【文献】
○中野 信浩,本庄 明日香,西山 千春,大塚 宜一,清水 俊明,奥村 康,小川 秀興,4E085 Notchシグナル阻害による食物アレルギーの症状の軽減,Annual Meeting of the Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry, 2016 大会講演要旨集,公益社団法人日本農芸化学会 JSBBA,2016年 3月 5日
【文献】
Journal of Bioscience and Bioengineering ,2005年,Vol. 100, No. 2,144-151
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物は、しょうゆの5vol%の含水エタノール抽出物及び/又はしょうゆの99vol%以上の含水エタノール抽出物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物。
前記組成物は、インターロイキン−3及びインターロイキン−10の存在下で、未成熟マスト細胞株から粘膜型マスト細胞への分化を抑制する作用を有する組成物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、粘膜型マスト細胞は、腸管などの粘膜組織に局在化し、アレルゲンが粘膜組織に到達することによるアレルギーの発症に関与し得る。そこで、粘膜組織を介したアレルギーを抑制するためには、異常に増加した粘膜型マスト細胞の割合を減少させることが肝要である。また、アレルギーを発症していなくとも、粘膜型マスト細胞の割合を正常な値に維持することもまた肝要である。
【0009】
特に、粘膜組織を介したアレルギーとしては、食物を摂取することにより発症する食物アレルギーがある。そこで、食物アレルギーを誘起する食物性アレルゲンと同時的かつ日常的に摂取することにより、粘膜型マスト細胞の異常増加を抑制し、かつ、粘膜型マスト細胞の割合を正常な値に維持することにより、アレルギー疾患になりにくい体質作りに貢献できれば、食物アレルギーの罹患者の健康や福祉に資することができ、有益である。しかし、非特許文献1及び2並びに特許文献1を含めて、日常の食事の際に摂取することができ、かつ、粘膜型マスト細胞への分化を抑制して、細胞あたりの粘膜型マスト細胞の割合を減少させ得るものはこれまでに知られていない。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、食事の用に供することができ、かつ、細胞あたりの粘膜型マスト細胞の割合を減少させることができる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
大豆の発酵物及び麦の発酵物において、大豆アレルゲン及び麦アレルゲンは発酵を通じて大幅に減少していることがELISA法などにより確認されている。したがって、大豆アレルゲンや麦アレルゲンに敏感に応答する個体において、発酵を通じて大豆アレルゲンや麦アレルゲンが分解した大豆の発酵物及び麦の発酵物を摂取したとしても、アレルギーの症状が見られる可能性が低いと考えられる。
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を積み重ねた結果、大豆の発酵物や麦の発酵物を含むしょうゆは、しょうゆの後に摂取した小麦アレルゲンに対する免疫寛容がみられ、さらにアレルギーの発症を低めること、すなわち、アレルギーの発症に抑制的に作用し得ることを見出した。そして、さらに研究を進めていくうちに、本発明者らは粘膜型マスト細胞に着目するに至り、しょうゆは、未成熟細胞から粘膜型マスト細胞への異常な分化を抑制することや粘膜型マスト細胞の割合を正常な値に維持することを通じて、細胞あたりの粘膜型マスト細胞の割合を減少させることにより、大豆アレルゲンや小麦アレルゲンなどの食物性アレルゲンが作用する細胞の数を減じることができ、アレルギーに対して抑制的に作用する可能性があることを見出した。
【0013】
さらに、本発明者らは、しょうゆ中の成分のうち、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を有する成分について検討及び評価した。その結果、驚くべきことに、しょうゆをエタノールにより液−液抽出して得られる成分やしょうゆを疎水性カラムに通液した後に含水エタノールによって溶出される成分は、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を有することを見出した。
【0014】
そして、これらの知見を基に、本発明者らは、しょうゆ中のエタノール可溶性成分を利用した、粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物及び抗アレルギー用組成物を創作することに成功した。本発明はこれらの知見及び成功例に基づいて完成するに至った発明である。
【0015】
したがって、本発明の各一態様によれば、以下のものが提供される:
[1]しょうゆ中のエタノール可溶性成分を有効成分として含有する、粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物。
[2]前記エタノール可溶性成分は、5vol%以上の含水エタノール可溶性成分である、[1]に記載の粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物。
[3]前記エタノール可溶性成分は、5vol%の含水エタノール可溶性成分及び/又は99vol%以上の含水エタノール可溶性成分である、[1]に記載の粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物。
[4]前記エタノール可溶性成分は、水不溶性のエタノール可溶性成分である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物。
[5]前記粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物は、5vol%の含水エタノール抽出物及び/又は99vol%以上の含水エタノール抽出物である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物。
[6]前記組成物は、インターロイキン−3及びインターロイキン−10の存在下で、未成熟マスト細胞株から粘膜型マスト細胞への分化を抑制する作用を有する組成物である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物。
[7][1]〜[6]のいずれか1項に記載の組成物を有効成分として含有する、抗アレルギー用組成物。
[8]前記抗アレルギー用組成物は、食物アレルギーを発症している者又は食物アレルギーを発症する可能性がある者に摂取される抗アレルギー用組成物である、[7]に記載の抗アレルギー用組成物。
[9]前記抗アレルギー用組成物は、食物性アレルゲンを含有する食品と併用される抗アレルギー用組成物である、[7]又は[8]に記載の抗アレルギー用組成物。
[10]前記抗アレルギー用組成物は、粘膜組織を介するアレルギーを対象とする抗アレルギー用組成物である、[7]〜[9]のいずれか1項に記載の抗アレルギー用組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様である組成物は、有効成分による粘膜型マスト細胞への分化を抑制する作用及び抗アレルギー作用を通じて、粘膜性のアレルギーや該アレルギーと関連する炎症、例えば、食物アレルギー、花粉症、胃炎、腸炎、下痢、潰瘍性大腸炎、鼻炎、気管支炎、気管支喘息、レフレル症候群、口内炎などによる症状や自己免疫症状を改善、緩和、抑制、治療若しくは予防すること、又は免疫療法の用に供することが期待できる。
【0017】
特に、食物アレルギーの発症者にとって、アレルゲン除去食品の摂取は該発症者やその周囲の者にとって負担が甚大である。そこで、アレルギーを抑制する作用を示し得る本発明の一態様である組成物によれば、他の飲食品と併用することにより、食物アレルギーに関連する症状を減弱することが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一態様である粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物及び抗アレルギー用組成物(以下、これらをまとめて本発明の一態様の組成物と総称する場合がある。)の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0020】
本発明の一態様は、しょうゆ中のエタノール可溶性成分を有効成分として含有する、粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物である。
【0021】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。
【0022】
例えば、分化とは、一般的に、特性をもたない細胞が様々な特性を持つ細胞に変化することをいうところ、本明細書における「分化」は、ある特性を有する細胞が別の特性を有する細胞に転じることを広く意味することに加え、一般に分化細胞として知られている2種の細胞の間での、可逆的又は不可逆的な相互の転換をも含む、より広範な概念として用いられ得る。本明細書における「分化を抑制する」とは、分化することを妨げることに加えて、分化前の状態に維持すること、分化後の状態を分化前の状態に戻すことなどを含み得る。
【0023】
例えば、「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の物質が組み合わさってなる物であり、具体的には、有効成分と別の物質とが組み合わさってなるもの、有効成分の2種以上が組み合わさってなるものなどが挙げられ、より具体的には、有効成分の1種以上と固形物又は溶媒の1種以上とが組み合わさってなる固形組成物及び液性組成物などが挙げられる。
【0024】
粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物は、含有する有効成分が機能することにより、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を示す。
【0025】
しょうゆ中のエタノール可溶性成分は、しょうゆ中の成分のうち、エタノールに溶解可能な成分を意味する。ここで、エタノールは、99.9vol%以上のエタノールに加えて、エタノールを溶媒に溶かした溶液であってもよい。該溶媒は、エタノールに対して相溶性の溶媒であれば特に限定されないが、本発明の一態様の組成物を経口用途に用いることを考慮すれば、水であることが好ましい。したがって、エタノールは、エタノールそれ自体に加えて、含水エタノールであることが好ましい。
【0026】
しょうゆ中のエタノール可溶性成分について、後述する実施例に記載があるとおり、しょうゆ中のODSカラムに対して吸着性を有する成分のうち、5vol%以上の含水エタノールにより溶出する成分は、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を示す傾向にある。したがって、しょうゆ中のエタノール可溶性成分としては、エタノール濃度が5vol%以上である含水エタノールに溶解可能な成分である5vol%以上の含水エタノール可溶性成分が好ましく、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用の強度の観点から、5vol%の含水エタノール可溶性成分及び99vol%以上の含水エタノール可溶性成分がより好ましい。
【0027】
さらに、後述する実施例に記載があるとおり、しょうゆ中の成分のうち、水に溶解する成分、特に水に溶解し、かつ、エタノール濃度が50vol%である系では不溶である成分は、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を実質的に示さない傾向にある。したがって、エタノール可溶性成分としては、水に実質的に溶解しない水不溶性のエタノール可溶性成分であることが好ましい。
【0028】
本発明の一態様の組成物は、しょうゆ中のエタノール可溶性成分を含有するものであれば特に限定されない。一方で、
図4に示すとおり、しょうゆ中の成分をエタノールで抽出したものは様々な成分を含有し得るものであり、それ自体が組成物といえる。そこで、本発明の一態様の組成物の具体例として、しょうゆを5vol%以上の含水エタノールで抽出して得られるしょうゆのエタノール抽出物が挙げられ、しょうゆの5vol%の含水エタノール抽出物、しょうゆの99vol%以上の含水エタノール抽出物及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0029】
しょうゆは、通常知られているとおりのものであれば特に限定されず、例えば、農林水産省により示されている「しょうゆ品質表示基準」において定義付けされているものを挙げることができる。
【0030】
しょうゆの具体例としては、例えば、こいくちしょうゆ、うすくちしょうゆ、たまりしょうゆ、さいしこみしょうゆ、しろしょうゆ、だししょうゆ、照りしょうゆ、生揚げしょうゆなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
しょうゆは、上記の例示したしょうゆなどをさらなる加工処理に供したものであってもよい。このような加工処理は特に限定されないが、例えば、脱塩処理や希釈処理などが挙げられる。また、しょうゆは、しょうゆ中の特定の成分を減少若しくは排除又はしょうゆに特定の成分を追加する意図をもって製造したしょうゆであってもよく、例えば、無塩下又は減塩下で製造したしょうゆ、トマトなどの野菜成分を追加するように製造したしょうゆなどが挙げられる。しょうゆは、これらのうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0032】
しょうゆのより具体的な例としては、本願出願人であるキッコーマン社から市販されているものを挙げることができ、具体的には「キッコーマン しょうゆ」、「キッコーマン 特選丸大豆しょうゆ」、「キッコーマン 特選丸大豆減塩しょうゆ」、「キッコーマン 減塩しょうゆ」、「キッコーマン 特選有機しょうゆ」、「キッコーマン うすくちしょうゆ」などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
しょうゆ中のエタノール可溶性成分は、その製造方法について特に限定されず、例えば、常法に従って、しょうゆ及びエタノールを用いてエタノール可溶性成分を抽出、分画などする方法が挙げられる。
【0034】
エタノール可溶性成分を抽出する方法としては、例えば、しょうゆとエタノールとを混合し、次いで得られた混合液を、通常知られている固液分離手段に供して、固形物を除去することにより、しょうゆのエタノール抽出物としてエタノール可溶性成分を抽出することを含む方法などが挙げられる。さらに、エタノール可溶性成分は固形物として得てもよく、例えば、しょうゆのエタノール抽出物をエバポレーターやカラムなどを用いる濃縮処理や凍結乾燥機などを用いる乾燥処理などに供して、しょうゆのエタノール抽出物の乾燥物を得ることができる。
【0035】
また、しょうゆとエタノールとを混合して得た固形物から、例えば、該固形物と水とを混合し、次いで得られた混合物を、通常知られている固液分離手段に供することにより、水に不溶性のエタノール可溶性成分を取得することができる。
【0036】
エタノール可溶性成分を分画する方法としては、例えば、しょうゆを、しょうゆ中のエタノール可溶性成分が吸着し得るカラム(例えば、ODSカラムなどの疎水性カラム)に通液してエタノール可溶性成分を吸着し、次いで通液後のカラムにエタノールを通液して溶出することにより、溶出する時間に応じてエタノール可溶性成分を分画することを含む方法などが挙げられる。この際、通液後のカラムにエタノールを通液する前に水を通液することによりしょうゆ中の水溶性成分を予め溶出して除去してもよい。また、エタノール濃度を段階的に調整した溶離液を用いることにより、エタノール濃度に応じたエタノール可溶性成分を得ることが可能である。エタノール可溶性成分を分画する方法により得られた画分は、一定の性質ごとにまとめて画分集合物としてもよく、濃縮処理及び乾燥処理などに供して固形物としてもよい。ODSカラムは、通常知られているとおりのオクタデシルシリル基で表面が修飾されたシリカゲル樹脂を充填したカラムであれば特に限定されず、例えば、市販されているODSカラムが挙げられ、具体的にはL−Column ODS、L−Column2 ODSなどのL−columnシリーズのカラム(CERI社製);ODS−100S、ODS−120T ODS−120Aなどの逆相クロマトグラフィーカラム(東ソー社製);SP120−40/60−ODS−BなどのODS−Bシリーズのカラム(ダイソー社製);J’sphere ODS−L80、J’sphere ODS−H80などのODSカラム(YMC社製)などが挙げられる。
【0037】
しょうゆ中のエタノール可溶性成分は、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を有するものであれば特に限定されない。ただし、後述する実施例に記載があるとおり、しょうゆ中のエタノール可溶性成分を、ODSカラムを用いてグラジエント的に分画して得たものである場合、主として5vol%以上の含水エタノールで溶出した画分は、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を示す傾向にある。そして、これらのタンパク質濃度は30wt%以上である。したがって、しょうゆ中のエタノール可溶性成分は、固形物あたりのタンパク質の量が30wt%以上であることが好ましく、40wt%以上であることがより好ましく、50wt%以上であることがさらに好ましく、60wt%以上であることがなおさらに好ましい。
【0038】
粘膜型マスト細胞への分化抑制作用は、非粘膜型マスト細胞から粘膜型マスト細胞への分化を抑制する作用であって、結果として粘膜型マスト細胞の割合を低め得る作用であれば、その作用機序、合わせて伴う他の作用、程度などについては特に限定されない。粘膜型マスト細胞への分化抑制作用としては特に限定されないが、例えば、非粘膜型マスト細胞の増殖に適した条件下や非粘膜型マスト細胞から粘膜型マスト細胞への分化に適した条件下における、非粘膜型マスト細胞から粘膜型マスト細胞への分化を抑制する作用が挙げられる。
【0039】
本発明者らは、非粘膜型マスト細胞として、FcεRIα及びc−Kitを発現し、かつ、粘膜型マスト細胞が特異的に発現するタンパク質を実質的に発現しない未成熟マスト細胞株を、IL−3及びIL−10の存在下で培養することにより、粘膜型マスト細胞へ分化し得ることを見出している。そこで、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用は、例えば、IL−3及びIL−10の存在下で、未成熟マスト細胞株から粘膜型マスト細胞への分化を抑制する作用であることが好ましい。未成熟マスト細胞株の具体的な例としては、FcεRIα及びc−Kitを発現し、かつ、MMCP(Mouse Mast Cell Protease)−1、MMCP−2、MMCP−3、MMCP−4、MMCP−5、MMCP−6及びカルボキシペプチダーゼAを実質的に発現しない未成熟マスト細胞株などが挙げられ、より具体的な例としてはマウスの肝臓に由来するマスト細胞を株化したMC/9細胞などが挙げられる。
【0040】
粘膜型マスト細胞への分化抑制作用は、その評価方法について特に限定されず、例えば、粘膜型マスト細胞が特異的に発現する遺伝子の発現量を測定すること、粘膜型マスト細胞が細胞内外に発現するマーカー分子(タンパク質)を測定すること、粘膜型マスト細胞の数や割合を測定することなどにより評価することができる。例えば、粘膜型マスト細胞が細胞内に特異的に発現するタンパク質について、標識化抗体を用いて細胞内標識をし、次いで標識した細胞の数及び割合を測定することにより評価することができる。
【0041】
粘膜型マスト細胞が細胞内に特異的に発現するタンパク質は、例えば、マウスの系ではMMCP−1及びMMCP−2などが挙げられる。
【0042】
粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を評価する具体的な第1の評価系は、IL−3及びIL−10の存在下で、MC/9細胞と本発明の一態様の組成物とを共培養し、次いで培養した細胞の量及び割合(population)並びにMMCP−1について標識化した粘膜型マスト細胞(MMCP−1陽性細胞)のpopulationを測定することを含む方法である。粘膜型マスト細胞のpopulationは、例えば、フローサイトメトリーなどの方法、ELISAやラジオイムノアッセイ(RIA)などの抗原抗体反応を利用する方法などにより測定することができるが、特に限定されない。
【0043】
粘膜型マスト細胞への分化抑制作用を評価する具体的な第2の評価系は、IL−3及びIL−10の存在下で、MC/9細胞と本発明の一態様の組成物とを共培養し、次いで培養後に回収した細胞からRNAを抽出し、次いで抽出したRNAを逆転写してcDNAライブラリーを得て、次いで得られたcDNAライブラリーを基にMMCP−1遺伝子の発現量を測定することを含む方法である。
【0044】
第1及び第2の評価系で用いるIL−3及びIL−10は、それぞれ通常知られているとおりのサイトカインであれば特に限定されない。IL−3及びIL−10は、その入手方法について特に限定されないが、例えば、市販されているものを利用することやT細胞やB細胞などのIL−3やIL−10を分泌する細胞から得た培養上清などを常法に従って分離精製することなどによって入手することできる。IL−3及びIL−10は、その由来生物種については特に限定されず、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、イヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ブタなどの哺乳類が挙げられるが、高度な分化誘導活性が認められるために、マスト細胞と同一の由来生物種であることが好ましい。
【0045】
第1及び第2の評価系におけるMC/9細胞と本発明の一態様の組成物とを共培養させる条件は特に限定されず、例えば、IL−3及びIL−10が失活せず、かつ、MC/9細胞が死滅しないような条件を挙げることができ、マスト細胞の維持又は増殖に適した培地、温度、CO
2濃度、pHなどを採用した培養条件であることが好ましい。この際、IL−3及びIL−10に加えて、他の成分が系内に存在していてもよい。他の成分は、サイトカインが失活せず、かつ、マスト細胞が死滅しないような成分であれば特に限定されないが、例えば、細胞培養に通常用いる成分が挙げられ、より具体的には2−メルカプトエタノールなどの還元剤、血清やL−グルタミンなどの細胞増殖に適した栄養成分、ペニシリンやストレプトマイシンなどの抗生物質、IL−2といったサイトカインなどの生理活性物質などが挙げられる。他の成分の使用量は、本発明の目的を達成し得る範囲内において、適宜設定することができる。
【0046】
粘膜型マスト細胞への分化抑制作用は、その程度について特に限定されないが、例えば、上記の第1の評価系により、本発明の一態様の組成物を用いない場合と比べて、MMCP−1が陽性である粘膜型マスト細胞(MMCP−1陽性細胞)の割合を低める作用であり、好ましくはMMCP−1陽性細胞の割合を0.9倍以下に低める作用であり、より好ましくはMMCP−1陽性細胞の割合を0.8倍以下に低める作用であり、さらに好ましくはMMCP−1陽性細胞の割合を0.7倍以下に低める作用である。
【0047】
本発明の別の一態様は、しょうゆ中のエタノール可溶性成分を有効成分として含有する、又は粘膜型マスト細胞への分化抑制用組成物を有効成分として含有する、抗アレルギー用組成物である。
【0048】
抗アレルギー用組成物は、通常知られているとおりのものであれば特に限定されず、例えば、アレルギーの症状、アレルギーと関連した疾患の症状及び自己免疫症状などを改善、緩和、抑制、治療若しくは予防するための、又は免疫療法の用に供するための組成物であり得る。
【0049】
抗アレルギー用組成物は、消化器官系、例えば、腸、胃、鼻腔、咽頭、口腔などの器官における粘膜組織を介するアレルギーを対象とするものであることが好ましく、食物アレルギー、花粉症、胃炎、腸炎、下痢、潰瘍性大腸炎、鼻炎、気管支炎、気管支喘息、レフレル症候群及び口内炎を対象とするものであることがより好ましい。しょうゆやみそなどの発酵食品は食物性アレルゲンを含む食材や食品とともに摂取する頻度が高いことから、食物アレルギーを対象とするものであることが好ましく、食物性アレルゲンが接触する可能性がある腸、胃、咽頭、口腔などの器官における粘膜組織を介するアレルギーを対象とするものであることがより好ましい。
【0050】
免疫応答のメカニズムは未解明な部分が多く、本発明の技術的範囲はいかなる理論や推測にも拘泥されるものではないが、抗アレルギー用組成物は、例えば、適用した被験体において、粘膜型マスト細胞の割合を低下させることにより、粘膜型マスト細胞が活性化することによる脱顆粒、炎症性サイトカインの産生、脂質メディエータの産生などのいずれかの生理的現象の程度を減弱することができ、これにより抗アレルギー作用を発揮し得る。
【0051】
抗アレルギー作用は、その評価方法について特に限定されず、例えば、当業者にとって公知の方法を特に限定せずに挙げることができ、具体的には適用した被験体におけるアレルギーの症状の程度を測定すること、粘膜型マスト細胞から遊離した、又は産生された生理活性物質を測定すること、粘膜型マスト細胞の割合や数を測定することなどにより評価する方法が挙げられる。
【0052】
本発明の一態様の組成物の適用対象は特に限定されず、例えば、動物、中でも哺乳類が挙げられ、哺乳類としてはヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマなどが挙げられ、これらの中でもヒトであることが好ましい。適用対象は、健常な対象であってもよいが、アレルギーの治療又は予防が望まれる対象であることが好ましい。
【0053】
アレルギーの治療又は予防が望まれる対象としては、例えば、粘膜組織を介したアレルギーに罹患している者又はその可能性がある者が挙げられ、小麦アレルギーや大豆アレルギーなどの食物アレルギーを発症している者及び該食物アレルギーを発症する可能性がある者であることが好ましい。
【0054】
本発明の一態様の組成物は、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用及び抗アレルギー作用を有することから、例えば、食物アレルギーを引き起こす可能性がある食物性アレルゲンを含有する食材や食品と併用することができる。本発明の一態様の組成物と併用される食材や食品としては特に限定されないが、例えば、大豆、小麦などの麦などの食物性アレルゲンを含有する食品が好ましい。本発明の一態様の組成物と併用される食材や食品は、本発明の一態様の組成物と同時的に、又はこれと前後して摂取され得る。
【0055】
本発明の一態様の組成物は、その適用方法について特に限定されず、例えば、経口的又は非経口的に適用され得る。非経口的な適用としては、皮内、皮下、静脈内、筋肉内投与などによる注射及び注入;経皮;鼻、咽頭などの粘膜からの吸入などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
本発明の一態様の組成物は、粘膜型マスト細胞への分化抑制作用及び抗アレルギー作用が用量依存傾向にあることから、それらの適用量は年齢、体格、症状などの適用対象の特性;適用方法;適用部位などに合わせて適宜設定することができる。具体的には、本発明の一態様の組成物の摂取量は、例えば、0.001〜1,000mg/体重60kg/日であるが、これに限定されない。摂取回数は特に限定されないが、例えば、1日1〜3回であり、摂取量に応じて適宜回数を増減することができる。
【0057】
本発明の一態様の組成物は、これを経口的に摂取することにより、経口免疫寛容が誘導又は増強される場合がある。その結果として、経口免疫寛容により、例えば、食物アレルギーなどのアレルギー症状や自己免疫症状を改善、緩和、抑制、治療又は予防することが可能となる。
【0058】
また、本発明の一態様の組成物は、粘膜型マスト細胞により産生される炎症性サイトカインや炎症性メディエータなどの生理活性物質が関与する、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、乾癬、潰瘍性大腸炎、クローン病などの症状を改善、緩和、抑制、治療又は予防することが期待できる。
【0059】
本発明の一態様の組成物は、該組成物を単独で、又は該組成物を配合する飲食品組成物や医薬品組成物などの形態をとり得る。したがって、本発明の具体的な一態様は、しょうゆ中のエタノール可溶性成分を有効成分として含有する、又は本発明の一態様の組成物を含有する、飲食品組成物、医薬品組成物、医薬部外品組成物、化粧品組成物、動物飼料組成物などである。
【0060】
本発明の一態様の組成物が飲食品組成物である場合は、本発明の目的を達成し得る限り、食経験のある、天然物及び非天然物並びにこれらの含有物を配合してもよい。例えば、飲食品組成物には、抗アレルギー効果や経口免疫寛容増強効果が知られている、フラボノイド、ゲニステイン、ゲニスチンなどを含む豆乳;醤油などに含まれる大豆発酵多糖類;ビタミンCなどのビタミン類などを配合することが好ましい。
【0061】
飲食品組成物に含有してもよい他の成分としては、例えば、糖質甘味料、安定化剤、乳化剤、澱粉、澱粉加工物、澱粉分解物、食塩、着香料、着色料、酸味料、風味原料、栄養素、果汁、卵などの動植物性食材、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、香油などの通常の食品加工に使用される添加物を挙げることができる。添加物の使用量は、本発明の課題の解決を妨げない限り特に限定されず、適宜設定され得る。
【0062】
飲食品組成物は、通常用いられる形態であれば特に限定されず、例えば、固形状、液状、ゲル状、懸濁液状、クリーム状、シート状、スティック状、粉状、粒状、顆粒状、錠状、棒状、板状、ブロック状、ペースト状、カプセル状、カプレット状などの各形態を採り得る。
【0063】
飲食品組成物の具体的な一態様は、例えば、生体に対して一定の機能性を有する飲食品である機能性飲食品である。機能性飲食品は、例えば、特定保健用飲食品、機能性表示飲食品、栄養機能飲食品、保健機能飲食品、特別用途飲食品、栄養補助飲食品、健康補助飲食品、サプリメント、美容飲食品などのいわゆる健康飲食品に加えて、乳児用飲食品、妊産婦用飲食品、高齢者用飲食品などの特定者用飲食品を包含する。さらに機能性飲食品は、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康飲食品を包含する。
【0064】
飲食品組成物の包装形態は特に限定されず、適用される形態などに応じて適宜選択できるが、例えば、PTPなどのブリスターパック;ストリップ包装;ヒートシール;アルミパウチ;プラスチックや合成樹脂などを用いるフィルム包装;バイアルなどのガラス容器;アンプルなどのプラスチック容器などが挙げられる。
【0065】
本発明の一態様の組成物が医薬品組成物である場合は、適用後に少なくとも粘膜型マスト細胞への分化抑制作用が発揮し、それに伴いアレルギーの症状やアレルギーに関連のある疾患の症状を治療又は予防し得る限り、あらゆる医薬品の形態をとり得る。医薬品組成物には、本発明の目的を達成し得る限り、特許文献1に記載されている有効成分などの他の粘膜型マスト細胞への分化抑制作用又は抗アレルギー作用を有する生理活性物質を配合することができる。このような生理活性物質の他の具体例としては、抗IL−10受容体抗体、IL−10アナログ、IL−10受容体拮抗阻害剤、IL−10との複合体形成物質、抗IL−3受容体抗体、IL−3アナログ、IL−3受容体拮抗阻害剤、IL−3との複合体形成物質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
医薬品組成物には、有効成分以外に様々な目的に対するその他の成分を含めてもよく、このようなその他の成分としては、例えば保存剤、緩衝剤などが挙げられる。保存剤としては、ナトリウム重亜硫酸、ナトリウム重硫酸、ナトリウムチオ硫酸塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、メチルパラベン、ポリビニルアルコール、フェニルエチルアルコール、アンモニア、ジチオスレイトール、ベータメルカプトエタノールなどが挙げられる。また、緩衝剤としては、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが挙げられる。これら薬剤は、系のpHを2〜9、好ましくは4〜8の間で維持することができる量で存在することができる。
【0067】
医薬品組成物の剤型は特に限定されないが、例えば、注射剤(筋肉、皮下、皮内)、経口製剤、点鼻製剤などが例示される。例えば、医薬品組成物は、食物アレルギーなどのアレルギー疾患を治療するためのワクチンとして調製することができる。医薬品組成物がワクチンの形態である場合、複数種類の有効成分を含む混合カクテルワクチンであってもよい。
【0068】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0069】
しょうゆ中のエタノール可溶性成分が粘膜型マスト細胞の分化を抑制する効果を有することについて、しょうゆのエタノール抽出物及びしょうゆのエタノール分画物を用いて、以下のとおりに評価した。
【0070】
マウスの粘膜型マスト細胞は、マスト細胞の表面マーカー分子であるFcεRIα及びc−Kitを発現すると同時に、細胞内にMMCP−1というプロテアーゼを発現する。マウスマスト細胞株であるMC/9は、FcεRIα及びc−Kitを発現しているが、粘膜型のマーカーであるMMCP−1を発現していない。そこで、MC/9から粘膜型マスト細胞(MMCP−1陽性細胞)への分化を利用して、しょうゆ抽出物が有する分化抑制効果について、下記の実験を実施した。
【0071】
1.細胞培養のための培地の調製
SIGMA社製Dulbecco’s Modified Eagle’s培地に、下記の終濃度になるように試薬を添加して、培地を調製した。
10%(w/v) FBS
1%(w/v) Penicilline/Streptomycin
2mM L−glutamine
0.05mM 2−mercaptoethanol
10%(w/v) Rat T−STIM(日本ベクトン・ディッキンソン社製)
【0072】
2.MC/9細胞懸濁液の調製
MC/9(ATCC CRL−8306)凍結ストックを培地に添加し、週に2回程度培地を交換しながら培養した。5継代(P5)の時点で3×10
6 cells/mLのワーキングストックを作成した。ワーキングストックを培地に添加し、培養後週に2回程度で継代しながら培養することにより、P9以降の細胞を回収した。回収した細胞について、培地で1回洗浄した後、トリパンブルー(Gibco社製)で懸濁し血球計算板を用いて細胞数を計測した。その後、2×10
6 cells/mLになるように培地に懸濁することにより、MC/9細胞懸濁液を調製した。
【0073】
3.サイトカイン溶液の調製
mouse recombinant protein IL−3(100μM;eBioscience社製)及びmouse recombinant protein IL−10(100μM;eBioscience社製)を、それぞれ120ng/mlとなるように培地で希釈して、IL−3溶液及びIL−10溶液を調製した。
【0074】
4.例1〜例4の被験試料の調製
下記に示すスキーム(I)により例1〜例4の被験試料を調製した。
【0075】
【化1】
【0076】
すなわち、こいくちしょうゆ(キッコーマン社製) 500mlとエタノール 500mlとをビーカーに加え、撹拌後4℃下でオーバーナイトにて静置した。得られた混合物を、ろ紙を用いてろ過して、沈殿物(1)及び上清(1)を得た。次いで、沈殿物(1)を50mlの水に溶解し、次いで遠心分離をすることにより沈殿物(2)及び上清(2)を得た。上清(2)を10万カットフィルターによりろ過して、フィルターろ過液及びフィルター残液を得た。沈殿物(2)は、凍結乾燥することにより、凍結乾燥物とした。上清(1)、フィルターろ過液及びフィルター残液は、エバポレーションにより濃縮し、次いで凍結乾燥することにより、これらの溶液の凍結乾燥物を得た。
【0077】
沈殿物(2)、上清(1)、フィルターろ過液及びフィルター残液の凍結乾燥物について、しょうゆ中に含まれる各固形物の濃度になるように培地を用いて調製した。例えば、前項のようにしょうゆ500mlから抽出した沈殿物(2)を凍結乾燥後、培地500mlに溶解した。本溶液をしょうゆ原液中に含まれる濃度の沈殿物(2)溶液とした。
【0078】
上記のようにして得られた沈殿物(2)、上清(1)、フィルターろ過液及びフィルター残液の凍結乾燥物の培地溶解液をそれぞれ例1〜例4の被験試料とした。
【0079】
5.例5〜例15の被験試料の調製
例5〜例15の被験試料を調製するために、しょうゆ分画を下記のように実施した。
【0080】
すなわち、市販のODS 18Lが詰められたカラムに、こいくちしょうゆ(キッコーマン社製) 3Lを蒸留水で4倍に希釈した液 12Lを、ポンプを用いてロードした。次いで蒸留水 72L、3vol%エタノール 54L、5vol%エタノール 54L、10vol%エタノール 54L、30vol%エタノール 18L、60vol%エタノール 18L及び99vol%エタノール 54Lの順に合計324Lの溶離液を流した。1フラクションあたり約1.5〜1.9Lの体積として、溶離した順に計191画分を得た。
【0081】
得られた191画分について、UV220nm、280nm及び440nmにおける吸光度を測定し(
図1を参照)、特徴的なピークを呈する画分をまとめることで、下記の計11の画分集合物を得た:画分集合物A(フラクション1−17)、画分集合物B(フラクション18−27)、画分集合物C(フラクション28−56)、画分集合物D−I(フラクション57−60)、画分集合物D−II(フラクション61−62)、画分集合物D−III(フラクション63−85)、画分集合物D−IV(フラクション86−115)、画分集合物E−I(フラクション116−128)、画分集合物E−II(フラクション129−147)、画分集合物F(フラクション148−156)、画分集合物G(フラクション157−191)。
【0082】
上記の方法で得られた画分集合物のうち、画分集合物Aを除く画分集合物B〜Gについて、エバポレーションにより濃縮し、次いで凍結乾燥することにより固形化した。得られた画分集合物B〜Gの固形物について、しょうゆ中に含まれる各画分の濃度(mg/ml)になるように培地を用いて調製した。例えば、画分集合物D−IVの固形物の質量は7,800mgであり、これは3Lのしょうゆに含まれていたことから(7,800mg/3L=2.6mg/ml)、画分集合物D−IVの固形物の一定量を採取し、その量に応じた体積の培地を用いることにより、画分集合物D−IVの2.6mg/ml溶液を調製した。
【0083】
上記のようにして得られた画分集合物Aの溶液及び画分集合物B〜Gの凍結乾燥物の培地溶解液を、それぞれ例5〜例15の被験試料とした。
【0084】
6.培養方法
96ウェル平底プレート(BD FALCON社製)の各ウェルに、内容物が下記に示す所定の最終濃度になるように例1〜15の被験試料及び培地を添加して、初発細胞数を1.0×10
5cells/wellとし、それぞれ30ng/mlのIL−3及びIL−10の存在下で3日間培養した。ただし、上記培地として、Rat T−STIMを含有しない培地を用いた。
例1の被験試料の希釈倍率:20倍、60倍、120倍、240倍、480倍、960倍
例2の被験試料の希釈倍率:30倍、60倍、120倍、240倍、480倍、960倍
例3及び例4の被験試料の希釈倍率:15倍、30倍、60倍、120倍、240倍、480倍、960倍
例5〜例10の被験試料の希釈倍率:120倍
例11の被験試料の希釈倍率:60倍、120倍、240倍、480倍、960倍、1,920倍及び3,840倍
例12〜例13の被験試料の希釈倍率:60倍、120倍、240倍、480倍、960倍
例14〜例15の被験試料の希釈倍率:60倍、120倍、240倍、480倍、960倍、1,920倍及び3,840倍
【0085】
7.細胞数計測のためのFACSAria解析
培養後に回収した細胞を、1×PBS/2%FBSで2回洗浄した後、Fcブロック(BD Bioscience社製)と反応させた。次いで、反応後の細胞を、PE標識anti−mouse FcεRIα(Biolegend社製)及びPE/cy7標識anti−mouse CD117(c−Kit)(Biolegend社製)と反応させた。次いで、反応後の細胞を、1×PBSで1回洗浄した後、Fixable Viability Dye eFluor 450(eBioscience社製)と反応させた。
【0086】
次いで、反応後の細胞を、1×PBS/2%FBSで1回洗浄した後、ICバッファー(eBioscience社製)を用いて固定化した。次いで、固定化した細胞を、Permeabilizationバッファー(eBioscience社製)を用いて洗浄した後、Alexa647標識抗MMCP−1抗体(purified anti−mouse MCPT−1(mMCP−1)(eBioscience社製)をAlexaFlour647 Antibody Labeling Kit(life technology社製)にて標識したもの)と反応させ細胞内標識を行った。次いで、標識した細胞を、1×PBS/2%FBSで洗浄し、さらに同バッファー200μLに懸濁した後、FACSAriaを用いて解析した。
【0087】
FACSAria解析の結果について、例1(沈殿物(2))の被験試料の20〜240倍希釈物及び例2(上清(1))の被験試料の30〜240倍希釈物を用いた場合の結果をまとめたものを
図1に示す。
【0088】
例5〜例15(画分集合物A〜G)の被験試料の120倍希釈物及びこいくちしょうゆの120倍希釈物を用いた場合の結果をまとめたものを
図2に示す。
【0089】
例11(画分集合物D−IV)の被験試料の240倍、480倍、960倍及び1,920倍希釈物;例12〜例14(画分集合物E−I〜F)の被験試料の90倍、120倍、240倍及び480倍希釈物;例15(画分集合物G)の被験試料の240倍、480倍、960倍及び1,920倍希釈物;並びに脱塩しょうゆの90倍、120倍、240倍及び480倍希釈物を用いた場合の結果をまとめたものを
図3に示す。
【0090】
(1)例1〜例4の結果(
図1A〜C)
図1A及び1Bが示すとおり、上清(1)に含まれる成分として、50vol%のエタノール濃度にて溶解するしょうゆ中の成分は、MMCP−1陽性細胞の割合及び数を濃度依存的に低下させる活性を有することが確認できた。一方で、沈殿物(2)に含まれる成分として、50vol%の濃度のエタノールでは溶解せずに、さらに水にも溶解しないしょうゆ中の成分は、そのような活性を有していないことが確認できた(
図1A〜1Cを参照)。
【0091】
また、フィルターろ過液及びフィルター残液に含まれる成分については、MMCP−1陽性細胞の割合を低下させる活性はほとんど認められなかった。
【0092】
これらの結果より、しょうゆのエタノール抽出物はIL−3及びIL−10の存在下におけるMC/9細胞からMMCP−1陽性細胞への分化を抑制する作用を有し、一方でしょうゆ中のエタノールに溶けにくい水溶性成分(例えば、水溶性多糖など)は、このようなMMCP−1陽性細胞への分化抑制作用を有しないことがわかった。
【0093】
(2)例5〜例15の結果(
図2)
上記例1〜例4の結果より、しょうゆのエタノール抽出物はMMCP−1陽性細胞への分化抑制作用を有することがわかった。そこで、カラムに吸着させたしょうゆ中の成分をグラジエント的にエタノールで溶出し、どの画分がMMCP−1陽性細胞への分化抑制作用を有するかを評価した。
【0094】
その結果、
図2A〜2Cに示すとおり、IL−3及びIL−10の存在下において、脱塩しょうゆや画分集合物を添加しない場合と比べると、脱塩しょうゆを添加した場合に、MMCP−1陽性細胞の割合及び数は低下したが、総細胞数については影響がなかった(
図2の「all」を参照)。
【0095】
一方、各画分集合物を添加した場合について、MMCP−1陽性細胞の割合は、画分集合物D−IV、E−II、F及びGを添加したときに低下し、これらの画分集合物はMMCP−1への分化抑制作用を示すことがわかった。特に、画分集合物D−IV及びGについては、顕著なMMCP−1への分化抑制作用を示すことがわかった。
【0096】
図2の結果より、しょうゆのエタノール抽出物のうち、5vol%以上のエタノールを用いた抽出物(画分集合物D−IV〜G)の中にはMMCP−1陽性細胞への分化抑制作用を示すものがあることが認められ、特に、画分集合物D−IV(主として、5vol%エタノール抽出物)、画分集合物E−II(主として、30vol%エタノール抽出物)、画分集合物F(主として、60vol%エタノール抽出物)及び画分集合物G(主として、99vol%エタノール抽出物)には、顕著にMMCP−1陽性細胞への分化抑制作用を示すことが確認された。
【0097】
その一方で、しょうゆの水溶性成分を含有するものは、MMCP−1陽性細胞への分化抑制作用をほとんど示さなかった(
図2中の画分集合物A〜Cを参照)。
【0098】
図2の結果は、しょうゆ中のエタノール可溶性成分はMMCP−1陽性細胞への分化抑制作用を示し、かつ、しょうゆの水溶性成分はMMCP−1陽性細胞への分化抑制作用を実質的に示さないという例1〜例4の被験試料を用いた結果(
図1A)とよく一致する。
【0099】
(3)例5〜例15の結果(
図3)
図2の結果より、D−IV以降の画分集合物に、MMCP−1陽性細胞への分化抑制活性を有する成分が集中して存在する可能性が示唆された。そこで、画分集合物D−IV、E−I、E−II、F及びGについて、様々な濃度に希釈して培養液に添加し、MMCP−1陽性細胞への分化抑制活性を評価した。その結果、画分集合物D−IV、F及びGは、MMCP−1陽性細胞の割合及び数を濃度依存的に低下させる活性を有することが確認できた(
図3A及び3Bを参照)。その一方で、総細胞数への影響はなかった(
図3Cを参照)。このうち、画分集合物D−IV及びGは、MMCP−1陽性細胞の割合を濃度依存的に低下させる活性が顕著であった。
【0100】
図2及び
図3の結果より、しょうゆ中のエタノール可溶性成分のうち、画分集合物D−IV及びGに含まれる成分は、濃度依存的にMC/9細胞からのMMCP−1陽性細胞への分化を抑制する作用を格別顕著に示すことが確認された。
【0101】
8.しょうゆ抽出物のUV吸収スペクトル分析
例5〜例15(画分集合物A〜G)の被験試料について、UV吸収スペクトル分析機であるVientoXS(DSファーマバイオメディカル社製)を用いて、波長220nm、280nm及び440nmのUV吸収スペクトルを測定した結果を
図4に示す。
【0102】
9.しょうゆ抽出物のタンパク質濃度測定
例6〜例15(画分集合物B〜G)の被験試料について、「バイオ・ラッド プロテインアッセイ」(バイオ・ラッド社製)を用いて、タンパク質濃度を測定した結果を表1に示す。表1の結果より、MMCP−1陽性細胞への分化抑制作用がみられる画分集合物D−IV、F及びGについては、60wt%以上のタンパク質を含有するものであることがわかった。
【0103】
【表1】