした。希釈試料を円筒セル(30φ×30mm)に入れ測色色差計(日本電色工業(株)製、ZE−2000)でYI値を測定した。
また、実施例1〜6および比較例1で得られた水性分散液を50℃で2週間保存し、保存後の水性分散液についても、上記と同様にして、YI値を測定した。
YI値が低い程、着色していないことを示す。
【0055】
[pHの測定]
実施例1〜6および比較例1で得られた水性分散液(製造直後)の25℃におけるpHを測定した。
また、実施例1〜6および比較例1で得られた水性分散液を50℃で2週間保存し、保存後の水性分散液についても25℃におけるpHを測定した。
【0056】
[チクソ性の安定性の評価]
実施例1〜6および比較例1の水性分散液をそれぞれ、造膜助剤のテキサノール(イーストマンケミカル社製)、消泡剤のデヒドラン1620(サンノプコ社製)、アルカリ膨潤型増粘剤のTT−615(ローム アンド ハーツ社製)およびアンモニア水と配合して水性塗料を調製した。各材料の配合量は、水性塗料の粘度をチクソ性が水性塗料として適正範囲になるよう調整した。
得られた水性塗料を50℃で2週間保存し、保存前、保存後それぞれの水性塗料のチクソ性から以下の基準でチクソ性の安定性を評価した。
○:保存によるチクソ性の低下なし。
△:保存によりチクソ性がやや低下した。
×:保存によりチクソ性が明らかに低下した。
水性塗料のチクソ性:JIS K 5600−2−3に規定されるコーン・プレート粘度計法に準拠し、No.4のローターを使用し、25℃において、回転数5rpm時、回転数50rpm時それぞれの水性塗料のおける粘度を測定し、それらの粘度の比であるTI値(=回転数5rpm時の粘度[mPa・s]/回転数50rpm時の粘度[mPa・s])を算出し、これをチクソ性の指標とした。
【0057】
<実施例1>
容器積250mLのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ中に、シクロヘキシルビニルエーテル(以下、CHVEという。)の34g、2−エチルヘキシルビニルエーテル(以下、2EHVEという。)の19g、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル(以下、CHMVEという。)の2.8g、1−ビニロキシメチル−4−(ポリオキシエチレン)シクロヘキシルメチルエーテル(以下、CMEOVEという。)の1.7g、イオン交換水の93g、炭酸カリウムの0.26g、過硫酸アンモニウム(以下、APSという。)の0.012g、ノニオン性乳化剤(DKS NL−100:第一工業製薬(株)製)の5.2g、アニオン性乳化剤(ラウリル硫酸ナトリウム。以下、SLSという。)の0.1gを仕込み、氷で冷却して、窒素ガスを0.5MPaになるよう加圧し脱気した。この加圧脱気を2回繰り返した後−0.8MPaまで脱気して溶存空気を除去した後、CF
2=CFCl(以下、CTFEという。)の47gを圧入し、50℃で36時間、重合反応を行った。重合反応後、200メッシュのナイロン布で水性分散液を濾過した。次いで、イオン交換水を用いて、固形分濃度が52質量%になるように調整して、粒子状の含フッ素重合体を含む水性分散液を得た。含フッ素重合体の粒子の平均粒子径は、150nmであった。
なお、上記CMEOVEは、CHMVEのエチレンオキシド付加物であって、1分子あたりのオキシエチレン基の数は平均約15である。
【0058】
<実施例2〜4および比較例1>
実施例2〜4および比較例1では、APSの使用量を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様に水性分散液を得た。それぞれの例における含フッ素重合体の平均粒子径は、いずれも140〜160nmの範囲内であった。
【0059】
<実施例5>
容器積250mLのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ中にCHVEの1.4g、エチルビニルエーテル(以下、EVEという。)37g、CHMVEの3.8g、CMEOVEの3.1g、イオン交換水97g、炭酸カリウム0.26g、APSの0.0025g、ノニオン性乳化剤(DKS NL−100:第一工業製薬(株)製)5.5g、SLSの0.1gを仕込み、氷で冷却して、窒素ガスを0.5MPaになるよう加圧し脱気する。この加圧脱気を2回繰り返した後−0.8MPaまで脱気して溶存空気を除去した後、CTFEの64gを圧入し、50℃で36時間、重合反応を行った。重合反応後、200メッシュのナイロン布で水性分散液を濾過した。次いで、イオン交換水を用いて、固形分濃度が52質量%になるように調整して、水性分散液を得た。
【0060】
<実施例6>
ノニオン性乳化剤(DKS NL−100:第一工業製薬(株)製)の仕込み量を2.6gに変えた以外は、実施例3と同様にして、粒子状の含フッ素重合体を含む水性分散液を得た。含フッ素重合体の粒子の平均粒子径は、210nmであった。
【0061】
各水性分散液について、ラテックス収率、過硫酸塩量および硫酸イオン量を算出した。ラテックス収率は、原料中のイオン交換水以外の原料総量の割合に対する重合反応後液中の固形分量の割合(質量%)を示す(以下同様)。塩成分の含有量(過硫酸塩換算)は、過硫酸塩量および硫酸イオン量を合算して求めた。また、得られた水性分散液について、色度(YI値)およびpHを測定し、チクソ性の安定性を評価した。
各例における原料の使用量、含フッ素重合体の100gに対する塩成分の含有量(過硫酸塩(APS)およびその分解物の合計含有量(過硫酸塩換算))の算出結果、YI値およびpHの測定結果、並びにチクソ性の安定性の評価結果を表1に示す。また、YI値、pHについて、製造直後の値と50℃2週間保存後の値との差の絶対値を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
水性分散液中の含フッ素重合体の100gに対する過硫酸塩(APS)およびその分解物の合計含有量(過硫酸塩換算)が0.24mmolであった比較例1では、製造直後のYI値が−5.8、50℃で2週間保存後のYI値が1.4であり、その変化幅は7.2であった。
これに対し、該合計含有量(過硫酸塩換算)が0.22mmol以下であった実施例1〜4では、製造直後のYI値が−6.4以下、50℃で2週間保存後のYI値の変化幅が−0.7以下と、比較例1に比べ低く、着色が抑制されていた。また、保存前後でのYI値の変化幅も少なかった。実施例1〜4の中でも、水性分散液中の含フッ素重合体の100gに対する合計含有量(過硫酸塩換算)が低い実施例程、YI値が低く、保存前後でのYI値の変化が小さかった。
【0064】
一部の単量体の種類および配合量が異なる実施例5では、水性分散液中の含フッ素重合体の100gに対する合計含有量(過硫酸塩換算)が0.01mmolであった。実施例5も、製造直後のYI値が−11、50℃で2週間保存後のYI値が−9.7と、比較例1に比べ低かった。また、保存前後でのYI値の変化も少なかった。
また、含フッ素重合体の粒子の平均粒子径が200nm以下である実施例3と、200nm以上である実施例6との対比より、平均粒子径が200nm以下であると、製造直後のYI値、50℃で2週間保存後のYI値、保存前後のYI値の変化幅がいずれも小さく、着色が抑制されることが分かった。
実施例1〜6では、製造直後のpHと50℃で2週間保存後のpHとの差が比較例1よりも小さかった。
実施例1〜6の水性分散液を用いた水性塗料は、比較例1を用いた水性塗料に比べて、50℃で2週間保存したときのチクソ性の低下が少なかった。
なお、実施例5における過硫酸塩(APS)量を半量(0.005mmol)とする以外は同様にして、含フッ素重合体を含む水性分散液を製造した場合には、ラテックス収率が90%未満であり、含フッ素重合体が効率よく得られなかった。