【実施例】
【0023】
図1はウェハの表面処理装置10を示す概略平面図である。
図1に示されるウェハの表面処理装置10は、複数のウェハW(例えばシリコン・ウェハ)を格納するカセット11a、11bと、4つの基板保持機構としてのチャック部12a〜12dを備えていてインデックス回転するターンテーブル13と、4つのチャック部12a〜12dを洗浄する洗浄ユニット14と、ウェハWを搬送する搬送ロボット15とを含んでいる。
【0024】
さらに、
図1に示されるように、ウェハの表面処理装置10においては、粗研削ユニット16、仕上げ研削ユニット17、研磨・テクスチャリングユニット18がターンテーブル13の外周に沿って順番に配置されている。なお、粗研削ユニット16は、粗研削砥石(図示しない)によりウェハWの裏面Waを粗研削し、仕上げ研削ユニット17は仕上げ研削砥石(図示しない)により裏面Waを仕上げ研削する。
【0025】
図2は、ウェハWの裏面を鏡面状に仕上げ研磨をすると共にウェハWにEG層を生成する研磨・テクスチャリングユニット18の部分側面図である。研磨・テクスチャリングユニット18は、
図2(a)に示されるEGパッドユニット20と、
図2(b)に示されるパットドレスユニット30とを備えている。
【0026】
図2(a)に示されるEGパッドユニット20は、アーム21の先端にモータ22が懸架されている。そのモータ22の出力軸22aには、円板状をしたパッド支持体23が水平回転可能に取り付けられている。また、パッド支持体23の下面には同じく円板状をしたサブパッド24が樹脂性接着剤25を介して接着固定され、更にサブパッド24の下面には同じく円板状をした表面処理パッドとしてのEGパッド26が樹脂性接着剤27を介して接着固定され、これらパッド支持体23、サブパッド24、EGパッド26が一体化されている。したがって、これらパッド支持体23、サブパッド24、EGパッド26は、アーム21と一体にウェハWの厚さ方向に下降可能であり、また水平方向に回動可能である。
【0027】
EGパッド26は、厚みが4.8mm程の円板状に形成されたポリウレタン樹脂製のパッド基材に、0.6μm程度の微細なSiC(シリコン珪素)や、タングステン、アルミナ等の砥粒を樹脂材内に混合させ、その樹脂をパッド基材に含浸させてなる。パッド基材に樹脂材と共に含浸された砥粒は、ウェハWの裏面Waに極微細なスクラッチを与えてEG層を形成するのに寄与する。一方、サブパッド24は、厚みが0.9mm程の円板状に形成され、EGパッド23よりも硬さの低いものを用い、加工時におけるウェハWの表面形状に追従し易くなるように設けられている。なお、砥粒を混同させる樹脂材は、ポリウレタンに限定されるものではないことは云うまでもない。
【0028】
EGパッドユニット20には、ウェハWとEGパッド23との間に水(純水)及び研磨助剤としての研磨助剤を供給する供給源に接続された供給ライン28が設けられている。なお、研磨助剤とは、例えばアミン系(ピペラジン等)を含む溶液(5〜10%)を希釈したものである。
【0029】
図2(b)に示されるパットドレスユニット30は、図示しないモータの出力軸に接続された支持部材31に、ドレッサヘッド32が水平回転可能に取り付けられている。なお、ドレッサヘッド32は、本例ではEGパッド26の下面(加工面)と対向する円板状に形成された不織布の上面にダイヤモンド砥粒を樹脂材内に含浸させた研磨層33を設けてなる。
【0030】
そして、ウェハの表面処理装置10では、研磨・テクスチャリングユニット18において、ウェハWの裏面Wa側に極微細なダメージを与えて、ゲッタリング能を有するEG層を生成すると共に鏡面状に仕上げる加工を行うことができるようになっている。
【0031】
以下、本発明のウェハの表面処理装置10の動作について説明する。まず、搬送ロボット15によって、カセット11aから一つのウェハWが取り出されて、ウェハWを保持して回転させる基板保持機構としてのチャック部12aまで搬送される。
【0032】
ウェハWは、裏面Waが上方を向いた状態でチャック部12aに吸引保持される。チャック部12aは、洗浄ユニット14により予め洗浄されている。その後、ターンテーブル13がインデックス回転し、チャック部12aは、粗研削ユニット16まで移動される。このとき、別のチャック部12dには、別のウェハWが搬送ロボットにより搬送され、同様な処理が行われる。
【0033】
粗研削ユニット16においては、ウェハWの裏面Waが粗研削砥石(図示しない)により公知の手法で粗研削される。次いで、ターンテーブル13がインデックス回転して、チャック部12aは、粗研削ユニット16から仕上げ研削ユニット17まで移動される。仕上げ研削ユニット17においては、ウェハWの裏面Waは仕上げ研削砥石(図示しない)により仕上げ研削される。
【0034】
ターンテーブル13は再びインデックス回転して、チャック部12aは、仕上げ研削ユニット17から研磨・テクスチャリングユニット18まで移動される。
【0035】
研削工程後のウェハWの裏面Waには、
図3(a)に示すような研削痕が存在する。そこで、研磨・テクスチャリングユニット18では、
図3(b)に示すように、EGパッド26がアーム21と共に水平回動して、チャック部12aの上方に移動する。その後、EGパッド26とウェハWをそれぞれ回転させながら、EGパッド26を下降させて、EGパッド26をウェハWに押圧させる。また、EGパッド26とウェハWとの間には、研磨助剤が供給される。このようにして、ウェハWの裏面Waの研削痕を除去して裏面Waを鏡面状に研磨するウェットポリッシュとウェハWにEG層を生成するテクスチャリング処理とを並行して行う研磨・テクスチャリング工程(表面処理工程)が実行される。
【0036】
具体的には、EGパッド26に含まれる砥粒(以下、「固定砥粒」と称す)A1とEGパッド26から遊離した砥粒(以下、「遊離砥粒」と称す)A2とが協働して、研磨加工とテクスチャリング処理を行う。固定砥粒A1がウェハWの裏面Waに押圧された状態でEGパッド2とウェハWとが回転し、遊離砥粒A2がウェハW上を転動する。遊離砥粒A2は、樹脂性接着剤27が研磨助剤によって膨潤し加水分解することにより、
図4に示すようにEGパッド26に含まれる固定砥粒A1の一部がEGパッド26から遊離したものである。
【0037】
また、ウェハWの裏面Waの表層側が研磨助剤に触れて酸化膜(SiO2)がSiOHに改質することで軟化し、ウェハWの裏面Waが研磨し易くなっている。さらに、EGパッド26とウェハWとの間を遊離砥粒A2が転動することにより、ウェハWに遊離砥粒A2が食い込む等の外力で強制的に行う研磨ではなく、自然な力でウェハWに極微細なスクラッチを形成することにより、ウェハW内にEG層を生成する。
【0038】
図5は、研磨・テクスチャリング工程を経たウェハWの一例を示すものであり、同図(a)はウェハWを裏面側から見た全体斜視図、同図(b)はウェハWの部分拡大断面図、同図(c)はその部分拡大斜視図である。
図5に示すウェハWは、表面Wb側に無欠陥層40が形成され、その無欠陥層40の表面に複数個の半導体素子41が設けられている。また、これら半導体素子41を保護するために、裏面研削時には、保護フィルム42がウェハWの表面Wbに貼り付けられている。一方、裏面Wa側には、EG層43が形成されている。EG層43は、多数のスクラッチから成り、面粗さ(Ra)1.0nm〜1.7nmで形成される。
【0039】
研磨・テクスチャリング工程の後に、
図3(c)に示すように、EGパッド26の加工面26aに対してクリーニング工程を行う。この工程では、EGパッド26がアーム21と共に水平回動され、EGパッド26がドレッサヘッド32の上方に移動される。その後、モータ22の駆動によりEGパッド26を回転させながら、そのEGパッド26をアーム21と一体にウェハWの厚さ方向に下降させ、同じく図示せぬモータにより回転しているドレッサヘッド32上にEGパッド26を軽く押し付け、EGパッド26の加工面26aから厚み方向の所定範囲を払拭し、EGパッド26の加工面26aに残存する研磨助剤を取り除く。これにより、後述するリンス工程において、加工面26aに残留した研磨助剤がウェハWに移ることを回避できる。
【0040】
クリーニング工程の後に、
図3(d)に示すように、ウェハWの裏面Waに対してリンス工程を行う。この工程では、EGパッド26がアーム21と共に水平回動して、チャック部12aの上方に移動する。その後、EGパッド26を下降させてウェハWに接近させる。そして、回転しているチャック部12a上のウェハWの裏面WaとEGパッド26の加工面との間に純水を供給しながら、ウェハWとEGパッド26を互いに逆向きに回転させる。EGパッド26は、ウェハWに非接触状態で近接して配置されており、この状態でウェハWとEGパッド26を互いに逆向きに回転させることにより、ウェハWの裏面Wa上に水流を形成することができる。このようにして、供給された水でリンス処理をし、ウェハWの裏面Waに残存する研磨助剤を洗い流して除去する。
【0041】
次に、EG層を構成するスクラッチについて、図面に基づいて説明する。
図6は、EGパッド26とウェハWとのオフセット量を示す平面模式図である。
図7は、EGパッド26に含まれる砥石の回転軌道を示す図である。
図8は、ウェハW周縁に形成されたスクラッチの向きを示す画像である。
【0042】
図6に示すように、EGパッド26の回転軸a1とチャック部12aの回転軸a2とは、任意の距離(以下、「オフセット量」という)だけ離間している。
図7に示すように、オフセット量に応じてEGパッド26に含まれる固定砥粒A1の回転軌道、すなわちスクラッチの密度・方向性は異なるため、ウェハWに付与したいEG層43のゲッタリング能に応じて、オフセット量は任意に調整される。すなわち、
図7(a)に示すオフセット量ゼロの固定砥粒A1の回転軌道は、チャック部12aの回転軸a2と一致するウェハWの中心0から周方向に僅かに湾曲しながら外周に向かうのに対して、
図7(b)、(c)に示すように、オフセット量が大きくなるにしたがって、固定砥粒A1の回転軌道は、EGパッド26の周方向に大きく湾曲する。また、ウェハWに形成されるスクラッチは、ウェハWの外側に向かるほど疎らになる。さらに、
図8に示すように、ウェハWの周縁では、スクラッチの向きが揃うように規則的に形成されがちである。
【0043】
このような固定砥粒A1が付与するスクラッチに加えて、EGパッド26は、EGパッド26上を転動する遊離砥粒A2がスクラッチを形成する。遊離砥粒A2は、上述した固定砥粒A1のように規則的には動かず、EGパッド26とウェハWとの間をランダムに動く。したがって、規則的に動く固定砥粒A1とランダムに動く遊離砥粒A2とが協働してウェハWにスクラッチを付与することにより、EG層43内のスクラッチが局所的に疎らになることを抑制できる。
【0044】
なお、EG層43内のスクラッチの密度のバラつきを軽減するために、
図9に示すように、EGパッド26がチルト機構50を備えるものであっても構わない。
【0045】
チルト機構50は、EGパッド26の先端側に配置された1つの固定支持部51と、EGパッド26の基端側に配置された2つの可動支持部52と、を備えている。固定支持部51と可動支持部52とは、図示しないモータを収容するスピンドル等の固定部材に対して相対的に傾斜可能なチルトテーブル53に取り付けられている。
【0046】
固定支持部51は、チルトテーブル53を固定部材に締結するボルト等である。
【0047】
可動支持部52は、チルトテーブル53と固定部材との間に介装されており、例えば、ボールネジを螺進させることによってチルトテーブル53と固定部材とを離間させる公知のボールネジ機構等である。
【0048】
2つの可動支持部52、52がそれぞれ独立してチルトテーブル53を固定部材に対して遠近移動させることにより、固定支持部51を支点としてチルトテーブル53が任意の角度で傾斜する。これにより、EGパッド26がウェハWの裏面Waに一様でなく局所的に押圧されることにより、EG層43内のスクラッチの密度を部分的に変更することができる。
【0049】
以上説明したように、本発明によるウェハの表面処理装置10によれば、EGパッド26に含まれる固定砥粒A1がウェハWの裏面Waに押し当てられると共に、EGパッド26から遊離した遊離砥粒A2がEGパッド26上をランダムに転動することにより、EG層43内に様々な向きのスクラッチがランダムに形成されるため、EG層43内でスクラッチが局所的に疎らになることを抑制して、重金属を高精度で捕捉可能なEG層43を形成することができる。
【0050】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。