特許第6842696号(P6842696)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧

特許6842696化合物、化合物の合成方法及び有機半導体材料
<>
  • 特許6842696-化合物、化合物の合成方法及び有機半導体材料 図000019
  • 特許6842696-化合物、化合物の合成方法及び有機半導体材料 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842696
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】化合物、化合物の合成方法及び有機半導体材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/06 20060101AFI20210308BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20210308BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20210308BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20210308BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20210308BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210308BHJP
【FI】
   C07D495/06CSP
   C07F7/08 W
   C09K11/06 635
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 250H
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-45662(P2017-45662)
(22)【出願日】2017年3月10日
(65)【公開番号】特開2018-150248(P2018-150248A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】大山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大下 浄治
【審査官】 谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−177635(JP,A)
【文献】 特開2008−140989(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0292130(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/06
C07F 7/08
C09K 11/06
H01L 51/05
H01L 51/30
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される、
【化1】

(式1中、Rはそれぞれ独立して水素、又は分岐していてもよく置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはシリル基を表す。)
ことを特徴とする化合物。
【請求項2】
式13で表される化合物を酸化触媒存在下で環化させ、式1で表される化合物を合成する工程を備える、
【化2】

(式1及び式13中、Rはそれぞれ独立して水素、又は分岐していてもよく置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはシリル基を表す。)
ことを特徴とする請求項1記載の化合物の合成方法。
【請求項3】
前記酸化触媒としてFeCl/CHNOを用いる、
ことを特徴とする請求項2に記載の化合物の合成方法。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物を含有する、
ことを特徴とする有機半導体材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、化合物の合成方法及び有機半導体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、有機薄膜太陽電池や有機電界効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセンスなど有機半導体デバイスの普及が進んでいる。有機半導体デバイスでは、薄膜化や大面積化、柔軟性などで無機半導体デバイスに対して優れるが、キャリヤ移動度や変換効率等の半導体特性は無機半導体デバイスに対して一般的に劣る。したがって、これらの半導体特性を向上し得る有機半導体材料の研究、開発が盛んに行われている。
【0003】
有機半導体材料として用いられる化合物では、キャリヤ移動度やパッキング等を向上させるべく、平面性の高い骨格を有するものが望まれている。有機半導体材料として用いられる化合物として、これまで6員環や5員環が縮合したπ共役骨格を有する化合物が数多く提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−184310号公報
【特許文献2】特開2010−161323号公報
【特許文献3】特開2010−232368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3など、これまで種々の化合物が提案されているが、より平面性の高い骨格を有する化合物が望まれている。
【0006】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は平面性が高い骨格を有する化合物、化合物の合成方法及び有機半導体材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係る化合物は、
式1で表される、
【化1】

(式1中、Rはそれぞれ独立して水素、又は分岐していてもよく置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはシリル基を表す。)
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の観点に係る化合物の合成方法は、
式13で表される化合物を酸化触媒存在下で環化させ、式1で表される化合物を合成する工程を備える、
【化2】

(式1及び式13中、Rはそれぞれ独立して水素、又は分岐していてもよく置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはシリル基を表す。)
ことを特徴とする。
【0009】
また、前記酸化触媒としてFeCl/CHNOを用いることが好ましい。
【0010】
本発明の第3の観点に係る有機半導体材料は、
本発明の第1の観点に係る化合物を含有する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る化合物は、フェナントレンの9位,8位、及び、10位,1位にそれぞれチオフェン環が縮合した骨格を有していることから、平面性の高い化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(A)、(B)はそれぞれ化合物4、化合物5の光吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示すグラフである。
図2図2(A)、(B)はそれぞれ化合物4、化合物5のCV測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(化合物)
本実施の形態に係る化合物は、式1で表される。式1中、Rはそれぞれ独立して水素、分岐していてもよく置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又は、シリル基を表す。
【0014】
【化3】
【0015】
式1で表される化合物は、フェナントレンの9位,8位、及び、10位,1位にそれぞれチオフェン環が縮合した骨格をしている。したがって、式1で表される化合物は、平面性が非常に高いπ共役構造を骨格にもつ。また、式1で表される化合物は、高いモル吸光係数及び蛍光量子収率を呈する。更には、式1で表される化合物は、可逆的な一電子酸化波を示すことから、酸化状態が非常に安定した化合物である。
【0016】
このため、式1で表される化合物では、分子間相互作用も高まるとともに、パッキング効率も高くなり、有機電界効果トランジスタ等に用いた場合でも、高い電荷移動度を示すことが期待できる。また、高効率な有機エレクトロルミネッセンス等の発光素子の材料として有用である。また、高い変換効率を示すことが期待され、有機薄膜太陽電池等の材料にも有用である。
【0017】
有機半導体材料は、上述した式1で表される化合物を少なくとも1種以上含む。有機半導体材料は、式1で表される化合物一種のみ、或いはこれらの化合物を組み合わせた混合物から構成されていてもよいし、式1で表される化合物の特性を阻害しない限り、他の物質を含んでいてもよい。また、公知の手法により不純物がドープされて電荷移動度等が調整されたものであってもよい。
【0018】
化合物1を含有する有機半導体材料は、例えば、有機薄膜太陽電池や有機電界効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセンス等、種々の有機半導体デバイスに利用され得る。
【0019】
(化合物の合成方法)
上述した式1で表される化合物の合成方法について説明する。化合物は、例えば、下記スキーム1に基づいて合成することもできる。
【0020】
【化4】
【0021】
まず、式11で表される化合物と式21で表される化合物とを反応させ、式12で表される化合物を合成する。式21中、Xは臭素等のハロゲン、式12及び式21中、Yはトリアルキルスズを表す。具体的には、式11で表される化合物をTHF(Tetrahydrofuran)等の溶媒に溶解し、TMEDA(tetramethylethylenediamine)等の配位性添加剤及びn−BuLi等の有機金属試薬(酸化触媒)の存在下、式21で表される化合物を加えて反応させる。これにより、式11で表される化合物が酸化されるとともに2つのチオフェン環にそれぞれトリアルキルスズが結合した式12で表される化合物が得られる。
【0022】
次いで、式12で表される化合物と式22で表される化合物とを反応させ、式13で表される化合物を合成する。式22中、Xはハロゲン、式13及び式22中、Rは上述した式1と同義である。具体的には、式12で表される化合物をトルエンやN−メチルピロリドン等の溶媒に溶解させ、Pd(PPh等のパラジウム触媒の存在下、式22で表される化合物を加えて反応させる。式12で表される化合物(有機スズ化合物)と式22で表される化合物(有機ハロゲン化物)とのカップリング(スティルカップリング)反応が生じ、式12のトリアルキルスズが種々の官能基に置換された式13で表される化合物を容易に合成することができる。
【0023】
次いで、式13で表される化合物を環化させて、式1で表される化合物を合成する。酸化触媒を添加することにより、チオフェン環同士が結合する環化反応が生じ、式1で表される化合物が得られる。酸化触媒として、FeCl/CHNOを用いることができる。
【0024】
スキーム1では、2つのチオフェン環にトリアルキルスズ基が結合した式12で表される化合物を合成しているので、式22で表される化合物と有機ハロゲン化物とのカップリング反応により、容易に種々の官能基に置換することができる。したがって、種々の官能基が結合した式1で表される化合物を容易に合成することが可能である。
【0025】
また、化合物1は、下記スキーム2に基づいて合成することもできる。
【0026】
【化5】
【0027】
まず、式11で表される化合物と式22で表される化合物とを反応させ、式13で表される化合物を合成する。式22中、Xは臭素等のハロゲン、式13及び式22中、Rは式1と同義である。スキーム1と同様に、式11で表される化合物をTHF等の溶媒に溶解し、TMEDA等の配位性添加剤及びn−BuLi等の有機金属試薬の存在下、式22で表される化合物を加えて反応させることにより、式13で表される化合物が得られる。
【0028】
次いで、スキーム1と同様にして、式13で表される化合物を環化させて、式1で表される化合物を合成する。
【0029】
なお、スキーム1及びスキーム2の原料となる式11で表される化合物は、後述の実施例(実施例における化合物3)に示すようにして合成し、用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づき、更に化合物について説明する。以下に示すように、段階的に化合物5を合成し、その特性について検証した。
(化合物1の合成)
フラスコ内にNaS(2.50g,32.1mmol)を水90mLに溶解させ、100℃に加熱した。その後、EtOH(300mL)に溶解させた1−Bromo−2,3−bis(bromomethyl)benzene(11.0g,32.1mmol)を2時間かけてゆっくり滴下した。一晩加熱還流後、溶液を濃縮し、ジクロロメタンと水で分液を行い、有機層を抽出した。有機層を水で3回、飽和食塩水で1回分液を行い、硫酸マグネシウムを用いて脱水を行い、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン)により精製し、黄色液体の1を2.75g(収率40%)得た。化合物1の合成反応式を以下に示す。
【0031】
【化6】
【0032】
また、化合物1の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (500MHz, CDCl3) : δ= 4.27 (s, 2H), 4.38 (s, 2H), 7.08 (t, 1H), 7.18 (d, J = 7.55 Hz, 1H), 7.38 (d, J = 7.80 Hz, 1H)
13C-NMR (100MHz, CDCl3) : δ= 39.15, 39.75, 120.31, 123.69, 128.60, 130.21, 141.07, 142.23
IR (ATR) : 2911, 1560, 1440, 1163, 1123,
【0033】
(化合物2の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコ内に、nickel(II)chloride(NiCl)(602mg,4.65mmol)と2,2’−bipyridine(2,2’−bpy)(1.45g,9.30mmol)とdry N,N−Dimethylmethanamide(DMF)15mlを加え、70℃に加熱して撹拌した。10分後、Mg(169mg,6.97mmol)を加えた。20分後、DMF10mlに溶解させた化合物1(1.0g,4.65mmol)をゆっくりと滴下した。その後、一晩撹拌した。溶媒を減圧留去後、ジクロロメタンに溶解させ、残渣をセライトろ過で取り除いた。ろ液を水で3回、飽和食塩水1回で分液を行った。この際、水層のpHが7付近になるよう塩化アンモニウム水溶液で調整した。抽出した有機層を硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ジクロロメタン:ヘキサン=1:2)により精製し、薄黄色固体の化合物2を259mg(収率41%)得た。化合物2の合成反応式を以下に示す。
【0034】
【化7】
【0035】
化合物2の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (500MHz, acetone-d6) : δ= 3.76-4.05 (br, 4H), 4.29 (s, 4H), 7.12 (d, J = 7.0 Hz, 2H), 7.30-7.36 (m, 4H)
13C-NMR (125MHz, CDCl3) : δ= 37.39, 38.17, 123.90, 126.83, 126.94, 137.58, 138.56, 140.93
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H+] calcd for C16H15S2, 271.06097; found 271.06079
m.p. 157.6-159.9 ℃
IR (ATR) : 2901, 1578, 1435, 1260, 1105
【0036】
(化合物3の合成)
フラスコ内に、化合物2(160mg,0.592mmol)とsodium periodate(NaIO)(266mg,1.24mmol)をTHF(10ml)と水(7ml)に溶解させ、室温で一晩撹拌した。反応溶液を減圧留去後、ジクロロメタンに溶解させ、水で3回、飽和食塩水で1回分液した。有機層を抽出後、硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮した。黄色固体の化合物3を166mg(収率93%)得た。化合物3の合成反応式を以下に示す。
【0037】
【化8】
【0038】
化合物3の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (400MHz, acetone-d6) : δ= 3.68-3.85 (br, 2H), 4.15 (t, 4H), 4.43 (t, 2H), 7.26 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 7.45 (t 2H), 7.52 (d, J = 7.6 Hz, 2H)
13C-NMR (125MHz, CDCl3) : δ= 58.28, 58.63, 59.49, 59.58, 126.34, 128.78, 133.99, 136.18, 138.67
HRMS (ESI): m/z (%):[M+H+] calcd for C16H15O2S2, 303.05080; found 303.05099
IR (ATR) : 2968, 2578, 1350, 1383, 1030
【0039】
(化合物4の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコ内に、化合物3(0.500g,1.65mmol)を入れ、dry THF (60mL)に溶解させ、恒温槽(−80℃)に浸した。30分後、tetramethylethylenediamine(TMEDA)(1.48ml,9.92mmol)を加えた。30分後、1.6Mのn−butyllithium(6.20ml,9.92mmol)を30分間かけてゆっくり滴下した。15分後、dry THF(10ml)に溶解させたtert−Butyldimethylsilyl Chloride(TBDMSiCl)(0.748g,4.96mmol)を20分間かけてゆっくり滴下した。その後、室温に戻しながら、一晩撹拌した。反応溶液を水でクエンチし、酢酸エチルで有機層を抽出し、水で3回、飽和食塩水で1回分液を行い、硫酸マグネシウムを用いて脱水後、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン)により精製後、高速液体クロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)で精製し、薄黄色固体の化合物4を325mg(収率40%)得た。化合物4の合成反応式を以下に示す。
【0040】
【化9】
【0041】
化合物4の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) : δ= 0.53 (s, 12H), 0.99 (s, 18H), 7.18-7.23 (m, 4H), 7.78 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 7.81 (s, 2H)
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) : δ= -3.73, 18.37, 26.92, 123.17, 123.25, 123.50, 124.03, 128.34, 134.88, 140.20, 145.12
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H+] calcd for C28H39S2Si2, 495.20262; found 495.20303
IR (ATR) : 2926, 1458, 1360, 1250
m.p. 153.1-155.3 ℃
【0042】
(化合物5の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコに化合物4(200mg,0.404mmol)を加え、dry toluene(8ml)に溶解させ、Arバブリングを室温下で30分間行った。その後、反応系(フラスコ)を遮光し、CHNO(4ml)に溶解させたFeCl(72mg,0.445mmol)をゆっくり滴下した。20分後、反応溶液をアルミナカラムでろ過した。その後、高速液体クロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)で精製し、青色固体の化合物5を100mg(収率50%)得た。化合物5の合成反応式を以下に示す。
【0043】
【化10】
【0044】
化合物5の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, acetone-d6) : δ= 0.52 (s, 12H), 0.99 (s, 18H), 7.22 (t, 2H), 7.54 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 7.78 (d, J = 7.1 Hz, 2H)
13C-NMR (125 MHz, acetone-d6) : δ= -3.81, 19.01, 27.17, 117.37, 123.63, 124.68, 127.88, 131.69, 135.14, 139.11, 146.42
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H+] calcd for C28H37S2Si2, 493.18697; found 493.18680
IR (ATR) : 2926, 1460, 1250
【0045】
続いて、段階的に化合物13を合成した。
(化合物11の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコ内に化合物3(1.00g,3.31mmol)とtetramethylethylenediamine(TMEDA)(3.45ml,23.1mmol)を加え、dry THF(20mL)に溶解させた。30分後、恒温槽で−80℃に冷却し、15分後に1.64Mのn−butyllithium(12.1ml,19.8mmol)を30分かけてゆっくり滴下した。15分後、dry THF(15ml)に溶解させたSnMeCl(3.29g,16.5mmol)を20分かけてゆっくり滴下した。その後、室温に戻しながら、一晩撹拌した。反応溶液を水でクエンチし、ジエチルエーテルで有機層を抽出した。水層を3回ジエチルエーテルで洗浄し、有機層を抽出した。その後、硫酸マグネシウムを用いて脱水後、濃縮した。高速液体クロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)で精製し、黄色固体の化合物11を260mg(収率13%)得た。化合物11の合成反応式を以下に示す。
【0046】
【化11】
【0047】
化合物11の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, Acetone-d6) : δ= 0.55 (s, 18H), 7.22-7.23 (m, 4H), 7.72 (t, J = 4.4Hz, 2H), 7.85 (s, 2H)
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H+] calcd for C22H27S2Sn2, 594.95926; found 594.95972
【0048】
(化合物12の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコに、化合物11(100mg,0.169mmol)と4−bromo−benozonitrile(76.9mg,0.422mmol)を加え、dryトルエン(1ml)に溶解させた。その後、Pd(PPh(9.76mg,8.45μmol)を加えて、100℃に加熱し、一晩撹拌した。沈殿物を濾取し、トルエンで洗浄した。黄色固体の化合物12を10mg(収率13%)得た。化合物12の合成反応式を以下に示す。
【0049】
【化12】
【0050】
化合物12の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, chloroform-d3) : δ= 7.28-7.34 (m, 4H), 7.66 (s, 2H), 7.78-7.84 (m, 8H), 7.90 (d, J = 8.5 Hz, 2H)
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H+] calcd for C30H17N2S2, 469.08277; found 469.08275
【0051】
(化合物13の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコに化合物12(5.00mg,10.7μmol)を加え、dry CHl2(1ml)に溶解させ、Arバブリングを20分行った。その後、アルミホイルで遮光し、CHNO(1ml)に溶解させたFeCl(1.90mg,11.7μmol)をゆっくり滴下した。20分後、反応溶液をアルミナカラムでろ過した。緑色固体の化合物13を3.40mg得た。化合物13の合成反応式を以下に示す。
【0052】
【化13】
【0053】
化合物13の測定結果を以下に示す。
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H+] calcd for C30H15N2S2, 467.06712; found 467.06741
【0054】
(光学特性の評価)
上記で合成した化合物5の光学特性を評価した。化合物4及び化合物5をそれぞれトルエンに溶解させ、光吸収・蛍光スペクトル及び蛍光量子収率を測定した。なお、各測定の試料濃度については、化合物4は2.0×10−5Mで測定を行い、化合物5については1.0×10−5Mで行った。
【0055】
図1(A)及び図1(B)に、化合物4、化合物5の光吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示す。また、それらの光学物性を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
化合物4に比べて、化合物5は230nmほど長波長側に高いモル吸光係数(ε)を有する吸収極大波長、および190nmほど長波長側に高い蛍光量子収率(Φf)を示す蛍光極大波長が出現していることがわかる。
【0058】
(電気化学的特性の評価)
化合物4及び化合物5のHOMO準位を算出するため、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。そして、第一酸化波のオンセット(Eonsetox)と0−0遷移エネルギーから、HOMO準位とLUMO準位を算出した。また、0−0遷移エネルギー(E0−0)は、上記の光吸収スペクトルと蛍光スペクトルの交点の波長から算出した。
【0059】
なお、CV測定には、支持電解質に0.1M TBAP、作用電極及び対極には白金電極、参照電極にAg/Ag(0.01M AgNO アセトニトリル溶液)を用いた。また、化合物4及び化合物5の濃度は、1mM(アセトニトリル溶液)として使用した。CV測定後にフェロセン(Fc/Fc)を用いて電位を補正した。
【0060】
図2(A)、(B)に、化合物4、化合物5のCV測定結果を、また、表2に電気化学的物性を示す。
【0061】
【表2】
【0062】
化合物4に比べて、化合物5は可逆な一電子酸化波を示していることがわかる。したがって、化合物5の酸化状態は非常に安定である。また、化合物4に比べて、化合物5のHOMO準位は0.5eVほど上昇し、LUMO準位は0.5eVほど低下した。したがって、化合物4に比べて、化合物5のHOMO−LUMOエネルギーギャップが小さくなり、吸収極大波長の長波長シフトが引き起こされたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る化合物は、有機薄膜太陽電池や有機電解効果トランジスタ、有機エレクトロルミネッセンスなどの有機半導体デバイスの材料として利用可能である。
図1
図2