特許第6842435号(P6842435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6842435ラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体及びその製造方法
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  • 特許6842435-ラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体及びその製造方法 図000037
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842435
(24)【登録日】2021年2月24日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】ラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/42 20060101AFI20210308BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20210308BHJP
   C08F 16/06 20060101ALI20210308BHJP
   C08F 290/12 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   C08F8/42
   C08F8/30
   C08F16/06
   C08F290/12
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-27320(P2018-27320)
(22)【出願日】2018年2月19日
(65)【公開番号】特開2019-143019(P2019-143019A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2020年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】萩原 守
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−002664(JP,A)
【文献】 特開2017−203127(JP,A)
【文献】 特開2011−246642(JP,A)
【文献】 特開昭62−032110(JP,A)
【文献】 特表平10−513124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F8/00−8/50
C08F16/06
C08F116/06
C08F216/06
C08F290/12
C08F299/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)及び一般式(2)で示される構造単位を共に有するものであることを特徴とするラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体。
【化1】
(式中、Mは下記一般式(3)及び/又は一般式(4)で示されるシロキサン基である。Mは下記一般式(5)で示される不飽和基を有する有機基である。)
【化2】
(式中、R、R、R、及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基である。nは1〜10の整数、aは0〜2の整数である。)
【化3】
(式中、R、R、R、R、及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基である。nは1〜10の整数、mは1〜20の整数である。)
【化4】
(式中、R10は水素又はメチル基である。kは1又は2である。)
【請求項2】
下記一般式(6)で示される構造単位を更に有するものであることを特徴とする請求項1に記載のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体。
【化5】
(式中、M及びMは水素原子、アセチル基、又は前記一般式(3)、一般式(4)、及び一般式(5)から選ばれる1以上の基であって、少なくとも一方は前記一般式(3)又は一般式(4)で示されるシロキサン基であって、Aは単結合又は連結基を示す。)
【請求項3】
前記ラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体が、GPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が5,000〜500,000のものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体。
【請求項4】
前記一般式(3)において、R、R、及びRがメチル基であり、n=3、a=0のものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体。
【請求項5】
前記一般式(4)において、R、R、R、及びRがメチル基であり、Rがブチル基であり、n=3、m=4のものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体。
【請求項6】
前記一般式(5)において、R10はメチル基であり、k=1のものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体。
【請求項7】
少なくとも、下記一般式(7)で示される構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂化合物、下記一般式(8)及び/又は一般式(9)で表されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン、及び下記一般式(10)で表されるイソシアネート基含有不飽和化合物を共に反応させることを特徴とするラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法。
【化6】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基である。R10は水素又はメチル基である。kは1又は2である。nは1〜10の整数、mは1〜20の整数、aは0〜2の整数である。)
【請求項8】
更に下記一般式(11)で示される構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂化合物を反応させることを特徴とする請求項7に記載のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法。
【化7】
(式中、Aは単結合又は連結基を示す。)
【請求項9】
前記一般式(8)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンがトリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートであり、前記一般式(10)で示されるイソシアネート基含有不飽和化合物のR10がメチル基であり、k=1であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体に関し、特に新規なラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールは、優れたガスバリアー性や透明性を有する熱可塑性高分子材料である。そのガラス転移温度は約80度と比較的低く加熱成型性に優れるため、フィルム、シート、容器等の原料として広く使用されている。また、他の樹脂フィルムやシートに被覆されて、耐油性やガスバリアー性を改良するために用いられている。しかしながら、ポリビニルアルコールは、一般的な有機溶媒に対する溶解性が乏しく、液状材料としての取り扱い性が非常に悪いという問題があった。また、新たな機能を付与するための変性剤との反応も乏しく、材料の改質が困難で用途も限られている。従って、ポリビニルアルコール特有の性質を保ちつつ、溶剤溶解性が改善され、液状材料としての取り扱い性が非常に良いポリビニルアルコールが望まれていた。
【0003】
この問題を解決することを目的として、特許文献1、特許文献2には、ポリビニルアルコールの造膜性、強靭性、優れたガスバリアー性や透明性等の一般特性と、分岐構造を有するシリコーンの有機溶媒への高い溶解性、液状材料としての優れた取り扱い性の両方の性質を併せ持つ材料として置換シリルアルキルカルバミド酸ポリビニルアルコールを提供している。
【0004】
しかし、これらの材料はいずれも分子内にラジカル硬化性部位を持たないため、得られる皮膜の耐溶剤性、成形性が得られず、コート剤や硬化樹脂として不十分なものであった。
【0005】
特許文献3には、一般のポリビニルアルコールにラジカル硬化性基を導入し、上述の特性を付与した材料を提案しているが、分子構造にシリコーンを導入した例はなく酸素透過性や撥水性、コーティングにおけるレベリング性を必要とする用途には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−246642号公報
【特許文献2】特開2017−203127号公報
【特許文献3】特許2914872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであり、皮膜形成性や透明性、有機溶媒への溶解性等の一般特性を有し、ラジカル硬化可能なオルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を提供することを目的とする。また、該ラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を効率よくかつ工業的に低コストで製造するための製造方法を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、下記一般式(1)及び一般式(2)で示される構造単位を共に有するものであるラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を提供する。
【化1】
(式中、Mは下記一般式(3)及び/又は一般式(4)で示されるシロキサン基である。Mは下記一般式(5)で示される不飽和基を有する有機基である。)
【化2】
(式中、R、R、R、及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基である。nは1〜10の整数、aは0〜2の整数である。)
【化3】
(式中、R、R、R、R、及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基である。nは1〜10の整数、mは1〜20の整数である。)
【化4】
(式中、R10は水素又はメチル基である。kは1又は2である。)
【0009】
このようなラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体であれば、ポリビニルアルコールの皮膜形成性や透明性等の一般特性と、シリコーンの有機溶媒への高い溶解性、液状材料としての優れた取り扱い性、更に得られる皮膜の耐溶剤性、成形性を併せ持つ材料となる。そのため、化粧料、接着剤、塗料等として好適に用いることができる。
【0010】
また、下記一般式(6)で示される構造単位を更に有するものであることが好ましい。
【化5】
(式中、M及びMは水素原子、アセチル基、又は前記一般式(3)、一般式(4)、及び一般式(5)から選ばれる1以上の基であって、少なくとも一方は前記一般式(3)又は一般式(4)で示されるシロキサン基であって、Aは単結合又は連結基を示す。)
【0011】
このようなラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体であれば、ポリビニルアルコールの高い結晶性を下げることで、有機溶剤への溶解性が上がり変性剤との反応性がより高いものとなり安価で優れた材料となる。
【0012】
また、前記ラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体が、GPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が5,000〜500,000のものであることが好ましい。
【0013】
このような数平均分子量であれば、フィルム強度、取り扱い性、溶解性がより優れたものとなる。
【0014】
また、前記一般式(3)において、R、R、及びRがメチル基であり、n=3、a=0のものであることが好ましい。
【0015】
また、前記一般式(4)において、R、R、R、及びRがメチル基であり、Rがブチル基であり、n=3、m=4のものであることが好ましい。
【0016】
また、前記一般式(5)において、R10はメチル基であり、k=1のものであることが好ましい。
【0017】
このようなラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体であれば、生産性、反応性等がより優れたものとなる。
【0018】
更に本発明では、少なくとも、下記一般式(7)で示される構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂化合物、下記一般式(8)及び/又は一般式(9)で表されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン、及び下記一般式(10)で表されるイソシアネート基含有不飽和化合物を共に反応させるラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法を提供する。
【化6】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基である。R10は水素又はメチル基である。kは1又は2である。nは1〜10の整数、mは1〜20の整数、aは0〜2の整数である。)
【0019】
本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法であれば、本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を効率よくかつ工業的に低コストで製造することができる。
【0020】
また、更に下記一般式(11)で示される構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂化合物を反応させることが好ましい。
【化7】
(式中、Aは単結合又は連結基を示す。)
【0021】
このような構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂化合物を用いれば、有機溶剤への溶解性が上がり変性剤との反応性がより高く、安価で優れた材料となるラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体をより容易に製造することができる。
【0022】
また、前記一般式(8)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンがトリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートであり、前記一般式(10)で示されるイソシアネート基含有不飽和化合物のR10がメチル基であり、k=1であることが好ましい。
【0023】
このようなラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法であれば、より高い変性率を持つラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を生産性、反応性の点で効率よく得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体であれば、ポリビニルアルコールの皮膜形成性や透明性等の一般特性と、シリコーンの有機溶媒への高い溶解性、液状材料としての優れた取り扱い性、更に得られる皮膜の耐溶剤性、成形性を併せ持つ材料となる。そのため、化粧料、接着剤、塗料等として好適に用いることができる。
また、本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法であれば、反応性の高いイソシアネート基とポリビニルアルコール系樹脂化合物の水酸基をより効果的に反応させることができる。これにより、本発明のオルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を容易かつ効率よく製造でき、さらに、工業的に低コスト即ち安価に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1で得られたポリマーのIR分析結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
前述のように、ポリビニルアルコール特有の性質を保ちつつ、溶剤溶解性が改善され、液状材料としての取り扱い性が非常に良いラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコールとその製造方法の開発が望まれていた。
【0027】
本発明者らは、ポリビニルアルコール系重合体とシリコーンの両方の性質を併せ持つラジカル硬化性シロキサン含有ポリビニルアルコールを開発すべく鋭意検討を重ねた結果、後述の一般式(7)で示される構造単位を含むポリビニルアルコール系樹脂化合物の水酸基と後述の一般式(8)及び/又は一般式(9)で示されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン、及び後述の一般式(10)で示されるイソシアネート基含有不飽和化合物とを共に反応させることで、ポリビニルアルコール系樹脂化合物の水酸基と、イソシアネート基含有オルガノポリシロキサン及びイソシアネート基含有不飽和化合物が効果的に反応して、後述の一般式(1)及び一般式(2)で示される構造単位を共に有するラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体が容易かつ効率よく得られることを見出した。また、本発明者らは、このようにして得られたオルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体が、新規なものであり、ポリビニルアルコールの皮膜形成性や透明性等の一般特性とシリコーンの有機溶媒への高い溶解性、液状材料としての優れた取り扱い性、更に得られる皮膜の耐溶剤性、成形性を併せ持つ材料となることを見出して、本発明を完成させた。
【0028】
即ち、本発明は、下記一般式(1)及び一般式(2)で示される構造単位を共に有するものであるラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体である。
【化8】
(式中、Mは下記一般式(3)及び/又は一般式(4)で示されるシロキサン基である。Mは下記一般式(5)で示される不飽和基を有する有機基である。)
【化9】
(式中、R、R、R、及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基である。nは1〜10の整数、aは0〜2の整数である。)
【化10】
(式中、R、R、R、R、及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基である。nは1〜10の整数、mは1〜20の整数である。)
【化11】
(式中、R10は水素又はメチル基である。kは1又は2である。)
【0029】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本発明では、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定に用いる溶媒はテトラヒドロフラン(THF)を用いるものとする。
【0030】
[ラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体]
本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体は、下記一般式(1)及び一般式(2)で示される構造単位を共に有するものである。
【化12】
(式中、Mは下記一般式(3)及び/又は一般式(4)で示されるシロキサン基である。Mは下記一般式(5)で示される不飽和基を有する有機基である。)
【化13】
(式中、R、R、R、及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基である。nは1〜10の整数、aは0〜2の整数である。)
【化14】
(式中、R、R、R、R、及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基である。nは1〜10の整数、mは1〜20の整数である。)
【化15】
(式中、R10は水素又はメチル基である。kは1又は2である。)
【0031】
更に、本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体は、下記一般式(6)で示される構造単位を有することが好ましい。
【化16】
(式中、M及びMは水素原子、アセチル基、又は前記一般式(3)、一般式(4)、及び一般式(5)から選ばれる1以上の基であって、少なくとも一方は前記一般式(3)又は一般式(4)で示されるシロキサン基であって、Aは単結合又は連結基を示す。)
【0032】
ここで、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRは炭素数1〜6の1価の有機基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等の置換炭化水素基等が例示され、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよい。また、R、R、及びRは、各々−OSiRで示されるシロキシ基であってもよく、このシロキシ基としては、トリメチルシロキシ基、エチルジメチルシロキシ基、フェニルジメチルシロキシ基、ビニルジメチルシロキシ基、クロロメチルジメチルシロキシ基、3,3,3−トリフルオロプロピルジメチルシロキシ基等が例示される。
【0033】
このようなラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体であれば、ポリビニルアルコールの高い結晶性を下げることで、有機溶剤への溶解性が上がり変性剤との反応性がより高いものとなり安価で優れた材料となる。
【0034】
本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の原料となるポリビニルアルコール系樹脂化合物の中に一般式(4)で表される構造単位を含有することで、該ポリビニルアルコール系樹脂は有機溶剤に溶けやすくなり、且つ一般式(6)で示される化合物との反応率が著しく向上する。
【0035】
また、一般式(6)において、Aが単結合であることが好ましい。Aが単結合からなるラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体は工業的に生産性がより優れたものとなる。
【0036】
また、一般式(3)において、R、R、及びRがメチル基であり、n=3、a=0であることが好ましく、このようなラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体は生産性、反応性等がより優れたものとなる。
【0037】
また、一般式(4)において、R、R、R、及びRがメチル基であり、Rがブチル基であり、n=3、m=4であることが好ましく、このようなラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体は生産性、反応性等がより優れたものとなる。
【0038】
また、一般式(5)において、R10はメチル基であり、k=1であることが好ましく、このようなラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体は生産性、反応性等がより優れたものとなる。
【0039】
本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするGPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が5,000〜5,000,000の範囲であればよく、好ましくは5,000〜500,000であり、より好ましくは10,000〜100,000である。数平均分子量が5,000以上であれば、フィルム強度の点で劣る恐れがなく、数平均分子量が500,000以下であれば、取り扱い性や溶解性の点で劣る恐れがない。
【0040】
このように、本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体であれば、ポリビニルアルコールの皮膜形成性や透明性等の一般特性と、シリコーンの有機溶媒への高い溶解性、液状材料としての優れた取り扱い性、更に得られる皮膜の耐溶剤性、成形性を併せ持つ材料となる。そのため、化粧料、接着剤、塗料等として好適に用いることができる。
【0041】
[ラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法]
また、本発明では、上述の本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法であって、少なくとも、下記一般式(7)で示される構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂化合物、下記一般式(8)及び/又は一般式(9)で表されるイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン、及び下記一般式(10)で表されるイソシアネート基含有不飽和化合物を共に反応させるラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法を提供する。
【化17】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRは各々炭素数1〜6の1価の有機基である。R10は水素又はメチル基である。kは1又は2である。nは1〜10の整数、mは1〜20の整数、aは0〜2の整数である。)
【0042】
また、ポリビニルアルコール系樹脂化合物として、更に下記一般式(11)で示される構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂化合物を反応させることで、該ポリビニルアルコール系樹脂は有機溶剤に溶けやすくなり、且つ一般式(8)、(9)、(10)で示される化合物との反応率が著しく向上するため、好ましい。
【化18】
(式中、Aは単結合又は連結基を示す。)
【0043】
また、一般式(8)で示される、イソシアネート基含有オルガノポリシロキサンがトリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートであり、一般式(10)において、イソシアネート基含有不飽和化合物のR10がメチル基であり、k=1であれば、高い変性率を持つラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を生産性、反応性の点で効率よく得ることができるため、好ましい。
【0044】
一般式(7)で示される構造単位及び一般式(11)で示される構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂化合物は、例えば下記一般式(12)で示される構造単位及び下記一般式(13)で示される構造単位を含むポリ酢酸ビニル系樹脂化合物をケン化することで得られる。
【化19】
【化20】
(式中、Aは上記と同様である。)
【0045】
なお、ラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法に用いる原料であるポリビニルアルコール系樹脂化合物はポリ酢酸ビニル系化合物をケン化することで得ることができるが、該ポリビニルアルコール系樹脂化合物としては部分的にケン化されたものを用いることもできる。
【0046】
また、部分的にケン化されたポリビニルアルコール系樹脂化合物を用いてラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を合成した場合、代表的な化合物として一般式(12)で示される構造単位及び一般式(13)で示される構造単位を含むラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体とすることができる。
【0047】
一般式(12)で示される構造単位及び一般式(13)で示される構造単位を含有するポリ酢酸ビニル系樹脂化合物は、例えば下記一般式(14)で示される化合物と下記一般式(15)で示される化合物を重合することで得られる。
【化21】
【化22】
(式中、Aは上記と同様である。)
【0048】
上述のポリビニルアルコール系樹脂化合物の分子量としては、本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の分子量(即ち、GPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn))が5,000〜5,000,000の範囲になるように適宜選ぶことが好ましい。
【0049】
上述のポリビニルアルコール系樹脂化合物は、日本合成化学工業のG−PolymerTMとして製造販売されており、入手することができる。具体的には、AZF8035W、OKS−6026、OKS−1011、OKS−8041、OKS−8049、OKS−1028、OKS−1027、OKS−1109、OKS−1083の中から選ぶことができる。
【0050】
本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法は、上記のようにポリビニルアルコール系樹脂化合物の水酸基とイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン及びイソシアネート基含有不飽和化合物とを共に反応させることにより行われるが、このイソシアネート基含有オルガノポリシロキサンとしては、特にトリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネート(即ち、一般式(8)において、nが3であり、R、R、及びRがメチル基であり、aが0であるもの)を用いることが好ましい。イソシアネート基含有不飽和化合物としては昭和電工株式会社から市販されているカレンズMOIを用いることが好ましい(即ち、一般式(10)で示されるイソシアネート基含有不飽和化合物のR10がメチル基であり、k=1であるもの)。これらを用いた反応によって、下記一般式(16)及び一般式(17)で示される構造単位を有するラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を製造することができる。
【化23】
(式中、Lは下記一般式(18)で示されるシロキサン基である。Lは下記一般式(19)で示される不飽和基を有する有機基である。)
【化24】
【化25】
【0051】
また、本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体は、上記のようにポリビニルアルコール系樹脂化合物の水酸基とイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン及び不飽和基を有する有機基の反応により行われるが、このポリビニルアルコール系樹脂化合物はポリブテンジオール構造(即ち、一般式(6)において、Aが単結合であるもの)を含むことが好ましい。ポリブテンジオール構造を含むものであれば、有機溶媒への溶解性が高く、高い変性率を持つオルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を効率よく得ることができる。これは、下記一般式(20)で示される構造単位を有するものである。
【化26】
(式中、L及びLは水素原子、アセチル基、又は前記一般式(18)及び/又は(19)で示される基であって、少なくとも一方は前記一般式(18)又は一般式(19)で示される基である。)
【0052】
なお、本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂化合物の水酸基とイソシアネート基含有オルガノポリシロキサン及び不飽和基を有する有機基とのウレタン結合生成反応による製造方法であるため、特別な反応条件や反応装置を用いる必要はないが、ポリビニルアルコール系樹脂化合物とイソシアネート基含有化合物との混合、反応効率、反応制御のためには溶媒を用いることが好ましい。この溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類が例示されるが、これらは、1種単独でも2種以上を混合して用いても良い。
【0053】
また、ここに使用する溶媒の種類により異なるが、この反応は通常は20〜150℃で1〜24時間とすればよく、この場合には、触媒としてトリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等のアミン類、ジラウリン酸ジ−n−ブチル錫、オレイン酸第一錫等の有機金属化合物のようなウレタン結合形成に際して用いられる公知の触媒を添加してもよい。反応終了後は、洗浄、乾燥すれば目的とするラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を得ることができる。
【0054】
このように、本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体の製造方法であれば、反応性の高いイソシアネート基とポリビニルアルコール系樹脂化合物の水酸基をより効果的に反応させることができる。これにより、本発明のオルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を容易かつ効率よく製造でき、さらに、工業的に低コスト即ち安価に得ることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例及び比較例によってさらに詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
滴下ロート、冷却管、温度計、及び攪拌装置を備えたフラスコに、一般式(7)及び一般式(11)で示される構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂化合物として、日本合成化学工業から入手したG−Polymer(OKS−1011;重合度300、ケン化率%98.5%)4.6gを、N−メチルピロリドン41gに溶解させ、トリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートを12g、カレンズMOI(昭和電工株式会社製)を0.55g仕込み、70℃で2時間反応を行った。反応終了後、水とメタノールの混合液中にて生成物を析出させ、さらに水とメタノール混合液で繰り返し洗浄後、70℃で24時間減圧乾燥を行い15.0gのポリマーを得た。図1にこのポリマーのIR分析結果を示す。このIR分析結果より、イソシアネート基の2,270cm−1の吸収がほぼ消失し、得られたポリマーがトリストリメチルシロキシシリルプロピルカルバミド酸ポリビニルアルコールとメタクリル酸エチルカルバミド酸ポリビニルアルコールの共重合物であることが確認された。THFを溶媒としたGPCにより測定された数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算で26,000であり、分子量分布は1.60であった。得られたポリマーを20質量%でジメチルアクリルアミドに溶解させベンゾイルパーオキサイド0.5質量%配合のラジカル架橋でラジカル硬化皮膜を作製した。実施例1のポリマーとラジカル硬化皮膜の皮膜形成性、透明性、酸素透過性の結果を表1に示す。また、トルエン及びイソプロピルアルコールへの溶解性(耐溶剤性)の結果を表2に示す。
【0057】
[実施例2]
実施例1と同様の装置を使用し、一般式(7)及び一般式(11)で示される構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂化合物として、日本合成化学工業から入手したG−Polymer(OKS−1083;重合度1,900、ケン化率%99.8%)を用いる以外は実施例1と同様の方法で反応を行なったところ、15.1gのポリマーを得た。THFを溶媒としたGPCにより測定された数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算で85,000であり、分子量分布は1.60であった。得られたポリマーを20質量%でジメチルアクリルアミドに溶解させベンゾイルパーオキサイド0.5質量%配合のラジカル架橋でラジカル硬化皮膜を作製した。実施例2のポリマーとラジカル硬化皮膜の皮膜形成性、透明性、酸素透過性の結果を表1に示す。また、トルエン及びイソプロピルアルコールへの溶解性(耐溶剤性)の結果を表2に示す。
【0058】
[実施例3]
実施例1と同様の装置を使用し、トリストリメチルシロキシシリルプロピルイソシアネートを24g使用する以外は実施例2と同様の方法で反応を行なったところ、27.1gのポリマーを得た。THFを溶媒としたGPCにより測定された数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算で135,000であり、分子量分布は1.70であった。得られたポリマーの各種溶剤への溶解性を表1に示す。得られたポリマーを20質量%でジメチルアクリルアミドに溶解させベンゾイルパーオキサイド0.5質量%配合のラジカル架橋でラジカル硬化皮膜を作製した。実施例3のポリマーとラジカル硬化皮膜の皮膜形成性、透明性、酸素透過性の結果を表1に示す。また、トルエン及びイソプロピルアルコールへの溶解性(耐溶剤性)の結果を表2に示す。
【0059】
[比較例1]
実施例1と同様の装置を使用し、カレンズMOI(昭和電工株式会社製)を使用しなかった以外は実施例1と同様の方法で反応を行なったところ、14.8gのポリマーを得た。THFを溶媒としたGPCにより測定された数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算で24,000であり、分子量分布は1.60であった。得られたポリマーを20質量%でジメチルアクリルアミドに溶解させベンゾイルパーオキサイド0.5質量%配合のラジカル架橋でラジカル硬化皮膜を作製した。比較例1のポリマーとラジカル硬化皮膜の皮膜形成性、透明性、酸素透過性の結果を表1に示す。また、トルエン及びイソプロピルアルコールへの溶解性(耐溶剤性)の結果を表2に示す。
【0060】
また、G−Polymer(OKS−1011、OKS−1083)単体での皮膜形成性、透明性、酸素透過性の結果を表1に示す。また、トルエン及びイソプロピルアルコールへの溶解性(耐溶剤性)の結果を表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
1)○:溶解、×:不溶
【0063】
表1に示されるように、実施例1〜3では、シリコーン変性剤で効率よく反応を行って、本発明の一般式(1)及び一般式(2)で示される構造単位を有するラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体を得ることができ、いずれも皮膜性や透明性が高く、更にシリコーンをグラフトさせたことによって高い酸素透過性が示された。
【0064】
表2において、実施例1〜3で得られたものはいずれもトルエン及びイソプロピルアルコールへの溶解性が高いことから液状材料としての優れた取り扱い性を有することがわかった。
【0065】
更に実施例1〜3から得られたラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体をジメチルアクリルアミドとラジカル架橋させた硬化皮膜は、分子間の架橋が行なわれトルエン及びイソプロピルアルコールへ不溶となり、耐溶剤性を有することがわかった。
【0066】
一方、一般式(2)で示される構造単位を有さない比較例1は、ジメチルアクリルアミドとラジカル架橋させても、得られる硬化皮膜はトルエン及びイソプロピルアルコールへの溶解性を有することがわかった。
【0067】
以上の結果より、本発明のラジカル硬化性オルガノシロキサングラフトポリビニルアルコール系重合体が、ポリビニルアルコールの皮膜形成性や透明性等の一般特性を有し、有機溶媒への溶解性が高いことから液状材料としての優れた取り扱い性、更に得られる皮膜の耐溶剤性、成形性を併せ持ち、かつ低コストで製造できることが示された。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1