特許第6844241号(P6844241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6844241二次電池負極用バインダー組成物、二次電池負極及び二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844241
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】二次電池負極用バインダー組成物、二次電池負極及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20210308BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20210308BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20210308BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210308BHJP
   C08K 3/02 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/134
   C08L29/04 B
   C08L101/00
   C08K3/02
【請求項の数】5
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-243199(P2016-243199)
(22)【出願日】2016年12月15日
(65)【公開番号】特開2017-117789(P2017-117789A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2019年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-249076(P2015-249076)
(32)【優先日】2015年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】矢野 友健
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 光夫
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−144124(JP,A)
【文献】 特開2014−209469(JP,A)
【文献】 特開2004−210980(JP,A)
【文献】 特開2000−100436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
C08K 3/02
C08L 29/04
C08L 101/00
H01M 4/134
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムと合金を形成し得る元素を活物質として含有する二次電池負極を作製するためのバインダー組成物であって、
エチレン性不飽和単量体に由来する重合体粒子がポリビニルアルコール系樹脂水溶液中に分散されたエマルジョンを含み、前記ポリビニルアルコール系樹脂/重合体粒子の比率が、樹脂固形分の重量比にて、60/40〜99/1であり、重合体粒子のガラス転移温度が−40〜60℃であること特徴とする二次電池負極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系樹脂が、側鎖に一級水酸基を有する構造単位を含有する変性ポリビニルアルコール系樹脂を含むことを特徴とする請求項1記載の二次電池負極用バインダー組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の二次電池負極用バインダー組成物を含有してなる二次電池負極。
【請求項4】
増粘剤としてセルロース誘導体類を含有する請求項3に記載の二次電池負極。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の二次電池負極を有する二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池負極用バインダー組成物、二次電池負極及び二次電池に関する。詳細には、二次電池の負極を構成するために、負極活物質とともに用いられるバインダー組成物、当該バインダー組成物を含有してなる二次電池負極、及び当該二次電池負極を有する二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、一般に、正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体の両面に形成された正極と、負極活物質を含む負極活物質層が負極集電体の両面に形成された負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。このような電極は、一般に、活物質と電極用バインダーとの混合スラリーを集電体表面に塗布、乾燥することにより形成される。
【0003】
ここで電極用バインダーは、活物質同士を結着するとともに、集電体である金属箔と活物質とを結着する働きをしている。バインダーが十分な量の活物質を集電体に結着できないか、又は活物質同士を結着できないと、容量の大きな電池は得られない。また、充放電を繰り返すことによって活物質の体積変動などによりバインダーの結着力が低下すると、集電体から活物質が脱落して電池の容量が低下するおそれがある。
【0004】
二次電池については、特に車載用途などで大容量化が要求される傾向にあるが、繰り返し充放電に伴う活物質層の変形や活物質の脱落、または集電体からの剥離などによって電池容量が低下することが課題となっている。そのため、少ないバインダー量で活物質と集電体との間を十分に結着させる高性能な二次電池電極用バインダーが求められている。
【0005】
また特に負極のエネルギー密度を向上させるために、負極活物質層の高密度化が検討されており、電極作製時の巻取や充放電の繰り返しに伴う負極の体積変化に追随できる安定な負極活物質層の形成が望まれている。このような理由からバインダーについても脆性破壊を防ぎ、柔軟性を改善する必要がある。
【0006】
一方、近年では、大容量化が可能な電池負極の活物質として、これまでの黒鉛系の活物質に代えて、半金属、金属やこれら合金の活物質(以下、総括して「合金系活物質」と称することがある。)を利用する検討がなされている。例えば、特許文献1には、側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂を分散剤として使用したエマルジョンを含むバインダー組成物を珪素粉末等の合金系活物質に対して使用することが開示されている。
しかしながら、合金系活物質は一般に黒鉛系活物質に比べて体積膨張がより大きく、例えば、合金系活物質として公知のケイ素(Si)活物質は、充放電に伴って約400%もの体積変化を起こすことが知られている。このような体積変化の為、活物質がより電極から剥がれ易くなるので、黒鉛系活物質で使用されていた従来のポリビニルアルコール系樹脂含有エマルジョンを含むバインダーでは安定した高充電容量を得ることが困難であり、また充放電のサイクル特性も必ずしも満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−144124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、合金系活物質に対して使用される二次電池負極用バインダー組成物であって、充放電の繰り返し等による負極の体積変化に追随できる安定な負極活物質層を形成することができ、これにより高い充放電容量が得られ、また充放電のサイクル特性を向上させることができる二次電池を製造することができる二次電池負極用バインダー組成物の提供、当該バインダー組成物を含有してなる二次電池負極の提供、及び当該二次電池負極を有する二次電池の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、エチレン性不飽和単量体に由来する重合体粒子がポリビニルアルコール系樹脂水溶液中に分散されたエマルジョンを含むバインダー組成物において、ポリビニルアルコール系樹脂/重合体粒子の重量比率を特定範囲にすることによって、合金系活物質からなる負極の体積変化に追随することができる安定な負極活物質層を形成することができ、これにより高い充放電容量が得られ、また充放電のサイクル特性を向上させることができる二次電池が得られることを見出した。また、重合体粒子のガラス転移温度を特定範囲にすることによって、負極活物質層が負極の体積変化に更に追随し、更に安定な負極活物質層を有する二次電池が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、リチウムと合金を形成し得る元素を活物質として含有する二次電池負極を作製するためのバインダー組成物であって、エチレン性不飽和単量体に由来する重合体粒子がポリビニルアルコール系樹脂水溶液中に分散されたエマルジョンを含み、前記ポリビニルアルコール系樹脂/重合体粒子の比率が、樹脂固形分の重量比にて、60/40〜99/1であり、重合体粒子のガラス転移温度が−40〜60℃であること特徴とする二次電池負極用バインダー組成物に存する。
【0011】
以下では、「二次電池負極用バインダー組成物」を単に「負極用バインダー組成物」と略称することがある。
【0012】
また、本発明の要旨は、本発明の二次電池負極用バインダー組成物を含有してなる二次電池負極、本発明の二次電池負極を有する二次電池にも存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の二次電池負極用バインダー組成物は、ポリビニルアルコール系樹脂とエチレン性不飽和単量体に由来する重合体粒子とを特定の重量比率で含有するエマルジョンを含み、重合体粒子のガラス転移温度が特定の範囲に調整されているので、合金系活物質と集電体との結着性に優れ、当該バインダー組成物と合金系活物質を含有する負極活物質層(以下、皮膜ともいう。)の弾性率と柔軟性のバランスが良好である。したがって、当該バインダー組成物と合金系活物質を含有する負極活物質層は、充放電の繰り返し等に伴った負極の体積変化による合金系活物質の剥離・脱落が発生し難くなり、また負極の体積変化に追随できるので、当該バインダー組成物を含有してなる二次電池負極を用いることによって、高い充放電容量を安定的に得ることができ、また充放電のサイクル特性に優れる二次電池の製造が可能となる。
【0014】
本発明の二次電池負極用バインダー組成物を含有してなる二次電池負極の活物質結着性が良好となる理由は、明らかではないが、以下の理由が推測される。
本バインダー組成物は、ポリビニルアルコール系樹脂と重合体粒子とを含有するエマルジョンを含む樹脂組成物であるが、このポリビニルアルコール系樹脂の成分と重合体粒子の成分の比率を特定の範囲内で任意に制御することによって、皮膜の弾性率や柔軟性、さらには金属密着性などを制御することができる。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂の成分を多くすることで高弾性皮膜に設計したり、一方で重合体粒子の成分を多くすることで柔軟性の高い皮膜を設計したりすることも可能である。また、この重合体粒子のガラス転移温度を特定の範囲に調整することによって、皮膜の弾性率や柔軟性、さらには金属密着性などを制御することができる。
【0015】
一般にバインダーとしては、柔軟性が高くなる重合体粒子の多い皮膜組成の方が電極の体積変化に追随できると考えられていた。その理由として、活物質の充放電に伴う体積変化へのストレスを柔軟なバインダー樹脂が緩和することによって、バインダーの割れや電極の構造変化を防いでサイクル特性が向上すると考えられている為である。
しかしながら一方で、合金系活物質は黒鉛系活物質と比べて充放電に伴う体積変化が大き過ぎる為、柔軟なバインダーでは電極の構造変化に完全には追随することが難しい。
そこで活物質が体積変化した場合に、そもそも電極構造を大きく変動させない程度の高い弾性率を担保しつつ、電極の変動に伴うバインダーの割れや活物質の脱落を抑制できるような柔軟性を併せ持った、合金系活物質を使用する際に好適な組成の樹脂設計を行うことで、本発明の完成に至った。
以上の技術思想により、従来の一般的なバインダー設計思想とは異なり、合金系活物質を負極に用いる際には、意外にも、ポリビニルアルコール系樹脂の比率の高い方がより安定的に高い充放電容量を示し、且つ充放電のサイクル特性に優れる電池が得られるようになることがわかった。
しかしながら、ポリビニルアルコール系樹脂の比率を高くすることによってバインダー皮膜の柔軟性が低下して脆性破壊しやすくなり、電池を作製する段階や充放電に伴う体積変化によって負極活物質層の脱落が発生して電池容量が低下してしまう。
そこで重合体粒子のガラス転移温度を特定の範囲に調整することによってバインダーの皮膜強度が高くなり、負極活物質層が負極の体積変化に対して更に追随できるようになる為、結果として更に安定的に高い充放電容量を示し、且つ充放電のサイクル特性に更に優れる電池が得られるようになることがわかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本願発明はこれらの内容に特定されるものではない。
【0017】
なお、本明細書において、アクリルとメタクリルを特段区別しない場合には、(メタ)アクリルと総称し、アクリレートとメタクリレートを特段区別しない場合には(メタ)アクリレートと総称する。
本発明において固形分とは、対象物を105℃、3時間の乾燥減量法に供することにより得られるものを意味する。
【0018】
<二次電池負極用バインダー組成物>
本発明の二次電池負極用バインダー組成物は、リチウムと合金を形成し得る元素を活物質として含有する二次電池負極を作製するためのバインダー組成物であって、エチレン性不飽和単量体に由来する重合体粒子がポリビニルアルコール系樹脂水溶液中に分散されたエマルジョンを含むバインダー組成物である。
【0019】
前記重合体粒子は、前記PVA系樹脂を分散剤として、水分散媒中で、エチレン性不飽和単量体を例えば、乳化重合することにより得ることができる。以下、詳述する。
【0020】
〔重合体粒子の説明:エチレン性不飽和単量体〕
重合体粒子における重合体は、エチレン性不飽和単量体の重合体である。エチレン性不飽和単量体としては、例えば、下記の(a)〜(m)等が挙げられる。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。
(a)(メタ)アクリル酸アルキルエステル。
(b)ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体。
(c)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体。
(d)エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体。
(e)メチロール基含有エチレン性不飽和単量体。
(f)アルコキシアルキル基含有エチレン性不飽和単量体。
(g)シアノ基含有エチレン性不飽和単量体。
(h)ラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているエチレン性不飽和単量体。
(i)アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体。
(j)スルホン酸基を有するエチレン性不飽和単量体。
(k)リン酸基を有するエチレン性不飽和単量体。
(l)芳香族エチレン性不飽和単量体。
(m)脂肪酸エステル系不飽和単量体。
【0021】
上記(a)〜(m)以外に、ビニルピロリドン、メチルビニルケトン、ブタジエン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の単量体も、所望に応じて適宜使用することができる。
【0022】
つぎに、上記(a)〜(m)に例示された単量体について、詳述する。
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の脂肪族(メタ)アクリレート、好ましくはアルキル基の炭素数が1〜20の脂肪族(メタ)アクリレートや、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも好ましくは、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数が1〜10の脂肪族(メタ)アクリレートである。
【0023】
上記ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。なかでも好ましくは、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや、炭素数2〜4のアルキレン基を有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートであり、特に好ましくはヒドロキシエチル(メタ)アクリレートである。
【0024】
上記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ウンデシレン酸等のモノカルボン酸モノマー、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸およびその無水物モノマー等が挙げられる。好ましくは(メタ)アクリル酸である。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸、イタコン酸がより好ましい。なお、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸のようなジカルボン酸の場合には、これらのモノエステルやモノアミドを用いることもできる。
【0025】
上記エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体(d)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。なかでも好ましくはグリシジル(メタ)アクリレートである。
【0026】
上記メチロール基含有エチレン性不飽和単量体(e)としては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。
【0027】
上記アルコキシアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(f)としては、例えば、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノメトキシ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノアルコキシ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。
【0028】
上記シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(g)としては、例えば、α,β−不飽和ニトリル化合物が用いられる。具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル等のアクリロニトリル系モノマー;シアン化ビニリデン等のシアノ基2置換ビニルモノマー;メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート等の不飽和基含有シアノアクリレートやテトラシアノキノジメタン、2,2−ジアリールマロノニトリル等が挙げられる。これらの中でも、アクリロニトリル系モノマーが好ましく、特に好ましくは(メタ)アクリロニトリルであり、更に好ましくはアクリロニトリルである。ニトリル系モノマーは、一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
上記ラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているエチレン性不飽和単量体(h)としては、例えば、ジ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート、共役ジエン系モノマーが挙げられ、ジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、テトラ(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
また、共役ジエン系モノマーとしては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−ヘプタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の炭化水素共役ジエン系モノマー;2−クロロ−1,3−ブタジエン等のハロゲン含有共役ジエン系モノマー;置換直鎖共役ペンタジエン類;置換および側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられる。これらの中でも、炭素数4〜6の共役ジエン系モノマーが好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。
これらラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているエチレン性不飽和単量体(h)は、一種単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
上記アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体(i)としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0032】
上記スルホン酸基を有するエチレン性不飽和単量体(j)としては、例えば、ビニルスルホン酸、ビニルスチレンスルホン酸(塩)等が挙げられ、これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。
【0033】
上記リン酸基を有するエチレン性不飽和単量体(k)としては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、アシッドホスホキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホキシプロピル(メタ)アクリレート、ビス〔(メタ)アクリロイロキシエチル〕ホスフェート、ジフェニル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル−2(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられ、これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。
【0034】
上記芳香族エチレン性不飽和単量体(l)としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等が挙げられ、これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。中でも、好ましくはスチレンである。
上記脂肪酸エステル系不飽和単量体(m)としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いられる。
【0035】
かかる含有量は、本発明で用いるエマルジョンの製造に際して仕込まれるモノマーの仕込み重量と一致する。かかるモノマーの仕込み重量は、目的とする重合体粒子の構成に対応し、通常、重合体粒子の5〜100重量%、好ましくは20〜100重量%、特に好ましくは30超〜80重量%である。
【0036】
重合体粒子には、上記以外の他のモノマー(以下、単に「その他のモノマー」と称することがある。)に由来する構造単位が含まれていてもよい。その他のモノマーの含有量は、重合体粒子に対して、通常、0〜95重量%、好ましくは0〜80重量%、特に好ましくは0〜70重量%である。尚、その他のモノマーに由来する構造単位の含有量は、本発明の二次電池負極用バインダー組成物が有するエマルジョンの製造に際して仕込む、その他のモノマーの仕込み重量と比例する。
前記その他のモノマーの仕込み量は、目的とする重合体粒子の構成に対応し、重合体粒子に対して、通常、0〜95重量%、好ましくは0〜80重量%、特に好ましくは0〜70重量%である。
【0037】
本発明において重合体粒子のガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)は、−40〜60℃であり、好ましくは−35〜57℃、特に好ましくは−30〜55℃、更に好ましくは−25〜50℃である。ガラス転移温度が低すぎると、用いるモノマーの組成によっては乳化重合が不安定となり、ガラス転移温度が高すぎると、バインダー皮膜が脆性破壊しやすくなり、充放電時のサイクル特性が低下しやすくなる。
なお、重合体粒子のガラス転移温度は、重合体粒子を構成するエチレン性不飽和単量体の選択やその重合比の調整等の公知の方法によりコントロールすることができる。
【0038】
また、2種以上の単量体を用いる場合には、共重合体のTgが、このような温度範囲となるように、単量体の組成比を調整して用いることが好ましい。
2種以上の単量体を用いた場合に得られる共重合体のTg(℃)は、例えば以下に記載の熱示差分析法によって求めることができる。なお本発明における共重合体のTg(℃)は、変調モードで測定した2ndサイクル目のリバーシブルヒートフローの値を採用する。
分析装置:ティー・エイ・インスツルメント社製「DSC Q2000」
測定範囲
1st: −30〜215℃
2nd: −30〜230℃
昇温速度:5℃/分
降温速度:10℃/分
変調周期:60秒毎
温度振幅:+/−0.80℃
【0039】
〔ポリビニルアルコール系樹脂水溶液〕
前記重合体粒子が分散するPVA系樹脂水溶液におけるPVA系樹脂は、公知一般の水溶性のPVA系樹脂である。
かかるPVA系樹脂は、ビニルエステル系モノマーを重合し、ケン化することにより得られる。
【0040】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、酢酸ビニルが挙げられる。また酢酸ビニルの代わりに、例えば、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピパリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル等を例示できるが、価格や入手の容易さの観点で、酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0041】
ビニルエステル系モノマーの重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。なかでも、反応熱を効率的に除去できる溶液重合を還流下で行うことが好ましい。溶液重合の溶媒としては、通常はアルコールが用いられ、好ましくは炭素数1〜3の低級アルコールが用いられる。
【0042】
得られた共重合体のケン化についても、従来より行われている公知のケン化方法を採用することができる。すなわち、重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。
前記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
通常、無水アルコール系溶媒下、アルカリ触媒を用いたエステル交換反応が反応速度の点や脂肪酸塩等の不純物を低減できるなどの点で好適に用いられる。
【0043】
ケン化反応の反応温度は、通常20〜60℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が小さくなり反応効率が低下する傾向があり、高すぎると反応溶媒の沸点以上となる場合があり、製造面における安全性が低下する傾向がある。なお、耐圧性の高い塔式連続ケン化塔などを用いて高圧下でケン化する場合には、より高温、例えば、80〜150℃でケン化することが可能であり、少量のケン化触媒も短時間、高ケン化度のものを得ることが可能である。
【0044】
PVA系樹脂のケン化度(JIS K 6726に準拠して測定)は、通常、80〜100モル%であり、特に85〜99.9モル%、更に90〜99.5モル%であることが好ましい。かかるケン化度が低すぎると、PVA系樹脂の保護コロイド性が高くなりすぎる為、エマルジョン粘度が高くなりすぎたり、PVA系樹脂に曇点が発現したりして、例えば乳化重合時の重合安定性が極端に低下して目的とするエマルジョンが得られにくい傾向がある。またケン化度が低くなることで電解液に対してPVA系樹脂が膨潤しやすくなり、この結果、電極部材間の結着性が低下する傾向がある。一方、高ケン化度、特に完全ケン化のPVA系樹脂は、工業的に生産が困難になる傾向がある。
【0045】
粘度平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、通常50〜2500であり、好ましくは100〜1700、特に好ましくは100〜1300である。かかる粘度平均重合度が低すぎると、アクリル系モノマー等への保護コロイド機能が低下する傾向があり、逆に高すぎると、重合反応溶液の粘度が高くなりすぎ、重合中に攪拌し難くなり、重合困難となる傾向がある。また、保護コロイド性が高くなりすぎるために、例えば乳化重合時の滴下モノマーが重合粒子内に吸収され難くなり、滴下モノマー由来の新粒子の生成が多くなり、その結果、乳化物中の粗粒子量が増加してしまう傾向がある。
【0046】
上記PVA系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)にて、ビニルエステル系モノマー以外の他のモノマーに由来する構造単位を有していても良い。
例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のビニル基とエポキシ基を有するモノマー;トリアリルオキシエチレン、ジアリルマレアート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリルオキシエタン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリルオキシエタン、ジアリルフタレート等のアリル基を2個以上有するモノマー;酢酸アリル、アセト酢酸ビニルエステル、アセト酢酸アリルエステル、ジアセト酢酸アリルエステル等のアリルエステル系モノマー;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート;アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピルクロトナート等のアセトアセトキシアルキルクロトナート;2−シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコール(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(アルキル部分がC1〜C10アルキル基であり、好ましくはC1〜C6アルキル基);(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン;エチレンスルホン酸等のオレフィン系モノマー;ブタジエン−1,3、2−メチルブタジエン、1,3又は2,3−ジメチルブタジエン−1,3、2−クロロブタジエン−1,3等のジエン系モノマー;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、グリセリンモノアリルエーテル等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類、およびそのアシル化物などの誘導体;1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジプロピオニルオキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジブチロニルオキシ−2−メチレンプロパンなどのヒドロキシメチルビニリデンジアセテート類;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類、その塩又はモノ若しくはジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のビニルアルキルジアルコキシシラン;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシラン;γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のγ−(メタ)アクリロキシプロピルアルキルジアルコキシシラン;ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ヒドロキシメチルビニリデンジアセテートが挙げられる。ヒドロキシメチルビニリデンジアセテートの具体的な例としては、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジプロピオニルオキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジブチロニルオキシ−2−メチレンプロパン等が挙げられる。これらのモノマーは、単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0047】
また、本発明のPVA系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲(通常15モル%以下、好ましくは10モル%以下)にて変性されたPVA系樹脂が含まれていても良く、変性されたPVA系樹脂としては、例えば、PVA系樹脂のホルマール化物、アセタール化物、アセトアセチル化物、ブチラール化物、ウレタン化物、スルホン酸やカルボン酸等とのエステル化物等が挙げられる。
【0048】
本発明においては特に、エマルジョンが含有するPVA系樹脂として、ヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体で変性された変性PVA系樹脂を用いることが好ましい。
【0049】
例えば、変性PVA系樹脂として、側鎖に一級水酸基を有する構造単位を含有する変性PVA系樹脂を用いることが好ましい。かかる構造単位における一級水酸基の数は、通常1〜5個であり、好ましくは1〜2個であり、特に好ましくは1個である。また、一級水酸基以外にも二級水酸基を有することが好ましい。
【0050】
このような側鎖に一級水酸基を有する構造単位を含有する変性PVA系樹脂としては、例えば、側鎖に1,2−ジオール構造単位を有する変性PVA系樹脂、側鎖にヒドロキシアルキル基構造単位を有する変性PVA系樹脂等が挙げられる。中でも、特に下記一般式(1)で表される、側鎖に1,2−ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂(以下、「側鎖1,2−ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂」と称することがある。)を用いることが好ましい。
【0051】
【化1】
(上記一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表す。)
【0052】
上記一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表す。R〜Rは、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよい。該有機基としては特に限定しないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じてハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0053】
上記一般式(1)中、Xは単結合又は結合鎖であり、非晶部におけるフリーボリューム(分子間空隙)低減による耐電解液性(すなわち、電解液による膨潤が起こり難い性質)の点から単結合であることが好ましい。上記結合鎖としては、特に限定されず、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、−O−、−( CHO)m−、−( OCH)m−、−( CHO)mCH−、−CO−、−COCO−、−CO( CH)mCO−、−CO(C)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO−、−Si(OR)−、−OSi(OR)−、−OSi(OR)O−、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等が挙げられる。Rは各々独立して水素原子又は任意の置換基であり、水素原子又はアルキル基(特にC〜Cアルキル基)が好ましい。またmは自然数であり、好ましくは1〜10である。
なかでも、製造時の粘度安定性や耐熱性等の点で、炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CHOCH−が好ましい。
【0054】
上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における特に好ましい構造は、R〜Rがすべて水素原子であり、Xが単結合である。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位が特に好ましい。
【0055】
【化1a】
【0056】
このような側鎖1,2−ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂は、公知の製造方法により製造することができる。例えば、特開2002−284818号公報、特開2004−285143号公報、特開2006−95825号公報に記載されている方法により製造することができる。すなわち、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示されるビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法などにより、製造することができる。
【0057】
【化2】
【0058】
【化3】
【0059】
【化4】
【0060】
一般式(2)(3)(4)の式中、R〜Rは、いずれも一般式(1)の場合と同様である。R及びRは、それぞれ独立して水素またはR−CO−(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基である。)であり、R10及びR11は、それぞれ独立して水素原子又は有機基であり、有機基は一般式(1)の場合と同様である。
上記方法のうち、共重合反応性及び工業的な取扱いにおいて優れるという点で(i)の方法が好ましく、特にR〜Rが水素、Xが単結合、R、RがR−CO−であり、Rがアルキル基である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、その中でも特にRがメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
【0061】
なお、(ii)や(iii)の方法によって得られた側鎖1,2−ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂は、ケン化度が低い場合や、脱炭酸あるいは脱アセタール化が不充分な場合には、側鎖にカーボネート環あるいはアセタール環が残存する場合がある。そのようなPVA系樹脂を分散剤として用いた場合、得られる重合体粒子には粗大な粒子の割合が増加する傾向がある。このような理由からも、(i)の方法によって得られたPVA系樹脂が本用途においては特に好適である。
【0062】
PVA系樹脂が上記1,2−ジオール構造単位を含む場合、その含有量は、乳化重合時の分散質たるエチレン性不飽和重合体粒子へのPVA系樹脂のグラフト化や耐電解液性、エマルジョンの放置安定性等の点より、通常0.5〜15モル%であり、好ましくは1〜10モル%、特に好ましくは1〜8モル%である。含有量が少なすぎると、分散質たるエチレン性不飽和重合体粒子へのPVA系樹脂のグラフト化率が低下し、耐電解液性、エマルジョンの放置安定性等が低下する傾向があり、含有量が多すぎると、充放電時の内部抵抗が大きくなる傾向がある。
なお、PVA系樹脂中の1,2−ジオール構造単位の含有率は、ケン化度100モル%のPVA系樹脂のH−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができる。具体的には1,2−ジオール構造単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出することができる。
【0063】
PVA系樹脂水溶液の溶媒は、水である。かかる溶媒は、上記PVA系樹脂の溶解を阻害しない範囲(例えば溶媒の20重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、水と混和性の有機溶媒を含有していてもよい。
かかる有機溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどのアミド系溶媒、ジメチルスルホキサイドなどのスルホキサイド、メタノール、エタノール等の炭素数1〜3の低級アルコール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。
【0064】
〔PVA後添加処方によるバインダー組成物〕
本発明におけるエチレン性不飽和単量体に由来する重合体粒子が上記PVA系樹脂水溶液中に分散しているエマルジョンは、上記重合体粒子を上記PVA系樹脂水溶液に分散させることで得られる。
特にかかるエマルジョンは、エチレン性不飽和単量体を分散質とし、公知の分散剤を用い、上記溶媒を分散媒として乳化重合する場合、上記重合体粒子が分散媒中に分散性良く分散したエマルジョンとして効率よく得られる。
【0065】
かかるエマルジョンに、さらに上記PVA系樹脂を溶解する、またはPVA系樹脂を溶解した溶液を混合することも可能である。この時、エマルジョンの調製に用いたPVA系樹脂以外に、異なる種類のPVA系樹脂を用いることも可能である。調製したエマルジョン組成物中に後添加するPVA系樹脂(便宜上、第2のPVA系樹脂と称することがある。)として、上記した分散剤たるPVA系樹脂と同様に、公知のPVA系樹脂を用いることが可能である。また、本発明の目的を阻害しない範囲において、第2のPVA系樹脂においても、上記分散剤たるPVA系樹脂と同じく変性PVA系樹脂を用いることが可能である。第2のPVA系樹脂が上記の1,2−ジオール構造単位を含むものであることがエマルジョンの安定性が良好となる点で好ましい。
【0066】
また、本発明におけるエマルジョンを得る場合、重合体粒子の分散剤たるPVA系樹脂(便宜上、第1のPVA系樹脂と称することがある。)、及びエマルジョンのPVA系樹脂水溶液のPVA系樹脂(第2のPVA系樹脂)に、互いに異なる種類のPVA系樹脂を用いることも可能である。このとき、得られる負極用バインダー組成物を用いて得られる負極において、これらのPVA系樹脂は互いに完全相溶性(海―海構造)となり均一相を形成するか、或いは海島構造を形成することとなる。
この場合、負極におけるバインダーの連続層の強度の観点から、海島構造を形成する場合はドメインサイズを小さく(通常ドメイン径1.5μm以下)制御することが好ましい。かかる観点から、第1のPVA系樹脂と第2のPVA系樹脂のケン化度差は、通常0〜15モル%、好ましくは0〜10モル%である。
【0067】
また、第2のPVA系樹脂のケン化度は85〜100モル%が好ましく、特に90〜99.9モル%であることが好ましい。かかるケン化度が低すぎると電解液に対して第2のPVA系樹脂が膨潤しやすくなり、この結果、電極部材間の結着性が低下する傾向がある。
なお、本発明のPVA樹脂の重量とは、第1のPVA系樹脂と第2のPVA系樹脂との合計重量を指す。
【0068】
〔PVAを乳化剤とした乳化重合によるエマルジョンの合成〕
前記乳化重合を実施する方法としては、例えば、i)水、分散剤及び重合触媒の存在下に、分散質たるエチレン性不飽和単量体を一度に又は連続的に配合して、加熱、撹拌することにより乳化重合する方法;ii)エチレン性不飽和単量体を分散媒に混合分散させた分散液を調製し、この調製した分散液を、水、分散剤及び重合触媒が配合された系内に、一度に又は連続的に配合して、加熱、撹拌して、乳化重合する方法などが挙げられる。このように予め調製した分散液を用いる方法は特にプレエマルジョン法と称される。かかる方法は、重合対象のモノマー組成がたとえ複雑であっても、生産性を維持して乳化重合を行なうことが可能であるので好ましい。
【0069】
前記乳化重合に用いられる反応溶液中の分散媒は、通常、水である。所望により、上記溶媒にて挙げた水と混合可能な有機溶媒を水と併用することも可能である。しかしながら、乳化重合に供するモノマーの分散性の点から、好ましくは水のみである。
【0070】
特に本発明においては、重合体粒子の平均粒子径を特定の小さい範囲とするために、例えば、(1)エマルジョンの調製時に添加する界面活性剤や水溶性高分子保護コロイド剤などの乳化分散剤の組成及び量を制御する方法や、(2)モノマーや重合触媒の添加条件を制御する方法、(3)エマルジョンの設計不揮発分を制御する方法などを採用することができる。
その他には、重合装置の混合攪拌翼の大きさや攪拌速度、攪拌時間を制御する方法などを採用することができる。さらには、モノマーを多孔質の膜中に通すことで粒子径を制御する膜乳化法や、攪拌方法に超音波を用いる超音波乳化法などを採用することもできる。
【0071】
乳化重合時に分散剤としてPVA系樹脂を用いる場合、その配合量は、使用するPVA系樹脂の種類や合成しようとするエマルジョンの濃度等によって多少異なるが、乳化重合反応系の全体に対して、通常0.1〜80重量%であり、好ましくは10〜70重量%、特に好ましくは20〜60重量%、更に好ましくは20〜57重量%である。
PVA系樹脂の配合量が少なすぎると、エチレン性不飽和単量体の乳化状態が不安定となって、重合反応性が低下したり、重合により得られるエマルジョン中での粒子の乳化状態安定性が低下する傾向にある。一方、PVA系樹脂の含有量が多すぎると、反応液の粘度が増大しすぎて均一分散性が低下し、重合率を高められなかったり、得られるエマルジョンの粘度が高くなりすぎて、製造上の歩留まりが低下する傾向にある。
【0072】
重合触媒としては、通常、乳化重合の分野で用いられる重合触媒を用いることができる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、臭素酸カリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、過酸化水素−酒石酸、過酸化水素−鉄塩、過酸化水素−アスコルビン酸−鉄塩、過酸化水素−ロンガリット、過酸化水素−ロンガリット−鉄塩等の水溶性のレドックス系の重合触媒などが挙げられ、これらは単独で、又は2種以上混合して用いることができる。具体的には、化薬アクゾ社製『カヤブチルB』や同社製『カヤブチルA−50C』等の有機過酸化物とレドックス系からなる触媒を用いることもできる。
【0073】
重合触媒の使用量は、重合に使用するモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部であり、好ましくは0.05〜5重量部、特に好ましくは0.1〜3重量部である。かかる重合開始剤の使用量が少なすぎると重合速度が遅くなる傾向があり、逆に多すぎると重合安定性が低下する傾向がある。
なお、重合開始剤の配合方法としては、特に制限はなく、初期に一括して反応液中に配合してもよいし、重合の経過に伴って連続的に添加してもよい。
【0074】
乳化重合は、1段階で行ってもよいし、2段階以上に分けて行ってもよい。2段階で行う場合、1段目と2段目でモノマー仕込み量(仕込み比率)を変えることにより、1段目で形成した内層と2段目で形成した外層のガラス転移温度を変えることも可能となる。具体的には、以下のような2段階の重合が挙げられる。
【0075】
(1)1段目の重合工程
分散媒、分散剤を含有する反応容器に、重合しようとするモノマーの一部を仕込み、1段目の乳化重合を行う。1段目に投入するモノマーの量は、特に限定しないが、重合に使用するモノマーの通常1〜50重量%程度であり、好ましくは5〜30重量%である。1段目の乳化重合工程の条件は、用いるモノマーの種類、組成、重合開始剤の使用量等により適宜決定すればよい。
乳化重合反応の温度は、通常30〜90℃であり、特に40〜80℃が好ましく、重合時間は1〜4時間とすることが好ましい。1段目の乳化重合工程においては、重合転化率が30%以上であることが好ましく、60%以上であることが特に好ましい。
【0076】
(2)2段目の重合工程
2段目の乳化重合は、1段目の重合が終了した反応容器に、残りのモノマーを投入することにより行う。投入は、滴下しながら行うことが好ましい。また、2段目の重合に際して、重合触媒を投入してもよい。2段目の乳化重合は、重合温度が40〜80℃、重合時間が1〜6時間の条件で行う。
また、滴下するモノマー組成比を連続的に変えながら滴下するパワーフィード重合法を用いることも可能である。また、モノマーを分散剤たるPVA系樹脂の存在下で予め混合分散させた分散液を滴下しながら重合してもよい。
必要に応じて、かかる工程の後に通常1〜6時間の追い込み重合をおこなうことも可能である。かかる重合中に重合触媒を投入してもよい。
【0077】
以上のような乳化重合において、必要に応じて、分子量調節剤を含んでもよい。分子量調節剤の具体例としては、例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物;ターピノレン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロロメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル;トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンダイマー、四塩化炭素等が挙げられる。なお、乳化重合工程では、これらの分子量調節剤を一種単独で、または二種以上組み合わせて使用することができる。
【0078】
また、上記重合工程において、PVA系樹脂による分散安定効果を阻害しない範囲で、あらかじめ含有する分散剤とは別に、非イオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤等の界面活性剤を系内に併存させてもよい。かかる界面活性剤の配合量は、乳化重合反応系の全体に対して、通常10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下である。
【0079】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン−アルキルエーテル型、ポリオキシエチレン−アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン−多価アルコールエステル型、多価アルコールと脂肪酸とのエステル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0080】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコール硫酸塩、高級脂肪酸アルカリ塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタリンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩等が挙げられる。
更に、フタル酸エステル、リン酸エステル等の可塑剤、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等のpH調整剤等も併用され得る。
【0081】
以上のようにして乳化重合を行うことにより、エチレン性不飽和単量体に由来する重合体粒子が水分散媒中に分散したエマルジョンが得られる。
【0082】
得られるエマルジョンの固形分含有量(上記粒子量に該当)は通常10〜60重量%であり、好ましくは20〜58重量%であり、特に好ましくは30〜55重量%であり、更に好ましくは35〜53重量%である。なお、エマルジョンの固形分は、乾燥機にて105℃で3時間加熱乾燥した残分を測定した値を採用する。
【0083】
得られるエマルジョンの粘度は通常100〜20000mPa・sであり、好ましくは300〜10000mPa・sであり、特に好ましくは450〜8000mPa・sである。なお、エマルジョンの粘度は、B型粘度計により測定された値を採用する。
【0084】
本発明の二次電池負極用バインダー組成物における重合体粒子の含有量は、固形分にて通常1〜40重量%、好ましくは5〜35重量%、特に好ましくは10〜30重量%である。重合体粒子の含有量が少なすぎると、バインダーとしての内部抵抗が大きくなる他、皮膜の柔軟性が足りず、充放電に伴って活物質の脱落や電極の割れなどが発生して容量が低下する傾向がある。重合体粒子の含有量が多すぎると、皮膜に充分な弾性率を担保させることが困難となる為、特に合金系活物質を使用したリチウムイオン二次電池において、初回の放電容量やクーロン効率が低下したり、サイクル特性が低下したりする傾向がある。
【0085】
本発明の二次電池負極用バインダー組成物におけるPVA系樹脂の含有量は、固形分にて、通常60〜99重量%、好ましくは65〜90重量%、特に好ましくは70〜85重量%である。PVA系樹脂の含有量が少なすぎると、皮膜に充分な弾性率を担保させることが困難となる為、特に合金系活物質を使用したリチウムイオン二次電池において、初回の放電容量やクーロン効率が低下したり、サイクル特性が低下したりする傾向がある。また、PVA系樹脂の含有量が多すぎると、バインダーとしての内部抵抗が大きくなる他、皮膜の柔軟性が足りず、充放電に伴って活物質の脱落や電極の割れなどが発生して容量が低下する傾向がある。
【0086】
また、本発明の二次電池負極用バインダー組成物におけるPVA系樹脂/重合体粒子の比率は、固形分の重量比にて、通常60/40〜99/1、好ましくは65/35〜95/5、特に好ましくは65/35〜92/8、殊に好ましくは65/35〜85/15である。PVA系樹脂/重合体粒子の比率が低すぎると、皮膜に充分な弾性率を担保させることが困難となる為、特に合金系活物質を使用したリチウムイオン二次電池において、初回の放電容量やクーロン効率が低下したり、サイクル特性が低下したりする。比率が高すぎると、バインダーとしての内部抵抗が大きくなる他、皮膜の柔軟性が足りず、充放電に伴って活物質の脱落や電極の割れなどが発生して容量が低下する傾向があり、また工業的にはバインダーの粘度が高くなり、取扱いが難しくなる。
【0087】
以上のようなエマルジョンは、そのまま本発明の負極用バインダー組成物の製造に供してもよいし、バインダー組成物に含まれるエマルジョンの固形分量、得られたエマルジョンの粘度等を調節するために、PVA系樹脂以外の水溶性高分子などを適宜追加してもよい。
【0088】
PVA系樹脂以外の水溶性高分子としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノメチルヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体類;デンプン、トラガント、ペクチン、グルー、アルギン酸又はその塩;ゼラチン;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸又はその塩ポリメタクリル酸又はその塩;ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド糖のアクリルアミド類;酢酸ビニルとマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等不飽和酸との共重合体;スチレンと上記不飽和酸との共重合体;ビニルエーテルと上記不飽和酸との共重合体;及び前記不飽和酸と各共重合体の塩類又はエステル類、カラギーナン、キサンタンガム、ヒアルロン酸ナトリウム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、タマリンドシードガム等の天然多糖類が挙げられ、好ましくはセルロース誘導体類である。
【0089】
〔重合体粒子〕
本発明における重合体粒子の平均粒子径は、50nm以上600nm以下である。好ましくは200〜500nmである。なお、前記粒子の平均粒子径は、動的光散乱式粒度分布測定器により、超音波照射処理の1分後に、測定時間3分間、積算回数5にて測定された体積分布の平均粒子径を採用する。
【0090】
〔二次電池負極用バインダー組成物〕
本発明の二次電池負極用バインダー組成物は上記エマルジョンを含む。
上記したように、本発明の負極用バインダー組成物においては、バインダー組成物に含まれる上記エマルジョン中の分散剤としてのPVA系樹脂とは別に、PVA系樹脂が配合されることが好ましい。側鎖に一級水酸基を有する構造単位、特に側鎖1,2−ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂は低結晶性であることから、別途、エマルジョンのPVA系樹脂水溶液に、側鎖に一級水酸基を有する構造単位、特に側鎖1,2−ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂が含まれることで、電極用バインダー組成物である水ペーストの粘度安定性を付与することが可能であり、作業効率を向上させることができる。
【0091】
<他の成分>
本発明のバインダー組成物には、通常、塗膜に用いられる塗料や成型用樹脂に用いられる配合剤等を配合することができる。例えば、光安定剤、紫外線吸収剤、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、顔料、硬化触媒、架橋剤{ホウ酸、メチロール化メラミン、炭酸ジルコニウム、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)等}、皮張り防止剤、分散剤(上述の分散剤を除く。)、湿潤剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、成膜助剤、防錆剤、染料、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は帯電調整剤等が挙げられる。それぞれの目的に応じて選択したり、組み合わせたりして配合することができる。なお、バインダー組成物がこれらの配合剤を含有する場合、含有する配合剤の有機分は、バインダー組成物の固形分に含まれる。
上記配合剤の配合量は、バインダー組成物における上記エマルジョンの固形分100重量部に対して通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下である。
【0092】
上記樹脂は、PC(炭酸プロピレン)の様な安定なSEI膜を形成し難い電解液を用いるリチウムイオン二次電池であっても充放電が可能となる樹脂、すなわちSEI補完機能を有する樹脂である。特にPC系電解液を用いるリチウムイオン二次電池は、本樹脂の使用によって負極の耐久性や安全性の面、寒冷地での使用等で大きな効果を期待できる可能性がある。
【0093】
〔二次電池負極〕
本発明の二次電池負極は、本発明の二次電池負極用バインダー組成物、負極用の合金系活物質を少なくとも含有する。本発明の二次電池負極は、通常、バインダー組成物及び合金系活物質を混合して、二次電池負極用スラリーを調製し、このスラリーを集電体上に塗布、乾燥することによって製造することができる。
本発明の二次電池負極は、様々な二次電池に適用することができ、例えば、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池、鉛蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・鉄蓄電池、ニッケル・亜鉛蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、ナトリウム電池、空気アルミニウム電池等に適用することができる。以下では、特にリチウムイオン二次電池を例示して説明する。
【0094】
二次電池負極に用いられる活物質は、リチウムと合金を形成することが可能な元素を含んでいる限り特に制限されず、具体的にはスズ、アルミニウム、ケイ素、ビスマス、亜鉛、ヒ素、アンチモン、および鉛からなる群から選ばれる少なくとも一種の以上の元素を用いることができる。本発明における負極活物質は粉末の状態で用いることができるが、元素単体から構成されていてもよく、また酸化物およびこれらの合金であってもよい。これらの中でも単位重量あたり多量のリチウムと合金化ができる点で、ケイ素やスズ、およびこれらを含む酸化物や合金が好ましく、ケイ素を含む酸化物や合金が特に好ましい。ケイ素またはスズを含む合金としては、例えば、ケイ素−チタン合金、ケイ素−ニッケル合金、スズ−鉄合金、スズ−ニッケル合金、スズ−銅合金、スズ−亜鉛合金、スズ−チタン合金などが挙げられる。
スラリー中の活物質の含有量は、10〜95重量%、好ましくは20〜80重量%、特に好ましくは35〜65重量%である。
【0095】
活物質の平均粒子径は、通常5nm〜100μmであり、好ましくは20nm〜50μmであり、特に好ましくは50nm〜25μmである。なお、活物質の平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定(レーザ回折散乱法)により測定された値を採用するものとする。
【0096】
負極用スラリーにおける活物質とバインダー組成物との含有比率は、活物質100重量部に対して、前記バインダー組成物の固形分換算にて、通常0.1〜20重量部であり、好ましくは0.1〜15重量部、特に好ましくは0.1〜10重量部である。負極用バインダー組成物の含有量が多くなりすぎると、内部抵抗が増大する傾向がある。一方、少なすぎると、活物質間の所望の結着力や集電体への接着力が得られず、電極が不安定となり、充放電サイクル特性が低下する傾向がある。
【0097】
負極用スラリーには、上記合金系活物質、負極用バインダー組成物の他、その他の物質が含まれてもよい。その他の物質としては、例えば、導電助剤、支持塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等が含まれ得る。また、イオン伝導性ポリマーが含まれる場合には、前記ポリマーを重合させるための重合開始剤が含まれてもよい。これらの成分の配合比は、公知の一般的な範囲である。配合比についても、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整され得る。
【0098】
導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される配合物をいう。導電助剤としては、黒鉛などのカーボン粉末や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))、スーパーグロスナノチューブなどの種々の炭素繊維などが挙げられる。本発明の二次電池負極の作製において種々の配合の結果、結着剤の導電性を更に高める必要がある場合、導電助剤を配合することが好ましく、導電助剤としてVGCF(登録商標)を用いると、活物質が有効に活用され、結着剤を多量に用いることに起因する充放電容量の低下が抑制され得る。この際、導電助剤の配合量は、活物質層の合計質量に対して、好ましくは1〜20重量%であり、特に好ましくは1〜10重量%である。
【0099】
さらに、負極作製時の作業性等を考慮して、粘度調整、バインダー組成物の固形分の調整などの目的により、溶媒を追加して、負極用スラリーを調製してもよい。かかる溶媒としては、上記した有機溶媒と同様のものを用いることができる。
【0100】
負極用スラリーには、上記活物質や負極用バインダー組成物及び導電助剤などの分散性向上、または塗工時のレベリング性改善を目的として、バインダー組成物とは別に増粘剤を添加してもよい。増粘剤の種類としては、特に限定はしないが、PVA系樹脂との混和性や、エマルジョン組成物の分散媒に水が好適に用いられていることなどから、主に水溶性高分子が好適に用いられる。なお、本発明における水溶性高分子は、側鎖に一級水酸基を有する構造単位を有するPVA系樹脂のみならず、それ以外のPVA系樹脂をも除くものとする。
PVA系樹脂以外の水溶性高分子としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノメチルヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体類;デンプン、トラガント、ペクチン、グルー、アルギン酸又はその塩;ゼラチン;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸又はその塩、ポリメタクリル酸又はその塩;ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド糖のアクリルアミド類;酢酸ビニルとマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等の不飽和酸との共重合体;スチレンと上記不飽和酸との共重合体;ビニルエーテルと上記不飽和酸との共重合体;及び前記不飽和酸と各共重合体の塩類又はエステル類、カラギーナン、キサンタンガム、ヒアルロン酸ナトリウム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、タマリンドシードガム等の天然多糖類が挙げられ、好ましくはセルロース誘導体類である。
【0101】
負極用スラリーに用いられる増粘剤の量としては、負極用スラリーの固形分にて、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜4重量%、特に好ましくは0.5〜4重量%である。スラリーに対して用いる量が少なすぎると、上記活物質や負極用バインダー及び導電助剤などの分散安定性が低くなり、電極が不均一になって安定な充放電が得られ難くなる傾向にある。また一方で、かかる量が多すぎると、負極用スラリーの粘度が高くなり過ぎて、負極を作製する際に集電体に均一に塗工するのが困難となる傾向がある他、作製した電池の内部抵抗が向上して充放電容量が低下する傾向がある。
【0102】
負極用バインダー組成物、活物質、及び必要に応じて用いられる配合剤、溶媒の混合は、攪拌機、脱泡機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー等を利用することができる。
【0103】
以上のようにして調製される負極用スラリーを、集電体上に塗布、乾燥することにより、本発明の二次電池負極(以下「本発明の負極」と略記することがある。)を製造することができる。必要に応じて、塗布後、プレスして密度を調整することもできる。
【0104】
本発明の負極に用いられる集電体としては、リチウムイオン二次電池の負極の集電体として用いられているものを使用できる。具体的には、銅、SUS、ニッケルといった金属箔、エッチング金属箔、エキスパンドメタルなどが用いられ、目的とする蓄電デバイスの種類に応じて適宜選択して用いることができる。
【0105】
このような集電体上に、負極用スラリーを塗布、乾燥することで、負極層を形成することができる。負極用スラリーを集電体に塗布する方法としては、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法等が挙げられる。また、負極用スラリーの塗布膜の乾燥処理の条件としては、処理温度が通常20〜180℃であり、好ましくは50〜150℃である。また、処理時間は通常1〜120分間であり、好ましくは5〜60分間である。
【0106】
活物質層の厚さ(塗布層の片面の厚さ)は、通常1〜300μmであり、好ましくは2〜100μm、特に好ましくは2〜30μmである。
【0107】
本発明の二次電池負極用バインダー組成物を用いて得られた負極は、合金系活物質の分散性、活物質と集電体との結着性に優れるので、活物質の剥離・脱落が発生し難くなるという効果が得られる。
【0108】
〔二次電池〕
本発明の二次電池の例として、本発明の二次電池負極用バインダー組成物を用いて作製された負極を有するリチウムイオン二次電池について説明する。
リチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液、セパレータを少なくとも有する。
【0109】
電解液としては、リチウム塩を溶解する非プロトン性極性溶媒が用いられる。特に限定しないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状炭酸エステル系高誘電率・高沸点溶媒に、低粘性率溶媒である炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の低級鎖状炭酸エステルを含有させて用いられる。具体的には、エチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、イソプロピルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、イソプロピルエチルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸メチル、ギ酸エチルなどが挙げられ、これらは混合して用いることが好ましい。
【0110】
電解質のリチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCl、LiBr等の無機塩や、LiCFSO、LiN(SOCF)、LiN(SO、LiC(SOCF)、LiN(SOCF等の有機塩など、非水電解液の電解質として常用されているものを用いればよい。これらのなかでもLiPF、LiBF又はLiClOを用いるのが好ましい。
【0111】
セパレータとしては、特に限定されず、ポリオレフィンの不織布や多孔性フィルム、またガラスフィルター、ポリアラミド製フィルム、PVA系樹脂からなら不織布などを用いることができる。
【0112】
正極としては、特に限定されず、公知の一般的な正極を組み合わせることができる。
正極活物質としては、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物等を用いることができる。
【0113】
正極の集電体としては、アルミニウム、銅、ニッケル、タンタル、ステンレス、チタン等の金属材料が挙げられ、目的とする蓄電デバイスの種類に応じて適宜選択して用いることができる。
【0114】
二次電池の構造としては、特に限定されず、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得る。また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)については、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得る。
【0115】
以上のようにして得られるリチウムイオン二次電池は、本発明の負極用バインダー組成物を用いたことに基づき、合金系活物質の分散性、合金系活物質と集電体との結着性に優れ、活物質の剥離・脱落が発生し難くなるため、高い充放電容量を安定的に得ることができ、また充放電のサイクル特性に優れるという効果を奏する。
【実施例】
【0116】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「部」又は「%」とあるのは、特に記載がなければ、重量基準を意味する。
【0117】
分析方法
下記実施例及び比較例において製造したPVA系樹脂は、以下の方法にて分析した。
【0118】
(1)ケン化度(モル%)
残存酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析した。
【0119】
(2)粘度平均重合度
JIS K 6726に準じて測定した。
【0120】
(3)側鎖1,2−ジオール構造単位の含有量(変性量)(モル%)
BRUKER社製のAVANCEIIIHD 400を用いて、H−NMR(400MHz、プロトンNMR、溶媒:重水溶液、温度:50℃)にて測定し、得られたNMRチャートに基づき、積分値より算出した。
【0121】
〔重合例1:ベースエマルジョンの重合〕
還流冷却器、攪拌機、滴下漏斗、温度計を備え付けたセパラブルフラスコに、分散媒としての水1016.0部、分散剤として上記構造式(1a)に示す構造の側鎖1,2−ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂(ケン化度:99.1モル%、粘度平均重合度:1200、上記構造式(1a)に示す1,2−ジオール構造単位含有率:6モル%)256.0部、酢酸ナトリウム0.42部を流し込み、95℃で撹拌しながら2時間溶解させた後、フラスコ内の温度を75℃に冷却した。
この温浴中に、1段目の乳化重合用モノマーとして、ブチルアクリレート(BA)とメチルメタクリレート(MMA)との混合モノマー(混合重量比:BA/MMA=71/29)を20.0部、重合開始剤として亜硫酸水素ナトリウム水溶液(5%)4.00部及び過硫酸アンモニウム水溶液(1%)13.20部を加えて、1段目の乳化重合を開始した。反応温度を75℃〜80℃に保持しながら、1時間重合を行った。
次に、2段目の乳化重合を行なった。1段階目の乳化重合を行った反応系の温度を75℃〜80℃の範囲に保ちながら、2段目の乳化重合用モノマーとして、先ほどと同じ組成の混合モノマー180.0部を3時間半かけて滴下した。かかる滴下中に、過硫酸アンモニウム水溶液(1%)26.39部を14分割して15分毎に配合した。その後、温度を75℃に保ちながら、90分間重合を続けた。この間、過硫酸アンモニウム水溶液(1%)4.4部を2分割して45分毎に配合した。
2段目の乳化重合の後、反応温度を50℃まで低下させて、1時間追い込み重合を行った。かかる追い込み重合中はt−ブチルヒドロパーオキシ水溶液(10%)2.0部及びL−アスコルビン酸水溶液(10%)2.4部をそれぞれ2分割して30分毎に配合した。その後、室温まで冷却して、上記構造式(1a)に示す構造の側鎖1,2−ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂水溶液中にブチルアクリレート(BA)及びメチルメタクリレート(MMA)の混合組成の重合体粒子が分散するエマルジョンを得た。かかるエマルジョンにおける固形分は29.9%で、PVA系樹脂と重合体粒子の重量比は56/44であった。
【0122】
〔重合例2:ベースエマルジョンの重合〕
乳化重合用のモノマーとして、ブチルアクリレート(BA)とスチレン(St)との混合モノマー(混合重量比:BA/St=45/55)を用いた以外は、重合例1と同様の方法でベースエマルジョンを得た。
【0123】
〔重合例3:ベースエマルジョンの重合〕
分散剤として用いるPVA系樹脂を変更(ケン化度:99.1モル%、粘度平均重合度:600、上記構造式(1a)に示す1,2−ジオール構造単位含有率:8モル%)して、さらに乳化重合用のモノマーとして、ブチルアクリレート(BA)とスチレン(St)との混合モノマー(混合重量比:BA/St=27.5/72.5)を用いた以外は、重合例1と同様の方法でベースエマルジョンを得た。
【0124】
〔重合例4:ベースエマルジョンの重合〕
還流冷却器、攪拌機、滴下漏斗、温度計を備え付けたセパラブルフラスコに、分散媒としての水1188.0部、分散剤として上記構造式(1a)に示す構造の側鎖1,2−ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂(ケン化度:99.1モル%、粘度平均重合度:1200、上記構造式(1a)に示す1,2−ジオール構造単位含有率:6モル%)240.0部、酢酸ナトリウム0.13部を流し込み、95℃で撹拌しながら2時間溶解させた後、フラスコ内の温度を75℃に冷却した。
この温浴中に、1段目の乳化重合用モノマーとして、ブチルアクリレート(BA)とメチルメタクリレート(MMA)との混合モノマー(混合重量比:BA/MMA=5/95)を6.0部、重合開始剤として亜硫酸水素ナトリウム水溶液(5%)1.20部及び過硫酸アンモニウム水溶液(1%)3.96部を加えて、1段目の乳化重合を開始した。反応温度を75℃〜80℃に保持しながら、1時間重合を行った。
次に、2段目の乳化重合を行なった。1段階目の乳化重合を行った反応系の温度を75℃〜80℃の範囲に保ちながら、2段目の乳化重合用モノマーとして、先ほどと同じ組成の混合モノマー54.0部を3時間半かけて滴下した。かかる滴下中に、過硫酸アンモニウム水溶液(1%)7.98部を14分割して15分毎に配合した。その後、温度を75℃に保ちながら、90分間重合を続けた。この間、過硫酸アンモニウム水溶液(1%)1.32部を2分割して45分毎に配合した。
2段目の乳化重合の後、反応温度を50℃まで低下させて、1時間追い込み重合を行った。かかる追い込み重合中はt−ブチルヒドロパーオキシ水溶液(10%)0.60部及びL−アスコルビン酸水溶液(10%)0.72部をそれぞれ2分割して30分毎に配合した。その後、室温まで冷却して、上記構造式(1a)に示す構造の側鎖1,2−ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂水溶液中にブチルアクリレート(BA)及びメチルメタクリレート(MMA)の混合組成の重合体粒子が分散するエマルジョンを得た。かかるエマルジョンにおける固形分は20.49%で、PVA系樹脂と重合体粒子の重量比は80/20であった。
【0125】
〔製造例1:バインダー溶液の製造〕
前記重合例1で調製したベースエマルジョンを分取し、希釈用の精製水と、さらに上記構造式(1a)に示す構造の側鎖1,2−ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂(ケン化度:99.1モル%、粘度平均重合度:1200、上記構造式(1a)に示す1,2−ジオール構造単位含有率:6モル%)の10%水溶液を添加することで、10%のバインダー溶液を調製した。この時、バインダーの固形分中の(1)PVA系樹脂と(2)重合体粒子の重量比が、(1)/(2)=80/20になるように調製した。
【0126】
〔製造例2:バインダー溶液の製造〕
前記重合例2で調製したベースエマルジョンを分取し、希釈用の精製水と、さらに上記構造式(1a)に示す構造の側鎖1,2−ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂(ケン化度:99.1モル%、粘度平均重合度:1200、上記構造式(1a)に示す1,2−ジオール構造単位含有率:6モル%)の10%水溶液を添加することで、10%のバインダー溶液を調製した。この時、バインダーの固形分中の(1)PVA系樹脂と(2)重合体粒子の重量比が、(1)/(2)=80/20になるように調製した。
【0127】
〔製造例3:バインダー溶液の製造〕
前記重合例3で調製したベースエマルジョンを分取し、希釈用の精製水と、さらに上記構造式(1a)に示す構造の側鎖1,2−ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂(ケン化度:99.1モル%、粘度平均重合度:1200、上記構造式(1a)に示す1,2−ジオール構造単位含有率:6モル%)の10%水溶液を添加することで、10%のバインダー溶液を調製した。この時、バインダーの固形分中の(1)PVA系樹脂と(2)重合体粒子の重量比が、(1)/(2)=80/20になるように調製した。
【0128】
〔実施例1〕
(皮膜物性の評価)
<バインダー皮膜の作製>
上記方法で得られたバインダー溶液を、設計値100μmの膜厚になるようにポリエチレンテレフタレートフィルム上にキャストした。その後23℃×50%RHの環境で48時間静置した後、80℃の送風乾燥機で1時間乾燥を行った。更に80℃の真空乾燥機にて、五酸化リンを共存させて48時間真空乾燥を行った。
得られた皮膜を熱重量分析装置(TGA)で揮発分測定を行ったところ、50〜200℃の範囲で重量減少率が0.5%以下であることを確認した。測定条件を以下に示す。
測定範囲:50〜300℃
測定モード:50℃で10分間静置した後、10℃/分で300℃まで定速昇温
揮発分(%)=(200℃でのサンプル重量)/(50℃でのサンプル重量)×100
【0129】
<電極用バインダーの熱分析>
上記方法で得られたバインダー皮膜について、下記の方法にて示差熱量分析を行った。なお重合体粒子のガラス転移温度は、変調モードで測定した2ndサイクル目のリバーシブルヒートフローの値を採用した。
分析装置:ティー・エイ・インスツルメント社製「DSC Q2000」
測定範囲
1st: −30〜215℃
2nd: −30〜230℃
昇温速度:5℃/分
降温速度:10℃/分
変調周期:60秒毎
温度振幅:+/−0.80℃
【0130】
<電極用バインダー皮膜の機械物性分析(マンドレル試験)>
上記方法で得られたバインダー皮膜について、JIS K56005−1(塗膜の機械的性質 第一節:耐屈曲性(円筒形マンドレル法))に準じて耐屈曲性試験を行った。試験サンプルは3点用意し、いずれかが破断した際のマンドレル試験棒の値を採用した。最小の試験棒は2mmφ(直径)であり、3点とも破断しなかった場合「2mmφでも破断しない」と評価した。
【0131】
(電池性能の評価)
<ケイ素活物質を用いた電池用負極の作製>
活物質としてケイ素粉末(販売元:AlfaAesar、平均粒子径:50nm)を65部、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック」)を15部、さらに分散剤として1.72%水溶液に調製したカルボキシメチルセルロース#2260(ダイセルファインケム株式会社製)を固形分換算で3部、また適時に精製水を加えた後、遊星式混練機(株式会社シンキー製「泡取り錬太郎」)を用いて混合して固形分濃度28.0%のペーストを得た(2000rpmで4.5分間混合した後、更に2200rpmで0.5分間脱泡した。)。
得られたペースト中に、負極用バインダーとして製造例1で作製したバインダー溶液(10%)を固形分換算で17部、また適時に精製水を加水した後、さらに遊星式混練機を用いて同様の条件で混合することで、固形分濃度が19.8%の活物質ペーストを得た。
次に、集電体として圧延銅箔(株式会社UACJ製箔、厚さ18μm)の表面に、25μmのアプリケータと塗工機(株式会社井元製作所製「コントロールコーター(塗工機)」)を用いて、塗工速度10mm/秒で上記活物質ペーストを塗工した。これを80℃で2時間乾燥させたのち、続いて120℃で4時間真空乾燥を行うことで、電池用電極を得た。
【0132】
(充放電試験)
評価用の電池の外層としては、2032型のコイン型セルを使用した。得られた電池用電極を直径14mmの大きさに打ち抜き、更に80℃で12時間真空乾燥を行った後にグローブボックスへと仕込んだ。上記にて作製した電池用負極を作用極とし、金属リチウム(直径13mm)を対極として、厚さ16μmのポリプロピレン多孔膜から成るセパレータ(直径18mm)を介在させて、互いに電極が対向するように配置させた。電解液として、エチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとを体積比で3:7に混合した溶媒に、電解質としてLiPF6を1mol/リットルの濃度に溶解したものを使用した。ポリプロピレン製パッキングを介して外層容器にステンレス鋼のキャップを被せて固定し、電池缶を封止することでハーフセルを作製し、評価用の電池とした。
作製した評価用の電池を50℃の環境下で24時間静置した。その後50℃を保ったまま、作用極に対して0.1C(1C=4200mA/g)の速度にて定電流条件で充放電を繰り返し行った。この時、電池性能の評価項目として、初回の放電容量とクーロン効率を採用した。
得られた電池性能の評価結果について、表1に記載した。
【0133】
〔実施例2〕
負極用バインダーとして製造例2で調製したバインダー溶液を使用する以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製して電池性能を評価した。
【0134】
〔実施例3〕
負極用バインダーとして製造例3で調製したバインダー溶液を使用する以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製して電池性能を評価した。
【0135】
〔比較例1〕
電極用バインダーとして重合例4で調製したベースエマルジョンをバインダー溶液として使用する以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製して電池性能を評価した。その際に、ベースエマルジョンは予め10%に希釈したものをバインダー溶液として使用した。
【0136】
【表1】
【0137】
表1に示す結果から、PVA系樹脂と重合体粒子の重量比が本発明の規定範囲内であり、重合体粒子のガラス転移温度が−40〜60℃であるときに、耐屈曲性、初回の放電容量及び初回のクーロン効率が全て良好であることは明らかである。
これに対して、比較例1では、PVA系樹脂と重合体粒子の重量比が本発明の規定範囲内であっても、重合体粒子のガラス転移温度が60℃よりも高いため、耐屈曲性、初回の放電容量及び初回のクーロン効率が全て不良であった。
よって、合金系活物質を用いた負極を作製する際には、PVA系樹脂と重合体粒子の重量比を好ましい範囲に設計し、重合体粒子のガラス転移温度を好ましい範囲に設計することで、体積変化に追随できる安定な負極活物質層が得られ、高い充放電特性を発揮できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の二次電池負極用バインダー組成物を用いて得られる負極を有する二次電池は、特に合金系活物質を用いた電極において、体積変化に追随できる安定な負極活物質層が得られ、高い充放電容量とサイクル特性の向上という優れた効果が得られる。したがって、本発明の負極用バインダー組成物は、リチウムイオン二次電池等の二次電池の性能向上のための負極用バインダー組成物として有用である。