(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アルカリ洗浄液1を用いる回、及び前記アルカリ洗浄液2を用いる回のうちの少なくともいずれかの回において、各アルカリ洗浄液による洗浄の前もしくは後に、又は前後両方で酸洗浄液による洗浄を行う、請求項1〜5のいずれか1項に記載の逆浸透膜の洗浄方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の逆浸透膜の洗浄方法は、ファウリングが生じた逆浸透膜を、定期又は不定期に複数回、アルカリ洗浄液を用いて洗浄する方法である。そして、アミド化合物を含有し、かつキレート剤を含有しないアルカリ洗浄液1を用いる回と、キレート剤を含有し、かつアミド化合物を含有しないアルカリ洗浄液2を用いる回とを含むことを特徴とする。
このように、逆浸透膜の複数回の洗浄において、2種類のアルカリ洗浄液1及び2を交替で用いることにより、逆浸透膜の性能の回復率の低下を従来よりも抑えることができる。また、洗浄のいずれの回でも、アミド化合物及びキレート剤を含有するアルカリ洗浄液を用いる場合よりも、良好な洗浄効果を得ることができ、洗浄液のコスト面においても有利である。
なお、ここで言う「交替」とは、アルカリ洗浄液1又は2のいずれか一方から他方への1回限りの変更の場合も、相互の変更が複数回繰り返される場合も含むものとする。
【0013】
[逆浸透膜]
本発明における洗浄対象である逆浸透膜は、海水の淡水化や超純水の製造、排水処理等の種々の水処理に使用されて、ファウリングが生じた逆浸透膜である。
逆浸透膜の材質は、芳香族ポリアミド等のポリアミド系や、酢酸セルロース系等の水処理用逆浸透膜において公知のものでよく、本発明の洗浄方法は、特に、ポリアミド系逆浸透膜の洗浄に効果的である。
また、本発明は、従来の洗浄液では十分な洗浄効果を得ることができない逆浸透膜、特に、有機ファウリングやバイオファウリングが生じた逆浸透膜に効果的である。
【0014】
[アルカリ洗浄液1]
アルカリ洗浄液1は、アミド化合物を含有し、かつキレート剤を含有しない、高pHの洗浄液である。
アルカリ洗浄液1は、アミド化合物の他に、例えば、アルカリ剤及び界面活性剤等の薬剤、並びに溶媒等を含んでいてもよいが、キレート剤は含まない。アルカリ洗浄液1は、1液型でも、あるいはまた、2剤以上からなり、これらが混合されてなるものであってもよく、通常、水溶液として用いられる。また、高濃度又は固形剤を水等の溶媒で希釈又は溶解して調製されたものであってもよい。
【0015】
アルカリ洗浄液1のpHは、アミド化合物による洗浄効果の観点から、8以上であることが好ましく、また、逆浸透膜の劣化を抑制する観点から、14以下であることが好ましく、より好ましくは9〜14であり、さらに好ましくは10〜13である。所望のpHの調整は、アルカリ剤の添加により行うことができる。
【0016】
<アミド化合物>
アミド化合物による洗浄作用の機構は明らかではないが、アミド化合物のアミド結合部位が、逆浸透膜とファウリングの原因物質との間に浸透し、該原因物質の膜表面からの剥離を促す作用を奏するものと考えられる。特に、ポリアミド系逆浸透膜は、アミド結合部位を有している点で、該アミド化合物と共通していることから、該アミド化合物との親和性が高く、前記原因物質の剥離作用がより促されるものと推測される。
したがって、アミド化合物は、逆浸透膜とファウリングの原因物質との間に浸透しやすいものであることが好ましく、このような観点から、水に対して可溶性を有していることが好ましい。また、良好な洗浄効果を得る観点から、分子量300以下と比較的低分子量であることが好ましく、より好ましくは250以下、より好ましくは200以下である。
【0017】
前記アミド化合物としては、洗浄効果の観点から、カルボン酸アミドが好ましい。具体的には、ニコチンアミド、ベンズアミド、p−アミノベンズアミド、フタルアミド、テレフタルアミド、フタルアミド酸、馬尿酸、ベンズアニリド及びp−アミノベンズアニリド等の芳香族アミド;L−アスパラギン、L−グルタミン、ホルミアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びピラセタム等の脂肪族アミド;2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、L−ピログルタミン酸及び2−イミダゾリジノン等の環状アミドが挙げられる。これらのうち、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
良好な洗浄効果を得る観点からは、アミド化合物としては、芳香族アミドを用いることが好ましく、これらのうち、水溶性の観点から、ニコチンアミド、ベンズアミド、p−アミノベンズアミド、フタルアミド、フタルアミド酸又は馬尿酸がより好ましく、さらに好ましくはニコチンアミド又はベンズアミドである。
【0018】
アルカリ洗浄液1中のアミド化合物の含有量は、アミド化合物の種類や洗浄液のpH、洗浄液中の他の併用薬剤等により異なり、適宜設定されるが、十分な洗浄効果が得られる量とする観点から、通常、0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜8質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。
【0019】
<その他の成分>
アミド化合物以外に、アルカリ洗浄液1に含まれ得る薬剤としては、例えば、アルカリ剤、界面活性剤等が挙げられる。これらの薬剤のうち、1種単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0020】
アルカリ剤は、アルカリ洗浄液1を所望のpHとなるように調整するために添加される。アルカリ剤としては、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物を用いることができる。
【0021】
界面活性剤は、アルカリ洗浄液1中の各薬剤の分散効果を高め、洗浄効果を向上させる観点から添加されることが好ましい。界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩のようなアニオン系界面活性剤、また、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルのようなノニオン系界面活性剤等が挙げられる。これらのうち、分散効果の観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
界面活性剤の添加濃度は、分散効果及び洗浄効果の観点から、1〜10000ppmであることが好ましく、好ましくは10〜5000ppm、より好ましくは50〜2000ppmである。
【0022】
また、溶媒としては、アルカリ洗浄液1中の各薬剤の溶解性向上の観点から、水以外に有機溶媒を含有してもよく、例えば、エタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール及びブタンジオール等のポリオール類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等のアミン類、アセトン等のケトン類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル及びジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。これらのうち、1種単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
[アルカリ洗浄液2]
アルカリ洗浄液2は、キレート剤を含有し、かつアミド化合物を含有しない、高pHの洗浄液である。
アルカリ洗浄液2は、キレート剤の他に、例えば、アルカリ剤、界面活性剤及び還元剤等の薬剤、並びに溶媒等を含んでいてもよいが、アミド化合物は含まない。アルカリ洗浄液2も、アルカリ洗浄液1と同様に、1液型でも、あるいはまた、2剤以上からなり、これらが混合されてなるものであってもよく、通常、水溶液として用いられる。また、高濃度又は固形剤を水等の溶媒で希釈又は溶解して調製されたものであってもよい。
【0024】
アルカリ洗浄液2のpHは、キレート剤による洗浄効果の観点から、8以上であることが好ましく、また、逆浸透膜の劣化を抑制する観点から、14以下であることが好ましく、より好ましくは9〜14であり、さらに好ましくは10〜13である。所望のpHの調整は、アルカリ剤の添加により行うことができる。
【0025】
<キレート剤>
キレート剤は、カルシウムやマグネシウム、鉄等の金属イオンを封鎖する金属封鎖作用を有するものであり、金属成分、特に有機金属成分に起因するファウリングに対する洗浄効果を奏するものである。
したがって、キレート剤は、良好な洗浄効果を得るために、逆浸透膜の膜表面に満遍なく分散することが好ましく、このような観点から、水に対して可溶性を有していることが好ましい。
【0026】
前記キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)、ホスホン酸、ポリマレイン酸、クエン酸、シュウ酸、グルコン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。これらのうち、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
アルカリ洗浄液2中のキレート剤の含有量は、キレート剤の種類や洗浄液のpH、洗浄液中の他の併用薬剤等により異なり、適宜設定されるが、十分な洗浄効果が得られる量とする観点から、通常、10〜20000ppmであることが好ましく、好ましくは100〜10000ppm、より好ましくは500〜8000ppmである。
【0028】
<その他の成分>
キレート剤以外に、アルカリ洗浄液2に含まれ得る薬剤としては、例えば、アルカリ剤、界面活性剤、還元剤等が挙げられる。これらの薬剤のうち、1種単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
アルカリ剤は、アルカリ洗浄液2を所望のpHとなるように調整するために添加される。アルカリ剤としては、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物を用いることができる。
【0030】
界面活性剤は、アルカリ洗浄液2中の各薬剤の分散効果を高め、洗浄効果を向上させる観点から添加されることが好ましい。界面活性剤としては、アルカリ洗浄液1に添加されるものと同様のものを用いることができ、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩のようなアニオン系界面活性剤、また、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルのようなノニオン系界面活性剤等が挙げられる。これらのうち、分散効果の観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
界面活性剤の添加濃度は、分散効果及び洗浄効果の観点から、1〜10000ppmであることが好ましく、好ましくは10〜5000ppm、より好ましくは50〜2000ppmである。
【0031】
還元剤は、ファウリングの原因となる金属成分を還元し、キレート剤の金属封鎖作用を補助する役割を有しており、また、前記金属成分を析出させて除去する機能も有している。このため、還元剤を添加することにより、逆浸透膜の洗浄効果をより向上させることができる。還元剤は、良好な洗浄効果を得るために、逆浸透膜の膜表面に満遍なく分散することが好ましく、このような観点から、水に対して可溶性を有していることが好ましい。還元剤としては、例えば、ホルムアルデヒドやヒドラジン、また、次亜リン酸、亜硫酸、重亜硫酸、及びメタ重亜硫酸、並びにこれらの塩、硫酸第一鉄、二酸化硫黄等が挙げられる。これらのうち、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム又はヒドラジンが好ましい。
還元剤の添加濃度は、洗浄効果の観点から、1〜20000ppmであることが好ましく、好ましくは10〜10000ppm、より好ましくは100〜5000ppmである。
【0032】
また、溶媒としては、アルカリ洗浄液2中の各薬剤の溶解性向上の観点から、アルカリ洗浄液1と同様に、水以外に有機溶媒を含有してもよく、例えば、エタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール及びブタンジオール等のポリオール類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等のアミン類、アセトン等のケトン類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル及びジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。これらのうち、1種単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
[洗浄方法]
本発明の洗浄方法においては、ファウリングにより膜性能が所定の程度にまで低下する毎に、その都度、アルカリ洗浄液1又はアルカリ洗浄液2を用いた洗浄を1回行い、このような洗浄を継続的に複数回行う。
1回の洗浄を行う時期は、定期でも不定期でもいずれでもよい。例えば、排水処理に用いられる逆浸透膜においては、処理する汚染液の汚染の程度によって適宜設定され、通常、水処理効率の観点から、各回の間隔は、1〜6か月程度であることが好ましい。
【0034】
各回のアルカリ洗浄において、アルカリ洗浄液1又はアルカリ洗浄液2のいずれを用いるかは、特に限定されるものではなく、ファウリングの原因物質や程度等に応じて適宜設定される。アルカリ洗浄液1とアルカリ洗浄液2とを1回毎に交替して用いてもよく、また、アルカリ洗浄液1及び2のいずれか一方を複数回連続して用いた後、他方のアルカリ洗浄液に交替させてもよい。
目安としては、アルカリ洗浄液1及び2のいずれか一方を用いた洗浄を複数回連続して用いた後、逆浸透膜の透過流束の回復度が低下してきた場合、すなわち、十分な洗浄効果が得られなくなってきたと判断される場合に、その次の回の洗浄において、他方のアルカリ洗浄液に交替させるようにすることが好ましい。
【0035】
アルカリ洗浄液1又は2を用いた逆浸透膜の洗浄は、各洗浄液に逆浸透膜を接触させればよく、特に限定されるものではない。例えば、逆浸透膜に対する通液の順方向又は逆方向に洗浄液を循環流通させる循環洗浄、又は、逆浸透膜を洗浄液に浸漬する浸漬洗浄により、洗浄することができる。1回の洗浄において、これらの複数の方法を組み合わせてもよい。
【0036】
また、アルカリ洗浄液1又はアルカリ洗浄液2を用いた1回の洗浄において、各アルカリ洗浄液による洗浄の前又は後に、又は前後両方で酸洗浄液による洗浄を行ってもよい。このような酸洗浄を行うことにより、金属成分に起因するスケールや金属コロイド等によるファウリングに対して有効な洗浄効果が得られる。
酸洗浄液による洗浄は、複数回のアルカリ洗浄液(アルカリ洗浄液1又は2)を用いた洗浄のうちの1回のみにおいて行ってもよく、あるいはまた、2回以上、さらにいずれの回においても行うようにしてもよい。
【0037】
酸洗浄液としては、例えば、塩酸、硝酸、クエン酸、シュウ酸等の酸を含む水溶液を用いることができる。これらの酸は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
酸洗浄液のpHは、洗浄効果の観点から、5以下であることが好ましく、また、逆浸透膜の劣化を抑制する観点から、1以上であることが好ましく、より好ましくは2〜4、さらに好ましくは3〜4である。
【0038】
各洗浄液による洗浄時間は、特に限定されるものではなく、ファウリングの原因物質や程度等に応じて適宜設定される。逆浸透膜の膜性能が回復するのに十分な時間とする観点から、また、膜の劣化を考慮して、通常、0.5〜48時間程度とする。
【0039】
各洗浄液による洗浄後は、通常、逆浸透膜に純水等の高純度水を流通させてリンスする。その後、逆浸透膜を再使用に供する。
【実施例】
【0040】
以下、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。
【0041】
[試験1]アミド化合物を含有するアルカリ洗浄液による洗浄効果の確認
擬似排水を流通させることによってファウリングが生じた逆浸透膜(汚染膜)を、各種洗浄液試料を用いて洗浄した。このときの逆浸透膜の膜性能について、下記に示す評価を行った。なお、評価温度は25℃(標準温度)とした。評価条件を以下に示す。
<逆浸透膜>
芳香族ポリアミド系逆浸透膜:「ES−20」、日東電工株式会社製;平膜;有効膜面積(S):8.04×10
-4[m
2]、温度換算係数α=1.024
(25−t)(t:温度[℃])
【0042】
<洗浄液>
各洗浄液試料は、いずれも、水酸化ナトリウム(NaOH)添加によりpH12に調整した。
(試料1)2質量%ニコチンアミド+NaOHの水溶液
(試料2)1質量%ベンズアミド+NaOHの水溶液
(試料3)2質量%ニコチンアミド+1500ppmドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)+NaOHの水溶液
(試料4)NaOH水溶液
(試料5)1500ppmSDBS+NaOHの水溶液
【0043】
<擬似排水>
ガラス基材用洗浄剤(「セミクリーンKG」、横浜油脂工業株式会社製)を含む水溶液;ノニオン系界面活性剤含有濃度200ppm
<洗浄方法>
上記各試料の洗浄液を用いて、循環洗浄を2時間、浸漬洗浄を15時間、及び循環洗浄を2時間、順次行った。循環洗浄時の透過圧力は0.2MPa(ゲージ圧;以下、同様。)とした。
【0044】
<評価方法>
以下の手順により、逆浸透膜の膜性能の評価を行った。
(1)逆浸透膜の新膜に、純水(pH7)を0.75MPaで24時間流通させて、新膜の透過流束(Jv
0)を求めた。次いで、500ppm塩化ナトリウム水溶液を0.75MPaで24時間流通させて、脱塩率を求めた。
(2)その後、擬似排水を0.75MPaで3日間流通させて汚染膜を得た。この汚染膜(洗浄前の逆浸透膜)について、上記(1)と同様にして、純水の透過流束(Jv
1)及び脱塩率を求めた。
(3)そして、前記汚染膜を上記洗浄方法により洗浄し、洗浄後の逆浸透膜について、上記(1)と同様にして、純水の透過流束(Jv
2)及び脱塩率を求めた。
(4)上記の各測定結果から、新膜の透過流束(Jv
0)に対する洗浄後の逆浸透膜の透過流束(Jv
2)の比率(百分率)を算出し、これを逆浸透膜の膜性能の回復率[%]とした。
なお、透過流束(Jv)は、逆浸透膜に対する純水の透過流量(Q)を測定することにより、下記式から求められる。
Jv[m
3/(m
2・day)]=Q[m
3/day]/S[m
2]×α
上記式において、S:有効膜面積、α:温度換算係数を表す。なお、温度換算係数αは、使用する膜に固有の温度に対応して定められた値であり、標準温度25℃における値に換算するための係数である。
また、脱塩率(SR)は、逆浸透膜の透過液の電気伝導率(σp)及び濃縮液の電気伝導率(σc)を測定することにより、下記式から求められる。
SR[%]=(1−σp[mS/m]/σc[mS/m])×100
【0045】
各洗浄液試料について、上記評価方法により求められた各透過流束及び洗浄前後でのその変化量、並びに回復率を下記表1にまとめて示す。また、脱塩率は、いずれにおいても、97〜99%と高い値を示していた。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示した結果から分かるように、アミド化合物を用いたアルカリ洗浄液を用いた場合(試料1〜3)は、膜性能の回復率が高く、脱塩率も高く維持されていることから、離良好な洗浄効果が得られることが認められた。特に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(アニオン系界面活性剤)を併用した場合(試料3)は、より優れた洗浄効果が得られると言える。
【0048】
[実施例1]
擬似排水を流通させた逆浸透膜(汚染膜)を、アルカリ洗浄液1及び2を用いた交替洗浄により、6回洗浄した。逆浸透膜に擬似排水を0.75MPaで1.5時間流通させる毎に、1回洗浄した。
各回の洗浄毎に、逆浸透膜の膜性能の回復率及び脱塩率を評価した。アルカリ洗浄液1による洗浄を3回行った時点で回復率が低下し、4回目の洗浄においても回復率の大幅な上昇は見られなかったため、5回目の洗浄からアルカリ洗浄液2による洗浄に交替して行った。
上記洗浄における評価条件を以下に示す。なお、評価温度は25℃(標準温度)とした。
<逆浸透膜>
芳香族ポリアミド系逆浸透膜:「ES−20」、日東電工株式会社製;平膜;有効膜面積(S):8.04×10
-4[m
2]
【0049】
<洗浄液>
各洗浄液は、いずれも、水酸化ナトリウム(NaOH)添加によりpH12に調整した。
・アルカリ洗浄液1:2質量%ニコチンアミド+50ppmドデシル硫酸ナトリウム+NaOHの水溶液
・アルカリ洗浄液2:5000ppmグルコン酸ナトリウム+50ppmドデシル硫酸ナトリウム+NaOHの水溶液
【0050】
<擬似排水>
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル;アルキル基の炭素数16〜18)含有量50ppm+鉄分含有量(塩化第二鉄由来)0.5ppm+塩化ナトリウム含有量300ppmの水溶液;Mアルカリ度10ppm;カルシウム硬度10ppm;pH7
<各回の洗浄方法>
アルカリ洗浄液1又は2のいずれかを用いて、循環洗浄を1時間、浸漬洗浄を1時間、及び循環洗浄を1時間、順次行った。循環洗浄時の透過圧力は約0.75MPaとした。
【0051】
<回復率の評価>
逆浸透膜に純水(25℃)を0.75MPaで24時間流通させた後、逆浸透膜の透過流束を求めた。
新膜の透過流束に対する各回の洗浄後の透過流束の比率(百分率)を算出し、これを逆浸透膜の膜性能の回復率[%]とした。
<脱塩率の評価>
逆浸透膜にpH7の500ppm塩化ナトリウム水溶液を0.75MPaで1時間流通させて、上記試験1と同様にして、脱塩率を求めた。
【0052】
新膜及び各回の洗浄前後での透過流量及びその変化量、並びに回復率及び脱塩率を下記表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示した結果から分かるように、アルカリ洗浄液1を用いた洗浄から、5回目の洗浄において、アルカリ洗浄液2を用いた洗浄に交替したことにより、回復率も脱塩率も向上した。このことから、アルカリ洗浄液1による洗浄及びアルカリ洗浄液2による洗浄を交替させて洗浄することにより、初回の洗浄と同等レベルの洗浄効果を、後の回の洗浄においても維持し得ると言える。
【0055】
[実施例2]
工場の液晶製造工程の排水(ノニオン系界面活性剤及び鉄分含有)回収系に設置されている逆浸透膜モジュール(汚染膜)を、アルカリ洗浄液1による洗浄工程を含む洗浄1、及びアルカリ洗浄液2による洗浄工程を含む洗浄2の交替洗浄により、1か月毎に、6回洗浄した。
各回の洗浄毎に、逆浸透膜の膜性能の回復率を評価した。洗浄1を3回行ったところ、3回目の洗浄による回復率が低下していたため、4回目の洗浄は洗浄2に交替して行った。
上記洗浄において用いた逆浸透膜、洗浄液、及び各回の洗浄方法の詳細を以下に示す。
<逆浸透膜>
複合ポリアミド系逆浸透膜:「CPA5−LD」、日東電工株式会社製;スパイラル型モジュール:有効膜面積(S):37.1[m
2]
【0056】
<洗浄液>
各アルカリ洗浄液は、いずれも、水酸化ナトリウム(NaOH)添加によりpH12に調整した。
(洗浄1)
・酸洗浄液:0.1質量%シュウ酸水溶液;pH2
・アルカリ洗浄液1:2質量%ニコチンアミド+1500ppmドデシル硫酸ナトリウム+NaOHの水溶液
(洗浄2)
・酸洗浄液:0.1質量%シュウ酸水溶液;pH2
・アルカリ洗浄液2:1500ppmヘキサメタリン酸ナトリウム+1500ppmドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム+1500ppm重亜硫酸ナトリウム+NaOHの水溶液
【0057】
<各回の洗浄方法>
洗浄1による洗浄を行う回、及び洗浄2による洗浄を行う回のいずれも、以下の手順により行った。
(1)逆浸透膜モジュールを排水回収系の運転ラインから洗浄ラインに切り換えた。
(2)酸洗浄液を用いて2時間循環洗浄を行った後、純水を流通させてリンスした。
(3)アルカリ洗浄液を用いて2時間循環洗浄を行った後、循環を止めて、15時間浸漬洗浄を行った。再び、2時間循環洗浄を行った後、純水を流通させてリンスした。
(4)洗浄ラインから前記運転ラインに切り換えて、洗浄後の逆浸透膜モジュールを排水処理に供した。
【0058】
<回復率の評価>
逆浸透膜モジュールに、純水(25℃)を0.75MPaで24時間流通させた後、逆浸透膜モジュール1本当たりの透過流量[m
3/(本・day)]を求めた。
新膜の透過流量に対する各回の洗浄後の透過流量の比率(百分率)を算出し、これを逆浸透膜の膜性能の回復率[%]とした。
【0059】
新膜及び各回の洗浄前後での透過流量及びその変化量、並びに回復率を下記表3にまとめて示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3に示した結果から分かるように、アルカリ洗浄液1を用いた洗浄1から、アルカリ洗浄液2を用いた洗浄2に交替した4回目の洗浄において、回復率が向上し、良好な洗浄効果が得られることが認められた。このことから、アルカリ洗浄液1による洗浄のみを繰り返すよりも、アルカリ洗浄液2による洗浄と交替させる洗浄方法によれば、初回の洗浄と同等レベルの洗浄効果を、後の回の洗浄においても維持し得ると言える。