(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844443
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】フォトリソグラフィ用ペリクル膜、ペリクル及びフォトマスク、露光方法並びに半導体デバイス又は液晶ディスプレイの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20210308BHJP
【FI】
G03F1/62
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-122744(P2017-122744)
(22)【出願日】2017年6月23日
(65)【公開番号】特開2019-8089(P2019-8089A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2019年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】簗瀬 優
【審査官】
植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/058586(WO,A1)
【文献】
国際公開第2016/175019(WO,A1)
【文献】
特表2013−534727(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/017433(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0309404(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00〜1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
KrFエキシマレーザーまたはArFエキシマレーザーの露光光源を用いたフォトリソグラフィに使用され、ペリクルフレームの一端面に張設されるペリクル膜であって、ポリマー膜と、該ポリマー膜の片面又は両面に形成されるグラフェンを含む層からなるガス不透過性層とを構成として含むことを特徴とするフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
【請求項2】
上記ガス不透過性層は、差圧法によるガス透過性試験によって求められるNH3ガス及びSO2ガスに対するガス透過係数が、1.0×10-12cm3・cm/cm2・s・cmHg以下である請求項1記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
【請求項3】
上記ガス不透過性層の厚さが0.2〜1nmであり、ペリクル膜の厚さ全体の0.02〜1%の割合を占める請求項1又は2記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
【請求項4】
上記ガス不透過性層に含まれるグラフェンの層数が1〜3層である請求項1〜3のいずれか1項記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
【請求項5】
上記ポリマー膜は、フッ素樹脂を含む膜である請求項1〜4のいずれか1項記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
【請求項6】
KrFエキシマレーザーまたはArFエキシマレーザーの露光光源を用いたフォトリソグラフィに使用され、ペリクルフレームの一端面に張設されるペリクル膜であって、ポリマー膜と、該ポリマー膜の片面又は両面に形成され、グラフェン又はダイヤモンドライクカーボンからなる層とを構成として含むことを特徴とするフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
【請求項7】
KrFエキシマレーザーまたはArFエキシマレーザーの露光光源を用いたフォトリソグラフィに使用され、ペリクルフレームと、該ペリクルフレームの一端面に張設されるペリクル膜とを有するリソグラフィ用ペリクルであって、上記ペリクル膜は、請求項1〜6のいずれか1項記載のペリクル膜であることを特徴とするフォトリソグラフィ用ペリクル。
【請求項8】
KrFエキシマレーザーまたはArFエキシマレーザーの露光光源を用いたフォトリソグラフィに使用され、請求項7記載のペリクルを装着することを特徴とするフォトリソグラフィ用ペリクル付きフォトマスク。
【請求項9】
請求項8記載のペリクル付きフォトマスクを用い、KrFエキシマレーザーまたはArFエキシマレーザーの露光光源を用いたフォトリソグラフィを行うことを特徴とする露光方法。
【請求項10】
請求項8記載のペリクル付きフォトマスクを用い、KrFエキシマレーザーまたはArFエキシマレーザーの露光光源を用いたフォトリソグラフィ工程を有することを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【請求項11】
請求項8記載のペリクル付きフォトマスクを用い、KrFエキシマレーザーまたはArFエキシマレーザーの露光光源を用いたフォトリソグラフィ工程を有することを特徴とする液晶ディスプレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスや液晶ディスプレイ等を製造する際のフォトリソグラフィ用マスク等のゴミよけとして使用されるフォトリソグラフィ用ペリクル膜及びこれを用いたフォトリソグラフィ用ペリクルに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや液晶ディスプレイ等を製造する際のフォトリソグラフィ工程では、レジスト膜を塗布した半導体ウエハや液晶用原板に、フォトマスクを通して光を照射することによってパターンを作製する。このときに用いるフォトマスクに異物が付着していると、この異物が光を吸収したり、光を曲げてしまうために、転写したパターンが変形したり、エッジが粗雑なものとなるほか、下地が黒く汚れたりして、寸法、品質、外観などが損なわれるという問題がある。
【0003】
このため、これらのフォトリソグラフィ工程は、通常クリーンルーム内で行われるが、それでもフォトマスクを清浄に保つことは難しいため、フォトマスクにはペリクルと呼ばれる異物除けが装着される。
【0004】
ペリクルは、通常、枠状のペリクルフレームと、ペリクルフレームの上端面に張設されたペリクル膜と、ペリクルフレームの下端面に形成された気密用ガスケット等から構成されている。ペリクル膜は、露光光に対して高い透過率を示す材料で構成され、気密用ガスケットには粘着剤等が用いられる。
【0005】
このようなペリクルをフォトマスクに装着すれば、異物はフォトマスクに直接付着せず、ペリクル上に付着することになる。フォトリソグラフィにおいて露光光の焦点をフォトマスクのパターン上に合わせれば、ペリクル上の異物は転写に無関係となり、パターンの変形等の問題を抑えることが可能となる。
【0006】
ところで、このようなフォトリソグラフィ技術においては、解像度を高める手段として、露光光源の短波長化が進められている。現在までに、露光光源は水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)から、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)に移行しており、さらには主波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet)光の使用も検討されている。
【0007】
一方で、露光光の短波長化に伴って、その照射エネルギーも高くなり、その結果、フォトマスク上にヘイズと呼ばれる異物が発生しやすくなるという問題もある。このようなヘイズは、露光環境中に存在するNH
3ガスや、ペリクル構成部材から発生するSO
xガス、有機成分などが、露光光の照射エネルギーによって反応して異物になることで発生すると考えられている。
【0008】
そこで、特開2009−169380号公報(特許文献1)では、ペリクルフレームに炭素を含む無機化合物をコーティングすることによって、ペリクルフレームから放出されるガスの量を抑え、ヘイズの発生を抑制することを提案している。
【0009】
また、特開2013−7762号公報(特許文献2)や特開2013−20235号公報(特許文献3)では、クエン酸や酒石酸を含んだアルカリ性水溶液を用いて陽極酸化処理を行って、アルミニウム材の表面に陽極酸化皮膜を形成してペリクルフレームを得ることで、硫酸やリン酸等の無機酸の含有量を低減して、ヘイズの発生を防止する方法が提案されている。
【0010】
しかしながら、上記のような手法によっても、未だにヘイズの発生を完全に防止することはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−169380号公報
【特許文献2】特開2013−7762号公報
【特許文献3】特開2013−20235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ヘイズの発生をさらに抑制することができるフォトリソグラフィ用ペリクル膜及びペリクルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、ペリクルの構成部材から発生するガス状物質の量は少なくなっているにもかかわらず、ヘイズが発生し続けることから、ヘイズの発生原因となるガス状物質が、ペリクル膜の外側からペリクル膜を透過してペリクル膜の内側に侵入しているのではないかと考えた。そこで、本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ペリクル膜に、ガス不透過性層を新たに設けることによって、ペリクル膜の外側からのガス状物質の侵入を防ぎ、ヘイズの発生を効果的に抑制できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0014】
従って、本発明は、以下のフォトリソグラフィ用ペリクル膜及びペリクルを提供する。
〔1〕ペリクルフレームの一端面に張設されるペリクル膜であって、ポリマー膜と、該ポリマー膜の片面は又は両面に形成されるガス不透過性層とを構成として含むことを特徴とするフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
〔2〕上記ガス不透過性層は、差圧法によるガス透過性試験によって求められるNH
3ガス及びSO
2ガスに対するガス透過係数が、1.0×10
-12cm
3・cm/cm
2・s・cmHg以下である〔1〕記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
〔3〕上記ガス不透過性層は、グラフェンを含む層である〔1〕又は〔2〕記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
〔4〕上記ガス不透過性層の厚さが0.2〜1nmであり、ペリクル膜の厚さ全体の0.02〜1%の割合を占める〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
〔5〕上記ガス不透過性層に含まれるグラフェンの層数が1〜3層である〔3〕記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
〔6〕上記ポリマー膜は、フッ素樹脂を含む膜である〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
〔7〕上記ガス不透過性層は、露光光に対する透過率が70%以上である〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
〔8〕ペリクル膜全体の露光光に対する透過率が70%以上である〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
〔9〕上記の露光光は、g線、i線、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、EUV光の群から選択される〔7〕又は〔8〕記載のフォトリソグラフィ用ペリクル膜。
〔10〕ペリクルフレームと、該ペリクルフレームの一端面に張設されるペリクル膜とを有するリソグラフィ用ペリクルであって、上記ペリクル膜は、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のペリクル膜であることを特徴とするフォトリソグラフィ用ペリクル。
【発明の効果】
【0015】
本発明のペリクル膜及びペリクルは、フォトリソグラフィにおいて使用すると、ペリクル膜の外側からヘイズの発生原因となるガス状物質が侵入するのを防ぐことができ、ヘイズの発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のペリクル膜及びペリクルの一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明のペリクル膜及びペリクルの他の実施形態を示す断面図である。
【
図3】本発明のペリクル膜及びペリクルの更に別の実施形態を示す断面図である。
【
図4】従来のペリクル膜及びペリクルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。本発明は、以下の内容に限定されるものではなく、適宜に変形して実施できるものである。
【0018】
本発明のペリクル膜は、ペリクルフレームの一端面に張設されるペリクル膜であり、ポリマー膜とガス不透過性層とを含んで構成される。
【0019】
上記ポリマー膜は、フォトリソグラフィに用いられるg線(波長436nm)、i線(波長365nm)、KrFエキシマレーザー(波長248nm)、ArFエキシマレーザー(波長193nm)、EUV光(波長13.5nm)等の露光光に対して透過性を有するものであり、使用される露光光に対して透過率が95%以上であることが好ましい。また、上記ポリマー膜の膜厚は、100〜1000nmであることが好適である。
【0020】
上記ポリマー膜の材質については、特に制限はないが、従来用いられるペリクル膜の材質を採用することができ、特には、使用される露光光に対して高い透過率を有し、さらに耐光性に優れた材料を選択することが好ましい。例えば、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザーに対しては、高い透過性と優れた耐光性を示すことから、非晶質(アモルファス)フッ素樹脂から成る膜がポリマー膜として好適に用いられる。このような非晶質フッ素樹脂としては、サイトップ(旭硝子(株)製品名)やテフロン
TMAF(デュポン社製品名)等が挙げられる。
【0021】
ガス不透過性層は、特にNH
3ガスとSO
2ガスに対して不透過性であることが好ましい。ガス透過性は、JIS K 6275又はJIS K 7126に定められる差圧法によるガス透過性試験によって求められる。ガス不透過性層は、NH
3ガス及びSO
2ガスに対するガス透過係数が、好ましくは1.0×10
-12cm
3・cm/cm
2・s・cmHg以下、特に1.0×10
-13cm
3・cm/cm
2・s・cmHg以下であることが好ましい。なお、その下限値は特に制限されないが、通常、1.0×10
-18cm
3・cm/cm
2・s・cmHg以上、特に1.0×10
-16cm
3・cm/cm
2・s・cmHg以上であることが好ましい。なお、JIS K 6275は、加硫ゴム及び熱可塑性ゴムのガス透過性の求め方を、JIS K 7126は、プラスチックのガス透過度試験方法を、それぞれ規定したものであるが、基本的な試験方法は同じである。
【0022】
また、上記ガス不透過性層のガス不透過性は、使用される露光光に対して透過率が70%以上であることが好ましい。ガス不透過性層としては、高いガス不透過性を示し、露光光に対しても高い透過率を示す材質であればよく、例えば、グラフェン、ダイヤモンドライクカーボン等を用いることができ、特にグラフェンが好ましい。このグラフェンを用いる場合、ガス不透過性層は単層であっても多層であってもよいが、光透過率の観点から単層グラフェンであることが好ましい。
【0023】
上記ガス不透過性層としてグラフェンを用いる場合は、3層以下の多層グラフェンであれば、波長193nmのArF光に対して透過率を70%以上とすることができるため好適である。グラフェン1層の厚さは、通常約0.3nmであるため、ガス不透過性層の厚さは、0.2〜1nmであることが好ましい。また、上記ガス不透過性層の厚さは、ペリクル膜の厚さ全体の0.02〜1%の割合を占めることが好ましい。
【0024】
上記ガス不透過性層は、ポリマー膜の片面又は両面に設けることができる。上記ガス不透過性層をポリマー膜の片面に設ける場合は、ペリクルとした際に外側となる面でも内側となる面でも特に構わない。例えば、
図1は、ガス不透過性層をポリマー膜の外側となる面に設けた例であり、
図2は、ガス不透過性層をポリマー膜の内側となる面に設けた例を示す。更に、
図3は、ガス不透過性層をポリマー膜の両面に設けた例を示している。
【0025】
上記のポリマー膜及びガス不透過性層は、各々が複数の材料からなるものであってもよい。また、ペリクル膜には、ポリマー膜及びガス不透過性層以外の膜又は層を含んだ積層構造としてもよい。
【0026】
上記ペリクル膜の露光光に対する透過率は、高い方が好ましいが、少なくとも70%以上、特に75%以上であることが好ましい。光透過率の観点から、ポリマー膜とガス不透過性層との2層構造であることが好ましく、特にフッ素樹脂から成るポリマー膜と単層又は多層グラフェンとの2層構造であることが好ましい。
【0027】
本発明のペリクル膜は、例えば、以下のような方法で作製することができる。
【0028】
まず、基板上に設けられたグラフェン等のガス不透過性層を準備する。グラフェン等のガス不透過性層を基板上に設ける方法は特に限定されず、公知の方法を用いればよい。
【0029】
グラフェン等のガス不透過性層の製造方法としては、例えば、グラファイトからの機械的剥離、CVD法、SiC基板の表面熱分解法などが挙げられるが、量産性の観点からCVD法が好ましい。このCVD法では、炭化水素ガスを原料としてNi箔やCu箔等の基材上にグラフェン等のガス不透過性層が形成される。また、形成したグラフェン等のガス不透過性層に熱剥離シートを貼り付け、基材をエッチングし、さらに他基材へ貼り付けた後、熱剥離シートを取り除けば、グラフェン等のガス不透過性層をSiO
2/Si等の他基材へ転写することができる。この工程に用いる基板は特に限定されず、上記のNi箔及びCu箔やこれら金属箔とSiO
2/Si等の基板との複合基板、さらには、グラフェン等のガス不透過性層を転写してSiO
2/Si等を基板として用いることができる。
【0030】
次に、基板上に設けられたグラフェン等のガス不透過性層をポリマー膜で被覆する。ポリマー膜を被覆する方法は、材料に応じて適宜選択すればよい。例えば、ポリマー膜として非晶質フッ素樹脂を用いる場合は、その溶液をスピンコートやディップコート等の公知の方法で基板上に塗布し、溶媒を除去することによって被覆することができる。
【0031】
その後、基板を除去することによって、ポリマー膜の片面にガス不透過性層が積層されたペリクル膜が得られる。基板を除去する方法は限定されず、基板の種類に応じて適宜選択すればよい。基板をSiO
2/Siとする場合は、例えば、ウェットエッチング液として水酸化カリウム水溶液等を用いて基板を除去することができる。また、ペリクル膜にしわが発生するのを防ぐため、基板の除去を行う前に、基板外周に保護部材を設置することが好ましい。
【0032】
このようにして得られたペリクル膜を、ペリクルフレームの開口部を覆うように設置することによってペリクルとすることができる。このとき、保護部材をペリクルフレームとして使用してもよい。
【0033】
ここで、ペリクル膜とペリクルフレーム(保護部材)の接着には、アクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、含フッ素シリコーン接着剤等を用いることができる。
【0034】
ペリクルフレームは、ペリクルを設置するフォトマスクの形状に対応し、一般に四角形枠状(長方形枠状又は正方形枠状)である。ペリクルフレームの材質に、特に制限はなく、公知の材料を使用することができる。例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄系合金、セラミックス、セラミックス金属複合材料、炭素鋼、工具鋼、ステンレス鋼、炭素繊維複合材料等が挙げられる。なかでも、強度、剛性、軽量、加工性、コスト等の観点からアルミニウム、アルミニウム合金等、金属又は合金製であることが好ましい。
【0035】
ペリクルフレームには、陽極酸化処理、メッキ処理、ポリマーコーティング、塗装等が施されていてもよい。ペリクルフレームの表面は、黒色系の色調となっていることが好ましい。このようにすれば、ペリクルフレーム表面での露光光の反射を抑えることができ、かつ、異物検査においても異物の検出がし易くなる。このようなペリクルフレームは、例えば、アルミニウム合金製のペリクルフレームに黒色アルマイト処理を施すことによって得られる。
【0036】
ペリクルフレームには、通気孔を設けてもよい。通気孔を設けることで、ペリクルとフォトマスクで形成された閉空間内外の気圧差をなくし、ペリクル膜の膨らみや凹みを防止することができる。また、通気孔には、除塵用フィルターを取り付けることが好ましい。このようにすれば、通気孔からペリクルとフォトマスクとの閉空間内に外から異物が侵入するのを防ぐことができる。
【0037】
さらに、ペリクルフレームの内側面には、ペリクルとフォトマスクとの閉空間内に存在する異物を捕捉するために粘着剤を塗布してもよい。その他、ペリクルフレームには、冶具穴等を必要に応じて設けることができる。
【0038】
ペリクルでは、通常、ペリクルをフォトマスクに貼付けるため粘着剤層がペリクルフレームの下端面に設けられる。粘着剤層は、ペリクルフレームの下端面の周方向全周に亘って、ペリクルフレーム幅と同じ又はそれ以下の幅に形成される。粘着剤としては、アクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤を使用することができる。
【0039】
また、粘着剤層の表面には、輸送時や保管時に粘着剤層を保護するためのセパレータが設けられていてもよい。セパレータの材質に制限ないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)等を使用することができる。また、必要に応じて、シリコーン系離型剤やフッ素系離型剤等の離型剤をセパレータの表面に塗布してもよい。
【0040】
ここで、
図1〜3は、本発明の実施例に係るペリクルPであり、図中1は、ポリマー膜2とガス不透過性層3とを含むペリクル膜1で、このペリクル膜1はペリクルフレーム4の上端面に接着剤5により接着及び張設されている。なお、
図1はガス不透過性層3をポリマー膜2の外側に設けた例、
図2はガス不透過性層3をポリマー膜2の内側に設けた例、
図3はガス不透過性層3をポリマー膜2の両側にそれぞれ設けた例である。また、ペリクルフレーム4には、その側部に通気孔7が穿設され、通気孔7の外側に除塵用フィルター8が設けられている。上記ペリクルPは、粘着剤6によりフォトマスク9に剥離可能に接着され、フォトマスク9上のパターン面10を保護している。
【実施例】
【0041】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0042】
〔実施例1〕
まず、表面にSiO
2層を有する8インチのSi(SiO
2/Si)基板上に、グラフェン(単層)が設けられたものを準備した。次に、基板上に設けられたグラフェンに、スピンコートで乾燥後の厚さが1μmになるようにフッ素樹脂(旭硝子(株)製の「サイトップCTX−S」)を塗布し、180℃で1分間加熱して硬化させた。
【0043】
続いて、ポリマー膜(フッ素樹脂)の上から、基板の外周近傍に、SUS製枠状の保護部材をエポキシ樹脂系接着剤(セメダイン(株)製の「EP330」)を用いて接着させた。
【0044】
次に、これを24質量%水酸化カリウム水溶液中に浸漬させて、SiO
2/Si基板をウェットエッチングした。SiO
2/Si基板が除去されたところで、保護部材ごとポリマー膜とグラフェンとの積層膜を取り出し、純水で十分に洗浄してペリクル膜を得た。
【0045】
続いて、得られたペリクル膜のポリマー膜側を、ペリクルフレーム(外形サイズ149mm×115mm×3.15mm、フレーム幅2mm)の上端面にエポキシ樹脂系接着剤(セメダイン(株)製の「EP330」)を用いて接着させた。なお、ペリクルフレームの外側にはみ出したペリクル膜は、カッターで切除した。
【0046】
また、ペリクルフレームはアルミニウム合金製であり、下端面には粘着剤層(綜研化学社製の「SKダイン1495」)が成形されている。このようにして、
図1に示す断面構造を有するペリクルを完成させた。即ち、
図1は、ポリマー膜2の外面にガス不透過性層3が積層したペリクル膜1がペリクルフレーム4の上端面に形成されていることを示している。
【0047】
作製したペリクルについて、波長193nmの光に対するペリクル膜の透過率は、75.0%であった。また、以下に示す方法で、NH
3ガス及びSO
2ガスに対するガス透過性を評価したところ、pH試験紙に変化は見られなかった。
【0048】
[NH
3ガス透過性評価]
石英板にNH
3水溶液を少量滴下し、通気孔を設けていないペリクルを、NH
3水溶液を覆うようにして石英板に貼り付けた。密閉容器内にpH試験紙とペリクルを貼り付けた石英板を入れて、密閉してから1時間後のpH試験紙の変化を観察した。
【0049】
[SO
2ガス透過性評価]
石英板にpH試験紙を設置し、通気孔を設けていないペリクルを、pH試験紙を覆うようにして石英板に貼り付けた。密閉容器内にペリクルを貼り付けた石英板を入れて、SO
2ガスを充満させた。密閉してから1時間後のpH試験紙の変化を観察した。
【0050】
洗浄済みのフォトマスクに、作製したペリクルを装着して、ArFエキシマレーザー(193nm)による露光を行った。露光量が10kJ/cm
2に達した時点で、フォトマスクのパターン面に成長性異物(ヘイズ)は観察されなかった。
【0051】
〔比較例1〕
ここでは、フッ素樹脂(旭硝子(株)製サイトップCTX−S)から成るペリクル膜を、ペリクルフレーム(外形サイズ149mm×115mm×3.15mm、フレーム幅2mm)の上端面にエポキシ樹脂系接着剤(セメダイン(株)製EP330)を用いて接着させた。なお、ペリクルフレームの外側にはみ出したペリクル膜は、カッターで切除した。
【0052】
また、ペリクルフレームはアルミ合金製であり、下端面には粘着剤層(綜研化学社製SKダイン1495)が成形されている。このようにして、
図4に示す断面構造を有するペリクルを完成させた。即ち、
図4は、ガス不透過性層のない単層のペリクル膜1’がペリクルフレーム4の上端面に形成されていることを示している。
【0053】
作製したペリクルについて、波長193nmの光に対するペリクル膜の透過率は、99.7%であった。また、実施例と同様の方法で、NH
3ガス及びSO
2ガスに対するガス透過性を評価したところ、pH試験紙が変色し、NH
3ガス及びSO
2ガスがペリクル膜を透過していることが確認された。
【0054】
洗浄済みのフォトマスクに、作製したペリクルを装着して、ArFエキシマレーザー(193nm)による露光を行った。露光量が10kJ/cm
2に達した時点で、フォトマスクのパターン面に成長性異物(ヘイズ)が観察された。
【符号の説明】
【0055】
1 ペリクル膜
2 ポリマー膜
3 ガス不透過性層
4 ペリクルフレーム
5 接着剤
6 粘着剤
7 通気孔
8 除塵用フィルター
9 フォトマスク
10 パターン面