(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記砥石刃部の表面が、上記仮想平面及び上記仮想円周面から窪んだ凹部と、上記仮想平面及び上記仮想円周面と接する凸部とで構成され、上記凹部が上記台板の円周方向に沿って連続的に形成され、かつ上記凸部が上記台板の円周方向に沿って断続的に形成された凹凸形状を有する外周切断刃を製造することを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
外周切断刃を用いて希土類焼結磁石などを切断する場合、加工時に研削液(クーラント)が用いられる。外周切断刃には、被切断物に対する高い寸法精度が求められるが、この寸法精度の向上には、外周切断刃においては、研削液を研削部(切断箇所)に効率よく供給して研削部を冷却できること、研削部で生じる研削屑を効率よく排出できること、チッピングが低減されることなどが有効である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、高速切断が可能であり、かつ切断精度が高く、加工歩留まりの向上と加工の低コスト化を実現し得る外周切断刃及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、円形リング状薄板の台板の外周部に、砥粒と結合材とを含む砥石刃部が形成された外周切断刃として、台板の両平面と
平行で、かつ砥石刃部の幅方向両端の各々で接する2つの仮想平面と、外周切断刃の回転軸を中心とし、かつ砥石刃部の内外周の各々で接する2つの仮想円周面とで囲まれた範囲を仮想したとき、仮想範囲から台板が占有する領域を除く範囲における砥石刃部の占有率が10〜40体積%であり、砥石刃部の幅方向両端部が、仮想平面から窪んだ形状を有している外周切断刃が、高速切断が可能であり、かつ切断精度が高く、加工歩留まりの向上と加工の低コスト化を実現し得る外周切断刃であることを知見した。
【0010】
そして、このような外周切断刃が、台板の外周部以外の砥石刃部を形成しない部分を被覆するように、台板の両平面を治具で挟持し、治具と、気体及び液体の通過は許容するが、砥粒の通過を許容しない目開きで形成された網状部材とで、台板の外周部に沿って外周部を取り囲むキャビティを形成し、キャビティ内に砥粒を充填してキャビティ内に砥粒を封入し、台板を、治具及び網状部材と共に、めっき液に浸漬し、台板をカソードとして電気めっきし、電解によりカソードから水素ガスを発生させると共に、電解により発生した水素ガスの気泡の一部を、キャビティを区画する治具及び/又は網状部材の内面で保持しながら、めっき金属を析出させて、砥粒をめっき金属と共に台板の外周部上に結合させること、この際、電気めっき工程において、キャビティ内の気泡がキャビティを区画する治具及び/又は網状部材の内面で保持された状態のまま、キャビティ内が砥粒及びめっき金属で完全に満たされる前に電気めっきを終了することにより、良好に製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記外周切断刃及びその製造方法を提供する。
請求項1:
円形リング状薄板の台板の外周部に、砥粒と結合材とを含む砥石刃部が形成された外周切断刃であって、
上記台板の両平面と平行で、かつ上記砥石刃部の幅方向両端の各々で接する2つの仮想平面と、上記外周切断刃の回転軸を中心とし、かつ上記砥石刃部の内外周の各々で接する2つの仮想円周面とで囲まれた範囲を仮想したとき、該仮想範囲から上記台板が占有する領域を除く範囲における上記砥石刃部の占有率が10〜40体積%であり、上記砥石刃部の幅方向両端部が、上記仮想平面から窪んだ形状を有しており、
上記砥石刃部の表面が、上記仮想平面及び上記仮想円周面から窪んだ凹部と、上記仮想平面及び上記仮想円周面と接する凸部とで構成され、上記凹部が上記台板の円周方向に沿って連続的に形成され、かつ上記凸部が上記台板の円周方向に沿って断続的に形成された凹凸形状を有し、上記凹部及び上記凸部が、規則的に配列していないことを特徴とする外周切断刃。
請求項2:
上記凸部として、上記凹部に囲まれて、他の凸部から独立している凸部を有することを特徴とする請求項1記載の外周切断刃。
請求項3:
上記結合材が電気めっき金属であることを特徴とする請求項1又は2記載の外周切断刃。
請求項4:
上記砥石刃部が、上記台板の先端部を挟持し、上記台板の先端部より先方に突出して形成されており、かつ上記砥石刃部の厚みが上記台板の厚みより厚く形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の外周切断刃。
請求項
5:
円形リング状薄板の台板の外周部に、砥粒と、電気めっき金属である結合材とを含む砥石刃部が形成された外周切断刃であり、
上記台板の両平面と平行で、かつ上記砥石刃部の幅方向両端の各々で接する2つの仮想平面と、上記外周切断刃の回転軸を中心とし、かつ上記砥石刃部の内外周の各々で接する2つの仮想円周面とで囲まれた範囲を仮想したとき、該仮想範囲から上記台板が占有する領域を除く範囲における上記砥石刃部の占有率が10〜40体積%であり、上記砥石刃部の幅方向両端部が、上記仮想平面から窪んだ形状を有している外周切断刃を製造する方法であって、
上記台板の外周部以外の上記砥石刃部を形成しない部分を被覆するように、上記台板の両平面を治具で挟持し、上記治具と、気体及び液体の通過は許容するが、上記砥粒の通過を許容しない目開きで形成された網状部材とで、上記台板の外周部に沿って該外周部を取り囲むキャビティを形成する工程、
該キャビティ内に上記砥粒を充填して上記キャビティ内に上記砥粒を封入する工程、
上記台板を、上記治具及び網状部材と共に、めっき液に浸漬する工程、及び
上記台板をカソードとして電気めっきし、電解によりカソードから水素ガスを発生させると共に、電解により発生した水素ガスの気泡の一部を、上記キャビティを区画する上記治具及び/又は網状部材の内面で保持しながら、めっき金属を析出させて、上記砥粒を上記めっき金属と共に上記台板の外周部上に結合させる工程を含み、
上記電気めっき工程において、上記キャビティ内の上記気泡が上記キャビティを区画する上記治具及び/又は網状部材の内面で保持された状態のまま、キャビティ内が砥粒及びめっき金属で完全に満たされる前に上記電気めっきを終了することを特徴とする外周切断刃の製造方法。
請求項
6:
上記治具が、上記台板の外周部から離間した上記キャビティの内面の一部を構成する鍔部を有し、上記気泡が、上記鍔部により保持されることを特徴とする請求項
5記載の製造方法。
請求項
7:
上記電気めっき工程において、上記台板の両平面を水平に配置することを特徴とする請求項
5又は
6記載の製造方法。
請求項
8:
上記電気めっき工程の途中で、上記台板の天地を反転させることを特徴とする請求項
7記載の製造方法。
請求項
9:
上記砥石刃部の表面が、上記仮想平面及び上記仮想円周面から窪んだ凹部と、上記仮想平面及び上記仮想円周面と接する凸部とで構成され、上記凹部が上記台板の円周方向に沿って連続的に形成され、かつ上記凸部が上記台板の円周方向に沿って断続的に形成された凹凸形状を有する外周切断刃を製造することを特徴とする請求項
5乃至
8のいずれか1項記載の製造方法。
請求項
10:
上記外周切断刃の上記凹部及び上記凸部が、規則的に配列していないことを特徴とする請求項
9記載の製造方法。
請求項
11:
上記外周切断刃が、上記凸部として、上記凹部に囲まれて、他の凸部から独立している凸部を有することを特徴とする請求項
9又は
10記載の製造方法。
請求項12:
上記砥石刃部が、上記台板の先端部を挟持し、上記台板の先端部より先方に突出して形成されており、かつ上記砥石刃部の厚みが上記台板の厚みより厚く形成されていることを特徴とする請求項5乃至11のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明で提供される外周切断刃を用いることで、高い送り速度で切断加工を行っても、精度良く、低い切断負荷で加工でき、加工歩留まりの向上と加工の低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
本発明の外周切断刃は、円形リング状薄板の台板の外周部に、砥粒と結合材とを含む砥石刃部が形成されている。具体的には、例えば、
図1に示されるようなものが挙げられる。
図1は、本発明の外周切断刃の一例を示す図であり、(A)は側面図、(B)は外周切断刃の回転軸に沿った面における縦断面図である。この外周切断刃10では、内穴1aを有する円形リング状薄板の台板1の外周部に、結合材により砥粒が結合された砥石刃部(切り刃部)2が形成されている。なお、
図1中、aは、外周切断刃10の回転軸を示している。
【0015】
台板は、超硬合金製のものが好ましく、具体的には、WC、TiC、MoC、NbC、TaC、Cr
3C
2などの周期表IVB、VB、VIB族に属する金属の炭化物粉末をFe、Co、Ni、Mo、Cu、Pb、Sn、又はそれらの合金を用いて焼結結合した合金が好ましく、これらの中でも特にWC−Co系、WC−Ti系、C−Co系、WC−TiC−TaC−Co系の代表的なものを用いることが特に好ましい。また、これらの超硬合金においては、メッキができる程度の導電性を有するか、又は、パラジウム触媒などによって導電性を付与できるものが好ましい。台板のサイズは、外径が80mm以上、特に100mm以上で、200mm以下、特に180mm以下、内径が30mm以上、特に40mm以上で、80mm以下、特に70mm以下、厚みが0.1mm以上、特に0.2mm以上で、1.0mm以下、特に0.8mm以下が好適である。
【0016】
砥石刃部を構成する砥粒としては、ダイヤモンド(天然ダイヤモンド、工業用合成ダイヤモンド)砥粒、cBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒、又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を用いることが好ましい。砥粒の大きさは、結合させる台板の厚みにもよるが、平均粒径で10〜500μmであることが好ましい。平均粒径が10μm未満であると、砥粒と砥粒の隙間が少なくなるため、切断中の目詰まりが生じ易くなり切断能力が低下するおそれがあり、平均粒径500μmを超えると磁石の切断面が粗くなるなどの不具合が生じるおそれがある。
【0017】
結合材としては、金属(この金属には合金が含まれる。)及び樹脂のいずれでもよいが、本発明の外周切断刃の砥石刃部における、後述する所定の形状を容易に形成できる観点から、結合材としては、金属結合材、特に、電気めっき又は無電解めっきによるめっき金属を適用することが好適である。金属結合材としては、Ni、Fe、Co、Sn、Cuから選ばれる1種の金属、又はこれらの金属の2種以上の合金若しくはこれらの金属から選ばれる1種又は2種以上と、B、P、Cなどから選ばれる非金属の1種又は2種以上との合金を用いることができる。
【0018】
砥石刃部中の砥粒体積率は、10体積%以上、特に15体積%以上で、80体積%以下、特に75体積%以下の範囲が好ましい。10体積%未満では、切断に寄与する砥粒の割合が少なく、80体積%を超えると切断中の目詰まりが増えるため、どちらの場合でも切断時の抵抗が増え、切断速度を遅くせざるを得なくなるおそれがある。なお、砥石刃部は、通常、砥粒及び結合材のみで構成されるが、例えば、砥石刃部の硬さ、応力、弾性などを調整する目的で、砥粒及び結合材以外の材料を、例えば10体積%以下、特に5体積%以下の体積率で混合してもよい。
【0019】
本発明の外周切断刃の砥石刃部は、従来の砥石刃部と異なる以下の特徴を備えている。即ち、本発明の外周切断刃の砥石刃部は、台板の両平面と
平行で、かつ砥石刃部の幅方向両端の各々で接する2つの仮想平面と、外周切断刃の回転軸を中心とし、かつ砥石刃部の内外周の各々で接する2つの仮想円周面とで囲まれた範囲を仮想したとき、この仮想範囲から台板が占有する領域を除く範囲(空間)における砥石刃部の占有率が10〜40体積%であることを特徴とする。この仮想範囲から台板が占有する領域を除く範囲(空間)における砥石刃部の占有率は、15体積%以上であることが好ましく、また、35体積%以下であることが好ましい。また、本発明の外周切断刃の砥石刃部は、砥石刃部の幅方向両端部が、上記仮想平面から窪んだ形状を有していることを特徴とする。
【0020】
図2は、本発明の上記特徴を説明するための模式図であり、外周切断刃の回転軸に沿った面における砥石刃部の部分断面図である。本発明の外周切断刃の砥石刃部は、
図2に示されるように、台板1と、その外周部に形成された砥石刃部2に対し、砥石刃部2の幅方向両端の各々、即ち、幅方向両端側の各々で最も突出している位置で接する2つの仮想平面vf1、vf2と、外周切断刃の回転軸を中心とし、かつ砥石刃部2の内外周の各々、即ち、内外周側の各々で最も突出している位置で接する2つの仮想円周面vc1、vc2とで囲まれた仮想範囲(空間)vを設定したとき、仮想範囲全体、即ち、台板1の外周部を取り囲む、外周切断刃の回転軸を含み、台板に直交する面における
、断面が長方形の円形リング状の範囲から台板が占有する領域を除く範囲における砥石刃部の占有率が上述した範囲となっている。
【0021】
従来の外周切断刃の砥石刃部は、その幅方向両端側の面が、台板の両平面と
平行な平面形状となっているが、このような形状の場合、砥石刃部の幅方向両端部で研削液が保持されることがなかった。これに対して、本発明の外周切断刃の砥石刃部は、仮想範囲から台板が占有する領域を除く範囲における砥石刃部の占有率が40体積%以下であり、また、砥石刃部の幅方向両端部が、仮想平面から窪んだ形状を有しているため、仮想範囲の砥石刃部が占有していない部分に研削液が保持され、また、砥石刃部と被切断物との接触面積が少なく、両者間の切断抵抗が低減されるため、高速での切断加工が可能となり、また、高速切断加工時の切断精度が、従来と比べて向上する。仮想平面から窪んだ形状は、どのような形状でもよく、特定の形状である必要はない。また、仮想平面から窪んだ形状は、規則的に配列していなくてもよい。
【0022】
このような本発明の外周切断刃の砥石刃部の特徴的な形状として具体的には、例えば、砥石刃部の表面が、仮想平面及び/又は仮想円周面から窪んだ凹部と、仮想平面及び/又は仮想円周面と接する凸部とで構成され、凹部及び凸部の一方又は双方が、台板の円周方向に沿って断続的に形成された凹凸形状を有すること、特に、凹部が台板の円周方向に沿って連続的に形成され、かつ凸部が台板の円周方向に沿って断続的に形成された凹凸形状を有することが好ましい。この場合、凹部に囲まれて、他の凸部から独立している凸部を有する形状がより好適である。また、台板又は台板の表面上に形成された下地層が、凹部の一部を構成している形状であってもよい。なお、砥石刃部の幅方向両端側は、仮想平面と一致する平面の一部であってもよく、また、砥石刃部の内外周側は、仮想円周面と一致する円周面の一部又は全部であってもよい。凹部及び
凸部は、いずれも、どのような形状でもよく、特定の形状である必要はない。また、凹部及び
凸部は、規則的に配列していなくてもよい。
【0023】
砥石刃部2は、
図2に示されるように、台板1の先端部を挟持し、かつ台板1の先端部より先方に突出して形成されており、砥石刃部2の厚みが台板1の厚みより厚くなるように形成される。ここで、砥石刃部2の厚みは、仮想平面vf1、vf2間の距離とする。砥石刃部2の台板1先端部を挟持する一対の挟持部2a、2bの長さは、それぞれ0.5mm以上、特に1mm以上で、4mm以下、特に3mm以下であることが好ましい。ここで、挟持部2a、2bの長さは、台板1の先端から、仮想円周面(内周面)vc1までの距離とする。また、これら一対の挟持部2a、2bの厚みは、それぞれ0.05mm以上、特に0.1mm以上で、0.5mm以下、特に0.25mm以下であることが好ましい。ここで、挟持部2a、2bの厚みは、仮想平面vf1、vf2と、該仮想平面の各々に近接する台板1の平面との距離とする。
【0024】
一方、砥石刃部2の台板1より先方に突出している突出部2cの長さは、固定する砥粒の大きさにもよるが、0.05mm以上、特に0.1mm以上で、5mm以下、特に2.5mm以下であることが好ましい。ここで、突出部2cの長さは、台板の先端から、仮想円周面(外周面)vc2までの距離とする。
【0025】
台板の外周部に砥石刃部を形成して外周切断刃を製造する方法としては、結合材として樹脂を用い、台板の外周部に、砥粒と樹脂を混合して砥石刃部を成形するレジンボンド法でもよいが、結合材として金属を用い、砥粒と金属とを含む砥石刃部を成形するメタルボンド法が好適である。メタルボンド法は、砥粒と金属を混合して砥石刃部を成形するロウ付け法でもよいが、本発明の外周切断刃の砥石刃部における所定の形状を効率よく形成できる観点から、めっき法が特に好ましい。めっき法には、電気めっき法(電着法)と無電解めっき法があるが、特に、電気めっき法が好ましい。めっき液(電気めっき液、無電解めっき液)は、上述した金属結合材を形成できる従来公知のめっき液を用いることができ、めっき条件は、そのめっき液における通常のめっき条件を適用すればよい。アノードは溶解性アノード、不溶性アノードのいずれでもよいが、不溶性アノードが好適である。不溶性アノードとしては、Pt電極、Ti電極などの、電気めっきで用いられる従来公知のアノードを用いればよい。
【0026】
なお、砥石刃部をメタルボンド法により形成する場合、台板の外周部に、予め下地層を形成しておいてもよい。この下地層は、金属結合材で例示した材料と同様の材料で形成することができ、ロウ付け法、めっき法のいずれによって形成してもよい。また、砥粒は、メタルボンド法により台板の外周部に固定する際の結合強度を高めるため、予め、スパッタリング、無電解めっきなどで被覆されているものを用いてもよい。
【0027】
本発明の外周切断刃の砥石刃部は、その所定の形状を容易に形成できる観点から、結合材を電気めっき金属として、以下の方法により製造することが効果的である。この製造方法には、
(1)台板の外周部以外の砥石刃部を形成しない部分を被覆するように、台板の両平面を治具で挟持し、治具と、気体及び液体の通過は許容するが、砥粒の通過を許容しない目開きで形成された網状部材とで、台板の外周部に沿って外周部を取り囲むキャビティを形成する工程、
(2)キャビティ内に砥粒を充填してキャビティ内に砥粒を封入する工程、
(3)台板を、治具及び網状部材と共に、めっき液に浸漬する工程、及び
(4)台板をカソードとして電気めっきし、電解によりカソードから水素ガスを発生させると共に、電解により発生した水素ガスの気泡の一部を、キャビティを区画する治具及び/又は網状部材の内面で保持しながら、めっき金属を析出させて、砥粒をめっき金属と共に台板の外周部上に結合させる工程
が含まれる。ここで電気めっき工程(工程(4))において、キャビティ内の気泡がキャビティを区画する治具及び/又は網状部材の内面で保持された状態のまま、キャビティ内が砥粒及びめっき金属で完全に満たされる前に電気めっきを終了することが有効である。
【0028】
この方法について、図を参照して、より詳しく説明する。
図3は、本発明の外周切断刃の製造に好適な治具及び網状部材の図であり(A)は分解側面図、(B)はキャビティが形成された組立された状態の断面図である。まず、台板1の外周部に砥石刃部を形成するので、
図3(A)に示されるように、台板の外周部以外の部分を被覆できる治具51、51と、治具51、51と共に台板1の外周部に沿って外周部を取り囲むキャビティを形成できる網状部材52とを準備し、
図3(B)に示されるように、台板1の両平面を治具51、51で挟持し、更に、網状部材52を治具51、51の外周面に巻き付けて固定することによって、キャビティcを形成する。網状部材は、金網(例えばSUS製)、樹脂網などを用いることができる。
【0029】
この場合、治具51は、台板1の外周部から離間し、キャビティcの内面の一部を構成する鍔部51aを有しており、鍔部51aには、キャビティc内に砥粒を導入するための供給口51bが設けられている。この場合、外周切断刃の回転軸を含み、台板1に直交する面における、キャビティcの断面が長方形となっている。なお、
図3中、51cは、供給口51bの閉止栓であり、閉止栓51cは、治具51の鍔部51aの一部を構成する。また、52aは、網状部材52を治具51の外周面上で固定するためのホルダーである。
【0030】
次に、キャビティ内に砥粒を充填してキャビティc内に砥粒を封入する。
図3に示されるような治具51、51を用いる場合、供給口51bから、砥粒を充填すればよく、閉止栓51cを一端取り外し、キャビティc内に必要量の砥粒を充填した後、供給口51bに閉止栓51cを再び取り付ければよい。砥粒の充填は、砥粒を、めっき液や、水などの液体に分散させたスラリーにして充填することもできる。その場合、余分な液体は、網状部材52を通して排出すればよい。
【0031】
次に、台板1を、治具51、51及び網状部材52と共に、めっき液に浸漬する。これにより、キャビティc内に、めっき液が網状部材52を通して満たされる。
【0032】
次に、台板1(台板1が非導電材料の場合は、台板1の表面上に予め形成しておいた導電性の層)をカソードとして電気めっきする。その際、めっき金属の析出と共に、台板(カソード)1近傍に水素ガスを発生させるが、本発明においては、この電解により発生した水素ガスの気泡の一部を、キャビティcを区画する治具51、51及び/又は網状部材52の内面で保持しながら、めっき金属を析出させ、砥粒をめっき金属と共に台板1の外周部上に結合させる。電気めっきが進行するにつれて、気泡の大部分は網状部材52を通してキャビティc外に放出され、また、めっき液は、網状部材52を通してキャビティc内に順次供給される。これにより、キャビティc内が、徐々に、砥粒及びめっき金属で満たされていく。
【0033】
そして、キャビティc内の気泡がキャビティcを区画する治具51、51及び/又は網状部材52の内面で保持された状態のまま、キャビティc内が砥粒及びめっき金属で完全に満たされる前に電気めっきを終了する。この場合、キャビティc内の気泡が保持されたままの部分には、めっき金属が析出しておらず、台板の両平面と
平行な平面形状の従来の砥石刃部とは異なり、この部分で、本発明の砥石刃部の特徴的な形状である、幅方向両端部が本発明の所定の形状を有する砥石刃部を形成されることになる。
【0034】
特に、
図3に示される治具51の場合、鍔部51aにより気泡が確実に保持されるため、このような治具を用いることが、本発明の所定の形状を有する砥石刃部を形成する上では有利である。また、電気めっき工程中、台板1の両平面を水平に配置することが好ましい。このようにすることにより、砥粒を、自重により台板1の一方の平面に接触又は近接させた状態で、めっき金属により結合させることができ、電気めっき工程の途中で、台板の天地を反転させれば、砥粒を、自重により台板1の他方の平面に接触又は近接させた状態で、めっき金属により結合させることができる。更に、台板1の両平面を水平に配置することは、鍔部51aにより気泡がより確実に保持できる点においても有利である。台板の天地の反転は、1回に限られず、複数回繰り返してもよい。また、めっき金属がある程度析出して、砥粒が台板上に固定されれば、その後はキャビティcを開放してもよく、その場合、例えば、網状部材を取り外し、治具を鍔部のないものに取り換えて、後処理としての、電気めっき工程を実施してもよい。
【0035】
本発明の外周切断刃を用いて切断を行う場合、被切断物としては、R−Co系希土類焼結磁石、R−Fe−B系希土類焼結磁石(Rは、いずれも、Yを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上、以下同じ。)などの希土類焼結磁石(希土類永久磁石)が好適である。R−Co系希土類焼結磁石は、RCo
5系、R
2Co
17系などがある。このうち、例えば、R
2Co
17系では、20〜28質量%のR、5〜30質量%のFe、3〜10質量%のCu、1〜5質量%のZr、及び残部Coからなるものが挙げられる。一方、R−Fe−B系希土類焼結磁石としては、5〜40質量%のR、0.2〜8質量%のB、8質量%以下の磁気特性や耐食性を改善するための添加元素(例えば、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Hf、Ta及びWから選ばれる1種又は2種以上)、及び残部Fe又はFe及びCo(Coは30質量%以下)からなるものが挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0037】
[実施例1]
台板として、超硬合金K10で形成された、外径131mm、内径60mm、厚み0.4mmの円形リング状薄板を用いた。この台板の外周部には、事前に、NiCl
2・6H
2Oを70g/L、NiSO
4・6H
2Oを370g/L、ホウ酸を45g/L、潤滑剤として株式会社JCU(旧社名:荏原ユージライト株式会社)製#82を2g/L含む電気ニッケルめっき液を用い、浴温度を55℃として電気ニッケルめっきを施して、下地層としてニッケル皮膜を形成しておいた。
【0038】
次に、下地層を形成した台板に対して、
図3に示される治具及び網状部材を用いて、台板の外周部にそって、外周部を取り囲むキャビティを形成し、閉止栓を外して、供給口からキャビティ内に、ダイヤモンド砥粒(ASTM #230/270)を、後述するめっき液に分散させたスラリーとして充填し、閉止栓を閉めて封入した。この場合、鍔部間の距離を0.6mmとして、砥石刃部の幅を0.6mm(挟持部の厚みは、各々0.1mm)に設定し、また、砥石刃部の台板先端部を挟持する挟持部の長さを、各々2mmに設定し、台板の先端から網状部材までの距離を2mmとして、突出部の長さを2mmに設定した。
【0039】
次に、台板を、治具、網状部材及び砥粒と共に、NiCl
2・6H
2Oを70g/L、NiSO
4・6H
2Oを370g/L、ホウ酸を45g/L、潤滑剤として株式会社JCU製#82を2g/L、光沢剤として、株式会社JCU製#83Sを20g/L及び株式会社JCU製#81Sを0.5g/L含む電気ニッケルめっき液に、台板の両平面を水平に配置して浸漬し、台板上の導電性の下地層をカソード、チタンケース電極をアノードとし、浴温度を55℃とし、0.7V以下の定電圧で、電気ニッケルめっきを合計480分間実施した。めっき中、めっき部分から水素ガスが発生した。また、めっき工程中、1〜3AM/dm
2のニッケル析出電気量毎に、通電を一旦停止し、台板の天地を反転させて、再び通電する操作を4回実施した。
【0040】
次に、砥粒が台板に固定されたことを確認して治具及び網状部材を取り外し、キャビティ内が、砥粒とめっき金属で完全に充填されていない状態であったことを確認した後、治具を鍔部のないものに取り換えて、同じめっき条件で、後処理として、電気ニッケルめっきを120分間実施し、外周切断刃を得た。
【0041】
得られた外周切断刃において、上述した仮想範囲から台板が占有する領域を除く範囲における砥石刃部の占有率は、10体積%であった。得られた外周切断刃の砥石刃部の外観写真を
図4(A)に示す。この砥石刃部は、砥石刃部の幅方向両端部が、仮想平面から窪んだ形状を有していること、また、砥石刃部の表面が、仮想平面及び仮想円周面から窪んだ凹部と、仮想平面及び仮想円周面と接する凸部とで構成され、凹部が台板の円周方向に沿って連続的に形成され、かつ凸部が台板の円周方向に沿って断続的に形成された凹凸形状を有していること、更に、凹部に囲まれて、他の凸部から独立している凸部を有する形状であることが確認された。
【0042】
[比較例1]
台板として、超硬合金K10で形成された、外径131mm、内径60mm、厚み0.4mmの円形リング状薄板を用いた。この台板の外周部には、事前に、NiCl
2・6H
2Oを70g/L、NiSO
4・6H
2Oを370g/L、ホウ酸を45g/L、潤滑剤として株式会社JCU製#82を2g/L含む電気ニッケルめっき液を用い、浴温度を55℃として電気ニッケルめっきを施して、下地層としてニッケル皮膜を形成しておいた。
【0043】
次に、下地層を形成した台板に対して、
図3に示される治具及び網状部材を用いて、台板の外周部にそって、外周部を取り囲むキャビティを形成し、閉止栓を外して、供給口からキャビティ内に、ダイヤモンド砥粒(ASTM #230/270)を、後述するめっき液に分散させたスラリーとして充填し、閉止栓を閉めて封入した。この場合、鍔部間の距離を0.6mmとして、砥石刃部の幅を0.6mm(挟持部の厚みは、各々0.1mm)に設定し、また、砥石刃部の台板先端部を挟持する挟持部の長さを、各々2mmに設定し、台板の先端から網状部材までの距離を2mmとして、突出部の長さを2mmに設定した。
【0044】
次に、台板を、治具、網状部材及び砥粒と共に、NiCl
2・6H
2Oを70g/L、NiSO
4・6H
2Oを370g/L、ホウ酸を45g/L、潤滑剤として株式会社JCU製#82を2g/L、光沢剤として、株式会社JCU製#83Sを20g/L及び株式会社JCU製#81Sを0.5g/L含む電気ニッケルめっき液に、台板の両平面を水平に配置して浸漬し、台板上の導電性の下地層をカソード、チタンケース電極をアノードとし、浴温度を55℃とし、0.7V以下の定電圧で、電気ニッケルめっきを合計480分間実施した。めっき中、めっき部分から水素ガスが発生した。また、めっき工程中、1〜3AM/dm
2のニッケル析出電気量毎に、通電を一旦停止し、台板の天地を反転させて、再び通電する操作を32回実施した。
【0045】
次に、砥粒が台板に固定されたことを確認して治具及び網状部材を取り外し、キャビティ内が、砥粒とめっき金属で完全に充填された状態であったことを確認した後、治具を鍔部のないものに取り換えて、同じめっき条件で、後処理として、電気ニッケルめっきを120分間実施し、外周切断刃を得た。
【0046】
得られた外周切断刃において、上述した仮想範囲から台板が占有する領域を除く範囲における砥石刃部の占有率は、ほぼ100体積%であった。得られた外周切断刃の砥石刃部の外観写真を
図4(B)に示す。この砥石刃部は、その幅方向両端側の面が、台板の両平面と
平行な平面形状となっている。
【0047】
実施例1及び比較例1で得られた外周切断刃を用い、長さ(外周切断刃の切断長さ方向)が40mm、高さ(外周切断刃の切断深さ方向)が16mmのR−Fe−B系希土類焼結磁石を、外周切断刃の回転速度を7,040rpm、外周切断刃が一度に切断する深さを1mmとし、外周切断刃の送り速度(長さ方向の移動速度)を100mm/minから700mm/minで設定して、厚みが2mmの磁石片を、各々の条件で6枚ずつ切り出し、切断時のスピンドル軸用モーターの平均負荷電流を測定した。結果を
図5に示す。また、切断された磁石片について、その厚みを切断片の角4点と中央1点の厚みを測定して、それらの平均値を求め、切断片毎のばらつきから切断精度を評価した。結果を
図6に示す。