(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一対の熱検知用電線は、所定温度で前記絶縁体が軟化あるいは溶融したときに、前記導体が互いに近づこうとする力によって前記導体同士が前記対撚線の中心側へ移動し、前記導体同士が接触する、
請求項1に記載の熱検知線。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
図1(a)は、本実施の形態に係る多心ケーブルのケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図であり、
図1(b)は熱検知線のケーブル長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図2は、多心ケーブルの外観を示す斜視図である。
図3は、多心ケーブルを筐体の溝に収容した際の断面図である。
【0013】
本発明者らは、上述したような課題を解決するため、温度上昇を検知するための熱検知線を、筐体内に配置する多心ケーブルに内蔵することを考えた。この場合に、特に、熱検知線による非接触給電の効率低下を抑制すること、及び多心ケーブル内の温度上昇を精度よく検知可能とすることに着目し、本発明を成すに至った。
【0014】
図1乃至3に示すように、多心ケーブル1は、熱検知線2と、複数本の電線3と、熱検知線2及び複数本の電線3を一括して覆うシース4と、を備えている。
【0015】
この多心ケーブル1は、非接触によって電力を供給するため(非接触給電のため)に用いられるものであり、筐体10の溝11に収容され使用される。この例では、筐体10は、平行に配置された一対の側壁12と、側壁12の端部同士を連結する側壁12と垂直な底壁13とを有しており、全体として断面視で時計回り方向に90度回転させたコの字状に形成されている。一対の側壁12と底壁13とに囲まれ、底壁13と反対側に開口する断面視で矩形状の空間が、溝11である。
【0016】
(熱検知線2)
熱検知線2は、一対の熱検知用電線21を撚り合わせた対撚線22と、対撚線22の周囲に螺旋状に巻き付けられた押さえ巻きテープ23と、押さえ巻きテープ23の周囲を覆うジャケット24と、を有している。
【0017】
対撚線22を構成する一対の熱検知用電線21は、導体(後述する電線3の導体と区別するため、以下第1導体という)211と、第1導体211の周囲を覆う絶縁体(後述する電線3の絶縁体と区別するため、以下第1絶縁体という)212と、をそれぞれ有している。第1導体211としては、対撚線22として撚り合わされた状態において、第1導体211同士が対撚線22の中心側へ互いに近づこうとする力を大きくできるものを用いるとよい。
【0018】
上述のように、多心ケーブル1は非接触給電に用いられるものであり、工場等において、例えば30m以上と長距離にわたって配線される。そのため、長距離にわたって配線しても第1導体211同士の短絡を検知できる程度に、第1導体211の導電率を高く維持する必要がある。また、長距離にわたって配線しても断線が生じない強度が求められる。本実施の形態に係る熱検知線2では、第1導体211の外径を、0.5mm以上1.0mm以下とすることが好ましい。第1導体211の外径を0.5mm以上とすることで、導体抵抗を抑制して導電率を高く維持し、長距離の配線でも第1導体211同士の短絡の検知が可能となる。また、第1導体211の外径を0.5mm以上とすることで、第1導体211同士が近づこうとする力が低下し検出感度が低下してしまうことを抑制でき、ケーブル内の温度の検出感度を向上できる。他方、第1導体211の外径を1.0mm以下とすることで、多心ケーブル1が硬くなり曲げにくくなることを抑制でき、配線しやすい多心ケーブル1を実現できる。
【0019】
さらに、本実施の形態に係る熱検知線2では、第1導体211として、非磁性体であり、かつ引張強さが900MPa以上の銅合金からなるものを用いる。より具体的には、第1導体211は、錫を7mass%以上9mass%以下含み、かつ、リンを0.03mass%以上0.35mass%以下含むリン青銅を用いる。第1導体211として非磁性体を用いることで、非接触給電における損失を抑制し、非接触給電の効率低下を抑制できる。さらに、第1導体211の引張強さを900MPa以上(好ましくは、930MPa以上、より好ましくは、990MPa以上)とすることで、対撚線22の第1導体211同士が撚り合わされた状態で第1導体211同士が対撚線22の中心側へ互いに近づこうとする力を大きくすることができる。これにより、第1絶縁体212が軟化・溶融した際に速やかに第1導体211同士が対撚線22の中心側へ移動し、第1導体211同士が接触することになり、当該接触によってケーブル内の温度の検出感度を向上することが可能になる。また、対撚線22の第1導体211同士が対撚線22の中心へ互い近づこうとする力を大きくして検出感度を向上させる観点から、第1導体211の伸びは、10%以下(より好ましくは3%以下)であることが望ましい。本実施の形態では、直径0.9mmのリン青銅からなり、引張強さ998.9MPa、伸び2.4%の単線の第1導体211を用いた。また、第1導体211の引張強さを900MPa以上とすることで、長距離にわたって配線しても断線が生じない強度を確保することができる。第1導体211の引張強さ及び伸びは、JISZ2241(2011)に準拠する引張試験方法(試験片:9B号)によって求められる。
【0020】
なお、第1導体211に用いる銅合金としては、リン青銅に限定されず、例えば、黄銅やベリリウム銅等を用いることもできる。ただし、対撚線22の第1導体211同士が対撚線22の中心へ互いに近づこうとする力を大きくでき、かつ断線が生じ難く安価であるリン青銅を用いることがより望ましいといえる。
【0021】
第1絶縁体212としては、ケーブル内の温度上昇時に溶融させるために、比較的低融点の絶縁性樹脂が用いられる。より具体的には、ケーブル内の温度が過電流等によって上昇したときの熱により電線3の第2絶縁体32(後述する)が溶融するよりも前に、第1絶縁体212が溶融するように(換言すれば、上述した温度上昇時の熱により電線3の機能が失われるよりも前に、第1導体211が短絡することによって過電流等の発生によるケーブル内の温度上昇が検知されるように)、第1絶縁体212の融点は、電線3の第2絶縁体32の融点(例えば105℃以上)よりも低くされる。本実施の形態では、80℃以下で動作せず、100℃で数分(5分以内)で動作させることを目標とし、第1絶縁体212の融点を80℃よりも高く100℃未満(より好ましくは90℃程度)に設定した。ここでは、融点が約89℃のアイオノマー樹脂からなる第1絶縁体212を用いた。
【0022】
第1絶縁体212の厚さは、0.1mm以上0.3mm以下とすることが望ましい。第1絶縁体212の厚さを0.1mm以上とすることで、第1絶縁体212の機械的強度を確保して、意図しない第1絶縁体212の損傷を抑制して熱検知線2の誤動作を抑制できる。また、第1絶縁体212の厚さを0.3mm以下とすることで、第1絶縁体212が軟化・溶融した際に速やかに第1導体211同士を接触させ、ケーブル内の温度が上昇しているにもかかわらず第1導体211同士が接触しないといった不具合を抑制できる。本実施の形態では、第1絶縁体212の厚さを0.15mmとし、熱検知用電線21の外径を1.2mmとした。2本の熱検知用電線21を撚り合わせた対撚線22の外径は、2.4mmとなる。なお、第1絶縁体212は、対撚線22を構成する一対の熱検知用電線21のそれぞれが互いに接触する部分(一対の熱検知用電線21の第1絶縁体212同士が接触する部分)の厚さが、一対の熱検知用電線21のそれぞれが互いに接触していない部分(一対の熱検知用電線21の第1絶縁体212同士が接触していない部分)の厚さよりも小さいことがよい。これにより、第1絶縁体212が軟化・溶融した際に速やかに第1導体211同士を接触させ、ケーブル内の温度が上昇しているにもかかわらず第1導体211同士が接触しないといった不具合を抑制しやすくすることができる。このとき、対撚線22を構成する一対の熱検知用電線21のそれぞれが互いに接触する部分は、面接触していることがよい。ここでいう厚さとは、第1絶縁体212の内面から第1絶縁体212の外面までの最短距離(最小厚さ)である。
【0023】
図4は、熱検知線2の動作を説明する写真であり、(a)は動作前、(b)は動作後の写真である。
図4(a),(b)に示すように、熱検知線2では、ケーブル内の温度(電線3の周囲の温度)が第1絶縁体212の融点(本実施の形態では89℃)以上で第2絶縁体32の融点より低い温度に上昇し、このときの熱により第1絶縁体212が軟化・溶融すると、撚り合わされた第1導体211同士が対撚線22の中心へ互いに近づこうとする力によって第1導体211同士が対撚線22の中心方向へ移動し、第1導体211同士が接触して電気的に短絡する。この際、第1絶縁体212は溶融した状態となっており、また第1導体211同士が互いに近づこうとする力によって第1導体211同士の間に存在する第1絶縁体212が対撚線22の中心付近から押し退けられる。そのため、第1絶縁体212の外形は円形状とならず、第1絶縁体212同士が接触する部分をやや扁平にした形状となっている。この2本の第1導体211の短絡を検知することで、過電流等による多心ケーブル1内の温度上昇を検知することができる。なお、
図4(a),(b)の写真では、熱検知線2の断面状体を確認し易くするために、熱検知線2の周囲にエポキシ樹脂を充填した状態としており、切断した端面を研磨した後に、当該切断面の撮影を行った。
【0024】
ところで、この熱検知線2では、熱検知線2の周囲の温度が上昇することで、2本の第1導体211が短絡する前に、第1絶縁体212が軟化して2本の第1導体211同士の距離が近づき、2本の第1導体211間の抵抗値や静電容量が変化する。よって、2本の第1導体211間の抵抗値や、静電容量を測定することで、2本の第1導体211が短絡するよりも前に、熱検知線2の周囲の温度が上昇していることを検知してもよい。
【0025】
また、図示していないが、第1絶縁体212は、絶縁性樹脂組成物からなる層を複数積層した多層構造とされてもよい。例えば、第1絶縁体212を2層構造とし、内層の融点を外層の融点よりも高くすることで、多心ケーブル1内の温度上昇を段階的に検知することができる。
【0026】
さらに、第1絶縁体212を多層構造とする場合、第1導体211に最も近い層以外の少なくとも1つの層に、第1絶縁体212を構成する絶縁性樹脂よりも融点が高い粒子状物質を含んでいてもよい。第1絶縁体212に融点の高い粒子状物質を含むことで、熱検知線2の周囲の温度が上昇した際に、第1導体211が互いに近づこうとする力によりに粒子状物質が押し込まれて第1絶縁体212が薄く残ってしまうことが抑制され、第1導体211同士の短絡を発生させやすくすることが可能になる。粒子状物質が絶縁性であると、第1導体211間に粒子状物質が噛み込まれて短絡が発生しないおそれがあるため、粒子状物質としては、導電性のものを用いることが望ましい。粒子状物質としては、例えばカーボン粒子を用いることができる。
【0027】
対撚線22の撚りピッチは、熱検知用電線21の外径の20倍程度(18倍以上22倍以下)とするとよい。これにより、第1導体211同士が近接しようとする力を維持しつつも、当該力により第1絶縁体212が破壊されてしまうことを抑制可能になる。なお、対撚線2の撚りピッチとは、対撚線22の長手方向において任意の熱検知用電線21が同じ周方向位置となる長手方向位置の間隔である。なお、熱検知用電線21の外径は、例えば、1.0mm以上1.6mm以下である。
【0028】
対撚線22の周囲に巻き付けられる押さえ巻きテープ23としては、例えば、ポリエステルテープ等の樹脂テープを用いることができる。押さえ巻きテープ23は、その幅方向の一部が重なり合うように、対撚線22の周囲に螺旋状に巻き付けられる。
【0029】
ジャケット24は、対撚線22を保護する保護層としての役割を果たすものである。第1絶縁体212が溶融する前にジャケット24が溶融してしまわないように、ジャケット24の融点は、第1絶縁体212の融点よりも高いことが望ましい。ジャケット24は、絶縁性樹脂からなり、非充実押出成型(所謂チューブ押出成型)により形成されている。
【0030】
また、本実施の形態では、ジャケット24は、弾性体からなる。本実施の形態では、熱検知線2は、多心ケーブル1のケーブル中心に配置されている。多心ケーブル1を溝11に収容する際には、多心ケーブル1を筐体10の溝11内に押圧することによって多心ケーブル1を溝11に収容する。そして、多心ケーブル1を押圧する際に、多心ケーブル1内の電線3は、ケーブル中心に配置された熱検知線2に押し付けられる。このとき、熱検知線2のジャケット24は、電線3が押し付けられるときの力によって弾性変形し、シース4内の電線3は、熱検知線2の周方向や径方向(多心ケーブル1のケーブル長手方向に垂直な断面において、熱検知線2の周囲に沿った方向や熱検知線2の外径に沿った方向)に互いに動くことができるようになる。そのため、多心ケーブル1の外形が溝11の形状や寸法に応じて変形することができる。これにより、多心ケーブル1は、その外径が太くなったとしても筐体10の溝11に入れやすくすることができる。
【0031】
このように、熱検知線2のジャケット24は、弾性変形をして、多心ケーブル1を溝11に収容する際の作業性を向上させる役割を果たす。また、ジャケット24は、多心ケーブル1を溝11に収容した後に、電線3からの押し付ける力が緩和されることによって形状が復元する。このときのジャケット24の復元力により、シース4内の電線3が元の位置(溝11に収容する前の位置)に動くように作用する。これにより、溝11に収容された多心ケーブル1は、変形する前の外形に復元されて溝11内に保持たされることになる。このように、熱検知線2のジャケット24は、電線3を介してシース4を筐体10(溝11の内壁)へと押し付け、多心ケーブル1を溝11内に保持する役割も果たす。
【0032】
ジャケット24の外周面には、全ての電線3が直接接触している。すなわち、熱検知線2の外周面が全ての電線3と直接接触している。ジャケット24としては、外力により形状が変化する弾力性のある材質からなるものを用いるとよく、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂(耐熱ビニル樹脂)やウレタン樹脂からなる樹脂組成物を用いることができる。本実施の形態では、ジャケット24の外径(すなわち熱検知線2の外径)を3.1mmとした。なお、
図1(a)では、ケーブル長手方向に垂直な断面において、全ての電線3がジャケット24の外周面(熱検知線2の外周面)に直接接触している構造としたが、これに限定されない。例えば、熱検知線2と電線3との間に後述する介在が配置されていない多心ケーブル1では、少なくとも1本以上の電線3がジャケット24の外周面(熱検知線2の外周面)に接触している構造であればよい。ただし、複数本の電線3を熱検知線2の周囲にバランス良く(ほぼ等間隔で)配置させる観点からは、熱検知線2の外周面が全ての電線3と直接接触していることがよい。
【0033】
ジャケット24は、単層又は複数層からなる。複数層の場合、例えば、ジャケット24は、内層と外層とからなる。内層は、その内面が対撚線22と接触するように設けられている。外層は、その内面が内層と接触するように設けられている。外層は、熱検知線2が多心ケーブル1内に配置されたときに、電線3と接触することになる。すなわち、外層の外周面がジャケット24の外周面となる。内層の厚さは、外層の厚さよりも小さいことが好ましい。内層の厚さは、例えば、0.2mm以上0.4mm以下である。外層の厚さは、例えば、0.2mm以上0.4mm以下である。この厚さの範囲において、外層の厚さを内層の厚さよりも大きくすることがよい。なお、この場合におけるジャケット24の全体の厚さは、例えば0.4mm以上0.8mm以下であることがよい。多心ケーブル1では、熱検知線2のジャケット24を上述した内層と外層とからなる積層構造とすることにより、ジャケット24全体の厚さを、熱検知線2の周囲に配置された複数本の電線3がケーブル中心に落ち込みにくくなる厚さに調整しやすくすることができる。複数本の電線3がケーブル中心に落ち込みにくくなると、複数本の電線3を熱検知線2の周囲にバランス良く(ほぼ等間隔で)配置させることができる。これにより、熱検知線2における熱検知の精度向上や電線3の非接触給電の効率向上に有効である。
【0034】
また、外層は、硬さや融点等の性質が内層と異なっていてもよい。例えば、内層及び外層は、ともにポリ塩化ビニル樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる場合であっても、外層と内層とのそれぞれが異なる硬さを有する。このとき、外層の硬さは、内層の硬さよりも硬いことがよい。これにより、外層を内層から剥離しやすくすることができる。また、外層の硬さは、電線3を構成する第2絶縁体32の硬さよりも硬いことがよい。これにより、複数本の電線3をケーブル中心に落ち込みにくくすることができる。
【0035】
また、
図5に示すように、熱検知線2は、ジャケット24の外周に補強層25を有していてもよい。補強層25は、熱検知線2のケーブル長手方向に垂直な断面形状が略円形にとなるようにすると共に、熱検知線2をケーブル中心に配置させたときに、熱検知線2の上記断面形状を変形しにくくする役割を果たすものである。このような補強層25を有することにより、複数本の電線3がケーブル中心に落ち込むことを抑制することができる。これにより、熱検知線2の周囲に配置した複数本の電線3をケーブル周方向に対してほぼ等間隔に配置することができ、また熱検知線2から複数本の電線3のそれぞれの中心までの距離をほぼ同じにすることができる。なお、熱検知線2は、ジャケット24の外周に補強層25を有する場合、当該補強層25が熱検知線2の外面となり、当該外面に電線3が直接接触することになる。
【0036】
補強層25としては、例えば、ジャケット24の外周に樹脂テープを螺旋状に巻いてなるテープ層、絶縁性樹脂をチューブ押出によって押出してなる押出樹脂層等を用いることができる。補強層25をテープ層とする場合は、多層としてもよい。多層からなるテープ層としては、例えば、ジャケット24の外周に樹脂テープを螺旋状に巻いてなる内層テープ層と、内層テープ層の外周に樹脂テープを螺旋状に巻いてなる外層テープ層と、の積層構造で構成される。内層テープ層と外層テープ層とを構成する各樹脂テープの巻き方向は、異なる方向であることがよい。これにより、上述した補強層25の役割を発現しやすくすることができる。補強層25は、電線3を構成する第2絶縁体32よりも硬さが硬いことがよい。補強層25を構成する樹脂テープや絶縁性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、フッ素樹脂等を用いることができる。
【0037】
(電線3)
電線3は、複数の素線を集合撚りした撚線導体からなる第2導体31と、第2導体31を覆う第2絶縁体32と、をそれぞれ有している。6本の電線3としては、同じ構造のものが用いられる。本実施の形態では、第2導体31に用いる素線として、すずめっき軟銅線を用いた。第2導体31に用いる素線の外径は、0.15mm以上0.32mm以下とするとよい。これは、素線の外径が0.15mm未満であると断線が発生しやすく、0.32mmを超えると第2絶縁体32を薄くした際に第2絶縁体32を突き抜けて飛び出してしまうおそれがあるためである。
【0038】
素線の撚り合わせ方法として、同心撚りと呼ばれる方法が知られているが、この方法で第2導体31を形成した場合、素線が安定した状態で撚り合されてしまい、多心ケーブル1を溝11内に収容する際の外力により第2導体31の形状が変化しにくくなってしまう。そのため、多心ケーブル1を溝11内に収容する際の外力により第2導体31の形状が変化しやすくなるように、第2導体31としては、集合撚りにより形成されたものを用いる。本実施の形態では、0.26mmの素線を134本集合撚りすることで、外径が約3.5mm(3.0mm以上4.0mm以下)であり、導体断面積が7mm
2以上8mm
2以下の第2導体31を形成した。
【0039】
多心ケーブル1内の導体部分の断面積を増やすために、各電線3の第2絶縁体32は、厚さができるだけ薄いことが望ましい。より具体的には、第2絶縁体32の厚さは、第2導体31に用いる素線の外径の1/2倍以上1倍以下であるとよい。第2絶縁体32の厚さを素線外径の1/2未満とした場合、多心ケーブル1を溝11内に収容する際の外力により素線が第2絶縁体32を突き破ってしまうおそれがあり、素線外径の1倍を超えると、電線3が大径となり多心ケーブル1全体の大径化につながってしまう。本実施の形態では、第2絶縁体32の厚さを約0.2mm(素線の外径の約0.77倍)とした。なお、各電線3の第2絶縁体32は、厚さをできるだけ薄くする観点から、同じ材質からなり、かつ単層からなることが好ましい。
【0040】
より大容量の電力供給を可能とするため、電線3の外径に対する第2導体31の外径の割合は、80%以上とするとよい。また、第2絶縁体32が薄すぎると、上述のように素線が第2絶縁体32を突き破る等の不具合が生じるため、電線3の外径に対する第2導体31の外径の割合は、95%以下とするとよい。また、非接触によって大容量の電力供給を可能とするため、複数の電線3では、各々の第2導体31に同じ大きさの電流を供給するとよい。
【0041】
第2絶縁体32としては、薄肉成型が可能であり、熱検知線2のジャケット24を弾性変形しやすくするためにジャケット24よりも硬く、外圧に強い(多心ケーブル1を溝11内に収容する際の外力によって変形しにくい)材質のものを用いるとよく、例えば、ETFE(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(プリフッ化ビニリデン)等のフッ素樹脂や、ポリイミド、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を用いることができる。より好ましくは、第2絶縁体32として、表面の滑りがよいフッ素樹脂を用いるとよく、これにより、外力が加わった際にシース4内で電線3がより動きやすくなり、多心ケーブル1の溝11への挿入がより容易になる。
【0042】
第2絶縁体32は、非充実押出成型(所謂チューブ押出成型)により形成されている。これにより、第2絶縁体32が素線に密着されず、第2絶縁体32内で素線が互いに動くことができるようになり、外力が加わった際に電線3の断面形状が変形し易くなる。よって、多心ケーブル1の溝11への挿入がより容易になる。
【0043】
(集合体6)
熱検知線2の外周には、複数の電線3が螺旋状に撚り合されている。以下、熱検知線2の周囲に複数の電線3を撚り合わせたものを集合体6と呼称する。
【0044】
集合体6に用いる電線3の本数が1本乃至3本の場合、外力により多心ケーブル1が変形しにくくなる。そこで、多心ケーブル1では、集合体6に用いる電線3の本数を4本以上としている。本実施の形態では、集合体6に用いる電線3の本数を、外径が最も細くなり、かつ、全ての電線3の導体抵抗の総和を最も低くすることが可能な6本とした。
【0045】
集合体6において、ケーブル周方向に隣り合う電線3同士は、互いに接触している。また、電線3は、熱検知線2に接触している。熱検知線2の外径は、ケーブル周方向に6本の電線3を隙間なく配置した際に全ての電線3と接触できる外径に適宜調整される。本実施の形態では、熱検知線2の外径を電線3の外径と略同等とした。
【0046】
集合体6の撚り方向は、熱検知線2における対撚線22の撚り方向と逆方向であることが望ましい。集合体6の撚り方向と対撚線22の撚り方向とを逆方向にすることで、電線3の撚りが緩みにくくなり、電線3により熱検知線2を締め付けた状態で維持することが可能になる。その結果、ケーブル内の温度が上昇した際に、電線3の締め付けによって第1導体211同士が接触しやすくなり、検知感度を向上することが可能になる。なお、集合体6の撚り方向とは、集合体6を一端側から見たときに、他端側から一端側にかけて電線3が回転している方向である。また、対撚線22の撚り方向とは、対撚線22を一端側から見たときに、他端側から一端側にかけて熱検知用電線21が回転している方向である。
【0047】
また、本実施の形態では、集合体6を構成する各電線3がシース4の内周面に接触するように設けられており、集合体6の周囲には、押さえ巻き用のテープが巻き付けられていない。これは、テープを巻き付けると、当該テープが電線3の移動を規制する役割を果たしてしまい、多心ケーブル1を溝11に挿入する際の作業性が低下してしまうおそれがあるためである。なお、製造の都合上、電線3を撚り合わせた状態で保持する必要がある場合には、集合体6の周囲に、糸(樹脂製の糸や綿糸など)を螺旋状に巻き付けるようにしてもよい。
【0048】
熱検知線2と複数本の電線3との間、及び電線3とシース4との間には、糸状の介在が配置されていてもよい。ケーブル内の温度上昇により介在が燃えてしまうことを抑制するために、耐熱性が高い(少なくとも耐熱温度が100℃以上)のものを用いるとよい。介在を有することで、多心ケーブル1全体の外形を円形状に近づけ、取扱性を向上することができる。なお、本実施の形態では、熱検知線2と複数本の電線3との間、及び電線3とシース4との間には、糸状の介在が配置されていないことが好ましい。これは、昇温により介在が燃えてしまうことを抑制し、かつケーブル1に外力が加わった際に電線3が熱検知線2の周方向や外径方向に動くことができるスペース(すなわち、空気層5)を確保するためである。
【0049】
(シース4)
集合体6の周囲には、シース4が設けられている。本実施の形態に係る多心ケーブル1では、シース4は、非充実押出成型(所謂チューブ押出成型)により形成されている。シース4は、長手方向に沿った中空部41を有する中空円筒状に形成されており、この中空部41内に、熱検知線2及び電線3(すなわち集合体6)が配置されている。これにより、多心ケーブル1では、各電線3が、シース4内で互いに動くことができるようになっている。
【0050】
また、上述のように、本実施の形態では、押さえ巻き用のテープを省略しており、電線3のそれぞれがシース4の内周面に直接接触する構造となっている。シース4は、できるだけ電線3を径方向内方に押さえつけないように設けられていることが望ましく、電線3とシース4の接触面積はできるだけ小さい(断面視において点接触している)ことが望ましい。
【0051】
シース4の厚さは、0.6mm以上1.0mm以下とすることが望ましい。これは、シース4の厚さが0.6mm未満であると、外傷への耐力や絶縁性能等が低下してしまい、シース4の厚さが1.0mmより大きいと、多心ケーブル1の大径化につながってしまうためである。
【0052】
さらに、シース4を非充実押出成型により形成し、かつシース4の厚さを1.0mm以下と薄くすることで、
図2に示されるように、電線3の位置でシース4が凸となるように、シース4の外表面に凹凸を生じさせることができる。これにより、筐体10の溝11内に多心ケーブル1を挿入する際に、多心ケーブル1を筐体10の溝11内へ押圧しやすくなるとともに、多心ケーブル1と筐体10(溝11の内面)との接触面積を小さくすることができ、多心ケーブル1の溝11への挿入がより容易になる。本実施の形態では、シース4として、厚さ0.8mmのポリ塩化ビニルからなるものを用いた。
【0053】
(熱検知線2の評価試験)
第1導体211として、直径0.9mm、引張強さ998.9MPa、伸び2.4%の単線のリン青銅(錫7mass%以上9mass%以下、リン0.03mass%以上0.35mass%以下、残部が銅と微量の不可避不純物)を用いた熱検知線2を試作して実施例とし、その動作について評価を行った。評価に際しては、熱検知線2の長さを80m、100m、400mとし、それぞれの熱検知線2を恒温槽内に導入し、第1導体211同士が短絡するまでの時間を測定した。恒温槽内の温度は、80℃、100℃、120℃、140℃とし、それぞれ試験を行った。
【0054】
同様にして、第1導体211として、引張強さ891.0MPa、伸び2.3%のリン青銅(錫5.5mass%以上7mass%以下、リン0.03mass%以上0.35mass%以下、残部が銅と微量の不可避不純物)を用いた以外は実施例と同じ構成の比較例1の熱検知線を試作し、実施例と同様に評価を行った。また、第1導体211として、引張強さ676.7MPa、伸び1.9%の0.7%錫入り銅合金(錫約0.7mass%、残部が銅と微量の不可避不純物)を用いた以外は実施例と同じ構成の比較例2の熱検知線を試作し、実施例と同様に評価を行った。実施例と比較例1,2に用いた第1導体211を表1にまとめて示す。
【0056】
実施例の熱検知線2、及び比較例1,2の熱検知線について評価を行ったところ、比較例1,2の熱検知線については、いずれの長さ、及びいずれの温度においても、第1導体211同士の短絡が生じず、熱検知線が正常に動作しなかった。これに対して、実施例の熱検知線2の測定結果を表2に示す。
【0058】
表2に示すように、実施例の熱検知線2では、いずれの長さにおいても、80℃で2時間動作せず、100℃以上で数分(ほぼ3分以内)で動作しており、良好な動作が得られていることが確認できた。
【0059】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る熱検知線2では、第1導体211が、非磁性体であり、かつ引張強さが900MPa以上の銅合金からなる。
【0060】
このように構成することで、非接触給電用の多心ケーブル1に内蔵された際における効率低下を抑制でき、長距離にわたって配線された場合であっても断線等の不具合を抑制でき、かつ導体抵抗の低下を抑えてケーブル内の温度上昇を精度よく検知することが可能になる。
【0061】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0062】
[1]導体(211)及び前記導体(211)の周囲を覆う絶縁体(212)を有する一対の熱検知用電線(21)を撚り合わせた対撚線(22)を含み、前記導体(211)が、非磁性体であり、かつ引張強さが900MPa以上の銅合金からなる、熱検知線(2)。
【0063】
[2]前記一対の熱検知用電線(21)は、所定温度で前記絶縁体(212)が軟化あるいは溶融したときに、前記導体(211)が互いに近づこうとする力によって前記導体(211)同士が前記対撚線(22)の中心側へ移動し、前記導体(211)同士が接触する、[1]に記載の熱検知線(2)。
【0064】
[3]前記絶縁体(212)の融点が80℃よりも大きく100℃未満であり、80℃の環境下で前記短絡が発生せず、100℃の環境下で5分以内に前記短絡が発生する、[2]に記載の熱検知線(2)。
【0065】
[4]前記導体(211)は、錫を7mass%以上9mass%以下含み、かつ、リンを0.03mass%以上0.35mass%以下含むリン青銅からなる、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の熱検知線(2)。
【0066】
[5]前記導体(211)の伸びが、10%以下である、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の熱検知線(2)。
【0067】
[6]前記対撚線(22)は、その周囲がジャケット(24)で覆われており、前記ジャケット(24)が、内層と外層とを有し、前記外層の厚さが、前記内層の厚さよりも大きい、[1]乃至[5]の何れか1項に記載の熱検知線(2)。
【0068】
[7]前記対撚線(22)は、その周囲がジャケット(24)で覆われており、前記ジャケット(24)の周囲に補強層(25)を有し、前記補強層(25)は、前記ジャケット(24)の周囲に樹脂テープが螺旋状に巻かれてなるテープ層である、[1]乃至[6]の何れか1項に記載の熱検知線(2)。
【0069】
[8][1]乃至[7]の何れか1項に記載の熱検知線(2)と、複数本の電線(3)と、前記熱検知線(2)及び前記複数本の電線(3)を一括して覆うシース(4)と、を備え、前記熱検知線(2)の前記絶縁体(212)の融点が、前記複数本の電線(3)の絶縁体(32)の融点より低い、多心ケーブル(1)。
【0070】
[9]前記熱検知線(2)の周囲に前記複数本の電線(3)が螺旋状に撚り合わされている、[8]に記載の多心ケーブル(1)。
【0071】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【解決手段】熱検知線2は、第1導体211及び第1導体211の周囲を覆う第1絶縁体212を有する一対の熱検知用電線21を撚り合わせた対撚線22を含み、第1導体211が、非磁性体であり、かつ引張強さが900MPa以上の銅合金からなる。