特許第6844384号(P6844384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844384
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】液状ケイ素化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/50 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
   C08G77/50
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-71094(P2017-71094)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-172498(P2018-172498A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2020年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭太
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−254506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される構造単位を有する、液状ケイ素化合物。
【化1】
(一般式(I)中、Rは炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、R、R、R、及びRは、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、mは1〜30の整数を表し、n個の構造単位において、mは全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、nは重量平均分子量2,000〜1,000,000を満たす数字を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、液状ケイ素化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にアルコキシド基に代表される、3つの加水分解性基を有する有機ケイ素化合物はシランカップリング剤として既に広く使用されている。このシランカップリング剤を加水分解した後、縮合して得られるシルセスキオキサン化合物には、特定の構造がないランダム構造、構造を決定できるラダー構造やかご型構造があることが知られている。特に、かご型構造のシルセスキオキサンは耐熱性、電気絶縁性、透明性などにおいて優れた特性をもつことから、半導体や電子材料として注目され、数多くの研究が報告されている。
【0003】
これらのうち、8つのSiから構成され、対称性の高いかご型シルセスキオキサンはT8と呼ばれている。このT8では、Si上の8つの置換基のすべてが反応性置換基に変換された誘導体、即ち8置換T8、もしくは1つが他の反応性置換基に変換された誘導体、即ち一置換X−T8は置換基の異なる数多の誘導体が商品化されている。
【0004】
また、このT8のうち、Si上の2つが他の反応性置換基に変換された誘導体、即ち二置換2X−T8は、例えば非特許文献1のように、2種類のトリアルコキシシランもしくはトリクロロシラン化合物から合成できることが知られている。しかし、反応性置換基がビニル基の場合、合成原料となるビニルトリクロロシランやアルキルトリクロロシランは水との反応性が高く、大気中の水蒸気とさえ反応してしまう。また、反応の副生成物として発生する塩酸ガスは腐食性が高く、ガラスコーティングなどを施した特殊な製造設備が必要となってくる。また、クロロシランから生成するシラノールは酸存在下で縮合を起こしやすく、熱力学的に安定な生成物以外に速度論的な反応機構で副生成物が生じてしまい、目的の化合物の収率が減少する傾向がある。そのため、目的の二置換2X−T8を収率良く得るためには反応条件や反応原料の仕込み比に工夫が必要となる。
【0005】
最近になって、非特許文献2や3のように、一置換X−T8から2段階でp位の二置換2X−T8を選択的に合成する方法が提案されている。さらに、非特許文献3では、この二置換2X−T8をシロキサンで結んで高分子主鎖に導入したポリマーが合成されている。このポリマーは5%熱重量減少温度が470℃を超えるなどの優れた耐熱性をもつものの、溶剤に溶かしてガラス上に塗布乾燥するとフィルムを形成するものであり、また、膜厚の計測が可能な固体である。このため、電気絶縁油、熱媒油、拡散ポンプ油や潤滑油などのオイルに適用することが難しい。
また、非特許文献3のポリマーは、かご型シルセスキオキサン構造のp位に2個のメチレン鎖が結合されているが、工業的には選択的なp位の二置換2X−T8の構造を有するポリマーの製造方法に制約されるものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Organometallic Chemistry,(1994),483,33〜38
【非特許文献2】Chemistry Letters,(2014),43,1532〜1534
【非特許文献3】Polymer Chemistry,(2015),6,7500〜7504
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一実施形態は、耐熱性に優れ、かご型シルセスキオキサン構造が主鎖に導入された液状ケイ素化合物を提供することを一課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、以下を要旨とする。
[1]下記一般式(I)で表される構造単位を有する、液状ケイ素化合物。
【化1】
(一般式(I)中、Rは炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、R、R、R、及びRは、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、mは1〜30の整数を表し、n個の構造単位において、mは全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、nは重量平均分子量2,000〜1,000,000を満たす数字を表す。)
【0009】
[2]下記一般式(I)で表される構造単位を有する液状ケイ素化合物の製造方法であって、下記一般式(II)で表されるケイ素化合物を用いて製造される工程を含む、液状ケイ素化合物の製造方法。
【化2】
(一般式(I)中、Rは炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、R、R、R、及びRは、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、mは1〜30の整数を表し、n個の構造単位において、mは全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、nは重量平均分子量2,000〜1,000,000を満たす数字を表す。)
【化3】
(一般式(II)中、Rは炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよい。)
[3]下記一般式(III)で表される化合物を用いて製造される工程を含む、請求項2に記載の液状ケイ素化合物の製造方法。
【化4】
(一般式(III)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、mは1〜30の整数を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、耐熱性に優れ、かご型シルセスキオキサン構造が主鎖に導入された液状ケイ素化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】各フラクション分割を示す図。
図2】各フラクションのMALDI−TOF MS測定結果。
図3】各フラクションのH NMRスペクトル。
図4】各フラクションの13C NMRスペクトル。
図5】各フラクションの29SI NMRスペクトル。
図6】ビスビニルPOSSの位置異性体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明するが、以下の例示によって本発明は限定されない。
「液状ケイ素化合物」
一実施形態による液状ケイ素化合物は、下記一般式(I)で表されることを特徴とする。
【0013】
【化5】
【0014】
一般式(I)中、Rは炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、R、R、R、及びRは、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、mは1〜30の整数を表し、n個の構造単位において、mは全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、nは重量平均分子量2,000〜1,000,000を満たす数字を表す。
【0015】
で表されるアルキル基は、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜6であり、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
で表されるアリール基は、炭素数6〜14のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜12であり、さらに好ましくは炭素数6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリール基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
としては、例えば、メチル基、エチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、イソオクチル基、フェニル基等を挙げることができる。
は、好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基である。
【0016】
一般式(I)において、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよい。6個のRは、全て同一であることが好ましい。
また、n個の構造単位において、各構造単位間の6個のRの組み合わせは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよい。
【0017】
一般式(I)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表す。
、R、R、及びRで表されるアルキル基は、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜4であり、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
、R、R、及びRで表されるアリール基は、炭素数6〜14のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリール基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
、R、R、及びRとしては、それぞれ独立的に、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、フェニル基等を挙げることができる。
、R、R、及びRは、好ましくは、耐熱性の観点から、炭素数1〜8の非置換のアルキル基またはフェニル基であることが好ましく、炭素数1〜4の非置換のアルキル基またはフェニル基であることがより好ましい。
【0018】
かご型シルセスキオキサン構造に結合している2つの−CH−CH−(メチレン鎖)の位置ついては、ベンゼン環と同じような命名則を当てはめれば、酸素を一つ介した2つのSiにメチレン鎖があるo位、酸素−Si−酸素を介した2つ目のSiにメチレン鎖があるm位、さらに、対角の位置になるp位の3つがある。
液状ケイ素化合物は、メチレン鎖がo位、m位、p位にある3種類のかご型シルセスキオキサン構造から選択される少なくとも1種のかご型シルセスキオキサン構造を有するものであることが好ましい。より好ましくは、メチレン鎖がo位、m位にある2種類のかご型シルセスキオキサン構造から選択される1種以上のかご型シルセスキオキサン構造を有するケイ素化合物が好ましい。さらに、メチレン鎖がo位、m位、p位にある3種類のかご型シルセスキオキサン構造から選択される少なくとも2種のかご型シルセスキオキサン構造を有する液状ケイ素化合物が好ましい。
【0019】
非特許文献3は、メチレン鎖の結合位置がp位のかご型シルセスキオキサン構造のみからなるポリマーの例である。この結合位置がp位だけの場合、ポリマー鎖に導入されたかご型シルセスキオキサン構造の凝集力に基づく引力的な相互作用が強まり、その結果、固体状になってしまうと考えられる。液状とするためには、この結合位置がp位だけのポリマーではなく、結合位置がo位、m位、p位にある3種類のかご型シルセスキオキサン構造から選択される少なくとも2種以上、特に3種類のかご型シルセスキオキサン構造を有するポリマーであることが好ましい。
【0020】
一般式(I)中、mは1〜30の整数であることが好ましい。
かご型シルセスキオキサン構造同士を繋ぐシロキサン構造は高温時に激しく運動する。かご型シルセスキオキサン構造の凝集力に基づく振動と合わせ、一実施形態によるポリマーは高温時に特異な分子鎖運動を行うことによって耐熱性が向上すると考えられる。したがって、mが30を超えると、かご型シルセスキオキサン構造がシロキサン構造に及ぼす影響が小さくなるため、耐熱性の効果は著しく減少してしまう。耐熱性を向上させる特異な分子鎖運動はmが1〜25であることがより好ましく、mが1〜20であることがさらに好ましい。
mは、n個の構造単位において全て同一であっても、一部または全部が異なっていてもよい。
【0021】
nは重量平均分子量2,000〜1,000,000を満たす数であることが好ましい。
nが小さく、重量平均分子量が2,000未満の場合、計算上、かご型シルセスキオキサン構造を2つまでしか含まないため、例えばMacromolecules(2011)、44、6039〜6045で示されているように、5%熱重量減少温度は290〜310℃程度となり、400℃を超えるような耐熱性を得ることが難しくなる。
また、重量平均分子量が1,000,000を超えると粘度が大きくなりすぎてオイルとしての適用先がほとんどなくなってしまう。
耐熱性と粘度の観点から、nは重量平均分子量が3000〜500,000となる数字であることがより好ましく、重量平均分子量が4000〜100,000となる数字であることがさらに好ましい。
nは、具体的には、3〜500であることが好ましく、4〜100であることが好ましい。
【0022】
「液状ケイ素化合物の製造方法」
以下、一般式(I)で表される液状ケイ素化合物の製造方法の一例について説明する。なお、一般式(I)で表される液状ケイ素化合物は、以下の製造方法によって製造されたものに限定されない。
【0023】
一般式(I)で表される液状ケイ素化合物の製造方法としては、例えば、下記一般式(II)で表される化合物を用いて製造される工程を含む。
【0024】
【化6】
【0025】
一般式(II)中、Rは炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、6個のRは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよい。
で表されるアルキル基は、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜6であり、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
で表されるアリール基は、炭素数6〜14のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜12であり、さらに好ましくは6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリール基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
としては、例えば、メチル基、エチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、イソオクチル基、フェニル基等を挙げることができる。
は、好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基である。
【0026】
かご型シルセスキオキサン構造に結合している2つの−CH=CH(ビニル基)の位置ついては、ベンゼン環と同じような命名則を当てはめれば、酸素を一つ介した2つのSiにビニル基があるo位、酸素−Si−酸素を介した2つ目のSiにビニル基があるm位、さらに、対角の位置になるp位の3つがある。
反応に際しては、2つのビニル基がo位、m位、p位にある3種類の化合物のうち少なくとも2種以上、より好ましくは3種の化合物を混合して用いることが好ましい。また、反応に際しては、2つのビニル基がo位、m位にある2種類の化合物のうち少なくとも一方を含む化合物またはその混合物を用いることが好ましい。
これによって、一般式(I)で表される構造単位を有する液体ケイ素化合物が固体状とならないようにすることができる。
【0027】
一般式(II)で表される化合物の製造方法の一例について説明する。
一般式(II)で表される化合物は、例えば、アルキルアルコキシシランと、ビニルアルコキシシランとを反応させることで得ることができる。
このような方法によれば、一般式(II)で表される化合物において、図6に示すように2つのビニル基がo位、m位、p位にある化合物を製造することができる。
特に、下記一般式(IV)で表される化合物及び下記一般式(V)で表される化合物を用いて一般式(II)で表される化合物を得て、この一般式(II)で表される化合物を用いて一般式(I)で表される構造単位を有する化合物を製造することで、液状のケイ素化合物を得ることができる。このケイ素化合物は、液状であるため、図6において、2つのビニル基がp位にある構造単位のみではなく、o位及びm位にある2種類の構造単位のうち少なくとも一方が含まれると考えられる。
【0028】
一般式(II)で表される化合物の製造方法には、例えば、下記一般式(IV)で表される化合物を用いることができる。
【0029】
【化7】
【0030】
一般式(IV)中、Rは炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基または炭素数6〜14のアリール基を表す。
で表されるアルキル基は、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜6であり、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
で表されるアリール基は、炭素数6〜14のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜12であり、さらに好ましくは炭素数6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリール基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
としては、例えば、メチル基、エチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、イソオクチル基、フェニル基等を挙げることができる。
は、好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基である。
一般式(IV)のRは、一般式(II)の化合物のRとして導入され、さらに一般式(I)の化合物のRとして導入される。
【0031】
一般式(IV)中、Rは、それぞれ独立的に、アルキル基を表し、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。Rで表されるアルキル基は、それぞれ独立的に、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基等を挙げることができる。
中でもRは、反応性の制御の観点から、炭素数1〜8の非置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の非置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0032】
一般式(IV)で表される化合物としては、例えば、イソブチルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシランを用いることができる。
これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アルキルアルコキシシランのうち1種を用いて一般式(II)で表される化合物を合成することで、一般式(II)においてRが全て同じ化合物を得ることができる。
アルキルアルコキシシランのうちRが異なる2種以上を用いて一般式(II)で表される化合物を合成することで、一般式(II)においてRが一部または全て異なる化合物を得ることができる。
【0033】
また、一般式(II)で表される化合物の製造方法には、例えば、下記一般式(V)で表される化合物を用いることができる。
好ましくは、一般式(II)で表される化合物は、一般式(IV)で表される化合物と一般式(V)で表される化合物とを反応させて得ることができる。
【0034】
【化8】
【0035】
一般式(V)中、Rは、それぞれ独立的に、アルキル基を表し、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。Rで表されるアルキル基は、それぞれ独立的に、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基等を挙げることができる。
中でもRは、反応性の制御の観点から、炭素数1〜8の非置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の非置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0036】
一般式(V)で表される化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルアルコキシシランを用いることができる。
これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
一般式(IV)で表される化合物と一般式(V)で表される化合物との反応には、M(OH)で表される塩基性化合物を用いるとよい。Mは、Li、Na、Kからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含むものであれば特に制限はない。反応性の制御や収率の観点から、Li(OH)であることが好ましい。
【0038】
一般式(IV)で表される化合物と一般式(V)で表される化合物との反応は、溶媒中で行うことが好ましい。
溶媒に特に制限はないが、一般式(IV)で表される化合物と、一般式(V)で表される化合物との相溶性が高く、混合した場合には均一の溶液を与え、一方でM(OH)との相溶性が低く、混合した場合には溶解せずにM(OH)が系中に残存している溶媒が好ましい。均一に分散したシラン原料は熱力学的に安定な生成物を与えることに有利である。また、M(OH)濃度は反応中に系内で低濃度のまま一定である方が、熱力学的に安定な生成物を与えることに有利である。
また、溶媒に水を添加することで、水存在下で反応を進行させることができる。水は、一般式(IV)で表されるアルコキシシランと一般式(V)で表されるビニルアルコキシシランの合計100質量部に対して、5〜15質量部で添加すればよい。
【0039】
シラン原料である前記一般式(IV)で表される化合物と、一般式(V)で表される化合物とのモル比率に特に制限はない。仕込み比に応じて統計熱力学的に化合物が得られるとすると化合物(II)が目的化合物の場合、75:25が最も収率が大きくなると期待されるモル比率となる。そのためモル比率は90:10〜40:60が好ましい。さらに、順相のクロマトグラフィーで分取することを考えると、85:15〜45:55が好ましい。さらに、好ましくは80:20〜50:50がよい。
【0040】
合成を実施する際の媒体は、前述のようにLiOHに対する溶解性が低く、シラン原料や水とは相溶するものが好ましい。具体的にはメタノールとアセトンの混合溶媒が好ましい。このとき、混合する比率に特に制限はない。
また、合成を実施するときの温度に特に制限はない。但し反応時間を短縮する観点から、30〜56℃が好ましく、40〜55℃がより好ましい。
【0041】
反応後の生成物から化合物(II)を分離精製する方法はクロマトグラフィー法を用いるとよい。クロマトグラフィーの方法はシリカ粒子を充填剤としたカラムを用いた順相液体クロマトグラフィーが好ましい。順相液体クロマトグラフィーを用いることで、分子がもつ分極状態が僅かに異なるため、化合物(II)を分取することができる。また、これら分子の分極は小さいため、展開溶剤は極性が低く安価なヘキサンや石油エーテルを含む溶剤が好ましい。
【0042】
さらに、一般式(I)で表される液状ケイ素化合物の製造方法は、下記一般式(III)で表される化合物を用いて製造される工程を含むことが好ましい。
好ましくは、一般式(II)で表される化合物と一般式(III)で表される化合物とを反応させて、液状ケイ素化合物を製造する工程を含む。
【0043】
【化9】
【0044】
一般式(III)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、mは1〜30の整数を表す。
【0045】
一般式(III)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表す。
、R、R、及びRで表されるアルキル基は、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜4であり、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
、R、R、及びRで表されるアリール基は、炭素数6〜14のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリール基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
、R、R、及びRとしては、それぞれ独立的に、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、フェニル基等を挙げることができる。
、R、R、及びRは、好ましくは、合成される液状ケイ素化合物の耐熱性の観点から、炭素数1〜8の非置換のアルキル基またはフェニル基であることが好ましく、炭素数1〜4の非置換のアルキル基またはフェニル基であることがより好ましい。
【0046】
一般式(III)中、mは1〜30の整数であることが好ましく、より好ましくは1〜25の整数であり、さらに好ましくは1〜20の整数である。この範囲で、合成される液状ケイ素化合物の耐熱性を向上させることができる。
【0047】
一般式(I)で表される構造単位を有する液状ケイ素化合物の製造方法において、一般式(III)で表される化合物は、上記R、R、R、及びR、並びにmの組み合わせが異なる複数の化合物の中から少なくとも1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
一般式(II)で表される化合物と、一般式(III)で表される化合物との反応では、白金系触媒等の触媒を用いることが好ましい。
白金系触媒としては、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との触媒、白金−オレフィン錯体、白金−カルボニルビニルメチル錯体(Ossko触媒)、白金−ジビニルテトラメチルシロキサン錯体(Karstedt触媒)、白金−シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金−オクチルアルデヒド錯体、白金−ホスフィン錯体であるPt[P(C、PtCl[P(C、Pt[P(C、白金−ホスファイト錯体であるPt[P(OC,Pt(OC、ジカルボニルジクロロ白金等が挙げられる。
【0049】
一般式(II)で表される化合物と一般式(III)で表される化合物との反応は、溶媒中で行うことが好ましい。
溶媒に特に制限はないが、一般式(II)で表される化合物、一般式(III)で表される化合物、及び触媒の溶解性に応じて任意に選択できる。
溶媒の具体例としては、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、テトラヒドロフラン(THF)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を挙げることができる。
【0050】
反応温度は、使用する触媒および溶媒によって異なるが、40〜150℃が好ましく、60〜130℃がより好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0052】
<実施例1>
「一般式(II)で表される化合物の合成」
一般式(II)において、6個のRが全てイソブチル基であるビスビニルPOSS(POSS;かご型オリゴシルセスキオキサン(Polyhedral Oligomeric SilSesquioxanes))を以下の手順で合成した。
500mL三口フラスコに、アセトンを300mL、メタノールを40mL、精製水を5.60mL加え、ジムロート冷却器、温度計、滴下ロートを備えて窒素雰囲気とした。
この三口フラスコに、塩基性化合物としてLiOH一水和物を7.00g加え、撹拌しながらオイルバスで液温が55℃となるように加熱した。
滴下ロートに、一般式(IV)で表されるアルコキシシランとしてイソブチルトリメトキシシランを49.00gと、一般式(V)で表されるビニルアルコキシシランとしてビニルトリメトキシシランを13.56gとを秤取し、50分間かけてゆっくり三口フラスコに滴下した。滴下後に液温を50℃とし、18時間窒素雰囲気下で混合物を加熱撹拌した。
加熱後、オイルバスを外し室温(25℃)まで放冷し、1NのHCl溶液を150mL加えたところ、白濁した。そのまま1時間撹拌し、上澄みを傾斜して除いた。残った白色粘稠物をアセトニトリル100mLで3回洗浄した後、ヘキサンを加えて白色粘稠物を溶解した。この溶液を500mLフラスコに定量的に移し、エバポレーターで溶剤を留去してオイルポンプで減圧乾燥し、白色粘稠物34.64gを得た。
【0053】
得られた白色粘稠物を分取精製した。
中圧カラムによる分取精製は株式会社ワイエムシィ製「LC−forte/R」、カラムは株式会社山善製「ユニバーサルカラムプレミアム(2L)」を用いた。分取条件10mL/min、展開溶剤はヘキサンとした。白色粘稠物2.64gをヘキサン1.47gに溶解させてカラム上部に直接チャージした。流出RI検出をモニターしながら、図1に示す流出時間で各フラクションに分割し、フラクションごとにエバポレーターで溶剤を留去し、オイルポンプで減圧乾燥して、各フラクションから白色結晶を得た。各フラクションから得られた白色結晶の質量を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
フラクション2〜4から得られた白色結晶についてBruker Daltonics社製「AutoFlex」を用いてMALDI−TOF MS分析を行った。結果を図2に示す。図2から、H+とNa+付加体のピークが観測された。
各フラクションから得られた白色結晶の観測値、及びビニルPOSS、ビスビニルPOSS、トリスビニルPOSSの計算値を表2に示す。
フラクション2がビニルPOSS、フラクション3が目的のビスビニルPOSS、フラクション4がトリスビニルPOSSであった。
【0056】
【表2】
【0057】
ビスビニルPOSSについて、ビニル基の結合位置を調べるために、フラクション1〜5から得られた白色結晶をそれぞれCDCl(重水素化クロロホルム)に溶解させて、Bruker社製「Avance300」を用い、H、13C及び29Si NMRを測定した。
測定条件は以下の通りである。
H NMR)
観測核:1H
共鳴周波数:300MHz
測定温度:25℃
基準物質:テトラメチルシラン
13C NMR)
観測核:13C
共鳴周波数:75MHz
測定温度:25℃
基準物質:テトラメチルシラン
29Si NMR)
観測核:29Si
共鳴周波数:60MHz
測定温度:25℃
基準物質:テトラメチルシラン
【0058】
H、13C及び29Si NMRの測定結果をそれぞれ図3図4図5に示す。
フラクション2のビニルPOSSの結果と比較すると、フラクション3のビスビニルPOSSは2個のビニル基を持つことが分かる。
【0059】
「一般式(I)で表される構造単位を有するケイ素化合物、m=1の合成」
一般式(I)において、6個のRが全てイソブチル基であり、R〜Rがメチル基であり、m=1である構造単位を有する化合物を以下の手順で合成した。ビスビニルPOSSには、上記フラクション3から得られた白色結晶を用いた。
30mL二口フラスコにビスビニルPOSSを1.000g秤量し、ジムロート冷却器を備えて窒素雰囲気とした。シリンジでトルエンを6mL、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(一般式(III)においてm=1、R〜R=メチル基、東京化成工業製)を0.226mL、白金(0)−2,4,6,8−テトラメチルー2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体溶液を0.040mLを加えた。還流条件で12時間、105〜111℃で加熱した。次いで、エバポレーターで溶剤を留去してオイルポンプで減圧乾燥し、薄褐色透明液体1.09gを得た。この薄褐色透明液体を、ワイエムシィ株式会社製「LC−forte/R」を用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分取し、0.19gの無色透明の粘性液体を得た。重量平均分子量(Mw)は96,900であった。
【0060】
<実施例2>
「一般式(I)で表されるケイ素化合物、m=2の合成」
一般式(I)において、6個のRが全てイソブチル基であり、R〜Rがメチル基であり、m=2である構造単位を有する化合物を以下の手順で合成した。ビスビニルPOSSには、上記フラクション3から得られた白色結晶を用いた。
30mL二口フラスコにビスビニルPOSSを1.000g秤量し、ジムロート冷却器を備えて窒素雰囲気とした。シリンジでトルエンを6mL、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン(一般式(III)においてm=2、R〜R=メチル基、東京化成工業製)を0.332mL、白金(0)−2,4,6,8−テトラメチルー2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体溶液を0.040mLを加えた。還流条件で12時間、105〜111℃で加熱した。次いで、エバポレーターで溶剤を留去してオイルポンプで減圧乾燥し、薄褐色透明液体1.15gを得た。この薄褐色透明液体を、ワイエムシィ株式会社製「LC−forte/R」を用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分取し、0.76g無色透明の粘性液体を得た。重量平均分子量(Mw)は21,400であった。
【0061】
<比較例1>
比較例1として、耐熱性シリコーンオイルとしてメチルフェニルポリシロキサン(信越化学工業株式会社製「KF−54」)を用いた。
<参考例>
参考例として、実施例1で合成された6個のイソブチル基を有するビスビニルPOSS(上記フラクション3から得られた白色結晶)を用いた。
【0062】
(5%重量減少温度の比較)
耐熱性の評価方法として加熱時の5%重量減少温度を比較した。株式会社島津製作所製の示差熱・熱重量同時測定装置「DHG−60H」を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10L/minの条件で測定を行い、5%重量減少温度を記録した。結果を表3に示す。
表3より、比較例1及び参考例に比べ、各実施例のケイ素化合物は、耐熱性に優れることがわかる。
【0063】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6