(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844963
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】電力ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 9/02 20060101AFI20210308BHJP
H01B 7/282 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
H01B9/02 A
H01B7/282
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-133836(P2016-133836)
(22)【出願日】2016年7月6日
(65)【公開番号】特開2018-6227(P2018-6227A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】水野 健彦
【審査官】
神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−167330(JP,A)
【文献】
特開2013−004232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 9/02
H01B 7/282
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体の周囲に、その外側に向かって、内部半導電層、絶縁層、外部半導電層、外部吸水層、金属被覆層が順番に形成された電力ケーブルにおいて、
前記外部半導電層と前記外部吸水層と間に水分の通過を抑える外部防湿層が設けられており、
前記中心導体は、複数の導体素線が撚り合わされて構成され、前記導体素線間の間隙に吸水材料が介在されており、
前記中心導体と前記内部半導電層との間に内部防湿層が設けられており、
前記内部防湿層は、導電性ブチルゴムの押出層からなることを特徴とする電力ケーブル。
【請求項2】
中心導体の周囲に、その外側に向かって、内部半導電層、絶縁層、外部半導電層、外部吸水層、金属被覆層が順番に形成された電力ケーブルにおいて、
前記外部半導電層と前記外部吸水層と間に水分の通過を抑える外部防湿層が設けられており、
前記中心導体は、その外周に内部吸水層が形成されており、
前記内部吸水層と前記内部半導電層との間に内部防湿層が設けられており、
前記内部防湿層は、導電性ブチルゴムの押出層からなることを特徴とする電力ケーブル。
【請求項3】
前記外部防湿層は導電性を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の電力ケーブル。
【請求項4】
前記外部防湿層は、導電性ブチルゴムテープ、又は、繊維若しくはプラスチックフィルムを基材として導電性ブチルゴムを塗布若しくは積層した導電性テープからなることを特徴とする請求項2記載の電力ケーブル。
【請求項5】
前記外部防湿層は、導電性ブチルゴムの押出層からなることを特徴とする請求項2記載の電力ケーブル。
【請求項6】
中心導体の周囲に、その外側に向かって、内部半導電層、絶縁層、外部半導電層、外部吸水層、金属被覆層が順番に形成された電力ケーブルにおいて、
前記外部半導電層と前記外部吸水層と間に水分の通過を抑える外部防湿層が設けられており、
前記外部防湿層は、導電性ブチルゴムの押出層からなることを特徴とする電力ケーブル。
【請求項7】
前記中心導体は、複数の導体素線が撚り合わされて構成され、前記導体素線間の間隙に吸水材料が介在されており、
前記中心導体と前記内部半導電層との間に内部防湿層が設けられていることを特徴とする請求項6に記載の電力ケーブル。
【請求項8】
前記中心導体は、その外周に内部吸水層が形成されており、
前記内部吸水層と前記内部半導電層との間に内部防湿層が設けられていることを特徴とする請求項6に記載の電力ケーブル。
【請求項9】
前記内部吸水層は導電性を備えることを特徴とする請求項8記載の電力ケーブル。
【請求項10】
前記内部防湿層は導電性を備えることを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の電力ケーブル。
【請求項11】
前記内部防湿層は形成材料にブチルゴムを含んでいることを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の電力ケーブル。
【請求項12】
前記内部防湿層は、導電性ブチルゴムテープ、又は、繊維若しくはプラスチックフィルムを基材として導電性ブチルゴムを塗布若しくは積層した導電性テープからなることを特徴とする請求項11記載の電力ケーブル。
【請求項13】
前記外部吸水層は導電性を備えることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の電力ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル内部に浸水が生じた際の水走り現象を抑制する電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海底電力ケーブルや水底電力ケーブルといった水中用電力ケーブルでは、事故が発生した際に、事故点からケーブル内部に海水や淡水(以降ではいずれも水と称する)が浸入し、浸入した水がケーブル長手方向に広がっていく(進展していく)という水走りが発生する場合がある。
【0003】
このような水走りが発生すると、事故点を起点として広範囲にわたってケーブル内部に水が浸入し、ケーブル絶縁層が浸水することとなる。ケーブル絶縁層が浸水すると、著しい電気性能の劣化(例えば、水トリー劣化や、電気抵抗の低下による漏れ電流の増加など)が起こることが知られているため、ケーブル絶縁層が浸水した領域のケーブル部は使用できない(再利用できない)状態となってしまう。このように、ケーブル内部に水が浸入すると、事故復旧の際に、事故点を除いて使用できる(再利用できる)ケーブルの長さが短くなってしまうという問題や、どの範囲まで浸水しているのかを特定しなければならないといった問題を引き起こすこととなる。
【0004】
なお、海底電力ケーブルや水底電力ケーブルに限らず、例えば、浸水しやすい環境下や水分や湿気の多い環境下に布設される陸上ケーブルの場合も、ケーブルの事故が発生した際に水走り現象(問題)が懸念される。
【0005】
上記のような水走り問題に対しては、水走り防止構造を備えた電力ケーブルが適用されている。
このような水走り防止機能を有する電力ケーブルとしては、中心導体の外周に内部半導電層、絶縁層、外部半導電層、金属(被覆)層を順次設けた一般的なケーブル構造に加えて、例えば、中心導体部や、外部半導電層(ケーブルコア: 中心導体から外部半導電層までを通常ケーブルコアと称する)と被覆層との間に吸水材料を介在させた水走り防止構造が知られている。
上記吸水材料は、吸湿あるいは吸水すると膨潤する特性を備え、水走りが発生した際に、吸水材料が吸水・吸湿して膨潤することで水分が通る経路を塞いて水走りの防止を図っている。
【0006】
具体的には、導体素線間に吸水材料の粉末を介在させることで水走り防止機能を持たせたもの(例えば、特許文献1及び6参照)、導体素線の撚り合わせ層間に吸水テープ層を介在させたもの(例えば、特許文献2参照)、外部半導電層の外側に吸水材料の層と遮水層を形成したもの(例えば、特許文献3参照)、銅線を撚り合わせてなる遮蔽層に吸水材料からなる紐状体を介在させたもの(例えば、特許文献4参照)、ケーブルコアと金属シースとの間に吸水材料からなる膨潤層を設けたもの(例えば、特許文献5参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−19914号公報
【特許文献2】特開平8−335411号公報
【特許文献3】実公昭61−18574号公報
【特許文献4】実開昭61−141712号公報
【特許文献5】特許第3411439号公報
【特許文献6】特公昭62−58088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1〜6は、いずれも、中心導体の導体素線間の間隙に吸水材料を介在させて中心導体部を水走り防止構造(止水構造)としたケーブルとケーブルコア(外部半導電層)と被覆層との間に吸水材料を設けて水走り防止構造(止水構造)としたケーブルのいずれか又は両方に該当しており、外傷や絶縁破壊等の事故発生時に被覆層の一部が破れることによって外部からケーブル内部へ水(海水等も含む)が浸入することに対して、吸水部材が吸水・膨潤することによって水が走りやすい空隙を埋めることでケーブル長手方向への水走りを防止し、浸水領域を限定させることを狙ったものである。
【0009】
ところで、上記特許文献1〜6で使用されている吸水材料は、ケーブル製造時点での水分含有量(単位重量当りの水分量)が、ケーブルの他の構成部材の水分量と比較して過大である場合が多い。例えば、ケーブルの絶縁層水分量が30〜50ppm(μg/g)であるのに対して、吸水材料の水分量は50000〜200000ppm(μg/g)であり、極めて多い。
一方、吸水材料は、吸水・吸湿した水分を常時吸水・吸湿している訳ではなく、例えば、温度上昇によって、吸水・吸湿している水分の一部を水蒸気として放出するという特性がある。
【0010】
このため、ケーブル運転時の送電負荷、周囲の環境温度の上昇、ケーブルの端末処理やケーブル同士の接続処理時に行われるケーブル加熱処理等によってケーブルの温度上昇が生じた場合に吸水材料からの水分の放出が起こり得る。
そして、吸水部材から水分(水蒸気)が放出されると、ケーブル内は水蒸気が存在できる空間自体が少ない設計となっているため、急激な水蒸気圧の上昇が生じて、絶縁層中への水蒸気の移行が促進されて絶縁層水分量の上昇が生じることとなる。
絶縁層は、水分量の増加が起こると、著しい絶縁性能の低下、例えば、絶縁抵抗の低下や水トリー劣化といった長期的な絶縁劣化を生じることが懸念される。
【0011】
上記のようなケーブルの温度上昇に対する吸水部材からの水分放出を抑制する対策としては、ケーブル製造時において、使用する吸水材料の十分な乾燥処理を行うことや、吸水材料を取り扱うケーブル製造工程での周囲環境からの吸水を抑制するために、周囲環境の温湿度管理や吸水部材の露出時間の管理等を行う対策が考えられる。
しかし、そのような対策は、吸水材料の水分管理を含めた製造工程管理の煩雑化や高コスト化が生じることが問題であった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電力ケーブルにおいて、
中心導体の周囲に、その外側に向かって、内部半導電層、絶縁層、外部半導電層、外部吸水層、金属被覆層が順番に形成された電力ケーブルにおいて、
前記外部半導電層と前記外部吸水層と間に水分の通過を抑える外部防湿層が設けられて
いる。
【0013】
本発明は、
前記外部防湿層は導電性を備える
構成としても良い。
【0014】
本発明は、
前記外部吸水層は導電性を備える
構成としても良い。
【0015】
本発明は、
前記中心導体は、複数の導体素線が撚り合わされて構成され、前記導体素線間の間隙に吸水材料が介在されており、
前記中心導体と前記内部半導電層との間に内部防湿層が設けられている
構成としても良い。
【0016】
本発明は、
前記中心導体は、その外周に内部吸水層が形成されており、
前記内部吸水層と前記内部半導電層との間に内部防湿層が設けられている
構成としても良い。
【0017】
本発明は、
前記内部吸水層は導電性を備える
構成としても良い。
【0018】
本発明は、
前記内部防湿層は導電性を備える
構成としても良い。
【0019】
本発明は、
前記内部防湿層は形成材料にブチルゴムを含んでいる
構成としても良い。
【0020】
本発明は、
前記内部防湿層は、導電性ブチルゴムテープ、又は、繊維若しくはプラスチックフィルムを基材として導電性ブチルゴムを塗布若しくは積層した導電性テープからなる
構成としても良い。
【0021】
本発明は、
前記内部防湿層は、導電性ブチルゴムの押出層からなる
構成としても良い。
【0022】
本発明は、
前記外部防湿層は形成材料にブチルゴムを含んでいる
構成としても良い。
【0023】
本発明は、
前記外部防湿層は、導電性ブチルゴムテープ、又は、繊維若しくはプラスチックフィルムを基材として導電性ブチルゴムを塗布若しくは積層した導電性テープからなる
構成としても良い。
【0024】
本発明は、
前記外部防湿層は、導電性ブチルゴムの押出層からなる
構成としても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電力ケーブルによれば、外部半導電層の外側に外部吸水層が設けられているので、被覆層の破損等によりケーブル内に水分が浸入した場合でも、外部吸水層により水走りの抑止を図ることが可能となる。
さらに、外部半導電層と外部吸水層の間には外部防湿層が形成されているので、例えば、ケーブル運転時といった送電負荷が与えられたり、その負荷上昇がある場合や、日射の影響やケーブル布設環境温度が上昇する場合、ケーブルの端末処理やケーブル同士の接続処理に行われるケーブルの加熱処理等によって電力ケーブルの温度上昇がある場合において、外部吸水層から放出される水分(水蒸気)が絶縁層に移行、拡散することを抑制することができるため、電力ケーブルの製造時の吸水材料の水分管理を含めた煩雑な製造工程管理を行わずとも、絶縁層の長期絶縁性能を高めた信頼性の高い電力ケーブルを提供することが可能となる。
【0026】
さらに、内部半導電層の内側に内部防湿層が形成された構成の場合には、中心導体内の水走りの抑止を図ると共に、ケーブルの温度上昇によって、中心導体内の吸水材料や中心導体外周の内部吸水層から放出された水分(水蒸気)が、絶縁層に移行、拡散することを抑制し、この場合も、電力ケーブルの製造時の吸水材料の水分管理を含めた煩雑な製造工程管理を行わずとも、絶縁層の絶縁性能の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】電力ケーブルの概略構成を示す断面図である。
【
図2】電力ケーブルの他の例の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[電力ケーブルの概略構成]
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
本実施形態は、浸水しやすい環境下や水分や湿気の多い環境下に布設される電力ケーブルを示す。
【0029】
図1は本実施形態である電力ケーブル10の断面図を示す。
電力ケーブル10は、中心導体20の外周から外側に向かって、内部防湿層30、内部半導電層40、絶縁層50、外部半導電層60が順番に積層されて形成されたケーブルコア11を備えている。
そして、この電力ケーブル10は、ケーブルコア11の外周(外部半導電層60の外周)と外部吸水層80との間に外部防湿層70を備えている。
また、電力ケーブル10は、ケーブルコア11の外側に外部吸水層80が形成され、さらにその外側には金属被覆層90が形成されている。そして、更に外側には、防食層100が形成されている。
【0030】
[ケーブルコア:中心導体]
中心導体20は、撚り合わされた複数の導体素線21を備え、撚り合わされた導体素線21同士の隙間には吸水材料22が介在している。
このような中心導体20は、導体素線21を撚り合わせて圧縮した円形圧縮導体でもよく、また、撚り合わされた導体素線21の束からなるセグメント導体を複数備える分割導体構造(分割圧縮導体)であってもよく、中心導体20の構造については多様な構造を採ることができる。
【0031】
また、吸水材料22は、例えば、複数の導体素線21の隙間に充填された吸水パウダー或いは当該吸水パウダーを含有させたテープ状または紐状の吸水部材を導体素線21に巻き付ける、あるいは沿わせる等して各導体素線21間に介在させればよく、特に吸水材料の形態や介在方法に限定はない。
吸水材料22の素材としては、例えば、アクリル酸塩系架橋物,酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重体ケン化物,アクリル酸塩・アクリルアミド共重合体等のポリマーが好適である。これらは、吸水材料の重量の数十倍から1000倍近くの水分を吸収することができ、中心導体20が浸水したときに、膨潤して導体素線21の隙間を塞ぎ、中心導体20の長手方向に沿った水分の浸入を効果的に抑止することが可能である。
【0032】
[ケーブルコア:絶縁層等]
内部防湿層30の外周において、内部半導電層40、絶縁層50及び外部半導電層60は、この順で三層同時に押出成形されている。
内部半導電層40、絶縁層50、外部半導電層60の形成方法や使用する材質に関しては、電力ケーブルの使用電圧階級や電圧形態(交流または直流)に応じて適宜選択される。
例えば、一般的な交流用の電力ケーブルでは絶縁層50の形成には架橋ポリエチレンが使用される。
また、内部半導電層40、外部半導電層60の材質としては、例えば、カーボン粒子を含む、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンまたはこれらの混合樹脂などが使用される。
【0033】
[外部吸水層]
前述したように、外部防湿層70の外周には、外部吸水層80が形成されている。
この外部吸水層80は、吸水パウダーを含有させた導電性吸水テープ巻きまたは導電性吸水クッションテープ巻きによって形成されている。
吸水パウダーの素材としては、前述した吸水材料22と同様に、例えば、アクリル酸塩系架橋物,酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重体ケン化物,アクリル酸塩・アクリルアミド共重合体等のポリマーが好適である。
また、外部吸水層80は、導電性のカーボンブラックや金属粉末が配合されることで導電性が持たされている。外部吸水層80に導電性を持たせることで、後述する外部防湿層70と被覆層90との間の電位差を小さくすることができ、これにより、電界不整や部分放電の発生などを効果的に低減することが可能となる。
この場合、外部吸水層80の体積固有抵抗(体積抵抗率)は10
3Ω・m以下であることが好ましい。
【0034】
この導電性吸水テープまたは導電性吸水クッションテープの巻き方法に関しては、ラセン状に巻くラップ巻き、縦添えラップ巻きなど周知のテープ巻方法のいずれを採用しても良い。
また、外部吸水層80の厚さは、厚くした方が吸水量を増やすことができる一方で、電力ケーブル10のサイズが大きくなる等によるケーブルコストの増大や重量の増大が生じるので、これら双方の観点から適正な厚さに調整すべきである。
【0035】
[金属被覆層及び防食層]
外部吸水層80の外周には金属の金属被覆層90として鉛被が設けられている。この金属被覆層90は、鉛被の他に、例えば、ステンレス被(SUS被)、アルミ被などでもよく、あるいはそれらの金属をコルゲート加工した環状波付金属被でもよく、あるいは金属ラミネートテープをラップさせてラップ目で接着させた金属ラミネート被でもよい。即ち、金属被覆層90は、外部からの水分の浸入を防止するとともに、電気的な遮蔽効果を得る金属被であれば、その材料に特に制限はないが、耐腐食性、加工性等が良好なものが好ましい。
【0036】
金属被覆層90の外周には防食層100が押出成形されている。防食層100の材質は、電力ケーブルの使用環境や仕様などによって適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンやポリ塩化ビニルなどを用いることができるが、これらに限定されず、内側の層を保護する強度、耐水性、耐久性等を備える材料であれば他のもので形成してもよい。
【0037】
[内部防湿層及び外部防湿層]
中心導体20と内部半導電層40との間には、導電性ブチルゴムからなる内部防湿層30が形成されている。また、外部半導電層60と外部吸水層80との間には導電性ブチルゴムからなる外部防湿層70が形成されている。
これら内部及び外部の防湿層30,70は、いずれも、ブチルゴム(イソブチレン・イソプレン共重合体)を主要な材料としているので、高い防水・防湿性と、汎用性、加工性、低コスト性、更には温度変化に対するケーブルの各構成部材の膨張・収縮や外力によるケーブルの変形に対する追従性(弾性特性)を備えている。
【0038】
ブチルゴムに導電性を与える方法としては、例えば、導電性のカーボンブラックや金属粉末をブチルゴムに所望の導電率(体積抵抗率)が得られる量を配合することが挙げられる。
導電性ブチルゴムを用いた各防湿層30,70は、薄過ぎれば必要な防湿性能が得られず、厚過ぎればケーブルのサイズが大きくなる等によるケーブルコストの増大や重量の増大が生じるので、これらのバランスを考慮して、各防湿層30,70の厚さは、いずれも、実質的に0.5〜3mmの範囲、より好ましくは1〜2mmの範囲とする。
【0039】
また、導電性ブチルゴムのほかに、防水・防湿性の高い合成ゴムに導電性をもたせたものを使用してもよく、例えば、多硫化ゴム、高ニトリルゴム、フッ素ゴム等に導電性を持たせたものを使用することができる。
但し、前述したように、合成ゴムの中でも、導電性ブチルゴムが、防水・防湿性、汎用性、加工性、低コスト性などのバランスが最も良く、より好適である。
【0040】
電力ケーブル10の製造過程において、上記各防湿層30,70は、導電性ブチルゴムの押出成形により形成されている。押出成形は、加工性、生産性が高く、これによって形成された各防湿層30,70は、シームレスによる高い防水・防湿性能を容易に得ることができる。
【0041】
また、電力ケーブル10の製造過程において、各防湿層30,70は、導電性ブチルゴムテープ、または、布若しくは綿等の繊維又はプラスチックフィルムを基材として導電性ブチルゴムを塗布又は積層した導電性テープを巻いて形成することも可能である。
この場合、非加硫の導電性ブチルゴムを用いることにより、ゴムの自己融着性や流動性を高めることができるため、テープ巻の際には、テープ層間を自己融着し、空隙の発生を低減することができるため、この場合もシームレス化を図ることができ、高い防水・防湿性能を実現することができる。
なお、導電性ブチルゴムテープ等の導電性テープの巻き方については、ラセン状にラップさせながら巻くラップ巻きや、ケーブル長手方向に導電性テープを沿わせて包み込むようにラップさせながら巻く縦添え巻き等が好適であるが、縦添え巻きの方が生産性に優れている。
【0042】
内部防湿層30は、中心導体20と内部半導電層40との間に形成されており、外部防湿層70は、外部半導電層60と外部吸水層80との間に形成されている。
そして、内部防湿層30と外部防湿層70は、いずれも導電性を備えているので、中心導体20と内部半導電層40との間の電位差及び外部半導電層60と外部吸水層80との間の電位差を小さくすることができ、これにより、電界不整や部分放電の発生などを効果的に低減することが可能となる。
この場合、各防湿層30,70の体積固有抵抗(体積抵抗率)は10
3Ω・m以下であることが好ましい。
【0043】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記電力ケーブル10では、ケーブルコア11より外側に設けられた外部吸水層80や中心導体20の導体素線21内に介在する吸水材料22を備えているので、電力ケーブル10が外傷や絶縁破壊事故等を受けたり、電力ケーブル10の劣化による損傷等が生じることなどにより、周囲から電力ケーブル10の内部に水分が浸入した場合でも吸水材料22や外部吸水層80の吸水材料が水分を吸収して膨潤し、水分の浸入経路を塞ぐことができ、ケーブルの長手方向に沿った水走りの発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0044】
さらに、外部半導電層60と外部吸水層80と間には外部防湿層70が設けられ、中心導体20と内部半導電層40との間には内部防湿層30が形成されているので、ケーブルの温度上昇によって、外部吸水層80や中心導体20内の吸水材料22から放出された水蒸気(水分)が、絶縁層50に移行、拡散することを抑制し、従って絶縁層50の水分量の増加を抑制することができる。このため、電力ケーブル10の製造時の吸水材料の水分管理を含めた煩雑な製造工程管理を行わずとも、絶縁層50の絶縁性能の低下を抑制することが可能となる。
【0045】
また、上記電力ケーブル10は、内部防湿層30及び外部防湿層70が、いずれも導電性を備えているので、中心導体20から内部半導電層40までの間と、外部半導電層60から外部吸水層80までの間の電位差を少なくすることができ、これにより、電界不整や部分放電の発生などを低減することが可能となる。
上記内部防湿層30及び外部防湿層70は、体積固有抵抗(体積抵抗率)を10
3Ω・m以下としているので、電界不整や部分放電の発生などをより効果的に低減することができる。
【0046】
また、外部吸水層80も導電性を備えているので、その内側の外部防湿層70からその外側の金属被覆層90までの間の電位差を少なくすることができ、電界不整や部分放電の発生などを低減することが可能となる。
【0047】
また、電力ケーブル10の各防湿層30,70は形成材料にブチルゴムを含んでいるので、防水・防湿性と、汎用性、加工性、低コスト性、更には温度変化に対するケーブルの各構成部材の膨張・収縮や外力によるケーブルの変形に対する追従性(弾性特性)に優れるという利点がある。
また、各防湿層30,70を、導電性ブチルゴムの押出成形や導電性ブチルゴムテープ、または、布若しくは綿等の繊維又はプラスチックフィルムを基材として導電性ブチルゴムを塗布又は積層した導電性テープを巻いて形成した場合には、シームレスによる高い防水・防湿性能を容易に得ることができる。
【0048】
ここで、各防湿層30,70としては、低温溶融性の金属(例えば、金属テープ、金属ラミネートテープ等)から形成することも可能である。
但し、防湿層30,70として、例えば金属テープ、金属ラミネートテープ等で形成した場合には、電力ケーブル10の温度変化に対するケーブル構成部材の熱膨張・収縮に対する追従性と耐疲労性という面で、ブチルゴムと比べて不利となる。特に、温度変化に対するケーブルコア11の半径方向に対する熱膨張・収縮量は大きく、例えば、ケーブルコア11の熱膨張によって、金属からなる防湿層30,70が弾性領域を超えた変形を受けた場合には、収縮時に元の形状に戻らない問題が生じることや、温度変化によって熱膨張・収縮が繰返されると、防湿層30,70には金属疲労による破断が生じるリスクがある。したがって、各防湿層30,70には、導電性の合成ゴム、特に、導電性のブチルゴムが熱膨張・収縮に対する追従性と耐疲労性の面から有利である。
【0049】
[その他]
なお、電力ケーブルは、内部防湿層30又は外部防湿層70を備える構造であればその構成については適宜変更可能であり、上記実施形態の構成に限定されるものではない。
例えば、
図2にその一例として電力ケーブル10Aを示す。この電力ケーブル10Aにおいて、前述した電力ケーブル10と同一の構成については同じ符号を付して重複する説明は省略する。
この電力ケーブル10Aのように、複数の導体素線21からなり、吸水材料22が介在されてなる中心導体20の外周に内部吸水層110Aを設けても良い。この場合、内部吸水層110Aは、前述した外部吸水層80と同様に導電性が持たされており、吸水パウダーを含有させた導電性吸水テープ巻きまたは導電性吸水クッションテープ巻きによって形成することができる。内部吸水層110Aに導電性を持たせることで、中心導体20と内部防湿層30との間の電位差を小さくすることができ、これにより、電界不整や部分放電の発生などを効果的に低減することが可能となる。この場合、内部吸水層110Aの体積固有抵抗(体積抵抗率)は10
3Ω・m以下であることが好ましい。
また、内部吸水層110Aを除く他の構成については前述した電力ケーブル10と同一である。
【0050】
この構成の場合、電力ケーブル10(
図1)と比較して中心導体20と内部防湿層30との間のわずかな間隙における水走りをより効果的に抑制することが可能となる。
また、内部吸水層110Aの外周には内部防湿層30が形成されているので、ケーブルの温度上昇によって内部吸水層110Aから放出される水蒸気(水分)が、絶縁層50に移行、拡散することを抑制し、従って絶縁層の絶縁性能の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0051】
10,10A 電力ケーブル
11 ケーブルコア
20 中心導体
21 導体素線
22 吸水材料
30 内部防湿層
40 内部半導電層
50 絶縁層
60 外部半導電層
70 外部防湿層
80 外部吸水層
90 金属被覆層
100 防食層
110A 内部吸水層