特許第6843514号(P6843514)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843514
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】小型デジタル測長器
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/347 20060101AFI20210308BHJP
   G08C 19/00 20060101ALI20210308BHJP
   G08C 19/16 20060101ALI20210308BHJP
   H03K 19/0175 20060101ALI20210308BHJP
   H04L 25/02 20060101ALI20210308BHJP
   G01D 5/244 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   G01D5/347 110X
   G08C19/00 J
   G08C19/16
   H03K19/0175 290
   H04L25/02 F
   G01D5/244 E
   H04L25/02 V
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-65059(P2016-65059)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-181139(P2017-181139A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】金井 謙次郎
【審査官】 清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−134520(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/042636(WO,A1)
【文献】 特開昭55−005594(JP,A)
【文献】 特開2005−326428(JP,A)
【文献】 特開2006−345259(JP,A)
【文献】 特開2004−096351(JP,A)
【文献】 特開平11−205118(JP,A)
【文献】 特開2008−216087(JP,A)
【文献】 特開昭59−174763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00−7/34
G01D 5/00−5/62
G08C 13/00−25/04
H03K 19/00
H03K 19/01−19/082
H03K 19/094−19/096
H04L 25/00−25/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学式スケールと光学式エンコーダを有するセンサ部により計数された出力信号をコントローラへ送信あるいは前記コントローラからの指令信号を前記センサ部で受信する小型デジタル測長器において、
前記センサ部及び前記コントローラのそれぞれに組み込まれ、送信側ドライバと受信側レシーバとが組み合わされた差動トランシーバと、
往路伝送線路と復路伝送線路とを組み合わせた平衡伝送路を構成し、前記差動トランシーバにより前記センサ部と前記コントローラとの間で前記出力信号及び前記指令信号の伝送を行う伝送ケーブルと、
を備え、前記センサ部は、直径8〜12mmの気密性の高い筐体の中に前記光学式スケールと前記光学式エンコーダ、並びに入力端に100〜120Ωの終端抵抗と800〜1200pFのコンデンサとが直列に接続された前記受信側レシーバが組み込まれたことを特徴とする小型デジタル測長器。
【請求項2】
入力端に終端抵抗とコンデンサとが直列に接続され前記コントローラに組み込まれた前記受信側レシーバを備えたことを特徴とする請求項1に記載の小型デジタル測長器。
【請求項3】
前記コントローラは複数本の前記センサ部を接続する前記受信側レシーバを有し、それぞれの前記受信側レシーバの入力端に終端抵抗とコンデンサとが直列に接続されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の小型デジタル測長器。
【請求項4】
前記センサ部と前記コントローラの間で送受信される信号周期をTとして、前記終端抵抗の抵抗値をR、前記コンデンサの容量をCとして、R・C<(T/2)/(ln2)としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の小型デジタル測長器。
【請求項5】
前記コントローラに組み込まれた前記受信側レシーバの入力端に100〜120Ωの前記終端抵抗と800〜1200pFの前記コンデンサを直列に接続したことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の小型デジタル測長器。
【請求項6】
前記センサ部に組み込まれた前記受信側レシーバ及び前記コントローラに組み込まれた前記受信側レシーバのそれぞれの入力端に直列に接続された前記終端抵抗と前記コンデンサとを有し、前記センサ部の前記受信側レシーバの入力端に接続された前記コンデンサの容量を前記コントローラの前記受信側レシーバの入力端に接続された前記コンデンサの容量よりも大きくしたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の小型デジタル測長器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリムでコンパクトなゲージで、隣接した多点計測を得意とし様々な形状の測定を正確に行うことができる高精度な接触式の小型デジタル測長器に関する。
【背景技術】
【0002】
小型デジタル測長器は、センサ部として直径10mm程度の中に小型光学スケールが内蔵され、隣接した多点測定を可能としたペンシル型高精度デジタル測長器、あるいはインプロセス用のマシンコントロールゲージ測定ヘッドとして用いられている。また、現場での外径測定、段差測定、厚さ測定、多点測定等のため、センサ部からコントローラまでを数m(3〜6m以上)の伝送ケーブルで接続し、高速な通信を行う必要がある。そのため、高精度のみならず、小型省スペース、防水性、一般的なクーラント・油に対する耐性等の高い耐環境性、繰り返し測定のための耐久性、メンテナンス不要で長寿命などが強く要望されている。
【0003】
また、コントローラは、他のセンサとの共用など豊富な拡張性、高い演算機能と高速サンプリング、多くのセンサ接続数(例えば、32本以上)が必要とされている。
【0004】
さらに、センサ部とコントローラとの信号伝送に関しては、センサ部が小型でチップ抵抗部品、抵抗皮膜、プリント配線板上の配線パターンなどにより構成されることから低電圧差動信号伝送が利用されている。そこで、差動信号伝送線路の終端回路において、整合センタータップ終端回路を実現し、実装面積を縮小するとともに、部品・実装コストを削減する。そのため、差動信号伝送線路において、2つの抵抗素子を受信側ICの入力端に直列にして接続し、中点とプリント配線板のGNDとの間に、コンデンサ素子を直列に接続することが知られ、特許文献1に記載されている。
【0005】
また、消費電力の低減、回路実装密度の向上、及び安価にするため、比較的出力インピーダンスの高いCMOS差動出力素子を使用し、差動ドライバと差動の伝送線路間に直列に挿入され、伝送線路の特性インピーダンスに直列終端して整合する直列終端回路を設けることが知られ、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−96351号公報
【特許文献2】特開平11−205118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術において、特許文献1に記載のものでは、実装面積を縮小するには良いが、小型化されたことによるセンサの発熱、また防水等については、考慮されていない。特許文献2に記載のものは、回路実装密度の向上した上で消費電力を低減するとされているが、発熱の観点からセンサの小型化、多点測定することについては十分対応できるものではない。
【0008】
ペンシル型高精度デジタル測長器、あるいはインプロセス用のマシンコントロールゲージ測定ヘッドとして用いられる小型デジタル測長器は、センサ部を小型省スペース、防水、油に対する耐性等の高い耐環境性とするため、センサ部の筐体内部の気密性を高める必要があり、その分回路の発熱により、熱がこもる。そして、センサ先端の光学スケールや光学式エンコーダを取り付ける部位が熱をもつことにより熱膨張し、光学スケールと光学式エンコーダとの相対位置関係が変化し、測定値に影響する恐れがあった。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、現場での多点測定に適し、センサ部の省消費電力化を図り、長時間の測定においても発熱を抑え、高精度な小型デジタル測長器を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、光学式スケールと光学式エンコーダを有するセンサ部により計数された出力信号をコントローラへ送信あるいは前記コントローラからの指令信号を前記センサ部で受信する小型デジタル測長器において、前記センサ部及び前記コントローラのそれぞれに組み込まれ、送信側ドライバと受信側レシーバが組み合わされた差動トランシーバと、往路伝送線路と復路伝送線路を組み合わせた平衡伝送路を構成し、前記差動トランシーバにより前記センサ部と前記コントローラとの間で前記出力信号及び前記指令信号の伝送を行う伝送ケーブルと、入力端に終端抵抗とコンデンサとが直列に接続され前記センサ部に組み込まれた前記受信側レシーバと、を備えたものである。
【0011】
また、上記において、入力端に終端抵抗とコンデンサとが直列に接続され前記コントローラに組み込まれた前記受信側レシーバを備えたことが望ましい。
【0012】
さらに、上記において、直径8〜12mmの筐体の中に前記光学式スケールと前記光学式エンコーダとが組み込まれた前記センサ部を備えたことが望ましい。
【0013】
さらに、上記において、前記コントローラは複数本の前記センサ部を接続する前記受信側レシーバを有し、それぞれの前記受信側レシーバの入力端に終端抵抗とコンデンサとが直列に接続されたことが望ましい。
【0014】
さらに、上記において、前記センサ部と前記コントローラの間で送受信される信号周期をTとして、前記終端抵抗の抵抗値をR、前記コンデンサの容量をCとして、R・C<(T/2)/(ln2)としたことが望ましい。
【0015】
さらに、上記において、前記センサ部に組み込まれた前記受信側レシーバの入力端に一般的な差動伝送用ドライバ及びレシーバ回路の仕様である100〜120Ωの前記終端抵抗と6000pF以下の前記コンデンサを、好ましくは800〜1200pFの前記コンデンサを直列に接続したことが望ましい。
【0016】
さらに、上記において、前記コントローラに組み込まれた前記受信側レシーバの入力端に一般的な差動伝送用ドライバ及びレシーバ回路の仕様である100〜120Ωの前記終端抵抗と6000pF以下の前記コンデンサを、好ましくは800〜1200pFの前記コンデンサを直列に接続したことが望ましい。
【0017】
前記センサ部に組み込まれた前記受信側レシーバ及び前記コントローラに組み込まれた前記受信側レシーバのそれぞれの入力端に直列に接続された前記終端抵抗と前記コンデンサとを有し、前記センサ部の前記受信側レシーバの入力端に接続された前記コンデンサの容量を前記コントローラの前記受信側レシーバの入力端に接続された前記コンデンサの容量よりも大きくしたことが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光学式スケールと光学式エンコーダを有するセンサ部により計数された出力信号をコントローラへ送信する小型デジタル測長器において、入力端に終端抵抗とコンデンサとが直列に接続されセンサ部に組み込まれた受信側レシーバと、を備えるので、気密性を高めたセンサ部の筐体内部の発熱を抑制し、熱膨張による光学式スケールと光学式エンコーダとの相対位置関係の変化を低減できる。したがって、センサ部の省消費電力化を図り、現場での長時間の測定においても安定的に計数することを可能とした、高精度な小型デジタル測長器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るブロック図
図2】従来の送受信部を示す回路図
図3】本発明の一実施形態に係る送受信部を示す回路図
図4】本発明の一実施形態に係る信号電圧の遷移を示すグラフ
図5】本発明の一実施形態に係る光学式エンコーダと光学式スケールとの相対位置の時間変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、小型デジタル測長器の構成を示すブロック図であり、1はセンサ部、2は伝送線路となる伝送ケーブル、3はコントローラである。図2は、従来の伝送方式の送受信部を示す回路図である。
【0021】
高速な信号を伝送ケーブル2で伝送する場合、不要輻射ノイズを抑制するために、差動信号伝送が用いられている。差動信号伝送は、2本の信号線を用い、互いに逆相の電流を流し、信号線間の電位差で伝送する。外部からのノイズは、+側と−側の信号線に同じノイズが加わったとしても、差動伝送では信号線間の電位差をみるため、ノイズがキャンセルされ誤動作し難くなり、長距離かつ高速な通信が可能となる。
【0022】
センサ部1には、直径8〜12mm、望ましくは10mm程度の筐体の中に、基準目盛りとなる光学式スケール4と光学式エンコーダ5が組み込まれている。光学式エンコーダ5は、光学式スケール4の格子目盛から発光素子、受光デバイスを用いて光量変化を検出し、受光デバイスからAB2相の正弦波信号を得る。そして、得られたAB相の正弦波をデジタル変換回路の内挿回路で分割し内部的に、方形波(パルス)をカウントする。この範囲のサイズまたはそれ以下のサイズの筐体内に光学式エンコーダと光学式スケールとが組み込まれた測長器において、発熱が特に問題になり、本発明を適用することにより、発熱による光学式エンコーダと光学式スケールとの相対的な位置関係の変化の低減に顕著な効果を表すことができる。
【0023】
デジタル変換回路7は、光学式エンコーダ5が接続されたとき、位相が互いに1/4周期ずれたAB2相の正弦波信号を内部で逓倍して分割したパルスを計数する。計数値は、インクリメンタル型の光学式エンコーダであればA相に対するB相の位相の進み又は遅れに応じて加算又は減算される。インクリメンタル型では、基準とする位置でカウンタの計数値をリセットし、その位置からのパルス数を累積加算するので、基準位置を任意に選ぶことができる。
【0024】
デジタル変換回路7で計数されたデジタルの出力信号は、差動トランシーバ8、伝送ケーブル2を介してコントローラ3へ送信される。差動トランシーバ8は、平衡接続方式である送信側ドライバ8−1と受信側レシーバ8−2が組み合わされ、センサ部1からコントローラ3への計数値の送信には送信側ドライバ8−1により送信し、コントローラ3からセンサ部1への指令信号は受信側レシーバ8−2で受信される。
【0025】
送信側ドライバ8−1は、デジタル変換回路7の出力を送信側となる伝送ケーブル2の一方の線に元の信号を、他方の線に位相を反転させた(逆位相の)信号、つまり差動信号を送る。2本の信号線はどちらも接地されない平衡回路で接続される。これにより、差動伝送回路が構成できるため、ノイズが低減されるので、センサ部1からコントローラ3までの距離を数十m以上まで長くすることができる。
【0026】
伝送ケーブル2を介してコントローラ3へ送信された出力信号は、コントローラ3の差動トランシーバ9で受信される。差動トランシーバ9は、平衡接続方式である受信側レシーバ9−1と送信側ドライバ9−2が組み合わされ、センサ部1からコントローラ3への計数値の信号は受信側レシーバ9−1により受信され、コントローラ3からセンサ部1への指令信号は送信側ドライバ9−2で送信される。
【0027】
コントローラ3の差動トランシーバ9で受信された信号は、制御部10に伝えられ、センサ部1による外径測定、段差測定、厚さ測定などの測定値として出力される。また、図1では、一つのセンサ部1を接続しているが、コントローラ3に隣接した多点測定の場合には、複数本のセンサ部1がそれぞれの伝送ケーブル2を介して接続される。特に、外径測定、段差測定、厚さ測定、平面度の測定では2〜32本のセンサ部1がコントローラ3に接続される。
【0028】
図2は、従来の終端抵抗を用いた場合の送受信を示した回路図であり、下図として送信される信号の差動電圧及び電流の時間変化を示している。差動トランシーバ8の送信側ドライバ8−1と差動トランシーバ9の受信側レシーバ9−1とが伝送ケーブル2の往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2により結ばれている。
【0029】
送信側ドライバ8−1と受信側レシーバ9−1との間は、差動状態における各伝送線路の基準電位に対する特性インピーダンスを有し、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2とは電気的特性を等しくし、いわゆる平衡伝送路が形成され差動信号線路となっている。また、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2とは受信側レシーバ9−1の入力端近傍において終端抵抗20で終端されている。
【0030】
送信側ドライバ8−1で送信のために電流を駆動する場合、終端抵抗20の両端で差動電圧が発生する。デジタル変換回路7からのデジタル信号に基づいて、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2の間に電位差が生ずる送信信号となる差動電圧を生成する。差動電圧により電流は上図中の矢印に示す様に、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2では逆方向に流れている。受信側レシーバ9−1は、差動電圧を電源電位に基づく論理振幅で動作する信号レベルに変換し、制御部10へ出力する。
【0031】
つまり、送信側ドライバ8−1で発生した信号電流を、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2の組み合わせによる平衡伝送路と、受信側レシーバ9−1の入力側の終端抵抗20とで形成されるループに流すことによって、終端抵抗20の部分に信号電圧を発生させて信号を伝送するものである。
【0032】
信号のON/OFFは、電流の流れる向きを切り替えることにより識別する。この時、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2とを流れる電流は、理想的には大きさが同じで向きが逆である為に、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2に流れる電流によって発生する磁界は互いに打ち消しあい、結果として放射ノイズやクロストークノイズの発生を抑制することができる。また、外来のノイズに対しても、影響の受け方が往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2とで相対的に同じであれば、信号の論理に影響せずノイズ耐性にも優れる。
【0033】
ただし、信号出力の立ち上がり、立ち下がり特性は完全に一致させる事は原理的に困難であるため、トランジェントのタイミングにおいて、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2間には僅かな同相のコモンモード電流が流れてしまう。また、伝送ケーブル2や終端抵抗20の浮遊容量等による差動インピーダンスのミスマッチや、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2間で発生する遅延時間、タイミングのずれであるスキューなどによってもコモンモード電流が発生し、ノイズやジッタとなる。スキュー時間は伝送ケーブル2の長さに比例し、スキュー時間が大きいと受信側レシーバ9−1でのデータの復調が出来なくなる。
【0034】
図2で示した従来の終端抵抗を用いた差動伝送方式では、伝送ケーブル2の特性インピーダンスを合わせるため(信号の反射を防ぐため)受信側レシーバ9−1の入力端へ終端抵抗20を挿入している。終端抵抗は100Ω程度で、これは差動伝送用ドライバ及びレシーバ回路によって最適化されている。
【0035】
デジタル信号のH論理、L論理の遷移時間はトランジェントとして伝送信号に比べて非常に短いので、終端抵抗20には、図2の下図に示すように、常に(伝送路間電位差)/(終端抵抗)[A]の電流が流れるため、終端抵抗20において定常的に電力消費している状態となっている。また、電力消費量は電流の方向に関わらず一定であり、この電力消費分は、抵抗によって熱に変換され、製品にとって無視できないものとなる。
【0036】
実際には、センサ部1からコントローラ3へ測定データを送信するだけでなく、逆に、コントローラ3からセンサ部1へ動作確認信号、データ送信の要求信号など双方向の通信を常に行っている。このときは、送信側ドライバ9−2(図1参照)で発生した信号電流を、往路伝送線路2−3(図1参照)と復路伝送線路2−4(図1参照)の組み合わせによる平衡伝送路と、受信側レシーバ8−2(図1参照)の入力側の終端抵抗11(図1参照)とで形成されるループに流すことによって、終端抵抗11(図1参照)の部分に信号電圧を発生させて信号を伝送している。
【0037】
なお、図2の説明では便宜上、センサ部1からコントローラ3へ測定データを送信することとして説明しているが、コントローラ3からセンサ部1へ指令データを送信するときも同様である。
【0038】
コントローラ3からセンサ部1へ測定データを送信するときも同様であり、従来は受信側レシーバ8−2の入力端に終端抵抗11のみ接続しているので、センサ部1では終端抵抗11において定常的に電力消費している状態となる。そして、多点測定に適したように小型化されたデジタル測長器は、防水、油に対する耐性等の高い耐環境性とするため、筐体内部の気密性を高める必要があり、その分回路の発熱により、熱がこもる。それにより、センサ内蔵の光学式スケールや光学式エンコーダを取り付ける部位が熱をもつことにより熱膨張し、光学式スケール4と光学式エンコーダ5(図1参照)との相対位置関係が変化し、測定値に影響する。
【0039】
また、センサ部1ばかりでなく、多点測定が可能なように、例えば32本以上のセンサ部1が接続されたコンパクトなコントローラ3では、総合的な消費電力は増加する。特に、携帯型のバッテリ駆動によるコントローラ3では測定時間がバッテリの消費電力で制限されるため、長時間の測定が困難となる。
【0040】
図3は、一実施の形態による送受信を示した回路図であり、受信側レシーバ9−1の入力端に終端抵抗20と、終端抵抗20と直列にコンデンサ21を挿入している。送信側ドライバ8−1と差動トランシーバ9の受信側レシーバ9−1とが伝送ケーブル2の往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2により結ばれている。
【0041】
送信側ドライバ8−1と受信側レシーバ9−1との間は、差動状態における各伝送線路の基準電位に対する特性インピーダンスを有し、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2とは電気的特性を等しくし、いわゆる平衡伝送路が形成され差動信号線路となっている。
【0042】
送信側ドライバ8−1で送信のために電流を駆動する場合、終端抵抗20の上側からコンデンサ21の下側、つまり受信側レシーバ9−1の入力端には、図2と同様の差動電圧が発生する。デジタル変換回路7からのデジタル信号に基づいて、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2の間に電位差が生ずる送信信号となる差動電圧を生成する。差動電圧により電流は上図中の矢印に示す様に、往路伝送線路2−1と復路伝送線路2−2では逆方向に流れる。
【0043】
ただし、コンデンサ21は直流的には高インピーダンスとなるので、差動電圧は同じであるが、下図のように電流は信号の極性が変化する過渡状態でのみ流れ、デジタル測長器として通常に行われている通信速度、データ転送レートであれば、図3のように定常状態の間は流れず、直流電流を消費しない。
【0044】
したがって、終端抵抗20での電力消費は、定常状態の間においてもほとんど消費されず、信号を送信する上での定常的な電力消費を大幅に抑制できる。この電力消費分は、抵抗によって熱に変換され、製品にとって無視できないものとなるが、本発明においては、この電力消費を大幅に抑制できるので、抵抗によって変換される熱量も大幅に抑制することができる。なお、図3の説明では便宜上、センサ部1からコントローラ3へ測定データを送信することとして説明しているが、コントローラ3からセンサ部1へ信号を送信する場合も同様である。
【0045】
受信側レシーバ9−1の入力端における差動電圧は、コンデンサ21を挿入しない場合と同じであれば送信側ドライバ8−1からの信号は、受信側レシーバ9−1で受信され、受信側レシーバ9−1は、差動電圧を電源電位に基づく論理振幅で動作する信号レベルに変換し、制御部10へ出力する。
【0046】
コンデンサ21を挿入したことにより、差動電圧の立ち上がり、立ち下がりが変化、トランジェントは変化する。図4は、信号電圧としてデジタル信号のH論理、L論理の時間遷移を示したグラフであり、最大のデータ転送レートにおける信号電圧変化のトランジェントを拡大したものである。
【0047】
図4において、実線は理想的な信号電圧を示し、破線は終端抵抗11と直列にコンデンサ12を挿入した場合(図1参照)の信号電圧を示している。つまり、コンデンサ12を挿入した場合、信号電圧は、H論理へ遷移するとき終端抵抗11とコンデンサ12とで定まる時定数で理想的な信号電圧に対してゆっくり立ち上がり、L論理へ遷移するとき同様の時定数で遅れてゆっくり立ち下がる。
【0048】
センサ部1とコントローラ3の通信に必要とされる最大伝送速度に対応した信号周期をTとすると、終端抵抗11とコンデンサ12は、終端抵抗11の抵抗値をR、コンデンサ12の容量をCとして、R・C<(T/2)/(ln2)とする。これにより、最大伝送速度においてもH論理、L論理を区別することができ信号の確実な伝送が可能となる。つまり、R・Cの値がT/2より大きいと、L論理における実効電圧が上がってきてH論理の電圧に近づくことになり、信号としての伝送ができなくなる。
【0049】
また、Cの値を小さくすると、過渡状態の間で消費される電流が大きくなるため総合的な電力の抑制効果は少なくなる。デジタル測長器として通常に行われている通信速度、最大伝送速度10〜20bps程度であれば、図3で既に示したようにコンデンサ12を終端抵抗11に直列に挿入することで定常状態の間の消費電力を低減できる。
【0050】
さらに、コントローラ3からセンサ部1へ送信される指令信号は、センサ部1からコントローラ3へ送信される出力信号に比べ、伝送速度は通常、小さくても良いので、センサ部1の受信側レシーバ8−2の入力端に接続されたコンデンサ12の容量をコントローラ3の受信側レシーバ9−1の入力端に接続されたコンデンサ21の容量よりも大きくすることで、実際の伝送速度を考慮した実用的なものとしてセンサ部1の発熱をより抑制したものとすることができる。
【0051】
図5は、実際のデジタル測長器での測定中における光学式エンコーダ5と光学式スケール4との相対位置の時間変化を示したグラフである。実線は終端抵抗11のみの場合、破線は、終端抵抗11にコンデンサ12を直列に挿入した場合であり、センサ部1からコントローラ3(図1参照)へ測定データを送信して、表示、演算等を行い、コントローラ3からセンサ部1(図1参照)へ指令信号等を送信している場合である。
【0052】
通常は、最大伝送速度20bps程度あれば十分なので、終端抵抗11は100〜120Ω、望ましくは差動トランシーバの仕様値、コンデンサ12は6000pF以下、望ましくは800pF〜1200pF、更に好ましくは1000pFとしている。図のように、経過時間と共に筐体内に熱が伝わり各部位が膨張することにより生じる光学式エンコーダ5と光学式スケール4(図1参照)との相対位置の変化が大きくなっている。また、通信開始後、5分程で相対位置の変化量を3割程度減らすことができている。
【0053】
これら抵抗値、コンデンサの容量値は、コントローラ3側の受信側レシーバ9−1の終端抵抗20、コンデンサ21に適用することもでき、これにより、発熱の問題のみならず、通常のデジタル測長器に用いられる伝送速度において問題なく動作することを可能とする。
【0054】
また、多点測定が可能なように複数、特に2〜32本のセンサ部1が接続可能とされたコンパクトなコントローラ3では、コントローラ3に組み込まれた受信側レシーバ9−1の入力端のそれぞれに終端抵抗20とコンデンサ21とを直列に接続する(図1参照)ことが総合的な消費電力を低減し、長時間の測定、例えば、外径測定、段差測定、厚さ測定、平面度の測定を行うのに適している。
【符号の説明】
【0055】
1 センサ部
2 伝送ケーブル
2−1 往路伝送線路(センサ側)
2−2 復路伝送線路(センサ側)
2−3 往路伝送線路(コントローラ側)
2−4 復路伝送線路(コントローラ側)
3 コントローラ
4 光学式スケール
5 光学式エンコーダ
7 デジタル変換回路
8 差動トランシーバ(センサ側)
8−1 送信側ドライバ(センサ側)
8−2 受信側レシーバ(センサ側)
9 差動トランシーバ(コントローラ側)
9−1 受信側レシーバ(コントローラ側)
9−2 送信側ドライバ(コントローラ側)
10 制御部
11 終端抵抗(センサ側)
12 コンデンサ(センサ側)
20 終端抵抗(コントローラ側)
21 コンデンサ(コントローラ側)
図1
図2
図3
図4
図5