(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明するが、以下の例示によって本発明は限定されない。
「液状ケイ素化合物」
一実施形態による液状ケイ素化合物は、下記一般式(I)で表されることを特徴とする。
【0014】
一般式(I)中、R
1は炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、6個のR
1は、全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、R
2、R
3、R
4、及びR
5は、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、mは1〜30の整数を表し、n個の構造単位において、mは全て同一であっても、一部または全て異なってもよく、nは重量平均分子量2,000〜1,000,000を満たす数字を表す。
【0015】
R
1で表されるアルキル基は、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜6であり、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
R
1で表されるアリール基は、炭素数6〜14のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜12であり、さらに好ましくは炭素数6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリール基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
R
1としては、例えば、メチル基、エチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、イソオクチル基、フェニル基等を挙げることができる。
R
1は、好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基である。
【0016】
一般式(I)において、6個のR
1は、全て同一であっても、一部または全て異なってもよい。6個のR
1は、全て同一であることが好ましい。
また、n個の構造単位において、各構造単位間の6個のR
1の組み合わせは、全て同一であっても、一部または全て異なってもよい。
【0017】
一般式(I)中、R
2、R
3、R
4、及びR
5は、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表す。
R
2、R
3、R
4、及びR
5で表されるアルキル基は、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜4であり、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
R
2、R
3、R
4、及びR
5で表されるアリール基は、炭素数6〜14のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリール基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
R
2、R
3、R
4、及びR
5としては、それぞれ独立的に、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、フェニル基等を挙げることができる。
R
2、R
3、R
4、及びR
5は、好ましくは、耐熱性の観点から、炭素数1〜8の非置換のアルキル基またはフェニル基であることが好ましく、炭素数1〜4の非置換のアルキル基またはフェニル基であることがより好ましい。
【0018】
かご型シルセスキオキサン構造に結合している2つの−CH
2−CH
2−(メチレン鎖)の位置ついては、ベンゼン環と同じような命名則を当てはめれば、酸素を一つ介した2つのSiにメチレン鎖があるo位、酸素−Si−酸素を介した2つ目のSiにメチレン鎖があるm位、さらに、対角の位置になるp位の3つがある。
液状ケイ素化合物は、メチレン鎖がo位、m位、p位にある3種類のかご型シルセスキオキサン構造から選択される少なくとも1種のかご型シルセスキオキサン構造を有するものであることが好ましい。より好ましくは、メチレン鎖がo位、m位にある2種類のかご型シルセスキオキサン構造から選択される1種以上のかご型シルセスキオキサン構造を有するケイ素化合物が好ましい。さらに、メチレン鎖がo位、m位、p位にある3種類のかご型シルセスキオキサン構造から選択される少なくとも2種のかご型シルセスキオキサン構造を有する液状ケイ素化合物が好ましい。
【0019】
非特許文献3は、メチレン鎖の結合位置がp位のかご型シルセスキオキサン構造のみからなるポリマーの例である。この結合位置がp位だけの場合、ポリマー鎖に導入されたかご型シルセスキオキサン構造の凝集力に基づく引力的な相互作用が強まり、その結果、固体状になってしまうと考えられる。液状とするためには、この結合位置がp位だけのポリマーではなく、結合位置がo位、m位、p位にある3種類のかご型シルセスキオキサン構造から選択される少なくとも2種以上、特に3種類のかご型シルセスキオキサン構造を有するポリマーであることが好ましい。
【0020】
一般式(I)中、mは1〜30の整数であることが好ましい。
かご型シルセスキオキサン構造同士を繋ぐシロキサン構造は高温時に激しく運動する。かご型シルセスキオキサン構造の凝集力に基づく振動と合わせ、一実施形態によるポリマーは高温時に特異な分子鎖運動を行うことによって耐熱性が向上すると考えられる。したがって、mが30を超えると、かご型シルセスキオキサン構造がシロキサン構造に及ぼす影響が小さくなるため、耐熱性の効果は著しく減少してしまう。耐熱性を向上させる特異な分子鎖運動はmが1〜25であることがより好ましく、mが1〜20であることがさらに好ましい。
mは、n個の構造単位において全て同一であっても、一部または全部が異なっていてもよい。
【0021】
nは重量平均分子量2,000〜1,000,000を満たす数であることが好ましい。
nが小さく、重量平均分子量が2,000未満の場合、計算上、かご型シルセスキオキサン構造を2つまでしか含まないため、例えばMacromolecules(2011)、44、6039〜6045で示されているように、5%熱重量減少温度は290〜310℃程度となり、400℃を超えるような耐熱性を得ることが難しくなる。
また、重量平均分子量が1,000,000を超えると粘度が大きくなりすぎてオイルとしての適用先がほとんどなくなってしまう。
耐熱性と粘度の観点から、nは重量平均分子量が3000〜500,000となる数字であることがより好ましく、重量平均分子量が4000〜100,000となる数字であることがさらに好ましい。
nは、具体的には、3〜500であることが好ましく、4〜100であることが好ましい。
【0022】
「液状ケイ素化合物の製造方法」
以下、一般式(I)で表される液状ケイ素化合物の製造方法の一例について説明する。なお、一般式(I)で表される液状ケイ素化合物は、以下の製造方法によって製造されたものに限定されない。
【0023】
一般式(I)で表される液状ケイ素化合物の製造方法としては、例えば、下記一般式(II)で表される化合物を用いて製造される工程を含む。
【0025】
一般式(II)中、R
1は炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、6個のR
1は、全て同一であっても、一部または全て異なってもよい。
R
1で表されるアルキル基は、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜6であり、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
R
1で表されるアリール基は、炭素数6〜14のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜12であり、さらに好ましくは6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリール基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
R
1としては、例えば、メチル基、エチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、イソオクチル基、フェニル基等を挙げることができる。
R
1は、好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基である。
【0026】
かご型シルセスキオキサン構造に結合している2つの−CH=CH
2(ビニル基)の位置ついては、ベンゼン環と同じような命名則を当てはめれば、酸素を一つ介した2つのSiにビニル基があるo位、酸素−Si−酸素を介した2つ目のSiにビニル基があるm位、さらに、対角の位置になるp位の3つがある。
反応に際しては、2つのビニル基がo位、m位、p位にある3種類の化合物のうち少なくとも2種以上、より好ましくは3種の化合物を混合して用いることが好ましい。また、反応に際しては、2つのビニル基がo位、m位にある2種類の化合物のうち少なくとも一方を含む化合物またはその混合物を用いることが好ましい。
これによって、一般式(I)で表される構造単位を有する液体ケイ素化合物が固体状とならないようにすることができる。
【0027】
一般式(II)で表される化合物の製造方法の一例について説明する。
一般式(II)で表される化合物は、例えば、アルキルアルコキシシランと、ビニルアルコキシシランとを反応させることで得ることができる。
このような方法によれば、一般式(II)で表される化合物において、
図6に示すように2つのビニル基がo位、m位、p位にある化合物を製造することができる。
特に、下記一般式(IV)で表される化合物及び下記一般式(V)で表される化合物を用いて一般式(II)で表される化合物を得て、この一般式(II)で表される化合物を用いて一般式(I)で表される構造単位を有する化合物を製造することで、液状のケイ素化合物を得ることができる。このケイ素化合物は、液状であるため、
図6において、2つのビニル基がp位にある構造単位のみではなく、o位及びm位にある2種類の構造単位のうち少なくとも一方が含まれると考えられる。
【0028】
一般式(II)で表される化合物の製造方法には、例えば、下記一般式(IV)で表される化合物を用いることができる。
【0030】
一般式(IV)中、R
1は炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基または炭素数6〜14のアリール基を表す。
R
1で表されるアルキル基は、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜6であり、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
R
1で表されるアリール基は、炭素数6〜14のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜12であり、さらに好ましくは炭素数6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリール基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
R
1としては、例えば、メチル基、エチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、イソオクチル基、フェニル基等を挙げることができる。
R
1は、好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基である。
一般式(IV)のR
1は、一般式(II)の化合物のR
1として導入され、さらに一般式(I)の化合物のR
1として導入される。
【0031】
一般式(IV)中、R
6は、それぞれ独立的に、アルキル基を表し、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。R
6で表されるアルキル基は、それぞれ独立的に、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
R
6としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基等を挙げることができる。
中でもR
6は、反応性の制御の観点から、炭素数1〜8の非置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の非置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0032】
一般式(IV)で表される化合物としては、例えば、イソブチルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシランを用いることができる。
これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アルキルアルコキシシランのうち1種を用いて一般式(II)で表される化合物を合成することで、一般式(II)においてR
1が全て同じ化合物を得ることができる。
アルキルアルコキシシランのうちR
1が異なる2種以上を用いて一般式(II)で表される化合物を合成することで、一般式(II)においてR
1が一部または全て異なる化合物を得ることができる。
【0033】
また、一般式(II)で表される化合物の製造方法には、例えば、下記一般式(V)で表される化合物を用いることができる。
好ましくは、一般式(II)で表される化合物は、一般式(IV)で表される化合物と一般式(V)で表される化合物とを反応させて得ることができる。
【0035】
一般式(V)中、R
7は、それぞれ独立的に、アルキル基を表し、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。R
7で表されるアルキル基は、それぞれ独立的に、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
R
7としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基等を挙げることができる。
中でもR
7は、反応性の制御の観点から、炭素数1〜8の非置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の非置換のアルキル基であることがより好ましい。
【0036】
一般式(V)で表される化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルアルコキシシランを用いることができる。
これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
一般式(IV)で表される化合物と一般式(V)で表される化合物との反応には、M(OH)で表される塩基性化合物を用いるとよい。Mは、Li、Na、Kからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含むものであれば特に制限はない。反応性の制御や収率の観点から、Li(OH)であることが好ましい。
【0038】
一般式(IV)で表される化合物と一般式(V)で表される化合物との反応は、溶媒中で行うことが好ましい。
溶媒に特に制限はないが、一般式(IV)で表される化合物と、一般式(V)で表される化合物との相溶性が高く、混合した場合には均一の溶液を与え、一方でM(OH)との相溶性が低く、混合した場合には溶解せずにM(OH)が系中に残存している溶媒が好ましい。均一に分散したシラン原料は熱力学的に安定な生成物を与えることに有利である。また、M(OH)濃度は反応中に系内で低濃度のまま一定である方が、熱力学的に安定な生成物を与えることに有利である。
また、溶媒に水を添加することで、水存在下で反応を進行させることができる。水は、一般式(IV)で表されるアルコキシシランと一般式(V)で表されるビニルアルコキシシランの合計100質量部に対して、5〜15質量部で添加すればよい。
【0039】
シラン原料である前記一般式(IV)で表される化合物と、一般式(V)で表される化合物とのモル比率に特に制限はない。仕込み比に応じて統計熱力学的に化合物が得られるとすると化合物(II)が目的化合物の場合、75:25が最も収率が大きくなると期待されるモル比率となる。そのためモル比率は90:10〜40:60が好ましい。さらに、順相のクロマトグラフィーで分取することを考えると、85:15〜45:55が好ましい。さらに、好ましくは80:20〜50:50がよい。
【0040】
合成を実施する際の媒体は、前述のようにLiOHに対する溶解性が低く、シラン原料や水とは相溶するものが好ましい。具体的にはメタノールとアセトンの混合溶媒が好ましい。このとき、混合する比率に特に制限はない。
また、合成を実施するときの温度に特に制限はない。但し反応時間を短縮する観点から、30〜56℃が好ましく、40〜55℃がより好ましい。
【0041】
反応後の生成物から化合物(II)を分離精製する方法はクロマトグラフィー法を用いるとよい。クロマトグラフィーの方法はシリカ粒子を充填剤としたカラムを用いた順相液体クロマトグラフィーが好ましい。順相液体クロマトグラフィーを用いることで、分子がもつ分極状態が僅かに異なるため、化合物(II)を分取することができる。また、これら分子の分極は小さいため、展開溶剤は極性が低く安価なヘキサンや石油エーテルを含む溶剤が好ましい。
【0042】
さらに、一般式(I)で表される液状ケイ素化合物の製造方法は、下記一般式(III)で表される化合物を用いて製造される工程を含むことが好ましい。
好ましくは、一般式(II)で表される化合物と一般式(III)で表される化合物とを反応させて、液状ケイ素化合物を製造する工程を含む。
【0044】
一般式(III)中、R
2、R
3、R
4、及びR
5は、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表し、mは1〜30の整数を表す。
【0045】
一般式(III)中、R
2、R
3、R
4、及びR
5は、それぞれ独立的に、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基を表す。
R
2、R
3、R
4、及びR
5で表されるアルキル基は、炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜4であり、直鎖または分岐鎖を有してもよく、非環式または環式であってもよい。
R
2、R
3、R
4、及びR
5で表されるアリール基は、炭素数6〜14のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜8である。この炭素数の範囲内で、アリール基は、炭素環を形成する少なくとも1つの炭素原子に直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が結合していてもよい。
R
2、R
3、R
4、及びR
5としては、それぞれ独立的に、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、フェニル基等を挙げることができる。
R
2、R
3、R
4、及びR
5は、好ましくは、合成される液状ケイ素化合物の耐熱性の観点から、炭素数1〜8の非置換のアルキル基またはフェニル基であることが好ましく、炭素数1〜4の非置換のアルキル基またはフェニル基であることがより好ましい。
【0046】
一般式(III)中、mは1〜30の整数であることが好ましく、より好ましくは1〜25の整数であり、さらに好ましくは1〜20の整数である。この範囲で、合成される液状ケイ素化合物の耐熱性を向上させることができる。
【0047】
一般式(I)で表される構造単位を有する液状ケイ素化合物の製造方法において、一般式(III)で表される化合物は、上記R
2、R
3、R
4、及びR
5、並びにmの組み合わせが異なる複数の化合物の中から少なくとも1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
一般式(II)で表される化合物と、一般式(III)で表される化合物との反応では、白金系触媒等の触媒を用いることが好ましい。
白金系触媒としては、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との触媒、白金−オレフィン錯体、白金−カルボニルビニルメチル錯体(Ossko触媒)、白金−ジビニルテトラメチルシロキサン錯体(Karstedt触媒)、白金−シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金−オクチルアルデヒド錯体、白金−ホスフィン錯体であるPt[P(C
6H
5)
3]
4、PtCl[P(C
6H
5)
3]
3、Pt[P(C
4H
9)
3]
4、白金−ホスファイト錯体であるPt[P(OC
6H
5)
3]
4,Pt(OC
4H
9)
3]
4、ジカルボニルジクロロ白金等が挙げられる。
【0049】
一般式(II)で表される化合物と一般式(III)で表される化合物との反応は、溶媒中で行うことが好ましい。
溶媒に特に制限はないが、一般式(II)で表される化合物、一般式(III)で表される化合物、及び触媒の溶解性に応じて任意に選択できる。
溶媒の具体例としては、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、テトラヒドロフラン(THF)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を挙げることができる。
【0050】
反応温度は、使用する触媒および溶媒によって異なるが、40〜150℃が好ましく、60〜130℃がより好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0052】
<実施例1>
「一般式(II)で表される化合物の合成」
一般式(II)において、6個のR
1が全てイソブチル基であるビスビニルPOSS(POSS;かご型オリゴシルセスキオキサン(Polyhedral Oligomeric SilSesquioxanes))を以下の手順で合成した。
500mL三口フラスコに、アセトンを300mL、メタノールを40mL、精製水を5.60mL加え、ジムロート冷却器、温度計、滴下ロートを備えて窒素雰囲気とした。
この三口フラスコに、塩基性化合物としてLiOH一水和物を7.00g加え、撹拌しながらオイルバスで液温が55℃となるように加熱した。
滴下ロートに、一般式(IV)で表されるアルコキシシランとしてイソブチルトリメトキシシランを49.00gと、一般式(V)で表されるビニルアルコキシシランとしてビニルトリメトキシシランを13.56gとを秤取し、50分間かけてゆっくり三口フラスコに滴下した。滴下後に液温を50℃とし、18時間窒素雰囲気下で混合物を加熱撹拌した。
加熱後、オイルバスを外し室温(25℃)まで放冷し、1NのHCl溶液を150mL加えたところ、白濁した。そのまま1時間撹拌し、上澄みを傾斜して除いた。残った白色粘稠物をアセトニトリル100mLで3回洗浄した後、ヘキサンを加えて白色粘稠物を溶解した。この溶液を500mLフラスコに定量的に移し、エバポレーターで溶剤を留去してオイルポンプで減圧乾燥し、白色粘稠物34.64gを得た。
【0053】
得られた白色粘稠物を分取精製した。
中圧カラムによる分取精製は株式会社ワイエムシィ製「LC−forte/R」、カラムは株式会社山善製「ユニバーサルカラムプレミアム(2L)」を用いた。分取条件10mL/min、展開溶剤はヘキサンとした。白色粘稠物2.64gをヘキサン1.47gに溶解させてカラム上部に直接チャージした。流出RI検出をモニターしながら、
図1に示す流出時間で各フラクションに分割し、フラクションごとにエバポレーターで溶剤を留去し、オイルポンプで減圧乾燥して、各フラクションから白色結晶を得た。各フラクションから得られた白色結晶の質量を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
フラクション2〜4から得られた白色結晶についてBruker Daltonics社製「AutoFlex」を用いてMALDI−TOF MS分析を行った。結果を
図2に示す。
図2から、H+とNa+付加体のピークが観測された。
各フラクションから得られた白色結晶の観測値、及びビニルPOSS、ビスビニルPOSS、トリスビニルPOSSの計算値を表2に示す。
フラクション2がビニルPOSS、フラクション3が目的のビスビニルPOSS、フラクション4がトリスビニルPOSSであった。
【0056】
【表2】
【0057】
ビスビニルPOSSについて、ビニル基の結合位置を調べるために、フラクション1〜5から得られた白色結晶をそれぞれCDCl
3(重水素化クロロホルム)に溶解させて、Bruker社製「Avance300」を用い、
1H、
13C及び
29Si NMRを測定した。
測定条件は以下の通りである。
(
1H NMR)
観測核:1H
共鳴周波数:300MHz
測定温度:25℃
基準物質:テトラメチルシラン
(
13C NMR)
観測核:13C
共鳴周波数:75MHz
測定温度:25℃
基準物質:テトラメチルシラン
(
29Si NMR)
観測核:29Si
共鳴周波数:60MHz
測定温度:25℃
基準物質:テトラメチルシラン
【0058】
1H、
13C及び
29Si NMRの測定結果をそれぞれ
図3、
図4、
図5に示す。
フラクション2のビニルPOSSの結果と比較すると、フラクション3のビスビニルPOSSは2個のビニル基を持つことが分かる。
【0059】
「一般式(I)で表される構造単位を有するケイ素化合物、m=1の合成」
一般式(I)において、6個のR
1が全てイソブチル基であり、R
2〜R
5がメチル基であり、m=1である構造単位を有する化合物を以下の手順で合成した。ビスビニルPOSSには、上記フラクション3から得られた白色結晶を用いた。
30mL二口フラスコにビスビニルPOSSを1.000g秤量し、ジムロート冷却器を備えて窒素雰囲気とした。シリンジでトルエンを6mL、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(一般式(III)においてm=1、R
2〜R
5=メチル基、東京化成工業製)を0.226mL、白金(0)−2,4,6,8−テトラメチルー2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体溶液を0.040mLを加えた。還流条件で12時間、105〜111℃で加熱した。次いで、エバポレーターで溶剤を留去してオイルポンプで減圧乾燥し、薄褐色透明液体1.09gを得た。この薄褐色透明液体を、ワイエムシィ株式会社製「LC−forte/R」を用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分取し、0.19gの無色透明の粘性液体を得た。重量平均分子量(Mw)は96,900であった。
【0060】
<実施例2>
「一般式(I)で表されるケイ素化合物、m=2の合成」
一般式(I)において、6個のR
1が全てイソブチル基であり、R
2〜R
5がメチル基であり、m=2である構造単位を有する化合物を以下の手順で合成した。ビスビニルPOSSには、上記フラクション3から得られた白色結晶を用いた。
30mL二口フラスコにビスビニルPOSSを1.000g秤量し、ジムロート冷却器を備えて窒素雰囲気とした。シリンジでトルエンを6mL、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン(一般式(III)においてm=2、R
2〜R
5=メチル基、東京化成工業製)を0.332mL、白金(0)−2,4,6,8−テトラメチルー2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体溶液を0.040mLを加えた。還流条件で12時間、105〜111℃で加熱した。次いで、エバポレーターで溶剤を留去してオイルポンプで減圧乾燥し、薄褐色透明液体1.15gを得た。この薄褐色透明液体を、ワイエムシィ株式会社製「LC−forte/R」を用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分取し、0.76g無色透明の粘性液体を得た。重量平均分子量(Mw)は21,400であった。
【0061】
<比較例1>
比較例1として、耐熱性シリコーンオイルとしてメチルフェニルポリシロキサン(信越化学工業株式会社製「KF−54」)を用いた。
<参考例>
参考例として、実施例1で合成された6個のイソブチル基を有するビスビニルPOSS(上記フラクション3から得られた白色結晶)を用いた。
【0062】
(5%重量減少温度の比較)
耐熱性の評価方法として加熱時の5%重量減少温度を比較した。株式会社島津製作所製の示差熱・熱重量同時測定装置「DHG−60H」を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10L/minの条件で測定を行い、5%重量減少温度を記録した。結果を表3に示す。
表3より、比較例1及び参考例に比べ、各実施例のケイ素化合物は、耐熱性に優れることがわかる。
【0063】
【表3】