【文献】
○中野 信浩,本庄 明日香,西山 千春,大塚 宜一,清水 俊明,奥村 康,小川 秀興,4E085 Notchシグナル阻害による食物アレルギーの症状の軽減,Annual Meeting of the Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry, 2016 大会講演要旨集,公益社団法人日本農芸化学会 JSBBA,2016年 3月 5日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組成物は、インターロイキン−3及びインターロイキン−10の存在下で、未成熟マスト細胞株から粘膜型マスト細胞への分化を抑制する作用を有する組成物である、請求項1に記載の粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一態様である粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物及び抗アレルギー用組成物(以下、これらをまとめて本発明の一態様の組成物と総称する場合がある。)の詳細並びに本発明の一態様である粘膜型マスト細胞への分化誘導方法及び粘膜型マスト細胞の製造方法の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0021】
本発明の一態様は、大豆の発酵物及び麦の発酵物を有効成分として含有する、粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物である。
【0022】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。
【0023】
例えば、分化とは、一般的に、特性をもたない細胞が様々な特性を持つ細胞に変化することをいうところ、本明細書における「分化」は、ある特性を有する細胞が別の特性を有する細胞に転じることを広く意味することに加え、一般に分化細胞として知られている2種の細胞の間での、可逆的又は不可逆的な相互の転換をも含む、より広範な概念として用いられ得る。本明細書における「分化を抑制する」とは、分化することを妨げることに加えて、分化前の状態に維持すること、分化後の状態を分化前の状態に戻すことなどを含み得る。また、本明細書における「分化を誘導する」とは、分化を引き起こすことに加えて、分化することを妨げないことなどを含み得る。
【0024】
例えば、「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の物質が組み合わさってなる物であり、具体的には、有効成分と別の物質とが組み合わさってなるもの、有効成分の2種以上が組み合わさってなるものなどが挙げられ、より具体的には、有効成分の1種以上と固形物又は溶媒の1種以上とが組み合わさってなる固形組成物及び液性組成物などが挙げられる。
【0025】
粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物は、含有する有効成分が機能することにより、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を示す。
【0026】
大豆の発酵物は、通常知られているとおりに、大豆に微生物を作用させて大豆中の物質を分解及び/又は変換することなどにより得られる発酵物であれば特に限定されない。同様に、麦の発酵物は、通常知られているとおりに、小麦、大麦、裸麦、はと麦などの麦に微生物を作用させて麦中の物質を分解及び/又は変換することなどにより得られる発酵物であれば特に限定されない。
【0027】
本発明の一態様の組成物は、大豆の発酵物及び麦の発酵物を含有するものであれば特に限定されないが、例えば、しょうゆ、みそ及びこれらを含有する飲食品やこれらを用いて調理や加工された飲食品などが挙げられ、調理の際や他の食材や食品とともに用いられるしょうゆ及びみそであることが好ましい。
【0028】
しょうゆやみそは、通常知られているとおりのものであれば特に限定されず、例えば、農林水産省により示されている「しょうゆ品質表示基準」や「みそ品質表示基準」において定義付けされているものを挙げることができる。
【0029】
しょうゆの具体例としては、例えば、こいくちしょうゆ、うすくちしょうゆ、たまりしょうゆ、さいしこみしょうゆ、しろしょうゆ、だししょうゆ、照りしょうゆ、生揚げしょうゆなどが挙げられ、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用の強度の観点からこいくちしょうゆ、うすくちしょうゆ、たまりしょうゆ、さいしこみしょうゆ及びしろしょうゆが好ましいが、これらに限定されない。しょうゆは、上記の例示したしょうゆなどをさらなる加工処理に供したものであってもよい。このような加工処理は特に限定されないが、例えば、脱塩処理や希釈処理などが挙げられる。また、しょうゆは、しょうゆ中の特定の成分を減少若しくは排除又はしょうゆに特定の成分を追加する意図をもって製造したしょうゆであってもよく、例えば、無塩下又は減塩下で製造したしょうゆ、トマトなどの野菜成分を追加するように製造したしょうゆなどが挙げられる。しょうゆは、これらのうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
大豆の発酵物、麦の発酵物及びこれらを含有する組成物は、その入手方法について特に限定されず、例えば、市販されているものや当業者により通常知られている手法により製造したものなどを利用することができる。例えば、しょうゆは、本願出願人であるキッコーマン社から市販されているものを挙げることができ、具体的には「キッコーマン しょうゆ」、「キッコーマン 特選丸大豆しょうゆ」、「キッコーマン 特選丸大豆減塩しょうゆ」、「キッコーマン 減塩しょうゆ」、「キッコーマン 特選有機しょうゆ」、「キッコーマン うすくちしょうゆ」などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
粘膜型マスト細胞への分化抑制作用は、非粘膜型マスト細胞から粘膜型マスト細胞への分化を抑制する作用であって、結果として粘膜型マスト細胞の割合を低め得る作用であれば、その作用機序、合わせて伴う他の作用、程度などについては特に限定されない。粘膜型マスト細胞への分化抑制作用としては特に限定されないが、例えば、非粘膜型マスト細胞の増殖に適した条件下や非粘膜型マスト細胞から粘膜型マスト細胞への分化に適した条件下における、非粘膜型マスト細胞から粘膜型マスト細胞への分化を抑制する作用が挙げられる。
【0032】
粘膜型マスト細胞への分化抑制作用は、例えば、後述する本発明の粘膜型マスト細胞への分化誘導方法において、未成熟マスト細胞株から粘膜型マスト細胞への分化を抑制する作用であることが好ましい。未成熟マスト細胞株の具体的な例としては、FcεRIα及びc−Kitを発現し、かつ、MMCP(Mouse Mast Cell Protease)−1、MMCP−2、MMCP−3、MMCP−4、MMCP−5、MMCP−6及びカルボキシペプチダーゼAを実質的に発現しない未成熟マスト細胞株などが挙げられ、より具体的な例としてはマウスの肝臓に由来するマスト細胞を株化したMC/9細胞などが挙げられる。
【0033】
粘膜型マスト細胞への分化抑制作用は、その評価方法について特に限定されず、例えば、粘膜型マスト細胞が特異的に発現する遺伝子の発現量を測定すること、粘膜型マスト細胞が細胞内外に発現するマーカー分子(タンパク質)を測定すること、粘膜型マスト細胞の数や割合を測定することなどにより評価することができる。例えば、粘膜型マスト細胞が細胞内に特異的に発現するタンパク質について、標識化抗体を用いて細胞内標識をし、次いで標識した細胞の数及び割合を測定することにより評価することができる。
【0034】
粘膜型マスト細胞が細胞内に特異的に発現するタンパク質は、例えば、マウスの系ではMMCP−1及びMMCP−2などが挙げられる。
【0035】
粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を評価する具体的な第1の評価系は、IL−3及びIL−10の存在下で、MC/9細胞と本発明の一態様の組成物とを共培養し、次いで培養した細胞の量及び割合(population)並びにMMCP−1について標識化した粘膜型マスト細胞(MMCP−1陽性細胞)のpopulationを測定することを含む方法である。粘膜型マスト細胞のpopulationは、例えば、フローサイトメトリーなどの方法、ELISAやラジオイムノアッセイ(RIA)などの抗原抗体反応を利用する方法などにより測定することができるが、特に限定されない。
【0036】
粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を評価する具体的な第2の評価系は、IL−3及びIL−10の存在下で、MC/9細胞と本発明の一態様の組成物とを共培養し、次いで培養後に回収した細胞からRNAを抽出し、次いで抽出したRNAを逆転写してcDNAライブラリーを得て、次いで得られたcDNAライブラリーを基にMMCP−1遺伝子の発現量を測定することを含む方法である。
【0037】
第1及び第2の評価系におけるMC/9細胞と本発明の一態様の組成物とを共培養させる条件は特に限定されず、例えば、IL−3及びIL−10が失活せず、かつ、MC/9細胞が死滅しないような条件を挙げることができ、マスト細胞の維持又は増殖に適した培地、温度、CO
2濃度、pHなどを採用した培養条件であることが好ましい。この際、IL−3及びIL−10に加えて、他の成分が系内に存在していてもよい。他の成分は、サイトカインが失活せず、かつ、マスト細胞が死滅しないような成分であれば特に限定されないが、例えば、細胞培養に通常用いる成分が挙げられ、より具体的には2−メルカプトエタノールなどの還元剤、血清やL−グルタミンなどの細胞増殖に適した栄養成分、ペニシリンやストレプトマイシンなどの抗生物質、IL−2といったサイトカインなどの生理活性物質などが挙げられる。他の成分の使用量は、本発明の目的を達成し得る範囲内において、適宜設定することができる。
【0038】
粘膜型マスト細胞への分化抑制作用は、その程度について特に限定されないが、例えば、上記の第1の評価系により、本発明の一態様の組成物を用いない場合と比べて、MMCP−1が陽性である粘膜型マスト細胞(MMCP−1陽性細胞)の割合を低める作用であり、好ましくはMMCP−1陽性細胞の割合を0.9倍以下に低める作用であり、より好ましくはMMCP−1陽性細胞の割合を0.8倍以下に低める作用であり、さらに好ましくはMMCP−1陽性細胞の割合を0.7倍以下に低める作用である。
【0039】
本発明の別の一態様は、大豆の発酵物及び麦の発酵物を有効成分として含有する、又は粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物を有効成分として含有する、抗アレルギー用組成物である。
【0040】
抗アレルギー用組成物は、通常知られているとおりのものであれば特に限定されず、例えば、アレルギーの症状、アレルギーと関連した疾患の症状及び自己免疫症状などを改善、緩和、抑制、治療若しくは予防するための、又は免疫療法の用に供するための組成物であり得る。
【0041】
抗アレルギー用組成物は、消化器官系、例えば、腸、胃、鼻腔、咽頭、口腔などの器官における粘膜組織を介するアレルギーを対象とするものであることが好ましく、食物アレルギー、花粉症、胃炎、腸炎、下痢、潰瘍性大腸炎、鼻炎、気管支炎、気管支喘息、レフレル症候群及び口内炎を対象とするものであることがより好ましい。しょうゆやみそなどの発酵食品は食物性アレルゲンを含む食材や食品とともに摂取する頻度が高いことから、食物アレルギーを対象とするものであることが好ましく、食物性アレルゲンが接触する可能性がある腸、胃、咽頭、口腔などの器官における粘膜組織を介するアレルギーを対象とするものであることがより好ましい。
【0042】
免疫応答のメカニズムは未解明な部分が多く、本発明の技術的範囲はいかなる理論や推測にも拘泥されるものではないが、抗アレルギー用組成物は、例えば、適用した被験体において、粘膜型マスト細胞の割合を低下させることにより、粘膜型マスト細胞が活性化することによる脱顆粒、炎症性サイトカインの産生、脂質メディエータの産生などのいずれかの生理的現象の程度を減弱することができ、これにより抗アレルギー作用を発揮し得る。
【0043】
抗アレルギー作用は、その評価方法について特に限定されず、例えば、当業者にとって公知の方法を特に限定せずに挙げることができ、具体的には適用した被験体におけるアレルギーの症状の程度を測定すること、粘膜型マスト細胞から遊離した、又は産生された生理活性物質を測定すること、粘膜型マスト細胞の割合や数を測定することなどにより評価する方法が挙げられる。
【0044】
本発明の一態様の組成物の適用対象は特に限定されず、例えば、動物、中でも哺乳類が挙げられ、哺乳類としてはヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマなどが挙げられ、これらの中でもヒトであることが好ましい。適用対象は、健常な対象であってもよいが、アレルギーの治療又は予防が望まれる対象であることが好ましい。
【0045】
アレルギーの治療又は予防が望まれる対象としては、例えば、粘膜組織を介したアレルギーに罹患している者又はその可能性がある者が挙げられ、小麦アレルギーや大豆アレルギーなどの食物アレルギーを発症している者及び該食物アレルギーを発症する可能性がある者であることが好ましい。
【0046】
本発明の一態様の組成物は、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用及び抗アレルギー作用を有することから、例えば、食物アレルギーを引き起こす可能性がある食物性アレルゲンを含有する食材や食品と併用することができる。本発明の一態様の組成物と併用される食材や食品としては特に限定されないが、例えば、大豆、小麦などの麦などの食物性アレルゲンを含有する食品が好ましい。本発明の一態様の組成物と併用される食材や食品は、本発明の一態様の組成物と同時的に、又はこれと前後して摂取され得る。
【0047】
本発明の一態様の組成物は、その適用方法について特に限定されず、例えば、経口的又は非経口的に適用され得る。非経口的な適用としては、皮内、皮下、静脈内、筋肉内投与などによる注射及び注入;経皮;鼻、咽頭などの粘膜からの吸入などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
本発明の一態様の組成物は、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用及び抗アレルギー作用が用量依存傾向にあることから、それらの適用量は年齢、体格、症状などの適用対象の特性;適用方法;適用部位などに合わせて適宜設定することができる。具体的には、本発明の一態様の組成物がしょうゆ又はしょうゆ含有食品である場合、本発明の一態様の組成物の摂取量は、例えば、0.1〜1,000mg/体重60kg/日であるが、これに限定されない。摂取回数は特に限定されないが、例えば、1日1〜3回であり、摂取量に応じて適宜回数を増減することができる。
【0049】
本発明の一態様の組成物は、これを経口的に摂取することにより、経口免疫寛容が誘導又は増強される場合がある。その結果として、経口免疫寛容により、例えば、食物アレルギーなどのアレルギー症状や自己免疫症状を改善、緩和、抑制、治療又は予防することが可能となる。
【0050】
また、本発明の一態様の組成物は、粘膜型マスト細胞により産生される炎症性サイトカインや炎症性メディエータなどの生理活性物質が関与する、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、乾癬、潰瘍性大腸炎、クローン病などの症状を改善、緩和、抑制、治療又は予防することが期待できる。
【0051】
本発明の一態様の組成物は、それらを単独で、又はそれらを配合する飲食品組成物や医薬品組成物などの形態をとり得る。したがって、本発明の具体的な一態様は、大豆の発酵物及び麦の発酵物を有効成分として含有する、又は本発明の一態様の組成物を含有する、飲食品組成物、医薬品組成物、医薬部外品組成物、化粧品組成物、動物飼料組成物などである。
【0052】
本発明の一態様の組成物が飲食品組成物である場合は、本発明の目的を達成し得る限り、食経験のある、天然物及び非天然物並びにこれらの含有物を配合してもよい。例えば、飲食品組成物には、抗アレルギー効果や経口免疫寛容増強効果が知られている、フラボノイド、ゲニステイン、ゲニスチンなどを含む豆乳;醤油などに含まれる大豆発酵多糖類;ビタミンCなどのビタミン類などを配合することが好ましい。
【0053】
飲食品組成物に含有してもよい他の成分としては、例えば、糖質甘味料、安定化剤、乳化剤、澱粉、澱粉加工物、澱粉分解物、食塩、着香料、着色料、酸味料、風味原料、栄養素、果汁、卵などの動植物性食材、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、香油などの通常の食品加工に使用される添加物を挙げることができる。添加物の使用量は、本発明の課題の解決を妨げない限り特に限定されず、適宜設定され得る。
【0054】
飲食品組成物は、通常用いられる形態であれば特に限定されず、例えば、固形状、液状、ゲル状、懸濁液状、クリーム状、シート状、スティック状、粉状、粒状、顆粒状、錠状、棒状、板状、ブロック状、ペースト状、カプセル状、カプレット状などの各形態を採り得る。
【0055】
飲食品組成物の具体的な一態様は、例えば、生体に対して一定の機能性を有する飲食品である機能性飲食品である。機能性飲食品は、例えば、特定保健用飲食品、機能性表示飲食品、栄養機能飲食品、保健機能飲食品、特別用途飲食品、栄養補助飲食品、健康補助飲食品、サプリメント、美容飲食品などのいわゆる健康飲食品に加えて、乳児用飲食品、妊産婦用飲食品、高齢者用飲食品などの特定者用飲食品を包含する。さらに機能性飲食品は、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康飲食品を包含する。
【0056】
飲食品組成物の包装形態は特に限定されず、適用される形態などに応じて適宜選択できるが、例えば、PTPなどのブリスターパック;ストリップ包装;ヒートシール;アルミパウチ;プラスチックや合成樹脂などを用いるフィルム包装;バイアルなどのガラス容器;アンプルなどのプラスチック容器などが挙げられる。
【0057】
本発明の一態様の組成物が医薬品組成物である場合は、適用後に少なくとも粘膜型マスト細胞への分化抑制作用が発揮し、それに伴いアレルギーの症状やアレルギーに関連のある疾患の症状を治療又は予防し得る限り、あらゆる医薬品の形態をとり得る。医薬品組成物には、本発明の目的を達成し得る限り、特許文献1に記載されている有効成分などの他の粘膜型マスト細胞への分化抑制作用又は抗アレルギー作用を有する生理活性物質を配合することができる。このような生理活性物質の他の具体例としては、抗IL−10受容体抗体、IL−10アナログ、IL−10受容体拮抗阻害剤、IL−10との複合体形成物質、抗IL−3受容体抗体、IL−3アナログ、IL−3受容体拮抗阻害剤、IL−3との複合体形成物質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
医薬品組成物には、有効成分以外に様々な目的に対するその他の成分を含めてもよく、このようなその他の成分としては、例えば保存剤、緩衝剤などが挙げられる。保存剤としては、ナトリウム重亜硫酸、ナトリウム重硫酸、ナトリウムチオ硫酸塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、メチルパラベン、ポリビニルアルコール、フェニルエチルアルコール、アンモニア、ジチオスレイトール、ベータメルカプトエタノールなどが挙げられる。また、緩衝剤としては、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが挙げられる。これら薬剤は、系のpHを2〜9、好ましくは4〜8の間で維持することができる量で存在することができる。
【0059】
医薬品組成物の剤型は特に限定されないが、例えば、注射剤(筋肉、皮下、皮内)、経口製剤、点鼻製剤などが例示される。例えば、医薬品組成物は、食物アレルギーなどのアレルギー疾患を治療するためのワクチンとして調製することができる。医薬品組成物がワクチンの形態である場合、複数種類の有効成分を含む混合カクテルワクチンであってもよい。
【0060】
粘膜型マスト細胞を安定的かつ効率的に誘導して、細胞あたりの粘膜型マスト細胞の割合を増加させる方法についてはこれまでに知られていなかったが、本発明者らは方法を構築することに成功した。本明細書にて、本発明者らが見出した粘膜型マスト細胞への分化誘導方法及び粘膜型マスト細胞の製造方法を述べる。
【0061】
粘膜型マスト細胞への分化誘導方法は、未成熟マスト細胞株とインターロイキン−10とを、又は未成熟マスト細胞株とインターロイキン−10及びインターロイキン−3とを接触させることにより、未成熟マスト細胞株から粘膜型マスト細胞への分化を誘導する工程を少なくとも含む方法である。粘膜型マスト細胞の製造方法は、未成熟マスト細胞株とインターロイキン−10とを、又は未成熟マスト細胞株とインターロイキン−10及びインターロイキン−3とを接触させることにより、粘膜型マスト細胞を得る工程を含む製造方法である。
【0062】
いずれの方法においても、IL−3及びIL−10は、それぞれ通常知られているとおりのサイトカインであれば特に限定されない。IL−3及びIL−10は、その入手方法について特に限定されないが、例えば、市販されているものを利用することやT細胞やB細胞などのIL−3やIL−10を分泌する細胞から得た培養上清などを常法に従って分離精製することなどによって入手することできる。IL−3及びIL−10は、その由来生物種については特に限定されず、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、イヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ブタなどの哺乳類が挙げられるが、高度な分化誘導活性が認められるために、マスト細胞と同一の由来生物種であることが好ましい。
【0063】
いずれの方法においても、未成熟マスト細胞株は、通常知られているとおりの骨髄その他の組織に由来するマスト細胞であれば特に限定されないが、例えば、異質性があり、かつ、表現型が粘膜型マスト細胞だけではなく、結合組織型マスト細胞にもなり得るマスト細胞株であることが好ましい。未成熟マスト細胞株は、マスト細胞が特異的に発現するタンパク質を発現するものがより好ましく、FcεRIα及びc−Kitからなる群から選ばれるタンパク質を発現するものがさらに好ましく、FcεRIα及びc−Kitの両方を発現するものがなおさらに好ましい。また、前記未成熟マスト細胞株は、FcεRIα及びc−Kitを発現し、かつ、MMCP−1、MMCP−2、MMCP−3、MMCP−4、MMCP−5、MMCP−6及びカルボキシペプチダーゼAを実質的に発現しない未成熟マスト細胞株であることが好ましい。
【0064】
未成熟マスト細胞株は、粘膜型マスト細胞が発現する少なくともいずれか1種のタンパク質の発現が陰性であると評価することによって、粘膜型マスト細胞と区別し得る。例えば、マウスにおいては、未成熟マスト細胞株は、粘膜型マスト細胞が発現するキマーゼの1種であるMMCP(Mouse Mast Cell Protease)−1の発現については陰性と評価される。したがって、粘膜型マスト細胞への分化誘導方法は、例えば、マウスの系においては、MMCP−1陰性であると評価される未成熟マスト細胞株からMMCP−1陽性であると評価される粘膜型マスト細胞への分化を誘導する工程を少なくとも含む方法と表すことができる。
【0065】
未成熟マスト細胞株は、その入手方法については特に限定されず、例えば、TC Moon, et al(MucosalImmunology, Vol. 3, No. 2, (2010), pp.111-128)に記載されているとおりに、IL−3の存在下又は非存在下で、骨髄中のマスト細胞前駆体やその他の組織に存在するマスト細胞を株化することにより、取得することができる。未成熟マスト細胞株の具体例としては、マウスの肝臓に由来するマスト細胞株であるMC/9細胞などが挙げられるが、これに限定されない。
【0066】
粘膜型マスト細胞への分化誘導方法及び粘膜型マスト細胞の製造方法では、IL−10と、又はIL−10及びIL−3と未成熟マスト細胞株とを接触させることを含む。いずれの方法においても、これらサイトカインと未成熟マスト細胞株とを接触させる条件は特に限定されず、例えば、IL−10及びIL−3が失活せず、かつ、未成熟マスト細胞株が死滅しないような条件を挙げることができ、未成熟マスト細胞株の維持又は増殖に適した培地、温度、CO
2濃度、pHなどの培養条件であることが好ましい。
【0067】
未成熟マスト細胞株の細胞数並びにIL−10及びIL−3の添加量は特に限定されない。未成熟マスト細胞株の細胞数は、例えば、通常in vitroで細胞培養する際に用いられる細胞数が挙げられ、培養容器の材質や形状によって適宜設定することができるが、より具体的には10
3〜10
8cells/ml程度であり、10
4〜10
6cells/mlであることが好ましい。IL−10及びIL−3の添加量は、例えば、通常細胞に対して活性を示し得るとされている範囲の量が挙げられ、未成熟マスト細胞株の細胞数によって適宜設定することができるが、より具体的には0.1ng/ml〜5,000ng/mlであり、1〜1,000ng/mlであることが好ましく、10〜300ng/mlであることがより好ましく、20〜200ng/mlであることがさらに好ましい。
【0068】
IL−3を用いる場合、IL−3の使用方法については特に限定されず、例えば、未成熟マスト細胞株とIL−10とを接触させるときと同時に、又はそのときに前後して、未成熟マスト細胞株と接触させる方法が挙げられるが、IL−3はIL−10と同時に未成熟マスト細胞株に接触させることが好ましい。
【0069】
未成熟マスト細胞株とIL−10及びIL−3といったサイトカインとの接触時間は特に限定されず、例えば、粘膜型マスト細胞の存在が確認できる時間などが挙げられるが、未成熟マスト細胞株の培養時間に相当する2〜4日間程度が好ましい。その他の接触条件は、通常の細胞培養に適した条件であれば特に限定されないが、静置培養であることが好ましい。
【0070】
未成熟マスト細胞株とIL−10及びIL−3といったサイトカインとを接触させる際に、他の成分が系内に存在していてもよい。他の成分は、サイトカインが失活せず、かつ、未成熟マスト細胞株が死滅しないような成分であれば特に限定されないが、例えば、通常細胞培養に用いる成分が挙げられ、より具体的には2−メルカプトエタノールなどの還元剤、血清やL−グルタミンなどの細胞増殖に適した栄養成分、ペニシリンやストレプトマイシンなどの抗生物質、IL−2といったサイトカインなどの生理活性物質などが挙げられる。他の成分の使用量は、本発明の目的を達成し得る範囲内において、適宜設定することができる。
【0071】
未成熟マスト細胞株とIL−10及びIL−3といったサイトカインとを接触させることにより、未成熟マスト細胞株から粘膜型マスト細胞を分化誘導できる。粘膜型マスト細胞への分化誘導作用は、未成熟マスト細胞株から粘膜型マスト細胞への分化を誘導する作用であって、結果として粘膜型マスト細胞の割合を高め得る作用であれば、その作用機序や合わせて伴う他の作用などについては特に限定されない。
【0072】
粘膜型マスト細胞への分化誘導は、その評価方法について特に限定されず、例えば、粘膜型マスト細胞が特異的に発現する遺伝子の発現量を測定すること、粘膜型マスト細胞が細胞内外に発現するマーカー分子(タンパク質)を測定すること、粘膜型マスト細胞の数や割合を測定することなどにより評価することができる。例えば、粘膜型マスト細胞が細胞内に特異的に発現するタンパク質について、標識化抗体を用いて細胞内標識をし、次いで標識した細胞の数及び割合を測定することにより評価することができる。
【0073】
粘膜型マスト細胞が細胞内に特異的に発現するタンパク質は、例えば、マウスの系ではMMCP−1及びMMCP−2などが挙げられる。
【0074】
粘膜型マスト細胞への分化誘導方法の具体的な一態様として、例えば、未成熟マスト細胞株とIL−10とを、又はIL−10及びIL−3とを共培養し、次いで培養した細胞の量及び割合(population)並びに細胞内標識又は細胞外標識した粘膜型マスト細胞のpopulationを測定することを含む方法である。粘膜型マスト細胞のpopulationは、例えば、フローサイトメトリーなどの方法、ELISAやラジオイムノアッセイ(RIA)などの抗原抗体反応を利用する方法などにより測定することができるが、特に限定されない。
【0075】
粘膜型マスト細胞への分化誘導方法の別の具体的な一態様として、例えば、未成熟マスト細胞株とIL−10とを、又はIL−10及びIL−3とを共培養し、次いで培養後に回収した細胞からRNAを抽出し、次いで抽出したRNAを逆転写してcDNAライブラリーを得て、次いで得られたcDNAライブラリーを基に粘膜型マスト細胞が特異的に発現する遺伝子の発現量を測定することを含む方法が挙げられる。
【0076】
粘膜型マスト細胞への分化誘導方法を応用した方法の一つとしては、本発明の別の一態様である、未成熟マスト細胞株とIL−10とを、又はIL−10及びIL−3とを接触させることにより、粘膜型マスト細胞を得る工程を少なくとも含む、粘膜型マスト細胞の製造方法が挙げられる。
【0077】
粘膜型マスト細胞の製造方法により製造される粘膜型マスト細胞は、in vivo又はex vivoでの使用が考えられる。例えば、製造された粘膜型マスト細胞を被験体の粘膜組織に適用することにより、被験体の寄生虫感染防御やその他の粘膜感染症の症状を改善、緩和、抑制、治療又は予防することが期待できる。
【0078】
本発明の一態様である方法では、本発明の目的を達成し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができる。また、工程内及び工程間は、連続的又は断続的に実施することができる。
【0079】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0080】
[実施例1]
マウスマスト細胞株であるMC/9細胞を用いて、粘膜型マスト細胞(MMCP−1陽性細胞)を以下のとおりに誘導した。
【0081】
マウスの粘膜型マスト細胞は、マスト細胞の表面マーカー分子であるFcεRIα及びc−Kitを発現すると同時に、細胞内にMMCP−1というプロテアーゼを発現する。マウスマスト細胞株であるMC/9細胞は、FcεRIα及びc−Kitを発現しているが、粘膜型のマーカーであるMMCP−1を発現していない。そこで、MC/9細胞を粘膜型へ分化させることを目的に、下記の実験を実施した。
【0082】
1.細胞培養のための培地の調製
SIGMA社製Dulbecco’s Modified Eagle’s培地に、下記の終濃度になるように試薬を添加して、培地を調製した。
10%(w/v) FBS
1%(w/v) Penicilline/Streptomycin
2mM L−glutamine
0.05mM 2−mercaptoethanol
10%(w/v) Rat T−STIM(日本ベクトン・ディッキンソン社製)
【0083】
2.MC/9細胞懸濁液の調製
MC/9(ATCC CRL−8306)凍結ストックを培地に添加し、週に2回程度培地を交換しながら培養した。5継代(P5)の時点で3×10
6 cells/mLのワーキングストックを作成した。ワーキングストックを培地に添加し、培養後週に2回程度で継代しながら培養することにより、P9以降の細胞を回収した。回収した細胞について、培地で1回洗浄した後、トリパンブルー(Gibco社製)で懸濁し血球計算板を用いて細胞数を計測した。その後、2×10
6 cells/mLになるように培地に懸濁することにより、MC/9細胞懸濁液を調製した。
【0084】
3.サイトカイン溶液の調製
mouse recombinant protein IL−3(100μM;eBioscience社製)及びmouse recombinant protein IL−10(100μM;eBioscience社製)を、それぞれ120ng/mlとなるように培地で希釈して、IL−3溶液及びIL−10溶液を調製した。
【0085】
4.抗IL−10受容体抗体(αIL−10R抗体)溶液の調製
Purified anti−mouse CD210(IL−10R) Antibody(500μM;Biolegend社製)を、それぞれ12、120及び1200ng/mlとなるように培地で希釈することにより、αIL−10R抗体を調製した。
【0086】
5.培養方法
表1の例1〜10が示すとおりに、96ウェル平底プレート(BD FALCON社製)の各ウェルに、内容物が所定の最終濃度になるように上記溶液及び培地を添加して、3日間培養した。ただし、上記培地として、Rat T−STIMを含有しない培地を用いた。
【0087】
【表1】
【0088】
6.細胞数計測のためのFACSAria解析
培養後に回収した細胞を、1×PBS/2%FBSで2回洗浄した後、Fcブロック(BD Bioscience社製)と反応させた。次いで、反応後の細胞を、PE標識anti−mouse FcεRIα(Biolegend社製)及びPE/cy7標識anti−mouse CD117(c−Kit)(Biolegend社製)と反応させた。次いで、反応後の細胞を、1×PBSで1回洗浄した後、Fixable Viability Dye eFluor 450(eBioscience社製)と反応させた。
【0089】
次いで、反応後の細胞を、1×PBS/2%FBSで1回洗浄した後、ICバッファー(eBioscience社製)を用いて固定化した。次いで、固定化した細胞を、Permeabilizationバッファー(eBioscience社製)を用いて洗浄した後、Alexa647標識抗MMCP−1抗体(purified anti−mouse MCPT−1(mMCP−1)(eBioscience社製)をAlexaFlour647 Antibody Labeling Kit(life technology社製)にて標識したもの)と反応させ細胞内標識を行った。次いで、標識した細胞を、1×PBS/2%FBSで洗浄し、さらに同バッファー200μLに懸濁した後、FACSAriaを用いて解析した。解析の際、特定量のBD FACS
TM Accudrop Beads(BD Bioscience社製)を既知体積のサンプルに加え、細胞とともにビーズを計測した。ビーズ量とビーズの取り込み数、生細胞の取り込み数から全細胞数を算出した。さらに全細胞数とMMCP−1陽性細胞の割合とから、MMCP−1陽性細胞数を算出した。
【0090】
7.細胞数解析結果
FACSAria解析の結果について、例1〜7の結果をまとめたものを
図1に示し、例2、例6及び例8〜10の結果をまとめたものを
図2に示す。
【0091】
(1)例1〜7の結果(
図1A〜C)
図1Aが示すとおり、IL−3添加条件と比較して、IL−10添加条件では、MMCP−1陽性細胞の割合の顕著な増加が見られた。また、
図1Bが示すとおり、MMCP−1陽性細胞数についても、これらの比較から、IL−10を添加することにより増加傾向を示すことがわかった。
【0092】
総細胞数については、
図1Cが示すとおり、サイトカイン非添加条件においては、十分な細胞の増殖が見られなかった。また、IL−3及びIL−10を独立して添加した際には、それぞれ細胞数が増加することが確認されたが、これらの間の増加の程度については、大きな差異はなかった。
【0093】
IL−3添加条件とIL−10添加条件との比較から、MMCP−1陽性細胞はIL−10依存的に分化誘導することが確認された。
【0094】
一方、IL−3とIL−10とを同時に添加した条件下においては、MMCP−1陽性細胞の割合が増加することが確認された(
図1Aを参照)。しかし、その増加の程度は、IL−10を単独で添加した条件と比較して、顕著に大きいというものではなかった。一方、MMCP−1陽性細胞数及び総細胞数については、IL−3添加条件及びIL−10添加条件と比べて、相乗的に顕著に増加することが確認された(
図1B及び
図1Cを参照)。
【0095】
図1の結果より、IL−10は濃度依存的にMC/9細胞からMMCP−1陽性細胞を分化誘導する作用があることが確認された。
【0096】
(2)例2、例6及び例8〜10の結果(
図2A〜C)
抗IL−10受容体抗体を添加することでマスト細胞が発現するIL−10受容体をブロックし、IL−10シグナルを阻害することにより、MMCP−1陽性細胞の誘導がどのような影響を受けるかについて評価した。
【0097】
図2A及び
図2Bに示すとおり、IL−3添加条件及びIL−10添加条件と比較して、抗IL−10受容体(aIL−10R)抗体を添加する条件では、濃度依存的なMMCP−1陽性細胞の割合及び数の顕著な減少が確認された。しかし、
図2Cが示すとおり、全細胞数は、抗IL−10受容体抗体を添加することにより若干減少したものの、その程度はMMCP−1陽性細胞の割合の減少の程度と比較すると非常に小さかった。すなわち、抗IL−10受容体抗体を添加することにより、総細胞数に与える影響は小さいながらも、MMCP−1陽性細胞の数及び割合を格別顕著に減少した。
【0098】
図2の結果より、IL−10はMC/9細胞からMMCP−1陽性細胞を分化誘導する作用があることが確認されたとともに、IL−10とIL−10受容体との結合を阻害することにより、MMCP−1陽性細胞の割合及び数を減じることができることがわかった。
【0099】
[実施例2]
しょうゆが粘膜型マスト細胞の分化を抑制する効果を有することについて、複数の市販しょうゆ及びモデルしょうゆを用いて、以下のとおりに評価した。
【0100】
マウスの粘膜型マスト細胞は、マスト細胞の表面マーカー分子であるFcεRIα及びc−Kitを発現すると同時に、細胞内にMMCP−1というプロテアーゼを発現する。マウスマスト細胞株であるMC/9は、FcεRIα及びc−Kitを発現しているが、粘膜型のマーカーであるMMCP−1を発現していない。そこで、MC/9から粘膜型マスト細胞(MMCP−1陽性細胞)への分化を利用して、しょうゆによる分化抑制効果について、下記の実験を実施した。
【0101】
1.細胞培養のための培地の調製
SIGMA社製Dulbecco’s Modified Eagle’s培地に、下記の終濃度になるように試薬を添加して、培地を調製した。
10%(w/v) FBS
1%(w/v) Penicilline/Streptomycin
2mM L−glutamine
0.05mM 2−mercaptoethanol
10%(w/v) Rat T−STIM(日本ベクトン・ディッキンソン社製)
【0102】
2.MC/9細胞懸濁液の調製
MC/9(ATCC CRL−8306)凍結ストックを培地に添加し、週に2回程度培地を交換しながら培養した。5継代(P5)の時点で3×10
6 cells/mLのワーキングストックを作成した。ワーキングストックを培地に添加し、培養後週に2回程度で継代しながら培養することにより、P9以降の細胞を回収した。回収した細胞について、培地で1回洗浄した後、トリパンブルー(Gibco社製)で懸濁し血球計算板を用いて細胞数を計測した。その後、2×10
6 cells/mLになるように培地に懸濁することにより、MC/9細胞懸濁液を調製した。
【0103】
3.サイトカイン溶液の調製
mouse recombinant protein IL−3(100μM;eBioscience社製)及びmouse recombinant protein IL−10(100μM;eBioscience社製)を、それぞれ120ng/mlとなるように培地で希釈して、IL−3溶液及びIL−10溶液を調製した。
【0104】
4.被験しょうゆ試料の調製
被験しょうゆ試料として、下記の市販しょうゆ及びモデルしょうゆについて、しょうゆ原液の濃度を1として、培地を用いて60倍、120倍、240倍、480倍又は960倍に希釈して試験に供した。
市販しょうゆ:こいくちしょうゆ、特選丸大豆しょうゆ、うすくちしょうゆ、たまりしょうゆ、脱塩しょうゆ(特選丸大豆しょうゆを脱塩処理したもの)(以上、すべてキッコーマン社製)
モデルしょうゆ:たまりしょうゆ(キッコーマン社製)に含まれる成分のうち、酸、食塩、アルコール及びアミノ酸を、たまりしょうゆに含まれる濃度で配合して調製したもの
【0105】
5.培養方法
表1及び表2の例1〜28が示すとおりに、96ウェル平底プレート(BD FALCON社製)の各ウェルに、内容物が所定の最終濃度になるように上記溶液及び培地を添加して、初発細胞数を1.0×10
5cells/wellとして3日間培養した。ただし、上記培地として、Rat T−STIMを含有しない培地を用いた。
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
6.細胞数計測のためのFACSAria解析
培養後に回収した細胞を、1×PBS/2%FBSで2回洗浄した後、Fcブロック(BD Bioscience社製)と反応させた。次いで、反応後の細胞を、PE標識anti−mouse FcεRIα(Biolegend社製)及びPE/cy7標識anti−mouse CD117(c−Kit)(Biolegend社製)と反応させた。次いで、反応後の細胞を、1×PBSで1回洗浄した後、Fixable Viability Dye eFluor 450(eBioscience社製)と反応させた。
【0109】
次いで、反応後の細胞を、1×PBS/2%FBSで1回洗浄した後、ICバッファー(eBioscience社製)を用いて固定化した。次いで、固定化した細胞を、Permeabilizationバッファー(eBioscience社製)を用いて洗浄した後、Alexa647標識抗MMCP−1抗体(purified anti−mouse MCPT−1(mMCP−1)(eBioscience社製)をAlexaFlour647 Antibody Labeling Kit(life technology社製)にて標識したもの)と反応させ細胞内標識を行った。次いで、標識した細胞を、1×PBS/2%FBSで洗浄し、さらに同バッファー200μLに懸濁した後、FACSAriaを用いて解析した。解析の際、特定量のBD FACS
TM Accudrop Beads(BD Bioscience社製)を既知体積のサンプルに加え、細胞とともにビーズを計測した。ビーズ量とビーズの取り込み数、生細胞の取り込み数から全細胞数を算出した。さらに全細胞数とMMCP−1陽性細胞の割合とから、MMCP−1陽性細胞数を算出した。
【0110】
7.細胞数解析結果
FACSAria解析の結果について、表1に示す例1〜8の結果をまとめたものを
図1に示し、表2に示す例9〜28の結果をまとめたものを
図2に示す。
【0111】
(1)例1〜8の結果(
図1A〜C)
図3Aが示すとおり、IL−10のみを添加した場合やIL−3及びIL−10を添加した場合と比較して、脱塩しょうゆを添加した場合では、濃度依存的にMMCP−1陽性細胞の割合が減少した。同様に、
図3Bが示すとおり、MMCP−1陽性細胞数についても、濃度依存的にMMCP−1陽性細胞数が減少する傾向にあることを確認した。一方で、
図3Cが示すとおり、総細胞数については、このような傾向は見られなかった。
【0112】
図3の結果より、しょうゆには、細胞の生存率については影響を与えずにして、濃度依存的にMC/9細胞からのMMCP−1陽性細胞への分化を抑制する作用があることが確認された。
【0113】
(2)例9〜28の結果(
図2)
図4に示すとおり、サイトカインのみを添加した場合と比較して、サイトカインに加えて、脱塩しょうゆ、こいくちしょうゆ、たまりしょうゆ、特選丸大豆しょうゆ又はうすくちしょうゆを加えた場合は、MMCP−1陽性細胞の割合が減少した。しかし、しょうゆを製造する際の発酵工程によって主として得られるペプチドやタンパク質を含まないモデルしょうゆでは、MMCP−1陽性細胞の割合の減少はみられなかった。
【0114】
図4の結果より、しょうゆのような発酵食品は、MC/9細胞からのMMCP−1陽性細胞への分化を抑制する作用があることが確認された。