(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842031
(24)【登録日】2021年2月24日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】ロールツーロール方式の表面処理装置並びにこれを用いた成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20210308BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20210308BHJP
H05K 3/16 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
C23C14/56 D
H05K3/00 R
H05K3/16
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-162787(P2016-162787)
(22)【出願日】2016年8月23日
(65)【公開番号】特開2018-31039(P2018-31039A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】大上 秀晴
【審査官】
▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−026025(JP,A)
【文献】
特開2015−209552(JP,A)
【文献】
特開2014−234541(JP,A)
【文献】
特開2009−224444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H05K 3/00
H05K 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基材を外周面に巻き付けて内部を循環する冷媒で冷却する少なくとも2個のキャンロールと、前記キャンロールの外周面に対向する位置に設けられた表面処理手段とを有する表面処理装置であって、
前記少なくも2個のキャンロールのうち、最も上流側に位置するキャンロール以外の少なくとも1個のキャンロールは外周面からガスを放出するガス放出機構を備えており、前記最も上流側に位置するキャンロールと、その直ぐ下流側に位置するキャンロールとの間にテンションカット用の駆動ロールが設けられていることを特徴とするロールツーロール方式の表面処理装置。
【請求項2】
前記ガス放出機構を有するキャンロールは、その外周肉厚部に回転軸方向に延在する複数のガス導入路を周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って有しており、これら複数のガス導入路の各々は、該回転軸方向に沿って略均等な間隔で外周面側に開口する複数のガス放出孔を有していると共に、キャンロールの外周面のうち前記長尺基材が巻きつけられていない非ラップ部に位置する時はガスを停止する機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載のロールツーロール方式の表面処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面処理手段が乾式成膜手段であることを特徴とするロールツーロール方式の成膜装置。
【請求項4】
前記乾式成膜手段がスパッタリングカソードであることを特徴とする、請求項3に記載のロールツーロール方式成膜装置。
【請求項5】
真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基材を搬送し、内部に冷媒が循環する2個以上キャンロールの外周面に該長尺基材を巻き付けて冷却しながら、該外周面に対向する位置に設けた表面処理手段で該長尺基材に表面処理を施すロールツーロール方式の表面処理方法であって、
前記2個以上のキャンロールのうち最も上流側に位置するキャンロール以外の少なくとも1個のキャンロールでは外周面からガスを放出しながら該表面処理を施すことと、前記最も上流側に位置するキャンロールと、その直ぐ下流側に位置するキャンロールとの間に設けた駆動ロールでテンションカットを行なうこととを特徴とするロールツーロール方式の表面処理方法。
【請求項6】
前記表面処理が熱負荷の掛かる処理であり、前記外周面からガスを放出させるキャンロールは、その外周肉厚部に回転軸方向に延在する複数のガス導入路を周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って有しており、これら複数のガス導入路の各々は、該回転軸方向に沿って略均等な間隔で外周面側に開口する複数のガス放出孔を有していると共に、キャンロールの外周面のうち前記長尺基材が巻きつけられていない非ラップ部に位置する時はガスを停止する機構を備えていることを特徴とする、請求項5に記載のロールツーロール方式の表面処理方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の表面処理が乾式成膜処理であることを特徴とするロールツーロール方式の成膜方法。
【請求項8】
前記乾式成膜処理がスパッタリング成膜であることを特徴とする請求項7に記載のロールツーロール方式の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基材を表面処理する際に外周面に巻き付けて冷却するキャンロールを2個以上具備するロールツーロール方式の表面処理装置とこれを用いた成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等の電子機器には、樹脂フィルム上に配線回路が形成されたフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板は、樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付樹脂フィルムに対してフォトリソグラフィーやエッチング等の薄膜技術で金属膜をパターニング加工することによって作製することができる。近年、フレキシブル配線基板の配線回路パターンは、ますます微細化、高密度化する傾向にあり、これに伴い金属膜付樹脂フィルムには平坦でシワのないものが求められている。
【0003】
上記の金属膜付樹脂フィルムの製造方法としては、金属箔を接着剤により樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、樹脂フィルムに真空成膜法単独で、又は真空成膜法と湿式めっき法との併用で金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。
【0004】
上記の製造方法のうち、メタライジング法における真空成膜法では、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等が用いられている。例えばスパッタリング法としては、特許文献1にポリイミド絶縁層の上にクロム層をスパッタリングした後、銅をスパッタリングすることでへ導体層を形成する方法が開示されており、特許文献2に銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングにより形成された第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングにより形成された第2の金属薄膜とがこの順にポリイミドフィルム上に積層されたフレキシブル回路基板用材料が開示されている。
【0005】
上記の真空成膜法でポリイミドフィルム等の樹脂フィルムに金属膜を成膜して金属膜付樹脂フィルムを作製する場合は、長尺樹脂フィルムをロールツーロール方式で連続的に搬送しながら効率よく真空成膜する装置が一般的に用いられている。この真空成膜装置でスパッタリング成膜を行う場合、スパッタリング法は一般に密着力に優れるものの真空蒸着法に比べて樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいので、成膜の際に樹脂フィルムにシワが発生することがあった。そこでこの真空成膜装置では、真空チャンバー内で巻出ロールから巻取ロールまで長尺樹脂フィルムをロールツーロールで搬送しながら、その搬送経路に設けたキャンロールの外周面に該長尺樹脂フィルムを巻き付けて冷却しながら連続的に真空成膜を行うスパッタリングウェブコータが採用されている。
【0006】
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)の真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式の真空スパッタリング装置には、キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されており、更にクーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側に設けたサブロールによって長尺樹脂フィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載されているように、キャンロールの外周面はミクロ的に見て平坦ではないため、キャンロールの外周面とそこに接触して搬送される長尺樹脂フィルムとの間には真空空間を介して離間する隙間(ギャップ部)が存在している。このため、成膜の際に生じる長尺樹脂フィルムの熱はキャンロールに効率よく伝熱されない場合があり、これが長尺樹脂フィルムにシワを発生させる原因になっていた。
【0008】
この問題を解決するため、スパッタリングウェブコータではキャンロールの外周面からガスを放出させて当該外周面と長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部の熱伝導率を真空に比べて高くする技術が提案されている。例えば特許文献4には、キャンロールの外周面にガスの放出孔となる多数の微細孔を設ける技術が開示されており、特許文献5には、キャンロールの外周面にガスの放出孔となる溝を設ける技術が開示されている。更に、キャンロール自体を多孔質体で構成し、その多孔質体自身の微細孔をガス放出孔とする方法も知られている。
【0009】
尚、非特許文献2によれば、放出ガスがアルゴンガスでそのガス圧力が500Paの場合、キャンロールの外周面と樹脂フィルムとの間のギャップ部の距離が約40μm以下の分子流領域では、ギャップ部の熱コンダクタンスは250(W/m
2・K)であると記載されている。分子流領域の範囲では、このギャップ部の気体分子が多いほど、すなわちガス圧力が高い時ほど気体の分子流による熱伝達効率が向上する。
【0010】
ところで、上記のスパッタリングウェブコータで長尺樹脂フィルムの両面に成膜を行う場合、先ず巻出ロールから巻取ロールまで一方向に長尺樹脂フィルムを搬送してその一方の面のみに成膜した後、当該片面のみに成膜された長尺樹脂フィルムを巻取ロールから取り外して巻出ロールにセットし、再度巻出ロールから巻取ロールまで一方向に長尺樹脂フィルムを搬送してもう一方の面に成膜を行うことが行われる。
【0011】
しかしながら、この方法は片面成膜後に一旦真空チャンバー内を大気に開放する必要があるため生産効率が悪かった。そこで、特許文献6、7及び8に示すように、2個のキャンロールを備えた成膜装置を用いて成膜することが提案されており、これにより巻出ロールから巻取ロールまで一方向に一回搬送するだけで樹脂フィルムの表面と裏面の両面に連続的に成膜することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−98994号公報
【特許文献2】特許第3447070号公報
【特許文献3】特開昭62−247073号公報
【特許文献4】国際公開第2005/001157号
【特許文献5】米国特許第3414048号明細書
【特許文献6】特開2013−049914号公報
【特許文献7】特開2013−049915号公報
【特許文献8】特開2013−049916号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】"Vacuum Heat Transfer Models for Web Substrates: Review of Theory and Experimental Heat Transfer Data," 2000 Society of Vacuum Coaters, 43rd. Annual Technical Conference Proceeding, Denver, April 15-20, 2000, p.335
【非特許文献2】"Improvement of Web Condition by the Deposition Drum Design," 2000 Society of Vacuum Coaters, 50th. Annual Technical Conference Proceeding (2007), p.749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した特許文献4や特許文献5に示すようなキャンロールの外周面にガス放出孔を備えたいわゆるガス放出機構付きキャンロールを用いて長尺樹脂フィルムを搬送する場合、ギャップ部に放出されたガスのガス圧に抗して長尺樹脂フィルムをキャンロールの外周面に押し付ける抗力は、長尺樹脂フィルムの搬送方向の張力をキャンロールの半径で除することで求まる。
【0015】
この抗力を超えないようにギャップ部のガス圧を調整することで、キャンロールの外周面と長尺樹脂フィルムとの間のギャップをほぼゼロにでき、該外周面のミクロな凹凸部の凹部分にガスが満たされる状態となり、長尺樹脂フィルムは該凹凸部の主に凸部分で接触することになる。このギャップ部のガス圧が上記抗力を超えると、ギャップ部の間隔が広がり、長尺樹脂フィルムの幅方向の両縁部からガスが漏れ始めることになる。この場合、ガスが漏れることである程度以上はガス圧力が上がらなくなる。
【0016】
上記のように、ガス放出機構付きキャンロールは、構造自体が複雑なためコストがかかる上、キャンロールの外周面に長尺樹脂フィルムを安定的に巻き付けるためにギャップ部のガス圧を調整することが必要になるので、キャンロールを2個以上具備するスパッタリングウェブコータの全てのキャンロールにガス放出機構付きキャンロールを採用するとコストが高くなり過ぎることが問題になる。
【0017】
本発明は、上記した従来の問題に鑑みてなされたものであり、一方向のみのロールツーロールの搬送によって両面に処理できるようにキャンロールを2個以上具備する長尺基材の表面処理装置において、コストを抑えつつ長尺基材にシワがほとんど発生しないよう処理することが可能なロールツーロール方式の長尺基材の表面処理装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、成膜前の長尺樹脂フィルムは乾燥処理が施されたものであってもわずかに吸湿しており、2個のキャンロールを用いて片面ずつ両面に成膜する場合は、第1面の成膜時にスパッタ等の熱負荷により長尺樹脂フィルムから水分等が放出されることがあり、これによりガス放出機構付きキャンロールを用いなくても上記ギャップ部は完全に真空状態になっておらず、熱伝導に寄与する分子が存在するという知見を得た。但し、第2面の成膜時は、キャンロールに外周面に接する長尺樹脂フィルムの面にはすでに成膜されているため長尺樹脂フィルムからギャップ部へのガス放出は生じなくなり、ギャップ間はほぼ完全に真空に近い状態になる。
【0019】
そこで、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムを外周面に巻き付けて冷却するキャンロールを2個以上具備する真空成膜装置を用いて一方向のみのロールツーロール搬送で両面に成膜を行う場合、ガス放出機構付きキャンロールを第1面の成膜を行う最も上流側のキャンロールには採用せずに、第2面の成膜を行う下流側のキャンロールに採用することで、コストを抑えつつシワの発生を効果的に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明のロールツーロール方式表面処理装置は、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基材を外周面に巻き付けて内部を循環する冷媒で冷却する少なくとも2個のキャンロールと、前記キャンロールの外周面に対向する位置に設けられた表面処理手段とを有する表面処理装置であって、前記少なくも2個のキャンロールのうち、最も上流側に位置するキャンロール以外の少なくとも1個のキャンロールは外周面からガスを放出するガス放出機構を備えて
おり、前記最も上流側に位置するキャンロールと、その直ぐ下流側に位置するキャンロールとの間にテンションカット用の駆動ロールが設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シワ発生の問題をほとんど生ずることなくロールツーロールの一方向の搬送のみで長尺基材の両面に熱負荷のかかる表面処理を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一具体例のロールツーロール方式の真空成膜装置の正面図である。
【
図2】
図1の真空成膜装置が具備するガス放出機構付きキャンロールの縦断面図である。
【
図3】
図2のキャンロールが有するガスロータリージョイントのガス供給システムの一具体例を示すプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1を参照しながら、本発明のロールツーロール方式の長尺基材の表面処理装置の一具体例として、長尺基材に連続的に乾式成膜を施す真空成膜装置を採り上げて説明する。この
図1の真空成膜装置はスパッタリングウェブコータとも称され、真空チャンバー10内においてロールツーロール方式で搬送される長尺基材としての長尺樹脂フィルムFを、2個のキャンロールの外周面に巻き付けて裏面側から冷却しながら、その表面に熱負荷の掛かるスパッタリング成膜処理を連続的に施すことが可能な成膜装置である。
【0024】
この真空チャンバー10は、長尺樹脂フィルムFの第1面に成膜を行う第1成膜室10aと、第2面に成膜を行う第2成膜室10bと、成膜後の巻取りを行う巻取室10cとに仕切り板で区分けされており、仕切り板には、長尺樹脂フィルムFが通過するスリットが開けられている。第1成膜室10aと第2成膜室10bには、ドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の真空装置(図示せず)が設けられており、スパッタリング成膜に際して雰囲気を到達圧力10
−4Pa程度まで減圧した後、スパッタリングガスの導入により0.1〜10Pa程度に圧力調整できるようになっている。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素などのガスが添加される。真空チャンバー10の形状や材質は、上記の減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はない。
【0025】
この真空チャンバー10内に、長尺樹脂フィルムFのロールツーロールの搬送経路を画定する各種ロール群、及び長尺樹脂フィルムFに成膜処理を施す成膜手段が設けられている。これら各種ロール群は、1対の巻出ロール11及び巻取ロール27と、該巻出ロール11から巻き出された長尺樹脂フィルムFを巻き付けて冷却するモーター駆動の第1キャンロール17(1stと表記)及び第2キャンロール23(2ndと表記)と、張力センサーロール(TPと表記)と、モーター駆動ロール(Mと表記)と、それ以外のフリーロールとからなる。
【0026】
上記の各種ロール群によって画定されるロールツーロールの搬送経路について具体的に説明すると、巻出ロール11から巻取ロール27までのロールツーロールの搬送経路のうち、第1成膜室10a内では、巻出ロール11から巻き出された長尺樹脂フィルムFは、フリーロール30a、第1張力センサーロール12、第1駆動ロール13、フリーロール30b、第2張力センサーロール14、フリーロール30c、第1送込みロール15、及び第1送込み張力センサーロール16をこの順に経由して第1キャンロール17に送り込まれる。この第1キャンロール17で外周面に沿って反時計回りに搬送されながら成膜手段で成膜処理が施された後、第1送出し張力センサーロール18を経て第1送出しロール19によって第1キャンロール17の外周面から送り出される。
【0027】
上記の第1張力センサーロール12では、巻出ロール11から巻き出された直後の長尺樹脂フィルムFの張力が測定され、この測定値に基づいて、その直ぐ上流側及び下流側にそれぞれ位置する巻出ロール11及び第1駆動ロール13のACサーボモータが例えばトルク制御又は速度制御され、これにより長尺樹脂フィルムFの張力が所定の設定値に維持される。
【0028】
また、第1キャンロール17の直ぐ上流側に設けられている第1送込み張力センサーロール16では、第1キャンロール17に送り込まれる長尺樹脂フィルムFの張力が測定され、この測定値に基づいて、その直ぐ上流側及び下流側にそれぞれ位置するモーター駆動の第1送込みロール15及び第1キャンロール17の周速度差が調整される。同様に、第1キャンロール17の直ぐ下流側に設けられている第1送出し張力センサーロール18では、第1キャンロール17から送り出された長尺樹脂フィルムFの張力が測定され、この測定値に基づいて、その直ぐ上流側及び下流側にそれぞれ位置するモーター駆動の第1キャンロール17及び第1送出しロール19の周速度差が調整される。第1キャンロール17の上流側及び下流側に位置するこれら2個の駆動ロールと2個の張力センサーロールとで構成される送込み送出し機構によって、第1キャンロール17の外周面に長尺樹脂フィルムFを安定的に密着させることが可能になる。
【0029】
上記の第1送出しロール19から送り出された長尺樹脂フィルムFは、フリーロール30d、30e、ロールツーロール搬送経路のほぼ中央に位置する中央部駆動ロール20、及びフリーロール30fを経た後、第1成膜室10aを出て第2成膜室10bに入る。第2成膜室10bに入った長尺樹脂フィルムFは、フリーロール30g、30hを経て前述した第1キャンロール17の送込み送出し機構と同様に、第2送込みロール21及び第2送込み張力センサーロール22によって送込み側の張力が調整されながら第2キャンロール23に送り込まれる。
【0030】
この第2キャンロール23で外周面に沿って時計回りに搬送されながら成膜手段で成膜処理が施された後、第2送出し張力センサーロール24及び第2送出しロール25によって送出し側の張力が調整されながら第2キャンロール23の外周面から送り出され、フリーロール30iを経た後、第2成膜室10bを出て巻取室10cに入る。巻取室10cに入った長尺樹脂フィルムFは、フリーロール30j、巻取前張力センサーロール26、及びフリーロール30kを経た後、該巻取前張力センサーロール26で測定した張力によって巻取り前張力が制御されながら巻取ロール27で巻き取られる。
【0031】
このように、2個連続して設けられているキャンロールの外周面において、長尺樹脂フィルムFを巻き付ける向きを互いに逆向きにすることにより、これら2個のキャンロールの外周面に接触する長尺樹脂フィルムFの面を互いに逆にすることができる。また、上流側の第1キャンロール17の外周面に対向する位置には乾式の成膜手段として第1、第2、第3及び第4マグネトロンスパッタリングカソード41、42、43、44が搬送経路に沿ってこの順に設けられており、下流側の第2キャンロール23の外周面に対向する位置には第5、第6、第7及び第8マグネトロンスパッタリングカソード45、46、47、48が搬送経路に沿ってこの順に設けられている。これにより、ロールツーロールの一方向のみの搬送で長尺樹脂フィルムの両面に成膜を行うことができる。尚、
図1に示すような板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがあるので、これが問題になる場合は、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用してもよい。
【0032】
この
図1の真空成膜装置は、下流側の第2キャンロール23に外周面からガスの放出を行うガス放出機構が設けられている。この第2キャンロール23のガス放出機構について
図2を参照しながら説明する。第2キャンロール23は金属製の円筒部材1からなり、外周面1aが長尺樹脂フィルムFが巻き付く搬送経路となる。円筒部材1の内部は、いわゆるジャケットロール構造2になっており、これにより形成される流路2a内に冷却水などの温度調節された冷媒が流れるようになっている。この流路2a内の冷媒は、円筒部材1の中心軸Oに位置する二重配管構造の回転軸3を介して真空チャンバー10の外部の図示しない冷媒冷却装置との間で循環が行われる。回転軸3はその両端外周部にベアリング3aが設けられており、これにより円筒部材1を回転可能に支持している。
【0033】
この円筒部材1の外周肉厚部に、中心軸O方向に延在する複数のガス導入路4が周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って設けられている。各ガス導入路4は、外周面1a側に開口する複数のガス放出孔5が中心軸O方向に均等な間隔をあけて設けられている。円筒部材1の一端部にはガスロータリージョイント6が取り付けられており、真空チャンバー10の外部の図示しないガス供給源からのガスを上記した複数のガス導入路4に分配して供給できるようになっている。かかる機構により、複数のガス導入路4及びそれらの各々に連通するガス放出孔5を経て第2キャンロール23の外周面とそこに巻き付いている長尺樹脂フィルムFとの間のギャップ部にガスが放出され、これにより該ギャップ部の熱伝導率を向上させることができる。
【0034】
上記のガス導入路4の本数や各ガス導入路4に設けるガス放出孔5の数は、第2キャンロール23の外周面を覆う長尺樹脂フィルムFの面積、長尺樹脂フィルムFの張力、ギャップ部へのガス放出量、真空チャンバー10が具備する排気ポンプの能力等により適宜定めることができる。ガス放出孔5の内径は、第2キャンロール23の外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部(隙間)に良好にガスを導入できる大きさであれば特に限定はないが、極小の内径を有するガス放出孔5を狭ピッチにして多数設けるのが第2キャンロール23の外周面の全面に亘って熱伝導率を均一化できるという点において好ましい。
【0035】
また、ガス放出孔5の内径が大きいと、第2キャンロール23に巻き付いている長尺樹脂フィルムFのうち、ガス放出孔5に対向している部位と対向していない部位とで冷却効率に差が生じることがある。従って一般的には内径30μm〜1000μm程度が好ましい。但し、極小の内径を有する孔を狭ピッチで多数設ける加工技術は困難を伴うので、現実的には内径150〜500μm程度の小孔を5〜10mmピッチで第2キャンロール23の外周面に設けるのがより好ましい。
【0036】
次に、上記した複数のガス導入路4にガスを分配して供給するガスロータリージョイント6について説明する。ガスロータリージョイント6は前述した円筒部材1の一端部に固定されて該円筒部材1と共に回転する環状の回転リングユニット6aと、回転しない環状の静止リングユニット6bとから構成されており、これらは互いの摺動面で摺動するようになっている。尚、この摺動面には、公知のガスシール手段を配置することが好ましい。前述した回転軸3はこれら環状のリングユニット6a、6bの中央開口部から突出している。
【0037】
回転リングユニット6aにはガス導入路4と同じ数のガス分配路7が放射状に設けられており、これらガス分配路7はそれぞれ接続管7aを介してガス導入路4に連通している。尚、ガス導入路4の数とガス分配路7の数を一致させずに複数の隣接するガス導入路4ごとに集合管で1本にまとめて回転リングユニット6aのガス分配路7に接続してもよい。ガス分配路7のガス導入路4に接続する側とは反対側の他端部は、静止リングユニット6bとの摺動面において開口している。一方、静止リングユニット6bには1本のガス供給路8が設けられており、その一端部は真空チャンバー10の外部の図示しないガス供給源からのガス供給管8aに接続している。このガス供給路8のガス供給管8aに接続する側とは反対側の他端部は、回転リングユニット6aとの摺動面において、前述したガス分配路7が摺動面で開口する端部に対向するように開口している。これにより、複数のガス導入路4にガスを分配して供給することが可能になる。
【0038】
ところで、第2キャンロール23の外周面のうち、長尺樹脂フィルムFが巻き付いていないいわゆる非ラップ領域ではガス放出孔5が真空チャンバー10にそのまま開放しているので、この非ラップ部に位置するガス導入路4にはガスを導入しないのが好ましい。この一部のガス導入路4にガスを供給しない方法としては、回転リングユニット6a内の各ガス分配路7にバルブを設けて、その角度位置に応じて電気的又は電磁気的に開閉させる方法などが考えられる。あるいは、回転リングユニット6aの回転を利用して機械的に開閉させる方法がある。これらの中では後者の方法が簡易であるので好ましい。後者の方法の具体例としては、例えば非ラップ領域以外に位置するガス導入路4に連通するガス分配路7にのみガスを導入するように、上記した摺動面で開口するガス供給路8の端部の形状を環状ではなく略C字状の開口溝にしたり、
図2に示すようにテフロンパッキン等の閉塞材8bで上記環状の開口溝を部分的に塞いだりする方法を挙げることができる。
【0039】
上記構造のガスロータリージョイント6を用いることで、第2キャンロール23の外周面に長尺樹脂フィルムFが巻き付いていない領域である非ラップ領域ではガス導入路4へのガス供給が遮断されるので、ガス放出孔5から真空チャンバー10内に無駄にガスが放出されるのを防ぐことができる。よって、真空チャンバー10内の圧力制御への悪影響を抑えることができると共に、ガス導入路4への導入ガスのガス圧を所定の圧力に安定的に維持することが可能になる。また、電磁バルブや圧空バルブを使用しないため、第2キャンロール23に複雑な配線や配管を設ける必要がなくなる。
【0040】
尚、ガスロータリージョイント6の構造は、上記したように回転リングユニット6aと静止リングユニット6bとがそれらの中心軸に垂直な摺動面で互いに摺動する構造に限定されない。例えば小径の環状静止リングユニットの外周面に大径の環状回転リングユニットの内周面が摺接する構造でもよく、この場合は、回転リングユニットの内周面においてガス分配路の一端部を開口させ、静止リングユニットの外周面には非ラップ領域以外の領域に対応する角度範囲にのみ周方向に延在するガス供給路の開口溝を設ければよい。また、ガスロータリージョイントはキャンロールの片側だけでなく両側に取り付けてもよい。
【0041】
ところで、第2キャンロール23の外周面とそこに巻き付いている長尺樹脂フィルムFとの間のギャップ部のガス圧は、前述したように、長尺樹脂フィルムFを第2キャンロール23の外周面に押し付けるための抗力を超えないように設定するのが好ましい。そこで、ギャップ部のガス圧をガス供給源からのガス供給管8aから供給されるガスによって圧力制御するのが好ましい。但し、第2キャンロール23の外周面とそこに巻き付いている長尺樹脂フィルムFとの間のギャップ圧力を直接測定することは難しい。
【0042】
そこで、
図3に示すように、上記ギャップ部のガス圧とほぼ同一圧力であると推定できるガス供給路8に例えば隔膜真空計等の真空計Pを取り付け、この真空計Pで測定した値が設定値となるように、制御装置CPUでピエゾバルブPVを操作するフィードバック制御を行えばよい。この場合、マスフローメータMFMで測定したガス供給流量が一定となるように、真空計Pで測定した圧力とカスケード制御を行ってもよい。尚、上記ギャップ部に放出する程度のガス量であれば真空チャンバー10が具備する真空ポンプで排気可能である。この場合、ギャップ部に導入するガスをスパッタリング雰囲気のガスと同じにすれば、スパッタリング雰囲気を汚染することもない。
【0043】
以上説明したように、本発明の一具体例の表面処理装置は、2個以上のキャンロールのうち、最も上流側のものを除く少なくとも1個のキャンロールにおいてその外周面とそこに巻き付く長尺基材との間にガスを導入して両者のギャップ部の間隔をほぼ一定に維持することができるため、当該ギャップ部はほぼ全体に亘って熱コンダクタンスが均一になり、前処理や成膜等の熱負荷の掛かる処理の際に長尺基材の温度を均一に維持できる。その結果、長尺基材にシワが発生するのを抑えることが可能になる。
【0044】
尚、この
図1の真空成膜装置は長尺樹脂フィルムFに熱負荷の掛かる処理としてスパッタリング成膜処理を施すものであるため、上記したようにマグネトロンスパッタリングカソード41〜48が設けられているが、熱負荷の掛かる処理はこれに限定されるものではなく、CVD(化学蒸着)又は真空蒸着などの他の表面処理を備えた装置でもよい。この場合は、上記板状ターゲットに代えてそれらの表面処理手段が設けられることになる。次に、上記した真空成膜装置を用いて金属膜付樹脂フィルムを作製する方法について説明する。
【0045】
(1)先ず、第1成膜室10aの巻出しゾーンにおいて、張力センサーロール12及びその直ぐ上流側及び下流側の巻出ロール11及び第1駆動ロール13の回転速度制御等により張力を制御しながら巻出ロール11から長尺樹脂フィルムFを巻き出す。この第1成膜室では、必要に応じて減圧雰囲気の乾燥ゾーンを設け、巻き出された長尺樹脂フィルムFをこの乾燥ゾーンに通過させて、乾燥を行ってもよい。この乾燥ゾーンには、カーボンヒータ等を設置して熱負荷を与えることで乾燥効果を高めてもよい。
【0046】
(2)次に、第1成膜室内10aの成膜ゾーンにおいて、第1キャンロール17の外周面に長尺樹脂フィルムFを巻き付けながら該外周面に対向する4つのマグネトロンスパッタリングカソード41〜44に取り付けたターゲットによって長尺樹脂フィルムFの第1面に成膜を行う。その際、第1キャンロール17の上流側では送込み張力センサーロール16により測定した長尺樹脂フィルムFの張力が所定の設定値になるようにモーター駆動の送込みロール15で制御し、下流側では送出し張力センサーロール18により測定した長尺樹脂フィルムFの張力が所定の設定値になるようにモーター駆動の送出しロール19で制御する。
【0047】
(3)この第1キャンロール17における長尺樹脂フィルムFの張力制御によって、後流の第2キャンロール23における長尺樹脂フィルムFの張力制御が影響を受けないように、モーター駆動の駆動ロール20でテンションカットしている。次に、第2成膜室10bの成膜ゾーン内において、第2キャンロール23の外周面に長尺樹脂フィルムFを巻き付けながら該外周面に対向する4つのマグネトロンスパッタリングカソード45〜48に取り付けられたターゲットによって長尺樹脂フィルムFの第2面に成膜を行う。その際、第2キャンロール23の上流側では送込み張力センサーロール22により測定した長尺樹脂フィルムFの張力が所定の設定値になるようにモーター駆動の送込みロール21で制御し、下流側では送出し張力センサーロール24により測定した長尺樹脂フィルムFの張力が所定の設定値になるようにモーター駆動の送出しロール25で制御する。
【0048】
(4)最後に、巻取室10cの巻取りゾーンにおいて、張力センサーロール26により長尺樹脂フィルムFの張力を測定し、その測定値が所定の設定値になるように巻取りを行う。巻取ロール27の上流にはニアロール(図示せず)を配置してもよく、これにより巻取りシワを効果的に低減することができる。
【0049】
上記の方法で例えば長尺樹脂フィルムFの表面にNi系合金等から成る膜とCu膜とが積層された金属膜付長尺樹脂フィルムを作製することができる。かかる積層構造の金属膜付樹脂フィルムは、サブトラクティブ法により金属膜をパターニング加工することでフレキシブル配線基板となる。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0050】
上記Ni合金等から成る膜はシード層と呼ばれ、金属膜付樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性によりその組成が選択される。例えばNi−Cr合金、インコネル、コンスタンタン、モネル等の各種公知の合金を用いることができる。上記乾式成膜で作製した金属膜付長尺樹脂フィルムの金属膜(Cu膜)を更に厚くしたい場合は、更に湿式めっき法を用いて金属膜を膜厚化してもよい。この場合は、電気めっき処理のみで膜厚化する方法と、一次めっきの無電解めっき処理と二次めっきの電解めっき処理を組み合わせて行う方法がある。いずれにおいても湿式めっき処理には特に制約はなく、一般的な湿式めっき法を採用することができる。
【0051】
上記金属膜付樹脂フィルムに用いる樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、又は液晶ポリマー系フィルムなどの樹脂フィルムを用いることができ、これらの中では、金属膜付フレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点からポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミドフィルムが好ましい。尚、上記具体例では長尺樹脂フィルムにNi-Cr合金及びCuからなる金属膜を積層する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等を成膜してもよい。
【0052】
以上、本発明のロールツーロール方式の長尺基材処理装置の一具体例として真空成膜装置を採り上げて説明したが、本発明の長尺基材の処理装置はこれに限定されるものではなく、減圧雰囲気下の真空チャンバー内で長尺基材にプラズマ処理やイオンビーム処理等の熱負荷が掛かる処理を施して長尺基材の表面を改質するものでもよい。尚、プラズマ処理とは、例えばアルゴンと酸素の混合ガス又はアルゴンと窒素の混合ガスによる減圧雰囲気下において放電を行うことにより、酸素プラズマ又は窒素プラズマを発生させて長尺基材を処理するものであり、イオンビーム処理とは、減圧雰囲気下で強い磁場を印加した磁場ギャップでプラズマ放電を発生させて、プラズマ中の陽イオンを陽極による電解でイオンビームとして目的物(長尺基材)へ照射する処理である。
【実施例】
【0053】
図1に示す真空成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用いて長尺樹脂フィルムFの両面に成膜を行った。長尺樹脂フィルムFには、幅570mm、長さ1000m、厚さ50μmの東洋紡株式会社製のPETフィルム「コスモシャイン(登録商標)」を使用した。また、2個のキャンロール17、23には、直径800mm、幅800mmのステンレス製のジャケットロール構造の円筒部材を用い、その外周面にハードクロムめっきを施した。第2キャンロール23については、円筒部材の外周肉厚部に内径4mmのガス導入路4を360本形成し、各ガス導入路4に10mm間隔で内径0.2mmのガス放出孔5を47個設けた。尚、このガス放出孔5は、外周面における長尺樹脂フィルムFが巻き付けられる領域のうち、その幅方向の両端部からそれぞれ内側に20mmの位置よりも内側の領域のみに設けるようにした。
【0054】
このガス放出機構付きキャンロールを真空成膜装置に搭載して長尺樹脂フィルムFを巻き付けて搬送するとき、長尺樹脂フィルムFが接触しない非ラップ領域の角度範囲は約90°となるので、この非ラップ領域の角度範囲内に位置するガス導入路4は90本になる。従って、ガスロータリージョイント6の静止リングユニット6bのガス供給路8が回転リングユニット6aとの摺動面で開口する端部の形状を、上記非ラップ領域の約90°を除く約270°のラップ領域の角度範囲でのみ開口する略C字形状の溝にした。
【0055】
360本のガス導入路4をガスロータリージョイント6の回転リングユニット6aのガス分配路7に1対1で接続するのは製造上困難であったため、10本のガス導入路4ごとに1本のガス集合管にまとめてガス分配路7に接続した。即ち、36本のガス集合管をロータリージョイント6に接続した。また、ギャップ部の圧力制御のため静止リングユニット6bのガス供給路8に圧力計(商品名:バラトロン真空計)を取り付けた。
【0056】
上記PETフィルム(樹脂フィルム)に金属膜としてシード層のNi−Cr膜とその上のCu膜を成膜するため、第1キャンロール17の周囲の第1マグネトロンスパッタリングカソード41と第2キャンロール23の周囲の第5マグネトロンスパッタリングカソード45にはNi−Crターゲットを設置し、それ以外のマグネトロンスパッタリングカソードにはCuターゲットを設置した。尚、これらスパッタリングカソードの投入電力を調整することで、搬送速度を変化させても、膜厚30nmのNi−Cr層と膜厚が90nmのCu層とを成膜することができる。
【0057】
巻出ロール11に上記PETフィルムをセットし、その先端部を引き出して、第1キャンロール17と第2キャンロール23とを経由させて巻取ロール27に取り付けた。巻出ロール11と巻取ロール27の張力を100N、第1キャンロール17と第2キャンロール23の前後の張力は共に200Nに設定した。第1キャンロール17及び第2キャンロール23に対して真空チャンバー10の外部で0℃に制御された冷却水を循環した。更に、アルゴンガスを300sccm導入し、各カソードへの印加電力は20kWの電力制御で成膜を行った。
【0058】
この状態で真空チャンバー10を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
−3Paまで排気し、長尺樹脂フィルムFの搬送を開始した。この搬送開始後、搬送速度を様々に変えながら、第2キャンロール23のガスロータリージョイント6に取り付けた圧力計が800Paになるようにガスロータリージョイント6に供給するガス流量を制御した。第1キャンロール17での成膜時のシワ発生の有無を覗き窓から目視で観察し、成膜終了後、巻取ロール27から両面に成膜された長尺樹脂フィルムFを取外し、目視にてスパッタリングの熱負荷に起因するシワ発生の有無を調べた。その結果を下記表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
上記表1から分かるように、第1及び第2キャンロール17、23のいずれにもガス放出機構付きキャンロールを用いないで両面に成膜を行った場合は、長尺樹脂フィルムFの搬送速度が5m/分以上になると成膜時の熱負荷により長尺樹脂フィルムFにシワが生じた。これに対して、第2キャンロール23にガス放出機構付きキャンロールを用いて両面に成膜を行った場合は、搬送速度を9m/分まで速くしてもシワが生じなかった。このように、搬送速度が速くなると成膜中のシワ発生しやすくなる理由は、スパッタリング成膜の搬送速度を速くしてもNi−Cr層とCu層の膜厚を均一にするためには成膜速度を高める必要があり、そのためスパッタリング投入電力を高める必要が生じるのでスパッタリングによる熱負荷が増加し、各キャンロールでの冷却能力を超えるからである。
【符号の説明】
【0061】
1 円筒部材
2 ジャケットロール構造部
3 回転軸
3a ベアリング
4 ガス導入路
5 ガス放出孔
6 ガスロータリージョイント
7 回転リングユニット
8 静止リングユニット
7a ガス分配路
8a ガス供給路
9 ガス供給配管
10 真空チャンバー
11 巻出ロール
12 第1張力センサーロール
13 第1駆動ロール
14 第2張力センサーロール
15 第1送込みロール
16 第1送込み張力センサーロール
17 第1キャンロール
18 第1送出し張力センサーロール
19 第1送出しロール
20 中央部駆動ロール
21 第2送込みロール
22 第2送込み張力センサーロール
23 第2キャンロール
24 第2送出し張力センサーロール
25 第2送出しロール
26 巻取前張力センサーロール
27 巻取ロール
30a、30b、30c、30d、30e、30f、30g、30h、30i、30j、30k フリーロール
41、42、43、44、45、46、47、48 マグネトロンスパッタリングカソード
PV ピエゾバルブ
MFM マスフローメータ
P 圧力センサ(圧力検出手段)
CPU 調節計
F 長尺樹脂フィルム