【実施例】
【0059】
実施例1
採血管A(ブチルゴム製ゴム栓、3.2%クエン酸ナトリウム含有、Sunphoria社製品)及び採血管B(フィルムシールでシールし、ゴム栓を用いない;3.2%クエン酸ナトリウム含有、テルモ株式会社製品)に採血を行い、ROTEMの測定を実施した。
反応開始は、以下の異なる試薬を用いた。
(1)採血管Aの血液にSTARTEM(商標)試薬(塩化カルシウム;終濃度12mM)を添加
(2)採血管Aの血液にCTI(終濃度50μg/mL)と塩化カルシウム(終濃度12mM)を添加
(3)採血管Aに採血前にアプロチニン(終濃度10μg/mL)を添加して採血を行い、CTI(終濃度50μg/mL)と塩化カルシウム(終濃度12mM)を添加
(4)採血管Aに採血前にアプロチニン(終濃度10μg/mL)とCTI(終濃度10μg/mL)を添加して採血を行い、STARTEM試薬(塩化カルシウム;終濃度12mM)を添加
(5)採血管Aに採血前にアプロチニン(終濃度10μg/mL)とCTI(終濃度10μg/mL)を添加して採血を行い、CTI(終濃度50μg/mL)とSTARTEM試薬(塩化カルシウム;終濃度12mM)を添加
(6)採血管Bの血液にSTARTEM試薬(塩化カルシウム、終濃度12mM)を添加
(7)採血管Bの血液にCTI(終濃度50μg/mL)と塩化カルシウム(終濃度12mM)を添加
【0060】
結果を
図3に示す。
ブチルゴムのゴム栓の採血管に採血した血液は、フィルムシールの採血管と比べて、塩化カルシウム添加時に、早く血液凝固が起こった。さらに、フィルムシールの採血管の血液は、CTIを添加することで塩化カルシウム誘発血液凝固が抑制されたのに対し、ブチルゴムのゴム栓の採血管では、CTIを添加することによる塩化カルシウム誘発血液凝固の抑制は限定的であった。しかし、ブチルゴムのゴム栓の採血管にアプロチニン及び比較的低濃度のCTIを添加して採血された血液に塩化カルシウムを添加した場合には、血液凝固が顕著に抑制され、さらに塩化カルシウムとCTIの混合物を添加して血液凝固を開始した場合には、より強く血液凝固が抑制された。アプロチニンと低濃度のCTIを事前に添加して採血し、測定時にCTIを再度添加するのが最もよく血液凝固を抑制する。
【0061】
実施例2
採血管C(ブチルゴム製ゴム栓、低分子へパリン2IU/mL含有Sunphoria社製)に採血した血液(検体A)と、採血管Cに採血前にアプロチニン(終濃度10μg/mL)を添加した後に採血した血液(検体B)と、採血管Cに採血前にアプロチニン(終濃度10μg/mL)とCTI(終濃度10μg/mL)を添加した後に採血した血液(検体C)を用いてROTEMの解析を実施した。反応の開始は以下の試薬で行った。
(1)検体Aにへパリナーゼ(終濃度0.17IU/mL)を添加
(2)検体Bにへパリナーゼ(終濃度0.17IU/mL)とCTI(終濃度50μg/mL)を添加
(3)検体Bにへパリナーゼ(終濃度0.17IU/mL)とCTI(終濃度50μg/mL)を添加
【0062】
結果を
図4に示す。
低分子へパリンを含むゴム栓の採血管に採血し、へパリナーゼを添加した場合、血液凝固は早期に始まった。また、(1)のケースでへパリナーゼに加えてCTI 50μg/mLを測定開始時に添加した場合にも、血液凝固は抑制されなかった。
一方、低分子へパリンとアプロチニン及びCTIを事前に添加して採血し、測定開始時にへパリナーゼとCTIを添加した場合には、顕著に血液凝固が抑制された。
【0063】
実施例3
採血管Aに採血した血液および採血管Aに採血前にアプロチニン(終濃度10μg/mL)を添加した後に採血した血液に塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)を添加して、
図2の装置を用いて血栓形成能の解析を行った。流速は10μL/minで解析を実施した。
【0064】
結果を
図5に示す。
クエン酸に加えてアプロチニンを添加して採血した場合にも、血流下の血栓形成能の評価でデータに影響は無かった。しかし、実施例1の結果より、リザーバー内での非血流下における血液凝固(クロット形成)は抑制されると考えられ、アプロチニンを添加することで、リザーバー内で血液凝固を抑制しつつ非血流下の白色血栓形成の評価が可能であると考えられる。
【0065】
参考例
採血管Bで採取された血液に塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL) を添加、および採血管Cで採取された血液にへパリナーゼ(終濃度0.17IU/mL)を添加して、それぞれ
図2の装置を用いて血栓形成能の解析を行った。
【0066】
結果を
図6に示す。
クエン酸処理血液に塩化カルシウムとCTIを添加した場合と同様に、ゴム栓の採血管(低分子へパリンとCTIを含む)にへパリナーゼを添加して測定しても血栓形成能の解析が可能であった。
【0067】
実施例4
低分子へパリン(終濃度2IU/mL)とCTI(終濃度50μg/mL)を含む真空採血管、ヒルジン採血管(Roche Diagnostic社製、ヒルジン終濃度 50μg/mL)及びBAPA採血管(BAPA終濃度100μM)に採血した血液を用い、
図1に示される装置を用いて血小板血栓形成の測定を行った。
何れの真空採血管もブチルゴムのゴム栓を用いたものである。
【0068】
その結果、
図7に示すように、各採血管の血液は、同様に血小板血栓形成を解析することが可能であった。また、低分子へパリンとCTIを含む採血管の血液に採血30分後にへパリナーゼ・BAPA試薬(終濃度;各0.17IU/mL, 100μM)を添加した場合においても、同様に血小板血栓形成の測定が可能であった。
【0069】
実施例5
BD社製へパリン採血管に採血し、その30分後に、当該血液に、へパリナーゼ・BAPA混合試薬を、それぞれ終濃度が0.17IU/mLと100μMになるように添加し、血液試料とした。
一方、比較として、ヒルジン採血管(Roche Diagnostic社)に採血した血液試料を用いた。
これらの血液試料を用い、
図1に示される装置を用いて血小板血栓形成の測定流速を行った。血液は18μL/minで実施した。
何れの真空採血管もブチルゴムのゴム栓を用いたものである。
【0070】
結果を
図8に示す。
へパリン採血管に採血した血液にへパリナーゼ・BAPA混合試薬を添加することで、ヒルジン採血管で採血した場合と同様に血小板血栓形成の解析を行うことが可能であった。
一方、へパリン採血管に採血した血液をそのまま同様の測定を行った場合には、血小板血栓形成による圧力上昇は、ほとんど見られなかった。
【0071】
実施例6
BD社製クエン酸ナトリウム採血管(3.2%クエン酸ナトリウムを血液に対し1/10容量含む)に採血した血液検体に、以下の試薬を添加してROTEMの測定を実施した。
(1)STARTEM試薬
(2)塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)
(3)塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)とアプロチニン(終濃度20μg/mL)
(4)塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)とアプロチニン(終濃度20μg/mL)とダナパロイドナトリウム(終濃度0.25U/mL)
【0072】
結果を
図9に示す。
結果は、左より(凝固開始の早い方より)、(1)、(2)、(3)、(4)である。
塩化カルシウムとCTIに加えて、アプロチニンの添加で凝固開始が抑制され、さらに低濃度のダナパロイドナトリウムを添加することで血液凝固が完全に抑制された。
尚、(3)、(4)の添加によっても組織因子とコラーゲンを塗布したマイクロチップにおける混合白色血栓形成は、同様の結果が得られた。
【0073】
実施例7
BD社製クエン酸ナトリウム採血管(3.2%クエン酸ナトリウムを血液に対し1/10容量含む)に採血した血液検体に、以下の試薬を添加してROTEMの測定を実施した。
(1)STARTEM試薬(塩化カルシウム試薬)
(2)塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)
(3)塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)とアプロチニン(終濃度20μg/mL)
(4)塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)とアプロチニン(終濃度20μg/mL)とへパリンナトリウム(持田製薬:終濃度0.15U/mL)
【0074】
結果を
図10に示す。
結果は、左より(凝固開始の早い方より)、(1)、(2)、(3)、(4)である。
塩化カルシウムとCTIに加えて、アプロチニンの添加で血液凝固の開始が抑制され、さらに低濃度のへパリンナトリウムを添加することで血液凝固が完全に抑制された。
【0075】
実施例8
採血管B(フィルムシールでシールし、ゴム栓を用いない;3.2%クエン酸ナトリウム含有、テルモ株式会社製品)に採血した血液に、塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)を添加した血液検体及びBD社製クエン酸ナトリウム採血管(3.2%クエン酸ナトリウムを血液に対し1/10容量含む)に採血した血液に、塩化カルシウム(終濃度12mM)、CTI(終濃度50μg/mL)、アプロチニン(終濃度20μg/mL)及びへパリンナトリウム(終濃度0.15U/mL)を添加した血液検体を用い、
図2の装置を用いて血栓形成能の解析を行った。流速は10μL/minで解析を実施した。
【0076】
結果を
図11に示す。
テルモ社製フィルムシールの採血管と同様に、BD社製のブチルゴムのゴム栓を用いた採血管により白色血栓形成能の測定が可能であった。
【0077】
実施例9
A)採血管B(フィルムシールでシールし、ゴム栓を用いない;3.2%クエン酸ナトリウム含有、テルモ株式会社製品)に採血した血液に、塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)を添加した血液検体及びB)BD社製クエン酸ナトリウム採血管(3.2%クエン酸ナトリウムを血液に対し1/10容量含む)に採血した血液に、塩化カルシウム(終濃度12mM)、CTI(終濃度50μg/mL)、アプロチニン(終濃度20μg/mL)及びへパリンナトリウム(終濃度0.15U/mL)を添加した血液検体体を用い、
図2の装置を用いて血栓形成能の解析を行った。流速は10μL/minで解析を実施した(
図12(a))。
【0078】
さらに、上記A)、B)2種類の検体に、抗凝固薬であるリバロキサバン及びダビガトランをそれぞれ0nM、500nM及び1000nM添加して同様の測定を行った。
リバロキサバン及びダビガトランの結果をそれぞれ
図12の(b)および(c)に示す。
その結果、検体B)は検体A)と同様に、抗凝固薬の抗血栓効果を感度良く測定出来た。
【0079】
実施例10
BD社製クエン酸ナトリウム採血管(3.2%クエン酸ナトリウムを血液に対し1/10容量含む)に採血した血液検体に、以下の試薬を添加してROTEMの測定を実施した。
(1)塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)とアプロチニン(終濃度20μg/mL)とへパリンナトリウム(終濃度0.15U/mL)とプロトロンビン試薬(ヒーモスアイエル リコンビプラスチン(15μg/mL)を終濃度で約0.04%になるように添加)
(2)塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)とアプロチニン(終濃度20μg/mL)とへパリンナトリウム(終濃度0.15U/mL)とノボセブン(終濃度2μg/mL)とプロトロンビン試薬(ヒーモスアイエル リコンビプラスチンを終濃度で0.04%になるように添加)
(3)塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)とアプロチニン(終濃度20μg/mL)とへパリンナトリウム(終濃度0.15U/mL)と組織因子経路阻害剤(TFPI)(Ac-FQSKpNVHVDGYFERLXAKL-NH
2;N末端アセチル化, C末端アミド化,5番目 p= D体Pro残基, 17番目X= Aib(α-methyl alanine);J Biol Chem. 2014 Jan 17;289(3):1732-41;終濃度10μg/mL)とプロトロンビン試薬(ヒーモスアイエル リコンビプラスチンを終濃度で0.04%になるように添加)
【0080】
結果を
図13に示す。左から(2)、(3)、(1)の順で凝固は早く起きた。
【0081】
比較例
BD社製クエン酸ナトリウム採血管(3.2%クエン酸ナトリウムを血液に対し1/10容量含む)に採血した血液検体に、以下の試薬を添加してROTEMの測定を実施した。
(1)STARTEM試薬とEXTEM試薬(商標:組織因子を主体とする検査用試薬)
(2)STARTEM試薬とEXTEM試薬とノボセブン(ノボノルディスクファーマ:終濃度2μg/mL)
(3)STARTEM試薬とEXTEM試薬とTFPI(終濃度10μg/mL)
【0082】
結果を
図14に示す。(1)、(2)、(3)が同じ波形を示した。
【0083】
実施例と比較例より、塩化カルシウムとアプロチニンとへパリンに組織因子を添加した系でノボセブン、TFPIなどの止血製剤の効果が評価出来たのに対し、EXTEM試薬の系では、評価することが出来なかった。
【0084】
実施例11
BD社製クエン酸ナトリウム採血管(3.2%クエン酸ナトリウムを血液に対し1/10容量含む)に採血した血液に、塩化カルシウム(終濃度12mM)、CTI(終濃度50μg/mL)、アプロチニン(終濃度20μg/mL)及びダナパロイドナトリウム(終濃度0.05U/mL)を添加した血液検体を用い、
図2の装置を用いて血栓形成能の解析を行った。流速は10μL/minで解析を実施した。
上記血液に、さらにダビガトラン(1000nM)またはAbciximab(抗血小板剤:商品名レオプロ)(2μg/mL)を添加した血液を用い同様の実験を実施した。
結果を
図15に示す。BD社製のブチルゴムのゴム栓を用いた採血管により白色血栓形成能の測定及び抗凝固剤、抗血小板剤の評価が可能であった。
【0085】
実施例12
BD社製クエン酸ナトリウム採血管(3.2%クエン酸ナトリウムを血液に対し1/10容量含む)に採血した血液検体に、塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)とアプロチニン(終濃度20μg/mL)とダナパロイドナトリウム(終濃度0.05U/mL)を添加してROTEMを測定した。
さらに、組換え第VIIa因子(商品名ノボセブン)(0.5μg/mL)、TFPI(50μg/mL)及びそれらの組み合わせを添加した血液の測定を行った。
結果を
図16に示す。
図16の(1)はノボセブン、TFPIともに添加せず、(2)はノボセブンのみ、(3)はTFPIのみ、(4)はノボセブン+TFPIである。
その結果、BD社製クエン酸ナトリウム採血管によりROTEMの測定及び止血製剤の効果の判定が可能であった。
【0086】
実施例13
BD社製クエン酸ナトリウム採血管(3.2%クエン酸ナトリウムを血液に対し1/10容量含む)に採血した血液検体に、塩化カルシウム(終濃度12mM)とCTI(終濃度50μg/mL)とアプロチニン(終濃度20μg/mL)とダナパロイドナトリウム(終濃度0.05U/mL)を添加してROTEMを測定した。
さらに、抗FVIIIポリクローナル抗体(FVIII阻害活性;96μg/mL;218 BU(FVIII阻害活性単位))ならびにノボセブン(0.5μg/mL)、TFPI(50μg/mL)及びそれらの組み合わせを添加した血液の測定を行った。
結果を
図17に示す。
図17の(1)は抗FVIIIポリクローナル抗体のみ、(2)は抗FVIIIポリクローナル抗体+ノボセブン、(3)はFVIIIポリクローナル抗体+TFPI、(4)はFVIIIポリクローナル抗体+ノボセブン+TFPIである。
BD社製クエン酸ナトリウム採血管によりROTEMの測定及び止血製剤の効果の判定が可能であった。