【文献】
Geilen, Frank M. A. 他,Selective and Flexible Transformation of Biomass-Derived Platform Chemicals by a Multifunctional Catalytic System,Angewandte Chemie, International Edition ,2010年,49(32),5510-5514
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロフラン(以下、THFと略記することがある)を開環重合させて得られるポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略記することがある)を原料として製造されるポリウレタンは弾性特性、低温特性、耐加水分解性などの機械的特性に優れるため広く弾性繊維や、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして利用されている。このポリウレタンの機械的特性を向上させる目的で、ポリウレタンの原料としてTHFに変えて置換テトラヒドロフランを共重合して得られるポリエーテルポリオールを用いることが行なわれている。そのような置換テトラヒドロフランとしては、例えば3−メチルテトラヒドロフラン(以下、3−MeTHFと略記することがある)を挙げることができる。また、THFと3−MeTHFを共重合して得られるポリエーテルポリオールを用いて製造したポリウレタンは、ポリテトラメチレンエーテルグリコールを用いた場合に比較して機械的特性が向上することが知られている(特許文献1)。
【0003】
置換テトラヒドロフランは前述のとおり有用な物質であるため、広く検討がなされ、多くの製造方法が提案されているが、いずれの製造方法も課題を抱えている。
【0004】
従来、置換テトラヒドロフラン、例えば3−メチルテトラヒドロフランの製造方法として、特許文献2のように、カルボン酸又はそのエステルを水素化して直接3−メチルテトラヒドロフランを合成する方法、あるいは一旦2−メチル−1,4−ブタンジオール(以下、2−MeBDと略記することがある)としてその後脱水環化する方法が知られている。同文献では、クエン酸を原料とし、パラジウムとレニウムを担持させた触媒を用いて水素化し、3−メチルテトラヒドロフランを合成している。しかしながら、レニウム触媒は特許文献3に示されているように、反応系中にレニウムが溶出し、触媒が大きく失活するという問題があるため、触媒の再生または使い捨てを行う必要があり経済的ではない。また、3−メチルテトラヒドロフラン及びその前駆体となる反応中間体の合計収率も不十分であった。
【0005】
メタクリル酸を原料として3−シアノイソラク酸メチルを製造しこれを鍵中間体として、数工程かけて3−MeTHFへ誘導する方法についても複数のルートが提案されている(特許文献4、5)。しかしこれらの方法では、反応の第一工程において猛毒の青酸を使用しており、製造設備においてその安全設備にかかる負荷が大きい。特に反応ルートの第一工程で青酸を使用するので、多量の青酸の確保と、その安全な取り扱い、未反応物の除害が必要となり工業的な製造においては付帯設備のコストが大きくなる。
【0006】
他に、特許文献6のように酸性水溶液中にて3−メチル−3,4−エポキシブタン−1オールを水素化して3−MeTHFを得る方法も知られているが、原料の3−メチル−3,4−エポキシブタン−1−オールが工業的に製造されておらず、容易かつ安価に入手できない上、酸性水溶液中で反応させる条件では、原料の加水分解が避けられず、エポキシ環が開環したトリオール体が副生するなどの問題を有する。
【0007】
このように、置換テトラヒドロフランの製造方法には触媒、収率、設備、原料の面で課題が多くあり、工業的に有利な置換テトラヒドロフランの製造方法が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
なお、本発明において、各種の置換基の炭素数は、当該置換基が更に置換基を有する場合、その置換基の炭素数も含めた合計の炭素数をさす。
【0016】
[置換テトラヒドロフラン]
本発明の置換テトラヒドロフランは、下記式1で表される化合物である。
【0017】
【化4】
[式1において、R
1〜R
6はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、任意の置換基を有していてよい炭素数1〜20の有機基を有するアルコキシ基、又は、任意の置換基を有していてよい炭素数1〜20の有機基であって、R
1〜R
6のいずれか2つ以上が結合して環を形成していてもよい。但し、R
1〜R
6が全て水素原子である場合を除く。]
【0018】
上記式1において、R
1〜R
6は、水素原子、ヒドロキシ基、任意の置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基を有するアルコキシ基、又は、任意の置換基を有していてよい炭素数1〜20の有機基である。但し、R
1〜R
6が全て水素原子である場合は、置換テトラヒドロフランではないので、これを除く。R
1〜R
6の炭素数1〜20の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デキル基、ウンデキル基、ドデキル基等のアルキル基:シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基:ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルケニル基:シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の環状アルケニル基:エチニル基、メチルエチニル基、1−プロピオニル基等のアルキニル基:フェニル基、ナフチル基、トルイル基等のアリール基:メトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基:ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基:チエニル基、ピリジル基、フリル基等の複素環基等が挙げられる。R
1〜R
6のいずれか2つ以上が結合して環を形成していてもよい。また、これらの有機基が置換基を有する場合、置換テトラヒドロフランの製造に不具合をもたらさない限りは特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜20の上記有機基に加えて、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、有機ケイ素基等が挙げられる。R
1〜R
6の有機基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。このような置換基を有する置換テトラヒドロフランの中で、原料の入手性の観点からは、3−置換テトラヒドロフラン、好ましくは3−アルキルテトラヒドロフラン、特に好ましくは3−メチルテトラヒドロフランを挙げることができる。
【0019】
(ジカルボニル化合物)
本発明の上記置換テトラヒドロフランの原料としては、下記式2または3で表される化合物が挙げられる。
【0020】
【化5】
[式2及び3において、R
5〜R
12はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、任意の置換基を有していてよい炭素数1〜10有機基有するアルコキシ基、又は、任意の置換基を有していてよい炭素数1〜20の有機基であって、R
5〜R
12のいずれか2つ以上が結合して環を形成していてもよい。]
【0021】
式2または3において、R
5〜R
12は、水素原子、ヒドロキシ基、任意の置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基有するアルコキシ基、又は、任意の置換基を有していてよい炭素数1〜20の有機基である。R
5〜R
12の炭素数1〜20の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デキル基、ウンデキル基、ドデキル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルケニル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の環状アルケニル基;エチニル基、メチルエチニル基、1−プロピオニル基等のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基、トルイル基等のアリール基;メトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;チエニル基、ピリジル基、フリル基等の複素環基が挙げられる。R
5〜R
12のいずれか2つ以上が結合して環を形成していてもよい。また、これらの有機基が置換基を有する場合、置換テトラヒドロフランの製造に不具合をもたらさない限りは特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜20の上記有機基に加えて、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、有機ケイ素基等が挙げられる。R
5〜R
12の有機基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。このような置換基を有するジカルボニル化合物として、入手性や反応性の観点から、イタコン酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、及びこれらのカルボン酸の炭素数1〜20のアルキルエステル、好ましくは1〜6のアルキルエステル、より好ましくは1〜4のアルキルエステルを挙げることができる。
【0022】
また、本発明の上記置換テトラヒドロフランの原料としては式2または3で表されるジカルボニル化合物の前駆体である下記式4で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【化6】
[式4において、R
3〜R
8はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、任意の置換基を有していてよい炭素数1〜20の有機基有するアルコキシ基、又は、任意の置換基を有していてよい炭素数1〜20の有機基であって、R
5〜R
8のいずれか2つ以上が結合して環を形成していてもよい。ただし、R
3〜R
8が全て水素原子である場合を除く。]
【0024】
上記式4において、R
3〜R
8は、水素原子、ヒドロキシ基、任意の置換基を有していてもよい炭素数1〜20の有機基有するアルコキシ基、又は、任意の置換基を有していてよい炭素数1〜20の有機基である。但しR
3〜R
8が全て水素原子である場合は、生成物が置換テトラヒドロフランとならないため、これを除く。R
5〜R
12の炭素数1〜20の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デキル基、ウンデキル基、ドデキル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の直鎖又は分岐の鎖状アルケニル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の環状アルケニル基;エチニル基、メチルエチニル基、1−プロピオニル基等のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基、トルイル基等のアリール基;メトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;チエニル基、ピリジル基、フリル基等の複素環基が挙げられる。R
5〜R
12のいずれか2つ以上が結合して環を形成していてもよい。また、これらの有機基が置換基を有する場合、置換テトラヒドロフランの製造に不具合をもたらさない限りは特に制限はないが、当該置換基としては炭素数1〜20の上記有機基に加えて、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、有機ケイ素基等が挙げられる。R
5〜R
12の有機基はこれらの置換基を2以上有していてもよく、その場合、2以上の置換基は同一であっても異なるものであってもよい。このような置換基を有するジカルボニル化合物として、入手性や反応性の観点から、クエン酸の炭素数1〜20のアルキルエステル、好ましくは1〜6のアルキルエステル、より好ましくは1〜4のアルキルエステルを挙げることができる。
【0025】
式2〜4において、R
7、R
8がヒドロキシ基の場合、式2〜4の化合物は式2a、3a、4aで表されるジカルボン酸となる。この場合は、原料としてさらに、これらのジカルボン酸に対応する式2b、3b、4bで表される酸無水物を含んでいても良い。この場合、R
7、R
8以外の他の置換基については上記の説明と同様である。
【0028】
(中間体)
前記式1で表される置換テトラヒドロフランを製造する際には、原料として用いたジカルボニル化合物に応じ、下記式5a、5b、5cで表されるジオール化合物が中間体として生成する。これらは置換テトラヒドロフランとの混合物になっていてもよい。また、これらのジオール化合物を分離し、原料のジカルボニル化合物に混合し、置換テトラヒドロフランの製造に用いても良い。尚、下記式5a、5b、5c中のR
3〜R
12は上記したものと同様である。
【0030】
原料としたジカルボニル化合物においてR
7、R
8のいずれかがヒドロキシ基または、任意の置換基を有していてよい炭素数1〜20の有機基有するアルコキシ基である場合には、下記式6a、6b、6c、6d、6e、6fで表されるラクトン化合物も中間体として生成する。これらも置換テトラヒドロフランとの混合物になっていてもよい。また、これらのラクトン化合物を分離し、原料のジカルボニル化合物に混合し、置換テトラヒドロフランの製造に供しても良い。尚、下記式6a、6b、6c、6d、6e、6f中のR
3〜R
12は上記したものと同様である。
【0033】
原料としたジカルボニル化合物においてR
7、R
8の両方がヒドロキシ基または、任意の置換基を有していてよい炭素数1〜20の有機基有するアルコキシ基である場合には、下記式7a、7b、7c、7d、7e、7fで表されるラクトン化合物も中間体として生成する。これらも置換テトラヒドロフランとの混合物になっていてもよい。また、これらのラクトン化合物を分離し、原料のジカルボニル化合物に混合し、置換テトラヒドロフランの製造に供しても良い。尚、下記式中のR
3〜R
6、R
9〜R
12は上記したものと同様である。
【0036】
[置換テトラヒドロフランの製造方法]
本発明の置換テトラヒドロフランの製造方法は、上記ジカルボニル化合物を原料とし、該溶媒に対して所定の濃度以上溶解させた状態で、触媒を用いて水素化し、液液分離して置換テトラヒドロフランを取り出す方法である。
【0037】
用いる溶媒としては、反応及び液液分離に悪影響を与えないものであれば、特に限定されるものではないが、具体的には、水;メタノール、エタノール、オクタノール、ドデカノール等のアルコール類;テトラヒドロピラン、ジオキサン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;その他、ヘキサン、シクロヘキサン、デカリン等の炭化水素類が挙げられる。必要に応じてこれらの内2つ以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは水を溶媒として用いる。
【0038】
原料の溶液中の濃度としては、10重量%以上、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、更に好ましくは40重量%以上、特に好ましくは50重量%以上である。下限値以下では目的物である置換テトラヒドロフランを液液分離することができず、精製プロセスの負荷が大きくなってしまう。
【0039】
水素化触媒としては、例えば酸化パラジウム、酸化白金などの貴金属酸化物;活性炭、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニアまたは酸性イオン交換樹脂などの少なくとも1種からなる担体に、パラジウム、レニウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、白金、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、クロム、ニオブ、コバルト、ニッケルまたは錫の少なくとも1種の金属を担持させた金属担持触媒;安定化ニッケル、ラネーニッケル、ニッケル珪藻土などのニッケル触媒;ラネー銅、銅クロマイト、銅亜鉛などの銅触媒などが挙げられる。中でもルテニウム、白金及び錫を担持してなる触媒が置換テトラヒドロフランの収率が高くなるため好ましい。これらの水素化触媒は1種類を単独で使用しても、また2種類以上を混合して使用してもよい。
【0040】
反応温度は、原料のジカルボニル化合物が式2または3で表されるものである場合は、通常は20℃以上350℃以下、好ましくは100℃以上300℃以下である。下限未満の温度では反応が進まないか又は非常に遅いため、好ましくない。上限を超える温度では置換テトラヒドロフランからの逐次反応が進行し、ロスになってしまうため好ましくない。
【0041】
さらに、まず20℃以上150℃未満、好ましくは50℃以上140℃以下で反応させる前段工程の後に、150℃以上350℃以下、好ましくは160℃以上300℃以下で反応させる後段工程を設けることで、さらに高収率で置換テトラヒドロフランを得ることができる。
【0042】
この場合、反応時の水素圧は通常1〜30MPa、 好ましくは5〜20MPaである。圧力が下限より低いと水素化反応が進行し難く、圧力が上限より高いと水素化分解などの望ましくない副反応が起こる恐れがある。
【0043】
原料のジカルボニル化合物が式4である場合はの反応温度は、まず100℃以上220℃未満、好ましくは170℃以上220℃未満で反応させる前段工程の後に、220℃以上350℃以下、好ましくは220℃以上300℃以下で反応を行う後段工程を設けることが好ましい。
【0044】
この場合、反応時の水素圧は前段工程では0.1〜5MPa、好ましくは0.1〜3MPaである。後段工程では1〜30MPa、 好ましくは5〜20MPaである。圧力が下限より低いと水素化反応が進行し難く、圧力が上限より高いと水素化分解などの望ましくない副反応が起こる恐れがある。
【0045】
反応方式は、液相懸濁反応又は固定床反応のいずれであってもよい。
【0046】
また、反応が回分反応の場合には、使用される触媒の量は、反応原料100重量部に対し0.1〜100重量部であることが望ましいが、反応温度又は反応圧力等の諸条件に応じ、実用的な反応速度が得られる範囲内で任意に選ぶことができる。
【0047】
得られた置換テトラヒドロフランは液液分離することで反応液から分離することができる。この液液分離は通常のデカンタ等の2層分離器を用いて常法に従って行うことができる。液液分離を行う温度は置換テトラヒドロフランを含有する層の分離を妨げない範囲で任意に選ぶことが出来る。また、更に得られた置換テトラヒドロフラン含有層に対して抽出や蒸留を実施してもよい。
【0048】
本発明の製造方法で得られた置換テトラヒドロフランは、例えばガスクロマトグラフィー法、液相クロマトグラフィー法、NMR法などの公知の方法で同定することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0050】
[使用原料]
以下の実施例及び比較例で置換テトラヒドロフランの製造に用いた材料は次の通りである。
イタコン酸:東京化成工業社製
クエン酸:和光純薬工業社製
水素化触媒:後述の方法で調製
【0051】
[同定及び評価方法]
上記原料を用いた場合に生成される置換テトラヒドロフラン及び、反応中間体はそれぞれ、3−メチルテトラヒドロフラン、2−メチル−1,4−ブタンジオール、α−及びβ−γ−ブチロラクトンであり、これらは標品が市販されているため市販品を用いて同定を行った。また、標品で検量線を作成することで、液相クロマトグラフィー(LC)法及び、ガスクロマトグラフィー(GC)法で原料の消費、中間体および目的物の生成量を評価した。原料の仕込みモル数に対する生成物のモル数の割合(%)をモル収率(mol%)とした。
【0052】
(LC分析条件)
・LC装置: 島津製作所 LC−solution
・カラム: 信和加工社製 ULTRON−PS80H (300mm x 8mmI.D., 10um)
・カラムオーブン 60℃
・溶離液 pH2 次亜塩素酸水溶液
・流量 1 mL/min
・RI検出
・測定溶媒:水(内部標準として酢酸を添加)
・酢酸を内部標準とした内部標準法で定量
【0053】
(GC分析条件)
・GC装置: 島津製作所 GC−14B
・カラム: アジレント・テクノロジー社 DB−WAX, 30 m, 直径0.250 mm, film 0.25 um
・気化室温度: 300℃
・温度曲線:40℃で5分保持した後、10℃/minで230℃まで昇温させ、8分間保持
・検出:FID
・測定溶媒: アセトン(内部標準としてジグライムまたは1,4−ジオキサンを添加)
・内部標準法で各成分を定量
【0054】
[触媒の調製]
担体として0.8mm円柱状活性炭(NORIT社製 R0.8 EXTRA)担体を用い、特開2001−9277号公報の実施例4に準じた方法で、塩化ルテニウム水和物、塩化白金酸(IV)・6水和物、塩化スズ(II)・2水和物を用いてルテニウム、白金、スズを活性炭に担持させた、金属担持物を調製した。金属担持物の調製方法の中で、金属塩化物の溶解水は、使用する活性炭の細孔容量と同じとした。金属塩化物の仕込み量は、仕込み量全量が担持され、水素還元し、酸化安定化した場合に、金属担持触媒中の含有量が、Ru5.79重量%、Pt2.39重量%、Sn7.19重量%となる量とした。また、使用する重炭酸アンモニウムは、金属塩化物の塩素に対して2倍モル量を、12%濃度の水溶液として用いた。得られた金属担持触媒を粉砕し、100μmのふるいに掛け、粒径100μm以下の粉砕品を得た。この粉砕品を水素化触媒として以下の実施例及び比較例で用いた。
【0055】
実施例1
容量70mLのオートクレーブに、イタコン酸3.00g、脱塩水4.50g、水素化触媒0.60g、撹拌子を入れ、オートクレーブを密閉した(原料濃度40重量%)。内部を窒素で置換した後、水素を8MPa導入した。これを140℃で1時間加熱撹拌した後、240℃に昇温させてさらに4時間加熱撹拌し、反応を行った。反応終了後、室温まで冷却し、内圧をパージした後、窒素置換した。オートクレーブを開放し、シリンジフィルターで水素化触媒をろ過して反応液を回収すると、反応液は二層に別れていた。
上層は0.891gであり、これをGCで分析した結果、各成分の含有量(収率)は以下の通りであった。
・3−メチルテトラヒドロフラン:46.3mol%
・2−メチル−1,4−ブタンジオール:0.4mol%
・α−及びβ−γ−ブチロラクトン:合わせて1.8mol%
また、
下層(水層)は5.36gあり、これをGCで分析した結果、各成分の含有量(収率)は以下の通りであった。
・3−メチルテトラヒドロフラン:18.0mol%
・2−メチル−1,4−ブタンジオール:2.8mol%
・α−及びβ−γ−ブチロラクトン:合わせて0.6mol%
【0056】
比較例1
イタコン酸を0.35g、脱塩水を6.65g、水素化触媒を0.035gとしたこと以外は実施例1と同様の方法で反応を行った(原料濃度5重量%)。水素化触媒を除去して反応液を回収したが、この反応液は二層に分離していなかった。各成分の収率は、以下の通りであった。
・3−メチルテトラヒドロフラン:61.9mol%
・2−メチル−1,4−ブタンジオール:17.3mol%
・α−及びβ−γ−ブチロラクトン:8.2mol%
【0057】
このように、原料を所定の濃度以上とすることで、3−メチルテトラヒドロフランを液液分離できることがわかる。