(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、装置診断には一般に診断対象装置の状態センサの測定値(センサ値)の確率分布を用いるため、確率分布推定技術を要する。上述のように、プラズマ処理装置には装置間差が生じ得るため、特許文献1の方法では、高精度に異常検知するためには、装置毎にデータを大量に取得する必要がある。
【0008】
しかし、例えば、既存の工程に新規に装置を立上げる際や、新規工程に適用する際において、センサ値の大量取得は困難であるため、少量のセンサ値で確率分布を推定する方法が必要である。
【0009】
本発明の目的は、装置診断装置において、少量のセンサ値で確率分布を推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様の装置診断装置は、プラズマ処理装置の状態を診断する装置診断装置において、第一のプラズマ処理装置における第一のセンサにより取得された第一のセンサ値を用いて確率分布関数を含む事前分布情報を前記第一のセンサの各々に対して予め求め、前記予め求められた事前分布情報と、前記第一のプラズマ処理装置と異なる第二のプラズマ処理装置における第二のセンサにより取得された第二のセンサ値とを基に前記第一のセンサの各々に対応する前記第二のセンサの各々における確率分布を推定し、前記推定された確率分布を用いて前記第二のプラズマ処理装置の状態を診断することを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様の装置診断装置は、プラズマ処理装置の状態を診断する装置診断装置において、第一のプラズマ処理装置における第一のセンサにより取得された第一のセンサ値を用いて確率分布関数を含む事前分布情報を前記第一のセンサの各々に対して予め求め、前記予め求められた事前分布情報と、第二のプラズマ処理装置における第二のセンサにより取得された第二のセンサ値とを基に前記第一のセンサの各々に対応する前記第二のセンサの各々における確率分布を推定し、前記推定された確率分布に対する尤度である第一の尤度と、正規分布に対する尤度である第二の尤度とを比較し、前記第一の尤度が前記第二の尤度より大きい場合、前記推定された確率分布を用いて前記第二のプラズマ処理装置の状態を診断し、前記第二の尤度が前記第一の尤度より大きい場合、前記正規分布を用いて前記第二のプラズマ処理装置の状態を診断することを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様のプラズマ処理装置は、試料がプラズマ処理される処理室と自装置の状態を診断する装置診断装置とを備えるプラズマ処理装置において、前記装置診断装置は、自装置と異なるプラズマ処理装置における第一のセンサにより取得された第一のセンサ値を用いて確率分布関数を含む事前分布情報を前記第一のセンサの各々に対して予め求め、前記予め求められた事前分布情報と、自装置における第二のセンサにより取得された第二のセンサ値とを基に前記第一のセンサの各々に対応する前記第二のセンサの各々における確率分布を推定し、前記推定された確率分布を用いて前記自装置の状態を診断することを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様の装置診断方法は、プラズマ処理装置の状態を診断する装置診断方法において、第一のプラズマ処理装置における第一のセンサにより取得された第一のセンサ値を用いて確率分布関数を含む事前分布情報を前記第一のセンサの各々に対して予め求める工程と、前記予め求められた事前分布情報と、第二のプラズマ処理装置における第二のセンサにより取得された第二のセンサ値とを基に前記第一のセンサの各々に対応する前記第二のセンサの各々における確率分布を推定する工程と、前記推定された確率分布を用いて前記第二のプラズマ処理装置の状態を診断する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に一態様によれば、装置診断装置において、少量のセンサ値で確率分布を推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施例について、図面を参照しながら説明する。なお、実施例を説明するための全図において、同一部には原則として同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
(1)プラズマ処理装置
図1を参照して、プラズマ処理装置1の構成について説明する。
【0018】
図1に示すように、プラズマ処理装置1は、処理部10と記憶部11を有する。処理部10は設定した加工条件に従い、処理室104の内部にプラズマ101を発生させてウェハ(試料102)を加工する。
【0019】
記憶部11は、センサ値記憶部12と管理値記憶部13を有する。センサ値記憶部12は、ウェハ加工中に装置のセンサ103の測定値を時系列データとして設定した加工ステップ毎に記憶する。例えば、センサ103は、状態センサ群を構成し温度や圧力を測定する。
【0020】
さらに、センサ値記憶部12は、装置診断において使用するために、時系列データから主要な統計値(例えば、平均値や標準偏差)を算出して記憶する。本実施例においては、本統計値をセンサ値として以後使用する。
【0021】
図2を参照して、センサ値記憶部12に格納するデータの例について説明する。
【0022】
図2では、統計値として平均値を用いている。センサ値の各列はセンサの種類に対応し、各行はウェハ1枚1枚に対応している。センサ値と共に、装置IDや加工ステップID、加工条件ID、ウェハID等の情報も格納されている。装置IDは、加工を行ったプラズマ処理装置1を特定する情報である。加工ステップID、加工条件IDはそれぞれ加工ステップ、加工条件を特定する情報であり、監視対象の指定に用いる。ウェハIDには、加工したウェハを特定する情報を格納する。管理値記憶部13は、加工日時や加工条件等の管理値を記憶する。
【0023】
(2)装置診断装置
図1を参照して、装置診断装置2の構成について説明する。
【0024】
図1に示すように、装置診断装置2は、共通部20と個別制御部23と記憶部26を有する計算機である。装置診断装置2とプラズマ処理装置1の装置群3はネットワークを介して接続されており、相互にデータ通信が可能である。
【0025】
本実施例においては、装置群3は、センサ値が多量に蓄積された既存の装置群Aと、装置立上げ等の理由からセンサ値が多量に蓄積されておらず装置診断対象である装置群Bとに分けて記載している。
【0026】
基準となるプラズマ処理装置1があれば必ずしも装置群Aは複数のプラズマ処理装置1を有する必要はない。また、診断対象である装置群Bも必ずしも複数のプラズマ処理装置1を有する必要はない。さらに、装置群Aと装置群Bで重複するプラズマ処理装置がある構成としてもよい。
【0027】
共通部20は、共通分布関数選択部21と事前分布設定部22を有し、装置群Bの装置診断を実施する前に予め、装置群Aに蓄積されたセンサ値からセンサ毎に事前分布情報を抽出して記憶部26が有する事前分布記憶部27に記憶する処理を行う。共通部20の処理内容の例については、後述の(3)共通部の処理において説明する。
【0028】
個別制御部23は、確率分布推定部24と装置状態診断部25を有する。確率分布推定部24が、装置状態診断時に取得した装置群Bの個々のプラズマ処理装置のセンサ値と抽出済みの事前分布情報とから各センサ103の従う確率分布を事後分布として推定し、確率分布記憶部28に記憶する。
【0029】
そして、推定したセンサ値の確率分布を基に、装置状態診断部25が装置間差等の装置状態値を算出し、装置診断値記憶部29に記憶する。個別処理部23の処理内容の例については、後述の(4)個別処理部の処理において説明する。
【0030】
装置群3と装置診断装置2には出力部40と入力部41が接続されている。出力部40は、例えばディスプレイやプリンタ等であり、記憶部26の情報を基にユーザに対してグラフィカルに情報を出力する装置である。表示例については、後述の(5)出力部による表示例において説明する。入力部41は、例えば、マウスやキーボード等の、ユーザの操作による情報入力を受け付ける入力装置である。
【0031】
(3)共通部の処理
図3を参照して、装置診断装置2の共通部20で行われる装置群Aのセンサ値を用いて事前分布を設定する処理の例について説明する。
【0032】
共通部20の処理を実行する前には、予め装置群Aの各プラズマ処理装置1において、監視対象の加工ステップにおけるプラズマ処理中の履歴であるセンサ値をセンサ値記憶部12に格納しておく。
【0033】
監視対象の加工ステップとして、複数の工程で共通に行う処理部10の状態を整えるためのプラズマ処理(例えば、エージング処理やクリーニング処理)を指定する。装置群Aのセンサ値記憶部12から、指定した加工ステップIDのセンサ値を取得する。(S101)
このように複数の工程で共通に行うプラズマ処理のセンサ値を用いることで、例えば装置群Bが新規工程への適用の際であっても、装置群Aが蓄積したセンサ値を事前分布の設定に利用することができる。
【0034】
次に、事前分布設定部22は、各センサ103、各確率分布関数候補に対してS103〜S104の処理を実行する。ここで、確率分布関数候補とは、プラズマ処理装置1の各センサ103が従い得る確率分布関数を予め候補として設定したものである。例えば、正規分布、歪正規分布、混合正規分布、コーシー分布等を確率分布関数候補として設定しておく(S102)。
【0035】
事前分布設定部22は、当該センサ103のセンサ値に対して当該確率分布関数候補の確率分布パラメータを推定する。確率分布パラメータは、例えば正規分布であれば平均値と標準偏差に相当する値であり、確率分布関数毎に異なる種類を有する。確率分布パラメータの推定には、例えば、マルコフ連鎖モンテカルロ法(Markov Chain Monte Carlo method、MCMC法)を利用する。MCMC法は、確率分布パラメータを確率変数とみなした上で、確率分布パラメータの事後分布に比例する確率分布パラメータの事前分布と尤度の積から乱数サンプルを大量に発生させて確率分布パラメータの事後分布を推定する手法である(S103)。
【0036】
推定した確率分布パラメータは確率分布として得られるが、例えば事後確率が最大となる値から一意に値を定める。このときの確率分布を用いて、事前分布設定部22は得られている装置群Aのセンサ値に対する当て嵌まりの度合いである対数尤度を算出する(S104)。
【0037】
最後に、共通分布関数選択部21は、各センサ103に対して、装置群Aで共通する確率分布関数として、対数尤度が最大となった確率分布関数を確率分布関数候補の中から選択する。また、選択した確率分布関数に関する確率分布パラメータの推定値を、装置群Bのセンサ値の確率分布を推定する際の事前分布として事前分布記憶部27に格納する。また、正規分布に関する確率分布パラメータの推定値も対数尤度が最大となった確率分布関数と併せて事前分布記憶部27に格納する(S105)。
【0038】
図4を参照して、事前分布記憶部27に格納するデータの例について説明する。
【0039】
図4に示すように、センサ毎に事前分布の情報を格納する形態となっている。確率分布関数の行は、
図3のS105で選択した確率分布関数の名称を格納する。確率分布パラメータの行は、
図3のS103で推定した確率分布パラメータの事後分布を用いて設定した各確率分布パラメータの事前分布を格納する。例として、事後分布の平均と標準偏差を有する正規分布を各確率分布パラメータの事前分布として設定している。対数尤度の行は、
図3のS104で算出した対数尤度を格納している。
【0040】
このように、装置群Aのセンサ値を用いて装置群で共通性が最大の確率分布関数を事前分布情報とすることで、装置群Bに対しても共通に使える事前分布を抽出でき、非正規分布であっても少量のセンサ値での確率分布推定を可能とする。
【0041】
(4)個別制御部の処理
図5を参照して、装置診断装置2の個別制御部23で行われる確率分布の推定と装置診断の処理の例について説明する。
【0042】
装置群Bの診断対象とするプラズマ処理装置1のセンサ値記憶部12から、
図3のS101で指定した加工ステップIDのセンサ値を取得する(S201)。
【0043】
確率分布推定部24は、取得したセンサ値の各センサに対して、S203〜S205の処理を実行する(S202)。
【0044】
まず、事前分布記憶部27から当該センサに対応する事前分布情報を取得する(S203)。
【0045】
次に、取得した事前分布情報を事前分布として設定した上で、取得したセンサ値を用いてMCMC法により、確率分布パラメータの事後分布を推定する。推定した確率分布パラメータを用いて、
図3のS104と同様にしてセンサ値に対する対数尤度を算出する。本処理は、
図3のS105で選択した確率分布関数の場合と、正規分布の場合両方に対して実施する(S204)。
【0046】
次に、
図3のS105で選択した確率分布関数で推定した確率分布と正規分布で推定した確率分布とで対数尤度を比較し、対数尤度が大きい確率分布を当該センサに対する推定結果とし、確率分布記憶部28に格納する(S205)。
【0047】
このように、装置群Bのセンサ値も併せて確率分布関数を決定することで推定結果のロバスト性を高めることができる。
【0048】
図6A及び
図6Bを参照して、各センサの確率分布決定前後における確率分布記憶部28に格納するデータの例について説明する。
【0049】
図6A及び
図6Bに示すように、センサ名の各列に示すセンサ毎に確率分布情報を格納する。格納する確率分布情報は、
図4と同様に、確率分布関数と確率分布パラメータ及び対数尤度である。
【0050】
確率分布パラメータは
図4と同様に推定した事後分布を格納するものとしても良いし、
図6Aと
図6Bのように例えば事後確率が最大となる値のように一意に定まる値を格納しても良い。
図6Aの各センサにおける正規分布を含む二つの確率分布関数のうち、対数尤度の大きい確率分布を決定した後が
図6Bに相当する。
【0051】
最後に、確率分布記憶部28に格納したデータを用いて装置診断値を算出する(S206)。例えば、装置間差を装置診断値として算出する場合は、まず、基準となるプラズマ処理装置1と診断対象のプラズマ処理装置1の確率分布情報を確率分布記憶部28から取得する。取得した確率分布間の距離を装置間差診断値として装置状態診断値記憶部29に格納する。確率分布間の距離指標としては、Kullback−LeiblerダイバージェンスやJensen−Shannonダイバージェンス等を用いる。
【0052】
図7を参照して、装置間差を装置診断値として算出する場合における、装置診断値記憶部29に格納するデータの例について説明する。
【0053】
図7に示すように、装置ID行には、比較する2台のプラズマ処理装置1を特定するIDを格納する。装置間差診断値行に、センサ毎に算出した装置間差診断値を格納する。
【0054】
(5)出力部による表示例
出力部40は、記憶部11や記憶部26に格納された情報を用いて、装置状態の診断結果や確率分布の推定結果を表示する。
【0055】
図8を参照して、装置間差診断結果の表示画面D100の例について説明する。
【0056】
図8に示すように、D102に注目する装置IDを入力する。これにより、装置状態値記憶部29に格納された該当する装置IDの装置間差診断値を取得し、D104のように、センサ毎にグラフで表示する。この結果、基準となるプラズマ処理装置1との装置間差が大きいセンサを判断することができ、調整等に利用することができる。
【0057】
センサ103は通常、測定対象部品や測定対象項目等によって複数の群に分類することができる。センサ群として予め登録しておき、D103のように、センサ群に属する各センサの装置間差診断値を積算し、センサ群毎に装置間差診断値を表示する。こうすることで、調整対象の部品が明確となる。
【0058】
全センサの装置間差診断値を積算することで、D101のように、プラズマ処理装置1毎の比較も表示する。
【0059】
図9を参照して、センサ値の分布と確率分布記憶部28に格納された確率分布の推定結果を確認する画面D105の例について説明する。
【0060】
図9に示すように、装置IDやセンサ名を入力し、確認する対象を決定した後、グラフを表示する。複数の装置IDを入力することで、比較表示することができる。ヒストグラムがセンサ値記憶部12に格納されたセンサ値の測定値のヒストグラムであり、実線が確率分布記憶部28に格納された確率分布推定結果である。
【0061】
例えば、
図9では装置IDがC1、C4の装置のセンサ名X2のセンサ値のヒストグラムと確率分布の推定結果を表示している。これにより、使用者は推定された確率分布が妥当なものであるかどうかを確認することができる。また、例えば、比較する二つの確率分布が平行移動している場合であればセンサ103の初期化を検討する等、装置診断結果に対する対策を考案することに活用することができる。
【0062】
このように、
図8及び
図9に示すように、出力部40は、プラズマ処理装置1の状態の診断値として確率分布のプラズマ処理装置間差を出力するとともに確率分布の経時的な推移幅も出力する。
【0063】
上記実施例によれば、プラズマ処理装置において、例えば装置立上げ時や新規工程への適用時や出荷前の調整時に、診断対象装置のセンサ値が多量に取得できていない場合においても、既存の装置群で共通する事前分布情報を抽出した上で、診断対象の装置で新規に取得したセンサ値と併せて非正規分布を含めた確率分布を推定することで装置診断を可能とする。
【0064】
以上、実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0065】
例えば、
図1では、装置診断装置2とプラズマ処理装置1がネットワークを介して接続された構成を示したが、本発明は上記構成に限定されず、
図10に示すように、プラズマ処理装置1が装置診断装置2を備える構成であっても良い。この場合、プラズマ処理装置1は、試料102がプラズマ処理される処理室104と自装置の状態を診断する装置診断装置2とを備える。
【0066】
図10に示すように、プラズマ処理装置1は、
図1に示す処理部10と記憶部11を有する。処理部10は設定した加工条件に従い、処理室104の内部にプラズマ101を発生させてウェハ(試料102)を加工する。
【0067】
また、装置診断装置2は、
図1に示す構成と同様に、共通部20と個別制御部23と記憶部26を有する。