【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づき、更に化合物について説明する。以下に示すように、段階的に化合物5を合成し、その特性について検証した。
(化合物1の合成)
フラスコ内にNa
2S(2.50g,32.1mmol)を水90mLに溶解させ、100℃に加熱した。その後、EtOH(300mL)に溶解させた1−Bromo−2,3−bis(bromomethyl)benzene(11.0g,32.1mmol)を2時間かけてゆっくり滴下した。一晩加熱還流後、溶液を濃縮し、ジクロロメタンと水で分液を行い、有機層を抽出した。有機層を水で3回、飽和食塩水で1回分液を行い、硫酸マグネシウムを用いて脱水を行い、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン)により精製し、黄色液体の1を2.75g(収率40%)得た。化合物1の合成反応式を以下に示す。
【0031】
【化6】
【0032】
また、化合物1の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (500MHz, CDCl
3) : δ= 4.27 (s, 2H), 4.38 (s, 2H), 7.08 (t, 1H), 7.18 (d, J = 7.55 Hz, 1H), 7.38 (d, J = 7.80 Hz, 1H)
13C-NMR (100MHz, CDCl
3) : δ= 39.15, 39.75, 120.31, 123.69, 128.60, 130.21, 141.07, 142.23
IR (ATR) : 2911, 1560, 1440, 1163, 1123,
【0033】
(化合物2の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコ内に、nickel(II)chloride(NiCl
2)(602mg,4.65mmol)と2,2’−bipyridine(2,2’−bpy)(1.45g,9.30mmol)とdry N,N−Dimethylmethanamide(DMF)15mlを加え、70℃に加熱して撹拌した。10分後、Mg(169mg,6.97mmol)を加えた。20分後、DMF10mlに溶解させた化合物1(1.0g,4.65mmol)をゆっくりと滴下した。その後、一晩撹拌した。溶媒を減圧留去後、ジクロロメタンに溶解させ、残渣をセライトろ過で取り除いた。ろ液を水で3回、飽和食塩水1回で分液を行った。この際、水層のpHが7付近になるよう塩化アンモニウム水溶液で調整した。抽出した有機層を硫酸マグネシウムで脱水した後、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ジクロロメタン:ヘキサン=1:2)により精製し、薄黄色固体の化合物2を259mg(収率41%)得た。化合物2の合成反応式を以下に示す。
【0034】
【化7】
【0035】
化合物2の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (500MHz, acetone-d
6) : δ= 3.76-4.05 (br, 4H), 4.29 (s, 4H), 7.12 (d, J = 7.0 Hz, 2H), 7.30-7.36 (m, 4H)
13C-NMR (125MHz, CDCl
3) : δ= 37.39, 38.17, 123.90, 126.83, 126.94, 137.58, 138.56, 140.93
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H
+] calcd for C
16H
15S
2, 271.06097; found 271.06079
m.p. 157.6-159.9 ℃
IR (ATR) : 2901, 1578, 1435, 1260, 1105
【0036】
(化合物3の合成)
フラスコ内に、化合物2(160mg,0.592mmol)とsodium periodate(NaIO
4)(266mg,1.24mmol)をTHF(10ml)と水(7ml)に溶解させ、室温で一晩撹拌した。反応溶液を減圧留去後、ジクロロメタンに溶解させ、水で3回、飽和食塩水で1回分液した。有機層を抽出後、硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮した。黄色固体の化合物3を166mg(収率93%)得た。化合物3の合成反応式を以下に示す。
【0037】
【化8】
【0038】
化合物3の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (400MHz, acetone-d6) : δ= 3.68-3.85 (br, 2H), 4.15 (t, 4H), 4.43 (t, 2H), 7.26 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 7.45 (t 2H), 7.52 (d, J = 7.6 Hz, 2H)
13C-NMR (125MHz, CDCl
3) : δ= 58.28, 58.63, 59.49, 59.58, 126.34, 128.78, 133.99, 136.18, 138.67
HRMS (ESI): m/z (%):[M+H
+] calcd for C
16H
15O
2S
2, 303.05080; found 303.05099
IR (ATR) : 2968, 2578, 1350, 1383, 1030
【0039】
(化合物4の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコ内に、化合物3(0.500g,1.65mmol)を入れ、dry THF (60mL)に溶解させ、恒温槽(−80℃)に浸した。30分後、tetramethylethylenediamine(TMEDA)(1.48ml,9.92mmol)を加えた。30分後、1.6Mのn−butyllithium(6.20ml,9.92mmol)を30分間かけてゆっくり滴下した。15分後、dry THF(10ml)に溶解させたtert−Butyldimethylsilyl Chloride(TBDMSiCl)(0.748g,4.96mmol)を20分間かけてゆっくり滴下した。その後、室温に戻しながら、一晩撹拌した。反応溶液を水でクエンチし、酢酸エチルで有機層を抽出し、水で3回、飽和食塩水で1回分液を行い、硫酸マグネシウムを用いて脱水後、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン)により精製後、高速液体クロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)で精製し、薄黄色固体の化合物4を325mg(収率40%)得た。化合物4の合成反応式を以下に示す。
【0040】
【化9】
【0041】
化合物4の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, CDCl
3) : δ= 0.53 (s, 12H), 0.99 (s, 18H), 7.18-7.23 (m, 4H), 7.78 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 7.81 (s, 2H)
13C-NMR (125 MHz, CDCl
3) : δ= -3.73, 18.37, 26.92, 123.17, 123.25, 123.50, 124.03, 128.34, 134.88, 140.20, 145.12
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H
+] calcd for C28H39S2Si2, 495.20262; found 495.20303
IR (ATR) : 2926, 1458, 1360, 1250
m.p. 153.1-155.3 ℃
【0042】
(化合物5の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコに化合物4(200mg,0.404mmol)を加え、dry toluene(8ml)に溶解させ、Arバブリングを室温下で30分間行った。その後、反応系(フラスコ)を遮光し、CH
3NO
2(4ml)に溶解させたFeCl
3(72mg,0.445mmol)をゆっくり滴下した。20分後、反応溶液をアルミナカラムでろ過した。その後、高速液体クロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)で精製し、青色固体の化合物5を100mg(収率50%)得た。化合物5の合成反応式を以下に示す。
【0043】
【化10】
【0044】
化合物5の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, acetone-d
6) : δ= 0.52 (s, 12H), 0.99 (s, 18H), 7.22 (t, 2H), 7.54 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 7.78 (d, J = 7.1 Hz, 2H)
13C-NMR (125 MHz, acetone-d
6) : δ= -3.81, 19.01, 27.17, 117.37, 123.63, 124.68, 127.88, 131.69, 135.14, 139.11, 146.42
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H
+] calcd for C
28H
37S
2Si
2, 493.18697; found 493.18680
IR (ATR) : 2926, 1460, 1250
【0045】
続いて、段階的に化合物13を合成した。
(化合物11の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコ内に化合物3(1.00g,3.31mmol)とtetramethylethylenediamine(TMEDA)(3.45ml,23.1mmol)を加え、dry THF(20mL)に溶解させた。30分後、恒温槽で−80℃に冷却し、15分後に1.64Mのn−butyllithium(12.1ml,19.8mmol)を30分かけてゆっくり滴下した。15分後、dry THF(15ml)に溶解させたSnMe
3Cl(3.29g,16.5mmol)を20分かけてゆっくり滴下した。その後、室温に戻しながら、一晩撹拌した。反応溶液を水でクエンチし、ジエチルエーテルで有機層を抽出した。水層を3回ジエチルエーテルで洗浄し、有機層を抽出した。その後、硫酸マグネシウムを用いて脱水後、濃縮した。高速液体クロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)で精製し、黄色固体の化合物11を260mg(収率13%)得た。化合物11の合成反応式を以下に示す。
【0046】
【化11】
【0047】
化合物11の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (500 MHz, Acetone-d
6) : δ= 0.55 (s, 18H), 7.22-7.23 (m, 4H), 7.72 (t, J = 4.4Hz, 2H), 7.85 (s, 2H)
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H
+] calcd for C
22H
27S
2Sn
2, 594.95926; found 594.95972
【0048】
(化合物12の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコに、化合物11(100mg,0.169mmol)と4−bromo−benozonitrile(76.9mg,0.422mmol)を加え、dryトルエン(1ml)に溶解させた。その後、Pd(PPh
3)
4(9.76mg,8.45μmol)を加えて、100℃に加熱し、一晩撹拌した。沈殿物を濾取し、トルエンで洗浄した。黄色固体の化合物12を10mg(収率13%)得た。化合物12の合成反応式を以下に示す。
【0049】
【化12】
【0050】
化合物12の測定結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, chloroform-d
3) : δ= 7.28-7.34 (m, 4H), 7.66 (s, 2H), 7.78-7.84 (m, 8H), 7.90 (d, J = 8.5 Hz, 2H)
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H
+] calcd for C
30H
17N
2S
2, 469.08277; found 469.08275
【0051】
(化合物13の合成)
Ar雰囲気にしたフラスコに化合物12(5.00mg,10.7μmol)を加え、dry CH
2C
l2(1ml)に溶解させ、Arバブリングを20分行った。その後、アルミホイルで遮光し、CH
3NO
2(1ml)に溶解させたFeCl
3(1.90mg,11.7μmol)をゆっくり滴下した。20分後、反応溶液をアルミナカラムでろ過した。緑色固体の化合物13を3.40mg得た。化合物13の合成反応式を以下に示す。
【0052】
【化13】
【0053】
化合物13の測定結果を以下に示す。
HRMS (APCI): m/z (%):[M+H
+] calcd for C
30H
15N
2S
2, 467.06712; found 467.06741
【0054】
(光学特性の評価)
上記で合成した化合物5の光学特性を評価した。化合物4及び化合物5をそれぞれトルエンに溶解させ、光吸収・蛍光スペクトル及び蛍光量子収率を測定した。なお、各測定の試料濃度については、化合物4は2.0×10
−5Mで測定を行い、化合物5については1.0×10
−5Mで行った。
【0055】
図1(A)及び
図1(B)に、化合物4、化合物5の光吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示す。また、それらの光学物性を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
化合物4に比べて、化合物5は230nmほど長波長側に高いモル吸光係数(ε)を有する吸収極大波長、および190nmほど長波長側に高い蛍光量子収率(Φf)を示す蛍光極大波長が出現していることがわかる。
【0058】
(電気化学的特性の評価)
化合物4及び化合物5のHOMO準位を算出するため、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。そして、第一酸化波のオンセット(E
onsetox)と0−0遷移エネルギーから、HOMO準位とLUMO準位を算出した。また、0−0遷移エネルギー(E
0−0)は、上記の光吸収スペクトルと蛍光スペクトルの交点の波長から算出した。
【0059】
なお、CV測定には、支持電解質に0.1M TBAP、作用電極及び対極には白金電極、参照電極にAg/Ag
+(0.01M AgNO
3 アセトニトリル溶液)を用いた。また、化合物4及び化合物5の濃度は、1mM(アセトニトリル溶液)として使用した。CV測定後にフェロセン(Fc/Fc
+)を用いて電位を補正した。
【0060】
図2(A)、(B)に、化合物4、化合物5のCV測定結果を、また、表2に電気化学的物性を示す。
【0061】
【表2】
【0062】
化合物4に比べて、化合物5は可逆な一電子酸化波を示していることがわかる。したがって、化合物5の酸化状態は非常に安定である。また、化合物4に比べて、化合物5のHOMO準位は0.5eVほど上昇し、LUMO準位は0.5eVほど低下した。したがって、化合物4に比べて、化合物5のHOMO−LUMOエネルギーギャップが小さくなり、吸収極大波長の長波長シフトが引き起こされたと考えられる。