(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ドーナツなどの吸油性が高い揚げ物を油ちょうする時は、揚げ物を手で持ってもべたつきにくくすることや、サクッとした食感を出すことを目的に、しばしば室温で固形状の揚げ物用油脂が使われる。固形状の油脂を使用する場合、スコップなどですくいとってフライヤーへ投入する。
【0003】
固形状の揚げ物用油脂は10℃以下の冷蔵状態で流通することが一般的である。また、酸化劣化を抑制する目的で、使用する前まで冷蔵庫内で保管することがある。さらに、冬場のように気温が低い場合には室温で保管していても、揚げ物用油脂は冷たい状態となっている。その結果、使用した油脂によっては硬くてすくいとりにくく、作業しにくいことがある。
【0004】
パーム油は、常温で固体の油脂であり、揚げ物のべたつきを防止することやサクッとした食感を出すことに適している。また、パーム油に分別などの加工を行うことにより、適宜好ましい揚げ物用油脂に調整することができる。しかしながら、パーム油やその加工油脂などのパーム系油脂は低温では硬くなりやすく、フライヤーへの投入がしにくいという問題があった。
【0005】
フライヤーへの投入を容易にするために、硬化油が用いられることがある(特開平6−113742号)。しかしながら、トランス脂肪酸を多く含むため、健康上の問題があった。また、エステル交換油脂を含有させる手段も用いられている(特開2012−19700号)。しかしながら、油脂を適切に加工する必要があった。また、ヨウ素価49以上の分画しない精製パーム油、液体植物油、極度硬化油およびポリグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせて含有することを特徴とするフライ用油脂は、作業性がよいことが開示されている(特開平9−322708号)が、油染みの点で改善の余地があった。
【0006】
このように、パーム系油脂が高含量であっても、低温でのフライヤーへの投入を容易に行うことができる揚げ物用油脂組成物は今までに報告されていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の揚げ物用油脂組成物は、パーム系油脂が70質量%以上100質量%以下である原料油脂および気体を含む、10℃において固形状である揚げ物用油脂組成物であって、前記気体の量が大気圧下、10℃において32ml/100g以上115ml/100g以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明における大気圧としては、例えば1013hPaを採用することができる。
【0018】
本発明の揚げ物用油脂組成物に含まれる気体の種類は問わない。空気、窒素、二酸化炭素、アルゴンなどを例示できるが、空気または窒素を好ましく例示できる。
【0019】
本発明の揚げ物用油脂組成物に含まれる気体の量は、大気圧下、10℃において32ml/100g以上115ml/100g以下であり、好ましくは32ml/100g以上90ml/100g以下であり、より好ましくは42ml/100g以上90ml/100g以下である。上記の範囲とすることで、低温でのフライヤーへの投入を容易に行える油脂組成物を提供することが可能となる。なお、本発明において低温とは、油脂組成物の温度であって0℃から15℃である。また、揚げ物用油脂組成物に含まれる気体の量は、「ショートニングの日本農林規格第4条、ガス量の測定方法」に準じて測定したガス量を、シャルルの法則により10℃換算することで算出する。具体的には30℃でのガス量の測定値に、0.93403(=283.15÷303.15)を掛けて算出する。
【0020】
本発明の揚げ物用油脂組成物の原料油脂は、パーム系油脂を70質量%以上100質量%以下含み、好ましくは80質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下含む。
【0021】
本発明におけるパーム系油脂とは、パーム油、パーム油の分別油およびそれらの加工油(水素添加およびエステル交換反応のうち1以上の処理がなされたもの)であれば何れでもよく、好ましくはパーム油、パーム油の分別油、パーム油の水素添加油脂のいずれか1種または2種以上であり、より好ましくはパーム油、パーム油の分別油、パーム油の極度硬化油のいずれか1種または2種以上である。揚げ物の油染みを抑制する観点から、ヨウ素価が0以上75以下、好ましくは0以上70以下のパーム系油脂を用いることが好ましい。
【0022】
本発明の揚げ物用油脂組成物の原料油脂は、パーム系油脂以外の油脂を含んでいてもよい。例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、胡麻油、カカオ脂、シア脂、サル脂、パーム核油、ヤシ油、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択された一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。パーム系油脂とパーム系油脂以外の油脂とのエステル交換油を用いてもよい。本発明においては、これらの油脂の中から選ばれた1種または2種以上を用いることができ、揚げ物の油染みを抑制する観点から、5℃における固体脂含量が0.2%以上100%以下の油脂を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の揚げ物用油脂組成物は10℃において固形状である。本発明において固形状とは、その温度において一定の形と体積をもっている状態を意味する。
【0024】
本発明の揚げ物用油脂組成物の原料油脂は、10℃における固体脂含量が30%以上75%以下であることが好ましく、35%以上60%以下であることがより好ましく、40%以上55%以下であることがさらに好ましい。また、5℃における固体脂含量が35%以上85%以下であることが好ましく、40%以上75%以下であることがより好ましく、45%以上65%以下であることがさらに好ましい。所定の原料油脂を用いることで、気体を含むことによる低温でのフライヤーへの投入を容易にする効果が高まる。
【0025】
本発明の揚げ物用油脂組成物の原材料は、前記原料油脂、前記気体及び食品添加物等のその他の成分とする。前記気体を除く前記原材料中の前記原料油脂の含量は好ましくは95質量%以上100質量%以下、より好ましくは99質量%以上100質量%以下である。
【0026】
本発明の揚げ物用油脂組成物には、その効果を損なわない範囲において、従来公知の食品添加物を用いることができる。例えば、酸化防止剤、消泡剤、乳化剤、着色料、フレーバー等が挙げられる。
【0027】
酸化防止剤としては、L−アスコルビン酸やL−アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物、ローズマリー抽出物等が挙げられる。
【0028】
消泡剤としては、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0029】
乳化剤としては、例えば、レシチン、モノグリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0030】
着色料としては、カロテン、アスタキサンチン、アナトー等が挙げられる。
【0031】
フレーバーとしては、バターフレーバー、ミルクフレーバー等が挙げられる。
【0032】
本発明の揚げ物用油脂組成物は、前記原料油脂を含み気体を除く原材料に、急冷混和処理をおこなっている密封式急冷混和装置内で、気体を加圧下で注入することで製造することができる。密封式急冷混和装置での揚げ物用油脂組成物の製造について説明する。
【0033】
本発明の揚げ物用油脂組成物は、例えば、原料油脂を加温下で溶解し、溶解した原料油脂中に必要に応じて前述した食品添加物等のその他の成分を添加し、公知の方法で均一に分散、あるいは溶解させて、気体を除く原材料を調製する。
【0034】
製造工程において加温下で溶解状態にある前記原材料は、密封式急冷混和装置によって、急冷しながら練り合わせると、結晶化して半固形状や可塑性のある固形状態となる。急冷混和処理することで固体脂と液状油が分離状態となることを防止し、均質な揚げ物用油脂組成物を得ることができる。
【0035】
急冷混和処理は、通常の可塑性油脂組成物を製造する場合と同様にして行うことができる。例えば、冷却条件は、−20℃/分以下、好ましくは−25℃/分以下とすることができる。また、急冷混和処理は、従来公知の密封式急冷混和装置を用いて行うことができ、密封式急冷混和装置内で気体を注入する。気体注入を行うタイミングは、急冷混和処理をおこなっていれば密封式急冷混和装置内のいずれでもよく、冷却前、冷却中、冷却後のいずれであってもよい。気体注入時の圧力は、加圧されていれば特に制限はないが、好ましくは0.15MPa以上50MPa以下、より好ましくは0.15MPa以上40MPa以下、さらに好ましくは0.15MPa以上35MPa以下である。密封式急冷混和装置としては、ボテーター、パーフェクター、コンビネーター、オンレーター、ネクサス等が挙げられる。密封式急冷混和装置の出口での揚げ物用油脂組成物の温度は、通常は5〜40℃の範囲であり、固形状で採取することができる。
【0036】
通常、密封式急冷混和装置の出口は充填口となっており、製造した本発明の揚げ物用油脂組成物は、業務用等に使用される製品として出荷するために、密封式急冷混和装置の出口から天切り缶等の容器に充填される。
【0037】
本発明の揚げ物用油脂組成物は、業務用及び家庭用の揚げ調理に使用できる。例えば業務用の場合には、天切り缶等の容器に充填された固形状の揚げ物用油脂組成物を容器から器具によってすくい出してフライヤー等の油槽に投入する。このとき、本発明の揚げ物用油脂組成物は、スコップなどの器具を使って軽い力ですくいとることができ、また、すくいとった揚げ物用油脂組成物が器具から剥がれやすいことから、フライヤーへの投入が容易である。
【0038】
本発明の揚げ物用油脂組成物を熱媒体に用いて、通常の揚げ物に使用される具材や生地を、例えば120〜200℃、好ましくは150〜200℃に加熱して油ちょうすることにより揚げ物を得ることができる。
【0039】
本発明の揚げ物用油脂組成物は、揚げ物中に浸透する油脂含量が多い食品では、揚げ油の減りが早くためフライヤーへの揚げ物用油脂組成物の投入頻度が高くなるので好適である。前記食品としては、ドーナツ類、揚げパイ類、揚げ和菓子類等の揚げ菓子類や、揚げパン類等の揚げ物であり、中でもドーナツ類が好適である。
【0040】
本発明の揚げ物用油脂組成物をフライヤー等の油槽に入れた後、油ちょう温度までヒーター等で昇温させて加熱溶解する。揚げ物用油脂組成物の油温を制御しながら、生地等の油ちょうする食品を投入し、連続生産の場合にはコンベア等で搬送しながら、油ちょうする。揚げ物用油脂組成物の量、加熱温度及び加熱時間については、使用する食品の種類等により適宜調整する。
【0041】
ドーナツ類は、ベーキングパウダー等の膨張剤を用いて生地を膨化させて製造されるケーキドーナツ等が挙げられる。ケーキドーナツには、揚げられているため表面はサクサクとした食感で、中はふんわりした食感のソフトでサクさがあるものや、表面はカリッとしていて中がサクサクしているもの等がある。その他、サクサクとした食感に特徴のあるいわゆるオールドファッションや、イーストで発酵させた生地を用いたイーストドーナツ、クロワッサンドーナツ等が挙げられる。これらはチョコレート等でコーティングしたものであってもよい。また、リング状に成形して揚げたものだけでなく
、球状のもの、スティック状のもの、ツイスト状のものや、中に具を入れた餡ドーナツや、クリームドーナツ等であってもよい。
【0042】
ケーキドーナツの生地の原材料としては、小麦粉(薄力粉やこれに中力粉や強力粉を混ぜたものなど)等の穀粉や膨張剤(ベーキングパウダーなど)、澱粉等を配合し、その他、一般にケーキドーナツの生地に使用されているその他の原材料を配合することができる。例えば、水、糖、糖アルコール、卵、卵加工品、食塩、乳化剤、全脂粉乳、脱脂粉乳、牛乳、濃縮乳、合成乳、発酵乳、生クリーム、ヨーグルト、油脂類(ショートニング、マーガリンなど)、着色料、フレーバー等が挙げられる。
【0043】
これらの原材料を配合して常法に従って混合し、この生地を成型してそのままあるいは成型後に冷凍保存した後に加熱調理に供するか、又は生地にフィリングを包み込んで、フライヤー等の油槽内の本発明の揚げ物用油脂組成物に投入し、常法に従って油ちょうし膨張剤等で生地を膨化させる。ケーキドーナツの油ちょう温度は一般に170℃〜190℃である。
【0044】
揚げパイ類としては、肉類、魚介類、卵、野菜類等の具材をパイ生地で包んだものを油ちょうしたものが挙げられる。
【0045】
揚げ和菓子類としては、揚げ饅頭、揚げ大福、かりんとう、芋けんぴ等が挙げられる。
【0046】
揚げパン類としては、パン生地を直接揚げて調理した揚げパン、コッペパン等の焼いたパンを揚げたものに砂糖などで味付けした菓子パン、砂糖やシナモンをまぶして食べるチュロス、カレーパン、ピロシキ、揚げ中華まん等が挙げられる。
【0047】
揚げパン類の生地の原材料としては、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉など)等の穀粉を配合し、その他、一般に揚げパン類の生地に使用されているその他の原材料を配合することができる。例えば、水、糖、糖アルコール、卵、卵加工品、澱粉、食塩、乳化剤、乳化起泡剤(乳化油脂)、チーズ、ホエイ、生クリーム、合成クリーム、ヨーグルト、全脂粉乳、脱脂粉乳、牛乳、濃縮乳、合成乳、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、油脂類(ショートニング、マーガリンなど)、甘味料、調味料、香辛料、着色料、フレーバ
ー等が挙げられる。これらの原材料を用いて揚げパン類を製造する際には、中種法、液種法、湯種法等によりパン生地を調製し、これを所望する揚げパン類の形状に成型する。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0049】
実施例もしくは比較例には以下のものを使用した。
【0050】
(油脂)
パーム油(株式会社J-オイルミルズ社製、5℃の固体脂含量55.4%、10℃の固体脂含量46.1%、35℃の固体脂含量5.3%)
パームオレイン(ヨウ素価56、株式会社J−オイルミルズ社製、5℃の固体脂含量41.2%、10℃の固体脂含量35.0%、35℃の固体脂含量0%)
パーム極度硬化油(横関油脂工業株式会社製、5℃の固体脂含量98.8%、10℃の固体脂含量98.8%、35℃の固体脂含量98.0%)
菜種油(株式会社J−オイルミルズ社製、5℃の固体脂含量0%、10℃の固体脂含量0%、35℃の固体脂含量0%)
【0051】
実施例および比較例に用いた揚げ物用油脂組成物の原料油脂の配合及び固体脂含量を表1に示す。表1の単位は特に記載のない場合は、質量%である。
【0052】
【表1】
【0053】
表1の固体脂含量(%)は、以下のように測定した。
NMR用ガラスチューブに溶融した各配合例を定量充填し、60℃の恒温槽で30分保温した。次に0℃の恒温槽に移して1時間保温した。さらに計測温度に温調した恒温槽に移して30分保温した後に、NMR分析装置(the minispec, mq-20 NMR Analyzer、BRUKER社製)を用いて固体脂含量(%)を測定した。
【0054】
(揚げ物用油脂組成物の製造1)
配合例1の原料油脂をタンク内に投入し、プロペラ撹拌機で撹拌しながら60℃に加温した。タンク内の油脂をポンプでパーフェクターへ送液し、−30℃/分で急冷混和して、冷却工程後から充填口までの間で加圧下で所定量の窒素を注入し、10℃において固形状の揚げ物用油脂組成物を得た。その結果を表2に示す。なお、窒素量は油脂当たりの窒素注入量に相当する。
【0055】
【表2】
【0056】
表2の揚げ物用油脂組成物中の窒素量(ml/100g)は、以下のように測定及び算出した。
ショートニングの日本農林規格第4条、ガス量の測定方法に準じて揚げ物用油脂組成物の30℃でのガス量を測定した。シャルルの法則から、測定値に0.93403(=283.15÷303.15)を掛けて、10℃換算の窒素量を算出した。
【0057】
(評価)
実施例1−1〜1−4及び比較例1−1〜1−3の揚げ物用油脂組成物について、次の評価を行い、その評価結果を表3に示す。
【0058】
(作業性)
パーフェクターで急冷混和して得た揚げ物用油脂組成物を製造後ただちに5℃の調温室で1週間調温した後、幅3cm、長さ30cmのスコップでのすくいとりやすさ及びスコップからの剥がれやすさを下記の評価基準により評価した。また、前記2つの評価から作業性を下記の評価基準により評価した。
【0059】
<すくいとりやすさの評価基準>
☆:きわめてすくいとりやすい。
◎:かなりすくいとりやすい。
○:すくいとりやすい。
△:ややすくいとりにくい。
×:すくいとりにくい。
【0060】
<剥がれやすさの評価基準>
☆:きわめて剥がれやすい。
◎:かなり剥がれやすい。
○:剥がれやすい。
△:やや剥がれにくい。
×:剥がれにくい。
【0061】
<作業性の評価基準>
☆:きわめて作業しやすい。
◎:かなり作業しやすい。
○:作業しやすい。
△:やや作業しにくい。
×:作業しにくい。
【0062】
【表3】
【0063】
表3に示したように、いずれも剥がれやすく、特に窒素を36.0ml/100g以上含むときわめて剥がれやすかった。すくいとりやすさの評価では、窒素を27.1ml/100g以下含む場合は硬く、すくいとりにくかった。一方、窒素を36.0ml/100g以上含むとすくいとりやすく、特に、窒素を46.5ml/100g含む実施例1−2と窒素を72.3ml/100g含む実施例1−3は、きわめてすくいとりやすかった。窒素を108.5ml/100g含む実施例1−4は、すくうときにやや脆く、崩れ気味で、すくいとる量が少なくなったが、かなりすくいとりやすかった。一方、窒素を含まない比較例1−1及び窒素を19.1ml/100g含む比較例1−2は、硬くてすくいとりにくかった。窒素を36.0ml/100g以上含むと作業性に優れていた。
【0064】
揚げ物用油脂組成物を用いたドーナツの作製方法を以下に示す。
【0065】
電気フライヤー(F−3H、マッハ機器株式会社製)に各揚げ物用油脂組成物を3kg投入し、180℃で加熱溶解した。次に、ドーナツ生地(製品名:協和 冷凍タマゴドーナツ生地 40g×10個入 832113、キリンオーランドフーズ社製)を冷凍状態で投入し、片面120秒、さらに反転して90秒油ちょうしてから、電気フライヤーから取り出して油切りし、ドーナツを作製した。
【0066】
比較例1−1、実施例1−3及び実施例1−4を用いて、上記方法にてドーナツを作製したが、いずれでも電気フライヤーへ投入してからの油ちょう中、油ちょう後の状態及びドーナツの食感とも差異がなく、また油染みが少なく、あっさりとした食感であった。また、油ちょうしてから4日経過しても、ドーナツから酸化臭は感じられなかった。このように、配合例1を用いた揚げ物用油脂組成物では、問題なくドーナツを作製でき、含まれる窒素量の影響はなかった。
【0067】
(揚げ物用油脂組成物の製造2)
表1の配合例2もしくは配合例3の原料油脂をタンク内に投入し、プロペラ撹拌機で撹拌しながら60℃に加温した。タンク内の油脂をポンプでパーフェクターへ送液し、−30℃/分で急冷混和して、冷却工程後から充填口までの間で加圧下で所定量の空気を注入し、10℃において固形状の揚げ物用油脂組成物を得た。その結果を表2に示す。なお、空気量は油脂当たりの空気注入量に相当する。また、表4に示す空気量は、表2の窒素量と同様の方法で測定及び算出した10℃における空気量である。
【0068】
【表4】
【0069】
実施例2−1〜2−4、比較例2−1〜2−2及び比較例3−1〜3−2の揚げ物用油脂組成物について、比較例1−1と同様の評価を行った。各評価結果を表5に示す。
【0070】
配合例2を用いた場合は、いずれも剥がれやすく、特に空気を36.4ml/100g以上含むときわめて剥がれやすかった。空気を27.2ml/100g以下含む場合は硬くてすくいとりにくかったが、空気を36.4ml/100g以上含むとすくいとりやすかった。特に空気を47.1ml/100g含む実施例2−2と73.0ml/100g含む実施例2−3はきわめてすくいとりやすかった。空気を109.8ml/100g含む実施例2−4は、すくうときにやや脆く、崩れ気味で、すくいとる量が少なくなったが、かなりすくいとりやすかった。空気を36.4ml/100g以上含むと作業性に優れていた。また、配合例3を用いた場合は、空気を含まない比較例3−1は、すくいとるときにやや粘りがあるもののすくいとりやすく、作業性は良好であった。空気量が72.9ml/100gの比較例3−2は、きわめてすくいとりやすかったが、スコップに付着するため、スコップを振らないと剥がすことができず、やや作業しにくかった。
【0071】
表5に記載の揚げ物用油脂組成物を用いて、前記ドーナツの作製方法と同様にドーナツを作製して、次の評価を行った。なお、油染みについては表5に記載の全ての揚げ物用油脂組成物について行ったが、それ以外の項目は実施例2−3及び比較例3−2についてのみ評価した。油染みの評価は表5に、それ以外の評価結果は表6に示す。
【0072】
(油染み)
作製したドーナツを油切りしてから、室温で30分放冷した。紙タオルの上に放冷後のドーナツを乗せ、15分後にドーナツを紙タオルから取り除いた。紙タオルの状態から、次の評価基準により油染みを評価した。
<評価基準>
○:ドーナツを乗せた箇所に油がほぼ付着していない。
△:ドーナツを乗せた箇所の半分程度の面積に油が付着している。
×:ドーナツを乗せた箇所もしくはそれ以上に油が付着している。
【0073】
(あっさり感)
作製したドーナツを油切りしてから、室温で1時間放冷した。専門パネラー8人で、ドーナツを次の評価基準で評価して、その平均値をドーナツのあっさり感とした。
<評価基準>
5:かなりあっさりしている。
4:あっさりしている。
3:ややあっさりしている。
2:ややあっさりしていない。
1:あっさりしていない。
【0074】
(保存後の様子)
作製したドーナツを油切りしてから、室温で1時間放冷した。その後、市販のポリ袋に1個ずつドーナツを入れ、熱圧着によりシールした。シールしたドーナツを25℃の恒温槽に入れ、4日後に、シールしたドーナツを恒温槽から取り出し、袋を開封してドーナツの油ちょう直後からの臭いの変化、食感の変化を評価した。
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
表5のように配合例2を用いた揚げ物用油脂組成物は、油染みがほぼなかったが、配合例3を用いた揚げ物用油脂組成物は、油染みが激しかった。表6のように実施例2−3は、あっさりした食感であった。また、保存後も臭いの変化はなく、しっとりした食感になった。一方、比較例3−2は、あっさりした食感が感じられなかった。保存すると酸化臭が感じられ、べちゃべちゃした食感になった。