(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂発泡体層に貼り付けられる前記補強層及び前記金属箔層の積層体の面方向での100℃×10分間の加熱時の寸法変化率が、5.0%以下であることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の複合構造体。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物などに取付けられるダクトは、ダクト内外の温度差等によって生じる結露を防止するため、保温材料により被覆される。ダクトの保温材料は、例えば、グラスウール、被覆材付きグラスウール、ウレタン発泡体、ゴム発泡体等が市販されており、これらの保温材を巻きつけたり、内側に被覆材付きグラスウールを溶接ピンで留めたりするとの手法が用いられている。
【0003】
しかし、ウレタンフォームは作業性が悪く、作業後の外観が汚いために使用頻度が少ない。そのため空調ダクトなどの保温はグラスウールによるものが大半を占めており、一部ゴム発泡体が用いられているのが現状である。
【0004】
しかしながら、グラスウールは吸湿率が高いので、外気中の水分を多く吸って本体中の水分量が増加し、熱伝導率が高くなるおそれがある。熱伝導率が高くなると、断熱効果が低減するため、防湿保護を行う必要がある。例えば、グラスウールの外側をビニールシートやアルミ箔で覆い、さらにその上を金網や鉄板あるいは防湿性の高い布などの防湿カバーで覆う必要がある。このため、作業の工程が多く効率が悪いという課題がある
【0005】
また、防湿カバーは非常に傷つきやすいため、ダクトの工場出荷時に、ダクト外周に保温を実施しておくことができない。したがって、工場より出荷したダクトを現場室内の天井裏などに配管した後に保温構造を施工する必要がある。しかし、保温材の取付け作業は高所作業を伴って危険であり、また天井裏など狭隘な場所による不確実な作業が生じるため、保温材の取付けに長時間を要し、ダクトの配管施工コストを高くしているという課題がある。
【0006】
さらにグラスウール粉塵は皮膚に突き刺さり掻痒感や疼痛を惹起し、また、これを吸引することにより呼吸器疾患の健康被害が生ずるおそれがある。このため、作業員のみならず人々の健康を害する危険性があるという課題がある。
【0007】
一方、被覆材付きグラスウールをダクト内部に溶接ピンで取り付ける手法を用いる場合には、前述の課題は軽減する。しかし、ダクト内部は常時風が流れている為、被覆材や溶接ピンの劣化が起こりやすく、ダクト内部で材料が脱落しやすい。一度材料が脱落すると空調の風に乗ってしまって室内に流れ込むこともある為、上述の現象は問題視されている。
【0008】
脱落防止に着目した方法として、例えば、マット状繊維質保温材の両面に外被材を貼着した上でダクト外周面もしくは内周面に貼合する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、特許文献1では接着剤を使用するため接着剤が固化するまで静置する時間が余計にかかり、かつアルミテープ等を使用するため手間もかかるため顕著な施工効率化効果は発揮しにくい。
【0009】
また、金属板を組み合わせて筒状に形成し、その内壁に断熱材を載置する断熱ダクトが提案されている(特許文献2)。しかし、空調ダクトの様な内面に常時強い風が吹く様な環境では、通常の樹脂系発泡体や前述のゴム発泡体では、表面劣化や接着剤の劣化が進みダクト内で分解・飛散や脱落してしまう恐れがある。実際に内貼りグラスウールやゴム発泡体での風洞内脱落事例も報告されている。一度ダクト内で保温材の脱落が発生するとダクトを解体しないと除去できない為、ダクト風洞内に保温材を設置する場合には脱落防止に最も気をつけなければならない。
【0010】
また、ダクトを施工する際のダクト同士の接続の際には、接続部からのエアリークを防止する為にゴム等のパッキンを間に挟む方法が主に取られる。前述したいずれの文献もパッキンを使用する方法が想定される内容になっており、現場の施工工数削減を考慮する際にはパッキンの貼合工数も減らせるような材料の提供が必要だった。
【0011】
さらに、ダクト用断熱材は建築基準法の制約から国土交通大臣不燃認定を取得できるレベルの難燃性を有することが好ましい。ダクトは区画貫通部を通ることがあり、法令上、建築物の耐火性能を担保する為には、区画貫通部近傍はダクト、断熱材共に不燃材料で構成されなければならないからである。
【0012】
これに対し、金属板に貼り付けられる樹脂発泡体と、樹脂発泡体に貼り付けられる補強層と、補強層に貼りつられる金属箔で構成される複合体が提案されている(特許文献3)。発泡体の表面劣化を防ぎ、ゴムパッキンを使用せずに施工を行ない、さらに国土交通大臣不燃認定を取得できるレベルの難燃性を有するようにするためには、特許文献3のように、発泡体表面に補強層と金属箔を積層したものを使用することが有効であると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献3に記載するように、それぞれの層に、それぞれ異なる物性の材料を使用しているため、このような積層体を、ダクト内面に貼り付ける場合に、その複合構造体のダクトにおける接着安定性や剥離挙動を正確に把握することができない。
【0015】
これに対し、発明者らは、このような複合構造体を用いて、ダクト内壁面に貼り付けた場合において、ダクトと複合構造体との接着強度と、複合構造体の見かけ上の曲げ弾性率との関係が所定の関係を満たさないと、複合構造体とダクトとの間に隙間が生じて種々の問題が生じることを見出した。
【0016】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、ダクトの保温施工を効率化させると共に、ダクトに対する複合構造体の接着を良好に行なうことができ、ダクト内部での材料飛散や脱落が無い複合構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前述した目的を達するための本発明は、建築物用の複合構造体であって、樹脂発泡体層と、前記樹脂発泡体層に貼り付けられる補強層と、前記補強層に貼り付けられる金属箔層と、前記樹脂発泡体層の前記補強層とは反対側の面に設けられる粘着層と、を具備し、前記粘着層の粘着力(A)(N/10mm)と、前記粘着層を除く複合構造体の、前記金属箔層を表面に配置して樹脂発泡体層の加工方向に沿って曲げ試験を行なった場合の見かけ上の曲げ弾性率(B)(MPa)が、前記樹脂発泡体層の曲げ弾性率以上で、(B)/(A)≦4.0を満たすことを特徴とする複合構造体である。
【0018】
ここで、見かけ上の曲げ弾性率(B)を、前記樹脂発泡体層の曲げ弾性率以上としたのは、複合構造体の樹脂発泡体層が補強層や金属箔層等により補強されているため、複合構造体の見かけ上の曲げ弾性率は、前記樹脂発泡体の曲げ弾性率より大きくなるためである。したがって、本発明の複合構造体の、見かけ上の曲げ弾性率は、前記樹脂発泡体層の曲げ弾性率以上で、その値は、補強層や金属箔層の厚さや材料種により異なるが、さらに、見かけ上の曲げ弾性率の粘着層の粘着力に対する割合が、4.0倍以下であることになる。
【0019】
また、前記粘着層の粘着力(A)の上限は、使用する前記樹脂発泡体の引き裂き強度以下であることが望ましい。粘着力が樹脂発泡体の引き裂き強度以上になると、材料を剥がそうとする際に粘着剤の剥離ではなく発泡体の材料破断を生じることになる。その場合、例えば一回貼った後に貼り直しをしようとした時に発泡体が破壊しやすくなってしまうため、高すぎる粘着力は実用上好ましくないといえる。実際には、適用する樹脂発泡体の種類などの違いを考慮しても、粘着力の上限は4.00N/10mmである。また、粘着力の下限値は、複合構造体を安定して接着できるための接着力が確保できれば良いため、例えば、粘着力の下限は0.80N/10mmであるが、1.00N/10mm以上が好ましい。
【0020】
また、この場合の前記複合構造体の曲げ強度は、0.01MPa以上0.2MPa以下であることが望ましい。前記樹脂発泡体層は、複数の樹脂発泡体が積層されたものであってもよい。
【0021】
前記樹脂発泡体層に貼り付けられる前記補強層及び前記金属箔層の積層体の面方向での100℃×10分間の加熱時の寸法変化率が、5.0%以下であることが望ましい。
【0022】
本発明によれば、ダクトと複合構造体との接着強度と、複合構造体の見かけ上の曲げ弾性率との関係が所定の関係を持たすため、複合構造体とダクトとの間に隙間が生じることを抑制することができる。例えば、複合構造体の見かけ上の曲げ弾性率が高すぎると、この複合構造体をダクト内面からフランジ部に係る部位で曲げる場合に、ダクトの内面で複合構造体が剥離するおそれがある。特に、ダクト内は、常に高温の風が流れていたり、常に振動が伝わる場合があるため、ダクト内において複合構造体の脱落のおそれがあるが、本発明における複合構造体を用いれば、複合構造体の見かけ上の曲げ弾性率と、複合構造体の一方の面に設けた粘着層が所定の関係を有することから、複合構造体の剥がれをより確実に抑制することができる。
【0023】
また、複合構造体の曲げ強度は0.01MPa以上が好ましい。これは、曲げ強度が低すぎると、複合構造体を折り曲げた際に樹脂発泡体の座屈が生じ、結果としてダクトと複合構造体の間に隙間が発生することになるからである。
【0024】
また、複合構造体の曲げ強度が0.2MPa以下であれば、ダクト内面からフランジ部にかけて複合構造体を折り曲げた際に、反発力が小さく簡易に曲げられる。
【0025】
また、複数の樹脂発泡体が積層されて樹脂発泡体層が形成されれば、ダクトの内部の断熱性をさらに向上させることができる。
【0026】
また、樹脂発泡体層に貼り付けられる補強層および金属箔層の面方向での加熱寸法変化率が、5.0%以下であれば、樹脂発泡体と補強層との積層構造において、加熱時に反り等が生じにくく、これによる複合構造体の剥がれや、複合構造体とダクトとの間に隙間の形成を抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ダクトの保温施工を効率化させると共に、ダクトに対する複合構造体の接着を良好に行なうことができ、ダクト内部での材料飛散や脱落が無い複合構造体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、ダクト保温構造1を示す図である。ダクト保温構造1は、ダクト3と複合構造体7等からなる。
【0030】
ダクト3は、フランジ部5を有する。フランジ部5は、ダクト3の本体部に対して、略90度の角度で外方に向けて屈曲するように形成される。一対のダクト3のフランジ部5同士を対向させて、図示を省略した固定部材で固定することでダクト3同士が連結される。
【0031】
図2は、
図1のA部拡大図であり、複合構造体7の詳細を示す図である。複合構造体7は、建築物などに取付けられるダクトの保温に用いられる部材であり、主に、粘着層9、樹脂発泡体層11、補強層13、金属箔層15等から構成される。尚、各構成の間に、接着層や他の層が存在しても良い。
【0032】
樹脂発泡体層11を構成する樹脂発泡体は、例えば、ポリオレフィン系樹脂発泡体やニトリル樹脂系ゴム発泡体、オレフィン系樹脂共重合ゴム発泡体などを用いて製造される。例えば、樹脂発泡体は押出、あるいは押出後ロール加工によりシート状に製造される。この場合は、押出方向とロール加工の方向はほぼ一致することから、押出方向を加工方向と定義する。また、樹脂発泡体は、前述の機械特性を満足するものであれば特に制限無く用いることができる。加工性や形状追随性の観点からポリエチレン系樹脂であることが望ましい。
【0033】
また、使用されるポリエチレン系樹脂としてはエチレン系モノマーの単独重合体もしくは共重合体であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等もしくは、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等のエチレンを主成分とする共重合体などが好適に用いられる。なかでもポリエチレンやエチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好適に用いられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。
【0034】
また、樹脂発泡体には、必要に応じて気泡核剤、熱安定剤、加工助剤、滑剤、衝撃改質剤、難燃剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料等が適宜添加されてもよい。また、樹脂発泡体は、架橋されていてもよく、または架橋されていなくてもよいが、寸法変化を考慮すると架橋発泡体がより好適である。
【0035】
また、樹脂発泡体の発泡倍率は、20倍〜70倍が望ましく、さらにこの好ましくは30倍〜50倍が望ましく、発泡倍率が20倍未満の場合には断熱性が不足し、70倍を超えると反発力が低下し、フランジ部のシール性能が低下する可能性がある。例えば、断熱性とフランジ部のシール性の両者を考慮すると、20〜50倍がより好ましい。
【0036】
また、樹脂発泡体層11の厚さは、4mm〜15mmが好ましい。樹脂発泡体層11の厚さが4mm未満の場合は断熱性が不足し、15mmを超えると、ダクト3の内側に貼合した場合、ダクト3内の流路を著しく閉塞し、圧力損失が上がって本来の送風機能を発揮できなくなる。
【0037】
なお、樹脂発泡体層11は、複数の樹脂発泡体が積層されたものであってもよい。この際、樹脂発泡体は、2層または3層とすることができる。なお、この樹脂発泡体層の積層は接着により行うことができる。このようにすることで、適宜発泡倍率と発泡体層の厚さを変えることができる。例えば、内層より発泡倍率を高め、発泡体層の厚さの薄い発泡体層を外層に設けることにより、内層を高強度層として外層を低強度層とすることで、複合構造体のより高い断熱性能と強度のバランスを得ることができる。
【0038】
樹脂発泡体層11の一方の面には、補強層13が貼り付けられる。補強層13の材質は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン系樹脂製クロスシートやポリエステル系樹脂性クロスシート、ガラスクロスシート、ポリエチレン系樹脂製シート、ポリエチレン系樹脂製フィルム、塩化ビニル系樹脂製シート、塩化ビニル系樹脂製フィルム、ポリエステル系樹脂製シート、ポリエステル系樹脂製フィルムなどが挙げられる。本発明については、柔軟性を考慮するとポリエチレン系樹脂製クロスシートや塩化ビニル系樹脂製シート、ポリエステル系樹脂製フィルム等が望ましい。
【0039】
補強層13の表面には、さらに金属箔層15が貼り付けられる。金属箔層15の材質は特に限定されないが、アルミニウム箔、チタン合金箔、ニッケル合金箔、青銅箔、スズ箔、亜鉛合金箔、真鍮箔が挙げられる。なお、実使用条件や材料価格等の観点からからアルミニウム箔が好ましい。
【0040】
金属箔層15と補強層13の合計厚さは、20μm〜300μmであることが望ましく、さらに好ましくは20〜150μmである。合計厚さが20μm未満であると強度面で破断し易く、ダクト3に貼合した後の取扱時に傷つきやすくなる。逆に、合計厚さが300μmを超えると、剛性が大きくなり過ぎて折り曲げ貼合が困難となる。
【0041】
尚、温度変化時の接着安定性を考慮すると、補強層13及び金属箔層15の積層体の面方向での、100℃×10分間、恒温槽内で静置して加熱した後の寸法変化率は、5.0%以下であることが望ましく、さらに4.0%以下であることがより望ましい。
【0042】
なお、寸法変化は、補強層13と金属箔層15のみの積層体を準備し、加熱前の寸法を測定しておき、100℃×10分間、恒温槽内で静置した後、積層体を取り出して寸法を測定し、加熱前の寸法に対する寸法変化率を算出することで得ることができる。補強層と金属箔層の積層体の寸法変化率を所定以下とすることで、この積層体と発泡体との寸法変化率を小さくすることができるため、ダクト3内の高温下で使用された際にも、複合構造体7の変形(反り上がり)を抑制することができる。
【0043】
例えば、補強層13及び金属箔層15の積層体の寸法変化率が大きいと、高温時の収縮によって、複合構造体7全体が反り上がり、ダクト3との接着が剥がれるおそれがある。
【0044】
樹脂発泡体層11の補強層13とは反対側の面には、粘着層9が設けられる。粘着層9の種類としては、例えば、溶剤系、ホットメルト系、エマルジョン系等の種別や、ブチルゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、アクリル系、シリコン系、ポリアミド系、ウレタン系、ポリエステル系等の樹脂種別があるが、特に限定されるものではない。但し、加熱時の粘着性を担保することを考慮し、アクリル系乃至シリコン系粘着材が好適に使用される。特に材料費の観点を考慮するとアクリル系粘着材が最適である。
【0045】
なお、JIS Z 0237記載の方法に基づき、被着体にポリプロピレン板を用い、引き剥がし角度90°、引き剥がし速度50mm/分の条件にて測定した際の粘着層9の粘着力は、1.0N/10mm以上であることが望ましい。このようにすることにより、複合構造体7をダクト3に接着するのに、最低限必要な接着力を確保できる。
【0046】
ここで、ダクト3に用いられる保温材は国土交通省の定める耐火性能を有していなければならないため、有機物質系発泡体を保温材として用いた場合、その性能発現が一つの課題となる。
【0047】
これに対し、複合構造体7は、樹脂発泡体層11の外表面には補強層13および金属箔層15が貼り付けられるため、樹脂発泡体層11が外面に露出せず、樹脂発泡体層11が燃焼することを抑制することができる。すなわち、金属箔層15は、熱を分散する役割と、内部の樹脂発泡体層11と外気との接触を断つ役割を果たす。したがって、仮に内部の樹脂発泡体層11が熱で収縮・変質があったとしても、燃焼(発熱反応)が生じることを抑制することができる。また、補強層13および金属箔層15は、樹脂発泡体層11の汚損、劣化を抑制する効果を有し、樹脂発泡体層11の脱落を抑制する。
【0048】
図2に示すように、複合構造体7は、金属箔層15を流路面側とするように、ダクト3の内壁面に貼り付けられている。また、
図1に示すように、複合構造体7は、樹脂発泡体層11の貼り付け時の継ぎ目を少なくするため、金属箔層15を流路面側として、樹脂発泡体層11を形成するシート状の樹脂発泡体の加工方向を流路面に沿わせて、ダクト3の内壁面に貼り付けられダクト3の流路面全体を覆うとともに、フランジ部5においてフランジ部5に沿って折曲げられ、フランジ部5同士の間に挟み込まれる。この際、樹脂発泡体層11は多くの場合幅方向には折曲げられず加工方向に沿って折曲げられる。補強層13が、樹脂クロスシートであれば、補強層13によって凹凸が形成され、金属箔層15は、補強層13の凹凸に応じた凹凸形状を有する。このため、折曲げた際に、金属箔層15が変形に追従しやすく破断しにくい。
【0049】
ここで、複合構造体7とダクト3の内面との間に隙間が生じると、複合構造体7の脱落等の恐れがある。したがって、複合構造体7とダクト3とは確実に接着させる必要がある。しかし、複合構造体7の曲げ部においては、複合構造体7の曲げに対する復元力(反発力)によって、ダクト3との間に隙間が生じやすい。したがって、このような部位においても、複合構造体7がダクト3から剥がれることなく確実に接着されている必要がある。
【0050】
ここで、前述したように、複合構造体7は、樹脂発泡体層11と、補強層13と、金属箔層15を有する積層体であり、これらの各層の界面は、相互に熱融着または接着されている。また、複合構造体7を構成する材料の曲げ弾性係数は、それぞれ異なる。そのため、この複合構造体7の曲げ変形挙動は、各材料の曲げ弾性係数や各材料の厚さ、あるいは各材料の積層順序により定まるものである。発明者らは、この複合構造体7の曲げ変形時の弾性反発力によって、ダクト3に対する複合構造体7の剥離挙動を評価することができることを見出した。
【0051】
より詳細には、粘着層9の粘着力(A)(N/10mm)と、粘着層9を除く複合構造体7の、金属箔層15を表面に配置して樹脂発泡体層11の加工方向に沿って曲げ試験を行なった場合の見かけ上の曲げ弾性率(B)(MPa)が、樹脂発泡体層11の曲げ弾性率以上で、さらに(B)/(A)≦4.0を満たす場合に、ダクト3の曲げ部に対して折り曲げて貼り付けた際にも、複合構造体7が剥がれることなく、隙間なく接着できることを見出した。この際、粘着層の粘着力は、0.80N/10mmから4.00N/10mmの範囲であることが望ましい。複合構造体の曲げ弾性率の上限は8.0MPa以下であることが好ましい。複合構造体の粘着力と見かけ上の曲げ弾性率とを上記の範囲に設定することで、ダクトのフランジ部に本発明の樹脂複合体を適切に粘着剤で接着して剥がれを防止することができる。
【0052】
なお、粘着層9の粘着力は、前述したように、JIS Z 0237記載の方法に基づき、被着体にポリプロピレン板を用い、引き剥がし角度90°、引き剥がし速度50mm/分の条件にて測定される。
【0053】
また、曲げ弾性率については、通常JIS K 7221−2の方法に基づいて測定される。ここで、複合構造体7の見かけ上の曲げ弾性率は、各層を構成するそれぞれの材料の厚さや剛性が異なるため、複合構造体7の外表面にいずれの層を配置するかにより異なるものと考えられる。このため、この複合構造体7の曲げ試験を行なう場合に、使用実態と同様な配置とするために、複合構造体7の樹脂発泡体層11の加工方向に平行に曲げ部が配置され、さらに金属箔層15が曲げ部の外周側に配置されるようにして配置して曲げ試験を行なう必要がある。
【0054】
なお、金属箔層15が曲げ部の外周側に配置されるようにして配置して曲げ試験を行なった際の、複合構造体7の曲げ強度としては、0.2MPa以下であることが望ましい。複合構造体7の曲げ強度が大きいと、曲げた際の反発力が大きく、曲げた際に、ダクト3との間に隙間が生じやすい。
【0055】
以上、本実施の形態によれば、ダクト3の内面を全面にわたって複合構造体7で覆うことで、ダクト3における結露を抑制することができる。また、複合構造体7を折り曲げて、フランジ部5同士の間に複合構造体7を挟み込むことで、フランジ部5同士の間に隙間が形成されることがなく、漏れを防止することができる。
【0056】
また、粘着層9の粘着力(A)(N/10mm)と、粘着層9を除く複合構造体7の見かけ上の曲げ弾性率(B)(MPa)が、前記樹脂発泡体層の曲げ弾性率以上として、さらに(B)/(A)≦4.0を満たすため、複合構造体7をフランジ部5に対して折り曲げて貼り付けても、複合構造体7がダクト3から剥がれて、両者の間に隙間が形成されることを抑制できる。また、粘着層9の粘着力(A)を所定の範囲とすることで、ダクトのフランジ部等に複合構造体7を安定して接着することができる。粘着層の粘着力(A)の上限は、使用する前記樹脂発泡体の引き裂き強度以下であることが望ましい。粘着力が樹脂発泡体の引き裂き強度以上になると、材料を剥がそうとする際に粘着剤の剥離ではなく発泡体の材料破断を生じることになる。その場合、例えば一回貼った後に貼り直しをしようとした時に発泡体が破壊しやすくなってしまうため、高すぎる粘着力は実用上好ましくないといえる。実際には、適用する樹脂発泡体の種類などの違いを考慮しても、粘着力の上限は4.00N/10mmである。また、粘着力の下限値は、複合構造体を安定して接着できるための接着力が確保できれば良いため、例えば、粘着力の下限は0.80N/10mmであるが、1.00N/10mm以上が好ましい。
【0057】
ここで、複合体の見かけ上の曲げ弾性率は、補強層と金属箔層により補強されているため、樹脂発泡体の曲げ弾性率より大きくなるが、見かけ上の曲げ弾性率の上限は、複合構造体の剥離の観点からは、8.0MPa以下が好ましく、6.0MPa以下がより好ましい。下限値は特に制限はなく、粘着力との関係で(B)/(A)を満たす範囲に適宜設定すれば良い。尚、粘着力は粘着層の厚さを変えるか、粘着剤種や硬化剤種を変える等の手段で調整することもできる。粘着層の厚さは10μm〜100μm程度が好ましい。薄すぎると所望の粘着力を発揮できず、厚すぎると加工時に溶剤が残りやすくなって製法上のコントロールが難しくなると共に、せん断接着力が低下し、貼り付け後に断熱材がずれてしまう。粘着剤種は前述の条件を満たせば特に制限は無く、例えばウレタン系、オレフィンゴム系、アクリル系、シリコン系のいずれも使用できる。硬化剤種は粘着剤種に対して最適なものを選定すればよく、イソシアネート系、ウレタン系、エポキシ系等が使用できる。
【実施例】
【0058】
各種の条件を変えた複合構造体を形成し、粘着力、見かけ上の曲げ弾性率、見かけ上の熱伝導率、断熱性能、及びダクト内部への貼合性について評価した。ダクト内部への貼合性については、
図1と同様の構造を用いて評価した。
【0059】
複合構造体に用いられる樹脂発泡体の発泡倍率は、水中置換法(JISK7112)にて求めた。また、樹脂発泡体の重量の測定にはメトラードレド社製の電子天秤AG204を使用した。
【0060】
粘着力はJIS Z 0237記載の方法に基づき、被着体にポリプロピレン板を用い、引き剥がし角度90°、引き剥がし速度50mm/分の条件にて測定した。
【0061】
見かけ上の曲げ弾性率及び曲げ強度については、粘着層を形成する前の複合構造体に対し、JIS K 7221−2の方法に基づき3点曲げ試験を実施した。具体的には、試験片を、複合構造体を構成する樹脂発泡体の加工方向に平行に切り出し、支点間距離100mmとし、試験片の幅は25mmで金属箔層が曲げ部の外周側に配置されるように設置し、試験片厚さは試験片の全体厚さを用い、試験速度10mm/分の条件で測定した。
【0062】
断熱材の熱伝導率については、常温時JIS A 1412測定法において0.023〜0.045(W/m・K)を示す材料であれば特に制限無く用いることができる。長期に渡って空気の熱伝導率を下回る断熱材を製造するには高コストがかかるため、0.023(W/m・K)以下の断熱材の使用は現実的ではない。熱伝導率が高すぎる場合には、ダクト用断熱材として所望の断熱性能を発揮できない。熱伝導率については、粘着層を形成する前の複合構造体に対し、JIS A 1412−2の方法(熱流計法)に基づき測定温度23℃にて、複合構造体としての複合構造体の厚さ方向の見かけ上の熱伝導率を測定した。
【0063】
断熱性能については、複合構造体とダクトを貼合した上で、送風機としてASE−100(エスペック社製、送風量:10.3m
3/分)を接続し、複合構造体が貼合されたダクトを試験室内に静置した、ダクト内を12℃、ダクト外を25℃に設定し、ダクト外面表面温度を測定した上で、表面温度が18℃以上であれば○判定とし、18℃未満であれば×判定とした。
【0064】
貼合性については、一辺300mm角の共板式角ダクトを用意し、片側のフランジの下端部からダクト本体を通じてもう片側のフランジ端部まで複合構造体を貼合し、その際に折り曲げ部の浮き、剥がれ等が無いかで評価した。
各種材料の組みあわせにおける試験結果を、表1、表2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
(実施例1)
樹脂発泡体層として、発泡倍率40倍の架橋ポリエチレン系発泡体(古河電気工業株式会社製 フネンエース(登録商標):厚さ4mm)を使用し、その表面に赤外ヒーターで熱をかけながらポリクロスポリラミアルミ箔(Pacific Industry Co.製、総厚110μm)を貼合した。また、樹脂発泡体層の裏面には粘着材としてBPS6080TFK(トーヨーケム株式会社製:アクリル系粘着材)を塗布した剥離紙を貼合し、転写することで複合構造体を製造した。
【0068】
(実施例2)
樹脂発泡体層を厚さ10mmのフネンエース(登録商標)とした以外は実施例1と同様とした。
【0069】
(実施例3)
補強層をガラスクロスとし、樹脂発泡体層の厚さを6mmとした以外は実施例1と同様とした。
【0070】
(実施例4)
樹脂発泡体層を発泡倍率30倍の古河電気工業株式会社製のフォームエース(登録商標)、厚さを8mmとした以外は実施例1と同様とした。
【0071】
(実施例5)
補強層をPET製フィルム(総厚20μm)、発泡体をゴム系発泡体(リソランテ・ケーフレックス社製K−FLEX(登録商標))とした以外は実施例1と同様とした。
【0072】
(実施例6)
粘着剤をSKダイン 1717DT(綜研化学株式会社製:アクリル系粘着剤)とした以外は実施例2と同様とした。
【0073】
ここで、表1に示すサンプルについて前述の各評価を実施した結果、実施例1から実施例6の粘着剤の粘着力(A)は、1.14〜3.5N/10mmで、0.8〜4.0N/10mmの範囲を満足する。また、見かけ上の曲げ弾性率(B)は、1.45〜5.50MPaで、8.0MPa以下を満たす結果になった。金属箔層を表面に配置して曲げ試験を行なった場合の見かけ上の曲げ弾性率(B)と粘着層の粘着力(A)の関係を示す(B)/(A)は、いずれも4.0以下であり、見かけ上の曲げ弾性率と粘着層の粘着力は、各実施例材ともに本発明の規定を満たすものが得られた。いずれの実施例も、貼合性は合格であり、見かけ上の曲げ弾性率と粘着層の粘着力の関係を示す(B)/(A)の結果と整合した。
さらに断熱性も全て合格であり、ダクト断熱用複合構造体として優れていた。
【0074】
(比較例1)
樹脂発泡体を発泡倍率20倍の古河電気工業株式会社製のフォームエース(登録商標)、厚さを10mmとした以外は実施例1と同様にした。その結果、見かけ上の曲げ弾性率が上昇したことで(B)/(A)値が狙いの値から外れ、結果としてフランジ部の曲げ部で浮きが発生し、貼合性評価が不合格となった。また、見かけ上の熱伝導率が悪化したことで断熱性も不合格だった。
【0075】
(比較例2)
粘着材の塗布量を落とした以外は実施例4と同様にした。その結果粘着力が低下し、フランジ部近傍の曲げ部で剥がれてしまい、貼合性が不合格となった。
【0076】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。