【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2016年(第34回)電気設備学会全国大会 講演論文集「引き下げ導線用高耐圧ケーブルに生じる雷過電圧の解析」(一般社団法人電気設備学会、2016年8月1日発行)に記載。 2016年(第34回)電気設備学会全国大会の2016年9月7日の発表会にて上記電気学会論文誌に記載の内容をCD−ROM及び文書で配布すると共に公開。 2016年11月4日の(Joint Conference of IWHV2016 & JK2016 on ED & HVE)の研究会での電気学会研究会資料)に記載の内容を公開。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
雷撃を受電する受雷部及び前記受雷部で受電した雷電流を大地の接地極へ流す引下げ導線を建物に対して絶縁した絶縁型雷保護システムにおいて、前記引下げ導線として、請求項2に記載の高耐圧ケーブルを用いたことを特徴とする絶縁型雷保護システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような絶縁型避雷システムにおいては、引下げ導線に用いる高耐圧ケーブルの耐電圧性能について、簡易に評価できなかった。従来においては、高耐圧ケーブルの耐電圧を、高耐圧ケーブルのケーブル導体のインダクタンスによる電圧降下で評価していた。すなわち、ケーブル導体のインダクタンスLと雷電流の波頭峻度di/dtとの積で評価していたが、雷撃には、第一正極短時間雷撃(以降、第一雷撃という)と後続短時間雷撃(以降、後続雷撃)の2つの雷撃があり、後続雷撃の場合は雷電流の波頭峻度di/dtが第一雷撃の10倍と計算されるため、後続雷撃に対する雷過電圧は、現実的な値にならないことから十分に評価されていなかった。
【0008】
JIS Z9290−1(2014)「雷保護 第一部一般原則」には、雷保護レベルとそのレベルに応じた雷電流パラメータが規定されている。標準的な雷保護レベルはIVであり、このときの第一雷撃の電流パラメータは電流波高値100kA(波頭長10μs/波尾長350μs)であり、波頭峻度(波高値/波頭長)は100kA/10μs=10kA/μsである。後続雷撃では、電流波高値25kA(波頭長0.25μs/波尾長100μs)であり、波頭峻度(波高値/波頭長)は25kA/0.25μs=100kA/μsである。このように、後続雷撃の場合は雷電流の波頭峻度di/dtが第一雷撃の10倍と計算される。
【0009】
第一雷撃は、放電電荷量が大きく落雷のエネルギーが大きいのが特徴であり、一方、後続雷撃は、第一雷撃に続き落雷するものであり、後続雷撃を伴う落雷は60〜70%を占めると言われている。この後続雷撃は前述のように波頭峻度が大きいことが特徴である。具体的には第一雷撃の波頭峻度が10kA/μsであるのに対して、後続雷撃では100kA/μsである。波頭峻度が大きいほど、インダクタンスLに起因する雷過電圧が大きくなる。このように、後続雷撃に対する雷過電圧は、現実的な値にならないことから十分に評価されていなかった。
【0010】
そこで、厳密に雷過電圧を評価する場合には、電磁界解析や過渡解析など高度な解析技術を用いていた。電磁界解析によって雷過電圧を評価することは可能であるが、電磁界解析は、広い空間(例えば100m四方のエリア)にある細かな回路空間(例えば数ミリm)を扱わなければならないので、コンピュータの計算量が膨大になり現実的でない。また、汎用的な過渡現象解析手法があるが、この手法では等価回路を構築する必要があり、十分な知識や高度なレベルの計算スキルを要することから、一般の設計者が扱えるものでない。
【0011】
こうしたことから、簡便に適切な耐電圧性能の高耐圧ケーブルを選定することが難しく、結果として、落雷に耐えられない高耐圧ケーブルを採用したり、耐電圧の裕度を過剰に見込み過ぎた高耐圧ケーブルを採用したりすることがあった。
【0012】
本発明の目的は、簡易で正確に高耐圧ケーブルの耐電圧を評価できる高耐圧ケーブルの耐電圧評価方法、高耐圧ケーブル、及び絶縁型雷保護システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明に係る高耐圧ケーブルの耐電圧評価方法は、
ケーブル導体とシールド導体とが共通接地される高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧Vcsを下記の(1)式及び(2)式により計算し、
前記高耐圧ケーブルの
耐電圧が落雷に耐えられる耐電圧であることを評価することを特徴とする。
【0014】
2D/v0<trのとき、Vcs=Ist・Z0・2D/v0 …(1)
2D/v0≧trのとき、Vcs=Imax・Z0 …(2)
ただし、D:高耐圧ケーブル長、v0:雷電流の伝搬速度、tr:雷電流の立ち上がり時間、Ist:雷電流の波頭峻度、Z0:高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間の特性インピーダンス、Imax:雷電流のピーク値。
【0015】
請求項2の発明に係る高耐圧ケーブルは、請求項1で評価した高耐圧ケーブルの耐電圧、または前記評価した耐電圧に裕度を見込んだ耐電圧を満たすことを特徴とする高耐圧ケーブル。
【0016】
請求項3の発明に係る高耐圧ケーブルを用いた絶縁型雷保護システムは、雷撃を受雷する受雷部及び前記受雷部で受雷した雷電流を大地の接地極へ流す引下げ導線を建物に対して絶縁した絶縁型雷保護システムにおいて、前記引下げ導線として、請求項2に記載の高耐圧ケーブルを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、
ケーブル導体とシールド導体とが共通接地される高耐圧ケーブルのケーブル長D、雷電流の伝搬速度v0、雷電流の立ち上がり時間tr、雷電流の波頭峻度Ist、高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間の特性インピーダンスZ0、雷電流のピーク値Imaxとしたとき、雷撃に対して高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧Vcsを、2D/v0<trのときは、Vcs=Ist・Z0・2D/v0により計算し、2D/v0≧trのときは、Vcs=Imax・Z0により計算し、
前記高耐圧ケーブルの
耐電圧が落雷に耐えられる耐電圧であることを評価するので、簡易に正確に高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧を評価できる。
【0018】
請求項2の発明によれば、請求項1で評価した高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧、またはその評価した雷過電圧に裕度を見込んだ耐電圧を満たす高耐圧ケーブルとするので、耐電圧の裕度を過剰に見込み過ぎることがなく、落雷に耐え得る適切な高耐圧ケーブルとすることができる。
【0019】
請求項3の発明によれば、雷撃を受雷する受雷部、及び受雷部で受雷した雷電流を大地の接地極へ流す引下げ導線を建物に対して絶縁した絶縁型雷保護システムに、引下げ導線として、請求項2に記載の高耐圧ケーブルを用いるので、落雷に耐え得る適切な絶縁型雷保護システムを構築できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に至った経緯を説明する。発明者らは、実験および数値解析を行い、得られる雷電流や雷過電圧の波形を繰り返し分析・検討することによって、以下に示す(1)式及び(2)式で表される計算式で、ケーブル導体とシールド導体とが共通接地される高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧(高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間に必要とされる耐電圧)の最大値を算定できることを見出した。
【0022】
高耐圧ケーブルの接地方式には、高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体とを同じ接地極を用いて共通に接地する共通接地と、ケーブル導体とシールド導体とを別の接地極を用いて個別に接地する個別接地とがあり、共通接地自体は高耐圧ケーブルを用いる際の一般的な接地方式であるが、発明者らは、高耐圧ケーブルの接地方式として共通接地を採用した場合に本発明が適用できることを知見した。
【0023】
まず、計算式について説明する。いま、高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧をVcs[kV]、ケーブル長さをD[m]、雷電流の立ち上がり時間tr[s]、 雷電流のピーク値をImax[A]、 雷電流の波頭峻度Ist[kA/μs]、ケーブル導体とシールド導体との間の絶縁体の比誘電率をεr、真空中の光速をC0[m/s]、 ケーブル導体とシールド導体との間の伝搬速度v0[m/s]、 ケーブル導体の外径(半径)をr[m]、 シールド導体の外径(半径)をR[m]、ケーブル導体とシールド導体との間の特性インピーダンスをZ0[Ω]とする。
<計算式>
2D/v0<trのとき: Vcs=Ist・Z0・2D/v0 …(1)
2D/v0≧trのとき: Vcs=Imax・Z0 …(2)
なお、その他の関係式は以下の通りである。
【0024】
v0=C0/√εr …(3)
Z0=60ln(R/r)/√εr …(4)
Ist=Imax/tr …(5)
(1)式〜(5)式から分かるように、高耐圧ケーブルの物理的な諸元(シールド導体外径寸法R、ケーブル導体の外径寸法r、絶縁体の比誘電率εr、高耐圧ケーブル長さD)と、対象とする雷電流パラメータ(ピーク値Imax、立ち上がり時間tr)が分かれば、高耐圧ケーブルに必要な雷過電圧(雷過電圧の最大値)を算定することが可能である。従って、簡易に高耐圧ケーブルに加わる雷過電圧を評価できる。
【0025】
次に、(1)式及び(2)式で表される計算式で、高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧(高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間に必要とされる耐電圧)を算定できることを説明する。
【0026】
まず、雷電流I(t)は、下記の(6)式及び(7)式で表すことができる。ただし、落雷したタイミングをt=0とする。
【0027】
t<trのとき: I(t)=Ist・t …(6)
t≧trのとき: I(t)=Imax …(7)
すなわち、
図1に示すように、雷電流がピーク値Imaxまで立ち上がっていないとき(t<trのとき)は雷電流I(t)は(6)式で示され、雷電流がピーク値Imaxに達した後のとき(t≧trのとき)は雷電流I(t)は(7)式で示される。
【0028】
図1は高耐圧ケーブルの受雷部側に流れ込む雷電流I(t)の波形の一例を示す波形図である。落雷した時点(t=0)からピーク値Imaxになる時点(t=tr)まで雷電流はその波頭峻度Istで増加し、時点(t=tr)になるとピーク値Imaxとなり、それ以降においては雷電流はピーク値Imaxで一定となる。
【0029】
高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧Vcs(t)(ケーブル導体とシールド導体との間に生じる雷過電圧Vcs(t))は、(6)式及び(7)式で示される雷電流I(t)に高耐圧ケーブルの特性インピーダンスZ0を乗算して求められ、下記の(8)式及び(9)式で表される。
【0030】
t<trのとき: Vcs(t)=Z0・Ist・t …(8)
t≧trのとき: Vcs(t)=Imax・Z0 …(9)
図2は高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧Vcs(t)の波形の一例を示す波形図である。
図1に示した高耐圧ケーブルの受雷部側に流れ込む雷電流I(t)と同様に、高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧Vcs(t)は、落雷した時点(t=0)からピーク値Imax・Z0になる時点(t=tr)までZ0・Istの傾きで増加し、時点(t=tr)になるとピーク値Imax・Z0となり、それ以降においてはピーク値Imax・Z0で一定となる。
【0031】
次に、高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧Vcs(t)の反射について考える。
図3は高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧Vcs(t)の進行波及び反射波のイメージ図である。落雷があると高耐圧ケーブル11の受雷部12に雷過電圧Vcs(t)が誘起される。いま、雷過電圧Vcs(t)の最大値をVとする。
【0032】
雷過電圧Vcs(t)は、
図3に示すように、高耐圧ケーブル11の受雷部12からケーブル導体を通って接地極13に向かって進行波として進行し(T1)、落雷からD/v0の時間が経過した後に、地面(接地極13)に到達する(T2)。
【0033】
高耐圧ケーブル11の接地は共通接地であり、接地極13側では高耐圧ケーブル11のケーブル導体とシールド導体との間を接続していることから、雷過電圧Vcs(t)は接地極13で反射し、逆極性の反射波電圧V1(t)が高耐圧ケーブル11の受雷部12側に向かって進行する(T3)。すなわち、逆極性の反射波電圧V1(t)の大きさの絶対値は雷過電圧Vcs(t)と同じであるが逆極性であるので、逆極性の反射波電圧V1(t)のマイナス方向の大きさは−Vである。
【0034】
そして、この逆極性の反射波電圧V1(t)は、落雷してから2D/v0の時間が経過した後に高耐圧ケーブル11の受雷部12に到達する(T4)。高耐圧ケーブル11の受雷部12では、ケーブル導体とシールド導体とは非接続であり開放しているから、ここでは、電圧の極性は反転せずに反射する。従って、高耐圧ケーブル11の受雷部12で反射する反射波電圧V2(t)は、逆極性の反射波電圧V1(t)の2倍の大きさ(−2V)となって、再び接地極13側に向かって進行することになる。この場合、雷過電圧Vcs(t)に反射波電圧V2が加算された電圧が接地極13側に向かって進行することになる(T5)。
【0035】
ここで、高耐圧ケーブル11の受雷部12で反射する反射波電圧V2(t)は、下記の(10)式及び(11)式で表される。
【0036】
t<2D/v0のとき:
V2(t)=0 …(10)
t≧2D/v0のとき:
V2(t)= −2・Z0・Ist・(t−2D/v0) …(11)
すなわち、t<2D/v0では、高耐圧ケーブル11の受雷部12で反射する反射波電圧V2(t)は存在しないので(10)式に示すように0であり、t=2D/v0になって初めて受雷部12で反射して
(11)式に示す反射波電圧V2(t)が発生する。
【0037】
従って、受雷部12で反射する反射波電圧V2(t)も考慮に入れた場合の高耐圧ケーブル11の受雷部の雷過電圧Vcs(t)は、(8)式及び(9)の右辺に反射波電圧V2(t)を加算した(12)式及び(13)式で示される。
【0038】
t<trのとき: Vcs(t)=Z0・Ist・t−V2(t) …(12)
t≧trのとき: Vcs(t)=Imax・Z0−V2(t) …(13)
【0039】
図4は、高耐圧ケーブル11の受雷部12で反射する反射波電圧V2(t)がt<trのとき(雷過電圧がピーク値Imax・Z0まで立ち上がっていないとき)に発生した場合の高耐圧ケーブル11の受雷部の雷過電圧Vcs(t)の電圧波形図である。すなわち、t<trのときにt=2D/v0となった場合であり、t=2D/v0のときにVcs(t)は最大値となり、t=2D/v0以降は減少する。この場合は、(12)式に(11)式を代入して得られる下記の(14)式で表される場合である。
【0040】
Vcs(t)=Z0・Ist・t−2・Z0・Ist・(t−2D/v0) …(14)
この(14)式において、Vcs(t)の最大値は、t=2D/v0のときに、Z0・Ist・2D/v0となり、(1)式で示す計算式(Vcs=Ist・Z0・2D/v0)となる。
【0041】
図5は、高耐圧ケーブル11の受雷部12で反射する反射波電圧V2(t)がt≧trのとき(雷過電圧がピーク値Imax・Z0に達した後のとき)に発生した場合の高耐圧ケーブル11の受雷部の雷過電圧Vcs(t)の電圧波形図である。すなわち、t≧trのときにt=2D/v0となった場合であり、時点(t=tr)〜時点(t=2D/v0)まではVcs(t)はピーク値Imax・Z0であり、t=2D/v0以降は減少する。すなわち、この場合は、(13)式に(11)式を代入して得られる下記の(15)式で表される場合である。
【0042】
Vcs(t)=Imax・Z0−2・Z0・Ist・(t−2D/v0) …(15)
この(15)式において、Vcs(t)の最大値は、時点(t=tr)〜時点(t=2D/v0)のときのピーク値Imax・Z0であり、(2)式で示す計算式(Vcs=Imax・Z0)となる。
【0043】
以上の説明では、雷過電圧の進行波が高耐圧ケーブル11の受雷部12側および地面側(接地極13側)でいずれも全反射するとしているが、全反射でない場合にも、逆極性の反射波が受雷部に到達したタイミングで決定されるので、雷過電圧の最大値は(1)式、(2)式によって算定できる。このように、雷電流の波形と高耐圧ケーブルの長さ等の諸元が分かれば、簡易に高耐圧ケーブルに必要とされる耐電圧仕様を決定できる。
【0044】
次に、(1)式及び(2)式の妥当性について説明する。高耐圧ケーブルの解析モデルを検討するために、高耐圧ケーブルに生じる雷過電圧をインパルス実験で調べることとした。
図6は高耐圧ケーブルの耐電圧の解析モデルのために使用した高耐圧ケーブルの一例を示す断面図である。高耐圧ケーブル11は、中芯部の円柱状の絶縁体14aの周囲に円筒状のケーブル導体15を有し、ケーブル導体15の外側に半導電層16aを介して円筒状の絶縁体14bを設け、さらに円筒状の絶縁体14bの外側に半導電層16bを介してシールド導体17を設け、シールド導体17の外側を絶縁体14cで覆って構成されている。この場合、ケーブル導体15とシールド導体17との間の絶縁体14bの比誘電率はεrである。
【0045】
図7は高耐圧ケーブル11の耐電圧の解析モデルのために使用した実験回路の一例を示す回路図である。高耐圧ケーブル長がDである高耐圧ケーブル11の受雷側にインパルス装置18から雷過電圧の電圧波形を入力し、接地極側において切換スイッチ19により接地抵抗Rの接続を共通接地と個別接地とで切り換えるようにした。
【0046】
高耐圧ケーブル11の解析モデルは、瞬時値解析プログラムXTAP(電中研)を用いて作成した。XTAPに含まれる分布定数線路を解析できるプログラムXTLCの中の解析モデルを用い、高耐圧ケーブル11の仕様を反映させた。表1に解析モデルに使用した高耐圧ケーブル11の諸元(パラメータ)を示す。
【0047】
【表1】
そして、高耐圧ケーブル長Dを変化させて雷過電圧の解析をした。
図8及び
図9に雷過電圧の解析結果を示す。
図8は、表1の諸元を有する高耐圧ケーブルについて接地極を個別接地をした場合の高耐圧ケーブル長Dをパラメータとした第一雷撃及び後続雷撃の雷過電圧の解析結果のグラフであり、
図8(a)は第一雷撃を印加したときの高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間に生じる雷過電圧Vのグラフ、
図8(b)は後続雷撃を印加したときの高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間に生じる雷過電圧Vのグラフである。接地抵抗Rは100Ω、第一雷撃は電流波高値100kA(波頭長10μs/波尾長350μs)、後続雷撃は電流波高値25kA(波頭長0.25μs/波尾長100μs)、高耐圧ケーブル長Dは、10m、20m、50m、100mの場合を示している。
【0048】
第一雷撃を印加したときの
図8(a)において、曲線C1は高耐圧ケーブル長Dが10mのときの雷過電圧Vのグラフ、曲線C2は高耐圧ケーブル長Dが20mのときの雷過電圧Vのグラフ、曲線C3は高耐圧ケーブル長Dが
50mのときの雷過電圧Vのグラフ、曲線C4は高耐圧ケーブル長Dが100mのときの雷過電圧Vのグラフである。
図8(a)からわかるように、第一雷撃の場合は、高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間に生じる雷過電圧Vの電圧のピーク値は10,000kVであり、高耐圧ケーブル長Dが短い程、ピーク値に到達する時間が短くなる。
【0049】
一方、後続雷撃を印加したときの
図8(b)において、曲線C11は高耐圧ケーブル長Dが10mのときの雷過電圧Vのグラフ、曲線C12は高耐圧ケーブル長Dが20mのときの雷過電圧Vのグラフ、曲線C13は高耐圧ケーブル長Dが
50mのときの雷過電圧Vのグラフ、曲線C14は高耐圧ケーブル長Dが100mのときの雷過電圧Vのグラフである。
図8(b)からわかるように、後続雷撃の場合は、高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間に生じる雷過電圧Vの電圧のピーク値は2,500kVであり、第一雷撃の場合よりは小さいが、第一雷撃の場合と同様に、高耐圧ケーブル長Dが短い程、ピーク値に到達する時間が短くなっている。
【0050】
個別の接地の場合は、第一雷撃及び後続雷撃の雷過電圧Vは、概ねケーブル導体を流れる電流のピーク値と接地抵抗Rとの積であることが分かる。すなわち、高耐圧ケーブルのインピーダンスによる過電圧よりも、接地抵抗Rによる過電圧が支配的であることが分かる。なお、実際の施工においては、2本の接地極間の電位干渉があるため、この解析結果よりも雷過電圧は小さくなることが想定される。
【0051】
次に、
図9は、表1の諸元を有する高耐圧ケーブルについて接地極を共通接地をした場合の高耐圧ケーブル長Dをパラメータとした第一雷撃及び後続雷撃の雷過電圧の解析結果のグラフであり、
図9(a)は第一雷撃を印加したときの高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間に生じる雷過電圧Vのグラフ、
図9(b)は後続雷撃を印加したときの高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間に生じる雷過電圧Vのグラフである。個別接地の場合と同様に、接地抵抗Rは100Ω、第一雷撃は電流波高値100kA(波頭長10μs/波尾長350μs)、後続雷撃は電流波高値25kA(波頭長0.25μs/波尾長100μs)、高耐圧ケーブル長Dは、10m、20m、50m、100mの場合を示している。
【0052】
図9(a)において、曲線C1は高耐圧ケーブル長Dが10mのときのグラフ、曲線C2は高耐圧ケーブル長Dが20mのときのグラフ、曲線C3は高耐圧ケーブル長Dが
50mのときのグラフ、曲線C4は高耐圧ケーブル長Dが100mのときのグラフである。
図9(a)からわかるように、第一雷撃の場合は、雷過電圧のピーク値は高耐圧ケーブル長さDに比例して大きくなるが、高耐圧ケーブル長Dが100mの場合であっても雷過電圧のピーク値は200kV程度であり個別接地の場合に比べて十分に小さい。
【0053】
さらに発明者らは
図9(a)の波形についても着目した。先述のように、従来は、第一直撃雷における雷過電圧はLdi/dtで評価されてきた。
図9(a)を見ると、時間経過とともに雷過電圧は振動している。このような振動は、単にLdi/dtや高耐圧ケーブルのインダクタンスだけでは説明できない。そこで発明者らは、第一雷撃においても、雷電流・電圧の反射が原因でこのような雷過電圧が生じると考えた。即ち、雷電流・電圧の反射が繰り返されることによって、雷過電圧の波形が振動すると説明できる。そして、雷過電圧の最大値は、反射波が高耐圧ケーブルの受雷部側に到達した時間と、雷電流の立ち上がり時間の関係によって決定されることを見出した。以上の考察から、(1)式によって高耐圧ケーブル雷過電圧を評価できることを知見した。
【0054】
一方、
図9(b)において、曲線C11は高耐圧ケーブル長Dが10mのときのグラフ、曲線C12は高耐圧ケーブル長Dが20mのときのグラフ、曲線C13は高耐圧ケーブル長Dが
50mのときのグラフ、曲線C14は高耐圧ケーブル長Dが100mのときのグラフである。
【0055】
後続雷撃の場合は、高耐圧ケーブル長Dが20mまでは高耐圧ケーブル長さDに対して雷過電圧のピーク値が高くなるものの、高耐圧ケーブル長Dが50m、100mの場合は、いずれも雷過電圧のピーク値は約450kVで頭打ちになる。共通接地では、個別接地のように接地抵抗への配慮が無くても、耐電圧を低く抑えることができることが分かる。
【0056】
ここで、高耐圧ケーブルに加わる雷過電圧が、高耐圧ケーブルのインダクタンスに依存したものであれば、高耐圧ケーブルの長さに比例した雷過電圧が出ることが考えられるが、
図9(b)から分かるように、高耐圧ケーブルが長くなっても雷過電圧のピーク値が頭打ちになっている。このように、雷過電圧が頭打ちになるのは、雷電圧がピーク値に立ち上がった後に、反射波が到達したためである。
【0057】
図9(a)及び(b)の考察から、雷過電圧のピーク値が雷電流の反射によって現れるものと発明者らは知見した。そして、雷過電圧の最大値は、反射波が高耐圧ケーブルの受雷部側に到達した時間と、雷電流の立ち上がり時間の関係によって決定される、即ち(1)式(2)式によって評価できることを発明者らは知見した。
【0058】
このように、個別接地の場合は
図8で示したように、雷過電圧は極めて大きく高耐圧ケーブル選定上は個別接地は現実的でないと判断できるので本発明では共通接地を採用する。
【0059】
次に、(1)式及び(2)式の妥当性について、(1)式及び(2)式で得られた耐電圧と、解析により得られた解析結果とを比較する。
【0060】
比較条件は、雷電流のパラメータ(第一雷撃と後続雷撃)の2通りと、高耐圧ケーブルの長さD(10m、20m、50m、100m)の4通りの組み合わせの8通りとする。また、高耐圧ケーブルの諸元は表1に示したものとする。
【0061】
表1の高耐圧ケーブルの諸元と(3)式及び(4)式より、以下の値が得られる。高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間の伝搬速度v0は、(3)式より、
v0=1.73×108[m/s] …(16)
高耐圧ケーブルの特性インピーダンスZ0は、(4)式より、
Z0=17.8[Ω] …(17)
また、雷電流パラメータ(第一雷撃:電流波高値100kA(波頭長10μs/波尾長350μs)、後続雷撃:25kA(波頭長0.25μs/波尾長100μs))から、以下の値が得られる。
【0062】
第一雷撃のとき: Ist=10[kA/μs] …(18)
後続雷撃のとき: Ist=100[kA/μs] …(19)
これら(16)式〜(19)式を(1)式及び(2)式に代入して求めた雷過電圧の計算値と
図9に示した解析結果のグラフから得られた解析結果の雷過電圧の値とを表2に示す。
【0063】
【表2】
表2から分かるように、(1)式及び(2)式の計算式から求めた雷過電圧の計算値と解析結果から求めた雷過電圧の値との誤差は、最大で5.3%であることから、実用的に問題のない精度で評価が可能であることが分かる。
【0064】
次に、
図10は本発明の実施形態に係る高耐圧ケーブルの耐電圧評価方法の工程の一例を示すフローチャートである。まず、高耐圧ケーブル長D、雷電流の伝搬速度v0、雷電流の立ち上がり時間tr、高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間の特性インピーダンスZ0、雷電流のピーク値Imaxを取得する(S1)。
【0065】
高耐圧ケーブル長Dは高耐圧ケーブルの諸元から取得し、雷電流の伝搬速度v0は前述の(3)式から取得し、高耐圧ケーブルのケーブル導体とシールド導体との間の特性インピーダンスZ0は前述の(4)式から取得する。また、雷電流のピーク値Imaxは第一雷撃の電流パラメータ及び後続雷撃の電流パラメータから取得する。すなわち、第一雷撃の雷電流のピーク値Imaxは前述したように電流波高値100kAであり、後続雷撃の雷電流のピーク値Imaxは電流波高値25kAである。雷電流の立ち上がり時間trは前述の(5)式から取得する。第一雷撃の
雷電流の波頭峻度Istは前述のように(波高値/波頭長)で取得できる。第一雷撃の波頭峻度Istは波高値100kVであり波頭長は10μsであるので(100kA/10μs)=10kA/μsである。後続雷撃の波頭峻度Istは波高値25kAであり波頭長は0.25μsであるので(25kA/0.25μs)=100kA/μsである。
【0066】
次に、2D/v0<trか否かを判定する(S2)。2D/v0<trを満たすときは、雷電流がピーク値Imaxまで立ち上がっていないときであり、このときは、Vcs=Ist・Z0・2D/v0で、ケーブル導体とシールド導体とが共通接地される高耐圧ケーブルの耐電圧を評価する(S3)。すなわち、前述の(1)式であり、
図4のt=2D/v0のときの高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧Vcsが最大値のときの電圧である。
【0067】
一方、ステップS2の判定で、2D/v0<trでないとき、つまり2D/v0≧trであるときは、雷電流がピーク値Imaxまで立ち上がった後の状態であり、このときは、Vcs=Imax・Z0で、ケーブル導体とシールド導体とが共通接地される高耐圧ケーブルの耐電圧を評価する(S4)。すなわち、前述の(2)式であり、
図5のt=2D/v0のときの高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧Vcsが最大値のときの電圧である。
【0068】
本発明の実施形態によれば、雷過電圧の波形が振動していること及び高耐圧ケーブルが長くなっても雷過電圧のピーク値が頭打ちになっていることに着目し、高耐圧ケーブルに加わる雷過電圧が高耐圧ケーブルのインダクタンスに依存するのではなく、雷過電圧のピーク値が雷電流の反射によって現れたものであることを知見した。これにより、高耐圧ケーブルの物理的な諸元(シールド導体外径寸法R、ケーブル導体の外径寸法r、絶縁体の比誘電率εr、高耐圧ケーブル長さD)と、対象とする雷電流パラメータ(ピーク値Imax、立ち上がり時間tr)が分かれば、高耐圧ケーブルに必要な雷過電圧(雷過電圧の最大値)を算定することが可能となり、計算式により、解析結果とほぼ同様の雷過電圧を得ることができた。従って、簡易に正確に高耐圧ケーブルに加わる雷過電圧を評価できる。
【0069】
また、評価した高耐圧ケーブルの受雷部側に加わる雷過電圧、またはその評価した雷過電圧に裕度を見込んだ耐電圧を満たす高耐圧ケーブルを採用することにより、耐電圧の裕度を過剰に見込み過ぎることがなく、落雷に耐え得る適切な高耐圧ケーブルとすることができる。
【0070】
さらには、雷撃を受雷する受雷部、及び受雷部で受雷した雷電流を大地の接地極へ流す引下げ導線を建物に対して絶縁した絶縁型雷保護システムに、引下げ導線として、評価された高耐圧ケーブルを用いることにより、落雷に耐え得る適切な絶縁型雷保護システムを構築できる。
【0071】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。