特許第6842218号(P6842218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6842218振動解析システム、振動解析方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6842218
(24)【登録日】2021年2月24日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】振動解析システム、振動解析方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01H 9/00 20060101AFI20210308BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20210308BHJP
【FI】
   G01H9/00 B
   G01M99/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-62572(P2020-62572)
(22)【出願日】2020年3月31日
【審査請求日】2020年8月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】石井 抱
(72)【発明者】
【氏名】島崎 航平
【審査官】 森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−032496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00−17/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象である回転体の動作状態を表す動作画像と、前記回転体の非共振状態を表す非共振画像とを取得する画像データ取得部と、
前記動作画像に基づいて、前記回転体の振動状態を解析する演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記動作画像のうち、前記回転体の位相が前記回転体の回転周期の1/N(Nは自然数)となる解析位相である画像からなる時系列の位相ロックイン画像と前記非共振画像との差分画像に基づいて、前記解析位相毎の振動変位を算出し、
前記解析位相毎の振動変位を合成した合成振動変位に基づいて、前記回転体の振動状態を解析する、
振動解析システム。
【請求項2】
前記演算部は、
前記動作画像と前記非共振画像との類似度に基づいて、前記動作画像の前記解析位相を推定し、前記位相ロックイン画像を生成する、
請求項1に記載の振動解析システム。
【請求項3】
前記演算部は、
前記動作画像に撮影されている、前記回転体の位相を明示する情報に基づいて、前記動作画像の前記解析位相を推定し、前記位相ロックイン画像を生成する、
請求項1に記載の振動解析システム。
【請求項4】
前記回転体を撮影するカメラを備え、
前記カメラは、フレームタイミングを制御可能な可変フレームレートカメラであり、
前記画像データ取得部は、
前記カメラを制御して、前記回転体の位相が前記解析位相となるタイミングで、前記回転体を撮影し、前記位相ロックイン画像を生成する、
請求項1に記載の振動解析システム。
【請求項5】
前記画像データ取得部は、
前記回転体の回転角情報に基づいて、前記回転体の位相を推定する、
請求項4に記載の振動解析システム。
【請求項6】
前記画像データ取得部は、
動作中の前記回転体の画像から、前記回転体の位相を表す特徴量を抽出し、
前記特徴量に基づいて前記回転体の位相を推定する、
請求項4に記載の振動解析システム。
【請求項7】
解析対象である回転体の動作状態を表す動作画像と、前記回転体の非共振状態を表す非共振画像とを取得し、
前記動作画像のうち、前記回転体の位相が前記回転体の回転周期の1/N(Nは自然数)となる解析位相である画像からなる時系列の位相ロックイン画像と前記非共振画像との差分画像に基づいて、前記解析位相毎の振動変位を算出し、
前記解析位相毎の振動変位を合成した合成振動変位に基づいて、前記回転体の振動状態を解析する、
振動解析方法。
【請求項8】
コンピュータを、
解析対象である回転体の動作状態を表す動作画像と、前記回転体の非共振状態を表す非共振画像とを取得する画像データ取得部、
前記動作画像のうち、前記回転体の位相が前記回転体の回転周期の1/N(Nは自然数)となる解析位相である画像からなる時系列の位相ロックイン画像と前記非共振画像との差分画像に基づいて、前記解析位相毎の振動変位を算出し、
前記解析位相毎の振動変位を合成した合成振動変位に基づいて、前記回転体の振動状態を解析する演算部、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動解析システム、振動解析方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンドミル、ドリル等の切削工具、駆動力を伝達する各種の動力軸等の回転体では、回転動作によって、強制振動、自励振動等に起因する共振現象が発生し、振動振幅が増大する場合がある。強制振動は、外力の変化の周波数と一致する振動であり、自励振動は、外力の変化の周波数とは無関係で、回転体の固有振動数と一致する振動である。共振現象が生じると、加工精度の低下、機器の損傷等を生じるおそれがあるため、回転体の振動状態を解析することが重要となる。
【0003】
一般的に、回転体の振動状態の解析は、回転体近傍に設置された加速度センサを用いて行われる(例えば、特許文献1)。加速度センサを用いた計測では、回転体に直接加速度センサを取り付けることが難しいので、チャック、軸受け等に加速度センサを設置して振動計測が行われる。しかしながら、このような振動計測方法では、回転体を直接計測していないので、計測の感度は低いものとなる。
【0004】
また、加速度センサを用いない振動解析方法として、画像解析による振動解析方法が開発されている(例えば、特許文献2)。画像解析による振動解析方法では、振動解析の対象物を直接解析できるので、解析の感度を高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−221161号公報
【特許文献2】特開2017−207339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回転体に対して画像解析による振動解析を行う場合、回転体の外観形状が、回転軸に対してして不均一であると、回転に伴う外観の変化が振動成分として検出される。例えば、エンドミルは、らせん状の切れ刃を有するので、回転角度によって、撮影されるエンドミルの外観形状が変化する。これにより、回転体の回転周波数に係る振動成分が検出されるので、計測の目的である共振周波数付近の振動の検出が困難となる。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、回転体の回転に伴う振動成分と共振成分とを分離して、共振成分を精度よく検出できる振動解析システム、振動解析方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る振動解析システムは、
解析対象である回転体の動作状態を表す動作画像と、前記回転体の非共振状態を表す非共振画像とを取得する画像データ取得部と、
前記動作画像に基づいて、前記回転体の振動状態を解析する演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記動作画像のうち、前記回転体の位相が前記回転体の回転周期の1/N(Nは自然数)となる解析位相である画像からなる時系列の位相ロックイン画像と前記非共振画像との差分画像に基づいて、前記解析位相毎の振動変位を算出し、
前記解析位相毎の振動変位を合成した合成振動変位に基づいて、前記回転体の振動状態を解析する。
【0010】
また、前記演算部は、
前記動作画像と前記非共振画像との類似度に基づいて、前記動作画像の前記解析位相を推定し、前記位相ロックイン画像を生成する、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記演算部は、
前記動作画像に撮影されている、前記回転体の位相を明示する情報に基づいて、前記動作画像の前記解析位相を推定し、前記位相ロックイン画像を生成する、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記回転体を撮影するカメラを備え、
前記カメラは、フレームタイミングを制御可能な可変フレームレートカメラであり、
前記画像データ取得部は、
前記カメラを制御して、前記回転体の位相が前記解析位相となるタイミングで、前記回転体を撮影し、前記位相ロックイン画像を生成する、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記画像データ取得部は、
前記回転体の回転角情報に基づいて、前記回転体の位相を推定する、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記画像データ取得部は、
動作中の前記回転体の画像から、前記回転体の位相を表す特徴量を抽出し、
前記特徴量に基づいて前記回転体の位相を推定する、
こととしてもよい。
【0015】
また、本発明の第2の観点に係る振動解析方法では、
解析対象である回転体の動作状態を表す動作画像と、前記回転体の非共振状態を表す非共振画像とを取得し、
前記動作画像のうち、前記回転体の位相が前記回転体の回転周期の1/N(Nは自然数)となる解析位相である画像からなる時系列の位相ロックイン画像と前記非共振画像との差分画像に基づいて、前記解析位相毎の振動変位を算出し、
前記解析位相毎の振動変位を合成した合成振動変位に基づいて、前記回転体の振動状態を解析する。
【0016】
また、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
解析対象である回転体の動作状態を表す動作画像と、前記回転体の非共振状態を表す非共振画像とを取得する画像データ取得部、
前記動作画像のうち、前記回転体の位相が前記回転体の回転周期の1/N(Nは自然数)となる解析位相である画像からなる時系列の位相ロックイン画像と前記非共振画像との差分画像に基づいて、前記解析位相毎の振動変位を算出し、
前記解析位相毎の振動変位を合成した合成振動変位に基づいて、前記回転体の振動状態を解析する演算部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の振動解析システム、振動解析方法及びプログラムによれば、回転体の位相毎の時系列画像に基づいて回転体の振動を解析するので、回転体の回転に伴う振動成分と共振成分とを分離して、共振成分を精度よく検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態1に係る振動解析システムの機能ブロック図である。
図2】実施の形態1に係る振動解析の流れを示すフローチャートである。
図3】回転体及び振動解析システムの構成を示す概略図である。
図4】回転体の回転周期と位相との関係を示す概念図である。
図5】動作画像と位相ロックイン画像との関係を示す概念図である。
図6】回転成分と共振成分のスペクトルを示す図であり、(A)は、動作画像に基づいて検出される振動のスペクトル、(B)は、位相ロックイン画像に基づいて検出される振動のスペクトルである。
図7】回転成分と共振成分とを分離するためのマージンを示す概念図である。
図8】解析位相毎の振動変位を示すグラフであり、(A)は、補正前の振動変位を示すグラフ、(B)は、基準変位の補正後の振動変位を示すグラフである。
図9】実施の形態2に係る振動解析の流れを示すフローチャートである。
図10】実施の形態3に係る振動解析の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る振動解析システム1について説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図1のブロック図に示すように、本実施の形態に係る振動解析システム1は、カメラ11、制御ユニット20を備える。
【0021】
カメラ11は、振動の解析対象である回転体50を撮影するカメラである。回転体50は、エンドミル、ドリル等の切削工具、駆動力を伝達する各種の動力軸等、回転軸を中心として回転するものであり、特に限定されない。カメラ11は、予め定められた所定のフレームレートFで回転体50を撮影し、各時刻の画像データを出力する。
【0022】
制御ユニット20は、例えばコンピュータ装置であり、図1に示すように、制御部21、記憶部22、表示部23、入力部24を備える。
【0023】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、水晶発振器等から構成されており、振動解析システム1の動作を制御する。また、制御部21は、カメラ11で撮影された回転体50の画像データに基づいて、回転体50の振動状態を解析する。制御部21は、制御部21のROM、記憶部22等に記憶されている各種動作プログラム及びデータをRAMに読み込んでCPU及びGPUを動作させることにより、図1に示される制御部21の各機能を実現させる。これにより、制御部21は、画像データ取得部211、演算部212として動作する。
【0024】
画像データ取得部211は、カメラ11を制御して、回転体50を所定のフレームレートFで撮影する。また、画像データ取得部211は、撮影された回転体50を表す時系列の画像データをカメラ11から取得する。
【0025】
演算部212は、画像データ取得部211で取得された画像データに基づいて、回転体50の振動状態を解析する。より具体的には、演算部212は、デジタル画像相関法等の画像処理により、回転体50の動作によって生じる共振周波数付近の振動の大きさ、変動等を検出する。
【0026】
記憶部22は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、時系列の画像データから回転体50の振動状態を解析する演算アルゴリズム、演算部212で算出された回転体50の振動状態を示すデータ等を記憶する。
【0027】
表示部23は、コンピュータ装置である制御ユニット20に備えられた表示用デバイスであり、例えば液晶パネルである。表示部23は、カメラ11で撮影された回転体50の画像、演算部212で算出された回転体50の振動状態を示すグラフ等を表示する。
【0028】
入力部24は、解析を行う回転体50の解析位相等のパラメータの設定、解析の開始、終了指示等を入力するための入力デバイスである。入力部24は、制御ユニット20に備えられたキーボード、タッチパネル、マウス等である。
【0029】
続いて、図2のフローチャートを参照しつつ、振動解析システム1を用いた振動解析方法について説明する。本実施の形態では、図3に示すように、回転体50であるエンドミルを撮影して、撮影された時系列の画像から、回転体50の共振周波数付近の振動を検出する場合を例として説明する。
【0030】
本実施の形態に係る振動解析処理では、まず、回転体50の振動を解析するための解析位相φ(Nは1〜nの自然数)、すなわち回転体50の回転角度を設定する(ステップS11)。より具体的には、図4に示すように、回転体50が1回転する間の、1又は2以上の解析位相φを設定し、設定された解析位相φ毎に振動を解析する。これにより、回転体50の外観形状が、位相によって異なることに起因して、振動として検出される回転成分の影響を低減することができる。
【0031】
解析位相φの数であるnは、フレームレートF(fps)と回転体50の回転周波数f(Hz)とを用いて、例えば、N=F/fとすることができる。
【0032】
続いて、画像データ取得部211は、回転体50の非共振画像Iを取得してLUT(Lookup Table)を作成する(ステップS12)。LUTに登録される非共振画像Iは、回転体50の非共振状態、例えばエンドミルである回転体50が被削体に接触しておらず、無負荷状態で回転することにより、共振を生じない状態の画像である。画像データ取得部211は、カメラ11を制御して、解析位相φに対応する非共振画像Iを撮影する。また、画像データ取得部211は、撮影した非共振画像Iをカメラ11から受信してLUTを作成し、記憶部22に記憶させる。
【0033】
続いて、画像データ取得部211は、回転体50の動作画像I(x,y,t)(以下、動作画像Iともいう。)を取得する(ステップS13)。より具体的には、画像データ取得部211は、カメラ11を制御して、予め定められた所定のフレームレートFで、回転体50を撮影する。動作画像Iは、回転体50の動作状態の画像であり、本実施の形態では、エンドミルである回転体50が被削材を切削している状態の画像である。すなわち、動作画像Iは、負荷状態で動作することによって生じる、共振成分等、回転成分以外の振動成分を含む時系列画像である。
【0034】
演算部212は、画像データ取得部211で取得された動作画像Iについて、位相を推定する。本実施の形態に係る回転体50は、一定の回転周波数fで回転しているので、位相の推定は、時刻を基準に行うことができる。すなわち、図4に示すように、回転体50の回転周期T=1/fを用いて、位相φを表すことができる。例えば、時刻tの動作画像I(x,y,t)の位相をφ=0とすると、時刻t+T/4の動作画像I(x,y,t+T/4)の位相はφ=π/2となる。
【0035】
演算部212は、図5に示すように、推定された位相に対応する解析位相φ毎に動作画像Iを割り振って、時系列の位相ロックイン画像IφN(x,y)(以下、位相ロックイン画像IφNともいう。)を生成する(ステップS14)。また、演算部212は、生成された位相ロックイン画像IφNに基づいて、振動検出を行う。振動検出方法は、特に限定されず、デジタル画像相関法等の公知の方法を用いることができる。本実施の形態では、解析位相φ毎に回転体50の振動状態を解析するので、回転体50の回転偏心成分がキャンセルされ、位相による回転体50の外観の変化の影響を低減することができる。
【0036】
ここで、初期データである動作画像IのフレームレートFが、共振周波数fに対して十分高く設定されている場合であっても、間引きデータとなる位相ロックイン画像IφNのフレームレートfは、共振周波数fより低くなるおそれがある。この場合、位相ロックイン画像IφNでは、共振成分の振動がアンダーサンプリングされる。
【0037】
十分高いフレームレートFで撮影された動作画像Iから検出される振動のスペクトルの例を図6(A)に示す。また、図6(A)に示される回転成分と共振成分の振動がアンダーサンプリングされた場合のスペクトルを図6(B)に示す。図6(B)に示すように、アンダーサンプリングされた画像の観測周波数領域は0〜f/2であり、見かけの共振周波数f’は、0≦f’≦f/2の範囲となる。また、回転成分の振動は、DC成分であるので、図6(B)に示すように、見かけの回転周波数とその高調波成分はアンダーサンプリングにより周波数0付近の成分となる。
【0038】
アンダーサンプリングされた画像に基づいて検出される振動から、共振成分と回転成分とを分離するためには、図7に示すように、見かけの共振周波数と見かけの回転周波数とが離れており、共振周波数fと回転周波数fの倍数とが一致しないことが求められる。したがって、分離条件は、マージンΔfを用いて、以下の式で表される。
kf+Δf≦f≦(k+1)f−Δf
【0039】
共振周波数fが回転周波数fの整数倍とほぼ一致する場合、回転成分のピークがなだらかな場合等では、マージンΔfを小さくできないので、回転成分と共振成分との分離は難しい。
【0040】
したがって、アンダーサンプリングによる不具合を低減するため、解析位相φ毎に算出された変位の時間変化を合成して、サンプリング周波数を高める。より詳細には、各解析位相φにおいて算出された変位の時間変化VφN(t)(図8(A))について、基準変位をゼロに補正する(ステップS15)。本実施の形態では、演算部212は、LUTを参照して、位相ロックイン画像IφNと位相ロックイン画像IφNに対応する解析位相φの非共振画像Iとの差分画像を生成する。そして、演算部212は、生成した差分画像に基づいて、解析位相φ毎の振動変位V’φN(t)を算出する。これにより、図8(B)に示すように、位相毎の補正後の振動変位V’φN(t)は、基準変位をゼロとする波形となる。
【0041】
補正後の位相毎の振動変位V’φN(t)は、以下の式で表される。
【数1】
ただし、V’φnは位相毎の共振のない状態の変位である。
【0042】
演算部212は、ステップS15で算出された振動変位V’φN(t)を合成して、合成振動変位V’(t)を生成する(ステップS16)。合成振動変位V’(t)は、以下の式で表される。
【数2】
【0043】
上述のように、補正後の振動変位V’φN(t)を合成することにより、解析位相φ毎の外観形状の違いによって生じる回転成分の影響を低減することができる。また、合成により、フレームレートfをN倍した合成振動変位V’(t)に基づいて振動を解析することができる。したがって、共振周波数fの観測周波数領域が0〜f/2から、0〜Nf/2へと拡張され、アンダーサンプリングによる不具合を低減することができる。
【0044】
制御部21は、合成振動変位V’(t)に基づいて、回転体50の振動状態を解析する(ステップS17)。例えば、算出された合成振動変位V’(t)を高速フーリエ変換して、表示部23に表示させる。また、所定の窓時間毎に振動状態を解析して、表示させることにより、回転体50の振動状態の時間変化を把握することができる。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態に係る振動解析システム1では、回転体50の位相毎の時系列画像に基づいて振動成分を検出するので、回転体の回転に伴う振動成分と共振成分とを分離して、共振成分の振動を精度よく検出することができる。
【0046】
また、回転体50の位相毎に非共振画像Iと動作画像Iとの差分画像から変位を算出して、位相毎の変位を合成するので、位相毎の回転成分の影響を低減するとともに、アンダーサンプリングによる不具合を低減し、高周波の共振成分振動を検出することが可能となる。
【0047】
(実施の形態2)
実施の形態1では、時刻を基準として動作画像I(x,y,t)の解析位相φを推定することとしたが、撮影された回転体50の外観形状に基づいて解析位相φを推定することもできる。本実施の形態では、動作画像Iから回転体50の解析位相φを推定して、位相ロックイン画像IφNを生成する場合について説明する。
【0048】
本実施の形態に係る振動解析システム1では、演算部212が、動作画像Iについて回転体50の解析位相φを推定する方法が実施の形態1と異なる。その他、カメラ11、制御ユニット20の構成等については、実施の形態1と同様であるので同じ符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0049】
以下、図9のフローチャートを参照しつつ、本実施の形態に係る振動解析方法について具体的に説明する。ステップS31の解析位相φの設定、ステップS32の非共振画像Iの取得は、実施の形態1に係るステップS11、ステップS12と同様である。本実施の形態では、取得された非共振画像Iを、予め、ステップS31で設定した解析位相φと関連付けて、LUTを作成する。非共振画像Iと解析位相φとの関連付けは、例えば、非共振画像Iの撮影時刻に基づいて行われる。この場合、非共振画像Iは、切削加工を行っていない無負荷状態で撮影されるので、切削時の摩擦等による位相のずれは生じない。したがって、動作画像Iと比較して、少ない誤差で非共振画像Iと解析位相φとを関連付けることができる。
【0050】
続いて、振動解析システム1は、実施の形態1に係るステップS13と同様に、回転体50の動作画像Iを撮影する(ステップS33)。画像データ取得部211は、撮影された動作画像Iのデータをカメラ11から取得する。
【0051】
演算部212は、画像データ取得部211で取得された時系列画像データである動作画像Iについて、解析位相φを推定する(ステップS34)。本実施の形態に係る解析位相φの推定は、動作画像Iに撮影されている回転体50の外観形状に基づいて行われる。より具体的には、演算部212は、時系列の画像データである動作画像Iの各時刻の画像について、LUTに保存されている非共振画像I(LUT画像)を参照し、最も類似度の高いLUT画像を選択する。そして、演算部212は、選択されたLUT画像に関連付けられた解析位相φを、動作画像Iの解析位相φと推定する。
【0052】
また、演算部212は、時刻tの動作画像Iを、推定した解析位相φの位相ロックイン画像IφNを構成する画像データとして、位相ロックイン画像IφNに組み込む。これにより、演算部212は、推定された解析位相φ毎に位相ロックイン画像IφNを生成する(ステップS35)。
【0053】
また、演算部212は、生成された位相ロックイン画像IφNに基づいて、振動検出を行う。具体的には、演算部212は、実施の形態1と同様に、各解析位相φにおいて算出された変位の時間変化Vφ1(t)について、基準変位をゼロとする補正を行う(ステップS36)。すなわち、演算部212は、LUTを参照して、位相ロックイン画像IφNと位相ロックイン画像IφNに対応する解析位相φの非共振画像Iとの差分画像を生成する。そして、差分画像に基づいて振動変位を算出し、基準変位をゼロとする補正後の解析位相毎の振動変位V’φN(t)を生成する。
【0054】
演算部212は、補正後の位相毎の振動変位V’φN(t)を合成して、合成振動変位V’(t)を生成する(ステップS37)。制御部21は、実施の形態1と同様に、合成振動変位V’(t)に基づいて、回転体50の振動状態を解析する(ステップS38)。例えば、算出された合成振動変位V’(t)を高速フーリエ変換して、表示部23に表示させる。また、所定の窓時間毎に振動状態を解析して、表示させることにより、回転体50の振動状態の時間変化を把握することができる。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態に係る振動解析システム1では、回転体50の外観形状に基づいて、動作画像Iの解析位相φを推定するので、回転体50の動作によって生じる時刻と位相とのずれの影響を低減することができる。
【0056】
本実施の形態では、回転体50の外観形状に基づく類似度によって、動作画像Iの解析位相φを推定することとしたが、これに限られない。例えば、エンドミルの切れ刃の一部等、回転体50の特徴量に基づいて作成された特徴量マップによって解析位相φを推定することとしてもよい。適切な特徴量を抽出することにより、位相推定のための演算部212の演算量を低減することができる。
【0057】
また、回転体50の一部に回転体50の位相を明示する外観上の特徴を付し、これに基づいて動作画像Iの解析位相φを推定することとしてもよい。例えば、エンドミルのチャック部にオプティカルエンコーダで用いられる位相検出パターンを付すこととしてもよい。この場合、例えば16ビットのパターンを用いることにより、1°以下の位相間隔で振動解析を行うことができる。
【0058】
(実施の形態3)
上記各実施の形態では、所定のフレームレートFで撮影された動作画像Iについて解析位相φを推定して振動解析を行うこととしたが、所定の解析位相φで回転体50を撮影して動作画像Iを生成することもできる。本実施の形態では、撮影のタイミングであるフレームタイミングを制御可能な可変フレームレートカメラを用いて、回転体50を所定の解析位相φで撮影する場合について説明する。
【0059】
本実施の形態に係る振動解析システム1は、カメラ11が可変フレームレートカメラであり、カメラ11のフレームタイミングが制御部21によって制御される点で、実施の形態1と異なる。その他、制御ユニット20の構成等については、実施の形態1と同様であるので同じ符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0060】
以下、図10のフローチャートを参照しつつ、本実施の形態に係る振動解析方法について具体的に説明する。本実施の形態に係る振動解析処理では、まず、予め定められた基準位相φの非共振画像Iを取得する(ステップS51)。本実施の形態では、回転体50の保持部、駆動部等に、回転体50の回転角を計測する回転角計測手段51が配置されている。回転角計測手段51は、例えばロータリエンコーダである。画像データ取得部211は、回転角計測手段51から取得された回転体50の回転角情報である位相データに基づいてカメラ11を制御し、基準位相φの非共振画像Iを取得する。また、制御部21は、取得した非共振画像Iに基づいてLUTを作成し、記憶部22に記憶させる(ステップS52)。
【0061】
続いて、画像データ取得部211は、回転体50の動作画像Iを取得する(ステップS53)。具体的には、制御部21は、回転角計測手段51から回転角を示すデータを取得する。そして、制御部21は、カメラ11のフレームタイミングを制御して、予め定められた所定の解析位相φで、切削動作中の回転体50を撮影する。これにより、回転体50のフレームタイミングと実際の回転角との誤差を修正して、精度よく解析位相φの動作画像Iを撮影することができる。回転周期をT^(t)、時刻t=tでの回転角の推定値をφ^(t)、目標角をφとすると、次のフレームタイミングである時刻t=tk+1は、以下の式で表される。
【数3】
【0062】
演算部212は、撮影された基準位相φの位相ロックイン画像IφNを生成する(ステップS54)。また、演算部212は、生成された位相ロックイン画像IφNに基づいて、振動検出を行う。振動検出方法は、実施の形態1と同様に、画像処理を用いて変位を算出することにより行う。
【0063】
制御部21は、検出した振動変位に基づいて、回転体50の振動状態を解析する(ステップS55)。例えば、算出された振動情報を高速フーリエ変換して、表示部23に表示させる。これにより、所定の窓時間毎に振動状態を解析して、動画として表示させることにより、回転体50の振動状態の時間変化を把握することができる。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態に係る振動解析システム1では、回転体50の位相、すなわち回転角を制御部21で検知してフレームタイミングを決定するフィードバック制御によって、動作画像Iを取得する。したがって、動作画像Iの位相誤差を低減することができる。これにより、回転体50の振動解析の精度を向上させることができる。
【0065】
本実施の形態では、回転体50の回転角度を計測して、フレームタイミングを決定することとしたが、これに限られない。例えば、解析位相φで回転体50を撮影するためのロックイン目標となる特徴量G(φ)を用いて、回転体50の位相を計測し、フレームタイミングを決定することとしてもよい。より具体的には、画像データ取得部211は、カメラ11又は制御ユニット20に接続された他の高フレームレート撮影可能なカメラで、取得される画像データから、特徴量G(tk)を抽出して回転体50の位相を計測し、動作画像Iを撮影することとしてもよい。これにより、画像処理によりフレームタイミングを決定することが可能となる。
【0066】
特徴量Gに基づくフレームタイミングは、目標特徴量をGとすると、以下の式のように表すことができる。
【数4】
【0067】
上記のように、特徴量Gを用いてフレームタイミングを調整することで、解析位相φである基準位相φに対して誤差の小さい動作画像Iを撮影することができる。したがって、回転角計測手段51がなくとも、精度よく回転体50の振動を検出することができる。
【0068】
また、本実施の形態では、回転体50の回転周期Tにおいて、所定の基準位相φのみの動作画像Iを取得することとしたが、これに限られない。例えば、1周期をN分割して、複数の解析位相φで回転体50を撮影することとしてもよい。この場合、解析位相φ毎に、位相ロックイン画像IφNを作成し、振動解析を行えばよい。また、解析位相φ毎に、予め非共振画像Iを取得してLUTを作成し、解析位相φ毎の位相ロックイン画像IφNを補正して合成することとしてもよい。これにより、実施の形態1と同様に、アンダーサンプリングによる不具合を低減して、より精度の高い振動解析を行うことができる。
【0069】
上記各実施の形態では、回転体50の回転軸に対して直交する方向の画像に基づいて振動解析することを基本としているが、これに限られない。例えば、回転軸方向の画像に対して振動解析を行うこととしてもよい。このような場合であっても、回転体50の位相毎のロックイン画像に基づいて解析を行うことにより、回転成分の影響を低減して、精度よく共振成分の振動を検出することができる。
【0070】
また、上記各実施の形態では、カメラ11で撮影した画像を解析することとしたが、これに限られない。例えば、予め撮影され、制御ユニット20に接続された外部記憶装置、記憶部22等に記憶されている動作画像I、非共振画像I等を用いて回転体50の振動状態を解析することとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、振動を直接計測することが難しい回転体の振動解析に好適である。特に、外観形状が回転軸に対して不均一である回転体の振動解析に好適である。
【符号の説明】
【0072】
1 振動解析システム、11 カメラ、20 制御ユニット、21 制御部、211 画像データ取得部、212 演算部、22 記憶部、23 表示部、24 入力部、50 回転体
【要約】
【課題】回転体の回転に伴う振動成分と共振成分とを分離して、共振成分を精度よく検出できる振動解析システム、振動解析方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】振動解析システムは、解析対象である回転体50の動作状態を表す動作画像Iを取得する画像データ取得部と、動作画像Iに基づいて、回転体50の振動状態を解析する演算部と、を備える。また演算部は、動作画像Iのうち、回転体50の位相が所定の解析位相φである画像からなる時系列の位相ロックイン画像IφNに基づいて、回転体50の振動状態を解析する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10