特許第6841362号(P6841362)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6841362リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6841362
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20210301BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20210301BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20210301BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210301BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 B
   H01M4/136
   H01M10/052
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-46887(P2020-46887)
(22)【出願日】2020年3月17日
【審査請求日】2020年6月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】忍足 暁
(72)【発明者】
【氏名】大野 宏次
(72)【発明者】
【氏名】野添 勉
【審査官】 原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−067594(JP,A)
【文献】 特開2017−143049(JP,A)
【文献】 特開2018−037291(JP,A)
【文献】 特開2016−103352(JP,A)
【文献】 特開2017−069028(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105591097(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36 −4/587
H01M 4/136
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LixAyDzPOで表されるオリビン型リン酸塩系化合物と炭素とを含み、前記オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子が凝集した二次粒子断面の透過型電子顕微鏡観察において、前記一次粒子同士により形成される直径5nm以上の空隙の内部に充填された前記炭素の充填率の300点平均値が、30〜70%であり、
炭素量(c)を比表面積(a)で除した値(c/a)が0.07〜0.14であり、
タップ密度が1.0〜1.6g/ccであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
但し、上記一般式において、AはCo、Mn、Ni、Fe、Cu及びCrからなる群から選択される少なくとも1種であり、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種であり、x、y、zは、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1である。
【請求項2】
前記炭素量(c)が0.7〜3.0質量%であり、
前記比表面積(a)が5〜35m/gであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極合剤層が、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
正極と、負極と、電解質とを有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極として、請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、鉛電池、ニッケル水素電池よりもエネルギー密度、出力密度が高く、スマートフォンなどの小型電子機器をはじめ、家庭用バックアップ電源、電動工具など、様々な用途に利用されている。また、太陽光発電、風力発電など、再生可能エネルギー貯蔵用として、大容量のリチウムイオン二次電池の実用化が進んでいる。
リチウムイオン二次電池は、通常、正極、負極、電解液及びセパレータを備える。正極を構成する正極材料としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するリチウム含有金属酸化物からなる正極活物質が用いられ、電池の高容量化、長寿命化、安全性の向上、低コスト化など、様々な観点から改良が検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−144320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オリビン型リン酸塩系化合物を正極活物質として用いる場合、例えば、一次粒子を比表面積5〜35m/g程度に微細化し、さらにその一次粒子に炭素被覆を施すことで良好な特性を得る試みがなされてきた。しかし、このような微細化により、一次粒子同士により形成される一次粒子間の空隙サイズは、粗大な一次粒子の材料に比べて狭くなる傾向があり、優れた高入力特性及びサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池を得るには検討の余地があった。
さらには、一次粒子同士の空隙拡大によるタップ密度の低下及びカーボンコート充填率の低下による電子伝導性の低下が起こり、エネルギー密度の低下及び充放電容量の低下が起こりやすい。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、高入力特性及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池、並びに、該電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料及びリチウムイオン二次電池用正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子同士により形成される一次粒子間の空隙を占有する炭素の充填率を調整することで、電解液保持量が充放電に好適な量に調整されることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供する。
[1]一般式LixAyDzPOで表されるオリビン型リン酸塩系化合物と炭素とを含み、前記オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子が凝集した二次粒子断面の透過型電子顕微鏡観察において、前記一次粒子同士により形成される直径5nm以上の空隙の内部に充填された前記炭素の充填率の300点平均値が、30〜70%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
但し、上記一般式において、AはCo、Mn、Ni、Fe、Cu及びCrからなる群から選択される少なくとも1種であり、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種であり、x、y、zは、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1である。
[2] 炭素量(c)が0.7〜3.0質量%であり、比表面積(a)が5〜35m/gであり、前記炭素量(c)を前記比表面積(a)で除した値(c/a)が0.07〜0.14であることを特徴とする上記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
[3] タップ密度が1.0〜1.6g/cmであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
[4] 電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、前記正極合剤層が、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
[5]正極と、負極と、電解質とを有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極として、上記[4]に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高入力特性及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池、並びに、該電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料及びリチウムイオン二次電池用正極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例2におけるリチウムイオン二次電池用正極材料のTEM写真である。
図2】比較例3におけるリチウムイオン二次電池用正極材料のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<リチウムイオン二次電池用正極材料>
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料(以下、単に「正極材料」ともいう)は、一般式LixAyDzPOで表されるオリビン型リン酸塩系化合物と炭素とを含み、オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子が凝集した二次粒子断面の透過型電子顕微鏡観察において、一次粒子同士により形成される直径5nm以上の空隙の内部に充填された炭素の充填率の300点平均値が、30〜70%である。
以下、特に記載しない限り、「オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子が凝集した二次粒子断面の透過型電子顕微鏡観察において、一次粒子同士により形成される直径5nm以上の空隙の内部に充填された炭素の充填率の300点平均値」を、単に「本発明における炭素充填率」と称する。
オリビン型リン酸塩系化合物は、高入力特性及びサイクル特性を向上する観点から、一次粒子又は二次粒子の一部又は全部が、炭素を含む炭素質被膜で覆われていることが好ましく、一次粒子間の空隙に炭素が充填されている。その空隙のうち、特定形状の空隙に充填された炭素の充填量を調整することで、電解液保持量が充放電に好適な量に調整されると考えられる。すなわち、本発明における炭素充填率を30〜70%とすることで、リチウムイオン二次電池の高入力特性及びサイクル特性を向上することができる。
【0011】
〔オリビン型リン酸塩系化合物(正極活物質)〕
本実施形態で用いられるオリビン型リン酸塩系化合物は、一般式LixAyDzPOで表され、正極活物質として機能する。
一般式において、AはCo、Mn、Ni、Fe、Cu及びCrからなる群から選択される少なくとも1種であり、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種であり、x、y、zは、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1である。
一般式において、A及びDは、各々独立に、2種以上であってもよく、例えば、LixAPOのような式で表されてもよい。このとき、yとyとの合計がyの範囲、すなわち0を超え1.0以下の範囲にあればよく、zとzとzとzとの合計がzの範囲、すなわち0以上1.0未満の範囲にあればよい。
【0012】
オリビン型リン酸塩系化合物は、上記構成であれば、特に限定されないが、オリビン構造の遷移金属リン酸リチウム化合物からなることが好ましい。
一般式LixAyDzPOにおいて、Aは、Co、Mn、Ni及びFeが好ましく、Co、Mn及びFeがより好ましい。また、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Alが好ましい。オリビン型リン酸塩系化合物がこれらの元素を含むことで、高い放電電位、高い安全性を実現可能な正極合剤層とすることができる。また、資源量が豊富であるため、選択する材料として好ましい。
オリビン型リン酸塩系化合物は、高放電容量及び高エネルギー密度の観点から、一般式LiFex2Mn1−x2−y2y2POで表されることもまた好ましい。
一般式LiFex2Mn1−x2−y2y2POにおいて、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYから選択される少なくとも1種、0.05≦x2≦1.0、0≦y2≦0.14である。
【0013】
本実施形態のオリビン型リン酸塩系化合物の形状は、一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子であることが好ましい。
オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子の形状は、特に制限されないが、球状、特に真球状であることが好ましい。一次粒子が球状であることで、本実施形態の正極材料を用いて正極形成用ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができるとともに、正極形成用ペーストを集電体に塗工しやすくなる。なお、正極形成用ペーストは、例えば、本実施形態の正極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して調製することができる。
オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子及び二次粒子を、総じて正極活物質粒子と称する。
【0014】
〔炭素質被膜〕
本実施形態の正極材料が含む炭素は、正極活物質粒子を被覆する炭素質被膜として、正極材料に含まれることが好ましい。
炭素質被膜は、該炭素質被膜の原料となる有機物を炭化することにより得られる熱分解炭素質被膜である。
有機物としては、正極活物質粒子の表面に炭素質被膜を形成できる化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、フェノール、フェノール樹脂、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコール等が挙げられる。多価アルコールには、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリンおよびグリセリン等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
〔炭素充填率〕
本実施形態の正極材料において、本発明における炭素充填率は、30〜70%である。
本発明における炭素充填率が30%未満では、一次粒子間の空隙への電解液の侵入が増大し、正極材料における電解液保持量が増大してしまう。その結果、本来セパレータ及び負極に行き渡るはずの電解液が不足し、セパレータ及び負極周りのLiイオン移動が遅くなり、電池反応が制限されることでサイクル特性及び入力特性が悪化する。
一方、本発明における炭素充填率が70%を超えると、一次粒子間の空隙が狭まり、電解液の空隙への侵入が妨げられるため、正極材料における電解液保持量が低下する。その結果、正極材料質周りのLiイオンの移動が遅くなり、電池反応が制限されることで、電池のサイクル特性や入力特性が悪化する。
【0016】
本発明における炭素充填率は、リチウムイオン二次電池の高入力特性及びサイクル特性をより向上する観点から、32〜67%であることが好ましく、34〜65%がより好ましく、37〜62%が更に好ましく、40〜60%がより更に好ましい。
【0017】
本発明における炭素充填率は、正極材料に含まれるオリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子間の空隙を透過電子顕微鏡(TEM)で観察することにより求めることができる。既述のように、オリビン型リン酸塩系化合物(正極活物質)は、炭素質被膜で覆われていることが好ましく、透過電子顕微鏡では、通常、炭素質被膜で被覆された正極活物質粒子(以下「炭素質被覆正極活物質粒子」ともいう)を観察する。
具体的には、オリビン型リン酸塩系化合物の二次粒子を断面加工した薄膜試料を作製し、一次粒子間の空隙における炭素充填状態を観察する。直径5nm以上の空隙において、観察像の空隙と炭素との面積比から炭素充填率を算出する。直径5nm以上の空隙300点の炭素充填率の平均値を算出して、本発明における炭素充填率とする。
【0018】
本実施形態における正極材料(好ましくは、炭素質被覆正極活物質粒子)は、炭素量(c)が0.7〜3.0質量%であることが好ましい。
正極材料の炭素量(c)が0.7質量%以上であることで、炭素間の距離が縮まり、導電パスが容易になり易いため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上し易い。また、正極材料の炭素量(c)が3.0質量%以下であることで、オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子間の空隙が狭まりにくく、正極材料の電解液保持量を高めることができ、入力特性を向上し易い。
入力特性とサイクル特性とのバランスの観点から、正極材料の炭素量(c)は、1.0〜2.7質量%であることがより好ましく、1.2〜2.5質量%であることが更に好ましい。
なお、上記炭素量は、炭素分析計(例えば、堀場製作所社製、型番:EMIA−220V)を用いて測定することができる。
【0019】
本実施形態における正極材料(好ましくは、炭素質被覆正極活物質粒子)は、比表面積(a)が5〜35m/gであることが好ましい。
正極材料の比表面積(a)が5m/g以上であることで、オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子の粒径が細かくなり、リチウムイオン及び電子の移動にかかる時間を短くして大電流での作動時及び低温での作動時の容量を増加することができる。
正極材料の比表面積(a)が35m/g以下であることで、金属溶出を抑制することができる。
入力特性とサイクル特性とのバランスの観点から、正極材料の比表面積(a)は、7〜30m/gであることがより好ましく、9〜25m/gであることが更に好ましい。
上記比表面積は、比表面積計(例えば、日本ベル社製、商品名:BELSORP−mini)を用いて、窒素(N)吸着によるBET法により測定することができる。
【0020】
本実施形態における正極材料(好ましくは、炭素質被覆正極活物質粒子)の炭素量(c)を比表面積(a)で除した値(c/a)、換言すると、正極材料の単位比表面積当たりの炭素量は、0.07〜0.14であることが好ましい。c/aの単位は、質量%・g/mである。
c/aが0.07以上であることで、炭素質被膜が十分な電子伝導性を示すことができる。また、c/aが0.14以下であることで、炭素質被膜中に生じる層状構造からなる黒鉛の微結晶が少なくなり、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じにくくなる。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることを抑制することができる。
上記観点から、c/aは、0.09〜0.13であることがより好ましく、0.10〜0.12であることが更に好ましい。
【0021】
本実施形態における正極材料(好ましくは、炭素質被覆正極活物質粒子)のタップ密度は、1.0〜1.6g/cmであることが好ましい。
正極材料のタップ密度が1.0g/cm以上であることで、正極活物質と電解液との接触面積が大きくなり過ぎず、正極活物質からの金属溶出量を抑制することができる。正極材料のタップ密度が1.6g/cm以下であることで、正極活物質と電解液との接触面積が大きくなり、正極活物質へのリチウムイオンの脱挿入がしやすくなり、容量を大きくすることができる。
上記観点から、正極材料のタップ密度は、1.1〜1.5であることがより好ましく、1.2〜1.5であることが更に好ましい。
タップ密度は、JIS R 1628:1997 ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法に則った手法にて測定することができる。
【0022】
炭素質被膜で被覆された正極活物質粒子(炭素質被覆正極活物質粒子)の一次粒子の平均粒子径は、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは100nm以上であり、そして、好ましくは500nm以下、より好ましくは450nm以下、さらに好ましくは400nm以下である。一次粒子の平均粒子径が50nm以上であると正極材料の比表面積の増加に起因する炭素量の増加を抑制でき、これによりリチウムイオン二次電池の充放電容量が低減することを抑制できる。一方、500nm以下であると正極材料内を移動するリチウムイオンの移動時間または電子の移動時間を短くすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の増加に起因する出力特性の悪化を抑制できる。
ここで、一次粒子の平均粒子径とは、個数平均粒子径のことである。上記一次粒子の平均粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)観察により測定した200個以上の粒子の粒子径を個数平均することで求めることができる。
【0023】
炭素質被覆正極活物質粒子の二次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上であり、そして、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上であると正極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合してリチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する際、導電助剤及び結着剤が多量に必要となることを抑制できる。これによりリチウムイオン二次電池の正極の正極合剤層における単位質量あたりのリチウムイオン二次電池の電池容量を高くすることができる。一方、20μm以下であるとリチウムイオン二次電池の正極の正極合剤層中の導電助剤や結着剤の分散性及び均一性を高くすることができる。その結果、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量が高くなる。
ここで、二次粒子の平均粒子径とは、体積平均粒子径のことである。上記二次粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0024】
正極活物質粒子を被覆する炭素質被膜の厚み(平均値)は、好ましくは1.0nm以上、より好ましくは1.4nm以上であり、そして、好ましくは10.0nm以下、より好ましくは7.0nm以下である。炭素質被膜の厚みが1.0nm以上であると炭素質被膜中の電子の移動抵抗の総和が高くなることを抑制できる。これによりリチウムイオン二次電池の内部抵抗の上昇を抑制でき、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。一方、10.0nm以下であるとリチウムイオンが炭素質被膜中を拡散することを妨害する立体障害の形成を抑制することができ、これによりリチウムイオンの移動抵抗が低くなる。その結果、電池の内部抵抗の上昇が抑えられ、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。
【0025】
正極活物質粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が十分に得られる。
なお、炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて粒子を観察し、粒子表面を覆っている部分の割合を算出し、その平均値から求めることができる。
【0026】
炭素質被膜を構成する炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度は、好ましくは0.3g/cm以上、より好ましくは0.4g/cm以上であり、そして、好ましくは2.0g/cm以下、より好ましくは1.8g/cm以下である。炭素質被膜を構成する炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度とは、炭素質被膜が炭素のみから構成されると想定した場合に、炭素質被膜の単位体積当たりの質量である。
炭素質被膜の密度が0.3g/cm以上であると炭素質被膜が十分な電子伝導性を示すことができる。一方、2.0g/cm以下であると炭素質被膜中に層状構造からなる黒鉛の微結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0027】
(リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法は、特に限定されないが、例えば、正極活物質粒子を得る工程(A)と、前記工程(A)で得られた正極活物質粒子に有機化合物を添加して混合物を調製する工程(B)と、混合物を焼成鞘に入れて焼成する工程(C)とを有する。
【0028】
〔工程(A)〕
工程(A)において、上記正極活物質粒子を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、固相法、液相法、気相法等の従来の方法を用いることができる。このような方法で得られたLixAyDzPOとしては、例えば、粒子状のもの(以下、「LixAyDzPO粒子」と言うことがある。)が挙げられる。
LixAyDzPO粒子は、例えば、Li源と、A源と、P源と、水と、必要に応じてD源と、を混合して得られるスラリー状の混合物を水熱合成して得られる。水熱合成によれば、LixAyDzPOは、水中に沈殿物として生成する。得られた沈殿物は、LixAyDzPOの前駆体であってもよい。この場合、LixAyDzPOの前駆体を焼成することで、目的のLixAyDzPO粒子が得られる。
この水熱合成には耐圧密閉容器を用いることが好ましい。
【0029】
水熱合成の反応条件としては、例えば、加熱温度は、好ましくは110℃以上200℃以下、より好ましくは115℃以上195℃以下、さらに好ましくは120℃以上190℃以下である。加熱温度を上記範囲内とすることで、正極活物質粒子の比表面積を上述の範囲内とすることができる。
また、反応時間は、好ましくは20分以上169時間以下、より好ましくは30分以上24時間以下、さらに好ましくは1時間以上10時間以下である。さらに、反応時の圧力は、好ましくは0.1MPa以上22MPa以下、より好ましくは0.1MPa以上17MPa以下である。
【0030】
Li源、A源、D源及びP源のモル比(Li:A:D:P)は、好ましくは2.5〜4.0:0〜1.0:0〜1.0:0.9〜1.15、より好ましくは2.8〜3.5:0〜1.0:0〜1.0:0.95〜1.1である。
【0031】
ここで、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)等の水酸化物;炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)およびリン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリチウム無機酸塩;酢酸リチウム(LiCHCOO)、蓚酸リチウム((COOLi))等のリチウム有機酸塩;ならびに、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
なお、リン酸リチウム(LiPO)は、Li源およびP源としても用いることができる。
【0032】
A源としては、Co、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、Lix1y1z1POにおけるAがFeである場合、Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))等の鉄化合物またはその水和物や、硝酸鉄(III)(Fe(NO)、塩化鉄(III)(FeCl)、クエン酸鉄(III)(FeC)等の3価の鉄化合物や、リン酸鉄リチウム等が挙げられる。
【0033】
D源としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、Lix1y1z1POにおけるDがCaである場合、Ca源としては、水酸化カルシウム(II)(Ca(OH))、塩化カルシウム(II)(CaCl)、硫酸カルシウム(II)(CaSO)、硝酸カルシウム(II)(Ca(NO)、酢酸カルシウム(II)(Ca(CHCOO))、及びこれらの水和物等が挙げられる。
【0034】
P源としては、リン酸(HPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)等のリン酸化合物が挙げられる。これらの中でも、P源としては、リン酸、リン酸二水素アンモニウム及びリン酸水素二アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0035】
〔工程(B)〕
工程(B)では、前記工程(A)で得られた正極活物質粒子に有機化合物を添加して混合物を調製する。
まず、上記正極活物質粒子に有機化合物を添加し、次いで、溶媒を添加する。
正極活物質粒子に対する有機化合物の配合量は、この有機化合物の全質量を炭素元素に換算したとき、正極活物質粒子100質量部に対して、好ましくは0.15質量部以上15質量部以下、より好ましくは0.45質量部以上4.5質量部以下である。
正極活物質粒子に対する有機化合物の配合量が0.15質量部以上であると、この有機化合物を熱処理することにより生じる炭素質被膜の正極活物質粒子表面における被覆率を80%以上にすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の高入力特性及びサイクル特性を向上することができる。一方、正極活物質粒子に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、相対的に正極活物質粒子の配合比が低下してリチウムイオン二次電池の容量が低くなることを抑制できる。また、正極活物質粒子に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、正極活物質粒子に対する炭素質被膜の過剰な担持により、正極活物質粒子の嵩密度が高くなることを抑制できる。なお、正極活物質粒子の嵩密度が高くなることを抑制することで電極密度の低下を抑制し、単位体積あたりのリチウムイオン二次電池の容量低下を抑制することができる。
【0036】
混合物の調製に使用する有機化合物としては、上述したものを用いることができる。
ここで、上記有機化合物として、スクロース、ラクトースなどの低分子の有機化合物を用いることで、正極材料の一次粒子表面に満遍なく炭素質被膜を形成しやすくなるが、一方で熱分解によって得られる炭素質被膜の炭化度が低くなる傾向があり、十分な抵抗低下を達成可能な炭素質被膜の形成が難しい。また、このような低分子の有機化合物を用いることで、炭素質被膜中のミクロ孔の量が増加し、孔全体のミクロ孔比が増加する。一方で、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの高分子の有機化合物やフェノール樹脂などのベンゼン環構造を有する有機化合物を用いることで、熱分解によって得られる炭素質被膜の炭化度が高くなる傾向があり、十分な抵抗低下を達成できるが、一方で正極材料の一次粒子表面に満遍なく炭素質被膜を形成することが難しくなる傾向があり、正極材料の十分な抵抗低下の達成が難しいなどの問題ある。また、このような高分子の有機化合物やベンゼン環構造を有する有機化合物を用いることで、炭素質被膜中のミクロ孔の量が減少し、孔全体のミクロ孔比が低下する。
【0037】
そのため、低分子の有機化合物と高分子の有機化合物、ベンゼン環構造を有する有機化合物を適宜混合して用いることが好ましい。
特に、低分子の有機化合物については粉末状で用いることが、正極活物質粒子と有機化合物とを混合し易く、正極活物質粒子の一次粒子表面に満遍なく炭素質被膜を形成された正極材料を得ることができるため好ましい。また、低分子の有機化合物は、高分子の有機化合物と異なり溶液中に溶解し易く、事前の溶解作業などが必要ないために作業工程の削減や溶解作業に掛かるコストを低減することができる。
【0038】
正極活物質粒子に溶媒を添加する際、その固形分が好ましくは10〜60質量%、より好ましくは15〜55質量%、さらに好ましくは25〜50質量%となるように調整する。固形分を上記範囲内とすることで、得られる正極材料のタップ密度を上述の範囲内とすることができる。
【0039】
上記溶媒としては、たとえば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のアミド類;ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒の中で、好ましい溶媒は水である。
なお、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
【0040】
正極活物質粒子と有機化合物とを、溶媒に分散させる方法としては、正極活物質粒子が均一に分散し、かつ有機化合物が溶解または分散する方法であれば、とくに限定されない。このような分散に使用する装置としては、たとえば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の媒体粒子を高速で撹拌する媒体撹拌型分散装置が挙げられる。
【0041】
噴霧熱分解法を用いて、上記混合物を高温雰囲気中、たとえば、110℃以上200℃以下の大気中に噴霧し、乾燥して、混合物の造粒体を生成してもよい。
この噴霧熱分解法では、速やかに乾燥して略球状の造粒体を生成するためには、噴霧の際の液滴の粒子径は、0.01μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0042】
〔工程(C)〕
工程(C)では、前記工程(B)で得られた混合物を焼成鞘に入れて焼成する。
焼成鞘として、たとえば、カーボン等の熱伝導性に優れる物質からなる焼成鞘が好適に用いられる。
焼成温度は、好ましくは630℃以上790℃以下であり、より好ましくは680℃以上770℃以下ある。
焼成温度が630℃以上であると、有機化合物の分解及び反応が十分に進行し、有機化合物を十分に炭化させることができる。その結果、得られた正極材料に低抵抗の炭素質被膜を形成することができる。一方、焼成温度が790℃以下であると、正極材料の粒成長が進行せず十分に高い比表面積を保つことができる。その結果、リチウムイオン二次電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が大きくなり、十分な充放電レート性能を実現することができる。
焼成時間は、有機化合物が十分に炭化する時間であればよく、とくに制限はないが、たとえば、0.1時間以上100時間以下である。
焼成雰囲気は、好ましくは窒素(N)およびアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気または水素(H)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気である。混合物の酸化をより抑えたい場合には、焼成雰囲気は還元性雰囲気であることがより好ましい。
【0043】
工程(C)の焼成により、有機化合物は焼成により分解および反応して、炭素が生成する。そして、この炭素は正極活物質粒子の表面に付着して炭素質被膜となる。これにより、正極活物質粒子の表面は炭素質被膜により覆われる。
【0044】
本実施形態では、工程(C)で、正極活物質粒子より熱伝導率が高い熱伝導補助物質を混合物に添加した後、混合物を焼成することが好ましい。これにより、焼成中の焼成鞘内の温度分布をより均一にすることができる。その結果、焼成鞘内の温度ムラによって有機化合物の炭化が不十分な部分が生じたり、正極活物質粒子が炭素で還元される部分が生じたりすることを抑制できる。
【0045】
熱伝導補助物質は、上記正極活物質粒子より熱伝導率が高い物質であればとくに限定されないが、正極活物質粒子と反応し難い物質であることが好ましい。これは熱伝導補助物質が正極活物質粒子と反応することで、焼成後に得られる正極活物質粒子の電池活性を損なうおそれがあることや、熱伝導補助物質を焼成後に回収して、再利用することができなくなるおそれがあるためである。
【0046】
熱伝導補助物質としては、たとえば、炭素質材料、アルミナ質セラミックス、マグネシア質セラミックス、ジルコニア質セラミックス、シリカ質セラミックス、カルシア質セラミックスおよび窒化アルミニウム等が挙げられる。これらの熱伝導補助物質は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
熱伝導補助物質は好ましくは炭素質材料であり、例えば、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェン等が挙げられる。これらの熱伝導補助物質は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの炭素質材料の中で、黒鉛が熱伝導補助物質としてより好ましい。
【0048】
熱伝導補助物質の寸法はとくに限定されない。しかし、熱伝導効率の点で、焼成鞘内の温度分布を十分に均一にすることができ、かつ、熱伝導補助物質の添加量を減少させるために、熱伝導補助物質の長手方向の長さの平均は、好ましくは1mm以上100mm以下であり、より好ましくは5mm以上30mm以下である。また、熱伝導補助物質の長手方向の長さの平均が1mm以上100mm以下であると、篩を用いて、正極材料から熱伝導補助物質を分離することが容易になる。
また、正極材料より比重が大きい方が気流式分級機等を用いた分離が容易であるため好ましい。
【0049】
熱伝導補助物質の添加量は、熱伝導補助物質の寸法にも影響されるが、上記混合物を100体積%とした場合、好ましくは1体積%以上50体積%以下であり、より好ましくは5体積%以上30体積%以下である。熱伝導補助物質の添加量が1体積%以上であると、焼成鞘内の温度分布を十分に均一にすることができる。一方、熱伝導補助物質の添加量が50体積%以下であると、焼成鞘内で焼成する正極活物質粒子および有機化合物の量が少なくなることを抑制できる。
【0050】
焼成の後、熱伝導補助物質と正極材料との混合物を篩等に通し、熱伝導補助物質と正極材料とを分離することが好ましい。
【0051】
<リチウムイオン二次電池用正極>
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、電極集電体と、電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、正極合剤層が、本実施形態の正極材料を含有する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むため、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、高入力特性及びサイクル特性に優れる。
以下、リチウムイオン二次電池用正極を単に「正極」と称することがある。
【0052】
正極を作製するには、上記の正極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、正極形成用塗料又は正極形成用ペーストを調製する。この際、必要に応じてカーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤を添加してもよい。
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
正極材料とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、例えば、正極材料100質量部に対してバインダー樹脂を1質量部〜30質量部、好ましくは3質量部〜20質量部とする。
【0053】
正極形成用塗料又は正極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。
例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
次いで、正極形成用塗料又は正極形成用ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とする。次いで、この塗膜を乾燥し、上記の正極材料と結着剤とを含む混合物からなる塗膜が一主面に形成された電極集電体を得る。その後、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、電極集電体の一主面に正極合剤層を有する正極を作製する。
より具体的には、例えば、アルミニウム箔の一方の面に塗布する。次いで、塗膜を乾燥し、正極材料と結着剤とを含む混合物からなる塗膜が一方の面に形成されたアルミニウム箔を得る。その後、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、アルミニウム箔の一方の面に正極合剤層を有する集電体(正極)を作製する。
このようにして、高入力特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができる正極を作製することができる。
【0055】
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解質とを有するリチウムイオン二次電池であって、正極として、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を備える。
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、上記構成に限定されず、例えば、更にセパレータを備えていてもよい。
【0056】
〔負極〕
負極としては、例えば、金属Li、天然黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、Li合金及びLiTi12、Si(Li4.4Si)等の負極材料を含むものが挙げられる。
【0057】
〔電解質〕
電解質は、特に制限されないが、非水電解質であることが好ましく、例えば、炭酸エチレン(エチレンカーボネート;EC)と、炭酸エチルメチル(エチルメチルカーボネート;EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、例えば、濃度1モル/dmとなるように溶解したものが挙げられる。
【0058】
〔セパレータ〕
本実施形態の正極と負極とは、セパレータを介して対向させることができる。セパレータとして、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
また、非水電解質とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0059】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有する正極合剤層を有することから、電池構成部材のいずれの周囲においてもLiイオン移動に優れ、高入力特性及びサイクル特性に優れる。そのため、電気自動車駆動用バッテリーやハイブリッド自動車駆動用バッテリーなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
【0061】
〔リチウムイオン二次電池用正極材料の製造〕
(実施例1)
以下のようにして、オリビン型化合物LiFePOを製造した。Li源およびP源としてLiPOを、Fe源としてFeSO水溶液を用い水溶液を用い、これらをモル比でLi:Fe:Mn:Mg:P=3:1:1となるように混合して、2.2Lの原料スラリーA1を調製した。
【0062】
次いで、原料スラリーA1を耐圧容器に入れた。
その後、原料スラリーA1について、175℃にて16時間、加熱反応を行い、水熱合成を行った。このときの耐圧容器内の圧力は0.8MPaであった。
反応後、耐熱容器内の雰囲気が室温になるまで冷却して、ケーキ状態の反応生成物の沈殿物を得た。
この沈殿物を蒸留水で複数回、充分に水洗し、乾燥しないように含水率40%に保持し、ケーキ状物質とした。
【0063】
このケーキ状物質を70℃にて2時間真空乾燥させて、得られたLiFePO(LFP)粒子の95質量%に対し、第一の炭素源としてポリアクリル酸水溶液を固形分量として4.5質量%と、第二の炭素源として水分散型フェノール樹脂を固形分量として0.5質量%とを水溶媒中に分散して、原料スラリーβ1を得た。
原料スラリーβ1を乾燥造粒後、中外炉エンジニアリング社製のロータリーキルンを用いて735℃にて2時間熱処理を行った。これにより、粒子の表面を炭素質被膜によって被覆し、実施例1のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0064】
(実施例2)
実施例1において得られたLiFePO(LFP)粒子の95質量%に対し、第一の炭素源としてポリアクリル酸水溶液を固形分量として3.5質量%と、第二の炭素源として水分散型フェノール樹脂を固形分量として1.5質量%とを水溶媒中に分散して、原料スラリーβ2を得た。
原料スラリーβ1に代えて原料スラリーβ2を用いた他は、実施例1と同様にして実施例2のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0065】
(実施例3)
実施例1において得られたLiFePO(LFP)粒子の95質量%に対し、第一の炭素源としてポリアクリル酸水溶液を固形分量として2.5質量%と、第二の炭素源として水分散型フェノール樹脂を固形分量として2.5質量%とを水溶媒中に分散して、原料スラリーβ3を得た。
原料スラリーβ1に代えて原料スラリーβ3を用いた他は、実施例1と同様にして実施例3のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0066】
(比較例1)
実施例1において得られたLiFePO(LFP)粒子の95質量%に対し、炭素源としてポリアクリル酸水溶液を固形分量として5質量%を水溶媒中に分散して、原料スラリーβ101を得た。
原料スラリーβ1に代えて原料スラリーβ101を用いた他は、実施例1と同様にして比較例1のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0067】
(比較例2)
実施例1において得られたLiFePO(LFP)粒子の95質量%に対し、第一の炭素源としてポリアクリル酸水溶液を固形分量として1.5質量%と、第二の炭素源として水分散型フェノール樹脂を固形分量として3.5質量%とを水溶媒中に分散して、原料スラリーβ102を得た。
原料スラリーβ1に代えて原料スラリーβ102を用いた他は、実施例1と同様にして比較例2のリチウムイオン二次電池用電極材料を得た。
【0068】
(比較例3)
実施例1において得られたLiFePO(LFP)粒子の95質量%に対し、炭素源として水分散型フェノール樹脂を固形分量として5質量%を水溶媒中に分散して、原料スラリーβ103を得た。
原料スラリーβ1に代えて原料スラリーβ103を用いた他は、実施例1と同様にして比較例1のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0069】
(実施例4)
Li源およびP源としてLiPOを、Fe源としてFeSO水溶液を、Mn源としてMnSO水溶液を、Mg源としてMgSOを、Co源としてCoSO水溶液を、Ca源としてCaSO水溶液を用い、これらをモル比でLi:Fe:Mn:Mg:Co:Ca:P=3:0.26:0.7:0.0349:0.05:0.001:1となるように混合して、2.2Lの原料スラリーA2を調製した。
【0070】
次いで、原料スラリーA2を耐圧容器に入れた。
その後、原料スラリーA2について、190℃にて14時間、加熱反応を行い、水熱合成を行った。このときの耐圧容器内の圧力は1.0MPaであった。
反応後、耐熱容器内の雰囲気が室温になるまで冷却して、ケーキ状態の反応生成物の沈殿物を得た。
この沈殿物を蒸留水で複数回、充分に水洗し、乾燥しないように含水率40%に保持し、ケーキ状物質とした。
【0071】
このケーキ状物質を70℃にて2時間真空乾燥させて、得られたLiFe0.26Mn0.7Mg0.0349Co0.05Ca0.001PO(LFMP)粒子の96質量%に対し、第一の炭素源としてポリアクリル酸水溶液を固形分量として4.5質量%と、第二の炭素源として水分散型フェノール樹脂を固形分量として0.5質量%とを水溶媒中に分散して、原料スラリーβ4を得た。
原料スラリーβ4を乾燥造粒後、中外炉エンジニアリング株式会社製ロータリーキルンを用いて715℃にて2時間熱処理を行った。これにより、粒子の表面を炭素質被膜によって被覆し、実施例4のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
なお、以下、LiFe0.26Mn0.7Mg0.0349Co0.05Ca0.001PO(LFMP)粒子をLiFeMnPO(LFMP)粒子とも称する
【0072】
(実施例5)
実施例4において得られたLiFeMnPO(LFMP)粒子の95質量%に対し、第一の炭素源としてポリアクリル酸水溶液を固形分量として3.5質量%と、第二の炭素源として水分散型フェノール樹脂を固形分量として1.5質量%とを水溶媒中に分散して、原料スラリーβ5を得た。
原料スラリーβ4に代えて原料スラリーβ5を用いた他は、実施例4と同様にして実施例5のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0073】
(実施例6)
実施例4において得られたLiFeMnPO(LFMP)粒子の95質量%に対し、第一の炭素源としてポリアクリル酸水溶液を固形分量として2.5質量%と、第二の炭素源として水分散型フェノール樹脂を固形分量として2.5質量%とを水溶媒中に分散して、原料スラリーβ6を得た。
原料スラリーβ4に代えて原料スラリーβ6を用いた他は、実施例4と同様にして実施例6のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0074】
(比較例4)
実施例4において得られたLiFeMnPO(LFMP)粒子の95質量%に対し、炭素源としてポリアクリル酸水溶液を固形分量として5質量%を水溶媒中に分散して、原料スラリーβ104を得た。
原料スラリーβ4に代えて原料スラリーβ104を用いた他は、実施例4と同様にして比較例4のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0075】
(比較例5)
実施例4において得られたLiFeMnPO(LFMP)粒子の95質量%に対し、第一の炭素源としてポリアクリル酸水溶液を固形分量として1.5質量%と、第二の炭素源として水分散型フェノール樹脂を固形分量として3.5質量%とを水溶媒中に分散して、原料スラリーβ105を得た。
原料スラリーβ4に代えて原料スラリーβ105を用いた他は、実施例4と同様にして比較例5のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0076】
(比較例6)
実施例4において得られたLiFeMnPO(LFMP)粒子の95質量%に対し、炭素源として水分散型フェノール樹脂を固形分量として5質量%を水溶媒中に分散して、原料スラリーβ106を得た。
原料スラリーβ4に代えて原料スラリーβ106を用いた他は、実施例4と同様にして比較例6のリチウムイオン二次電池用正極材料を得た。
【0077】
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
実施例及び比較例で得られた正極材料と、導電助材としてアセチレンブラック(AB)と、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、電極材料:AB:PVdF=90:5:5の重量比で、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に混合し、正極材料ペーストとした。得られたペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔上に塗布、乾燥後、所定の密度となるように圧着して電極板とした。
【0078】
得られた電極板を3×3cm(塗布面)+タブしろの板状に打ち抜き、タブを溶接して試験電極を作製した。
一方、対極には同様に天然黒鉛を塗布した塗布電極を用いた。セパレータとしては、多孔質ポリプロピレン膜を採用した。また、非水電解液(非水電解質溶液)として1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)溶液を用いた。なお、このLiPF6溶液に用いられる溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルを体積%で1:1に混合し、添加剤として炭酸ビニレン2%を加えたものを用いた。
以上のようにして作製した試験電極、対極および非水電解液を用いて、ラミネート型のセルを作製し、実施例および比較例の電池とした。
【0079】
〔正極材料の評価〕
実施例及び比較例で得られた正極材料、及び該正極材料が含む成分について物性を評価した。評価方法は、以下の通りである。結果を表1に示す。
【0080】
(1)炭素量(c)
炭素分析計(堀場製作所社製、型番:EMIA−220V)を用いて炭素量(c)を測定した。
【0081】
(2)比表面積(a)
比表面積計(日本ベル社製、商品名:BELSORP−mini)を用いて、窒素(N)吸着によるBET法により比表面積(a)を測定した。
測定された炭素量(c)と比表面積(a)とから、炭素量/比表面積(c/a)を算出した。
【0082】
(3)粒度分布(D50)
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、商品名:LA−950)を用いて正極材料の粒度分布(D50)を測定した。
【0083】
(4)タップ密度
正極材料の凝集粒子から所定の質量の試料を採取し、この試料を容積10mLのガラス製のメスシリンダーに投入した。この試料をメスシリンダーとともに振動させ、この試料の容積が変化しなくなった時点で試料の容積を測定し、この試料の質量を試料の容積で除した値を、正極材料のタップ密度とした。
【0084】
(5)空隙中の炭素充填率(300点平均値)
集束イオンビーム加工観察装置(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名:FB2100)を用いて、炭素質被覆正極活物質粒子の二次粒子を断面加工した薄膜試料を作製し、電界放射型透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名:HF2000)を用いて、オリビン型リン酸塩系化合物の二次粒子を断面加工した薄膜試料を作製し、一次粒子間の空隙における炭素充填状態を観察した。直径5nm以上の空隙において、観察像の空隙と炭素との面積比から炭素充填率を算出した。直径5nm以上の空隙300点の炭素充填率の平均値を算出して、空隙中の炭素充填率(300点平均値)とした。
図1に、実施例2におけるリチウムイオン二次電池用正極材料の透過電子顕微鏡(TEM)写真を示し、図2に、比較例3におけるリチウムイオン二次電池用正極材料のTEM写真を示した。
【0085】
〔リチウムイオン二次電池の評価〕
(1)1C入力特性
環境温度25℃にて正極の電圧が天然黒鉛負極電圧に対して実施例1〜3および比較例1〜3の正極材料では4.1Vになるまで、実施例4〜6および比較例4〜6の正極材料では4.2Vになるまで、電流値0.1CAおよび1CAにて定電流充電を行い、その挙動から、下記基準にて、1C入力特性を評価した。
実施例1〜3および比較例1〜3の正極材料では下記基準にて評価した。
○:0.1CAと1CAの充電容量比(1CA/0.1CA)が0.95以上である。
△:0.1CAと1CAの充電容量比(1CA/0.1CA)が0.85以上0.95未満である。
×:0.1CAと1CAの充電容量比(1CA/0.1CA)が0.85未満である。
実施例4〜6および比較例4〜6の正極材料では下記基準にて評価した。
○:0.1CAと1CAの充電容量比(1CA/0.1CA)が0.85以上である。
△:0.1CAと1CAの充電容量比(1CA/0.1CA)が0.75以上0.85未満である。
×:0.1CAと1CAの充電容量比(1CA/0.1CA)が0.75未満である。
【0086】
(2)500サイクル寿命特性
環境温度45℃にて正極の電圧が天然黒鉛負極電圧に対して実施例1〜3および比較例1〜3の正極材料では4.1Vになるまで、実施例4〜6および比較例4〜6の正極材料では4.2Vになるまで、電流値1CAにて定電流充電を行い、その後到達電圧で電流値が0.1CAになるまで定電圧充電を行った。続いて、正極の電圧が天然黒鉛負極電圧に対して2.0Vになるまで、電流値1CAにて定電流放電を行い、放電容量を評価した。この充電、放電を500回繰り返し、初回放電と500回放電の挙動から、下記基準にて、500サイクル寿命特性を評価した。
実施例1〜3および比較例1〜3の正極材料では下記基準にて評価した。
○:初回放電容量に対する500回放電容量の比(500th/1st)が0.9以上である。
△:初回放電容量に対する500回放電容量の比(500th/1st)が0.8以上0.9未満である。
×初回放電容量に対する500回放電容量の比(500th/1st)が0.8未満である。
実施例4〜6および比較例4〜6の正極材料では下記基準にて評価した。
○:初回放電容量に対する500回放電容量の比(500th/1st)が0.85以上である。
△:初回放電容量に対する500回放電容量の比(500th/1st)が0.75以上0.85未満である。
×初回放電容量に対する500回放電容量の比(500th/1st)が0.75未満である。
【0087】
【表1】
【0088】
(結果のまとめ)
表1からわかるように、空隙中の炭素充填率が小さいと電解液移動性(イオン泳動性ともいえる)が良好で1C入力特性が向上する傾向にある。また、空隙中の炭素充填率が大きいと電解液移動性が低下し、1C入力特性が低下するものの、炭素のつながりが良好のため導電パスが取りやすく、サイクル特性が向上する傾向にある。
本発明における炭素充填率が30〜70%となる実施例の正極材料から得られたリチウムイオン二次電池は、入力特性とサイクル特性共に、△又は○の評価結果が得られ、高入力特性及びサイクル特性に優れることがわかる。
一方、本発明における炭素充填率が30〜70%の範囲から外れる比較例の正極材料から得られたリチウムイオン二次電池は、入力特性とサイクル特性のいずれか一方が、×評価となった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、リチウムイオン二次電池の正極として有用である。
【要約】
【課題】高入力特性及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池、並びに、該電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料及びリチウムイオン二次電池用正極を提供する。
【解決手段】一般式LixAyDzPOで表されるオリビン型リン酸塩系化合物と炭素とを含み、オリビン型リン酸塩系化合物の一次粒子が凝集した二次粒子断面の透過型電子顕微鏡観察において、一次粒子同士により形成される直径5nm以上の空隙の内部に充填された炭素の充填率の300点平均値が、30〜70%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。AはCo、Mn、Ni、Fe、Cu及びCrのいずれかであり、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYのいずれかであり、x、y、zは、0.9<x<1.1、0<y≦1.0、0≦z<1.0、0.9<y+z<1.1である。
【選択図】なし
図1
図2