(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、具体的に説明する。
【0010】
1.ブロンドチョコレート
本発明におけるブロンドチョコレートとは、少なくともカカオバターと、糖と、タンパク質とを含有し、且つキャラメル風味が付与されたチョコレートをいう。したがって、カカオパウダーが含まれており、一見ブラックチョコレートのような外見を持つ場合であっても、カラメル反応やメイラード反応により、キャラメル風味が付与されている場合には、本発明におけるブロンドチョコレートに含まれる。
【0011】
2.カカオバター
カカオバターとは、カカオ豆の脂肪分であり、カカオリカーをプレス機で圧搾し、カカオパウダーを分離することで得られる。カカオバターは、95%がオレイン酸(C18:1)、ステアリン酸(C18:0)、パルミチン酸(C16:0)の3種類の脂肪酸で構成されており、単純な組成であるため、常温(25℃)では固体だが、30〜36℃で速やかに溶解する。したがって、口溶けが良いブロンドチョコレートを製造するうえで必須の原料である。
【0012】
本発明では、ブロンドチョコレートに含まれるカカオバターの少なくとも1割以上は、後述する褐変化工程後に加える必要がある。カカオバターの主成分の一つであるオレイン酸は、比較的酸化しにくい不飽和脂肪酸であり、動脈硬化などの生活習慣病を予防・改善する素材として知られているが、飽和脂肪酸ではないため褐変化工程で長時間高温に晒されると、酸化が進んで過酸化物や重合体等の融点が高く、口溶けの悪い誘導体が生成する可能性がある。そこで、本発明では、カカオバターの一部を褐変化工程後に添加して、油脂の酸化を抑制することが必要である。
【0013】
なお、褐変化工程後に加えるカカオバターを3割以上とするのが好ましく、6割以上とするのがより好ましい。
褐変化工程時の油脂量が少なすぎると褐変しにくくなる傾向があるが、油脂の酸化だけを考慮するのであれば、褐変化工程時にはカカオバターを全く加えなくてもよい。
【0014】
3.糖
本発明における糖とは、ケトン基又はアルデヒド基を一つ持ち、且つ水酸基を2つ以上もつ化合物である。糖はカラメル反応及び/又はメイラード反応の出発原料となるため、本発明において必須の構成である。糖の具体例としては、グリセルアルデヒド、グルコース、フルクトース等の単糖、スクロース、マルトース、トレハロース等の二糖およびオリゴ糖が挙げられる。本発明では、これらの糖を必要に応じて単独又は組み合わせて使用してもよい。
【0015】
次に、メイラード反応とカラメル反応について説明する。メイラード反応は、還元糖とアミノ化合物の反応により、“褐色物質(メラノイジン)”と、香ばしさの要因である“揮発性物質”を生成する反応である。一方、カラメル反応は、アミノ化合物を必要とせず、糖が引き起こす酸化反応等によって、褐変化の要因である“環状構造”の形成と “揮発性物質”を生成する反応である。メイラード反応とカラメル反応(以下、両反応を総称して“褐変化反応”と称する)は、反応機構は違うものの食品を褐変化し、香気物質を生成する点で共通しており、反応が同時に進行する場合も多い。
【0016】
なお、ソルビトールやキシリトール等の糖アルコールには還元性がなく、反応性が乏しいため、本発明における“糖”には含めない。
【0017】
4.タンパク質
本発明では、褐変化反応、特にメイラード反応を誘起するためにタンパク質が必要である。タンパク質としては、動物性タンパクであっても、植物性タンパクであっても用いることができるが、本発明においては動物性タンパクの一種である乳タンパクを用いることが好ましい。乳タンパクとは、乳に由来するタンパク質の総称であり、カゼインとホエイプロテインからなるタンパク質である。
【0018】
一般的なブロンドチョコレートには、乳タンパクが含まれており、ブロンドチョコレート特有の風味に寄与している。このため、本発明においても乳タンパクを添加することで、一般的なブロンドチョコレートに近い風味を実現することができる。
【0019】
5.その他材料
本発明では、カカオバター、糖、タンパク質以外のその他材料を用いることができる。具体的には、バター、ショートニング等のカカオバター以外の油脂類、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール、レシチン等の乳化剤、カカオパウダー及び香料などを、適宜添加することができる。
【0020】
6.製造方法
一般的にチョコレートは、原料混合(混合工程)後、微粒化工程(リファイニング)、精錬工程(コンチング)及び調温工程(テンパリング)を経て製造されるが、本発明では、原料混合後、微粒化工程前に、褐変化工程を設けることが必要である。以下詳細に説明を行う。
【0021】
6−1.混合工程
混合工程とは、糖と、タンパク質と、必要に応じてカカオバター、カカオバター以外の油脂及び添加剤等とを混合し、チョコレート生地(以下単に「生地」という場合がある)を製造する工程である。
【0022】
本発明では、混合後の生地をパウダー状またはフレーク状(そぼろ状)に調整することが好ましい。生地をパウダー状又はフレーク状に調整すると、生地に空間が生まれ、熱が対流しやすくなる。この結果、生地に均一に熱が伝わり、斑のないブロンドチョコレートが得られる。
【0023】
混合工程でカカオバター及びその他油脂(以下単に「油脂」という)を加えすぎると、生地の流動性が上がりペースト状になる。そして、生地がペースト状になると、空気が対流する空間が減少し、熱が均一に伝わらなくなり、色斑が生じやすい。また、上述の通りカカオバターは褐変化工程で劣化する可能性があり、カカオバター以外の油脂についても同様に劣化する可能性がある。このため、安定した色相及び油脂の劣化を防ぐ観点から、褐変化工程時のチョコレート生地に含まれる総油脂量を22重量%以下とするのが好ましい。
【0024】
一方、褐変化工程時、チョコレート生地の総油脂量が少なすぎると、褐変が起こりにくくなる。このため、褐変化を促進する観点から、褐変化工程時のチョコレート生地に含まれる総油脂量を10重量%以上とするのが好ましい。
【0025】
6−2.褐変化工程
褐変化工程は、に、チョコレート生地に熱を加えて、メイラード反応及び/又はカラメル反応を起こす工程である。褐変化工程によって、チョコレートの褐変化と、キャラメル風味の付与が実現されるため、本発明において必須の工程である
【0026】
従来は、ホワイトチョコレートを焙炉に投入してブロンドチョコレートを製造していたが、ホワイトチョコレートの状態で加熱すると、熱が対流しないため色斑が生じやすく、頻繁に撹拌する必要があった。また、表面に凝集物が生成して、口溶けが悪くなる傾向があった。そこで、本発明においては、原料混合後、微粒化工程前に褐変化工程を設けることで、色斑や凝集物の生成を抑制することを実現した。
【0027】
従来法で凝集物が生成する原因については明確ではないが、(1)加熱により粘度が低下した油脂が他原料(蛋白質等)と分離してしまい、微粒化工程や精錬工程を経る前の状態に戻ってしまう、(2)ホワイトチョコレートに含まれるオレイン酸等の不飽和脂肪酸が酸化して、過酸化物や重合体等の融点の高い誘導体が生成するなどの原因が考えられる。
【0028】
この点、本発明では、褐変化工程時のチョコレート生地に含まれる総油脂量を22重量%以下に抑制しているため油脂の酸化による凝集物の発生を抑制できる。また、褐変化工程後に微粒化工程と精錬工程を設けているため、そもそも油脂と他原料の分離を考慮する必要がない。さらに、本発明では、総油脂量を抑え、且つ油脂と他の原料が馴染んでいない状態で褐変化を行うため、生地がパウダー状またはフレーク状になりやすい。このため、上述の通り、熱が対流しやすく、色斑も生じにくい。
【0029】
本発明では、褐変化工程に熱風乾燥機を用いることが好ましい。熱風乾燥機を用いた場合には、熱風が生地に吹付けられるため、空気の対流が促進され、熱が均一に伝わりやすい。なお、熱風乾燥時の風速には特に制限はないが、生地が飛散しないように留意する必要がある。このため、生地が飛散せず、且つ風速が最も早くなるように調整することが好ましい。
【0030】
褐変化工程では、生地を120℃以上、300℃以下に加熱する必要がある。加熱温度が120℃未満の場合には、生地が褐変化しにくく、生産性が低い。一方300℃を超える場合には、褐変化(メイラード反応および/またはカラメル反応)以外にも、炭化や油脂の酸化が起こってしまい、風味が低下してしまう。
【0031】
さらに、本発明では、生地を140℃以上、260℃以下で加熱することが好ましく、170℃以上、210℃以下で加熱することがより好ましい。この範囲であれば、安定的に、色ムラや異味の少ないチョコレート生地を製造することが可能である。なお、褐色工程における加熱時間には特に限定はなく、生地が黄色〜薄茶色に変色した時点で加熱を停止すればよい。
【0032】
本発明では、必要に応じて生地を撹拌することが好ましい。上述の通り、本発明では総油脂量を抑えているため、生地に空間があり、熱の対流が起こりやすい。しかし、抑制してはいるものの油脂は含まれているため、褐変化工程の経過とともに、油脂が生地の下層に移行し、生地下層における熱の対流が阻害され、色斑が生じるおそれがある。そこで、定期的に生地を撹拌することで、色斑を抑え、品質を安定化させることが好ましい。
【0033】
撹拌頻度は加熱温度と総油脂量によって調整する。具体的には、加熱温度が高い場合や生地の総油脂量が高い場合には撹拌頻度を増やし、加熱温度が低い場合や生地の総油脂量が低い場合には撹拌頻度を減らす調整を行う。
【0034】
6−3.微粒化工程(リファイニング)
褐変化工程後のチョコレート生地は、糖やタンパク質が分散した状態になっているが、直径100μm以上の粗い粒子が多く、この時点ではザラついた舌触りになる。そこで、生地を数本のロール(ロールミル)の間を連続的に通過させ、粒子の直径が30μm以下になるまで微細化する工程(微粒化工程)が必要である。
【0035】
なお、ロールミルを通過させるためには生地に適度な粘性及び流動性が必要であるが、褐変化工程後の生地は、上述の理由により油脂含有量が低く抑えられているため、粘性や流動性が不足している場合が多い。このため、ロールミルを通過させる前に、生地にカカオバター等を追油し、適度な粘性及び流動性を持つペースト状に調整する必要がある。
【0036】
次に、微粒化工程後の生地の状態について説明する。生地に追油を行いペースト状に調整したとしても、ロールミルを通過させて粒子を微細化すると表面積が増加し、吸油量も増加する。すると、自由に流動できる油脂が減少するため、生地の流動性が低下する。このため、精錬工程に送られる生地は堅いペースト状又はフレーク状であることが一般的である。
6−4.精錬工程(コンチング)
精錬工程(コンチング)とは、フレーク状のチョコレート生地を、強力な攪拌羽根やローラーで撹拌し、高温(45〜80℃)で練り上げる工程である。精錬工程では、カカオパウダーや全粉乳等の油脂を含む原料から油脂がにじみ出して流動性が向上する。また、余分な水分や不快な香りが揮発するため、チョコレート本来の芳香なアロマが引き立ってくる。
【0037】
さらに、精錬工程では、必要に応じてカカオバター等の油脂、レシチン等の乳化剤、香料などのその他材料を添加することもできる。添加後はしばらく精錬を続けて、なめらかな乳化状態になるまで練り上げる。なお、一般的には、その他材料を加える前の精錬工程をドライコンチング、加えた後の精錬工程をウェットコンチングという。
【0038】
6−5.調温工程(テンパリング)
精錬後は、チョコレート生地の中に含まれているカカオバターを微細で安定した結晶構造に誘導するため調温工程(テンパリング)を行う。カカオバターは6種類の結晶型を持っているが、調温工程を設けて最も優れた結晶型に調整しておかないと、保存中に品質が劣化する恐れがある。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
(a.混合工程)
ショ糖395部、乳糖45部、カカオバター0部(油脂含有率100%)、全粉乳185部(油脂含有率25%)、脱脂粉乳40部(油脂含有率0%)をミキサーで均一になるまで撹拌し、油脂含有率7%のチョコレート生地1を作成した。なお、本発明で用いたカカオバターには僅かにフレーバーや水が含有されているが、油脂量と比較すると極めて微量であるため、油脂含有率の算出に際しては無視した。
【0040】
(b.褐変化工程)
チョコレート生地1aを、ステンレス製角型トレー(高さ20mm×幅190mm×奥行140mm)に流し込み、均一な厚みになるように調整した。次に、生地1aをトレーごと熱風乾燥機(温度200℃)に投入し、50分間、10分間隔で撹拌しながら加熱して、黄色のチョコレート生地1bを得た。
【0041】
(c.微粒化工程)
チョコレート生地1bに、カカオバター190部を加えて(追油)、リファイニング可能な粘度に調整した後、3本ロールを用いて粒子の直径が30μm以下のチョコレート生地1cを得た。
【0042】
(d.精錬工程、調温工程)
チョコレート生地1cに、カカオバター110部、レシチン03部を加えて、50〜60℃で30分間コンチングを行い、次いで、常法に従ってテンパリングを行い、油脂含有率36%のチョコレート1(実施例1)を得た。
【0043】
(実施例2〜6)
原料、および褐変化工程における加熱時間を表1の通り変更して、チョコレート2〜6を得た。なお、加熱時間については、チョコレート1と同程度の色相(黄〜橙色)となるように調整した。
【0044】
【表1】
【0045】
(実施例7)
(混合工程)
ショ糖395部、乳糖45部、カカオバター90部(油脂含有率100%)、全粉乳185部(油脂含有率25%)、脱脂粉乳40部(油脂含有率0%)をミキサーで均一になるまで撹拌し、油脂含有率18%のチョコレート生地7aを作成した。
【0046】
(褐変化工程)
チョコレート生地7aを、ステンレス製角型トレーに流し込み、均一な厚みになるように調整した。次に、生地7aをトレーごと熱風乾燥機(温度160℃)に投入し、120分間、20分間隔で撹拌しながら加熱して、黄色のチョコレート生地7bを得た。
【0047】
(c.微粒化工程)
チョコレート生地7bに、カカオバター100部を加えて(追油)、リファイニング可能な粘度に調整した後、3本ロールを用いて粒子の直径が30μm以下のチョコレート生地7cを得た。
【0048】
(d.精錬工程、調温工程)
チョコレート生地7cに、カカオバター110部、レシチン03部を加えて、50〜60℃で30分間コンチングを行い、次いで、常法に従ってテンパリングを行い、油脂含有率36%のチョコレート7(実施例7)を得た。
【0049】
(実施例8〜10)
原料、褐変化工程における温度、および加熱時間を表2の通り変更して、チョコレート8〜10を得た。なお、加熱時間については、チョコレート1と同程度の色相(黄〜橙色)となるように調整した。
【0050】
【表2】
【0051】
(比較例1)
(混合工程)
ショ糖395部、乳糖45部、カカオバター90部(油脂含有率100%)、全粉乳185部(油脂含有率25%)、脱脂粉乳40部(油脂含有率0%)をミキサーで均一になるまで撹拌し、油脂含有率18%のチョコレート生地11aを作成した。
【0052】
(褐変化工程、その他)
チョコレート生地11aを、ステンレス製角型トレーに流し込み、均一な厚みになるように調整した。次に、生地11aをトレーごと熱風乾燥機(温度100℃)に投入し、360分間、60分間隔で撹拌しながら加熱してチョコレート生地11bを得た。次いで、表3に従って微粒化工程、精錬工程及び調温工程を実施してチョコレート11(比較例1)を得た。
【0053】
(比較例2、3)
褐変化工程時の加熱温度、または褐変化工程時の油脂含有率を表3の通り変更して、チョコレート12、13を得た。
【0054】
褐変化工程時の加熱温度の低い(100℃)チョコレート11については、360分間加熱しても淡い黄色までしか変色せず、生産性が従来法(比較例4)と同レベルだった。また、加熱温度が高い(330℃)チョコレート12については、褐変化が速すぎて撹拌が間に合わず、一部炭化して暗い橙色(褐色)になってしまった。また、チョコレート12、および褐変化工程時の油脂含有率が高いチョコレート13については、常時撹拌する必要があるため生産性が低かった。
【0055】
(従来法)
(比較例4)
褐変化工程のみを実施せずに、チョコレート3と同一原料のホワイトチョコレート(参考例1、チョコレート15)を準備した。当該ホワイトチョコレートを、80℃のオーブンに投入し、360分間静置してチョコレート14を得た。なお、従来法ではオーブンに16〜32時間静置して褐変させるのが通常であるが、比較例1と色相を比較するため360分(6時間)でオーブンから取り出した。
【0056】
【表3】
【0057】
色相については、視覚評価に加え、チョコレートを板状に成型し、該チョコレート表面のLabを把握することにより評価した。Labの測定には、色差計X-Rite exact(ビデオジェット・エックスライト社製)を用いた。なお、表1〜3に示した値は、50ヵ所(10サンプル×5ヵ所)のLabの平均値(小数点2位以下は四捨五入)である。
【0058】
「褐変化工程時の油脂含有率を上げる(実施例1〜6を参照)」、又は「褐変化工程の加熱温度を上げる(実施例3、実施例7〜10)を参照」ことにより、褐変が早まる傾向だった。
一方、加熱温度が低い場合(比較例1)には、従来法(比較例4)と同程度しか褐変せず、反応性が乏しかった。また、加熱温度が高すぎる場合(比較例2)には、炭化に起因すると思われる明度(LabにおけるL成分値)の低下が著しかった。さらに、褐変化工程時の油脂含有率が高すぎる場合(比較例3)には、油脂とその他材料の分離による色斑が生じた。