特許第6841341号(P6841341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841341
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】超音波診断システム及び超音波撮影方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20210301BHJP
   A61B 8/15 20060101ALI20210301BHJP
   A61B 8/08 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   A61B8/14
   A61B8/15
   A61B8/08
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-551158(P2019-551158)
(86)(22)【出願日】2018年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2018039356
(87)【国際公開番号】WO2019082892
(87)【国際公開日】20190502
【審査請求日】2020年4月20日
(31)【優先権主張番号】特願2017-205343(P2017-205343)
(32)【優先日】2017年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517346521
【氏名又は名称】株式会社Lily MedTech
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】東 隆
(72)【発明者】
【氏名】唐 天漢
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘文
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009-240667(JP,A)
【文献】 特開2005-342140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の周囲に配置され、超音波の送信及び受信の少なくともいずれか一方を行う複数の素子と、
前記複数の素子の少なくとも1つが超音波を送信し、前記複数の素子の全部または一部が、前記超音波が前記被検体で散乱した散乱波を受信するように、前記複数の素子を制御する制御部と、
前記散乱波を受信した素子から得たデータである測定データを収集するデータ収集部と、
前記被検体の全部または一部が含まれる撮像領域を分割した分割領域のそれぞれの、前記複数の素子のうち所定の素子から送信した超音波が前記分割領域における前記被検体で散乱して前記複数の素子の全部または一部の各々で受信されるまでの時間である到達時間を成分とした第1の要素と、前記測定データを成分とした第2の要素に基づき、前記分割領域のそれぞれにおける前記散乱波の音圧の強度である散乱音圧強度を算出する計算部と、
前記分割領域のそれぞれにおける前記散乱音圧強度を画素値に変換した画像である散乱画像を作成する画像作成部と、
を備える超音波診断システム。
【請求項2】
前記分割領域は、前記撮像領域を格子状に分割した領域であり、
前記第1の要素は前記到達時間を成分とした行列の逆行列であり、
前記第2の要素は前記測定データを成分としたベクトルであり、
前記計算部は、前記第1の要素と、前記第2の要素の積から、前記散乱音圧強度を算出することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断システム。
【請求項3】
前記分割領域を構成する格子状に分割した領域の縦の個数と横の個数の積と、受信素子数と前記測定データの収集における時間軸方向のデータサンプリング点数の積が、それぞれ、前記行列の列数と行数と一致することを特徴とする請求項2に記載の超音波診断システム。
【請求項4】
前記制御部は、第1素子が超音波を送信した後、第2素子が超音波を送信するように制御し、
前記データ収集部は、前記第1素子が送信した超音波に対応する散乱波を受信した素子から第1測定データを収集し、前記第2素子が送信した超音波に対応する散乱波を受信した素子から第2測定データを収集し、
前記計算部は、前記第1素子を超音波の送信素子とした場合の第1逆行列と、前記第1測定データを並べたベクトルとの積から第1散乱音圧強度を算出し、前記第2素子を超音波の送信素子とした場合の第2逆行列と、前記第2測定データを並べたベクトルとの積から第2散乱音圧強度を算出し、前記第1散乱音圧強度と前記第2散乱音圧強度とを合成することを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波診断システム。
【請求項5】
前記行列は、ランクが、前記格子状に分割した領域の縦の個数と横の個数の積に等しいことを特徴とする請求項3に記載の超音波診断システム。
【請求項6】
前記到達時間は、乳房内部の前記超音波の音速と乳房外部の前記超音波の音速との差分が発生することを踏まえて計算されることを特徴とする請求項5に記載の超音波診断システム。
【請求項7】
前記被検体からみて、受信素子は送信素子側に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の超音波診断システム。
【請求項8】
前記散乱画像を所定時間毎に作成し、作成した散乱画像における画素値の変化が所定値以上となる部分を抽出することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断システム。
【請求項9】
被検体の周囲に配置された複数の素子のいずれか1つから超音波を送信し、前記複数の素子の全部または一部で、前記超音波が前記被検体で散乱した散乱波を受信する工程と、
前記散乱波を受信した素子から得たデータである測定データを収集する工程と、
前記被検体の全部または一部が含まれる撮像領域を分割した分割領域のそれぞれの、前記複数の素子のうち所定の素子から送信した超音波が前記分割領域における前記被検体で散乱して前記複数の素子の全部または一部の各々で受信されるまでの時間である到達時間を成分とした第1の要素と、前記測定データを成分とした第2の要素に基づき、前記分割領域のそれぞれにおける前記散乱波の音圧の強度である散乱音圧強度を算出する工程と、
前記分割領域のそれぞれにおける前記散乱音圧強度を画素値に変換した画像である散乱画像を作成する工程と、
を備える超音波撮影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を照射して被検体の断層画像を作成する超音波診断システム及び超音波診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非侵襲性である超音波による診断システムは、生体を直接切開して観察する外科手術の必要がないため、被検体内部の情報を診断する技術として医療分野で広く用いられている。
【0003】
超音波診断の一手法である超音波CT(Computed Tomography)は、超音波を被検体に照射し、反射超音波や透過超音波を用いて被検体の断層画像を作成するものであり、近年の研究により、乳がんの検出に有用性があることが示されている。超音波CTは、例えば、超音波の送受信を行う多数の素子をリング状に配置したリング型アレイトランスデューサを使用し、断層像を作成する。
【0004】
従来の断層像作成方法の1種である開口合成法では、まず、1つの素子から超音波を送信し、エコー信号を全素子で受信して、第1軸が受信素子番号、第2軸がエコー信号到達時間を示す2次元データ(フレームデータ)を生成する。超音波を送信する素子を順に変えていくことで、リング型アレイトランスデューサの素子数分のフレームデータが生成される。
【0005】
図12aに示すように、送信素子Emから断層像の1画素に対応する着目箇所PIまでの距離LTX、この着目箇所PIから受信素子Enまでの距離LRX、及び音速cから、エコー信号到達時間t=(LTX+LRX)/cが求まる。図12bに示すように、送信素子Emのフレームデータのうち、受信素子En、時間tのエコーデータが、着目箇所PIに対応する。
【0006】
1つのフレームデータには、受信素子毎に、着目箇所PIに対応するエコーデータが含まれる。リング型アレイトランスデューサがN個の素子からなる場合、受信素子はN個となるため、1つのフレームデータには着目箇所PIに対応するエコーデータがN個含まれる。フレームデータはN個あるため、着目箇所PIに対応する1画素の輝度は、N×N個のエコーデータの合成となる。このようにして各画素の輝度を算出し、画像を作成していた。
【0007】
上述したように、従来は、1素子から送信した超音波のエコー信号を全素子で受信することを、素子数分繰り返し行うため、超音波の送信回数が多く、計測に時間がかかっていた。また、大量のデータを取得するため、計算機へのデータ転送に時間がかかっていた。
【0008】
【特許文献1】国際公開第2017/051903号
【発明の概要】
【0009】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであり、被検体の計測及びデータ転送に要する時間を短縮できる超音波診断システム及び超音波診断方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明による超音波診断システムは、被検体の周囲に配置され、超音波の送信及び受信の少なくともいずれか一方を行う複数の素子と、前記複数の素子のいずれか1つが超音波を送信し、前記複数の素子の全部または一部が、前記超音波が前記被検体で散乱した散乱波を受信するように、前記複数の素子を制御する制御部と、前記散乱波を受信した素子から得たデータである測定データを収集するデータ収集部と、前記被検体の全部または一部が含まれる撮像領域を分割した分割領域のそれぞれの、前記複数の素子のうち所定の素子から送信した超音波が前記分割領域における前記被検体で散乱して前記複数の素子の全部または一部の各々で受信されるまでの時間である到達時間を成分とした第1の要素と、前記測定データを成分とした第2の要素に基づき、前記分割領域のそれぞれにおける前記散乱波の音圧の強度である散乱音圧強度を算出する計算部と、前記分割領域のそれぞれにおける前記散乱音圧強度を画素値に変換した画像である散乱画像を作成する画像作成部と、を備えるものである。
【0011】
本発明の一態様によれば、前記分割領域は、前記撮像領域を格子状に分割した領域であり、前記第1の要素は前記到達時間を成分とした行列の逆行列であり、前記第2の要素は前記測定データを成分としたベクトルであり、前記計算部は、前記第1の要素と、前記第2の要素の積から、前記散乱音圧強度を算出する。
【0012】
本発明の一態様によれば、前記分割領域を構成する格子状に分割した領域の縦の個数と横の個数の積と、受信素子数と前記測定データの収集における時間軸方向のデータサンプリング点数の積が、それぞれ、前記行列の列数と行数と一致する。
【0013】
本発明の一態様によれば、前記制御部は、第1素子が超音波を送信した後、第2素子が超音波を送信するように制御し、前記データ収集部は、前記第1素子が送信した超音波に対応する散乱波を受信した素子から第1測定データを収集し、前記第2素子が送信した超音波に対応する散乱波を受信した素子から第2測定データを収集し、前記計算部は、前記第1素子を超音波の送信素子とした場合の第1逆行列と、前記第1測定データを並べたベクトルとの積から第1散乱音圧強度を算出し、前記第2素子を超音波の送信素子とした場合の第2逆行列と、前記第2測定データを並べたベクトルとの積から第2散乱音圧強度を算出し、前記第1散乱音圧強度と前記第2散乱音圧強度とを合成する。
【0014】
本発明の一態様によれば、前記行列は、ランクが、前記格子状に分割した領域の縦の個数と横の個数の積に等しい。
【0015】
本発明の一態様によれば、前記到達時間は、乳房内部の前記超音波の音速と乳房外部の前記超音波の音速との差分が発生することを踏まえて計算される。
【0016】
本発明の一態様によれば、前記被検体からみて、受信素子は送信素子側に配置されている。
【0017】
本発明の一態様によれば、前記散乱画像を所定時間毎に作成し、作成した散乱画像における画素値の変化が所定値以上となる部分を抽出する。
【0018】
本発明による超音波診断方法は、被検体の周囲に配置された複数の素子のいずれか1つから超音波を送信し、前記複数の素子の全部または一部で、前記超音波が前記被検体で散乱した散乱波を受信する工程と、前記散乱波を受信した素子から得たデータである測定データを収集する工程と、前記被検体の全部または一部が含まれる撮像領域を分割した分割領域のそれぞれの、前記複数の素子のうち所定の素子から送信した超音波が前記分割領域における前記被検体で散乱して前記複数の素子の全部または一部の各々で受信されるまでの時間である到達時間を成分とした第1の要素と、前記測定データを成分とした第2の要素に基づき、前記分割領域のそれぞれにおける前記散乱波の音圧の強度である散乱音圧強度を算出する工程と、前記分割領域のそれぞれにおける前記散乱音圧強度を画素値に変換した画像である散乱画像を作成する工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被検体の計測及びデータ転送に要する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態における超音波診断システムの概略構成図である。
図2図1のA−A線断面図である。
図3】演算装置の機能ブロック図である。
図4】散乱波の受信例を示す図である。
図5】散乱波の受信例を示す図である。
図6】関心領域のピクセル分割例を示す図である。
図7図7a〜図7dは測定行列の作成方法を説明する図である。
図8図8aはファントムを示す図であり、図8b〜図8fは比較例による画像作成方法を適用したシミュレーション結果を示す図である。
図9図9aはファントムを示す図であり、図9b〜図9fは比較例による画像作成方法を適用したシミュレーション結果を示す図である。
図10図10a、図10dはファントムを示す図であり、図10b、図10eは実施形態による画像作成方法を適用したシミュレーション結果を示す図である。
図11図11aは受信開口制限の例を示す図であり、図11bは透過波と散乱波の伝搬時間の例を示す図である。
図12図12a、図12bは従来の開口合成法でのデータ取得方法を説明する図である。
図13図13a、図13bは評価用モデルを示す図である。
図14図14a、図14bは実施形態による再構成画像を示す図である。
図15図15a、図15bは開口合成法による再構成画像を示す図である。
図16図16aは信号対雑音比の解析結果を示すグラフであり、図16bは解像度の解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明についてさらに詳細に説明する。本発明の実施形態に係る超音波診断システムは、人体等の被検体に超音波を照射し、受信したエコー信号を用いて散乱画像(散乱音圧強度のマップ)を作成する。医師は、作成された散乱画像を確認することで、悪性腫瘍等の病変を診断することができる。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る超音波診断システム10は、リングアレイRと、スイッチ回路110と、送受信回路120と、演算装置130と、画像表示装置140とを備えている。
【0023】
リングアレイRは、複数の振動子が組み合わさって構成される、好ましくは直径80〜500mm、より好ましくは直径100〜300mmのリング型形状の振動子である。また、リングアレイRは、直径を可変とする構成をとることもできる。本実施形態では一例として、4つの凹面型振動子P01〜P04を組み合わせたリング形状の振動子を用いる。
【0024】
例えば、凹面型振動子P01〜P04が、それぞれ256個の短冊形圧電素子E(以下、単に「素子E」とも呼ぶ。)を有する場合、リングアレイRは1024個の素子Eから構成されることになる。凹面型振動子P01〜P04に設けられる素子Eの数は限定されず、好ましくは1〜1000個、より好ましくは100〜500個である。
【0025】
各素子Eは、電気的信号と超音波信号とを相互変換する機能を有する。素子Eは被検体Tに超音波を送信し、被検体Tで散乱(反射)される散乱波(前方散乱波、側方散乱波、後方散乱波)を受信し、電気的信号を測定データとして形成する。
【0026】
本実施形態では、各素子Eが、超音波の送信及び受信の両方の機能を備えるものとして説明するが、これに限定されない。例えば、超音波の送信機能及び受信機能のうちいずれか一方のみを有する送信素子又は受信素子を使用し、複数の送信素子及び複数の受信素子をリング状に配置してもよい。また、送信及び受信の両方の機能を備える素子と、送信素子と、受信素子とが混在する構成であってもよい。
【0027】
図2は、図1のA−A線断面図である。例えば、リングアレイRは、穴の開いたベッドの下に、ベッドの穴と挿入部SPとが重畳するように設置される。被験者はベッドの穴から、撮像対象となる身体の部位(被検体T)を挿入部SPに挿入する。
【0028】
被検体Tを挿入するための挿入部SPは、リングアレイRの中央に設けられている。リングアレイRの複数の素子Eは、リングに沿って挿入部SPの周囲に等間隔で設けられている。リングアレイRの内周側には、音響レンズと呼ばれる凸面レンズが表面に取り付けられている。このような表面加工をリングアレイRの内周側に施すことで、各素子Eが送信する超音波を、リングアレイRを含む平面内に収束させることができる。
【0029】
本実施形態では、各素子Eを等間隔にリング状に配置しているが、リングアレイRの形状は円形に限定されず、例えば、六角形、正方形、三角形など任意の多角形、少なくとも一部に曲線や円弧を含む形状、その他任意の形状、または、これらの形状の一部(例えば、半円や円弧)であってもよい。すなわち、リングアレイRは、アレイRと一般化することができる。また、アレイRを構成する各素子Eの配置は、被検体Tの周囲を断続的に少なくとも90度またはそれ以上囲むような配置であれば好ましいものの、これらに限定されるものではない。
【0030】
リングアレイRはスイッチ回路110を介して送受信回路120に接続されている。送受信回路120(制御部)は、リングアレイRの素子Eに制御信号(電気的信号)を送信し、超音波の送受信を制御する。例えば、送受信回路120は、素子Eに対して、送信する超音波の周波数や大きさ、波の種類(連続波やパルス波等)等を指示する。
【0031】
スイッチ回路110は、リングアレイRの複数の素子Eの各々に接続されており、送受信回路120からの信号を任意の素子Eに伝達し、素子Eを駆動させ、信号の送受信を行わせる。例えば、スイッチ回路110が、送受信回路120からの制御信号を供給する素子Eを切り替えることで、複数の素子Eのいずれか1つを、超音波を送信する送信素子として機能させ、複数(例えば全て)の素子Eで散乱波を受信させる。
【0032】
全ての素子Eを同時に駆動して測定データを収集してもよいし、リングアレイRの複数の素子Eをいくつかのグループに分けて、グループ単位で順に測定データを収集してもよい。グループの切り替えを数μs〜msオーダ以下で行うことで、ほぼリアルタイムに測定データの収集を行うことができる。
【0033】
リングアレイRは、ステッピングモータ等により上下動可能に設置されている。リングアレイRを上下動させて、被検体Tの全体のデータ収集が行われる。
【0034】
演算装置130は、例えばCPU、記憶部(RAM、ROM、ハードディスク等)、通信部等を備えたコンピュータにより構成されている。記憶部に格納されたプログラムが実行されることで、図3に示すような、送信素子決定部131、データ収集部132、計算部133、画像作成部134等の機能が実現され、行列データ格納領域135及び測定データ格納領域136が記憶部に確保される。各部による処理については後述する。
【0035】
次に、本実施形態による散乱画像の作成方法について説明する。図4に示すように、1つの点散乱体PS(被検体Tの1点)に着目し、1つの送信素子Eから送信された超音波が、この点散乱体PSで散乱し、1つの受信素子Eで受信される場合を考える。このとき、受信素子Eでの測定データには、この点散乱体PSの影響による固有パターンが含まれる。
【0036】
本実施形態では、被検体Tが、多数の点散乱体で構成されていることを前提に、被検体Tを構成する特定の部分が超音波を反射し散乱させるものとする。図5に示すように、多数の点散乱体PSが存在する場合、受信素子Eでの測定データには、各点散乱体PSの影響による固有パターンの線形結合が含まれる。本実施形態では、測定データから、各固有パターンを切り分けて判別し、各点散乱体PSの散乱波の音圧の強度である散乱音圧強度を算出する。
【0037】
本実施形態では、被検体の前部又は一部が含まれる撮像領域を分割した分割領域を設定する。具体的には、図6に示すように、撮像領域(関心領域)Rを格子状に分割し、複数のピクセル領域を設定する。例えば、撮像領域RをM(=M×M)個のピクセル領域に分割する。図6は、M=11とし、撮像領域Rを121個のピクセル領域P〜P121に分割した例を示す。
【0038】
本実施形態では、分割領域のそれぞれの散乱波の散乱音圧強度を、所定の素子から送信した超音波が分割領域における被検体で散乱して複数の素子の各々で受信されるまでの信号到達時間と、測定データに基づき、算出する。
【0039】
各ピクセル領域の散乱音圧強度は1次元ベクトルxに展開することができる。ピクセル領域がM個ある場合、M×1のベクトルxとなる。ある特定の1つの送信素子Eから超音波を送信し、N個の受信素子Eを使用し、一素子あたりのサンプリング数をNtとした場合の測定データは、Nt×N×1のベクトルyで表現できる。
【0040】
ここで、適切な測定行列Gを使用すると、Gx=yとして数式化することができる。Gの逆行列G−1を用いて、x=G−1yからxが求まる。すなわち、逆行列G−1と、N個の受信素子Eでの測定データとから、各ピクセル領域の散乱音圧強度を算出することができる。
【0041】
なお、逆行列以外にも、いわゆる疑似逆行列を用いる方法も有効である。これはG−1G=E(Eは単位行列)となるG−1以外にも、G’G=E’、E’は定められた条件において、トレースの絶対値和が最小となるようなG’を用いる方法である。G’は、最小二乗法や拘束条件付きの変分法などにより求めることが出来る。この手法は、逆行列の発散に起因して処理後のノイズが大きくなることを防ぐ観点から優れている。同じように、H=G+λEに対する逆行列H’を計算する手法なども有効である。
【0042】
次に、測定行列Gの構造について説明する。送信素子Eを固定し、各ピクセル領域を1つの点散乱体とみなし、i番目の点散乱体で散乱された超音波を複数の受信素子で受信する場合の信号到達時間をi番目の列ベクトルとすることで、測定行列Gを構築する。
【0043】
例えば、図7aに示すように、送信素子Eから送信した超音波が、1番目のピクセル領域Pの位置にある点散乱体で散乱し、複数(例えば全て)の受信素子で受信されるまでの信号到達時間を、受信素子の配置順に並べた列ベクトルcが、測定行列Gの1番目の列ベクトルとなる。
【0044】
図7bに示すように、送信素子Eから送信した超音波が、2番目のピクセル領域Pの位置にある点散乱体で散乱し、複数の受信素子で受信されるまでの信号到達時間を、受信素子の配置順に並べた列ベクトルcが、測定行列Gの2番目の列ベクトルとなる。
【0045】
図7cに示すように、送信素子Eから送信した超音波が、61番目のピクセル領域P56の位置にある点散乱体で散乱し、複数の受信素子で受信されるまでの信号到達時間を、受信素子の配置順に並べた列ベクトルc56が、測定行列Gの61番目の列ベクトルとなる。
【0046】
図7dに示すように、送信素子Eから送信した超音波が、121番目のピクセル領域P121の位置にある点散乱体で散乱し、複数の受信素子で受信されるまでの信号到達時間を、受信素子の配置順に並べた列ベクトルc121が、測定行列Gの121番目の列ベクトルとなる。
【0047】
このようにして測定行列Gが構築される。図示しない計算機により測定行列Gの逆行列G−1が計算され、行列データ格納領域135に格納される。
【0048】
送信素子決定部131は、この測定行列Gで送信素子として仮定した素子Eから超音波が送信されるように、送受信回路120に指示する。
【0049】
データ収集部132は、スイッチ回路110及び送受信回路120を介して、複数の素子により得られたデータである測定データ(受信データ)を収集(受信又は取得することを含む)する。測定データは、測定データ格納領域136に格納される。
【0050】
計算部133は、行列データ格納領域135に格納されている逆行列G−1と、測定データ格納領域136に格納されている測定データを成分とするベクトルyとの積から、各ピクセル領域の散乱音圧強度xを算出する。
【0051】
画像作成部134は、各ピクセル領域の散乱音圧強度を画素値に変換し、2次元アレイ状に配置することで、撮像領域の散乱画像(散乱音圧強度のマップ)を作成する。作成された散乱画像は、画像表示装置140に表示される。
【0052】
逆行列G−1を求めることが可能となるのは、行列Gのランク(階数)がピクセル数Mと等しい必要がある。ランクとは、この行列がもつ異なる固有値の数と言い換えることもできる。逆にいうと、行列Gがランク=Mを満たす条件で、求めるべきピクセル数と受信素子数の対応関係を定めて、その条件にてデータ取得を行うように構成する。予め計算したG-1に対して、取得データyを乗算した時に、解が望ましくない場合(著しいアーチファクトが存在する場合など)には、データ取得後により小さなピクセル数(Mに対して構成したGに対して計算されたG-1にデータを乗算して画像再構成を行うように構成することも可能である。(M<M)
【0053】
このように、本実施形態によれば、単一の送信素子から超音波を送信し、複数の受信素子で受信したエコーデータを並べたベクトルと、予め準備しておいた測定行列Gの逆行列G−1との積から、撮像領域(関心領域)の各ピクセル領域の散乱音圧強度を求め、散乱画像を作成する。
【0054】
そのため、1素子から送信した超音波のエコー信号を全素子で受信することを、送信素子を切り替えながら繰り返し行う従来の開口合成法と比較して、被検体の計測に要する時間を短縮できる。また、取得するデータ量を削減し、データ転送に要する時間を短縮できる。
【0055】
上記実施形態では、送信素子を1つだけとする例について説明したが、これは、ピクセル領域の数が少ない場合や、ノイズが極めて少ない場合に好適である。ピクセル領域の数が多い場合や、ノイズが大きい場合は、複数の送信素子を切り替えて順に超音波を送信し、測定データを収集することが好ましい。この場合、送信素子毎に逆行列G−1を予め準備しておく。逆行列G−1と測定データのベクトルとの積を計算し、送信素子数分の散乱音圧強度xを求める。複数の散乱音圧強度xを合成することで、信号対雑音比を改善することができる。
【0056】
上記実施形態において逆行列G−1が解けない場合は、最小二乗法や、ペナルティタームを正則化法により解くことで、散乱音圧強度xを求めることができる。特にノイズnの影響が無視できない場合には、Gx+n=yとなり、x=G-1(y-n)となるが、一般的にはnを特定できないためである。
【0057】
シミュレーション
2種類のファントムに対し、上記実施形態による散乱画像作成方法を適用したシミュレーションを行った。また、比較例として、開口合成法を適用したシミュレーションを行った。ファントムは、図8a、図10aに示す格子状に配置された49点(7×7)の点散乱体と、図9a、図10dに示す64×64ピクセルのShepp−Loganファントムとした。シミュレーション条件を以下の表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
比較例による開口合成法を適用した結果を図8図9に示す。図8は49点の離散的な散乱体をモデル化した場合を示し、図9は構造をモデル化した場合を示す。図8a、図9aが正解(元のモデル)を示す。
【0060】
図8b〜図8f、図9b〜図9fは、それぞれ、送受信素子数を128個、64個、32個、16個、8個とした場合の開口合成撮像の結果を示す。図8図9に示すように、送受信素子数の減少に伴い、本来輝度が存在しない画素においてノイズが生じていることが確認できた。特に図8では、送受信素子数が128個、64個、32個の場合はノイズがランダムに分布しているのみであるが、送受信素子数が16個、8個の場合、特定のパターンとしてアーチファクトを形成しており、誤診等の原因となりうる。
【0061】
図9では、送受信素子数128個のときから、腫瘍と乳腺の分離が困難となるようなコントラストの低下が生じており、送受信素子数が32個、16個、8個の画像においては、様々なアーチファクトの発生により画像の視認性が著しく低下した。
【0062】
一方、図10は本実施形態による方法を適用した結果であり、図10a、図10dが正解(元のモデル)を示し、図10b、図10eが送受信素子数を8個とした場合の復元画像を示す。図10から、元のモデルを完全に復元できていることが確認された。
【0063】
送信素子数が増えた場合は、送信条件数の数だけ部分行列を縦にならべて行列Gを形成した。他にも、送信素子数を1個、受信素子数を16個とした場合においても、同様の結果が得られることが確認された。更に、送信素子数を1個とし、受信素子数を32個、64個、128個とした場合も、受信素子数が16個の場合と同様な再構成結果が得られることを確認した。
【0064】
これらの結果から、
[1]リングアレイを構成する素子数を維持したまま、送信条件を1に削減可能
[2]リングアレイを構成する素子数を128から8に削減し、送信条件は素子数の分だけ実施する
という2つの使途があることが確認できる。
【0065】
[1]の場合は、開口合成法と比較して、撮像速度が128倍、取得データ量は1/128になる。上記の例では素子数を128個としているが、例えば2048素子、256送信条件のシーケンスでは、撮像速度が256倍、取得データ量は1/256になる。
【0066】
[2]の場合は、リングアレイを構成する素子数の削減や、マルチプレクサの回路規模低減、素子とマルチプレクサ間のケーブル本数の低減(いずれも1/16)というコスト削減や装置サイズ縮小の効果がある。
【0067】
一断面の撮像に要する時間は、直径×2/音速×撮像条件数となるので、直径200mm、音速1500m/s、代表的な開口合成法の撮像条件数256回の場合、一断面の撮像に約70msかかる。1000断面撮像する場合、モータでの移動速度が十分に小さいと、70秒程度要することになる。本発明の方法を適用すると、1000断面撮像しても、撮像時間は0.23秒となる。このように、撮像が高速化され、データ量も削減された分、撮像枚数を増やすことに自由度を使うことも可能となる。
【0068】
データ量に関しては、素子数2048、送信条件256、直径20cmのリングでサンプリング周波数が40MHz、AD変換器の出力が2Byteの開口合成法の場合、深さ方向(超音波伝搬方法)のサンプル点数が200e−3×2/1500×40e=1eであり、1フレーム当たり、2×1e×2048×256=10GBとなる。断面数が1000の場合は、1つのボリュームデータあたり10TBとなる。このため、断面数を削減するか、エコーデータではなく、画像データ(約2GB/体積)で保存することを余儀なくされる。1つのエコーデータに多様なアプリケーション処理を加えることで診断能力の向上が期待されるが、毎回10TBのデータを保存することは現実的ではなくなってしまっている。一方、本発明により、大よそ2桁から3桁でデータ削減が可能となることにより、エコーデータ自体の保存も可能となり、画像化する前のエコーデータの状態で過去データとの比較が可能となるなど、新しい使い道の発展にもつながる。
【0069】
ボリュームでの撮像が高速化されると、乳腺撮像の主要なアプリケーションの一つであるエラストグラフィにおいても、大きな改善が可能となる。エラストグラフィでは一断面の1ライン上での加圧前後での相互相関によって歪を抽出、その分布を可視化することで病変を検出する技術である。加圧により、ラインやスライスがずれると相互相関精度が低下する。通常は撮像スライス位置を固定して、ラインのずれのみ相互相関対象に含めることで、相関エラーを提言しているが、ボリュームでの撮像が高速化されれば、ボリューム内でのエコーライン間の相関が可能とあり、相関エラーの低減が可能となる。
【0070】
ここまでの説明では、G行列を生成する際にインパルス応答を前提とした説明を行った。実際にはトランスデューサは共振周波数を中心としたバンドパスフィルタであるので、帯域幅は有限である。この場合においても、G行列の生成時にインパルス応答に対応した波形を繰り込むことで演算が可能となる。
【0071】
また、ここまでの説明では、音速不均質が与える影響に関して議論を行っていない。すなわち、音波の音速は、乳房の内部を透過する場合と、そうでない場合、また1つの経路中で乳房内部を透過する部分と外部を透過する部分の比の変化とで不均一となることから、両音波の音速の違いを踏まえることが好ましい。例えば、散乱画像を作成する前に乳房の内外を検出する二値化処理を行い、積分伝搬時間から乳房内の平均音速を算出することが可能である。この音速分布を活用することで、音速不均質に対応したG行列の修正をすることは、再構成アルゴリズムのロバスト性向上に有効である。
【0072】
G行列の生成における留意点としては、透過波の分離の観点もある。送信に用いる周波数によるが、一般的には散乱波より透過波の方が強いことが多い。図11bに示すように、透過波が散乱エコー信号の上に重なっていると、本発明の方法により再構成を行う際に影響を受け得る。そこで、図11aに示すように、被検体(撮像領域)からみて送信素子側に配置された一部の素子のみを用いて受信を行うように受信開口制限を行うことで、透過波の影響を限定的にすることが可能となる。図示した例では、受信開口を全素子の3/8に制限することで、本発明の手法が実現可能となることが確認されている。
【0073】
ここまでの実施例ではリング内の広い領域で等間隔に画素を設定する方法に関して説明を行った。リング状のアレイを用いた乳腺組織の撮像においては、乳房内の領域と、それを取り囲む水の領域に大別される。当然、計測においては水の領域に関しては撮像を行う必要がない。そこで撮像領域を乳房が存在する領域のみに設定することで、画素数が削減され、それに応じて、必要な送信条件数、サンプリング周波数を低下させることが、本発明によって可能となる。リングアレイが体幹部に近い(ベッドの天板に近い)場合では、水の領域でデータを取らないことによるデータ削減効果は少ないが、体幹部から離れ、乳房の先端に近づいていくと撮像面内での乳房断面積は低下し、本発明で最適化された撮像条件における取得データ量の削減効果は大きくなる。この時に、水の中に気泡などが存在することによって、ノイズが存在すると、エラーとなる可能性があるので、一条件に関して、時間を変えて撮像を行い、経時変化しない成分のみを抽出する前処理を適用することで、水中に浮遊する散乱体に起因するエコー信号の除去を行うことがノイズ低減のために有効となる。
【0074】
次に本発明が成立する条件、主要なパラメータの設定方法に関して、補足的な説明を行う。本発明のポイントは、計測エリアをグリッド化することで、離散化して、離散的なモデルとして取り扱うために、行列での表現が可能とすることである。この時、グリッドサイズが重要である。散乱波を取得して、画像化する従来法の代表例である開口合成法と比較して、グリッドサイズに対して画質がどのように変化するかを説明する。
【0075】
図13に2つの評価用モデルを示す。図13aは点の配列からなる構造を示し、図13bは乳房断層像を模擬した構造を示す。中心周波数2MHz、空間を画素サイズ0.2mm(波長の約8分の1)でグリッドした時に、グリッド内に存在する散乱体の散乱量の総和をグリッド中心に存在するものとして取り扱う。この時、グリッド内の散乱体の空間分布を、グリッド中央に存在するδ関数に置き換える近似操作が、画像再構成プロセスにおけるアーチファクトの生成や、解像度の低下の原因となる。典型的な結果として、図14a、図14bに本発明による結果、図15a、図15bに比較例として公知の開口合成法を用いた結果を示す。図14a、図14bでは、解像度は維持されているが、ノイズの増加が顕著である。一方、図15a、図15bでは、ノイズの増加は顕著ではないが、解像度の低下が顕著である。
【0076】
そこで、グリッド内の散乱体位置誤差(設定位置と、グリッド中央の距離)を横軸にして、2つの画質評価因子に関する解析を行った。すなわち、信号対雑音比(SNR)と、解像度(半値幅)を縦軸にとり、開口合成を用いた場合と、本発明の場合に関して、図16a、図16bにプロットした。結果として、開口合成の場合は、誤差が増えると解像度は低下する(分解能=分解可能な下限サイズ[m]が増大する)が、SNRには大きな変化がない。一方、本発明では解像度の変化は小さいがSNRの低下が大きい。
【0077】
解像度の低下は、画像がぼやけるが、観察対象が消失するわけではない。(もちろん、程度による。)一方、SNRがある値を下回ると、そもそも観察対象を視認することが出来なくなる。従来、逆行列の演算が実用的に計算可能な範囲で考えると、グリッドサイズが大きくなり、位置誤差が増え、SNRが急激に劣化するため、本発明のような手法が検討されることは無かった。本発明は、十分なグリッド数があれば対象を離散的に取り扱えるという着想から、発明に至ったものである。この結果で示すように、本発明が効果を発揮するのは、開口合成法に比べると、より厳しい条件となっているが、効果を発揮する条件においては、より高い性能を実現することが可能となる。
【0078】
また、別の実施例として、乳房内の温度変化計測に本発明を用いる例について説明を行う。がん細胞は他の正常組織を構成する細胞に比べ、増殖速度が速く、早い増殖を実現するために代謝が活発であることが知られている。このため、既存のPET(ポジトロン断層法)では、放射性崩壊する同位体でラベリングした糖を投与して、代謝が活発な部位から放射されるγ線源の空間分布を可視化することによって、代謝が活発な部位=腫瘤を検出する診断法が臨床現場で広く用いられている。高いコントラストで病変検出が可能な技術であるが、放射性同位体薬剤を生成するための加速器などの付帯設備が高額、大型であることや、体内被曝を伴うことが検診での利用を妨げている。
【0079】
代謝計測をより簡易に行う方法として、赤外線カメラを用いて、代謝に伴う温度上昇部位を検出する手法に関しても、検討の歴史は長く、かつては臨床装置も販売されていた。(近年、AI技術の発展に伴い、再度開発を検討するグループもある。)赤外線で計測する場合には、生体中の水分が熱輻射に伴う赤外線を吸収してしまうため、計測可能な領域は体表に近い浅部に限られることが課題であった。
【0080】
リングアレイを用いた計測では、温度変化に伴う音速分布の変化を計測することが可能である。実際に水分や脂肪の音速の温度依存性は、Xm/s/k程度であり、リングアレイでも検出可能である。体内深部も原理的には計測可能である点が赤外線カメラを用いた場合に比べた長所である。ただし、音速の温度依存性から計測可能なのは、絶対温度ではなく、温度変化であるので、乳房に温度変化を与え、代謝量が多い部位と、他の部位で、温度変化速度の違いからコントラストを得るのが有効である。本発明によらない、通常のリングエコー撮像のシーケンスでは、1ボリュームのデータを取得するのに、5分から10分の時間を要する。腫瘤で発生した熱は、熱拡散方程式に従い拡散し、平衡状態においては、熱源以外の周囲の組織との温度差は小さくなってしまう。この平衡状態に達するまでの温度変化を効率的に取得し、かつ付加的な設備を設けずに温度変化を与えるには、リングアレイが格納された水槽中に、被検者が乳房を入れた直後の温度の非平衡過程を観察することが望ましい。
【0081】
この目的おいて、本発明による、送信条件数の削減は効果的である。上記の1ボリュームのデータ取得時間5分に対して、過渡的な温度変化時間が5〜10分程度であり、この間に過渡的な温度変化を観察するには、撮像速度を5〜10倍高速化する必要がある。本発明による高速化手法を用い、散乱画像を所定時間毎に連続して作成し、経時的な画像変化から、変化の大きい領域(画素値や対応するRFデータが所定値以上変化する部分)を抽出し、それを温度変化の大小に換算することで、代謝による熱抵抗の相違を可視化することが可能となる。
【0082】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2017年10月24日付で出願された日本特許出願2017−205343に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0083】
10 超音波診断システム
110 スイッチ回路
120 送受信回路
130 演算装置
140 画像表示装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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