(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
チャンバと、前記チャンバ内でウェーハを載置するサセプタと、前記サセプタを下方から支持し、かつ前記サセプタの中心と同軸上に位置する主柱および前記主柱から前記サセプタの周縁部下方に放射状に延びる3本以上のアームを有するサセプタサポートシャフトと、前記サセプタの貫通孔および前記アームの貫通孔に挿通される3本以上のリフトピンと、を備えるエピタキシャル成長装置を用いたエピタキシャルウェーハの製造方法であって、
前記チャンバ内に搬入した前記ウェーハを前記リフトピンで支持した後に、引き続き前記サセプタサポートシャフトを上昇させることにより、前記ウェーハを前記サセプタに載置する第1工程と、
前記チャンバ内の温度を昇温させる第2工程と、
前記第1工程の後に、前記ウェーハのおもて面と裏面の温度を測定し、前記おもて面と前記裏面の温度差が10℃以下であるか否かを確認する第3工程と、
前記温度差が10℃以下になったとき、前記サセプタサポートシャフトを下降させることにより、前記リフトピンで前記ウェーハを再び支持した後に、引き続き前記サセプタサポートシャフトを上昇させることにより、前記ウェーハを前記サセプタに再び載置する第4工程と、
前記第4工程の後に、前記ウェーハ上にエピタキシャル層を成長させて、エピタキシャルウェーハを得る第5工程と、
を有することを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
前記第4工程の前に、前記おもて面の温度が1100℃以上1150℃以下となる温度範囲内で、前記ウェーハを10秒以上1分以下保持する水素ベークを行う、請求項1に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
前記第4工程の後であって、前記第5工程の前に、前記おもて面の温度が1100℃以上1150℃以下となる温度範囲内で、前記ウェーハを10秒以上1分以下保持する水素ベークを行う、請求項1に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
前記第3工程では、前記温度差が5℃以下であるか否かを確認し、前記温度差が5℃以下になったときに前記第4工程を行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
前記第4工程において、前記リフトピンで前記ウェーハを再び支持する時間が5秒未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、リフトピンのぐらつきを抑制することによって、載置位置のずれを低減しようとしているものの、以下に説明するウェーハの弾性変形に起因する載置位置のずれを考慮していない。すなわち、常温のウェーハを、600℃以上900℃以下に予め加熱したチャンバ内に搬入して、
図5(A)に示すように各リフトピン40で支持すると、ウェーハWは裏面に向けて凸状に弾性変形する。これは、ウェーハWの裏面の温度はサセプタ20からの輻射熱を受けて上昇する一方で、ウェーハWのおもて面の温度は裏面に比べて上昇しないので、ウェーハWのおもて面と裏面に温度差が生じるからである。そして、サセプタサポートシャフト30を上昇させることにより、弾性変形したウェーハWをサセプタ20に載置すると、
図5(B)に示すようにウェーハWの中心O
1とサセプタの中心O
2がずれてしまう。このような状態でエピタキシャル成長を行うと、エピタキシャル層の平坦性が低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、平坦性に優れたエピタキシャル層を有するエピタキシャルウェーハを製造することができるエピタキシャルウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、弾性変形したウェーハの形状が元の形状に復元するまで、ウェーハを各リフトピンで支持した状態で待機させ、その後、ウェーハをサセプタに載置することを試みた。ところが、この復元には長時間を要し、ウェーハの裏面には、各リフトピンとの長時間の接触によって、スリップ転位が発生することが判明した。そこで、さらなる検討を進めたところ、弾性変形したウェーハの形状をサセプタ上で元の形状に復元させた後に、ウェーハを各リフトピンで再び支持し、その後、ウェーハをサセプタに再び載置すると、スリップ転位の発生を防ぎつつ、載置位置のずれを低減することができ、その結果、平坦性に優れたエピタキシャル層を有するエピタキシャルウェーハを得ることができることを知見した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
(1)チャンバと、前記チャンバ内でウェーハを載置するサセプタと、前記サセプタを下方から支持し、かつ前記サセプタの中心と同軸上に位置する主柱および前記主柱から前記サセプタの周縁部下方に放射状に延びる3本以上のアームを有するサセプタサポートシャフトと、前記サセプタの貫通孔および前記アームの貫通孔に挿通される3本以上のリフトピンと、を備えるエピタキシャル成長装置を用いたエピタキシャルウェーハの製造方法であって、
前記チャンバ内に搬入した前記ウェーハを前記リフトピンで支持した後に、引き続き前記サセプタサポートシャフトを上昇させることにより、前記ウェーハを前記サセプタに載置する第1工程と、
前記チャンバ内の温度を昇温させる第2工程と、
前記第1工程の後に、前記ウェーハのおもて面と裏面の温度を測定し、前記おもて面と前記裏面の温度差が10℃以下であるか否かを確認する第3工程と、
前記温度差が10℃以下になったとき、前記サセプタサポートシャフトを下降させることにより、前記リフトピンで前記ウェーハを再び支持した後に、引き続き前記サセプタサポートシャフトを上昇させることにより、前記ウェーハを前記サセプタに再び載置する第4工程と、
前記第4工程の後に、前記ウェーハ上にエピタキシャル層を成長させて、エピタキシャルウェーハを得る第5工程と、
を有することを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【0011】
(2)前記第4工程の前に、前記おもて面の温度が1100℃以上1150℃以下となる温度範囲内で、前記ウェーハを10秒以上1分以下保持する水素ベークを行う、上記(1)に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【0012】
(3)前記第4工程の後であって、前記第5工程の前に、前記おもて面の温度が1100℃以上1150℃以下となる温度範囲内で、前記ウェーハを10秒以上1分以下保持する水素ベークを行う、上記(1)に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【0013】
(4)前記第3工程では、前記温度差が5℃以下であるか否かを確認し、前記温度差が5℃以下になったときに前記第4工程を行う、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【0014】
(5)前記第4工程において、前記リフトピンで前記ウェーハを再び支持する時間が5秒未満である、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【0015】
(6)前記サセプタは、そのおもて面に前記ウェーハが載置される座ぐり部が形成され、
該おもて面は、前記座ぐり部の周囲に位置するおもて面最外周部と、該おもて面最外周部の内側に位置し、前記座ぐり部の一部を構成する傾斜面であって、前記ウェーハの裏面周縁部を線接触で支持するウェーハ支持面と、該ウェーハ支持面の内側に位置し、前記座ぐり部の底面を構成するおもて面中心部と、を含み、
前記ウェーハ支持面と前記おもて面中心部とのなす角が0.5°以上2.5°以下である、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【0016】
(7)ウェーハ上にエピタキシャル層が形成されてなるエピタキシャルウェーハであって、
前記エピタキシャルウェーハの裏面には、その中心からウェーハ半径の50%以上90%未満の環状領域に、3つの円形欠陥からなる損傷領域が周方向に沿って同心円状に3箇所以上存在するエピタキシャルウェーハ。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法によれば、平坦性に優れたエピタキシャル層を有するエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(エピタキシャルウェーハの製造方法)
以下、
図1〜6を適宜参照して、本発明によるエピタキシャルウェーハの製造方法の一実施形態を説明する。
【0020】
[エピタキシャル成長装置]
図1を参照して、本発明の一実施形態において用いることができるエピタキシャル成長装置100を説明する。エピタキシャル成長装置100は、チャンバ10と、サセプタ20と、サセプタサポートシャフト30と、3本のリフトピン40と、昇降シャフト50と、を有する。
【0021】
〔チャンバ〕
チャンバ10は、上部ドーム11、下部ドーム12、及びドーム取付体13を含み、このチャンバ10がエピタキシャル層の形成室を区画する。チャンバ10には、その側面の対向する位置に反応ガスの供給および排出を行うガス供給口15およびガス排出口16が設けられている。
【0022】
〔サセプタ〕
サセプタ20は、チャンバ10内でウェーハWを載置する円盤状の部材である。ここで、サセプタ20の表面のうち、上部ドーム11側の面をサセプタのおもて面とし、その反対側の面をサセプタの裏面とする。
図2(A),(B)も参照して、サセプタ20のおもて面には、ウェーハWが載置される座ぐり部22が形成されている。サセプタ20のおもて面は、おもて面最外周部23と、第1の縦壁面24と、ウェーハ支持面25と、第2の縦壁面26と、おもて面中心部27と、を含む。おもて面最外周部23は座ぐり部22の周囲に位置する。第1の縦壁面24は、おもて面最外周部23の内周端から連続し、座ぐり部22の一部を構成する壁面である。ウェーハ支持面25は、第1の縦壁面24から連続し、座ぐり部22の一部を構成する傾斜面であって、ウェーハWの裏面周縁部を線接触で支持する。第2の縦壁面26は、ウェーハ支持面25の内周端から連続し、座ぐり部22の一部を構成する壁面である。おもて面中心部27は、第2の縦壁面26から連続し、座ぐり部22の底面を構成する。ウェーハ支持面25の内径の半径は、サセプタ20の半径75%以上、ウェーハ半径の90%以上で、かつウェーハ半径よりも小さい。ただし、ウェーハ支持面25の幅を1〜10mmとなるようにウェーハ支持面25の外径と内径を調整する。ウェーハ支持面25の外径の半径は、サセプタ20の半径75%以上で、かつウェーハ半径より大きい。なお、本明細書において「ウェーハの周縁部」とは、ウェーハの外周端からその中心に向かって2mmの環状の領域を意味する。また、サセプタ20は、そのおもて面から裏面に向けてサセプタを貫通する3つの貫通孔21を周方向に120°の等間隔で有する。各貫通孔21には、後述するリフトピン40がそれぞれ挿通される。サセプタの各貫通孔21は、サセプタの中心O
2からサセプタ半径の40%以上80%未満の領域に同心円状に位置する。サセプタ20には、カーボングラファイト(黒鉛)を母材とし、その表面を炭化ケイ素(SiC:ビッカース硬度2,346kgf/mm
2)でコーティングしたものを使用することができる。
【0023】
〔サセプタサポートシャフト〕
図3(A)も参照して、サセプタサポートシャフト30は、チャンバ10内でサセプタ20を下方から支持するものであり、主柱31と、3本のアーム32と、3本の支持ピン33と、を有する。主柱31は、サセプタの中心O
2と同軸上に配置される。3本のアーム32は、主柱31からサセプタ20の周縁部下方に放射状に延びる。各アーム32は、その延在方向に垂直な断面の形状が矩形である。ここで、アーム32の4つの面のうち、サセプタ20側の面をアームの上面とし、その反対側の面をアームの下面とする。各アーム32は、その上面から下面に向けてアームを貫通する貫通孔34を有する。これら貫通孔34には、リフトピン40がそれぞれ挿通される。なお、本明細書において「サセプタの周縁部」とは、サセプタの中心O
2からサセプタ半径の80%以上外側の領域を意味する。各支持ピン33は、各アーム32の先端においてサセプタ20を直接支持する。サセプタサポートシャフト30は、鉛直方向に沿って上下動することにより、サセプタ20を上下方向に昇降させる。サセプタサポートシャフト30は、石英(ビッカース硬度1,103kgf/mm
2)で構成することが好ましく、特に合成石英で構成することが好ましい。ただし、各支持ピン33の先端部分は、サセプタ20と同じ炭化ケイ素で構成することが好ましい。なお、エピタキシャル成長装置100におけるアーム32の数は3本であるが、これに限定されない。
【0024】
〔リフトピン〕
各リフトピン40は、サセプタの各貫通孔21とアームの各貫通孔34にそれぞれ挿通される。各リフトピン40は、昇降シャフト50によって上下方向に昇降される。各リフトピン40には、カーボングラファイト基材に炭化ケイ素を被覆してなるものや、石英が用いられる。なお、エピタキシャル成長装置100におけるリフトピン40の数は3本であるが、これに限定されない。
【0025】
〔昇降シャフト〕
図3(B)も参照して、昇降シャフト50は、サセプタサポートシャフト30の主柱31を収容する中空を区画し、この主柱31と回転軸を共にする昇降シャフトの主柱51と、この昇降シャフトの主柱51の先端で分岐する3本の支柱52と、を有し、これら支柱52の先端で各リフトピン40の下端をそれぞれ支持する。昇降シャフト50は、ウェーハWの搬入および搬出の際に、鉛直方向に沿って上下動することにより、各リフトピン40を上下方向に昇降させる。昇降シャフト50には、石英を用いることが好ましい。
【0026】
〔加熱ランプ〕
加熱ランプ14は、チャンバ10の上側領域および下側領域に配置される。加熱ランプ14には、昇降温速度が速く、かつ温度制御に優れるハロゲンランプや赤外ランプを用いることが好ましい。
【0027】
〔上側パイロメータ及び下側パイロメータ〕
チャンバ10の上側領域および下側領域には、それぞれ上側パイロメータ17および下側パイロメータ18が配置されている。上側パイロメータ17は、ウェーハWのおもて面の温度を検出する。一方で、下側パイロメータ18は、サセプタ20の裏面の温度を検出する。なお、下側パイロメータ18によって検出されるサセプタ20の裏面の温度は、ウェーハWの裏面の温度とみなすことができる。また、上側パイロメータ17および下側パイロメータ18によって検出された温度に基づいて、電力出力制御手段(不図示)により加熱ランプ14の出力が調整される。
【0028】
以下では、
図4を参照して、上述したエピタキシャル成長装置100を用いて行うことができるエピタキシャルウェーハの製造方法の一例を説明する。
【0029】
[第1工程]
チャンバ10内にウェーハWを搬入する前、サセプタサポートシャフト30と昇降シャフト50は完全に降ろされた状態にあり、各リフトピン40はサセプタ20から突出している。そして、加熱ランプ14によって600℃以上900℃以下に予め加熱したチャンバ10内に、搬送ブレード(不図示)を用いてウェーハWを搬入する(ステップS1)。その後、サセプタ20と各リフトピン40の相対位置を変えないように、サセプタサポートシャフト30と昇降シャフト50を上昇させることで、サセプタ20と各リフトピン40を上方向に移動させて、
図5(A)に示すように各リフトピン40でウェーハWを支持する(ステップS2)。ウェーハの裏面にスリップ転位が発生するのを防ぐ観点から、各リフトピン40でウェーハWを支持する時間は10秒以上60秒以下とすることが好ましい。引き続き、サセプタサポートシャフト30を上昇させることで、サセプタ20をさらに上方向に移動させて、
図5(B)に示すようにウェーハWをサセプタ20に載置する(ステップS3)。ここで、搬入時のウェーハWの温度は常温(通常、30℃〜90℃)であり、常温のウェーハWを加熱したチャンバ内に搬入すると、ウェーハWの裏面の温度はサセプタ20からの輻射熱を受けて上昇するが、ウェーハWのおもて面の温度は裏面に比べて上昇しない。そのため、ウェーハWのおもて面と裏面に温度差が生じ、温度差が10℃超えであるとウェーハの表裏面で面内不均一に温度差が発生し、ウェーハWはおもて面に向けて凸状に弾性変形したり、裏面に向けて凸状に弾性変形したりする。そして、面内温度が均一になると、
図5(B)に示すようにウェーハWは、その自重によって裏面に向けて凸状に弾性変形する。
【0030】
[第2工程]
次に、加熱ランプ14によってチャンバ10内の温度を1000℃以上1200℃以下に昇温させる(ステップS4)。この昇温の過程で、サセプタ20の輻射熱がウェーハWの裏面からおもて面に伝わるとともに、チャンバ10の上側領域に配置された加熱ランプ14によってウェーハWのおもて面の温度が上昇する。したがって、ウェーハWのおもて面と裏面の温度差が減少していき、弾性変形したウェーハの形状は元の形状に復元していく。
【0031】
[第3工程]
次に、上側パイロメータ17と下側パイロメータ18を用いて既述の方法により、ウェーハWのおもて面と裏面の温度を測定し(ステップS5)、測定したおもて面と裏面の温度差が10℃以下であるか否かを確認する(ステップS6)。ここで、本実施形態における「おもて面と裏面の温度差」とは、上側パイロメータ17によって測定した温度と下側パイロメータ18によって測定した温度の差の絶対値を意味する。
【0032】
[第4工程]
次に、第3工程で測定した、ウェーハWのおもて面と裏面の温度差が10℃以下になっていれば、サセプタサポートシャフト30を下降させることで、サセプタ20を下方向に移動させて、
図6(A)に示すように各リフトピン40でウェーハWを再び支持する(ステップS7)。引き続き、サセプタサポートシャフト30を上昇させることで、サセプタ20を上方向に移動させて、
図6(B)に示すようにサセプタ20にウェーハWを再び載置する(ステップS8)。このとき、ウェーハWのおもて面の高さ位置がガス供給口15およびガス排出口16の高さ位置と一致するようにすることが好ましい。なお、ウェーハWのおもて面と裏面の温度差が10℃以下になっていないときは、ステップS4に戻り、加熱ランプ14の出力を上げることにより、当該温度差が10℃以下になるようにチャンバ10内の温度を昇温させるとよい。
【0033】
以下では、第4工程を採用する技術的意義を説明する。常温のウェーハWを、予め加熱したチャンバ10内に搬入して、各リフトピン40で支持すると、
図5(A)に示すようにウェーハWは弾性変形する。そして、弾性変形したウェーハWをサセプタ20に載置すると、
図5(B)に示すようにウェーハの中心O
1とサセプタの中心O
2がずれてしまう。これは、ウェーハWをサセプタ20に載置する際に、おもて面と裏面の温度差に起因する弾性変形に伴ってウェーハに蓄積された弾性変形エネルギーが運動エネルギーとなり、ウェーハの中心O
1がサセプタの中心O
2からずれる方向にウェーハWが移動するからである。そして、このような状態でエピタキシャル成長を行うと、ウェーハWの周縁部で温度が不均一になったり、ソースガスの乱流が生じたりするので、良好な平坦性を有するエピタキシャル層が得られない。ところが、ウェーハの中心O
1がサセプタの中心O
2と一致するようにウェーハWの弾性変形そのものを制御することは、ウェーハの抵抗率によってウェーハの熱吸収率も異なり、弾性変形も様々なので、非常に困難である。そこで、本実施形態では、ウェーハWのおもて面と裏面の温度差が10℃以下となった後に、
図6(A),(B)に示すウェーハWの再載置(ステップS7〜S8)を行う。10℃以下であれば、弾性変形したウェーハWの形状が元の形状に回復したとみなすことができる。これにより、弾性変形エネルギーに起因する運動エネルギーが抑制された状態で、サセプタ20にウェーハWを再び載置することができる。すなわち、
図6(B)に示すようにサセプタ中心O
2に向かって下向きに傾斜するウェーハ支持面25を有するサセプタ20上に、ウェーハWに対する運動エネルギーの影響が抑制された状態で、ウェーハWを再び載置するので、ウェーハWの中心O
1は重力によって自ずとサセプタの中心O
2に一致する(以下、この現象を「自己アライメント機能」とも称する)。その結果、後述するエピタキシャル成長(ステップS9)を経ると、平坦性に優れたエピタキシャル層を有するエピタキシャルウェーハを得ることができる。なお、ウェーハWの再載置(ステップS7〜S8)では、サセプタ20とウェーハWを回転させないことが好ましい。
【0034】
平坦性をより高める観点から、ウェーハWのおもて面と裏面の温度差が5℃以下となったときに、ウェーハWの再載置(ステップS7〜S8)を行うことが好ましい。また、ウェーハWの再載置(ステップS7〜S8)を行う際のチャンバ10内の温度変化は、5℃以下に抑制することが好ましい。
【0035】
また、ステップS7において、各リフトピン40がウェーハWを再び支持する際のウェーハWの高さは、ウェーハWがサセプタ20からわずかに離間する程度に設定することが自己アライメント機能を安定的に得る観点から好ましい。具体的にはウェーハWの裏面と座ぐり部22の底面(おもて面中心部27の表面)との距離が5mm以下になるように設定することが好ましい。
【0036】
また、ステップS7では、各リフトピン40でウェーハWを再び支持する時間を5秒未満とすることが好ましい。5秒未満であれば、ウェーハWの裏面のうち各リフトピン40と接触する領域に温度変化が生じるのを防ぐことができるので、ウェーハWの裏面にスリップ転位が発生するおそれがないからである。
【0037】
また、ウェーハWの自己アライメント機能を向上させる観点から、
図2(B)に示すウェーハ支持面25とおもて面中心部27とのなす角θを0.5°以上とすることが好ましい。また、設計上の観点から上記θは2.5°以下とすることが好ましい。
【0038】
[第5工程]
次に、トリクロロシランやジクロロシランなどのソースガスをガス供給口15からチャンバ10内に供給する。すると、1000℃以上1200℃以下に昇温されたウェーハWのおもて面を沿うようにソースガスが層流状態で流れ、ウェーハW上でエピタキシャル層が成長し、エピタキシャルウェーハが得られる(ステップS9)。なお、エピタキシャル成長中は、主柱31を回転軸としてサセプタサポートシャフト30を回転させることで、サセプタ20とウェーハWを回転させる。
【0039】
[ウェーハの搬出]
次に、チャンバ10内の温度を1000℃以上1200℃以下から600℃以上900℃以下に降温させた後に、サセプタサポートシャフト30を下降させることで、サセプタ20を下方向に移動させて、エピタキシャルウェーハを各リフトピン40で支持する。その後、サセプタ20と各リフトピン40の相対位置を変えないように、サセプタサポートシャフト30と昇降シャフト50を下降させることで、サセプタ20と各リフトピン40を下方向に移動させた後に、搬送ブレード(不図示)を用いて、エピタキシャルウェーハをチャンバ10外へ搬出する(ステップS10)。
【0040】
以上、本実施形態を例にして、本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲内において適宜変更を加えることができる。
【0041】
例えば、通常、ウェーハWの表面には自然酸化膜が形成されており、エピタキシャル成長(ステップS9)を行う前に、この自然酸化膜を除去しておくことが好ましい。そこで、ウェーハWのおもて面の温度が1100℃以上1150℃以下となる温度範囲で、ウェーハWを10秒以上1分以下保持する水素ベークを行うことによって、この自然酸化膜を除去する。なお、水素ベーク中は、主柱31を回転軸としてサセプタサポートシャフト30を回転させることで、サセプタ20とウェーハWを回転させる。以下では、水素ベークを行うタイミングの好適条件を説明する。
【0042】
例えば、抵抗率が0.1Ω・cm以上のp
-ウェーハでは、p
+ウェーハに比べて赤外光がウェーハWを透過しやすいので、加熱ランプ14による輻射熱のみでは、ウェーハWは赤外光を十分に吸収しきれず、ウェーハWの表裏面の温度差の解消に時間がかかることがある。すなわち、p
-ウェーハでは、ウェーハWの表面の温度が1100〜1150℃に達しても、ウェーハWの表裏面の温度差が10℃以内に収まらないことがある。そのため、第4工程(ステップS7〜S8)の前に水素ベークを行い、酸化膜を除去しつつ、ウェーハWの表裏面の温度差を小さくすることが好ましい。そして、サセプタ20からの輻射熱によりウェーハWの裏面の温度が上昇して、ウェーハの表裏面の温度差が10℃以内、より好ましくは5℃以内になったときに、第4工程を行うことが好ましい。
【0043】
一方で、抵抗率が0.1Ω・cm未満のp
+ウェーハでは、熱伝導率が高いので、ウェーハWの表裏面の温度差の解消がp
-ウェーハに比べて速く、ウェーハWのおもて面の温度が1100〜1150℃の範囲に到達する前に、ウェーハWの表裏面の温度差が10℃以内、より好ましくは5℃以内に収まることがある。この場合は、第4工程(ステップS7〜S8)の後であって、第5工程(ステップS9)の前に、水素ベークを行うことが好ましい。このように、水素ベークに先立って再載置(ステップS7〜S8)を行うのは、サセプタ20からの輻射熱でウェーハWの裏面が過剰に加熱されると、ウェーハWは裏面に向けて凸状に変形するが、その際にウェーハWの中心位置がずれていると、ウェーハWの裏面と座ぐり部22の底面とが接触して、ウェーハWの裏面に傷やスリップ転位が発生することがあるからである。なお、本明細書では、第5工程(エピタキシャル成長)の開始時点をチャンバ10内にソースガスを供給した時とする。
【0044】
(エピタキシャルウェーハ)
以下では、上述したエピタキシャルウェーハの製造方法によって得られる、ウェーハ上にエピタキシャル層が形成されてなるエピタキシャルウェーハについて説明する。当該エピタキシャルウェーハの裏面には、その中心からウェーハ半径の50%以上90%未満の環状領域に、3つの円形欠陥からなる損傷領域が周方向に沿って同心円状に3箇所存在する。これらの3つの円形欠陥は、各リフトピン40とウェーハWの裏面との接触によって生じた摩耗跡(いわゆるピンマーク)であり、チャンバ10内に搬入したウェーハWを各リフトピン40で支持する時(ステップS2)と、ウェーハWの再載置において、各リフトピン40でウェーハを再び支持する時(ステップS7)と、チャンバ外へウェーハを搬出するにあたり、各リフトピンでウェーハを支持する時(ステップS10)と、の3回に付いたものである。なお、損傷領域の数はリフトピン40の数と一致する。
【0045】
以上、本実施形態を例にして、本発明のエピタキシャルウェーハを説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲内において適宜変更を加えることができる。
【実施例】
【0046】
(発明例1)
図2(A),(B)に示すサセプタと、
図3(A)に示すサセプタサポートシャフトと、
図3(B)に示す昇降リフトと、を有する
図1に示すエピタキシャル成長装置を用いて、以下の手順に従ってエピタキシャルウェーハを25枚作製した。エピタキシャル層を成長させるウェーハとしては、直径:300mm、抵抗率:10Ω・cmのシリコンウェーハを用いた。また、
図2(B)を参照して、ウェーハ支持面とおもて面中心部とのなす角θを0.6°とした。
【0047】
図4、
図5(A),(B)も参照して、搬送ブレードを用いて、常温のシリコンウェーハを700℃に予め加熱したチャンバ内に搬入し(ステップS1)、サセプタサポートシャフトと昇降シャフトを上昇させることで、
図5(A)に示すようにシリコンウェーハを各リフトピンで30秒間支持した(ステップS2)。引き続き、サセプタサポートシャフトを上昇させることで、
図5(B)に示すようにサセプタにシリコンウェーハを載置した(ステップS3)。この時、
図7に示すように、ウェーハの裏面の温度は900℃に上昇したが、おもて面の温度は裏面に比べて上昇せず700℃であった。また、
図5(B)に示すようにシリコンウェーハの中心O
1とサセプタの中心O
2がずれていた。
【0048】
次に、チャンバ内の温度を加熱ランプにより昇温させることにより、シリコンウェーハのおもて面の温度を1100℃に昇温させた(ステップS4)。ここで、ウェーハの昇温は50秒で行った。その後、シリコンウェーハの裏面の温度が1100℃を超えたところで、1分保持する水素ベークを行って、シリコンウェーハの表面に形成された自然酸化膜を除去した。
【0049】
次に、ウェーハのおもて面と裏面の温度を既述の方法で測定し(ステップS5)、その差が5℃以下であるか否かを確認したところ(ステップS6)、2℃であったので、サセプタサポートシャフトを下降させることで、
図6(A)に示すようにシリコンウェーハを各リフトピンで3秒間再び支持した(ステップS7)。ここで、ウェーハWの裏面と座ぐり部22の底面(おもて面中心部27の表面)との距離は2mmに設定した。その後、サセプタサポートシャフトを上昇させることで、
図6(B)に示すようにサセプタにシリコンウェーハを再び載置した(ステップS8)。この時、
図6(B)に示すようにシリコンウェーハの中心O
1とサセプタの中心O
2が一致していた。なお、再載置を行っている間、加熱ランプのモードを定格出力モード(コンスタントパワー)に設定することによって、
図7に示すようにシリコンウェーハのおもて面と裏面の温度を1100℃に保った。
【0050】
次に、
図7に示すようにシリコンウェーハのおもて面と裏面の温度を1100℃に保って、トリクロロシランのソースガスをガス供給口からチャンバ内に供給し、シリコンウェーハ上に厚さ4μmのシリコンエピタキシャル層を成長させて、エピタキシャルシリコンウェーハを得た(ステップS9)。その後、既述の方法により、エピタキシャルシリコンウェーハをチャンバ外へ搬出した(ステップS10)。
【0051】
(発明例2)
発明例1と同様のエピタキシャル成長装置を用いて、以下の手順に従ってエピタキシャルウェーハを25枚作製した。エピタキシャル層を成長させるウェーハとしては、直径:300mm、抵抗率:0.02Ω・cmのシリコンウェーハを用いた。
【0052】
発明例1と同様に、ステップS1〜S3を行った。
【0053】
次に、チャンバ内の温度を加熱ランプにより昇温させることにより、シリコンウェーハの表裏面の温度を昇温させた(ステップS4)。ここで、60秒昇温した時に、ウェーハのおもて面と裏面の温度を既述の方法で測定し(ステップS5)、その差が5℃以下であるか否かを確認した(ステップS6)。すると、温度差が3℃であったので、サセプタサポートシャフトを下降させることで、
図6(A)に示すようにシリコンウェーハを各リフトピンで2秒間再び支持した(ステップS7)。ここで、ウェーハWの裏面と座ぐり部22の底面(おもて面中心部27の表面)との距離は2mmに設定した。その後、サセプタサポートシャフトを上昇させることで、
図6(B)に示すようにサセプタにシリコンウェーハを再び載置した(ステップS8)。この時、
図6(B)に示すようにシリコンウェーハの中心O
1とサセプタの中心O
2が一致していた。なお、再載置を行っている間、加熱ランプのモードを定格出力モード(コンスタントパワー)に設定することによって、シリコンウェーハのおもて面と裏面の温度を1100℃に保った。
【0054】
次に、シリコンウェーハの裏面の温度が1100℃を超えたところで、1分保持する水素ベークを行って、シリコンウェーハの表面に形成された自然酸化膜を除去した。
【0055】
次に、発明例1と同様の方法でステップS9及びステップS10を行った。
【0056】
(比較例1)
比較例1では、
図4に示すステップS5〜S8を行わなかった以外は、発明例1と同様の方法によって、エピタキシャルシリコンウェーハを25枚作製した。
【0057】
(比較例2)
比較例2では、
図4に示すステップS2にて、シリコンウェーハを各リフトピンで90秒支持することにより、弾性変形したシリコンウェーハの形状を元の形状に回復させた。ステップS3以降の工程は、比較例1と同様の方法によって、エピタキシャルシリコンウェーハを25枚作製した。
【0058】
(比較例3)
発明例1と同様のエピタキシャル成長装置を用いて、以下の手順に従ってエピタキシャルウェーハを25枚作製した。エピタキシャル層を成長させるウェーハとしては、直径:300mm、抵抗率:10Ω・cmのシリコンウェーハを用いた。
【0059】
発明例1と同様に、ステップS1〜S3を行った。
【0060】
次に、チャンバ内の温度を加熱ランプにより昇温させることにより、シリコンウェーハのおもて面の温度を700℃に昇温させた。ここで、ウェーハの昇温は20秒で行った。その後、サセプタサポートシャフトを下降させることで、シリコンウェーハを各リフトピンで再び支持して、その状態で1分間の水素ベークを行って、シリコンウェーハの表面に形成された自然酸化膜を除去した。その後、サセプタサポートシャフトを上昇させることで、サセプタにシリコンウェーハを再び載置した。なお、水素ベーク中のウェーハの表裏面の温度差を既述の方法で測定すると14℃であった。
【0061】
次に、発明例1と同様の方法でステップS9及びステップS10を行った。
【0062】
(評価方法)
各発明例および比較例について、平坦性、スリップ転位、及びスループットを以下の方法によって評価した。
【0063】
<平坦性の評価>
各発明例および比較例で作製したエピタキシャルシリコンウェーハに対して、おもて面のESFQR range(Edge Site Front least sQuaresRange)とESFQR maxをWafer Sight2(KLA-Tencor社製)を用いて公知の方法で測定することによって、シリコンエピタキシャル層の平坦性を評価した。表1に、ESFQR rangeとESFQR maxの平均値をそれぞれ示す。なお、エッジ除外領域を2mmとして、ウェーハ全周を5度間隔で72分割し、セクター長を15mmとしたセクター内の領域を当該測定に供した。また、「ESFQR range」とは、1枚のウェーハにおける72セクターのうちの最大値と最小値の差であり、表1の「ESFQR rangeの平均値」はその差の25枚分の平均値である。また、「ESFQR max」とは、1枚のウェーハにおける72セクターのうちの最大値であり、表1の「ESFQR maxの平均値」は25枚分の平均値である。
【0064】
<スリップ転位の評価>
各発明例および比較例で作製したエピタキシャルシリコンウェーハに対して、SP2(DCNモード)(KLA-Tencor社製)を用いて、裏面のスリップラインの合計長さを測定することによって、スリップ転位を評価した。表1に25枚分の平均値を示す。
【0065】
<スループットの評価>
各発明例および比較例に対して、チャンバ内にシリコンウェーハを搬入してから、チャンバ外にエピタキシャルシリコンウェーハを搬出するまでに要した時間を測定し、25回分の平均時間を算出した。比較例1の平均時間を1.00としたときの相対値を表1に示す。
【0066】
<損傷領域の評価>
発明例1,2および比較例1で作製したエピタキシャルシリコンウェーハについて、表面検査装置(KLA-Tencor社製:Surfscan SP-2)を用いて、DCOモード(Dark Field Composite Obliqueモード)で、ウェーハの裏面を観察し、直径が1μm以上のLPD(Light Point Defect)の個数を調べた。この測定結果によって、損傷領域における円形欠陥の発生状況を評価することができる。
【0067】
【表1】
【0068】
(評価結果の説明)
表1に示すように、発明例1,2は、比較例1に比べて、ESFQR maxおよびrangeの平均値がともに小さくなっており、平坦性に優れたエピタキシャル層を有するエピタキシャルウェーハが得られた。これは、ウェーハの再載置を行うことによって、ウェーハの中心がサセプタの中心と一致した状態でエピタキシャル成長を行うことができたことに起因する。また、発明例1,2は、比較例1に比べて、ウェーハを再載置する工程が増えたものの、スループットは比較例1と同程度であった。
【0069】
また、比較例2では、各リフトピンでウェーハを長時間支持することによって、弾性変形したウェーハの形状を元の形状に回復させた後に、ウェーハをサセプタに載置したが、ESFQR maxおよびrangeの平均値は、いずれも発明例1,2に比べて劣っていた。また、比較例2では、各リフトピンでウェーハを長時間支持したため、スリップ転位が発生しており、スループットも悪化していた。
【0070】
また、比較例3では、再載置と水素ベークを同時に行い、その時のウェーハの表裏面の温度差が10℃を超えていたことに起因して、再載置の平坦度に対する効果が得られなかった。
【0071】
さらに、発明例1,2では、ステップS2、S7、S10に起因して、ウェーハの中心からウェーハ半径の70%以上80%以下の環状領域に、3つの円形欠陥からなる損傷領域が周方向に沿って同心円状に3箇所存在していた。一方で、ステップS7を行わなかった比較例1では、2つの円形欠陥からなる損傷領域が周方向に沿って同心円状に3箇所存在していた。