特許第6843022号(P6843022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6843022光硬化型組成物、ヒドロゲル、及びその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843022
(24)【登録日】2021年2月25日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】光硬化型組成物、ヒドロゲル、及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20210308BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20210308BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20210308BHJP
   C08F 292/00 20060101ALN20210308BHJP
   C08L 101/14 20060101ALN20210308BHJP
   C08K 3/22 20060101ALN20210308BHJP
   C08J 5/00 20060101ALN20210308BHJP
【FI】
   C08F2/44 A
   C08F2/50
   G02C7/04
   !C08F292/00
   !C08L101/14
   !C08K3/22
   !C08J5/00CEY
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-171959(P2017-171959)
(22)【出願日】2017年9月7日
(65)【公開番号】特開2019-44135(P2019-44135A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2019年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】吉井 良介
(72)【発明者】
【氏名】増田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】萩原 守
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒雄
【審査官】 堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−327925(JP,A)
【文献】 特許第5704133(JP,B2)
【文献】 特開2009−029931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60
C08F 251/00−297/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(メタ)アクリロイル構造を1つ有するモノマー、
(B)(メタ)アクリロイル構造を2つ以上有する架橋剤:(A)成分と(B)成分との合計に対して0.1〜10重量%、
(C)動的光散乱法による体積基準の粒度分布における50%累積粒子径1〜50nmを有する、無機紫外線遮蔽剤であって、当該無機紫外線遮蔽剤は、酸化チタン含有金属酸化物を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型粒子であり
:(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.5〜10重量部、及び
(D)光重合開始剤:(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.05〜1重量部
を含み、前記(A)成分の一部又は全部が親水性モノマーであり、
該親水性モノマーは、下記式(I)で表される化合物であり
CH=CRCOR (I)
[式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは、炭素原子数1〜6の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、−OH、−OR、−NH、−NHR、又は、−NRで表される基であり、R及びRは互いに独立に、炭素原子数1〜6の、直鎖、分岐又は環状のアルキル基である]
該親水性モノマーの含有量が前記(A)成分と前記(B)成分との合計重量に対して70重量%以上である光硬化型組成物であり、
該光硬化型組成物は、前記(C)成分の分散液を含み、該分散液の分散媒が単価及び多価アルコール化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、及びアミド化合物から選ばれる少なくとも1種である、前記光硬化型組成物。
【請求項2】
前記金属酸化物が、スズ及びマンガンのうち少なくとも1を固溶した正方晶系酸化チタン粒子を含み、前記スズ成分の量が、チタンとスズのモル比(Ti/Sn)として10〜1,000であり、前記マンガン成分の量が、チタンとマンガンのモル比(Ti/Mn)として10〜1,000である、請求項1に記載の光硬化型組成物。
【請求項3】
(A)(メタ)アクリロイル構造を1つ有するモノマー、
(B)(メタ)アクリロイル構造を2つ以上有する架橋剤:(A)成分と(B)成分との合計に対して0.1〜10重量%、
(C)動的光散乱法による体積基準の粒度分布における50%累積粒子径1〜50nmを有する、無機紫外線遮蔽剤であって、当該無機紫外線遮蔽剤は、スズ及びマンガンのうち少なくとも1を固溶した正方晶系酸化チタン粒子を含み、前記スズ成分の量が、チタンとスズのモル比(Ti/Sn)として10〜1,000であり、前記マンガン成分の量が、チタンとマンガンのモル比(Ti/Mn)として10〜1,000である金属酸化物粒子であり、
:(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.5〜10重量部、及び
(D)光重合開始剤:(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.05〜1重量部
を含み、前記(A)成分の一部又は全部が親水性モノマーであり、
該親水性モノマーは、下記式(I)で表される化合物であり
CH=CRCOR (I)
[式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは、炭素原子数1〜6の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、−OH、−OR、−NH、−NHR、又は、−NRで表される基であり、R及びRは互いに独立に、炭素原子数1〜6の、直鎖、分岐又は環状のアルキル基である]
該親水性モノマーの含有量が前記(A)成分と前記(B)成分との合計重量に対して70重量%以上である光硬化型組成物であり、
該光硬化型組成物は、前記(C)成分の分散液を含み、該分散液の分散媒が単価及び多価アルコール化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、及びアミド化合物から選ばれる少なくとも1種である、前記光硬化型組成物。
【請求項4】
前記無機紫外線遮蔽剤の表面の少なくとも一部に表面処理剤からなる被覆層を有し、該表面処理剤は下記一般式(II)で表される化合物及び/又はその加水分解縮合物を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の光硬化型組成物
Si(OR (II)
(式中、Rは炭素原子数1〜15の一価炭化水素基であり、Rは炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基である)。
【請求項5】
前記分散液中の(C)成分の濃度が1質量%以上30質量%以下である、請求項1〜のいずれか1項記載の光硬化型組成物。
【請求項6】
前記分散媒を減圧留去して成る、請求項1〜のいずれか1項記載の光硬化型組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の光硬化型組成物を硬化して成る硬化物。
【請求項8】
請求項に記載の硬化物及び水を含むヒドロゲル。
【請求項9】
請求項に記載のヒドロゲルを有する成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型組成物、該組成物を硬化して成る硬化物、該硬化物を含むヒドロゲル、及びその成形品に関する。より詳細には、紫外線遮蔽能を付与されたヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
親水性樹脂は軟質コンタクトレンズを始めとした生体用ヒドロゲル成形品の材料として広く使用されている。
【0003】
太陽光に含まれる波長300nm以下の紫外線は、角膜で吸収され易く、角膜障害の原因の一つと考えられている。また、波長300nmより長い紫外線についても、水晶体や網膜に達し、これらの障害の一因になると考えられている。この為、親水性樹脂材料に紫外線遮蔽機能を持たせることは極めて意義のある事である。
【0004】
通常、樹脂への紫外線遮蔽機能の付与は、紫外線吸収剤を添加する事により達成される。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン及びトリアジン系の紫外線吸収剤が広く知られている(特許文献1)。一方で、親水性樹脂材料の硬化には、加熱硬化と比較して製造プロセスが短縮可能な紫外線硬化がよく用いられており、これらの有機系紫外線吸収剤を紫外線硬化プロセスに使用する場合において、有機系紫外線吸収剤の光・熱分解に起因した変色や白濁が発生するという問題がある。
【0005】
さらに、紫外線硬化を行う際、組成物中に存在する紫外線吸収剤によって紫外線の一部が遮蔽され、組成物の硬化不良や遅延を引き起こす場合がある。通常、硬化不良を抑制する為に、紫外線露光量または紫外線重合開始剤添加量の増量が行われる。その結果、多量の紫外線露光や過剰な開始剤の存在により、かえって組成物の変色や分解を招くという問題があった。
【0006】
光・熱分解を起こしにくい紫外線遮蔽剤として、酸化チタンや酸化亜鉛のような金属酸化物が知られているが、これらは光触媒活性を有しているため、紫外線の照射によって周囲の樹脂や有機物を分解する性質を示す。この問題に対し、例えば、スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン複合体微粒子を含んだシリコーンコーティング組成物が、紫外線硬化性および透明性を有しながら、優れた耐候性を示す事が報告されている(特許文献2、特許文献3)。しかし、このような微粒子を軟質コンタクトレンズ等の生体用ヒドロゲルへ適用する事については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3063041号公報
【特許文献2】特許第5704133号公報
【特許文献3】特開2016−79395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れた紫外線硬化特性および紫外線遮蔽能を有する親水性樹脂組成物、及び該組成物からなるヒドロゲルとその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の光硬化性樹脂組成物、及び該組成物を硬化して成る硬化物、並びに、該硬化物と水とを含むヒドロゲルとその成形品を提供する。
(A)(メタ)アクリロイル構造を1つ有するモノマー、
(B)(メタ)アクリロイル構造を2つ以上有する架橋剤:(A)成分と(B)成分との合計に対して0.1〜10重量%、
(C)動的光散乱法による体積基準の粒度分布における50%累積粒子径1〜50nmを有する、無機紫外線遮蔽剤であって、当該無機紫外線遮蔽剤は、酸化チタン含有金属酸化物を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型粒子であり
:(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.5〜10重量部、及び
(D)光重合開始剤:(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.05〜1重量部
を含み、前記(A)成分の一部又は全部が親水性モノマーであり、
該親水性モノマーは、下記式(I)で表される化合物であり
CH=CRCOR (I)
[式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは、炭素原子数1〜6の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、−OH、−OR、−NH、−NHR、又は、−NRで表される基であり、R及びRは互いに独立に、炭素原子数1〜6の、直鎖、分岐又は環状のアルキル基である]
該親水性モノマーの含有量が前記(A)成分と前記(B)成分との合計重量に対して70重量%以上である光硬化型組成物であり、
該光硬化型組成物は、前記(C)成分の分散液を含み、該分散液の分散媒が単価及び多価アルコール化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、及びアミド化合物から選ばれる少なくとも1種である、前記光硬化型組成物。
さらに本発明は、下記の光硬化性樹脂組成物、及び該組成物を硬化して成る硬化物、並びに、該硬化物と水とを含むヒドロゲルとその成形品を提供する。
(A)(メタ)アクリロイル構造を1つ有するモノマー、
(B)(メタ)アクリロイル構造を2つ以上有する架橋剤:(A)成分と(B)成分との合計に対して0.1〜10重量%、
(C)動的光散乱法による体積基準の粒度分布における50%累積粒子径1〜50nmを有する、無機紫外線遮蔽剤であって、当該無機紫外線遮蔽剤は、スズ及びマンガンのうち少なくとも1を固溶した正方晶系酸化チタン粒子を含み、前記スズ成分の量が、チタンとスズのモル比(Ti/Sn)として10〜1,000であり、前記マンガン成分の量が、チタンとマンガンのモル比(Ti/Mn)として10〜1,000である金属酸化物粒子であり、
:(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.5〜10重量部、及び
(D)光重合開始剤:(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.05〜1重量部
を含み、前記(A)成分の一部又は全部が親水性モノマーであり、
該親水性モノマーは、下記式(I)で表される化合物であり
CH=CRCOR (I)
[式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは、炭素原子数1〜6の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、−OH、−OR、−NH、−NHR、又は、−NRで表される基であり、R及びRは互いに独立に、炭素原子数1〜6の、直鎖、分岐又は環状のアルキル基である]
該親水性モノマーの含有量が前記(A)成分と前記(B)成分との合計重量に対して70重量%以上である光硬化型組成物であり、
該光硬化型組成物は、前記(C)成分の分散液を含み、該分散液の分散媒が単価及び多価アルコール化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、及びアミド化合物から選ばれる少なくとも1種である、前記光硬化型組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光硬化型組成物は、光重合開始剤の添加量及び/又は光照射量が少ない場合であっても紫外線硬化特性を維持することができ、且つ、優れた可視光透過性及び紫外線遮蔽性を有する親水性硬化物を与える。さらには、該親水性硬化物と水を含むヒドロゲルは、生体用ヒドロゲルとして良好に機能することができ、眼内レンズ、コンタクトレンズ等の眼用装置等、様々な成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得たヒドロゲルの紫外可視透過光スペクトルである。
図2】実施例2で得たヒドロゲルの紫外可視透過光スペクトルである。
図3】比較例1で得たヒドロゲルの紫外可視透過光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における用語の「モノマー」は、少なくとも1種類の重合可能な基を有する化合物であって、および、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)における屈折率検出により測定した標準ポリスチレン換算値において、2,000ダルトンよりも小さい数平均分子量を有している化合物を意味する。従って、上記の「モノマー」は1種類以上の構成単位からなるオリゴマーを包含する。
【0013】
<(A)(メタ)アクリロイル構造を1つ有するモノマー>
本発明の(A)成分は、アクリロイル構造又はメタクリロイル構造を分子内に1つ有するモノマーである。モノマーとは、上記の通り、より詳細には、上記数平均分子量2,000ダルトン未満を有する化合物であり、モノマー又はオリゴマーである。(メタ)アクリロイル構造を1つ有する置換基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリルアミド基、又はメタクリルアミド基等が挙げられる。
【0014】
(A)成分としては、ヒドロゲルを調製するモノマーとして公知の(メタ)アクリロイル構造含有化合物が使用できる。例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3―ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマー;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン、N−メチル(メタ)アクリルアミド等のアクリル酸誘導体、及び(メタ)アクリロイル構造含有基を有するシリコーンモノマーが挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上を併用してもよい。但し本発明は、上記(A)成分として、少なくとも1の親水性モノマーを含む。
【0015】
上記親水性モノマーとしては、(メタ)アクリロイル構造を1つ有し、かつ水溶性であれば特に限定されるものではない。例えば、下記式(I)で表される(メタ)アクリル酸誘導体が好ましい。
CH=CRCOR (I)
[式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは置換もしくは非置換の炭素原子数1〜6の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、−(OC(OCOCH、−OH、−OR、−NH、−NHR、又は−NRで表される基であり、n、mは0または正の整数かつn+mは1〜100の整数であり、n、mが付された括弧内の繰り返し単位の配列はランダムであってもブロックであってもよく、R、及びRは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜6の直鎖、分岐又は環状のアルキル基である。]
【0016】
上記R、R、及びRにおける、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜6の直鎖、分岐又は環状のアルキル基としては、好ましくは炭素原子数1〜4の直鎖状アルキル基であり、また上記アルキル基は、その水素原子の一部または全部がその他の置換基で置換されていてもよく、置換基の例としては、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;及び、グリシドキシ基、アミノ基、メルカプト基、及びヒドロキシ基等の反応性基が挙げられる。
【0017】
上記親水性モノマーとしては、より好ましくは、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、グリセロールモノメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸等である。これらは1種単独でも、2種以上を併用してもよく、HEMAを含んでいる事が好ましい。
【0018】
また、本発明の組成物において親水性モノマーの量は(A)成分と(B)成分の合計重量に対し70重量%以上であり、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。該親水性モノマーの割合が70重量%に満たない場合、ヒドロゲルの形成が困難となる。(A)成分として、上記した親水性モノマー以外の(メタ)アクリロイル構造含有化合物を任意で包含することもできる。その場合の含有量は好ましくは(A)成分と(B)成分の合計重量に対し、0.1〜29.9重量%である。
【0019】
<(B)(メタ)アクリロイル構造を2つ以上有する架橋剤>
本発明における(B)成分は、(メタ)アクリロイル構造を2つ以上有する化合物であり、(B)成分としては親水性の架橋剤または疎水性の架橋剤のいずれか、又はその混合物であっても良い。親水性の架橋剤の例としては、テトラエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TrEGDMA)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、エチレンジアミンジメタクリルアミド、グリセロールジメタクリレート等が挙げられる。疎水性の架橋剤の例としては、アクリルオキシプロピル末端を有するポリジメチルシロキサン(acPDMS)、ヒドロキシアクリレート変性したシロキサン、メタクリルオキシプロピル末端を有するPDMS、ブタンジオールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、1,3−ビス(3−メタクリルオキシプロピル)テトラキス(トリメチルシロキシ)ジシロキサン等が挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上を併用してもよく、TEGDMA、EGDMA、acPDMSおよびこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0020】
本発明の光硬化型組成物における(B)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分との合計重量に対して0.1〜10重量%であり、好ましくは0.3〜5重量%、より好ましくは0.5〜2重量%である。(B)成分の配合量が上記下限値未満では、ヒドロゲルの形成に必要な分子間の架橋が不足し、上記上限値を超えると、ゲルの架橋密度が高くなり吸水性や柔軟性が低下することで生体用ヒドロゲルとしての利用が困難となる。
【0021】
<(C)無機紫外線遮蔽剤>
本発明における(C)無機紫外線遮蔽剤は、紫外線吸収能又は紫外線散乱能を有する金属酸化物粒子である。このような金属酸化物としては、通常日焼け止め化粧料等に配合される公知のものを用いることができ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどが例示される。また、本発明の無機紫外線遮蔽剤は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の他の金属酸化物並びに、スズ、マンガン、コバルト等の金属と化学結合を介して複合化されていても良い。
【0022】
該無機紫外線遮蔽剤は、動的光散乱法による体積基準の粒度分布における50%累積粒子径1〜50nmを有し、好ましくは1〜40nmを有し、より好ましくは1〜30nmであり、特に好ましくは1〜20nmである。無機紫外線遮蔽剤の平均累計粒子径が上記上限値を超えると、光散乱が顕著となり硬化物の透明性を損なう場合がある。また、上記下限値未満の場合、無機紫外線遮蔽剤の組成物中での総表面積が極めて大きくなることにより、粒子の凝集が発生する等、取り扱いが困難になる。
【0023】
無機紫外線遮蔽剤の配合量は、(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.5〜10重量部であり、好ましくは2〜8重量部であり、より好ましくは3〜6重量部である。上限値超えでは硬化特性の低下や、硬化物の透明性低下を引き起こす恐れがあり、下限値未満では紫外線吸収特性が十分に表れないおそれがある。
【0024】
なお、無機紫外線遮蔽剤の粒子径(平均累計粒子径)は、種々の方法で測定できる。本発明における粒子径は、レーザー光を用いた動的光散乱法で測定したものの体積基準の50%累積分布径(D50)として得られる。傍証として電子顕微鏡法を用いて観測することも可能である。これらの測定法によって求められる値は、測定装置に依存したものではないが、例えば、動的光散乱法としては、ナノトラックUPA−EX150(日機装(株)製)等の装置を用いることができる。また、電子顕微鏡法としては透過型電子顕微鏡H−9500(日立ハイテクノロジーズ(株)製)等の装置を用いることができる。
【0025】
本発明における無機紫外線遮蔽剤は、酸化チタン含有金属酸化物からなる核を有し、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型粒子であることが好ましい。コアシェル構造とすることにより、樹脂組成物中における分散性の向上や、酸化チタンの光触媒活性に起因する樹脂の劣化を抑制することができる。
【0026】
上記酸化チタン含有金属酸化物としては、スズ又はマンガンの少なくとも一方を正方晶系酸化チタンに固溶した粒子であることが好ましい。スズ又はマンガンの少なくとも一方を固溶させることで酸化チタンの光触媒活性を抑制し、樹脂の劣化を防止する効果が期待できる。
【0027】
上記酸化チタン含有金属酸化物は更にスズ及びマンガン以外の金属が単純混合及び化学結合を介して複合化されていても良い。
【0028】
酸化チタンには、通常、ルチル型、アナターゼ型、及びブルッカイト型の3種が存在する。本発明では、光触媒活性が低く、紫外線吸収能力に優れている観点より、正方晶系ルチル型の酸化チタンを固溶媒として用いることが好ましい。
【0029】
スズ成分としては、スズ塩から誘導されるものであればよく、酸化スズ、硫化スズ等のスズカルコゲナイドが挙げられ、酸化スズであることが好ましい。スズ塩としては、フッ化スズ、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ等のスズハロゲン化物、シアン化スズ、イソチオシアン化スズ等のスズ擬ハロゲン化物、又は硝酸スズ、硫酸スズ、燐酸スズ等のスズ鉱酸塩等を用いることができるが、安定性と入手の容易さから塩化スズを用いることが好ましい。また、スズ塩におけるスズは二価から四価の原子価のものから選択できるが、四価のスズを用いることが特に好ましい。
【0030】
マンガン成分としては、マンガン塩から誘導されるものであればよく、酸化マンガン、硫化マンガン等のマンガンカルコゲナイドが挙げられ、酸化マンガンであることが好ましい。マンガン塩としては、フッ化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガン等のマンガンハロゲン化物、シアン化マンガン、イソチオシアン化マンガン等のマンガン擬ハロゲン化物、硝酸マンガン、硫酸マンガン、燐酸マンガン等のマンガン鉱酸塩等を用いることができるが、安定性と入手の容易さから塩化マンガンを用いることが好ましい。また、マンガン塩におけるマンガンは2価から7価の原子価のものから選択できるが、2価のマンガンを用いることが特に好ましい。
【0031】
正方晶系酸化チタンに固溶させるスズ成分の量は、チタンとのモル比(Ti/Sn)で好ましくは10〜1,000、より好ましくは20〜200である。正方晶系酸化チタンに固溶させるマンガン成分の量は、チタンとのモル比(Ti/Mn)で好ましくは10〜1,000、より好ましくは20〜200である。(Ti/Sn)比及び(Ti/Mn)比が上記下限値より小さいと、スズ又はマンガンに由来する可視領域の光吸収が顕著となる。一方、比が上記上限値を超えると、酸化チタンに由来する光触媒活性が十分に失活せず、結晶系も紫外線吸収能の小さいアナターゼ型となる場合がある。
【0032】
スズ成分又はマンガン成分の酸化チタンへの固溶様式は、置換型であっても侵入型であってもよい。ここでいう、置換型とは、酸化チタンのチタン(IV)イオンのサイトにスズ及びマンガンが置換されて形成される固溶様式のことであり、侵入型とは、酸化チタンの結晶格子間にスズ及びマンガンが存在することにより形成される固溶様式のことである。侵入型では、着色の原因となるF中心が形成され易く、また金属イオン周囲の対称性が悪いため金属イオンにおける振電遷移のフランク−コンドン因子も増大し、可視光を吸収し易くなる。そのため、置換型であることが好ましい。
【0033】
スズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子の核の外側に形成される殻は、酸化ケイ素を主成分とし、スズやアルミニウムなどその他の成分を含有していてもよく、公知の表面処理手法で形成させることができる。例えば、テトラアルコキシシランの加水分解縮合によって形成することができ、テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン等の通常入手可能なものを用いればよいが、反応性と安全性の観点からテトラエトキシシランを用いることが好ましい。このようなものとして、例えば、市販の「KBE−04」(信越化学工業(株)製)を用いることができる。また、テトラアルコキシシランの加水分解縮合は、水中で行えばよく、アンモニア、アルミニウム塩、有機アルミニウム、スズ塩、有機スズ等の縮合触媒を適宜用いればよいが、アンモニアは該核微粒子の分散剤としての作用も兼ね備えているため、特に好ましい。
【0034】
このようなスズ及びマンガンを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素を含む殻を有するコアシェル型粒子全体に対し、酸化ケイ素の割合は、20〜50重量%、好ましくは25〜45重量%、より好ましくは30〜40重量%である。20重量%よりも少ないとき、殻の形成が不十分となる場合があり、一方、50重量%を超えると、該粒子の凝集を促進し分散液が不透明となる場合がある。
【0035】
本発明の光硬化型組成物には該無機紫外線遮蔽剤を含む分散液として配合してもよく、この場合、混合後に分散媒を減圧留去するのがよい。分散液として配合する場合の配合量は、無機紫外線遮蔽剤の含有量が上述した範囲を満たす量となるように調製されればよい。無機紫外線遮蔽剤を分散する分散媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、シクロペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、β−チアジグリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の単価及び多価アルコール化合物;;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノプロピルエーテル、ブチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル化合物;アセトン、ダイアセトンアルコール、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルノルマルブチルケトン、ジブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン等のケトン化合物;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラアセチルエチレンジアミド、テトラアセチルヘキサメチレンテトラミド、N,N−ジメチルヘキサメチレンジアミンジアセテート等のアミド化合物等が挙げられ、エタノールを用いることが好ましい。
【0036】
上記分散液中の無機紫外線遮蔽剤の濃度は、好ましくは1質量%以上30質量%以下、より好ましくは5質量%以上25質量%以下、更に好ましくは10質量%以上20質量%以下の範囲である。分散質の含有量が1質量%未満である場合は、有効濃度として樹脂に混合した際に不十分となることがある。分散質の含有量が30質量%を超える場合は、オルガノゾルの保存安定性が不十分となることがある。
【0037】
本発明における金属酸化物粒子は、表面の少なくとも一部に、表面処理剤からなる被覆層を有するのが好ましい。該表面処理剤としては、下記一般式(II)で表される化合物又はその加水分解縮合物の少なくとも一方を含むものが挙げられる。表面処理を行う事で金属酸化物粒子の分散媒ならびに樹脂中への分散性が向上し、粒子の凝集に起因した白濁の発生を抑制する効果がある。
Si(OR (II)
(式中、Rは非置換もしくは置換の炭素原子数1〜15の一価炭化水素基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基である)
【0038】
上記式(II)において、Rは非置換もしくは置換の炭素原子数1〜15、好ましくは炭素原子数1〜8の一価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基;クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、パーフルオロオクチルエチル基等のハロゲン置換炭化水素基;γ−アクリロイルオキシプロピル基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基、γ−アミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)アミノプロピル基、γ−イソシアネートプロピル基等の(メタ)アクリロイルオキシ、エポキシ、メルカプト、アミノ、イソシアネート基置換炭化水素基などを例示することができる。これらの中でも、特にメチル基、ビニル基、γ−アクリロイルオキシプロピル基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基が好ましい。
【0039】
上記式(II)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、及びt−ブチル基などが挙げられる。これらの中でも、特にメチル基、及びエチル基が好ましい。
【0040】
粒子表面のオルガノシリル基は、IRスペクトルや固体NMRスペクトルにおけるオルガノシリル基に特徴的なシグナルにより確認できる。オルガノシリル基の導入量は、オルガノシリル基との反応前の酸化チタン粒子の重量減少率とオルガノシリル基を持つ表面処理微粒子の重量減少率の差から見積もることができ、その導入量は表面処理微粒子全体の2重量%以上であることが、分散媒ならびに樹脂中への分散性付与の点から好ましい。
【0041】
<(D)光重合開始剤>
光重合開始剤としては、種々の芳香族α−ヒドロキシケトン、アルコキシオキシベンゾイン、アセトフェノン、アシルホスフィンオキシド、およびジケトン、およびこれらの混合物等の公知の光重合開始剤が挙げられる。市販品としては、ダロキュア1173およびダロキュア2959(BASF社)等が入手可能である。
【0042】
光重合開始剤の添加量は、上記(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して0.05〜1重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部、より好ましくは0.05〜0.1重量部である。
【0043】
光硬化は、使用する光重合開始剤に応じて、電子ビーム、X線、紫外光または可視光、すなわち、150〜800nmの範囲内における波長を有する電磁放射線または粒子放射線等のような熱線、電離線または化学線により行なうことができる。特に250〜400nmの紫外光が硬化性やハンドリング性の点から望ましい。また、適当な放射線の供給源は紫外線電球、蛍光電球、白熱電球、水銀蒸気電球、日光等が挙げられるが、組成物の分解に起因した黄変や白濁を抑制する為に、紫外線露光量は少ない事が望ましく、好ましくは30J/cm以下、更に好ましくは15J/cm以下の紫外線露光量で硬化する事が望ましい。
【0044】
本発明の光硬化型組成物は上記成分に加え、発明の効果を損なわない範囲で所望の添加物を含んでもよく、抗菌性の化合物、顔料、光互変性物質、剥離剤等が挙げられる。
【0045】
本発明の光硬化型組成物は、高い紫外光吸収特性と透明性を有する硬化物を与えることを特徴とする。高い紫外光吸収特性及び透明性の指標として、硬化物の紫外−可視光領域における光透過率を挙げることが出来る。光透過率は一般に膜厚が大きいほど小さくなるので、ここでは膜厚0.5mm以下の該硬化物において、波長600nmにおける光透過率が70%以上、波長350nmにおける光透過率が50%以下、波長300nmにおける光透過率が10%以下であることが好ましく、波長600nmにおける光透過率が80%以上、波長350nmにおける光透過率が10%以下、波長300nmにおける光透過率が1%以下であることがさらに好ましい。波長600nmにおける光透過率が70%以下である場合は、変色や白濁が強く生じ透明性が損なわれる可能性があるため好ましくなく、波長350nmにおける光透過率が50%以上、波長300nmにおける光透過率が10%以上な場合は、紫外線吸収特性が弱く紫外線障害を引き起こす恐れがある為好ましくない。このとき硬化被膜の光透過率は、紫外可視光吸収スペクトル測定装置で測定した値を好適に用いることが出来る。紫外可視光吸収スペクトル測定装置としては分光光度計(U−3900H:日立ハイテクサイエンス(株))等が例示できる。
【0046】
また、本発明の光硬化型組成物を硬化して得られる硬化物は親水性を有する。該硬化物は、分散媒、未反応成分、副生成物などを除去するために、溶媒により洗浄を行う事が好ましい。溶媒としては、硬化物の溶解性に応じて、エタノール、メタノール、イソプロパノール、トリプロピレングリコールメチルエーテル(TPM)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロールおよびこれらの混合物等の有機溶剤、または水による抽出を行なうことができる。該抽出溶媒としては、水を90%以上含有するものが好ましく、水の含有率が97%以上であるものがより好ましい。その他の成分としては、塩化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム等のような塩類を含むことができる。上記抽出溶媒による処理は、3分〜3日、好ましくは5分〜60分で行なうことが好ましい。
【0047】
本発明の硬化物を水和することによりヒドロゲルを得ることができる。該ヒドロゲルに含まれる水の含有率は、当該ヒドロゲルの全重量に対して好ましくは10〜70重量%であり、より好ましくは20〜60重量%、さらに好ましくは25〜50重量%であるのがよい。
【0048】
本発明の硬化物を含むヒドロゲルは高い紫外光吸収特性と透明性を有し、生体用ヒドロゲルとして有用であり、様々な生体用ヒドロゲル成形品を与えることができる。なお、本発明における生体用ヒドロゲル成形品とは、哺乳類動物の生体内の組織、さらには人間の生体内の組織にて使用するよう設計されている物品のことを指す。これらの装置の例としては、カテーテル、移植片、ステント、および眼内レンズ、コンタクトレンズ等のような眼用装置が挙げられる。
【0049】
本発明における上記「眼用装置」とは、目の中またはその上に配置される装置を意味する。これらの装置は光学的な補正、傷の医療、薬物の配給、診断機能または外観の向上またはこれらの特性を組み合わせた効果を提供できる。さらに、上記「レンズ」とは、種々のソフトコンタクトレンズ、ハードコンタクトレンズ、眼内レンズ、オーバーレイレンズ、眼用インサート、および光学用インサート等を含むが、これらに限らない。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0051】
[合成例1]
(コアシェル型金属酸化物粒子の水分散液(TW−1)の合成)
36重量%の塩化チタン(IV)水溶液(石原産業(株)製、製品名:TC−36)66.0gに塩化スズ(IV)五水和物(和光純薬工業(株)製)1.8gを添加し、混合した後、これをイオン交換水1,000gで希釈した。この金属塩水溶液中の[Ti/Sn](モル比)は24.4であった。この金属塩水溶液に5重量%アンモニア水(和光純薬工業(株)製)300gを滴下して中和、加水分解することによりスズを含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの水酸化チタンスラリーのpHは8であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、イオン交換水を用いた再沈殿精製を繰り返して脱イオン処理した沈殿物に30重量%過酸化水素水(和光純薬工業(株)製)100gを滴下し、60℃で3h撹拌して反応させた。その後、イオン交換水を添加して濃度調整を行うことにより、半透明のスズ含有ペルオキソチタン酸溶液(固形分濃度:1重量%)を得た。容積500mLのオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製、製品名:TEM−D500)に、上記のように合成したペルオキソチタン酸溶液350mLを仕込み、これを200℃、1.5MPaの条件で、240分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン−酸化スズ複合体分散液(i)(固形分濃度:1重量%)を得た。
【0052】
磁気回転子と温度計を備えたセパラブルフラスコに、酸化チタン−酸化スズ複合体分散液(i)1,000質量部、エタノール100質量部、アンモニア2.0質量部を25℃で加えて磁気撹拌した。このセパラブルフラスコを氷浴に浸漬し、内容物温度が5℃になるまで冷却した。ここに、テトラエトキシシラン18質量部(信越化学工業(株)製、製品名「KBE−04」)を加えた後に、セパラブルフラスコをμReactorEx(四国計測工業(株)製)内に設置して、周波数2.45GHz・出力1,000Wのマイクロ波を1分間照射しながら磁気撹拌した。その間、内容物温度が85℃に達するのを確認した。得られた混合物を定性ろ紙(Advantec 2B)でろ過して希薄コロイド溶液を得た。この希薄コロイド溶液を限外ろ過によって固形分濃度10重量%まで濃縮し、コアシェル型金属酸化物粒子の水分散液(TW−1)を得た。TW−1について、動的光散乱法(日機装(株)製、装置名「ナノトラック」)によって体積基準の粒度分布における50%累計粒子径を求めたところ、10nmであった。また、コアシェル型粒子全体に対する殻の酸化ケイ素の割合はSiO換算で、18.0重量%であった。
【0053】
[合成例2]
(コアシェル型金属酸化物粒子のエタノール分散液(TE−1)の合成)
ジムロート冷却管、窒素導入管、温度計、機械攪拌羽を備えた4つ口2Lセパラブルフラスコに、上記コアシェル型金属酸化物粒子の水分散液(TW−1)をイオン交換水により濃度調整したもの(300g、固形分濃度1.9重量%)と触媒としてスルホン酸系カチオン性イオン交換樹脂(Purolite社製、製品名:C150)を3g入れた。ここにメチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、製品名「KBM−13」、225g)を入れて250rpmで撹拌した。攪拌によって分散液とアルコキシシランが反応し、均一になる様子が観測された。その際、分散液の温度が25℃から52℃まで上昇する様子が観測された。分散液の温度が50℃になるように2時間加熱撹拌した後、分散液にエタノール(750g)を撹拌しながら添加して希釈した。希釈分散液を限外ろ過機に導入し、滲出液を800g分取した。濃縮された分散液に対して、継続して有機溶剤(エタノール)を加圧供給した。分散液が滲出する様子が観測された。フィルター排出口には受器(5,000mL)を設け、滲出液が800gに達するまでエタノールを加圧供給し、分散媒の置換を行った。ろ過室から分散液を取り出し、モレキュラーシーブ4A(関東化学製)で処理して、コアシェル型金属酸化物粒子のエタノール分散液(TE−1)を得た。TE−1の固形分濃度は15.1重量%、水分濃度250質量ppmであった。TE−1について、動的光散乱法(日機装株式会社製、製品名「ナノトラック」)によって体積基準の粒度分布における50%累計粒子径を求めたところ、11nmであった。
【0054】
[合成例3]
(コアシェル型金属酸化物粒子の水分散液(TW−2)の合成)
36重量%塩化チタン(IV)水溶液(石原産業(株)製、製品名:TC−36)66.0gに、50重量%塩化第二スズ(IV)水溶液(日本化学産業(株)製)3.3g、および一酸化マンガン(II)((株)高純度化学研究所製)0.1gを添加し、良く混合した後、これをイオン交換水1,000gで希釈した。この金属塩水溶液中の[Ti/Sn](モル比)は20、[Ti/Mn](モル比)は100であった。
この金属塩水溶液混合物に5重量%のアンモニア水(和光純薬工業(株)製)300gを徐々に添加して中和、加水分解し、スズおよびマンガンを含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの水酸化チタンスラリーのpHは8であった。
得られた水酸化チタンの沈殿物を、イオン交換水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後のスズおよびマンガンを含有する水酸化チタン沈殿物に30重量%過酸化水素水(和光純薬工業(株)製)100gを徐々に添加した後、60℃で3時間撹拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行い、半透明のスズおよびマンガン含有ペルオキソチタン酸溶液(固形分濃度1重量%)を得た。容積500mLのオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製、製品名:TEM−D500)に、上記で得られたペルオキソチタン酸溶液350mLを仕込み、これを200℃、1.5MPaの条件下、240分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却して反応を停止させ、酸化チタン−酸化スズ−酸化マンガン複合体分散液を得た。ここで、得られた酸化チタン−酸化スズ−酸化マンガン複合体分散液を105℃で24時間乾燥させて粉末にした後、粉末X線回折装置(Bruker AXS(株)製、D2 Phaser)によって結晶相を確認したところ、ルチル型(正方晶)であった。
【0055】
磁気回転子と温度計を備えたセパラブルフラスコに、上記酸化チタン−酸化スズ−酸化マンガン複合体分散液1,000質量部、エタノール100質量部、およびアンモニア2.0質量部を室温(25℃)で加えて磁気撹拌した。このセパラブルフラスコを氷浴に浸漬し、内容物温度が5℃になるまで冷却した。ここに、テトラエトキシシラン18質量部(信越化学工業(株)製、製品名「KBE−04」)を加えた後に、セパラブルフラスコをμReactorEx(四国計測工業(株)製)内に設置して、周波数2.45GHz、出力1,000Wのマイクロ波を1分間照射しながら磁気撹拌した。その間、内容物温度が85℃に達するのを確認した。得られた混合物を定性ろ紙(Advantec 2B)でろ過して希薄コロイド溶液を得た。この希薄コロイド溶液を限外ろ過によって8.8重量%まで濃縮し、コアシェル型金属酸化物粒子の水分散液(TW−2)を得た。TW−2について、動的光散乱法(日機装(株)製、装置名「ナノトラック」)によって体積基準の粒度分布における50%累計粒子径を求めたところ、17.9nmであった。また、コアシェル型粒子全体に対する殻の酸化ケイ素の割合はSiO換算で、18.0重量%であった。
【0056】
[合成例4](コアシェル型金属酸化物粒子のエタノール分散液(TE−2)の合成)
ジムロート冷却管、窒素導入管、温度計および機械撹拌羽を備えた4つ口2Lセパラブルフラスコに、合成例2で得られたコアシェル型金属酸化物粒子の水分散液(TW−2、300g、固形分濃度8.8重量%)と、触媒としてスルホン酸系カチオン性イオン交換樹脂(Purolite社製、製品名:C150)3gを入れた。ここにメチルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、製品名「KBM−13」、225g)を入れて250rpmで撹拌した。撹拌によって分散液とアルコキシシランが反応し、均一になる様子が観測された。その際、分散液の温度が25℃から52℃まで上昇する様子が観測された。分散液の温度が50℃になるように2時間加熱撹拌した後、分散液にエタノール(750g)を撹拌しながら添加して希釈した。希釈分散液を限外ろ過機に導入し、滲出液を800g分取した。濃縮された分散液に対して、継続してエタノールを加圧供給した。分散液が滲出する様子が観測された。フィルター排出口に受器(5,000mL)を設け、滲出液が800gに達するまでエタノールの加圧供給を行った。ろ過室から分散液を取り出し、モレキュラーシーブ4A(関東化学製)で処理して、酸化チタンエタノール分散液(TE−2)を得た。TE−2の固形分濃度は15.0重量%、水分濃度240質量ppmであった。TE−2について、動的光散乱法(日機装株式会社製、製品名「ナノトラック」)によって体積基準の粒度分布における50%累計粒子径を求めたところ、10nmであった。
【0057】
[実施例1]
<組成物の硬化及びヒドロゲルの調製>
(A)ヒドロキシメチルアクリレート(HEMA)を50g、(B)エチレングリコールジメタクリレートを0.2g、(C)合成例2で得た金属酸化物粒子のエタノール分散液TE−1を10g(固形分の質量換算で1.5g)混合した。続いて、減圧留去することでTE−1中に含まれるエタノールを除去した。得られた混合物に、(D)光重合開始剤としてダロキュア1173(BASF社製)を0.05g添加し、得られた混合液に対して窒素でバブリングを行うことで、酸素が除去された光硬化型組成物を得た。
フッ素コートフィルムを貼ったガラス板にスペーサ―としてテフロン(登録商標)テープを用い10×10cmの型枠を作成した。該型枠に光硬化型組成物を流し込み、もう一枚のフッ素コートフィルムを貼ったガラス板で挟み込んだ状態(型枠の厚み0.5mm)で、紫外線照射装置(ウシオ電気株式会社製;VB−15201BY−A)を用いて、照度:44mW/cmの条件で、5分間紫外線を照射することにより硬化した。得られた硬化物を1Lのイオン交換水中に60分含浸した後、水中から取り出して室温で乾燥させて透明なヒドロゲルを得た(水の含有割合は41重量%であった)。
【0058】
[実施例2]
実施例1において、(C)成分としてTE−1の代わりに合成例4で得た金属酸化物粒子のエタノール分散液TE−2を10g(固形分の質量換算で1.5g)混合した以外は、実施例1と同様な手順で透明なヒドロゲルを得た。
【0059】
[比較例1]
実施例1において、(C)成分を用いなかった以外は、実施例1と同様な手順でヒドロゲルを得た。
【0060】
[比較例2]
実施例1において、TE−1の代わりに2−{3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル}エチルメタクリラート(大塚化学(株)製、RUVA−93)を1.5g添加した以外は、実施例1と同様な手順を行ったが、未硬化成分が多く残存し、ヒドロゲルは得られなかった。
【0061】
上記実施例および比較例にて得た各ヒドロゲルについて、光透過率および紫外線硬化性を以下の方法により評価した。結果を表1に示す。
[光透過率]
各ヒドロゲルについて、分光光度計(U−3900H:日立ハイテクサイエンス(株))を用いて紫外可視透過光スペクトルを測定した。結果を図1〜3に示す。
また、波長600nmの可視光透過率(%)、350nm、及び300nmの紫外線透過率(%)をそれぞれ表1に記載する。さらに紫外線照射後の外観を観察し、紫外線照射前の外観と対比した変色の有無を確認した。外観に変色が無いものを○、変色が確認したものを×として、上述した実施例及び比較例の各硬化性を表1にまとめた。
[紫外線硬化性]
上記硬化条件において完全に硬化したものを○、未硬化部分を含んでいたものを×として、上述した実施例及び比較例の各硬化性を表1にまとめた。
【0062】
【表1】
【0063】
紫外線遮蔽材として従来公知の有機系紫外線吸収剤を含む比較例2の組成物では、紫外線硬化性に劣り、硬化不良が生じて、硬化物を得る事が出来なかった。
これに対し、表1に記載の実施例1および2に示す通り、本発明のヒドロゲルは、光重合性触媒の添加量が少ないにも関わらず、良好な紫外線硬化特性を維持することができ、紫外線照射後であっても変色がない。さらに、表1に記載の光透過率及び図1及び2に示す紫外可視透過光スペクトルに示される通り、本発明のヒドロゲルは優れた可視光透過性及び紫外線遮蔽性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の光硬化型組成物は、光重合性触媒の添加量が少ない場合であっても良好な紫外線硬化特性を維持することができ、且つ、優れた可視光透過性と紫外線遮蔽性を有するヒドロゲルを与えることができる。本発明のヒドロゲルは、軟質コンタクトレンズ等の生体用ヒドロゲル成形品の材料として有用である。
図1
図2
図3