特許第6844757号(P6844757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6844757ウレタン樹脂組成物、皮膜、及び、合成皮革
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844757
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】ウレタン樹脂組成物、皮膜、及び、合成皮革
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/00 20060101AFI20210308BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20210308BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20210308BHJP
   C08G 18/72 20060101ALI20210308BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20210308BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20210308BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20210308BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20210308BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   C08G18/00 C
   C08G18/08 019
   C08G18/44
   C08G18/72 020
   C08G18/32 025
   C08G18/65 023
   C09D175/04
   C09D5/02
   D06N3/14 101
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-544877(P2020-544877)
(86)(22)【出願日】2019年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2019047147
(87)【国際公開番号】WO2020129605
(87)【国際公開日】20200625
【審査請求日】2020年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2018-236367(P2018-236367)
(32)【優先日】2018年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124143
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】曾 雅怡
(72)【発明者】
【氏名】前田 亮
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/159228(WO,A1)
【文献】 特開平04−114025(JP,A)
【文献】 特開平07−150479(JP,A)
【文献】 特開2013−217006(JP,A)
【文献】 特開2018−104486(JP,A)
【文献】 特開2005−041991(JP,A)
【文献】 特開2016−027118(JP,A)
【文献】 特開2016−027119(JP,A)
【文献】 特開2014−185320(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0029144(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
C09D 1/00 − 10/00
C09D 101/00 − 201/10
D06N 1/00 − 7/06
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性ウレタン樹脂(X)、及び、水(Y)を含有するウレタン樹脂組成物であって、
前記ウレタン樹脂組成物が、乳化剤(Z)を含まないものであり、
前記アニオン性ウレタン樹脂(X)が、
ブタンジオール、及び、バイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)を含むポリオール(a)と、
脂肪族ポリイソシアネート(b1)及び脂環式ポリイソシアネート(b2)を含むポリイソシアネート(b)とを必須原料とするものであり、
前記ポリカーボネートポリオール(a1)における、前記ブタンジオール(C4)と前記バイオマス由来のデカンジオール(C10)とのモル比[(C4)/(C10)]が、75/25〜98/2の範囲であることを特徴とするウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪族ポリイソシアネート(b1)と前記脂環式ポリイソシアネート(b2)とのモル比[(b1)/(b2)]が、10/90〜90/10の範囲である請求項1記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記アニオン性ウレタン樹脂(X)が、更にアミノ基を有する鎖伸長剤(d1)を原料とするものであり、かつ、水酸基を有する鎖伸長剤(d2)を原料としないものである請求項1又は2記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記アニオン性ウレタン樹脂(X)の酸価が、5〜15mgKOH/gの範囲である請求項1〜のいずれか1項記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項記載のウレタン樹脂組成物により形成されたことを特徴とする皮膜。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項記載のウレタン樹脂組成物により形成された表皮層を有することを特徴とする合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン樹脂組成物、皮膜、及び、合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン樹脂が水中に分散したウレタン樹脂組成物は、従来の有機溶剤系ウレタン樹脂組成物と比較して、環境への負荷を低減できることから、合成皮革(人工皮革含む。)、手袋、カーテンやシーツ等のコーティング剤などを製造する材料として、近年好適に使用され始めている。また、近年では、地球温暖化や石油資源枯渇の問題を背景に、石油など化石資源の使用量を削減すべく、植物などのバイオマス原料への世界的な需要が高まっている。
【0003】
前記ウレタン樹脂組成物としては、特に、車輛用内装材として使用される合成皮革に用いられる場合には、高い耐久性が要求される。この耐久性の評価項目は多岐にわたり、例えば、耐熱性、耐湿熱性、耐光性、耐薬品性、耐摩耗性などが挙げられる(例えば、特許文献1を参照。)。これらの中でも、合成皮革は人体に頻繁に接触するため、皮脂に含まれるオレイン酸に対する耐性が強く求められるが、水系ウレタン樹脂では、溶剤系ウレタン樹脂に比べ、耐オレイン酸性が劣るとの指摘がなされていた。
【0004】
また、近年では、寒冷地域での使用を想定し、低温での屈曲性の要求レベルもあがっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−222921公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、水を含有するウレタン樹脂組成物において、バイオマス原料を用い、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性に優れるウレタン樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アニオン性ウレタン樹脂(X)、及び、水(Y)を含有するウレタン樹脂組成物であって、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)が、バイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)を含むポリオール(a)と、脂肪族ポリイソシアネート(b1)及び脂環式ポリイソシアネート(b2)を含むポリイソシアネート(b)とを必須原料とすることを特徴とするウレタン樹脂組成物を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、前記ウレタン樹脂組成物の乾燥皮膜、及び、該皮膜を表皮層とする合成皮革を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のウレタン樹脂組成物は、水を含有し、更にバイオマス由来の原料を用いるものであり、環境対応型の材料であり、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性に優れる皮膜を形成できるものである。更に、特定の要件を備える場合には、耐加水分解性にも優れる皮膜を形成することができる。よって、本発明のウレタン樹脂組成物は、合成皮革の材料として好適に用いることができ、特に表皮層を形成する材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のウレタン樹脂組成物は、特定の原料を必須とするアニオン性ウレタン樹脂(X)、及び、水(Y)を含有するものである。
【0011】
前記アニオン性ウレタン樹脂(X)は、優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性を得る上で、デカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)を含むポリオール(a)と、脂肪族ポリイソシアネート(b1)及び脂環式ポリイソシアネート(b2)を含むポリイソシアネート(b)とを必須原料とするものである。
【0012】
前記バイオマス由来のデカンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)は、優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性を得る上で必須の成分である。また、前記デカンジオールは、バイオマス由来の原料でもあるため、環境に更に優しい材料を提供することができる。前記ポリカーボネートポリオール(a1)としては、例えば、バイオマス由来のデカンジオールを含むグリコール化合物と、炭酸エステル及び/又はホスゲンとの反応物を用いることができ、具体的には、特開2018−127758号公報等に記載されたものを用いることができる。
【0013】
前記デカンジオールとしては、より一層優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、1,10−デカンジオールを用いることが好ましい。
【0014】
前記デカンジオール以外に用いることができるグリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,8−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ε−カプロラクトン、ネオペンチルグリコール等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、ブタンジオールを用いることが好ましく、1,4−ブタンジオールがより好ましい。
【0015】
前記バイオマス由来のデカンジオールと、前記ブタンジオールとを併用する場合には、その合計使用量としては、前記グリコール化合物中50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましい。
【0016】
また、前記バイオマス由来のデカンジオール(C10)と、ブタンジオール(C4)とを併用する場合には、そのモル比[(C4)/(C10)]としては、より一層優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、5/95〜95/5の範囲であることが好ましく、50/50〜98/2の範囲がより好ましく、75/25〜95/5の範囲が更に好ましい。
【0017】
前記炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記ポリカーボネートジオール(a1)の数平均分子量としては、より一層優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、500〜100,000の範囲が好ましく、700〜10,000の範囲がより好ましく、1,500〜3,500の範囲が更に好ましく、2,500〜3,500の範囲が特に好ましい。なお、前記ポリカーボネートジオール(a1)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0019】
前記好ましいポリカーボネートポリオール(a1)としては、例えば、三菱化学株式会社製「ベネビオールNL−3010DB」等を市販品として入手することができる。
【0020】
前記ポリオール(a)は、前記ポリカーボネートポリオール(a1)以外にも、必要に応じてその他のポリオールを併用してもよい。前記ポリオール(a)中における前記ポリカーボネートポリオール(a1)の含有率としては、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
【0021】
前記その他のポリオールとしては、例えば、前記(a1)以外のポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリアクリルポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記ポリイソシアネート(b)としては、優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性を得る上で、脂肪族ポリイソシアネート(b1)及び脂環式ポリイソシアネート(b2)を含むことが必須である。
【0023】
前記脂肪族ポリイソシアネート(b1)としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等を用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記脂環式ポリイソシアネート(b2)としては、例えば、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等を用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記脂肪族ポリイソシアネート(b1)及び脂環式ポリイソシアネート(b2)とのモル比[(b1)/(b2)]としては、より一層優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、10/90〜90/10の範囲であることが好ましく、20/80〜80/20の範囲がより好ましい。
【0026】
前記ポリイソシアネート(b)は、前記脂肪族ポリイソシアネート(b1)、脂環式ポリイソシアネート(b2)以外にも必要に応じて、その他のポリイソシアネートを併用することもできる。前記ポリイソシアネート(b)中における前記脂肪族ポリイソシアネート(b1)、及び、脂環式ポリイソシアネート(b2)の合計使用量としては、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましい。
【0027】
前記その他のポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート等を用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明で用いる前記アニオン性ウレタン樹脂(X)は、具体的には、例えば、前記ポリオール(a)、前記ポリイソシアネート(b)、アニオン性基を有する化合物(c)、及び、必要に応じて鎖伸長剤(c)の反応物を用いることができる。
【0029】
前記アニオン性基を有する化合物(c)としては、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−吉草酸等のカルボキシル基を有する化合物;3,4−ジアミノブタンスルホン酸、3,6−ジアミノ−2−トルエンスルホン酸、2,6−ジアミノベンゼンスルホン酸、N−(2−アミノエチル)−2−アミノスルホン酸、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエチルスルホン酸、N−2−アミノエタン−2−アミノスルホン酸、N−(2−アミノエチル)−β−アラニン、これらの塩等のスルホニル基を有する化合物などを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記アニオン性基を有する化合物(c)の使用率としては、アニオン性ウレタン樹脂(X)を構成する原料中、0.1〜20質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜10質量%の範囲がより好ましい。
【0031】
前記鎖伸長剤(d)は、分子量が500未満(好ましくは、50〜450の範囲)のものであり、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、ヒドラジン等のアミノ基を有する鎖伸長剤(d1);
【0032】
エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、トリメチロールプロパン等の水酸基を有する鎖伸長剤(a2−1)などを用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、前記鎖伸長剤(d)の分子量は、化学式から算出される化学式量を示す。
【0033】
前記鎖伸長剤(d)としては、前記したものの中でも、より一層優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、アミノ基を有する鎖伸長剤(d1)を原料とし、水酸基を有する鎖伸長剤(d2)を原料としないことが好ましい。
【0034】
前記鎖伸長剤(d)を用いる場合の使用率としては、アニオン性ウレタン樹脂(X)を構成する原料中、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜7質量%の範囲がより好ましい。
【0035】
前記アニオン性ウレタン樹脂(X)の製造方法としては、例えば、原料ポリオール(a)、前記ポリイソシアネート(b)、前記アニオン性基を有する化合物(c)、及び必要に応じて、前記鎖伸長剤(d)を一括に仕込み反応させる方法;前記ポリオール(a)、前記ポリイソシアネート(b)、及び、前記アニオン性基を有する化合物(c)を反応させてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得、次いで、該ウレタンプレポリマーと前記鎖伸長剤(d)を反応させる方法等が挙げられる。これらの中でも、後者の方法が反応を制御しやすい点から好ましい。
【0036】
前記後者の反応方法を使用する場合の、前記ポリオール(a)及び前記アニオン性基を有する化合物(c)が有する水酸基と、前記ポリイソシアネート(b)が有するイソシアネート基とのモル比[NCO/OH]としては、より一層優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、1.1〜1.7の範囲であることが好ましく、1.3〜1.6の範囲がより好ましい。
【0037】
また、その後のウレタンプレポリマーが有するイソシアネート基と、前記鎖伸長剤(d)が有する水酸基及びアミノ基とのモル比[NCO/OH+NH]としては、0.7以上1未満であることが好ましい。
【0038】
上記反応は、いずれも、例えば、50〜100℃で30分〜10時間行うことが挙げられる。
【0039】
前記アニオン性ウレタン樹脂(X)を製造する際には、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)に残存するイソシアネート基を失活させてもよい。前記イソシアネート基を失活させる場合には、メタノール等の水酸基を1個有するアルコールを用いることが好ましい。前記アルコールの使用量としては、アニオン性ウレタン樹脂(X)100質量部に対し、0.001〜10質量部の範囲が挙げられる。
【0040】
また、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)を製造する際には、有機溶剤を用いてもよい。前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド化合物などを用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、前記有機溶剤は、最終的には蒸留法等によって除去されることが好ましい。
【0041】
ウレタン樹脂組成物中における前記ウレタン樹脂(X)の含有率としては、例えば、10〜60質量%の範囲が挙げられる。
【0042】
前記水(Y)としては、例えば、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。これらの水は単独で用いても2種以上を併用してもよい。前記水(Y)の含有率としては、例えば、35〜85質量%の範囲が挙げられる。
【0043】
本発明のウレタン樹脂組成物は、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)と前記水(Y)とを含有するものであるが、必要に応じて、その他の添加剤を含有していてもよい。
【0044】
前記その他の添加剤としては、例えば、中和剤、架橋剤、増粘剤、ウレタン化触媒、充填剤、発泡剤、顔料、染料、撥油剤、中空発泡体、難燃剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0045】
なお、本発明においては、より一層優れた耐加水分解性、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、前記ウレタン樹脂組成物に乳化剤(Z)を含まないことが好ましい。
【0046】
前記乳化剤(Z)としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン性乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等のアニオン性乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン性乳化剤などが挙げられる。
【0047】
また、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)の酸価としては、より一層優れた耐加水分解性、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点、並びに、前記乳化剤(Z)を用いなくても良好な乳化性、及び、乳化後の液安定性が得られる点から、5〜15mgKOH/gの範囲であることが好ましい。前記アニオン性ウレタン樹脂(X)の酸価は、原料である前記アニオン性基を有する化合物(c)の使用量によって調節することができる。なお、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)の酸価の測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0048】
以上、本発明のウレタン樹脂組成物は、水を含有する環境対応型の材料であり、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性に優れる皮膜を形成できるものである。更に、特定の要件を備える場合には、耐加水分解性にも優れる皮膜を形成することができる。よって、本発明のウレタン樹脂組成物は、合成皮革の材料として好適に用いることができ、特に表皮層を形成する材料として好適に用いることができる。
【0049】
次に、本発明のウレタン樹脂組成物を表皮層の材料とした合成皮革について説明する。
【0050】
前記合成皮革としては、例えば、少なくとも、基布、及び、表皮層を有するものが挙げられる。
【0051】
前記基布としては、例えば、プラスチック基材;不織布、織布、編み物等の繊維基材を使用することができる。これらの中でも、良好な柔軟性が得られる点から、繊維基材を用いることが好ましい。前記繊維基材を構成するものとしては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、アセテート繊維、レーヨン繊維、ポリ乳酸繊維、綿、麻、絹、羊毛、それらの混紡繊維等を使用することができる。
【0052】
前記表皮層の厚さとしては、例えば、5〜100μmの範囲が挙げられる。
【0053】
前記合成皮革としては、必要に応じて、湿式多孔層、中間層、接着層、及び、表面処理層からなる群より選ばれる1種以上の層が更に設けられていてもよい。これらの相を構成する材料はいずれも公知のものを用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0055】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却器、温度計、及び、窒素導入管を備えた四つ口フラスコに、窒素気流下、ポリカーボネートポリオール(三菱化学株式会社製「ベネビオールNL−3010DB」、1,4−ブタンジオール及びバイオマス由来の1,10−デカンジオールを原料とするもの、モル比[(C4)/(C10)]=90/10、数平均分子量;3,000、以下、「バイオPC」と略記する。)250質量部、メチルエチルケトン100質量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸(以下「DMPA」と略記する。)11質量部を加え、十分に撹拌混合した。その後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアエンート(以下「HMDI」と略記する。)18質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下「HDI」と略記する。)25質量部、次いで、カルボン酸ビスマス0.03質量部を加え、75℃で約4時間反応させ、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
次いで、トリエチルアミン8質量部を加え、ウレタンプレポリマー中のカルボキシル基を中和した後、イオン交換水825質量部を加え、次いで、ピペラジン(以下「Pip」と略記する。)2.81質量部を加え反応させた。反応終了後、メチルエチルケトンを減圧留去することで、ウレタン樹脂組成物(不揮発分;30質量%、酸価;14.76mgKOH/g)を得た。
【0056】
[実施例2〜9、比較例1〜3]
用いる材料の種類及び表を表1〜2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてウレタン樹脂組成物を得た。
【0057】
[数平均分子量の測定方法]
実施例および比較例で用いたポリオール等の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定し得られた値を示す。
【0058】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0059】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0060】
[アニオン性ウレタン樹脂(X)の酸価の測定方法]
実施例及び比較例で得られたウレタン樹脂組成物を乾燥し、乾燥固化した樹脂粒子の0.05g〜0.5gを、300mL三角フラスコに秤量し、次いで、テトラヒドロフランとイオン交換水との質量割合[テトラヒドロフラン/イオン交換水]が80/20の混合溶媒約80mLを加えそれらの混合液を得た。
次いで、前記混合液にフェノールフタレイン指示薬を混合した後、あらかじめ標定された0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液で滴定し、滴定に用いた水酸化カリウム水溶液の量から下記計算式(1)に従い、水性ウレタン樹脂(A)の酸価(mgKOH/g)を求めた。
計算式 A=(B×f×5.611)/S (1)
式中、Aは樹脂の固形分酸価(mgKOH/g)、Bは滴定に用いた0.1mol/L水酸化カリウム水溶液の量(mL)、fは0.1mol/L水酸化カリウム水溶液のファクター、Sは樹脂粒子の質量(g)、5.611は水酸化カリウムの式量(56.11/10)である。
【0061】
[耐オレイン酸性の評価方法]
実施例及び比較例で得られたウレタン樹脂組成物100質量部、及び、増粘剤(DIC株式会社製「ハイドラン アシスターT10」)1質量部を配合した配合液を、フラット離型紙(リンテック株式会社製「EK−100D」)上に、乾燥後の膜厚が30μmとなるように塗布し、70℃で2分間、120℃で2分間乾燥させて、ポリウレタンフィルムを得た。次いで、このポリウレタンフィルムを幅5mm、長さ50mmの短冊状に裁断し、試験片とした。この試験片を引張試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフAG−I」)を使用して、チャック間距離;40mm、引張速度;10mm/秒、温度23℃の条件下で引張試験を行い、100%伸長した際の応力(100%モジュラス、以下「100%M(1)」)を測定した。
【0062】
次いで、別の試験片を23℃でオレイン酸に24時間浸漬した後、取り出して、表面に付着したオレイン酸を拭き取った。その後、同様にして100%モジュラス値(以下「100%M(2)」)を測定した。前記100%M(2)を前記100%M(1)で除した値を保持率として算出し、以下のように評価した。
「A」:保持率が50%以上である。
「B」:保持率が30%以上50%未満である。
「C」:保持率が30%未満である。
【0063】
[低温屈曲性の評価方法]
実施例及び比較例で得られたウレタン樹脂組成物100質量部、黒色顔料(DIC株式会社製「ダイラックHS−9530」)10質量部、増粘剤(DIC株式会社製「ハイドラン アシスターT10」)1質量部を配合した配合液を、フラット離型紙(味の素株式会社製「DN−TP−155T」)上に、乾燥後の膜厚が30μmとなるように塗布し、70℃で2分間、120℃で2分間乾燥させて、表皮層を得た。
次いで、ウレタン樹脂接着剤(DIC株式会社製「ハイドランWLA−515AR」)を100質量部、増粘剤(DIC株式会社製「ハイドラン アシスターT10」)1質量部、ポリイソシアネート架橋剤(DIC株式会社製「ハイドラン アシスターC5」)8質量部を配合した配合液を、前記表皮層上に、乾燥後の膜厚が50μmとなるように塗布し、70℃で3分間乾燥させた。乾燥後、直ちにT/R起毛布を貼り合わせた後、120℃で2分間熱処理し、次いで、50℃で2日間熟成させた後、離型紙を剥がして合成皮革を得た。
得られた合成皮革を、フレキソメーター(株式会社安田精機製作所製「低温槽付きフレキソメーター」)での屈曲性試験(−10℃、100回/毎分)を行い、合成皮革の表面に割れが生じるまでの回数を測定し、以下のように評価した。
「A」:30,000回以上
「B」:10,000回以上30,000回未満
「C」:10,000回未満
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
なお、表中の略語は以下のものである。
「C6」;1,6−ヘキサンジオール
「他PC」;石油資源由来の1,6−ヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール(数平均分子量;2,000)
「NCO/OH」;ウレタンプレポリマーを合成する際の前記ポリオール(a)及び前記アニオン性基を有する化合物(c)が有する水酸基と、前記ポリイソシアネート(b)が有するイソシアネート基とのモル比
「IPDA」;イソホロンジアミン
「EDA」;エチレンジアミン
「PP−NCO/OH」;ウレタンプレポリマーが有するイソシアネート基と、前記鎖伸長剤(d)が有するアミノ基とのモル比[NCO/NH]としては、0.7以上1未満であることが好ましい。
【0067】
本発明のウレタン樹脂組成物は、バイオマス原料を用い、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性に優れることが分かった。
【0068】
一方、比較例1は、ポリカーボネートポリオール(a1)の代わりに、石油資源由来のヘキサンジオールを原料とするポリカーボネートポリオールを用いた態様であるが、耐オレイン酸性が特に不良であった。
【0069】
比較例2は、脂肪族ポリイソシアネート(b1)を用いない態様であるが、低温屈曲性が不良であった。
【0070】
比較例3は、脂環式ポリイソシアネート(b2)を用いない態様であるが、耐オレイン酸性が不良であった。