特許第6844560号(P6844560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6844560シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶の引き上げ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844560
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶の引き上げ装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
   C30B29/06 502G
   C30B29/06 502Z
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-35833(P2018-35833)
(22)【出願日】2018年2月28日
(65)【公開番号】特開2019-151502(P2019-151502A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2020年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 英城
(72)【発明者】
【氏名】杉村 渉
(72)【発明者】
【氏名】横山 竜介
(72)【発明者】
【氏名】松島 直輝
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−315292(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0040042(KR,A)
【文献】 特開2000−272992(JP,A)
【文献】 特開2016−098147(JP,A)
【文献】 特開2007−084417(JP,A)
【文献】 特開2010−132498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶の製造に用いるシリコン融液の対流パターン制御方法であって、
無磁場状態において加熱部を用いて石英ルツボ内のシリコン融液を加熱する工程と、
回転している石英ルツボ内のシリコン融液に対して水平磁場を印加する工程とを備え、
前記シリコン融液を加熱する工程は、前記石英ルツボを鉛直上方から見たときに、前記石英ルツボの中心軸を通りかつ前記水平磁場の中心の磁力線と平行な仮想線を挟んだ両側の加熱能力が異なる加熱部を用いて加熱し、
前記水平磁場を印加する工程は、0.2テスラ以上の前記水平磁場を印加することで、前記シリコン融液内の前記水平磁場の印加方向に直交する平面における対流の方向を一方向に固定することを特徴とするシリコン融液の対流パターン制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン融液の対流パターン制御方法において、
前記加熱部の加熱能力は、前記シリコン融液の表面の中心を原点、鉛直上方をZ軸の正方向、前記水平磁場の印加方向をY軸の正方向とした右手系のXYZ直交座標系において、前記Z軸の正方向側から見たときに、前記仮想線に対してX軸の正方向側の方が負方向側よりも低い第1の状態、または、前記X軸の正方向側の方が負方向側よりも高い第2の状態に設定され、
前記水平磁場を印加する工程は、前記加熱能力が第1の状態の場合、前記Y軸の負方向側から見たときの前記対流の方向を右回りに固定し、前記第2の状態の場合、前記対流の方向を左回りに固定することを特徴とするシリコン融液の対流パターン制御方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシリコン融液の対流パターン制御方法において、
前記シリコン融液を加熱する工程は、前記シリコン融液の表面における最高温度と最低温度との差が6℃以上となるように前記シリコン融液を加熱することを特徴とするシリコン融液の対流パターン制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載のシリコン融液の対流パターン制御方法において、
前記シリコン融液を加熱する工程は、前記最高温度と前記最低温度との差が12℃以下となるように前記シリコン融液を加熱することを特徴とするシリコン融液の対流パターン制御方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコン融液の対流パターン制御方法を実施する工程と、
前記水平磁場の強度を0.2テスラ以上に維持したまま、シリコン単結晶を引き上げる工程とを備えていることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
石英ルツボと、
前記石英ルツボ内のシリコン融液を加熱する加熱部と、
前記石英ルツボを挟んで配置され、前記シリコン融液に対して0.2テスラ以上の水平磁場を印加する磁場印加部とを備え、
前記加熱部の加熱能力は、前記石英ルツボを鉛直上方から見たときに、前記石英ルツボの中心軸を通りかつ前記水平磁場の中心の磁力線と平行な仮想線を挟んだ両側で異なることを特徴とするシリコン単結晶の引き上げ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のシリコン単結晶の引き上げ装置において、
前記加熱部は、前記石英ルツボを囲むヒーターを備え、
前記ヒーターの抵抗値は、前記両側にそれぞれ位置する領域で異なることを特徴とするシリコン単結晶の引き上げ装置。
【請求項8】
請求項6に記載のシリコン単結晶の引き上げ装置において、
前記加熱部は、前記石英ルツボを囲むヒーターと、前記ヒーターに電圧を印加する電圧印加部とを備え、
前記ヒーターは、前記仮想線に対して一方側に位置する第1の分割ヒーターと、他方側に位置する第2の分割ヒーターとを備え、
前記電圧印加部は、前記第1の分割ヒーターと前記第2の分割ヒーターとのパワーが異なるように電圧を印加することを特徴とするシリコン単結晶の引き上げ装置。
【請求項9】
請求項6に記載のシリコン単結晶の引き上げ装置において、
前記加熱部は、前記石英ルツボを囲むヒーターと、前記ヒーターを囲む断熱材とを備え、
前記断熱材の断熱能力は、前記両側にそれぞれ位置する領域で異なることを特徴とするシリコン単結晶の引き上げ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶の引き上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造にはチョクラルスキー法(以下、CZ法という)と呼ばれる方法が使われる。このようなCZ法を用いた製造方法において、シリコン単結晶の品質を高めるための様々な検討が行われている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1には、シリコン融液の温度をシリコン単結晶の半径方向に均一になるように制御しながら、シリコン単結晶を引き上げることで、点欠陥を抑制できることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、シリコン単結晶の引き上げ時に、シリコン単結晶の回転軸とルツボの回転軸とを一致させないことで、つまり、シリコン融液中の凝固フロントの領域内で、回転対称とは相違する温度分布を生じさせることで、シリコン単結晶半径方向の不純物濃度またはドーパント濃度の変化率を減少できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−143582号公報
【特許文献2】特開2004−196655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリコン単結晶では、前述した品質の他、酸素濃度が所定範囲に入っていることも求められるが、特許文献1,2のような方法を用いても、シリコン単結晶ごとの酸素濃度がばらつく場合があった。
【0007】
本発明の目的は、シリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきを抑制できるシリコン融液の対流パターン制御方法、シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶の引き上げ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシリコン融液の対流パターン制御方法は、シリコン単結晶の製造に用いるシリコン融液の対流パターン制御方法であって、無磁場状態において加熱部を用いて石英ルツボ内のシリコン融液を加熱する工程と、回転している石英ルツボ内のシリコン融液に対して水平磁場を印加する工程とを備え、前記シリコン融液を加熱する工程は、前記石英ルツボを鉛直上方から見たときに、前記石英ルツボの中心軸を通りかつ前記水平磁場の中心の磁力線と平行な仮想線を挟んだ両側の加熱能力が異なる加熱部を用いて加熱し、前記水平磁場を印加する工程は、0.2テスラ以上の前記水平磁場を印加することで、前記シリコン融液内の前記水平磁場の印加方向に直交する平面における対流の方向を一方向に固定することを特徴とする。
【0009】
水平磁場を印加していない状態において、回転している石英ルツボ内のシリコン融液には、当該シリコン融液の外側部分から上昇し中央部分で下降する下降流が生じている。シリコン融液を生成するに際し、シリコン融液の表面の中心を原点、鉛直上方をZ軸の正方向、水平磁場の印加方向をY軸の正方向とした右手系のXYZ直交座標系において、Z軸の正方向側から見たときに、Y軸と重なる前述の仮想線に対して、X軸の正方向側の加熱温度が負方向側よりも低い場合、X軸の負方向側の上昇流が正方向側の上昇流よりも大きくなり、下降流は、加熱温度が低い側、つまりX軸の正方向側に発生する。この状態で0.2テスラ以上の水平磁場が、石英ルツボの中心軸を通るようにシリコン融液に印加されると、X軸の正方向側の上昇流が消え去り、負方向側の上昇流のみが残る。その結果、Y軸の負方向側から見たときのシリコン融液内の水平磁場の印加方向に直交する平面(以下、「磁場直交断面」という)において、シリコン融液内における印加方向のいずれの位置においても、右回りの対流が発生する。
一方、X軸の正方向側の加熱温度が負方向側よりも高い場合、左回りの対流が発生する。
【0010】
石英ルツボから溶出した酸素は、シリコン融液の対流によって成長中の固液界面に運搬され、シリコン単結晶に取り込まれる。
シリコン単結晶の引き上げ装置は、対称構造で設計されるものの、厳密に見た場合、構成部材が対称構造になっていないため、チャンバ内の熱環境や不活性ガスなどの気体の流れも非対称となる場合がある。対象構造の場合、熱環境や気体流れも対称となるため、成長プロセスが同一であれば、シリコン融液の対流の方向に関係なくシリコン単結晶に取り込まれる酸素量は等しくなる。しかし、非対称構造の場合、熱環境や気体流れが非対称となるため、対流が右回りの場合と左回りの場合とでシリコン単結晶に運搬される酸素量が異なってしまう。その結果、対流が右回りの場合と左回りの場合とで、酸素濃度が異なるシリコン単結晶が製造される。
【0011】
本発明によれば、前述した仮想線を挟んだ両側の加熱能力が異なる加熱部を用いることで、引き上げ装置の構造の対称性に関係なく、加熱能力が低い側のシリコン融液の温度を加熱能力が高い側よりも低くすることができ、下降流の位置を加熱能力が低い側に固定しやすくなる。この状態で、0.2テスラ以上の水平磁場を印加することによって、対流の方向を一方向に固定しやすくでき、シリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
【0012】
本発明のシリコン融液の対流パターン制御方法において、前記加熱部の加熱能力は、前記シリコン融液の表面の中心を原点、鉛直上方をZ軸の正方向、前記水平磁場の印加方向をY軸の正方向とした右手系のXYZ直交座標系において、前記Z軸の正方向側から見たときに、前記仮想線に対してX軸の正方向側の方が負方向側よりも低い第1の状態、または、前記X軸の正方向側の方が負方向側よりも高い第2の状態に設定され、前記水平磁場を印加する工程は、前記加熱能力が第1の状態の場合、前記Y軸の負方向側から見たときの前記対流の方向を右回りに固定し、前記第2の状態の場合、前記対流の方向を左回りに固定することが好ましい。
【0013】
本発明のシリコン融液の対流パターン制御方法において、前記シリコン融液を加熱する工程は、前記シリコン融液の表面における最高温度と最低温度との差が6℃以上となるように前記シリコン融液を加熱することが好ましい。
本発明によれば、対流の方向を確実に一方向に固定できる。
【0014】
本発明のシリコン融液の対流パターン制御方法において、前記シリコン融液を加熱する工程は、前記最高温度と前記最低温度との差が12℃以下となるように前記シリコン融液を加熱することが好ましい。
本発明によれば、対流が大きくなりすぎること抑制でき、シリコン単結晶における引き上げ方向の直径のばらつきを抑制できる。
【0015】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、前述したシリコン融液の対流パターン制御方法を実施する工程と、前記水平磁場の強度を0.2テスラ以上に維持したまま、シリコン単結晶を引き上げる工程とを備えていることを特徴とする。
【0016】
本発明のシリコン単結晶の引き上げ装置は、石英ルツボと、前記石英ルツボ内のシリコン融液を加熱する加熱部と、前記石英ルツボを挟んで配置され、前記シリコン融液に対して0.2テスラ以上の水平磁場を印加する磁場印加部とを備え、前記加熱部の加熱能力は、前記石英ルツボを鉛直上方から見たときに、前記石英ルツボの中心軸を通りかつ前記水平磁場の中心の磁力線と平行な仮想線を挟んだ両側で異なることを特徴とする。
本発明によれば、シリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきを抑制可能な引き上げ装置を提供できる。
【0017】
本発明のシリコン単結晶の引き上げ装置において、前記加熱部は、前記石英ルツボを囲むヒーターを備え、前記ヒーターの抵抗値は、前記両側にそれぞれ位置する領域で異なることが好ましい。
本発明のシリコン単結晶の引き上げ装置において、前記加熱部は、前記石英ルツボを囲むヒーターと、前記ヒーターに電圧を印加する電圧印加部とを備え、前記ヒーターは、前記仮想線に対して一方側に位置する第1の分割ヒーターと、他方側に位置する第2の分割ヒーターとを備え、前記電圧印加部は、前記第1の分割ヒーターと前記第2の分割ヒーターとのパワーが異なるように電圧を印加することが好ましい。
本発明のシリコン単結晶の引き上げ装置において、前記加熱部は、前記石英ルツボを囲むヒーターと、前記ヒーターを囲む断熱材とを備え、前記断熱材の断熱能力は、前記両側にそれぞれ位置する領域で異なることが好ましい。
本発明によれば、ヒーターにおける仮想線を挟んだ両側の領域の抵抗値や、ヒーターを構成する第1,第2の分割ヒーターのパワーや、断熱材における仮想線を挟んだ両側の領域の断熱能力を異ならせるだけの簡単な方法で、シリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る引き上げ装置の構造を示す模式図。
図2】前記第1の実施の形態における加熱部の構成および水平磁場の印加状態模式図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図。
図3】前記第1の実施の形態および本発明の第2,第3の実施の形態における温度計測部の配置状態を示す模式図。
図4】前記第1〜第3の実施の形態における引き上げ装置の要部のブロック図。
図5】前記第1,第2の実施の形態における水平磁場の印加方向とシリコン融液の対流の方向との関係を示す模式図であり、(A)は右回りの対流、(B)は左回りの対流を表す。
図6】前記第1,第2の実施の形態におけるシリコン融液の対流の変化を示す模式図。
図7】前記第1,第2の実施の形態におけるシリコン単結晶の製造方法を示すフローチャート。
図8】前記第2の実施の形態における加熱部の構成および水平磁場の印加状態模式図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図。
図9】前記第3の実施の形態における加熱部の構成および水平磁場の印加状態模式図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[1]第1の実施の形態
図1には、本発明の第1の実施の形態に係るシリコン単結晶10の製造方法を適用できるシリコン単結晶の引き上げ装置1の構造の一例を表す模式図が示されている。引き上げ装置1は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶10を引き上げる装置であり、外郭を構成するチャンバ2と、チャンバ2の中心部に配置されるルツボ3とを備える。
ルツボ3は、内側の石英ルツボ3Aと、外側の黒鉛ルツボ3Bとから構成される二重構造であり、回転および昇降が可能な支持軸4の上端部に固定されている。
【0020】
ルツボ3の外側には、ルツボ3を囲む抵抗加熱式のヒーター5が設けられ、その外側には、チャンバ2の内面に沿って断熱材6が設けられている。ヒーター5、断熱材6、ヒーター5に電圧を印加する電圧印加部16(図4参照)は、本発明の加熱部17を構成する。
加熱部17は、図2(A),(B)に示すように、鉛直上方から見たときに、シリコン融液9の表面9Aの中心9Bを通り、かつ、水平磁場の中心の磁力線14Cと平行な仮想線9Cを挟んだ両側の加熱能力とが異なるように構成されている。
第1の実施の形態では、加熱部17を構成するヒーター5は、図2(A)における仮想線9Cの左側に位置する第1の加熱領域5Aと、右側に位置する第2の加熱領域5Bとを備えている。第1,第2の加熱領域5A,5Bは、平面視で中心角が180°の半円筒状に形成されている。第2の加熱領域5Bの抵抗値は、第1の加熱領域5Aの抵抗値よりも小さくなっている。このため、電圧印加部16が第1,第2の加熱領域5A,5Bに同じ大きさの電圧を印加すると、第2の加熱領域5Bの発熱量は、第1の加熱領域5Aよりも小さくなる。
また、断熱材6の厚さは、その周方向全体にわたって同じになっている。このため、断熱材6の断熱能力も、周方向全体にわたって同じになる。
以上のような構成によって、加熱部17の仮想線9Cよりも右側の加熱能力は、左側の加熱能力よりも低くなる。つまり、加熱部17の加熱能力は、シリコン融液9の表面9Aの中心9Bを原点、鉛直上方をZ軸の正方向、水平磁場の印加方向をY軸の正方向とした右手系のXYZ直交座標系において、仮想線9Cに対してX軸の正方向側の方が負方向側よりも低い第1の状態に設定されている。
【0021】
ルツボ3の上方には、図1に示すように、支持軸4と同軸上で逆方向または同一方向に所定の速度で回転するワイヤなどの引き上げ軸7が設けられている。この引き上げ軸7の下端には種結晶8が取り付けられている。
【0022】
チャンバ2内には、ルツボ3内のシリコン融液9の上方で育成中のシリコン単結晶10を囲む筒状の熱遮蔽体11が配置されている。
熱遮蔽体11は、育成中のシリコン単結晶10に対して、ルツボ3内のシリコン融液9やヒーター5やルツボ3の側壁からの高温の輻射熱を遮断するとともに、結晶成長界面である固液界面の近傍に対しては、外部への熱の拡散を抑制し、単結晶中心部および単結晶外周部の引き上げ軸方向の温度勾配を制御する役割を担う。
【0023】
チャンバ2の上部には、アルゴンガスなどの不活性ガスをチャンバ2内に導入するガス導入口12が設けられている。チャンバ2の下部には、図示しない真空ポンプの駆動により、チャンバ2内の気体を吸引して排出する排気口13が設けられている。
ガス導入口12からチャンバ2内に導入された不活性ガスは、育成中のシリコン単結晶10と熱遮蔽体11との間を下降し、熱遮蔽体11の下端とシリコン融液9の液面との隙間を経た後、熱遮蔽体11の外側、さらにルツボ3の外側に向けて流れ、その後にルツボ3の外側を下降し、排気口13から排出される。
【0024】
また、引き上げ装置1は、図2(A)に示すような磁場印加部14と、温度計測部15とを備える。
磁場印加部14は、それぞれ電磁コイルで構成された第1の磁性体14Aおよび第2の磁性体14Bを備える。第1,第2の磁性体14A,14Bは、チャンバ2の外側においてルツボ3を挟んで対向するように設けられている。磁場印加部14は、中心の磁力線14Cが石英ルツボ3Aの中心軸3Cを通り、かつ、当該中心の磁力線14Cの向きが図2(A)における上方向(図1における紙面手前から奥に向かう方向)となるように、水平磁場を印加することが好ましい。中心の磁力線14Cの高さ位置については特に限定されず、シリコン単結晶10の品質に合わせて、シリコン融液9の内部にしてもよいし外部にしてもよい。
【0025】
温度計測部15は、図1図3に示すように、仮想線9Cを挟む第1の計測点P1および第2の計測点P2の温度を計測する。第1の計測点P1は、加熱部17によるシリコン融液9の加熱によって、下降流が図2(B)における右側に固定されたときに、シリコン融液9の表面9Aの最高温度部分となる位置に設定されている。第2の計測点P2は、下降流が右側に固定されたときに、最低温度部分となる位置に設定されている。第1の実施の形態では、第1,第2の計測点P1,P2は、図2(A)に示すように、X軸と重なる仮想線9F上、かつ、中心9Bに対して点対称の位置に設定されている。
【0026】
温度計測部15は、一対の反射部15Aと、一対の放射温度計15Bとを備える。
反射部15Aは、チャンバ2内部に設置されている。反射部15Aは、図3に示すように、その下端からシリコン融液9の表面9Aまでの距離(高さ)Kが600mm以上5000mm以下となるように設置されていることが好ましい。また、反射部15Aは、反射面15Cと水平面Fとのなす角度θfが40°以上50°以下となるように設置されていることが好ましい。このような構成によって、第1,第2の計測点P1,P2から、重力方向の反対方向に出射する輻射光Lの入射角θ1および反射角θ2の和が、80°以上100°以下となる。反射部15Aとしては、耐熱性の観点から、一面を鏡面研磨して反射面15Cとしたシリコンミラーを用いることが好ましい。
放射温度計15Bは、チャンバ2外部に設置されている。放射温度計15Bは、チャンバ2に設けられた石英窓2Aを介して入射される輻射光Lを受光して、第1,第2の計測点P1,P2の温度を非接触で計測する。
【0027】
また、引き上げ装置1は、図4に示すように、制御装置20と、記憶部21とを備える。
制御装置20は、対流パターン制御部20Aと、引き上げ制御部20Bとを備える。
対流パターン制御部20Aは、仮想線9Cを挟んだ両側の加熱能力が異なる加熱部17を用いてシリコン融液9を加熱し、水平磁場を印加することで、磁場直交断面における対流90(図5(A),(B)参照)の方向を固定する。
引き上げ制御部20Bは、対流パターン制御部20Aによる対流方向の固定後に、シリコン単結晶10を引き上げる。
【0028】
[2]本発明に至る背景
本発明者らは、同一の引き上げ装置1を用い、同一の引き上げ条件で引き上げを行っても、引き上げられたシリコン単結晶10の酸素濃度が高い場合と、酸素濃度が低い場合があることを知っていた。従来、これを解消するために、引き上げ条件等を重点的に調査してきたが、確固たる解決方法が見つからなかった。
【0029】
その後、調査を進めていくうちに、本発明者らは、石英ルツボ3A中に固体の多結晶シリコン原料を投入して、溶解した後、水平磁場を印加すると、磁場直交断面(第2の磁性体14B側(図1の紙面手前側、図2(A)の下側)から見たときの断面)において、水平磁場の磁力線を軸として石英ルツボ3Aの底部からシリコン融液9の表面9Aに向かって回転する対流90があることを知見した。その対流90の回転方向は、図5(A)に示すように、右回りが優勢となる場合と、図5(B)に示すように、左回りが優勢となる場合の2つの対流パターンであった。
【0030】
このような現象の発生は、発明者らは、以下のメカニズムによるものであると推測した。
まず、水平磁場を印加せず、石英ルツボ3Aを回転させない状態では、石英ルツボ3Aの外周近傍でシリコン融液9が加熱されるため、シリコン融液9の底部から表面9Aに向かう上昇方向の対流が生じている。上昇したシリコン融液9は、シリコン融液9の表面9Aで冷却され、石英ルツボ3Aの中心で石英ルツボ3Aの底部に戻り、下降方向の対流が生じる。
【0031】
外周部分で上昇し、中央部分で下降する対流が生じた状態では、熱対流による不安定性により下降流の位置は無秩序に移動し、中心からずれる。このような下降流は、シリコン融液9の表面9Aにおける下降流に対応する部分の温度が最も低く、表面9Aの外側に向かうにしたがって温度が徐々に高くなる温度分布によって発生する。例えば、図6(A)の状態では、中心が石英ルツボ3Aの回転中心からずれた第1の領域A1の温度が最も低く、その外側に位置する第2の領域A2、第3の領域A3、第4の領域A4、第5の領域A5の順に温度が高くなっている。最高温度部分である第1の計測点P1は第5の領域A5内に位置し、最低温度部分である第2の計測点P2は第1の領域A1内であって、下降流の中心部分に位置している。なお、最高温度部分および最低温度部分は、放射温度計によって予め把握することができる。
【0032】
そして、図6(A)の状態で、中心の磁力線14Cが石英ルツボ3Aの中心軸3Cを通る水平磁場を印加すると、石英ルツボ3Aの上方から見たときの下降流の回転が徐々に拘束され、図6(B)に示すように、水平磁場の中心の磁力線14Cの位置からオフセットした位置に拘束される。
なお、下降流の回転が拘束されるのは、シリコン融液9に作用する水平磁場の強度が特定強度よりも大きくなってからと考えられる。このため、下降流の回転は、水平磁場の印加開始直後には拘束されず、印加開始から所定時間経過後に拘束される。
【0033】
一般に磁場印加によるシリコン融液9内部の流動変化は、以下の式(1)で得られる無次元数であるMagnetic Number Mで表されることが報告されている(Jpn. J. Appl. Phys., Vol.33(1994) Part.2 No.4A, pp.L487-490)。
【0034】
【数1】
【0035】
式(1)において、σはシリコン融液9の電気伝導度、Bは印加した磁束密度、hはシリコン融液9の深さ、ρはシリコン融液9の密度、vは無磁場でのシリコン融液9の平均流速である。
本実施の形態において、下降流の回転が拘束される水平磁場の特定強度の最小値は、0.01テスラであることがわかった。0.01テスラでのMagnetic Numberは1.904である。本実施の形態とは異なるシリコン融液9の量や石英ルツボ3Aの径においても、Magnetic Numberが1.904となる磁場強度(磁束密度)から、磁場による下降流の拘束効果(制動効果)が発生すると考えられる。
【0036】
図6(B)に示す状態から水平磁場の強度をさらに大きくすると、図6(C)に示すように、下降流の右側と左側における上昇方向の対流の大きさが変化し、図6(C)であれば、下降流の左側の上昇方向の対流が優勢になる。
最後に、磁場強度が0.2テスラになると、図6(D)に示すように、下降流の右側の上昇方向の対流が消え去り、左側が上昇方向の対流、右側が下降方向の対流となり、右回りの対流90となる。右回りの対流90の状態では、図5(A)に示すように、磁場直交断面において、シリコン融液9における右側領域9Dから左側領域9Eに向かうにしたがって、温度が徐々に高くなっている。
一方、図6(A)の最初の下降流の位置を石英ルツボ3Aの回転方向に180°ずらせば、下降流は、図6(C)とは位相が180°ずれた左側の位置で拘束され、左回りの対流90となる。左回りの対流90の状態では、図5(B)に示すように、シリコン融液9における右側領域9Dから左側領域9Eに向かうにしたがって、温度が徐々に低くなっている。
このような右回りや左回りのシリコン融液9の対流90は、水平磁場の強度を0.2テスラ未満にしない限り、維持される。
【0037】
以上の説明によれば、水平磁場を印加する直前の対流状態によって対流90の方向が右回りまたは左回りに固定されるが、下降流の位置は無秩序に移動するため、磁場印加直前の対流状態の制御は困難である。本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、水平磁場を印加する前に、磁場直交断面における左右両側の加熱能力が異なる加熱部17を用いてシリコン融液9を加熱して下降流の位置を固定し、その後、水平磁場を印加することで、水平磁場の印加タイミングにかかわらず、対流90の方向を右回りのみまたは左回りのみに固定できることを知見した。
【0038】
例えば、図2(B)に示すように、水平磁場を印加しない状態において、石英ルツボ3Aを回転させながら、第1の加熱領域5Aよりも第2の加熱領域5Bの方が発熱量が小さい加熱部17を用いて、シリコン融液9を加熱すると、引き上げ装置1の構造の対称性に関係なく、第2の加熱領域5B側の温度が第1の加熱領域5A側よりも低くなる。その結果、下降流は第2の加熱領域5B側に固定され、当該下降流よりも第2の加熱領域5B側に小さな上昇流が生じ、中央よりも第1の加熱領域5A側に大きな上昇流が生じる。つまり、シリコン融液9内は、図6(B)と同じ状態になる。
この状態でシリコン融液9に0.2テスラ以上の水平磁場を印加すると、図6(D)に示すように、対流90の方向が右回りに固定される。
一方、加熱部17の加熱能力がX軸の正方向側の方が負方向側よりも高い第2の状態に設定され、第2の加熱領域5B側の温度が第1の加熱領域5A側よりも高くなる場合、対流90の方向が左回りに固定される。
【0039】
以上のことから、本発明者らは、水平磁場を印加する前に、仮想線9Cを挟んだ両側の加熱能力が異なる加熱部17を用いてシリコン融液9を加熱し、その後0.2テスラ以上の水平磁場を印加することによって、シリコン融液9の対流90の方向を所望の一方向に固定でき、シリコン単結晶10ごとの酸素濃度のばらつきを抑制できると考えた。
【0040】
[3]シリコン単結晶の製造方法
次に、本実施の形態におけるシリコン単結晶の製造方法を図7に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0041】
まず、シリコン単結晶10の酸素濃度が所望の値となるような引き上げ条件(例えば、不活性ガスの流量、チャンバ2の炉内圧力、石英ルツボ3Aの回転数など)を事前決定条件として予め把握しておき、記憶部21に記憶させる。なお、事前決定条件の酸素濃度は、直胴部の長手方向の複数箇所の酸素濃度の値であってもよいし、前記複数箇所の平均値であってもよい。
【0042】
そして、シリコン単結晶10の製造を開始する。
まず、引き上げ制御部20Bは、チャンバ2内を減圧下の不活性ガス雰囲気に維持した。そして、対流パターン制御部20Aは、ルツボ3を回転させるとともに、ルツボ3に充填した多結晶シリコンなどの固形原料をヒーター5の加熱により溶融させ、シリコン融液9を生成する(ステップS1)。このとき、対流パターン制御部20Aは、電圧印加部16を用いて第1,第2の加熱領域5A,5Bに同じ大きさの電圧を印加することで、シリコン融液9の左側(第1の加熱領域5A側)を右側(第2の加熱領域5B側)よりも高い温度で加熱する。また、対流パターン制御部20Aは、シリコン融液9の温度が1415℃以上1500℃以下となるように加熱する。
【0043】
その後、対流パターン制御部20Aは、温度計測部15における第1,第2の計測点P1,P2の温度計測結果に基づいて、シリコン融液9の表面9Aにおける最高温度(第1の計測点P1の温度)と最低温度(第2の計測点P2の温度)との差ΔTmaxが6℃以上12℃以下で安定したか否かを判断する(ステップS2)。ステップS2の処理を行う理由は、ΔTmaxが6℃未満の場合、下降流が仮想線9Cよりも右側に固定されない場合があるが、6℃以上の場合、図2(B)および図6(B)に示すように、下降流が右側に確実に固定されるからである。また、ΔTmaxが12℃を超える場合、対流が大きくなりすぎシリコン単結晶10における引き上げ方向の直径のばらつきが発生する場合があるが、12℃以下の場合、直径のばらつきが抑制されるからである。
【0044】
このステップS2において、対流パターン制御部20Aは、ΔTmaxが6℃以上12℃以下で安定していないと判断した場合、シリコン融液9の加熱温度を調整し(ステップS3)、所定時間経過後にステップS2の処理を行う。ステップS3では、ΔTmaxが6℃未満の場合、第1,第2の加熱領域5A,5Bへの印加電圧を同じ大きさだけ大きくし、12℃を超える場合、印加電圧を同じ大きさだけ小さくする。
【0045】
一方、ステップS2において、対流パターン制御部20Aは、ΔTmaxが6℃以上12℃以下で安定したと判断した場合、磁場印加部14を制御して、シリコン融液9への0.2テスラ以上0.6テスラ以下の水平磁場の印加を開始する(ステップS4)。このステップS4の処理によって、対流90が右回りに固定される。
【0046】
その後、引き上げ制御部20Bは、事前決定条件に基づいて、0.2テスラ以上0.6テスラ以下の水平磁場の印加を継続したままシリコン融液9に種結晶8を着液してから、所望の酸素濃度の直胴部を有するシリコン単結晶10を引き上げる(ステップS5)。
【0047】
以上のステップS1〜S5の処理が本発明のシリコン単結晶の製造方法に対応し、ステップS1〜S4の処理が本発明のシリコン融液の対流パターン制御方法に対応する。
なお、ステップS2におけるΔTmaxの確認処理、ステップS3における加熱温度の調整処理、ステップS4における水平磁場の印加開始処理、ステップS5における引き上げ処理は、作業者の操作によって行ってもよい。
【0048】
[4]実施の形態の作用および効果
このような実施の形態によれば、仮想線9Cを挟んだ両側の加熱能力が異なる加熱部17を用いるだけの簡単な方法で、引き上げ装置の構造の対称性に関係なく、磁場直交断面における対流90の方向を一方向に固定しやすできる。したがって、この対流90の一方向への固定によって、シリコン単結晶10ごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
特に、第1,第2の加熱領域5A,5Bの抵抗値が異なるヒーター5を用いるだけの簡単な方法で、シリコン単結晶10ごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
【0049】
ΔTmaxが6℃以上となってから0.2テスラ以上の水平磁場を印加するため、対流の方向を確実に一方向に固定できる。
【0050】
ΔTmaxが12℃以下となってから0.2テスラ以上の水平磁場を印加するため、シリコン単結晶10の直径のばらつきを抑制できる。
【0051】
[5]第2の実施の形態
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分等については、同一符号を付してその説明を省略する。
前述した第1の実施の形態との相違点は、加熱部31の構成と、制御装置40の構成である。
【0052】
加熱部17は、図8(A),(B)に示すように、ヒーター30と、断熱材6と、電圧印加部16A(図4参照)とを備えている。
ヒーター30は、仮想線9Cの左側に位置する第1の分割ヒーター30Aと、右側に位置する第2の分割ヒーター30Bとを備えている。第1,第2の分割ヒーター30A,30Bは、それぞれ別体で構成され、平面視で同じ大きさの半円筒状に形成されている。また、第1,第2の分割ヒーター30A,30Bの抵抗値は、同じである。
電圧印加部16Aは、第2の分割ヒーター30Bに対し、第1の分割ヒーター30Aに印加する電圧よりも小さい電圧を印加する。つまり、第2の分割ヒーター30Bのパワーを第1の分割ヒーター30Aよりも小さくする。このため、第2の分割ヒーター30Bの発熱量は、第1の分割ヒーター30Aよりも小さくなる。
また、断熱材6の断熱能力は、第1の実施の形態と同様に、周方向全体にわたって同じになる。
以上のような構成によって、加熱部31の仮想線9Cよりも右側の加熱能力は、左側の加熱能力よりも低くなる。
【0053】
制御装置40は、図4に示すように、対流パターン制御部40Aと、引き上げ制御部20Bとを備える。
【0054】
[6]シリコン単結晶の製造方法
次に、第2の実施の形態におけるシリコン単結晶の製造方法を説明する。
なお、第1の実施の形態と同様の処理については、説明を省略あるいは簡略にする。
【0055】
まず、制御装置40は、図7に示すように、第1の実施の形態と同様のステップS1〜S2、および、必要に応じてステップS3の処理を行う。
ステップS1では、対流パターン制御部40Aは、電圧印加部16Aを用いて第2の分割ヒーター30Bに第1の分割ヒーター30Aよりも小さい電圧を印加することで、シリコン融液9の左側(第1の分割ヒーター30A側)を右側(第2の分割ヒーター30B側)よりも高い温度で加熱する。
ステップS3では、ΔTmaxが6℃未満の場合、第2の分割ヒーター30Bへの印加電圧を小さくするか第1の分割ヒーター30Aへの印加電圧を大きくし、12℃を超える場合、第2の分割ヒーター30Bへの印加電圧を大きくするか第1の分割ヒーター30Aへの印加電圧を小さくする。
【0056】
ステップS2において、ΔTmaxが6℃以上12℃以下で安定したと対流パターン制御部40Aが判断すると、制御装置40は、ステップS4,S5の処理を行う。ステップS4の処理前に、下降流が右側に固定されているため、ステップS4の処理によって対流90が右回りに確実に固定された状態で、ステップS5の処理が行われる。
【0057】
[7]第2の実施の形態の作用および効果
このような第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏することができる。
ヒーター30を第1の分割ヒーター30Aと第2の分割ヒーター30Bとで構成し、これらに印加する電圧を異ならせるだけの簡単な方法で、シリコン単結晶10ごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
【0058】
[8]第3の実施の形態
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分等については、同一符号を付してその説明を省略する。
前述した第1の実施の形態との相違点は、加熱部52の構成である。
【0059】
加熱部52は、図9(A),(B)に示すように、ヒーター50と、断熱材51と、電圧印加部16(図4参照)とを備えている。
ヒーター50は、平面視で円筒に形成されている。ヒーター50の抵抗値は、その周方向全体にわたって同じである。このため、ヒーター50の発熱量は、その周方向全体にわたって同じである。
断熱材51は、仮想線9Cの左側に位置する第1の分割断熱材51Aと、右側に位置する第2の分割断熱材51Bとを備えている。第1,第2の分割断熱材51A,51Bは、それぞれ別体で構成され、平面視で半円筒状に形成されている。第2の分割断熱材51Bの厚さは第1の分割断熱材51Aよりも薄くなっており、第2の分割断熱材51Bの体積は第1の分割断熱材51Aよりも小さくなっている。このため、第2の分割断熱材51Bの断熱能力は、第1の分割断熱材51Aよりも小さくなる。
以上のような構成によって、ヒーター50の発熱量が周方向全体にわたって同じでも、第2の分割断熱材51B側の方が第1の分割断熱材51A側よりもチャンバ2の外側に放熱しやすくなるため、加熱部52の仮想線9Cよりも右側の加熱能力は、左側の加熱能力よりも低くなる。
【0060】
[9]シリコン単結晶の製造方法
次に、第3の実施の形態におけるシリコン単結晶の製造方法を説明する。
なお、第1の実施の形態と同様の処理については、説明を省略あるいは簡略にする。
【0061】
まず、制御装置20は、図7に示すように、第1の実施の形態と同様のステップS1〜S2、および、必要に応じてステップS3の処理を行う。
ステップS1では、対流パターン制御部20Aは、電圧印加部16を用いてヒーター50に電圧を印加する。前述のように、第1,第2の分割断熱材51A,51Bの断熱能力が異なるため、シリコン融液9の左側(第1の分割断熱材51A側)が右側(第2の分割断熱材51B側)よりも高い温度で加熱される。
ステップS3では、ΔTmaxが6℃未満の場合、ヒーター5への印加電圧を大きくし、12℃を超える場合、印加電圧を小さくする。
【0062】
ステップS2において、ΔTmaxが6℃以上12℃以下で安定したと対流パターン制御部20Aが判断すると、制御装置20は、ステップS4,S5の処理を行う。ステップS4の処理前に、下降流が右側に固定されているため、ステップS4の処理によって対流90が右回りに確実に固定された状態で、ステップS5の処理が行われる。
【0063】
[10]第3の実施の形態の作用および効果
このような第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏することができる。
断熱材51を第1の分割断熱材51Aと第2の分割断熱材51Bとで構成し、これらの断熱能力を異ならせるだけの簡単な方法で、シリコン単結晶10ごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
[11]変形例
なお、本発明は上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
例えば、ルツボ3を囲む円筒状のヒーターであって、仮想線9Cの右側と左側とでルツボ3の外縁とヒーターの内縁との距離を異ならせたヒーターを用いて、左右の加熱能力を異ならせてもよい。
第3の実施の形態において、第1,第2の分割断熱材51A,51Bを一体的に形成してもよい。また、第1,第2の分割断熱材51A,51Bを断熱能力が異なる材質で形成してもよく、この場合、両者の大きさは同じであってもよいし異なっていてもよい。
第1,第2の実施の形態の断熱材6の代わりに、第3の実施の形態の断熱材51を用いてもよい。
【0064】
第1,第2,第3の実施の形態のステップS2の処理において、ΔTmaxが6℃以上12℃以下で安定したか否かを判断したが、予め、電圧印加開始から何分後にΔTmaxが6℃以上12℃以下で安定するかを調べておき、第1,第2の計測点P1,P2の温度を計測せずに、電圧印加開始からの経過時間に基づいて、ΔTmaxが6℃以上12℃以下で安定したか否かを判断してもよい。
【0065】
第1〜第3の実施の形態において、図6(B)に示すように、下降流がX軸と重なる仮想線9F上に固定されるように、加熱部17,31,52の加熱能力を設定したが、下降流が図6(B)に示す位置から、中心9Bを中心にしてY軸の正方向または負方向に90°未満回転した位置に固定されるように、加熱部17,31,52の加熱能力を設定してもよい。例えば、下降流が図6(A)に示す位置と図6(B)に示す位置との間に固定されるように、加熱部17,31,52の加熱能力を設定してもよい。このような構成でも、0.2テスラ以上の水平磁場を印加することで、対流90を右回りに固定できる。
第1〜第3の実施の形態において、ΔTmaxが3℃以上6℃未満の場合であっても、水平磁場を印加してシリコン単結晶10を製造してもよい。この場合でも、シリコン単結晶10ごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
第1〜第3の実施の形態において、ΔTmaxが12℃を超える場合であっても、水平磁場を印加してシリコン単結晶10を製造してもよい。この場合でも、シリコン単結晶10ごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
第1〜第3の実施の形態において、加熱部17,31,52の加熱能力を第1の状態に設定したが、X軸の正方向側の方が負方向側よりも高い第2の状態に設定して、下降流を左側に固定し、対流90を左回りに固定してもよい。
【0066】
第2の磁性体14B側(図1の紙面手前側)から見たときの平面を磁場直交断面として例示したが、第1の磁性体14A側(図1の紙面奥側)から見たときの平面を磁場直交断面として対流90の方向を規定してもよい。
【実施例】
【0067】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実験1:ヒーターの抵抗値比率と対流制御性および結晶成長性との関係]
〔実験例1〕
まず、第1の実施の形態の加熱部17を有する引き上げ装置を準備した。石英ルツボ3Aとして内径が32インチのものを準備した。対流を右回りに固定することを目的としたヒーター5として、図2(A),(B)に示すように、第1の加熱領域5A(左側)の抵抗値を第2の加熱領域5B(右側)の抵抗値で除した抵抗値比率が1.10のものを準備した。
そして、石英ルツボ3Aに多結晶シリコン原料を投入し、第1,第2の加熱領域5A,5Bに35Vずつの電圧を印加してシリコン融液9を生成した。この後、シリコン融液9の温度が安定した状態で、仮想線9F上において中心9Bに対して点対称の位置に設定された第1,第2の計測点P1,P2の温度差ΔTmaxを求めた。その後、0.2テスラ以上の水平磁場を印加し、再度、第1,第2の計測点P1,P2の温度を計測し、その差に基づいて対流の方向を判定した後、シリコン単結晶10を引き上げた。水平磁場印加後の第1の計測点P1の温度が第2の計測点P2よりも高い場合、対流が右回りに固定され、逆の場合に、左回りに固定されたと判定した。
【0069】
〔実験例2〜6〕
抵抗値比率を以下の表1に示すように設定したこと以外は、実験例1と同じ条件で温度差ΔTmaxを求めて、対流の方向を判定した後、シリコン単結晶10を引き上げた。
【0070】
[実験2:ヒーターのパワー比率と対流制御性および結晶成長性との関係]
〔実験例7〕
まず、対流を右回りに固定することを目的として、図8(A),(B)に示すように、第2の実施の形態の加熱部31を有する引き上げ装置を準備した。
そして、第1の分割ヒーター30A(左側)のパワーを第2の分割ヒーター30B(右側)のパワーで除したパワー比率が1.10となるように、第1,第2の分割ヒーター30A,30Bに電圧を印加してシリコン融液9を生成し、実験1と同様に温度差ΔTmaxを求めて、対流の方向を判定した後、シリコン単結晶10を引き上げた。
【0071】
〔実験例8〜12〕
パワー比率を以下の表2に示すように設定したこと以外は、実験例7と同じ条件で実験を行い、温度差ΔTmaxを求めて、対流の方向を判定した後、シリコン単結晶10を引き上げた。
【0072】
[実験3:断熱材の体積比率と対流制御性および結晶成長性との関係]
〔実験例13〕
まず、対流を右回りに固定することを目的として、図9(A),(B)に示すように、第3の実施の形態の加熱部52を有する引き上げ装置を準備した。断熱材51として、第1の分割断熱材51A(左側)の体積を第2の分割断熱材51B(右側)の体積で除した体積比率が1.10のものを準備した。第1,第2の分割断熱材51A,51Bを同じ材質で形成することで、第2の分割断熱材51Bの断熱能力を第1の分割断熱材51Aよりも小さくした。
そして、ヒーター50のパワーが120kWとなるように電圧を印加してシリコン融液9を生成し、実験1と同様に温度差ΔTmaxを求めて、対流の方向を判定した後、シリコン単結晶10を引き上げた。
【0073】
〔実験例14〜18〕
体積比率を以下の表3に示すように設定したこと以外は、実験例13と同じ条件で実験を行い、温度差ΔTmaxを求めて、対流の方向を判定した後、シリコン単結晶10を引き上げた。
【0074】
[評価]
実験例1〜18について、それぞれ10回ずつの実験を行い、対流の方向を所望の方向(右回り)に制御できたか否か(対流制御性)、シリコン単結晶10の引き上げ方向の直径のばらつきを抑制できたか否か(結晶成長性)を評価した。
対流制御性は、対流を右回りに制御できた確率(対流制御確率)が50%以下の場合を「C」、50%を超え100%未満の場合を「B」、100%の場合を「A」と評価した。
結晶成長性は、引き上げ方向の直径のばらつきが1mm以上の場合を「C」、0.5mm以上1mm未満の場合を「B」、0.5mm未満の場合を「A」と評価した。
また、対流制御性および結晶成長性の少なくとも一方に「C」がある場合、総合判定を「C」と評価し、対流制御性が「B」で結晶成長性が「A」の場合、総合判定を「B」と評価し、対流制御性および結晶成長性の両方が「A」の場合、総合判定を「A」と評価した。
実験例1〜6,7〜12,13〜18の評価結果を表1,2,3に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
表1〜3に示すように、対流制御性は、ΔTmaxが1℃〜2℃の実験例1,7では「C」、ΔTmaxが3℃〜4℃の実験例2,8,13,14では「B」、ΔTmaxが6℃以上の実験例3〜6,9〜12,15〜18では「A」であった。
このことから、ΔTmaxが3℃以上となるように加熱部を構成することで、対流の方向を制御しやすくなることが確認できた。また、ΔTmaxが6℃以上となるように加熱部を構成することで、対流の方向を確実に制御できることが確認できた。
また、結晶成長性は、ΔTmaxが14℃〜15℃の実験例6,12,18では「C」、ΔTmaxが12℃以下の実験例1〜5,7〜11,13〜17では「A」であった。
このことから、ΔTmaxが12℃以下となるように加熱部を構成することで、シリコン単結晶10における引き上げ方向の直径のばらつきを抑制できることが確認できた。
【符号の説明】
【0079】
1…引き上げ装置、3A…石英ルツボ、14…磁場印加部、5,30…ヒーター、9…シリコン融液、10…シリコン単結晶、16A…電圧印加部、17,31,52…加熱部、30A,30B…第1,第2の分割ヒーター、断熱材51。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9