特許第6841965号(P6841965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6841965
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】通水型アンカー
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20210301BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20210301BHJP
   E21D 11/38 20060101ALI20210301BHJP
   F16B 13/04 20060101ALI20210301BHJP
   F16B 13/14 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   E04G23/02 A
   E04B1/41 503E
   E21D11/38 A
   F16B13/04 H
   F16B13/14 E
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2020-106622(P2020-106622)
(22)【出願日】2020年6月19日
【審査請求日】2020年10月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】395015766
【氏名又は名称】株式会社ホーク
(74)【代理人】
【識別番号】100169155
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075638
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 暎
(72)【発明者】
【氏名】小森 篤也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宣暁
(72)【発明者】
【氏名】堀越 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
(72)【発明者】
【氏名】西須 稔
(72)【発明者】
【氏名】俵 道和
(72)【発明者】
【氏名】福島 万貴
(72)【発明者】
【氏名】宮城 猛
【審査官】 津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−072098(JP,A)
【文献】 特開2003−213842(JP,A)
【文献】 特開2007−308892(JP,A)
【文献】 実開平04−055961(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0011578(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04B 1/41
E21D 11/38
F16B 13/04
F16B 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体に貼着された繊維シートを前記コンクリート躯体表面に押圧して固定する通水型アンカーであって、
軸線方向に通水孔が形成された細長の円筒体とされ、前記コンクリート躯体に形成されたアンカー取付孔に設置されるアンカーピンと、
前記アンカーピンと同一軸線にて軸線方向に貫通した貫通孔を備え、前記コンクリート躯体表面に貼着された前記繊維シートを前記コンクリート躯体表面に押圧するために前記アンカーピンに固着されるシート押え具と、
前記シート押え具又は前記アンカーピンに設けられ、前記アンカーピン内から前記シート押え具を介しての通水は可能とし、逆方向への通水は阻止する逆止弁装置と、
を備えていることを特徴とする通水型アンカー。
【請求項2】
前記逆止弁装置は、前記シート押え具又は前記アンカーピンに設けられ、前記アンカーピンの前記通水孔を流れる通水によって移動自在とされた球状の弁体又は板状の弁体を有していることを特徴とする請求項1に記載の通水型アンカー。
【請求項3】
前記シート押え具は、エポキシ樹脂若しくはポリアミド樹脂の合成樹脂製とされるか、又は、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはチタンの金属製とされることを特徴とする請求項1又は2に記載の通水型アンカー。
【請求項4】
前記アンカーピンは、エポキシ樹脂若しくはポリアミド樹脂の合成樹脂製とされるか、又は、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはチタンの金属製とされることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の通水型アンカー。
【請求項5】
前記アンカーピンは、前記アンカー取付孔に挿入して固定されるアンカーピン本体と、前記シート押え具を取付けるための、前記アンカーピン本体に一体に形成されたシート押え具取付部とを有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の通水型アンカー。
【請求項6】
前記アンカーピン本体は、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはチタンの金属製とされ、前記シート押え具取付部は、エポキシ樹脂若しくはポリアミド樹脂の合成樹脂製とされることを特徴とする請求項5に記載の通水型アンカー。
【請求項7】
前記アンカーピンは、円筒体軸線方向に対して直交する方向に複数の通水孔を有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の通水型アンカー。
【請求項8】
前記アンカーピンは、円筒体直径方向に対向して、前記シート押え具とは反対側の先端開口部から前記シート押え具の方へと所定距離に渡ってスリットを有していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載の通水型アンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用水路、工業用水路、上下水道、水力発電所用水路等に用いられるコンクリート水路トンネルのようなコンクリート構造物の補修補強(以後、単に「補強」という。)に関するものであり、特に、連続した強化繊維を含むシート状の強化繊維含有材料(以下、「繊維シート」という。)を使用して、コンクリート構造物のコンクリート覆工の補強をする際に使用される通水型アンカーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、農業用水路、工業用水路、上下水道、水力発電所用水路等に用いられる水路トンネルは、長期の使用により老朽化し、或いは、損傷を受ける。特に、このような水路トンネルは、矢板山留め工法にて建設されることが多く、例えば、地山に形成された馬蹄形断面の掘削坑の内壁面に無筋の覆工コンクリートが打設されて建設されている。
【0003】
斯かる水路トンネルのコンクリート覆工層、即ち、コンクリート躯体は、長期の使用により、内面が洗掘、亀裂、欠損等の劣化が生じる。このような劣化は、漏水を引き起こし、覆工層を破壊することもあり、そのために、コンクリート覆工層の補強を施すことが必要となる。現状を調査した結果、このようなコンクリート覆工層を有する水路トンネル構造物は、多くの箇所で既に数十年間長期間使用に供されており、 トンネル背面部の空隙個所の発生、地震などによる変形やひび割れなどの変状や漏水が確認されている。
【0004】
そこで、コンクリート躯体の表面に炭素繊維やガラス繊維、アラミド樹脂網等からなる連続繊維シート等の補強材、即ち、繊維シートを接着剤で貼着してコンクリート躯体を補強する手段(以後、「貼着補強法」という。)が用いられている。その一例が、既存のコンクリート躯体の表面を研磨し、且つ付着強度を確保すべく硬化樹脂を塗布し、その上から接着剤を介して補強材として炭素繊維シートを貼着し、更にその上から樹脂を含浸させるという工法である。本工法は、繊維シートとコンクリート躯体とが一体化するためコンクリート躯体の剛性が増し、荷重によるひび割れ等が起こり難くなるという利点がある。
【0005】
しかしながら、貼着補強法はコンクリートから生ずる水分によって接着面が剥離して繊維シートが浮き上がり、コンクリート躯体と繊維シートの一体性が失われることとなってコンクリート躯体の補強として十分に機能しなくなるという問題点がある。トンネル等の周壁を構築するコンクリート躯体にあっては、地盤から多量の水分が発生するので上記問題点は特に顕著となる。
【0006】
そこで、特許文献1、2には、貼着補強法により炭素繊維などから成る繊維シートが接着剤にて貼着されたコンクリート躯体に、その繊維シートの上からドリルなどによりアンカーピン嵌入穴を形成し、この穴にパイプ状のアンカーピンを取付け、次いで、コンクリート躯体に貼着された繊維シートをアンカーピン先端部に設置した座体或いは頭部材、所謂、シート押え具にて押圧し、それによって、繊維シートがコンクリートから生ずる水分によって接着面から剥離して浮き上がるのを防止する補強方法及びアンカーピンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−72098号公報
【特許文献2】特開2003−213842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、上記特許文献1、2に記載のアンカーピンは、コンクリート躯体に貼着された繊維シートをシート押え具にて押圧し、それによって、繊維シートがコンクリート躯体から生ずる水分によって接着面から剥離して浮き上がるのを防止することができるが、以下の問題を有した。
【0009】
つまり、特許文献1、2に記載のパイプ状のアンカーピンは、コンクリート躯体から生ずる水分をコンクリート躯体から外部へと排出することは可能であるが、一方、特許文献1、2に記載のアンカーピンは開放型であるために、例えば水路トンネルのようなコンクリート構造物に使用した場合は逆に、水路トンネル内からコンクリート躯体内部へと水が浸入してしまうために使用できないといった問題を有していること分かった。
【0010】
本発明の目的は、斯かる従来のアンカーピンが有していた上記問題点を解決した通水型アンカーを提供することである。
【0011】
つまり、本発明の目的は、貼着補強法によりコンクリート躯体に貼着された繊維シートをコンクリート構造物に確実に固定することのできる通水型アンカーを提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、コンクリート躯体内部から生じる水分、或いは、コンクリート躯体背面に生ずる水分をコンクリート躯体を介して外部へと排出することができ、又は、例えば、水路トンネルが水で満たされた状態のように、コンクリート躯体内面側空間が水で満たされた場合であっても、コンクリート躯体内面側空間領域からコンクリート躯体内部に水が浸入することを防止し、繊維シートがコンクリート躯体接着面から剥離して浮き上がるのを防止することのできる通水型アンカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記諸目的は本発明に係る通水型アンカーにて達成される。要約すれば、本発明は、コンクリート躯体に貼着された繊維シートを前記コンクリート躯体表面に押圧して固定する通水型アンカーであって、
軸線方向に通水孔が形成された細長の円筒体とされ、前記コンクリート躯体に形成されたアンカー取付孔に設置されるアンカーピンと、
前記アンカーピンと同一軸線にて軸線方向に貫通した貫通孔を備え、前記コンクリート躯体表面に貼着された前記繊維シートを前記コンクリート躯体表面に押圧するために前記アンカーピンに固着されるシート押え具と、
前記シート押え具又は前記アンカーピンに設けられ、前記アンカーピン内から前記シート押え具を介しての通水は可能とし、逆方向への通水は阻止する逆止弁装置と、
を備えていることを特徴とする通水型アンカーが提供される。
【0014】
本発明の一実施態様によれば、前記逆止弁装置は、前記アンカーピンの前記通水孔を流れる通水によって移動自在とされた球状の弁体又は板状の弁体を有している。
【0015】
本発明の他の実施態様によれば、前記シート押え具は、エポキシ樹脂若しくはポリアミド樹脂の合成樹脂製とされるか、又は、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはチタンの金属製とされる。
【0016】
本発明の他の実施態様によれば、前記アンカーピンは、エポキシ樹脂若しくはポリアミド樹脂の合成樹脂製とされるか、又は、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはチタンの金属製とされる。
【0017】
本発明の他の実施態様によれば、前記アンカーピンは、前記アンカー取付孔に挿入して固定されるアンカーピン本体と、前記シート押え具を取付けるための、前記アンカーピン本体に一体に形成されたシート押え具取付部とを有している。
【0018】
本発明の他の実施態様によれば、前記アンカーピン本体は、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはチタンの金属製とされ、前記シート押え具取付部は、エポキシ樹脂若しくはポリアミド樹脂の合成樹脂製とされる。
【0019】
本発明の他の実施態様によれば、前記アンカーピンは、円筒体軸線方向に対して直交する方向に複数の通水孔を有している。
【0020】
本発明の他の実施態様によれば、前記アンカーピンは、円筒体直径方向に対向して、前記シート押え具とは反対側の先端開口部から前記シート押え具の方へと所定距離に渡ってスリットを有している。
【発明の効果】
【0021】
本発明の通水型アンカーによれば、例えば水路トンネルのようなコンクリート構造物のコンクリート躯体に貼着された繊維シートをコンクリート躯体に確実に固定することができる。また、本発明の通水型アンカーによれば、コンクリート躯体内部から生じる水分、或いは、コンクリート躯体背面に生ずる水分をコンクリート躯体を介して外部へと排出することができ、又は、例えば、水路トンネルが水で満たされた状態のように、コンクリート躯体内面側空間が水で満たされた場合であっても、コンクリート躯体内面側空間領域からコンクリート躯体内部に水が浸入することを防止し、繊維シートがコンクリート躯体接着面から剥離して浮き上がるのを防止することができ、繊維シートの剥離を従来のアンカーよりも長期間防止でき、施工の自由度の向上や施工対象案件を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1(a)〜(c)は、本発明に係る通水型アンカーの一実施例を示す図であり、図1(a)は、通水型アンカーがコンクリート覆工層に対して貼着補強法により貼着された繊維シートを押圧した状態を示す図であり、図1(b)は、通水型アンカーの全体構成を説明する分解図であり、図1(c)は、図1(b)にて左側のシート押え具側から見た図である。
図2図2(a)〜(c)は、本発明の通水型アンカーの一変更実施例を示す図であり、図2(a)は、通水型アンカーの要部構成を説明する部分分解図であり、図2(b)は、図2(a)にて左側のシート押え具側から見た図であり、図2(c)は、通水型アンカーがコンクリート覆工層に対して貼着補強法により貼着された繊維シートを押圧した状態を示す図である。
図3図3(a)〜(c)は、本発明の通水型アンカーの他の変更実施例を示す図であり、図3(a)は、通水型アンカーの要部構成を説明する部分分解図であり、図3(b)は、図3(a)にて左側のシート押え具側から見た図であり、図3(c)は、通水型アンカーがコンクリート覆工層に対して貼着補強法により貼着された繊維シートを押圧した状態を示す図である。
図4図4(a)、(b)は、本発明の通水型アンカーの他の変更実施例を示す図であり、図4(a)は、通水型アンカーがコンクリート覆工層に対して貼着補強法により貼着された繊維シートを押圧した状態を示す図であり、図4(b)は、図4(a)にて左側のシート押え具側から見た図である。
図5図5は、本発明の通水型アンカーの他の実施例を示す図であり、通水型アンカーがコンクリート覆工層に対して貼着補強法により貼着された繊維シートを押圧した状態を示す図である。
図6図6は、図5に示す本発明の通水型アンカーの全体構成を説明する分解図である。
図7図7(a)は、図5に示す本発明の通水型アンカーの組み立て態様を説明するための通水型アンカーの全体構成を示す図であり、図7(b)は、図7(a)の線A−Aに取った断面図であり、図7(c)は、図7(a)にて左側のシート押え具側から見た図である。
図8図8は、本発明の通水型アンカーの他の実施例を示す図であり、通水型アンカーがコンクリート覆工層に対して貼着補強法により貼着された繊維シートを押圧した状態を示す図である。
図9図9は、図8に示す本発明の通水型アンカーの全体構成を説明する分解図である。
図10図10(a)は、図8に示す本発明の通水型アンカーの組み立て態様を説明するための通水型アンカーの全体構成を示す図であり、図10(b)は、図10(a)の線A−Aに取った断面図であり、図10(c)は、図10(a)にて左側のシート押え具側から見た図である。
図11図11(a)〜(g)は、本発明の通水型アンカーを使用した補強方法の一実施例を説明する工程図である。
図12図12は、本発明の通水型アンカーを使用した補強方法に使用し得る繊維シートの一実施例を示す斜視図である。
図13図13は、繊維シートを通水型アンカーに取り付ける際の一実施態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施例1
以下、本発明に係る通水型アンカーを図面に則して更に詳しく説明する。
【0024】
図1(a)〜(c)に本発明に係る通水型アンカー30の一実施例を示す。図1(a)は、通水型アンカー30が、例えばコンクリート水路トンネルのようなコンクリート構造物のコンクリート躯体を構成するコンクリート覆工層201に対して貼着補強法により接着材10にて貼着された炭素繊維などから成る繊維シート1を押圧した状態を示す。図1(b)は、通水型アンカー30の全体構成を説明する分解図であり、図1(c)は、図1(b)にて左側のシート押え具32側から見た図である。
【0025】
図1(a)、(b)を参照すると、本実施例にて、通水型アンカー30は、全体が細長の中空管形状(円筒体)とされ、軸線方向に通水のための通水孔31Hが形成されている。通水型アンカー30は、詳しくは後述するが、図1(a)に示すようにコンクリート覆工層201に形成されたアンカー取付孔204に固定されるアンカーピン31と、このアンカーピン31に取り付けられて、コンクリート覆工層201の内面202 に設置される繊維シート1を押圧して固定するシート押え具32とを有している。
【0026】
アンカーピン31は、防食性能を有するステンレス鋼(SUS304)、アルミニウム、チタン等の金属製、又は、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂のような合成樹脂製とし、シート押え具32は、接着材10との接着性を良好なものとする点から樹脂、例えば、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などで作製することが好ましい。勿論、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン等の金属製とすることもできる。
【0027】
アンカーピン31は、アンカー取付孔204に挿入して固定されるアンカーピン本体31Aと、シート押え具32を取付けるためのアンカーピン本体31Aに一体に形成されたシート押え具取付部31Bとを有している。アンカーピン本体31Aは細長の円筒体とされ、軸線方向両端部が開口部31Aa、31Abとされ、一方端(頭部)開口部31Aaに上記シート押え具取付け部31Bが取付けられる。また、アンカーピン本体31Aの内部中空部を形成する胴部31Acには、頭部開口部31Aaとは反対側の先端開口部31Abから頭部開口部31Aaへと至る所定長さL33に渡って直径方向に対向して一対のスリット(切込み部)33が形成される。また、アンカーピン本体31Aの上記スリット33の頭部開口部31Aa側の端部と、上記シート押え具取付け部31Bとの間の胴部31Acには、アンカーピン31の軸線方向に対して直交する方向(胴部直径方向)に通水孔34が形成される。
【0028】
また、アンカーピン本体31Aの先端開口部31Ab近傍の胴部31Acには、胴部内側に向かつて一対の突起部35が胴部直径方向に対向して形成されている。アンカーピン本体31Aの胴部31Ac内には、上記突起部35と上記シート押え具取付部31Bとの間に位置して、中心に通水のための通水孔36Hを備えた円筒形状の拡張具36が移動自在に装入配置されている。なお、拡張具36の形状は、ここに説明した構造に限定されるものではなく、次に説明する機能を有するものであれば良い。つまり、詳しくは、図11(c)を参照して後述するように、拡張具36をアンカーピン本体31Aの先端開口部31Ab方向へと打ち込むことにより、図1(a)、図11(c)に示すように、上記一対の突起部35が外側へと押し出され、アンカーピン本体31Aの先端開口部31Abがスリット33から割れて拡張し、コンクリート覆工層201へと食い込んでアンカーとして機能することとなる。
【0029】
シート押え具取付部31Bは、図1(a)、(b)に示すように、アンカーピン本体31Aと同一軸線にて軸線長手方向に貫通した中空部(通水孔)31BHが形成された筒状の部材から成る。
【0030】
シート押え具取付部31Bの一方側(図1(a)、(b)にて右側)にアンカーピン本体31Aの頭部開口部31Aaを挿入して取付けるアンカーピン本体支持部31Bbと、他方側(図1(a)、(b)にて左側)にシート押え具32を取付けるための押え具支持部31Baを有している。また、アンカーピン本体支持部31Bbと押え具支持部31Baとの間には、アンカーピン本体支持部31Bb及び押え具支持部31Baより大径とされるアンカーピン鍔部31Bcが形成されている。アンカーピン本体31Aとアンカーピン本体支持部31Bbとは、本実施例ではアンカーピン本体支持部31Bbに溝状係止凹部38を形成し、アンカーピン本体31Aの頭部開口部31Aaの外周部を半径方向内方向へと強圧して形成した係止部39を係止凹部38に嵌合係止することにより一体に結合するものとしたが、その他、螺合、圧入など当業者には周知の結合方法にて一体に結合することができる。シート押え具支持部31Baの外周部40は、本実施例では、後述するように、シート押え具32を取付けるための雄ねじが形成されている。
【0031】
シート押え具32は、シート押え具支持部31Baに取り付けられて、コンクリート覆工層201の内面202に接着される繊維シート1を押圧して固定する機能を有するものである。本実施例では、シート押え具32は、アンカーピン本体31Aと同一軸線にて軸線方向に貫通した中空部、即ち、貫通孔41を備えた軸部32Aを有しており、軸部32Aの貫通孔41の内周部には、シート押え具支持部31Baの外周部40の雄ねじに螺合するために雌ねじが形成されている。また、軸部32Aは、コンクリート覆工層内壁面に設置された繊維シート1をコンクリート覆工層内壁面側へと押え付け固定するに十分な形状と寸法(少なくともアンカーピン本体31よりも大)であれば、例えば円筒形や六角ナット形状などの任意の形状を取ることができるが、図1(c)に示すように、コンクリート覆工層内壁面に設置された繊維シート1をコンクリート覆工層内壁面側へと押え付け固定するに十分な形状寸法とされる鍔部32Bが一体に形成されていることが好ましい。また、軸部32Aは、シート押え具32のシート押え具支持部31Baへのねじ込みを容易とするために六角ナット形状とするのが好ましい。
【0032】
本発明の通水型アンカー30は、アンカーピン31の通水孔31Hを流れるアンカーピン31からシート押え具32を介しての水路トンネル内への通水は可能とするが、逆方向への、即ち、水路トンネルからシート押え具32を介してアンカーピン31の通水孔31Hへの通水は阻止する逆止弁装置50を有することを特徴とする。本実施例の通水型アンカー30は、シート押え具32に逆止弁装置50が設けられている。
【0033】
本実施例にて、逆止弁装置50は、一端51bに環状凸部52が形成された円筒状の逆止弁本体51を有しており、逆止弁本体51の外径D50は、シート押え具取付部31Bの内径d31Bより若干小とされ、シート押え具取付部31B内周部に挿入可能な大きさとされている。逆止弁本体51は、シート押え具32の貫通孔41の、アンカーピン31とは反対側の上記開口端部51bに環状凸部52が固着されることにより、シート押え具32と一体とされている。
【0034】
逆止弁本体51内には逆止弁本体内径d50より小とされる直径D53の逆止弁球53が移動自在に収容されている。アンカーピン31のシート押え具取付部31B側に位置した逆止弁本体51の一端51aは、先端内周部が縮径されて弁座54を形成しており、また、上記環状凸部52が形成された他端51bの開口部に隣接して円周上に複数個、例えば、2〜4個の突起55が形成されている。従って、逆止弁本体51内に収容された球状の弁体、即ち、逆止弁球53は、裏面水等はアンカーピン31を通水して逆止弁球53を逆止弁本体51の一端51aから他端51b側へと移動させ、アンカーピン31から水路トンネルへの通水を可能とし、水路トンネル内へと流出させる。一方、水路トンネル内からアンカー30Aへの通水があった場合は、逆止弁球53を、逆止弁本体51の開口端51bから他端51a側へと移動させ、弁座54に着座させ、それ以上のアンカー本体31内への通水を阻止する。これにより、通水を覆工裏面に逃がすことはない。逆止弁装置50の逆止弁本体51もポリアミド樹脂(ナイロン)などの合成樹脂で作製することにより、長期の耐食性を有するものとすることができる。
【0035】
逆止弁球53はその断面が真円度の高いものが好ましい。真円度とは「円形形態の幾何学的に正しい円からの狂いの大きさを言う。」と定義され、円形形態を二つの同心の幾何学的円で結んだ時、同心に円の間隔が最小となる場合の二円の半径差で示される数値であり、本発明の通水型アンカーにおける逆止弁球としては±0.1mm程度であることが好ましい。
【0036】
また、逆止弁球53の材質はステンレス鋼やアルミニウム、チタンなどの耐腐食性の高い金属、又は、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂などの比重が2以下の合成樹脂にて作製するのが適するが、アンカーピン31を水路トンネルの天井部分若しくはその近傍に配置する場合もあり、逆止弁として確実に動作させなければならないという観点から比重が1.5以下の軽い合成樹脂製であることがより好ましく、逆止弁球の内部が中実ではなく中空であって、みかけ密度が1以下であることが更に好ましい。
【0037】
逆止弁装置50を備えたシート押え具32は、詳しくは図11(a)〜(g)を参照して後述するが、図1(a)に示すように、繊維シート1をコンクリート覆工層201に接着材10(接着材層10a)で接着した後、例えば、六角ナット形状とされる軸部32Aを回転操作することにより、軸部32Aの雌ねじとされる内周部41をシート押え具支持部31Baの外周部40の雄ねじに螺合し、繊維シート1をトンネル覆工層内壁面202へと押圧して固定することができる。
【0038】
変更実施例1
図2(a)〜(c)に本実施例の一変更実施例を示す。図2(a)は、通水型アンカー30の要部構成を説明する部分分解図であり、図2(b)は、図2(a)にて左側のシート押え具32側から見た図である。図2(c)は、通水型アンカー30が、例えばコンクリート水路トンネルのようなコンクリート構造物のコンクリート躯体を構成するコンクリート覆工層201に対して貼着補強法により接着材10にて貼着された炭素繊維などから成る繊維シート1を押圧した状態を示す。
【0039】
上記実施例1では、逆止弁装置50は、シート押え具32に一体に設置された構成とされたが、本変更実施例では、逆止弁装置50は、アンカーピン31のシート押え具取付部31Bに一体に設置される。シート押え具32は、貫通孔41の内周に雌ねじが形成されており、シート押え具32の貫通孔41の雌ねじをシート押え取付部31Bの雄ねじに螺合させることにより固着され、繊維シート1をコンクリート覆工層201表面に押圧して固定する。
【0040】
本変更実施例にて逆止弁装置50は、実施例1と同様の構成とされた円筒状の逆止弁本体51有しており、逆止弁本体51は、中空部(通水孔)31BHが形成された筒状の部材とされるシート押え具取付部31Bの内周部に嵌入設置される。逆止弁本体51内には本体軸線方向に逆止弁球53が移動自在に収容されている。
【0041】
更に説明すると、シート押え具取付部31Bのアンカーピン本体支持部31Bb側に位置した逆止弁本体51の一端51aは、先端内周部が縮径されて弁座54を形成しており、その先端部がアンカーピン本体支持部31Bbのアンカーピン本体31A側の開口端部に形成された環状凸部31B1に当接している。また、逆止弁本体51の他端51b外周部には、環状凸部52が形成され、この環状凸部52は、シート押え具支持部31Baの開口端部に隣接してシート押え具支持部31Baの内周部に形成された環状凹部31B2に係合している。また、逆止弁本体51の他端51bの開口部に隣接して円周上に複数個、例えば、2〜4個の突起55が形成されている。
【0042】
従って、図2(c)に示すように、上記実施例1で説明した逆止弁装置50と同様に、逆止弁本体51内に収容された逆止弁球53は、裏面水等はアンカーピン31を通水して逆止弁球53を逆止弁本体51の一端51aから他端51b側へと移動させ、アンカーピン31から水路トンネルへの通水を可能とし、水路トンネル内へと流出させる。一方、水路トンネル内からアンカー30への通水があった場合は、逆止弁球53を、逆止弁本体51の開口端51bから他端51a側へと移動させ、弁座54に着座させ、それ以上のアンカーピン31内への通水を阻止する。これにより、通水を覆工裏面に逃がすことはない。逆止弁装置50をポリアミド樹脂(ナイロン)などの合成樹脂で作製することにより、長期の耐食性を有するものとすることができる。
【0043】
変更実施例2
図3(a)〜(c)に本実施例の他の変更実施例を示す。図3(a)は、通水型アンカー30の要部の構成を説明する部分分解図であり、図3(b)は、図3(a)にて左側のシート押え具32側から見た図である。図3(c)は、通水型アンカー30が、例えばコンクリート水路トンネルのようなコンクリート構造物のコンクリート躯体を構成するコンクリート覆工層201に対して貼着補強法により接着材10にて貼着された炭素繊維などから成る繊維シート1を押圧した状態を示す。
【0044】
本変更実施例2においても、逆止弁装置50は、実施例1と同様に、シート押え具32に一体に設置された構成とされるが、本変更実施例2では、シート押え具32は、シート押え部32Cとシート押え具支持部32Dとが一体に形成された構成とされる。従って、以下に説明するように、本変更実施例2においてはアンカーピン31の構造が実施例1と異なっている。
【0045】
本変更実施例にて、通水型アンカー30は、先の実施例1と同様に、全体が細長の中空管形状とされ、中心に通水のための通水孔31Hが形成されている。また、通水型アンカー30は、コンクリート覆工層201に形成されたアンカー取付孔204に固定されるアンカーピン31を有し、シート押え具32がこのアンカーピン31に取り付けられて、コンクリート覆工層201の内面202 に設置される繊維シート1を押圧して固定する。
【0046】
アンカーピン31は、防食性能を有するステンレス(SUS304)製、又は、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂のようなプラスチック製とし、シート押え具32は、接着材10との接着性を良好なものとする点から樹脂、例えば、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などで作製することが好ましい。
【0047】
アンカーピン31は、アンカー取付孔204 に挿入して固定されるアンカーピン本体31Aを備え、アンカーピン本体31Aの全体構造は、図1(a)、(b)に示す実施例1と同様に、円筒体とされ、軸線方向一方端(図3(a)、(c)にて左側)頭部開口部31Aaにシート押え具32のシート押え具支持部32Dが取付けられる。ただ、本変更実施例2では、アンカーピン31の開口部31Aaの開口端部には、アンカーピン本体31Aの外径より大径とされる環状の鍔31Adが形成される。鍔31Adは、図3(c)に示すように、アンカーピン31を取付孔204に設置する際にコンクリート覆工層201に当接し、アンカー30の挿入位置決めを成す部材とされる。環状の鍔31Adの代わりに、アンカーピン本体31Aの半径方向に突出した複数個に分割された突起とすることもできる。アンカーピン本体31Aのその他の構成は、図1(a)、(b)を参照して説明した先の実施例1と同様の構成とされる。
【0048】
シート押え具32は、取付孔204に固定されたアンカーピン本体31Aの頭部開口部31Aaに、シート押え具支持部32Dを挿入して取付ける。シート押え具支持部32Dとシート押え部32Cとの間には、シート押え具支持部32Dより大径とされ、且つ、シート押え部32Cのシート押え鍔部40A1より小径とされるシート押え軸部40A2が形成されており、従って、シート押え具32は、シート押え軸部40A2がアンカーピン本体31Aの環状鍔31Adに当接するまで挿入される。本変更実施例では、シート押え具支持部32Dに溝状係止凹部38を形成し、この係止凹部38が、アンカーピン本体31Aの頭部開口部31Aaの外周部に半径方向内方向へと形成された係止部39に弾発的に嵌合係止することにより一体に結合される。勿論、その他、螺合、圧入など当業者には周知の結合方法にて一体に結合することができる。
【0049】
図3(c)に示すように、シート押え具32は、先の実施例1などと同じように、アンカーピン本体31Aに取り付けられて、コンクリート覆工層201の内面202に接着される繊維シート1を押圧して固定する機能を有するものである。
【0050】
本変更実施例においても、通水型アンカー30は、アンカーピン31から水路トンネル内への通水は可能とするが、逆方向への通水は阻止する逆止弁装置50を有している。本変更実施例において逆止弁装置50は、上述したように、シート押え部32Cとシート押え具支持部32Dとが一体に形成された構成とされるシート押え具32に設置されている。逆止弁装置50の構成及び機能は、先の実施例1、変更実施例1などで説明したと同様であり、同じ構成及び機能を成す部材には同じ参照番号を付し、詳しい説明は、先の実施例1、変更実施例1などの説明を援用し、ここでの再度の説明は省略する。
【0051】
変更実施例3
図4(a)、(b)に本実施例の他の変更実施例を示す。上記実施例1、変更実施例1、2では、通水型アンカー30の逆止弁装置50として、逆止弁球53を用いる、所謂、ボールタイプの逆止弁装置50を例示して説明した。本発明においては、構造が簡便であり、長期間使用可能なボールタイプの逆止弁装置50が特に好ましい逆止弁装置であるが、本発明の通水型アンカー30の逆止弁装置50はボールタイプに限定されるものではなく、図4(a)、(b)に示すように、板状の弁体50aによるスイングタイプの逆止弁装置50なども使用することができる。
【0052】
本変更実施例3では、上記変更実施例2の通水型アンカー30に逆止弁装置50としてスイングタイプの逆止弁装置としてスイングタイプの逆止弁装置50を採用した実施例について説明する。従って、本変更実施例3の通水型アンカー30は、逆止弁装置50の構成を除いては、シート押え具32をはじめその他の構成及び機能は、先の変更実施例2などで説明したと同様であり、同じ構成及び機能を成す部材には同じ参照番号を付し、詳しい説明は、先の変更実施例2などの説明を援用し、ここでの再度の説明は省略する。
【0053】
本変更実施例3の通水型アンカー30にて、逆止弁装置50は、例えば、1〜3mm程度の厚さとされる矩形状のゴム板、即ち、弾性板にて形成される板状の弁体50aを備えており、弁体50aの一端取付部50a1をシート押え具32の外表面に螺子又は接着剤などにて固定し、揺動弁体部50a2でシート押え具32のアンカーピン本体32A側の先端開口部32aとは反対側の頭部開口部32b、即ち、アンカーピン31の通水孔31Hの水路トンネル側開口部を覆うようにする。
【0054】
これにより、弁体50aは、アンカーピン31の通水孔31Hをアンカーピン本体31Aからシート押え具32方向へと流れる裏面水等は弁体50aを弁体50aの弾性に抗して外方へと押し開き、アンカーピン31から水路トンネルへの通水を可能とし、水路トンネル内へと流出させる。一方、アンカーピン31から水路トンネルへの通水がない場合、或いは、水路トンネル内からアンカーピン31内への通水があった場合は、弁体50aにてアンカーピン31の通水孔31Hの開口部を覆って閉鎖し、アンカーピン31内への通水を阻止する。これにより、通水を覆工裏面に逃がすことはない。
【0055】
ここで、上記図1(a)〜(c)を参照して説明した実施例1の通水型アンカー30の主要部の具体的寸法の一例を挙げれば次の通りである。
・アンカーピン本体(31A)
材質:ステンレス(SUS304)
直径及び内径:D31A=12mm、d31A=10.8mm
長さ:L31A=55mm
・シート押え具取付部(31B)
材質:ステンレス(SUS304)
シート押え具取付部の内径:d31B=7.4mm
シート押え具取付部の長さ:L31Ba=7mm、L31Bb=6.5mm
鍔部の外径及び厚さ:D31Bc=15mm、L31Bc=2mm
シート押え具取付部の外周部(40)雄ねじ:M12
・シート押え具(32)
材質:ポリアミド樹脂(ナイロン66)
長さ:L32=9mm
鍔部の直径:D32B=30mm
内周部(41)の雌ねじ:M12(六角ナット)
ナット部長さ:L32A=6mm
・逆止弁装置(50)
逆止弁本体(51)の材質:ポリアミド樹脂(ナイロン6)
逆止弁本体(51)の内径:d50=5.3mm
逆止弁本体(51)の長さ:L50=13.5mm
・逆止弁球(53)
材質:ポリプロピレン(比重:0.91)
直径:D53=4.8mm
【0056】
実施例2
図5図7(a)〜(c)を参照して、本発明に係る通水型アンカーの他の実施例を説明する。
【0057】
図5は、通水型アンカー30が、例えばコンクリート水路トンネルのようなコンクリート構造物のコンクリート躯体を構成するコンクリート覆工層201に対して貼着補強法により貼着された炭素繊維などから成る繊維シート1を押圧した状態を示す。図6は、通水型アンカー30の全体構成を説明する分解図であり、図7(a)は、組み立て態様及び組み立てられた通水型アンカー30の全体構成を示す正面図であり、図7(b)は、図7(a)の線A−Aに取った断面図であり、図7(c)は、図7(a)にて左側のシート押え具32側から見た図である。本実施例における通水型アンカー30は、上記実施例1などで示した通水型アンカー30と基本的には同様の構造及び機能を有しており、同様の構造及び機能を成す部材には同じ参照番号を付すものとする。
【0058】
図5を参照すると、本実施例にて、通水型アンカー30は、先に説明した実施例1などと同様に、全体が細長の中空管形状とされ、中心に通水のための通水孔31Hが形成されている。図6及び図7(a)〜(c)をも参照すると理解されるように、通水型アンカー30は、コンクリート覆工層201に形成されたアンカー取付孔204に固定されるアンカーピン31と、このアンカーピン31に取り付けられて、コンクリート覆工層201の内面202 に設置される繊維シート1を押圧して固定するシート押え具32とを有している。本実施例にてシート押え具32は逆止弁装置50を備えている。
【0059】
アンカーピン31は、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン等の金属製のアンカーピン本体31Aと、シート押え具32を取り付けるためのエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂等の合成樹脂製のシート押え具取付部31Bとを有している。シート押え具32は、詳しくは後述するが、アンカーピン本体31Aと共にコンクリート覆工層201に埋め込まれたシート押え具取付部31Bに差し込む形で弾発的に嵌合係止される。
【0060】
本実施例にて、アンカーピン本体31Aは防食性能を有するステンレス(SUS304)製の円筒体とされ、軸線方向両端部が開口部31Aa、31Abとされ、一方端(頭部)開口部31Aaに合成樹脂製のシート押え具取付部31Bが取付けられる。
【0061】
アンカーピン本体31Aの内部中空部を形成する胴部31Acには、頭部開口部31Aaとは反対側の先端開口部31Abから頭部開口部31Aaへと至る所定長さL33に渡って直径方向に対向して一対のスリット(切込み部)33が形成される。
【0062】
更に、アンカーピン本体31Aは、その胴部径D31Aが頭部開口部31Aaから先端開口部31Abに向かって漸減するようになっており、頭部開口部31Aaとスリット33の始点との間の胴部31Acには、胴部直径方向に対向して通水孔34が複数個形成されている。
【0063】
通水孔34は、アンカーピン本体31Aの先端開口部31Abからだけでなく、アンカーピン本体31A側面からも通水孔31Hにコンクリート覆工層201からの漏水を効率よく導くことができるように複数個設けることが好ましい。ただ、アンカーピン本体31の強度の確保も必要なことから、孔径もよるが凡そ最大12個程度までとするのが良い。
【0064】
アンカーピン本体31Aの胴部31Ac内には、図5に示すように、軸線方向中心に通水のための通水孔36Hを備えた円筒形状の拡張具36が移動自在に装入配置されており、この拡張具36をアンカーピン本体31Aの頭部開口部31Aaから先端開口部31Ab方向へと打ち込むことにより、アンカーピン本体31Aの先端開口部31Abが拡張し、コンクリート覆工層201へ強く押し当てられアンカーとして機能する。
【0065】
シート押え具取付部31Bは、図6にて、外径D31Baがアンカーピン本体31Aの頭部開口部31Aaの外径D31Aaと概略同じとされ、アンカーピン本体31Aと同一軸線にて軸線長手方向に貫通した中空部(通水孔)31BHを有する全体形状が筒状の部材とされ、図5図6図7(a)、(b)に示すように、
(i)アンカーピン本体31Aと同一軸線にて軸線長手方向に貫通した中空部(通水孔)31BHが形成された筒状の部材とされるシート押え具取付部本体31Baと、
(ii)シート押え具取付部本体31Baの一方側(図面上にて右側:アンカーピン本体接続部)に、シート押え具取付部本体31Baと同一軸線にて軸線長手方向に貫通した中空部(通水孔)31BHを形成する筒状のアンカーピン本体支持部31Bbと、
(iii)シート押え具取付部本体31Baの他方側(図面上左側:頭部開口部)にシート押え具取付部本体3Baの外径より大とされる外径D31Bcの鍔部31Bcと、
を有している。
【0066】
円筒状のアンカーピン本体支持部31Bbは、円周上複数個所にて軸線方向にスリット311aを入れることにより複数個に分割された係止片311bが形成される。係止片311bの数は、通常、3〜6個程度され、本実施例では4個の係止片311b形成され、係止片311bの外周上には係止爪311cが形成される。一方、アンカーピン本体31Aには、アンカーピン本体31Aの頭部開口部31Aaに隣接して、係止爪311cに対応して係止孔312aが形成される。これにより、シート押え具取付部31Bのアンカーピン本体支持部31Bbをアンカーピン本体31Aの頭部開口部31Aa内へと挿入することにより、アンカーピン本体支持部31Bbの係止爪311cがアンカーピン本体31Aの係止孔312a内へと挿入されて弾発的に係止され、シート押え具取付部31Bとアンカーピン本体31Aとが一体に接続される(図7(a)参照)。
【0067】
上記説明にて理解されるように、本実施例では、金属製のアンカーピン本体31Aと、合成樹脂製のシート押え具取付部31Bとの接続は、所謂、金属パイプ(アンカーピン本体31A)と樹脂パーツ(シート押え具取付部31B)とによるスナップフィット方式による接続であり、樹脂パーツの凸部(係止爪311c)を樹脂の弾性を利用して金属パイプの凹部(係止孔312a)にはめ込んで引っ掛ける構成とされ、一度接続すると外れ難い構造となっている。又、両部材の接続操作が容易である。
【0068】
なお、上記実施例の説明では、アンカーピン本体31Aとアンカーピン本体支持部31Bbとは、係止爪311cを係止凹部38に嵌合係止することにより一体に結合するものとしたが、その他、螺合、圧入など当業者には周知の結合方法にて一体に結合することも可能である。
【0069】
更に、図6図7(a)、(b)を参照すると理解されるように、シート押え具取付部31Bのシート押え具取付部本体31Baには、直径方向に対向して円周上2箇所においてシート押え具取付部本体31Baに対して内方、外方へと弾性変形可能なシート押え具係止片311eが形成される。本実施例では、合成樹脂製とされるシート押え具取付部本体31Baを切り出し(成形)加工することによって、シート押え具取付部本体31Baの軸線方向に沿って長方形状のシート押え具係止片311eが形成される。つまり、シート押え具係止片311eは、その一端、即ち、図面上右側端が切り出し(成形)加工により形成された開口窓311dに一体とされ、図面上左側端がシート押え具取付部本体31Baに対して内外方向へと弾性変形可能とされる。本実施例にて、シート押え具係止片311eには、図面上左側端部領域の内周面に沿って係止爪311fが1個、或いは、軸線方向に離間して複数個、本実施例では2個形成される。つまり、シート押え具係止片311eの係止爪311fは、詳しくは後述するシート押え具32の軸部32Eのねじ溝に螺合する雌ねじの一部を形成している。
【0070】
係止爪311fは、詳しくは後述するが、シート押え具32をアンカーピン31に設置するべく、シート押え具32をシート押え具取付部31Bのシート押え具取付部本体31Ba内へと挿入すると、挿入されたシート押え具32の軸部32Eの外周囲に形成されたねじ溝に係合してシート押え具32をその位置に保持することができる。つまり、係止爪311fは、挿入されたシート押え具32の軸部32Eのねじ溝に係合するが、シート押え具32を更にアンカーピン31の方へと挿入すると、シート押え具32の軸部32Eのねじ山の弾性的変形とも相俟って、シート押え具32のアンカーピン31への更なる挿入を可能とする。シート押え具32は、上述のように、押入することによりアンカーピン31へと挿入することもできるがシート押え具32のアンカーピン31へと挿入を停止すると、係止爪311fはシート押え具32の軸部32Eのねじ溝に係合してシート押え具32をその位置に保持する。つまり、シート押え具32は、シート押え具32の軸部32Eに対する係止爪311fのラチエット機構によりアンカーピン31に設置されるので、押し込み易く引き抜け難い構造とされている。また、シート押え具32は、係止爪311fがシート押え具32の軸部32Cのねじ溝に係合した後は、シート押え具32の鍔部31BCを回転することによっても更に挿入することもでき、また、逆回転させることによって容易に引き抜くこともでき、挿入量(即ち、コンクリート覆工層内面202との距離)を調整することができる。
【0071】
又、本実施例によれば、係止爪311fが形成されたシート押え具取付部31Bのシート押え具取付部本体31Baは、その外周面が取付孔204によりホールドされるので、係止爪311fとシート押え具32軸部32Eとがしっかりと係合し、シート押え具32の保持力が緩むことはない。
【0072】
シート押え具32は、本実施例では、図5図6図7(a)〜(c)に示すように、円筒形状とされ外周には雄ねじが形成された軸部32E、軸部32Eの一端、図面上左側端に鍔部32Fとを有している。鍔部32Fは、図7(c)に図示するように、シート押え具32のシート押え具取付部本体31Baへのねじ込みを容易とするために、軸部32Eの外径より大径とされる外径D32Fの鍔部32Fを有した、所謂、二方取り形状とされている。
【0073】
本実施例にて、シート押え具32は、逆止弁装置50としての機能をも有しており、軸部32Eは、内径d50、長さL50逆止弁本体としての機能をも有しており、図6を参照すると、軸部32Eの一端、図面上右側端に環状突起とされる弁座54が形成されており、また、軸部32Eの他端、図面上左側端には、多数の開口を有した止め座金56が固着されており、軸部32E内に軸部32の内径d50より小とされる直径D53の逆止弁球53が移動自在に配置されている。
【0074】
逆止弁装置50は、アンカーピン31から水路トンネル内への通水は可能とするが、逆方向への通水は阻止する。本実施例の逆止弁装置50は、実施例1で用いた、所謂、ボールタイプの逆止弁装置と同様の構成、機能を有しており、逆止弁装置の構成、機能についての詳しい説明は、実施例1における逆止弁装置50の説明を参照されたい。
【0075】
上記説明では、シート押え具取付部31Bのシート押え具取付部本体31Baには、直径方向に対向して円周上2箇所においてシート押え具係止片311e、及び、シート押え具係止片311eに対応して開口窓311dが形成され、挿入されたシート押え具32の軸部32Eのねじ溝に部分的に螺合してラチェット機構のようにシート押え具32を押し込むだけで固定することができる構成について説明したが、本実施例は、これに限定されるものではなく、シート押え具取付部本体31Baにシート押え具係止片311e及び開口窓311dを設けることなく、シート押え具取付部本体31Baの内面全周を、シート押え具32の軸部32Eの雄ねじと螺合する雌ねじ形状とすることも可能である。従って、この場合は、シート押え具32は、回転操作により、そのねじ軸部32Eをシート押え具取付部本体31Baの内面雌ねじに螺合させることによって、シート押え具取付部本体31Baに取り付けられる。
【0076】
本実施例にて通水型アンカー30は、上述にて理解されるように、金属製のパイプと樹脂パーツを組み合わせることによって構成されているので、金属強度のアンカー効果と樹脂の柔軟性を有したパーツ接続を併せ持ったハイブリッドアンカーである。
【0077】
また、シート押え具取付部31B及びシート押え具32は、設置時にハンマーなどにて外部から衝撃が加えられることが考えられ、従って、これら部材は、その場合においても割れたり、変形し難いように、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂(ナイロン)やポリ塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂といった合成樹脂が使用され、なかでもポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66)などの熱可塑性の合成樹脂を使用すると、ハイサイクル成形が可能であり、耐衝撃性も高いのでより好ましい。
【0078】
ここで、上記図5図7(a)〜(c)を参照して説明した実施例2の通水型アンカー30の主要部の具体的寸法の一例を挙げれば次の通りである。
・アンカーピン本体(31A)
材質:ステンレス(SUS304)
直径及び内径: D31A=16.3mm、d31A=13.4mm
長さ:L31A=80mm
・シート押え具取付部(31B)
材質:ポリアミド樹脂(ナイロン66)
シート押え具取付部の内径:d31B=12.5mm
シート押え具取付部の外径:D31Ba=17mm
シート押え具取付部の長さ:L31B=33.5mm、L31Ba=26mm、L31Bb=7.5mm
鍔部の外径及び厚さ:D31Bc=30mm、L31Bc=1.5mm
シート押え具取付部開口窓(311d)の幅:W311d=9mm
シート押え具取付部開口窓(311d)の長さ:L311d=10.5mm
シート押え具取付部係止爪(311e)の幅:W311e=5mm
シート押え具取付部係止爪(311e)の長さ:L311e=8.5mm
・シート押え具(32)
材質:ポリアミド樹脂(ナイロン66) 長さ:L32=24mm
鍔部の直径:D32F(長径)=31.5mm、(短径)=25.8mm
鰐部厚み:L32F=2mm
軸部(32E)の長さ:L32E=15.7mm
軸部(32E)雄ねじ:M12
・逆止弁装置(50)
逆止弁本体部の内径:d50=8.5mm
逆止弁本体部の長さ:L50=11.8mm
・逆止弁球(53)
材質:ポリスチレン(比重:1.09)
直径:D53=6.5mm
【0079】
実施例3
図8図10(a)〜(c)を参照して、本発明に係る通水型アンカーの他の実施例を説明する。
【0080】
図8は、通水型アンカー30が、例えばコンクリート水路トンネルのようなコンクリート構造物のコンクリート躯体を構成するコンクリート覆工層201に対して貼着補強法により貼着された炭素繊維などから成る繊維シート1を押圧した状態を示す。図9は、通水型アンカー30の全体構成を説明する分解図であり、図10(a)は、組み立て態様及び組み立てられた通水型アンカー30の全体構成を示す正面図であり、図10(b)は、図10(a)の線A−Aに取った断面図であり、図10(c)は、図10(a)にて左側のシート押え具32側から見た図である。
【0081】
本実施例における通水型アンカー30は、上記実施例1、2などで示した通水型アンカー30と基本的には同様の構造及び機能を有しており、特に、本実施例における通水型アンカー30は、上記実施例2に記載した通水型アンカー30におけるアンカーピン本体31Aとシート押え具取付部31Bとを合成樹脂にて一体化して作製した点において、実施例2に記載した通水型アンカー30とは異なっている。従って、本実施例における通水型アンカーピン30は、上記実施例2で示した通水型アンカーピン30と基本的に同じ構成及び機能をなす部材には同じ参照番号を付し、詳しい説明は、上記実施例2で示した通水型アンカーピン30におけるアンカーピン本体31A、シート押え具取付部31B、及びシート押え具32に関する説明を援用し、ここでの再度の詳しい説明は省略する。
【0082】
図8を参照すると、本実施例にて、通水型アンカー30は、先に説明した実施例2と同様に、全体が細長の中空管形状とされ、中心に通水のための通水孔31Hが形成されている。図9及び図10(a)〜(c)をも参照すると理解されるように、通水型アンカー30は、コンクリート覆工層201に形成されたアンカー取付孔204に固定されるアンカーピン31と、このアンカーピン31に取り付けられて、コンクリート覆工層201の内面202 に設置される繊維シート1を押圧して固定するシート押え具32とを有している。本実施例にてシート押え具32は逆止弁装置50を備えている。
【0083】
アンカーピン31は、上述のように、アンカーピン本体31Aと、シート押え具32を取り付けるためのシート押え具取付部31Bとが合成樹脂にて一体に形成されている。シート押え具32は、アンカーピン本体31Aと共にコンクリート覆工層201に埋め込まれたシート押え具取付部31Bに差し込む形で弾発的に嵌合係止される。
【0084】
本実施例のアンカーピン31は、アンカーピン本体31Aとシート押え具取付部31Bとが一体に形成され、全体形状が円筒体とされ、内部中空部が通水孔31Hとされる。本実施例3では、円筒状アンカーピン31の、シート押え具32が装着される図面上左側の頭部開口部31Aaには、先端開口部31Aaよりも大径のアンカーピン鍔部31Adが形成されている。鍔31Adは、図8に示すように、アンカーピン31を取付孔204に設置する際にコンクリート覆工層201に当接し、アンカー30の挿入位置決めを成す部材とされる。このアンカーピン鍔部31Adに隣接して、シート押え具32と嵌め合せるためのシート押え具取付部31Bが形成される。本実施例3にて、シート押え具取付部31Bの構成は、実施例2におけるシート押え具取付部31Bと同様の構成とされる。ただし、実施例2におけるアンカーピン本体支持部31Bbは必要としない。
【0085】
更に、図8図10(a)、(b)を参照して説明すると、本実施例3においては、アンカーピン本体31Aと一体とされたシート押え具取付部31Bには、直径方向に対向して円周上2箇所においてシート押え具取付部31Bに対して内方、外方へと弾性変形可能なシート押え具係止片311eが形成される。本実施例3では、合成樹脂製とされるシート押え具取付部31Bを切り出し(成形)加工することによって、シート押え具取付部31Bの軸線方向に沿って長方形状のシート押え具係止片311eが形成される。つまり、シート押え具係止片311eは、その一端、即ち、図面上右側端が切り出し(成形)加工により形成された開口窓311dに一体とされ、図面上左側端がシート押え具取付部31Bに対して内外方向へと弾性変形可能とされる。本実施例にて、シート押え具係止片311eには、図面上左側端部領域の内周面に沿って係止爪311fが1個、或いは、軸線方向に離間して複数個、本実施例では2個形成される。つまり、シート押え具係止片311eの係止爪311fは、詳しくは後述するシート押え具32の軸部32Eのねじ溝に螺合する雌ねじの一部を形成している。
【0086】
係止爪311fは、詳しくは後述するが、シート押え具32をアンカーピン31に設置するべく、シート押え具32をシート押え具取付部31B内へと挿入すると、挿入されたシート押え具32の軸部32Eの外周囲に形成されたねじ溝に係合してシート押え具32をその位置に保持することができる。つまり、係止爪311fは、挿入されたシート押え具32の軸部32Eのねじ溝に係合するが、シート押え具32を更にアンカーピン本体31Aの方へと挿入すると、シート押え具32の軸部32Eのねじ山の弾性的変形と相俟って、シート押え具32のアンカーピン本体31Aへの更なる挿入を可能とする。シート押え具32は、上述のように、押入することによりアンカーピン本体31Aへと挿入することもできるがシート押え具32のアンカーピン本体31Aへと挿入を停止すると、係止爪311fはシート押え具32の軸部32Eのねじ溝に係合してシート押え具32をその位置に保持する。つまり、シート押え具32は、シート押え具32の軸部32Eに対する係止爪311fのラチエット機構によりアンカーピン31に設置されるので、押し込み易く引き抜け難い構造とされている。また、シート押え具32は、係止爪311fがシート押え具32の軸部32Cのねじ溝に係合した後は、シート押え具32の鍔部32Fを回転することによっても更に挿入することもでき、また、逆回転させることによって容易に引き抜くこともでき、挿入量(即ち、コンクリート覆工層内面202との距離)を調整することができる。
【0087】
又、本実施例によれば、係止爪311fが形成されたシート押え具取付部31Bは、その外周面が取付孔204によりホールドされるので、係止爪311fとシート押え具32軸部32Eとがしっかりと係合し、シート押え具32の保持力が緩むことはない。
【0088】
シート押え具32は、先の実施例2と同様の構成とされ、図8図9図10(a)〜(c)に示すように、円筒形状とされ外周には雄ねじが形成された軸部32E、軸部32Eの一端、図面上左側端に鍔部32Fとを有している。鍔部32Fは、図10(c)に図示するように、シート押え具32のシート押え具取付部31Bへのねじ込みを容易とするために、軸部32Eの外径より大径とされる外径D32Fの鍔部32Fを有した、所謂、二方取り形状とされている。
【0089】
本実施例にて、シート押え具32は、逆止弁装置50としての機能をも有しており、軸部32Eは、内径d50、長さL50の逆止弁本体としての機能をも有しており、図9を参照すると、軸部32Eの一端、図面上右側端に環状突起とされる弁座54が形成されており、また、軸部32Eの他端、図面上左側端には、多数の開口を有した止め座金56が固着されており、軸部32E内に軸部32の内径d50より小とされる直径D53の逆止弁球53が移動自在に配置されている。
【0090】
逆止弁装置50は、アンカーピン31から水路トンネル内への通水は可能とするが、逆方向への通水は阻止する。本実施例の逆止弁装置50は、実施例1、2などで用いた、所謂、ボールタイプの逆止弁装置と同様の構成、機能を有しており、逆止弁装置の構成、機能についての詳しい説明は、実施例1、2などにおける逆止弁装置50の説明を参照されたい。
【0091】
上記説明では、シート押え具取付部31Bには、直径方向に対向して円周上2箇所においてシート押え具係止片311e、及び、シート押え具係止片311eに対応して開口窓311dが形成され、挿入されたシート押え具32の軸部32Eのねじ溝に部分的に螺合してラチェット機構のようにシート押え具32を押し込むだけで固定することができる構成について説明したが、本実施例は、これに限定されるものではなく、シート押え具取付部31Bにシート押え具係止片311e及び開口窓311dを設けることなく、シート押え具取付部31Bの内面全周を、シート押え具32の軸部32Eの雄ねじと螺合する雌ねじ形状とすることも可能である。従って、この場合は、シート押え具32は、回転操作により、そのねじ軸部32Eをシート押え具取付部31Bの内面雌ねじに螺合させることによって、シート押え具取付部31Bに取り付けられる。
【0092】
また、胴部31Acには、図9図10(a)に示すように、頭部開口部31Aaとは反対側の先端開口部31Abから頭部開口部31Aaへと至る所定長さL33に渡って直径方向に対向して一対のスリット(切込み部)33が形成されるとともに、スリット33が形成された胴部31Ac外周部には複数の凸型のリブ31Aeが設けられている。
【0093】
凸型のリブ31Aeは、後述するようにアンカーピン31をコンクリート覆工層201に強く固定する機能を有し、例えば胴部31Acの外周に沿って連続したリング状として複数個設けられていてもよく、不連続の島状に複数個設けられていてもよい。
【0094】
更に、アンカーピン本体31Aは、その胴部径D31Aが頭部開口部31Aaから先端開口部31Abに向かって漸減するようになっており、シート押え具取付部31Bとスリット33の始点との間の胴部31Acには、胴部直径方向に対向して通水孔34が複数個形成されている。前記通水孔34は、アンカーピン本体31Aの先端開口部31Abからだけでなく、アンカーピン本体側面からも通水孔31Hにコンクリート覆工層201からの漏水を効率よく導くことができるため、複数個設けられることが好ましいが、アンカーピン本体31の強度の確保も必要なことから、孔径にもよるが凡そ12個程度までとすることが良い。
【0095】
アンカーピン本体31Aの胴部31Ac内には、中心に通水のための通水孔36Hを備えた円筒形状の拡張具36が移動自在に装入配置されており、この拡張具36をアンカーピン本体31Aの先端開口部31Ab方向へと打ち込むことにより、アンカーピン本体31Aの先端開口部31Abが拡張し、コンクリート覆工層201へ強く押しあてられアンカーとして機能する。
【0096】
本実施例3における通水型アンカー30は、アンカーピン本体31及びシート押え具32がエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂やポリアミド樹脂やポリ塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂といった合成樹脂製であることが好ましい。通水型アンカー30の材質としては、ステンレスなどの金属材料も使用することもできるが、樹脂製とすることによって複雑な形状であっても射出成型により低コストでアンカーを製作することができるほか、外部から衝撃が加えられても割れたりしにくいために設置時にハンマーを用いてシート押え具32をアンカーピン本体31と容易に嵌め合せることができる。なお、合成樹脂のなかでも耐衝撃性の高い樹脂がより本発明においてはより好ましく、ハイサイクル成形が可能な熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66)が挙げられる。
【0097】
以上、本発明の通水型アンカーピンについて実施例1〜3を例示して詳細な説明を行ったが、これら実施例のなかでも実施例2、3の通水型アンカーピン30は、逆止弁球による逆止弁装置を備えているため、設置位置や向きなどに注意する必要もなく、より簡単な構造で確実な作動が期待できる。また、実施例1の通水型アンカーピン30に比べるとシート押え具32取付部31Bがアンカーピン本体31の内部に形成されているため、逆止弁装置を備えたシート押え具32がアンカーピン本体31の内部に収納され、その分だけ水路トンネル覆工層内面202から水路トンネル内部への突き出しがなく、通水時の抵抗になりにくく、且つ摩耗も小さいというメリットがある。更に、ネジのように回転させることで接着剤10の上塗り層10b(図1図5など参照)の厚みに応じたクリアランス調整もできるので好ましい形態であり、特に実施例3の形態は一体成型によるコストの低減もできるので最も好ましい形態である。
【0098】
ここで、上記図8図10(a)〜(c)を参照して説明した実施例3の通水型アンカー30の主要部の具体的寸法の一例を挙げれば次の通りである。
・アンカーピン(31)
材質:ポリアミド樹脂(ナイロン66)
先端開口部(31Ab)の直径及び内径:D31A=14.3mm、d31A=13.4mm
長さ:L31=80mm
・アンカーピン本体(31A)の長さ:L31A=65mm
・シート押え具取付部(31B)の外径:D31B=14.8mm
・シート押え具取付部(31B)の長さ:L31B=11.6mm
・シート押え具取付部(31B)の頭部開口部(31Aa)の内径:d31Ad=15mm
・シート押え具取付部開口窓(311d)の幅:W311d=9mm
・シート押え具取付部開口窓(311d)の長さ:L311d=10.5mm
・シート押え具取付部係止爪(311e)の幅:W311e=4.4mm
・シート押え具取付部係止爪(311e)の長さ:L311e=8.5mm
・鍔部(31d)の外径及び厚さ:D31Ad=30mm、L31Ad=1.5mm
・シート押え具(32)
材質:ポリアミド樹脂(ナイロン66)
長さ:L32=24mm
鍔部の直径:D32F(長径)=31.5mm、(短径)=25.8mm
鰐部厚み:L32F=2mm
軸部(32E)の長さ:L32E=15.7mm
軸部(32E)雄ねじ:M12
・逆止弁装置(50)
逆止弁本体部の内径:d50=8.5mm
逆止弁本体部の長さ:L50=11.8mm
・逆止弁球(53)
材質:ポリスチレン(比重:1.09)
直径:D53=6.5mm
【0099】
実施例4
次に、図11(a)〜(g)をも参照して、本発明の通水型アンカー30の使用例についてコンクリート水路トンネルでの事例をもとに更に詳しく説明する。なお、本実施例では、通水型アンカーとしては図1に示す実施例1の通水型アンカー30を用い、連続繊維シート1としては、図12に示すマトリクス樹脂Rが含浸され硬化された炭素繊維fを含む細径の連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定した繊維シート(ストランドシート)1を使用するものとする。
【0100】
(第1工程)
図11(a)に示すように、コンクリート水路トンネル覆工(コンクリート覆工層)201の被補強面、即ち、補強材接着面である内面202は、必要により、ディスクサンダ一、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェッ卜などの研削手段により下地処理して表面脆弱層を除去する。
【0101】
次いで、下地処理したコンクリート覆工層201に、内面202側から外面203側へとアンカー取付に必要な所定深さの、即ち、非貫通にて、又は、一点鎖線にて示すように、内面202側から外面203 の地山側へと覆工層201を貫通してアンカー取付孔204を穿設する。アンカー取付孔204 は、後述するように、水路トンネルにおける水抜き孔としても機能するものである。
【0102】
(第2工程)
次いで、図11(b)に示すように、通水型アンカー30をアンカー取付孔204に固定する。このとき、アンカーピン本体31Aの先端開口部31Abに砂などの流れ込みを防止するためにメッシュ状の網やスポンジなどのストレーナー210を設置しておくと良い。
【0103】
また、アンカー取付孔204がアンカーピン本体31Aよりも大きくなってしまったりするときは、別途金属ワッシャー(図示せず)などをコンクリート覆工層201の被補強面202とアンカーピン本体31A(本実施例ではアンカーピン鍔部31Bc)の間に噛ませたり、コンクリート覆工層201の被補強面202が下地処理によって荒れてしまうような場合は、ゴム製若しくはスポンジ製のOリングをコンクリート覆工層201の被補強面202とアンカーピン本体31A(本実施例ではアンカーピン鍔部31Bc)の間に挟んで不陸調整を行うことをしてもよい。
【0104】
(第3工程)
通水型アンカー30のアンカーピン31をアンカー取付孔204に固定した後、コンクリート覆工層201の内面202にプライマー205を塗布する(図11(c))。
プライマー205は、湿潤環境下にあるコンクリート覆工層201の内面202と、接着材10である、例えば、セラミック混合型エポキシ樹脂モルタルなどとの接着強度を向上させるためのものであり、エポキシ樹脂プライマーなどのエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂プライマーなどのウレタン樹脂系、その他、MMA樹脂系などを使用することができる。プライマーの塗布量は、0.1〜0.4kg/m2とされる。なお、プライマー205の塗布は、場合によっては、省略することも可能である。
【0105】
(第4工程)
図11(d)に示すように、好ましくはプライマー205が塗布されたコンクリート覆工層201の内面202に、接着材10であるエポキシ樹脂モルタルが下塗りされる。
【0106】
(第5工程)
次いで、図11(e)に示すように、接着材10が下塗りされたコンクリート覆工層201の内面202に繊維シート1を押し付け、接着する。この時、繊維シート1は、通水型アンカー30の押え具支持部31Baに突き当たることとなるが、図13に示すように、この部分の繊維シート1の線材2をアンカーピン31の押え具支持部31Baを避けるように両側へと寄せて繊維シート1に隙間を設けることにより、繊維シート1は押え具支持部31Baをすり抜けてコンクリート覆工層201の内壁面202側へと押入して配置することができる。
【0107】
繊維シート1を、上記作業により、アンカーピン31の押え具支持部31Baへと装入した後、押え具支持部31Baにシート押え具32を螺合し、繊維シート1をトンネル覆工層内壁面202へと押圧して固定する(図11(f))。このとき、シート押え具32が熱硬化性樹脂若しくは熱可塑性樹脂のいずれかの合成樹脂で作製されていることにより、接着材10との接着性が向上し、アンカー30と接着材10との間の強固な接着による一体化を実現することができる。
【0108】
本工程によって、繊維シート1は、シート押え具32の鍔部32Bと覆工層内面202との間に挟持された格好となり、繊維シート1は、接着材層10aを介して覆工層内面202に接着されると共に、シート押え具32によりコンクリート覆工層内面202に固定される。
【0109】
(第6工程)
次に、図11(g)に示すように、コンクリート覆工層内面202に、アンカー30により固定された繊維シート1の表面側から、コテなどを使用して、エポキシ樹脂モルタルとされる接着材10をシート押え具32に設置した逆止弁装置50の入口開口部50aを閉塞しないように上塗り塗布する。従って、シート押え具32が螺合された通水型アンカー30の、シート押え具32及びアンカーピン31を貫通する中空部(貫通孔)31Hが接着材10で塞がれることはない。
【0110】
接着材10は、塗布面とされる繊維シート1の表面は勿論のこと、繊維シート1の線材2、2間の間隙(g)及び内壁面202と繊維シート1との間の接着材未充填空隙部にも充填される。
【0111】
つまり、本実施例によれば、図11(g)に示すように、下塗りされた接着材10にて覆工層内面に接着された繊維シート1の上に更に接着材10を上塗り塗布して均一にコテ仕上げし、接着材層10bが形成される。これにより、所定の厚さ(T100)とされる表面補強層100が、既存の水路トンネルコンクリート覆工層201の上に形成される。本実施例では、補強層100の総厚さ(T100)は、これに限定されるものではないが、12.5mm程度とされた。
【0112】
本発明の通水型アンカー30は、上述のように、水路トンネルコンクリート覆工層201に、場合によっては、コンクリート覆工層201を貫通して形成したアンカー取付孔204に打込まれ、繊維シート1をコンクリート覆工層201に固定するととともに、接着材10と強固に接着することによって接着固定するために使用される。また、施工後においては、該通水型アンカー30を水抜き孔としてだけでなく、逆止弁機能によりトンネル内が水で満たされてもコンクリート構造物内部への水の侵入を防止する機能を有する。
【0113】
更に説明すると、コンクリート覆工層201の内壁面を覆って補強層100を形成して内面補強を施すと、地山側からの湧水やコンクリート内在水分を密閉することとなる。そのため、補強層100が背面水圧により膨れを発生させたり、剥離することが考えられる。また、例えば水力発電用導水路トンネルのようにトンネル内部をほぼ満たすように水が流通すると水抜アンカーの開口部から逆に水が浸入し、逆にコンクリート構造物内部に水分を供給することとなってしまう。
【0114】
そこで、本発明では、コンクリート覆工層201の厚さ方向にアンカー取付孔204を形成し、特に、必要に応じてコンクリート覆工層201の厚さ方向に貫通したアンカー取付孔204を形成して該貫通孔204に逆止弁機能付き通水型アンカー30を打設することで、繊維シート1をコンクリート覆工層内壁面に固定すると共に、覆工層裏面水のスムースな排水を可能とし、且つ、トンネル内からの水の侵入を防止し、コンクリート覆工層201への通気性が確保され、長期間にわたって補強層100の剥離を防止し、耐久性を確保して、補強層100の機能を長期間維持することができる。
【0115】
本発明の通水型アンカー30は、農業用や水力発電用の水路トンネルの補修以外にも用水路の壁面や河川などの護岸の補強工事などにおいても好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0116】
1 繊維シート(補強材)
10 接着材
30 通水型アンカー
31 アンカーピン
31A アンカーピン本体
31B シート押え具取付部
31Ba アンカーピン本体支持部
31Bb シート押え具支持部
31Bc アンカーピン鍔部
31H アンカーピン通水孔
32 シート押え具
32A 軸部
32B 鍔部
50 逆止弁装置
50a 揺動弁体
51 逆止弁本体
53 逆止弁球
100 補強層
201 コンクリート水路トンネル覆工(コンクリート覆工層)
202 覆工層内面(被補強面)
204 アンカー取付孔
【要約】
【課題】貼着補強法によりコンクリート躯体に貼着された繊維シートをコンクリート構造物に確実に固定することのできる通水型アンカーを提供する。
【解決手段】コンクリート躯体201に貼着された繊維シート1をコンクリート躯体表面202に押圧して固定する通水型アンカー30であって、軸線方向に通水孔が形成された細長の円筒体とされ、コンクリート躯体に形成されたアンカー取付孔204に設置されるアンカーピン31と、アンカーピンと同一軸線にて軸線方向に貫通した貫通孔を備え、コンクリート躯体表面に貼着された繊維シートをコンクリート躯体表面に押圧するためにアンカーピンに固着されるシート押え具32と、シート押え具又はアンカーピンに設けられ、アンカーピン内からシート押え具を介しての通水は可能とし、逆方向への通水は阻止する逆止弁装置50と、を備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13