(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一次粒子径の個数平均値が10〜100nmである金属ナノ粒子(A)を含む接合用金属ペーストであって、ペーストを窒素雰囲気中3℃/分の昇温速度で40℃から700℃まで昇温したときにおける、減量値の累積値(L700)を100としたとき、40℃から100℃まで昇温したときにおける減量値の累積値(L100)が75以下であり、40℃から150℃まで昇温したときにおける減量値の累積値(L150)が90以上であって、40℃から200℃まで昇温したときにおける減量値の累積値(L200)が98以上であって、金属ナノ粒子(A)を含んだ金属粒子、溶剤、分散剤などの添加剤を含む接合用金属ペースト全量を100質量%とし、焼成温度Tb(℃)としたとき、沸点もしくは分解温度がTb−50(℃)以上Tb+50(℃)以下である溶剤が、5質量%以上10質量%以下である、接合用金属ペースト。
金属ナノ粒子(A)を含んだ金属粒子、溶剤、分散剤などの添加剤を含む接合用金属ペースト全量を100質量%としたとき、焼成温度Tb(℃)としたとき、沸点もしくは分解温度が焼成温度Tb+50(℃)よりも高い成分を1.5質量%以下含有する、請求項1または2に記載の接合用金属ペースト。
一次粒子径の個数平均値が10〜100nmである金属ナノ粒子(A)を含んだ金属粒子を含む接合用金属ペーストであって、当該ペーストに含まれる金属粒子は窒素雰囲気中0.1MPaで加圧しながら、3℃/分の昇温速度で30℃から250℃まで昇温しながら行う熱機械分析において計測される収縮率が1.5%以下である、請求項1ないし3のいずれかに記載の接合用金属ペースト。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2において開示している技術として、ナノサイズの銀粒子およびミクロンサイズの銀粒子を併用し、焼結助剤や、リン酸エステル系の添加剤を併用することによって、ペーストを塗布し焼結させた際に形成される金属層中のボイドを低減させることが出来る旨開示を行った。
【0007】
ところが、発明者らの直近の検討によれば、こうした構成を適正化したペーストであっても、特に大面積での接合を行う場合において、端部で接着不良を生じてしまう場合があることがわかってきた。端部の接合不良により生じた空隙部分に水分などが浸入した場合には、その部分から緩やかな酸化が生じてしまう危険性があることが推定されることから、接合面積がたとえ大きくても接着不良を生じないペーストの構成とすることが強く望まれている。
【0008】
そこで本発明において解決すべき課題としては、接合面積が大きい場合であっても端部におけるボイドの発生を低減し、均一性のある接合層を形成できる接合ペーストおよび該ペーストを用いた接合方法の提供と定めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこれらの問題を解決するために、鋭意検討を行ったところ、ペーストについては添加する成分だけではなく、添加した結果形成されるペーストが示す性質を適切な条件とすれば、上記の課題が解決できうることを見いだし、本件発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本明細書が開示する第1の発明は、少なくとも一次粒子径の個数平均値が10〜100nmである金属ナノ粒子(A)を含む接合用金属ペーストであって、ペーストを窒素雰囲気中3℃/分の昇温速度で40℃から700℃まで昇温したときにおける、減量値の累積値(L
700)を100としたとき、40℃から100℃まで昇温したときにおける減量値の累積値(L
100)が75以下であり、40℃から150℃まで昇温したときにおける減量値の累積値(L
150)が90以上であって、40℃から200℃まで昇温したときにおける減量値の累積値(L
200)が98以上である、接合用金属ペーストである。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、40℃から200℃まで昇温したときにおける減量値の累積値(L
200)が99.9以下の接合用金属ペーストである。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明に記載した接合用金属ペーストにおいて、金属ナノ粒子(A)を含んだ金属粒子、溶剤、分散剤などの添加剤を含む接合用金属ペースト全量を100質量%としたとき、焼成温度Tb(℃)としたとき、沸点もしくは分解温度がTb−50(℃)以上Tb+50(℃)以下である溶剤が、5質量%以上10質量%以下である、接合用金属ペーストである。
【0013】
第4の発明は、第1ないし第3のいずれかの発明に記載した接合用金属ペーストにおいて、金属ナノ粒子(A)を含んだ金属粒子、溶剤、分散剤などの添加剤を含む接合用金属ペースト全量を100質量%としたとき、焼成温度Tb(℃)としたとき、沸点もしくは分解温度が焼成温度Tb+50(℃)よりも高い成分を1.5質量%以下含有する、接合用金属ペーストである。
【0014】
第5の発明は、接合用金属ペーストにおいて、少なくとも一次粒子径の個数平均値が10〜100nmである金属ナノ粒子(A)を含んだ金属粒子を含む接合用金属ペーストであって、当該ペーストに含まれる金属粒子は窒素雰囲気中0.1MPaで加圧しながら、3℃/分の昇温速度で30℃から250℃まで昇温しながら行う熱機械分析において計測される収縮率が1.5%以下の接合用金属ペーストである。
【0015】
第6の発明は、第5の発明に記載の接合用金属ペーストにおいて、使用される金属粒子の30℃から200℃まで昇温しながら行う熱機械分析において計測される収縮率が0.5%以下の接合用金属ペーストである。
【0016】
第7の発明は、第5もしくは第6の発明に記載の接合用金属ペーストにおいて、使用される金属粒子の30℃から175℃まで昇温しながら行う熱機械分析において計測される収縮率が0.3%以下の接合用金属ペーストである。
【0017】
第8の発明は、第1ないし第7のいずれかの発明において、さらにレーザー回折型粒度分布装置により計測される体積換算の平均粒子径(D
50)1.0〜5.0μmの金属粒子(B)を含む、接合用金属ペーストである。
【0018】
第9の発明は、第8の発明において、金属ナノ粒子(A)と金属粒子(B)の重量混合比は(A)/(B)で0.25以下の接合用金属ペーストである。
【0019】
第10の発明は、2つの被接合部材の接合方法であって、被接合部材に第1ないし第9のいずれかの発明に記載された接合用金属ペーストを塗布する工程、該塗膜上に他方の前記ペーストの塗布された被接合物をもう一方の被接合部材に戴置する工程、戴置後に200〜350℃の焼結温度まで昇温し、焼結温度で2時間未満保持して、金属接合層を形成する工程を備えた接合方法である。
【0020】
第11の発明は、第10の発明に記載された接合方法であって、接合用金属ペーストを塗布した後に、50〜150℃の温度で乾燥する工程を備えた接合方法である。
【0021】
第12の発明は、第10もしくは第11の発明において、焼結温度までの室温からの昇温速度が毎分1.5〜10℃である、接合方法である。
【0022】
第13の発明は、第10ないし第12のいずれかの発明において、接合用金属ペーストを塗布する面積(接合面積)が9mm
2以上である、接合方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、接合面積が大きい場合であっても端部におけるボイドの発生を低減して、均一性のある接合層を形成することができ、高い接合強度を有した接合体を形成することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明にかかる接合用金属ペーストおよび接合方法について説明する。
【0026】
<接合用金属ペースト>
接合用金属ペーストは、特定の金属粒子、溶剤、および特性を補完する添加成分から構成される。
【0027】
[金属ナノ粒子]
本発明で利用される金属ナノ粒子は、出願人が既に市販しているものの他、本願発明の趣旨に従うものであれば、市販の粒子や、文献に記載された粒子を採用することができる。ナノ粒子を作成する方法は、本発明で指定した粒子径範囲と性質を満足するのであれば、湿式法や乾式法のいずれの方法により作成された粒子を採用することが可能である。本発明の趣旨に従う金属ナノ粒子としては、平均一次粒子径(透過型電子顕微鏡写真、走査型電子顕微鏡写真から算出される数平均粒子径)が10〜100nm、好ましくは15〜80nm、一層好ましくは20〜60nm、より一層好ましくは、20〜40nmである。該数平均粒子径のことを一次粒子径の個数平均値ともいう。粒子の表面には、自然焼結を抑制するための有機物被覆(キャッピング層)が形成されていることが好ましい。粒子径が細かくなることで、金属ナノ粒子の溶融温度が低くなるので、接合体の形成温度を低くすることができるため好ましい。ただし、あまりにも小さい場合には、常温での焼結を避けるために厚いキャッピング層を形成させなければならなくなるので好ましくない。厚いキャッピング層を形成してしまうと、粒子間の分散はさせやすく単分散なものが得られやすくなるが、キャッピング層を除去し、金属の焼結を進行させるためには高温での処理が必要になったり、金属層の中に有機物が残存してしまい接合強度の低下や導電率の低下の原因にもなったりするので好ましくない。また、単分散になりすぎると、粒子の回収が難しくなるので生産性が低下する原因にもなる。
【0028】
キャッピング層は、金属層の形成温度において除去できるような低温分解性を有する物質であることが高い接合強度を形成するには好ましい。分子量の大きい物質としてしまうと、焼結層に焼成残渣が残存してしまうことになり好ましくないため、ポリマーや高分子物質は避けるのがよい。キャッピング層を形成する有機物としては、少なくとも焼結温度以下の沸点を有する物質であることが好ましく、沸点が300℃以下、好ましくは250℃以下である物質とするのがよい。かような有機化合物の例としては、炭素数が12以下のカルボン酸、ジカルボン酸、不飽和脂肪酸、あるいはアミン類、チオール類、スルフィド類が例示できるが、特に好ましいのはカルボン酸、ジカルボン酸、不飽和脂肪酸、アミン類である。具体的には、オクタン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ペンタン酸、ブタン酸、プロパン酸、シュウ酸、マロン酸、エチルマロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ソルビン酸、マレイン酸、ヘキシルアミン、オクチルアミン等を挙げることができる。
【0029】
表面を被覆する有機物の量が多くなると、焼成温度が高くなってしまうこと、焼成膜中に不純物が残存することがあるので不適切である。有機物被覆量は金属ナノ粒子(粉末)に対し、0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.5質量%以上5質量%以下、一層好ましくは1.0質量%以上、3.0質量%以下とするのがよい。
【0030】
また、粒子の加熱に対する収縮が小さいものであることが好ましい。具体的には、窒素雰囲気下、0.1MPaで加圧しながら、30℃から250℃まで3℃/分の速度で昇温しながら行う熱機械分析において計測される収縮率が1.5%以下、好ましくは1.0%以下、好ましくは0.75%以下であることが好ましい。窒素雰囲気下、0.1MPaで加圧しながら、30℃から200℃まで毎分3℃の速度で昇温しながら行う熱機械分析において計測される収縮率が0.5%以下であることが好ましい。窒素雰囲気下、0.1MPaで加圧しながら、30℃から175℃まで毎分3℃の速度で昇温しながら行う熱機械分析において計測される収縮率が0.3%以下であることが好ましい。
【0031】
金属ナノ粒子で用いられる金属は、部材の接合に使用可能なものであれば特に限定されない。貴金属及び卑金属のいずれも使用することができる。貴金属としては、例えば、銀、金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等を挙げることができる。入手の容易さを考慮すれば、銀や金などが好適に利用されうる。コスト面から見れば、特に好ましいのは銀である。卑金属としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル等を挙げることができる。ここで、使用されうる金属は単金属でもよいし、合金であってもよい。
【0032】
[金属粒子]
本発明において、金属粒子を併用する場合には、市販の金属粒子を採用することが可能である。この際の粒子は湿式法で作成したものであっても、乾式法で作成されたもののいずれでもかまわない。本発明で利用される金属粒子としては、レーザー回折型粒度分布装置で計測される体積換算の累積50%粒子径(D
50粒子径)が1.0〜5.0μmである金属粒子を含む。金属ペースト(の塗膜)の焼結時には、金属ナノ粒子が焼結して、金属粒子を連結するようにして、金属接合層が形成される。この際金属接合層にボイドが形成されにくくするためには、金属粒子のD
50粒子径は1.2〜3.0μmであることが好ましく、1.4〜2.0μmであることがより好ましい。
【0033】
この金属粒子についても、分散性向上などのため有機化合物で被覆されていてもよく、その際に、金属粒子を炭素数20以下の有機化合物にて被覆するのが好ましい。そのような有機化合物の例としては、オレイン酸やステアリン酸が挙げられる。被覆している有機物の量は、金属ナノ粒子に対するものと同じく少ない方が金属層への悪影響を抑制できるので好ましい。具体的には5.0質量%以下、好ましくは3.0質量%以下であるものがよい。
【0034】
また、粒子の加熱に対する収縮が小さいものであることが好ましいことは金属ナノ粒子の説明で述べたとおりであるが、金属粒子を併用する場合においては、金属ナノ粒子と金属粒子を混合した後に、同様の性質を有することが好ましい。具体的には、金属ナノ粒子と金属粒子を混合させた混合物について、窒素雰囲気下、0.1MPaで加圧しながら、30℃から250℃まで毎分3℃の速度で昇温しながら行う熱機械分析において計測される収縮率が1.5%以下、好ましくは1.0%以下、一層好ましくは0.75%以下であることが好ましい。窒素雰囲気下、0.1MPaで加圧しながら、30℃から200℃まで毎分3℃の速度で昇温しながら行う熱機械分析において計測される収縮率が0.5%以下であることが好ましい。窒素雰囲気下、0.1MPaで加圧しながら、30℃から175℃まで毎分3℃の速度で昇温しながら行う熱機械分析において計測される収縮率が0.3%以下であることが好ましい。
【0035】
金属粒子で用いられる金属は、部材の接合に使用可能なものであれば特に限定されない。貴金属及び卑金属のいずれも使用することができる。貴金属としては、例えば、銀、金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等を挙げることができる。入手の容易さを考慮すれば、銀や金などが好適に利用されうる。コスト面から見れば、特に好ましいのは銀である。卑金属としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル等を挙げることができる。ここで、使用されうる金属は単金属でもよいし、合金であってもよい。ここで、金属ナノ粒子と同じ金属を採用してもよいし、別の金属を採用しても差し支えない。
【0036】
金属ナノ粒子に加えて、金属粒子を追加する場合、金属ナノ粒子(A)と金属粒子(B)の重量混合比は(A)/(B)で0.25以下であるのが好ましい。また、接合用金属ペースト中における、金属ナノ粒子又は金属ナノ粒子と金属粒子との混合物の割合は90質量%以上であるのが好ましい。
【0037】
[溶媒]
本発明で使用される溶媒は、焼成温度よりも低い温度で揮散する性質を有するものを用いるとよい。揮散は沸騰による蒸発であっても、分解であってもよい。具体的には沸点もしくは分解温度が300℃以下のものを採用することが好ましい。
【0038】
本発明で使用される溶媒は、焼結などに影響を及ぼさないという条件において、極性溶媒であっても、非極性溶媒であってもよいが、他の成分との相溶性等を考慮すれば、極性溶媒を選択する方が適当である。
【0039】
ここで用いられる溶媒としては、金属ペーストにおける沸点や粘度、蒸発速度の調整などの目的で、複数の溶媒を混合し使用することが出来る。ここで混合できうる溶媒として、溶媒を極性溶媒とする場合には、次のような溶媒が例示できる。水;ターピネオール、テキサノール、フェノキシプロパノール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノール、1−テトラデカノール、テルソルブMTPH(日本テルペン化学株式会社製)、ジヒドロターピニルオキシエタノール(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブTOE−100(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブDTO−210(日本テルペン化学株式会社製)等のモノアルコール;3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(オクタンジオール)、ヘキシルジグリコール、2−エチルヘキシルグリコール、ジブチルジグリコール、グリセリン、ジヒドロキシターピネオール、3−メチルブタン−1,2,3−トリオール(イソプレントリオールA(IPTL−A)、日本テルペン化学株式会社製)、2−メチルブタン−1,3,4−トリオール(イソプレントリオールB(IPTL−B)、日本テルペン化学株式会社製)等のポリオール;ブチルカルビトール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ターピニルメチルエーテル(日本テルペン化学株式会社製)、ジヒドロターピニルメチルエーテル(日本テルペン化学株式会社製)等のエーテル化合物;ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート;1−メチルピロリジノン、ピリジン等の含窒素環状化合物;γ―ブチロラクトン、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、乳酸エチル、3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、テルソルブIPG−2Ac(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブTHA−90(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブTHA−70(日本テルペン化学株式会社製)等のエステル化合物;などが例示できる。
【0040】
本発明者らは、この溶媒の混合選択時において、沸点(もしくは分解温度)を適切に調整すれば、金属層が形成される速度を調整することが出来るとともに、金属層を適切に構成できうることを知見した。具体的には、沸点の異なる溶剤を複数混合することにより、窒素雰囲気中で計測される焼成の各段階を想定した重量減少量の累積値を特定の範囲とすることで、焼成中に発生する溶剤や添加物、金属粒子の表面を構成する有機物の揮発や分解時に発生するガス成分が必要以上に残存することを避けることが出来るというものである。
【0041】
[沸点別の溶剤構成]
本発明において、重要なのは上述した溶剤候補において、その溶剤の沸点を階層ごとに分類し、それらを組み合わせることにより、金属層の形成段階において溶剤の沸騰や分解のタイミングを一度に行わせるのではなく、数段階に分けて行わせることにある。そうすることによって、焼結による金属層の収縮が一度に進みすぎることを緩和することが可能となる。
【0042】
発明者の検討によれば、本発明に従うペーストの構成を大きく分ければ、沸点もしくは分解温度が(焼結させようとする温度:Tb)を中央値とし、沸点もしくは分解点が(焼結させようとする温度)±50℃の溶剤(S
A)と(焼結させようとする温度:Tb)+50℃以上である溶剤もしくは難分解性の有機物(後掲の表1では一括して溶剤というカテゴリーに含めており、一括して成分S
Bともいう。)をともに含む構成とすることが適当であって、(焼結させようとする温度)を中央値とし、沸点もしくは分解点が(焼結させようとする温度:Tb)±50℃の溶剤(S
A)は、ペースト全体における割合が5質量%以上10質量%以下とし、沸点もしくは分解温度が(焼結させようとする温度:Tb)+50℃よりも高い成分(S
B)は0質量%を上回り1.5質量%以下とすることが適当であることが判明した。具体的な例で示すと、焼成温度(Tb)を250℃(後述の実施例、比較例)と設定する場合にはS
Aの範囲は200〜300℃の範囲であり、沸点もしくは分解温度が200℃以上300℃以下の成分と300℃よりも高い成分でペーストの配合を決定することを意味する。すなわち、本発明においては、金属層中に沸点の高い有機物もしくは有機物由来の炭素の存在を許容する。この沸点の高い有機物の存在は、焼結中表面被覆物が脱離した後の金属成分の焼結が一度に進みすぎるのを抑制する働きがあると推定される。しかし、あまりにもかような物質が多すぎると、粒子の焼結を妨害し、接合強度に悪影響を及ぼすことから適当ではない。
【0043】
具体例として、特に焼成温度を250℃に設定した場合における溶剤配合について例示する。焼成温度(Tb)を250℃と設定した場合における、沸点もしくは分解温度の境界温度は300℃であり、溶媒の構成としては沸点もしくは分解温度が200〜300℃の溶剤と300℃よりも高い溶剤を混合することになる。このとき、沸点もしくは分解温度が200〜300℃の溶剤(S
A)としては、1−デカノール(沸点(公称値):233℃)、3−メチルブタン−1,2,3−トリオール(イソプレントリオールA(IPTL−A))(沸点(公称値):255℃、日本テルペン化学株式会社製)、2−メチルブタン−1,3,4−トリオール(イソプレントリオールB(IPTL−B))(沸点(公称値):278℃、日本テルペン化学株式会社製)及びジエチレングリコール(沸点(公称値):245℃)が挙げられる。ここで、(焼結させようとする温度:Tb)を中央値とし、沸点もしくは分解点が(焼結させようとする温度:Tb)±50℃の溶剤は、特に接合層形成の初期段階における、粒子表面からの表面を保護する有機物除去の際に素早く取り除く働きがあると推定している。沸点もしくは分解点も低いことから、とりわけペーストを構成する溶剤の中では多く配合しなければならず、少なくとも全体の質量のうちの5質量%以上10質量%以下の構成とするのが適当である。こうした溶剤は粘度も小さいため、あまりにも量を増やしすぎるとインク状になってしまうため、目的の形状に塗布が行いにくくなるので適当ではない。発明者らの知見によれば、塗布焼成後の微細ボイドを適正なものとするためには、焼成温度をTb(℃)としたとき、沸点若しくは分解温度がTb−50(℃)以上Tb+50(℃)以下の領域にあるようにするのが好ましい。具体例を挙げると、焼成温度が250℃の場合では沸点もしくは分解温度が250℃〜300℃のものを添加すると、接合強度と微細なボイドがバランスよく出現することが出来るようになるので好ましい。金属ナノ粒子を含んだ金属粒子、溶剤、分散剤などの添加剤を含む接合用金属ペースト全量を100質量%としたとき、焼成温度Tb(℃)としたとき、沸点もしくは分解温度がTb−50(℃)以上Tb+50(℃)以下である溶剤が5質量%以上10質量%以下であるのが好ましい。沸点もしくは分解温度が焼成温度Tb+50(℃)よりも高い成分を、0質量%を上回り1.5質量%以下含有するのが好ましい。焼成温度Tbは200〜300℃の範囲内の値に設定してもよい。
【0044】
焼成温度(Tb)を250℃に設定した場合の、300℃(Tb+50℃)よりも高い沸点もしくは分解温度を有する溶剤(S
B)の例としては、テルソルブMTPH(沸点(公称値):308〜318℃、日本テルペン化学株式会社製)及びSOLPLUSD540(沸点:700℃)といったものがあげられる。ここでいう沸点もしくは分解温度に関しては、メーカーのSDS等の記載数値のほか、自らTG/DTAなどで算出した値を使用することが可能である。その際には、測定開始温度は25℃とし、25℃から3℃/分の速度で昇温させていき、熱減量が95%となったときの温度を、その物質の沸点とする。700℃まで昇温しても熱減量が95%に満たない場合は、その物質の沸点は便宜的に700℃とみなすこととした。
【0045】
あまりにもかような物質が多すぎると、粒子の焼結を妨害し、接合強度に悪影響を及ぼすことから適当ではない。こうした300℃(焼成温度250℃+50℃)を上回る沸点もしくは分解温度の溶剤は必要以上に添加すれば焼成の妨げになり、未焼結の部分が発生してしまうおそれがあるので注意が必要である。発明者らの知見によれば、こうした溶剤は0質量%を上回り、且つ2.5質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下、一層好ましくは0.5質量%以下とするのが良い。300℃(焼成温度250℃+50℃)よりも高温の溶剤の量と300℃(焼成温度250℃+50℃)以下の溶剤の構成比は、300℃(焼成温度250℃+50℃)よりも高温の溶剤が1に対し、300℃(焼成温度250℃+50℃)以下が9よりも多い量((焼成温度250℃+50℃)よりも高温の溶剤の構成が溶剤全体の中で10%以下)とすることが好ましい。
【0046】
前記接合材中の、沸点もしくは分解温度が230℃以上300℃以下である溶剤の含有量が、前記接合材中の全溶剤の質量のうち50%以上を占める量であるのが好ましい。前記接合材中の、沸点もしくは分解温度が300℃を上回る溶剤の含有量が、前記接合材中の全溶剤の質量のうち35%以下を占める量であるのが好ましい。下限は2%が好ましく、3%がより好ましい。前記接合材中の、沸点もしくは分解温度が400℃以上である溶剤の含有量が、前記接合材中の全溶剤の質量のうち6%以下を占める量であるのが好ましい。下限は3%が好ましい。上記いずれか一つの含有量の規定を満たすのが好ましく、全ての含有量の規定を満たすのがより好ましい。
【0047】
[700℃における重量減少量の累積値L
700]
40〜700℃における金属ペーストの重量減少は、ペーストを構成する溶媒、添加物および粒子の表面を構成する有機物の総和である。本発明のペーストにおける熱処理温度(最大で300℃)よりもはるかに高温での熱処理後の重量減少量を基準としているのは、ペースト中における難燃もしくは難分解性の物質をも除去されうる温度を基準とすることにより、ペースト中の有機物として除去可能な量を算出することを目的としたためである。この温度よりも高温としてしまうと、金属の焼結が進み、金属層中に有機物が取り込まれたままになり、用を足さなくなるので適当ではない。以降、重量減少量のことを減量値ともいう。
【0048】
重量減少は、たとえばペーストを準備し、40℃で十分加熱した後重量測定を行い、庫内温度を700℃に設定し、窒素で置換された電気炉中に戴置して十分に加熱してから炉から取り出した後、重量を再度測定して700℃の熱処理前後の重量減少から算出する方法や、市販のTG/DTA装置を使用して算出する方法があるが、後者の方が所望の昇温速度を得られるだけでなく、途中の100℃における減少量や150℃における減少量を一度に算出できるので適当である。TG/DTA装置を用いて測定する方法の一例としては、SII社製TG/DTA(TG/DTA6300)を用いて、測定用アルミナパン(φ0.5mm)に接合材を10±1mmg計量し、200mL/分の窒素雰囲気下で40℃から700℃までを昇温速度3℃/分で昇温させることにより算出する方法があげられる。
【0049】
[100℃における重量減少量の累積値L
100]
本発明における金属ペーストは窒素中における40〜100℃における重量減少量は40〜700℃における重量減少量累積値L
700を100とした場合、25以上75以下、好ましくは30以上70以下、一層好ましくは60以下、より一層好ましくは50以下である。この値が70よりも大きい値を示すと、低温領域においてペーストから一挙に溶剤が脱離することを示すため、焼結の不均一化の原因にもなるので好ましくない。また、溶剤等の非金属成分の一定量が残存することによって、昇温による被接合部材の熱膨張と、接合材で形成された塗膜の収縮という反対方向の動きによる、金属ナノ粒子と被接合部材との接点の減少が抑制されることにより、金属層の良好な形成に寄与するため好ましい。
【0050】
[150℃における重量減少量の累積値L
150]
本発明における金属ペーストは窒素中における40〜150℃における重量減少量は40〜700℃における重量減少量累積値L
700を100とした場合、90以上、好ましくは93以上、一層好ましくは95以上である。この値が低い場合には、ペースト中に難分解、難脱離性成分が多く金属層の形成に影響をする場合があるため好ましくない。
【0051】
[200℃における重量減少量の累積値L
200]
本発明における金属ペーストは窒素中における40〜200℃における重量減少量は40〜700℃における重量減少量累積値L
700を100とした場合、95以上、好ましくは98以上である。この値が低い場合には、ペースト中に難分解、難脱離性成分が多く金属層の形成に影響をする場合があるため好ましくない。この値が99.9を上回ると、焼成温度を200〜300℃に設定していた場合に、粒子の焼結が局所的に進行してしまう場合があり好ましくない。
【0052】
[その他の添加物質]
ペーストにおける焼結性や接合強度へ影響を及ぼさない範囲内で、本発明のペーストには公知の添加物を適正な範囲内で添加することが出来る。具体的には、酸系分散剤やリン酸エステル系分散剤などの分散剤、ガラスフリットなどの焼結促進剤、酸化防止剤、粘度調整剤、有機バインダー(例えば樹脂バインダー)、無機バインダー、pH調整剤、緩衝剤、消泡剤、レベリング剤、揮発抑制剤が挙げられる。添加剤の接合材における含有量は、0.1質量%以下とすることが好ましい。
【0053】
<金属ペーストの製造方法>
本発明の金属ペーストは、金属ナノ粒子と溶剤、更に他の任意成分を公知の方法で混練することで、製造することができる。混練の方法は特に制限されるものではなく、例えば、各成分を個別に用意し、任意の順で、超音波分散、ディスパー、三本ロールミル、ボールミル、ビーズミル、二軸ニーダー、又は公転式攪拌機などで混練することによって、接合用金属ペーストを製造することができる。
【0054】
<接合方法>
本発明による接合は、本発明の接合材の実施の形態を用いて2つの被接合部材を接合する方法であり、この方法により、端部まで均一な接合層を形成することができ、接合強度が高くかつ金属接合層のボイド量が十分に低減された接合体を得ることができる。本発明の接合方法の実施の形態は、塗膜形成工程と、載置工程と、焼結工程とを有し、その他予備乾燥工程等を実施してもよい。以下、これら各工程について説明する。
【0055】
[塗膜形成工程]
本工程では、一方の被接合部材に本発明の接合用金属ペーストをスクリーン印刷、メタルマスク印刷、インクジェット印刷といった印刷法などにより塗布して塗膜を形成する。選択された印刷方法により、ペーストやインクの粘度は適宜調整されうる。前記一方の被接合部材の例としては、基板が挙げられる。基板としては、銅基板などの金属基板、銅と何らかの金属(例えばW(タングステン)やMo(モリブデン))との合金基板、銅板をSiN(窒化珪素)やAlN(窒化アルミニウム)などに挟んだセラミック基板、更にPET(ポリエチレンテレフタレート)基板などのプラスチック基板、場合によってプリント配線基板などが挙げられる。さらにこれらを積層した積層基板も、本発明の接合方法を適用することが出来る。被接合部材の接合材が塗布される個所は、金属でメッキされていてもよい。塗膜中の金属成分との接合相性の観点からは、前記一方の被接合部材の金属メッキにおける金属の種類は、接合材における金属成分の構成金属と同じとすることも出来る。
【0056】
[載置工程]
続いて、前記の一方の被接合部材上に形成された塗膜の上に、他方の被接合部材を載置する。この他方の被接合部材の例としては、SiチップやSiCチップなどの半導体素子、一方の被接合部材の例として挙げたのと同様の基板が挙げられる。また、基板にはペーストは塗布せず、SiチップやSiCチップやICチップの裏面にペーストを塗布して準備することも出来る。
【0057】
また、他方の被接合部材の塗膜と接する個所(被接合面)は、金属でメッキされていてもよい。塗膜中の金属成分との接合相性の観点からは、前記他方の被接合部材の金属メッキにおける金属の種類は、接合材における金属成分の構成金属と同様であることが好ましい。また塗膜上に被接合部材を載置する際には、2つの被接合部材の間に、被接合物の自重の以外に塗膜を圧縮する方向の外部から圧力をかけることは妨げないが、チップや基板などが外部圧力により破壊されない程度の圧力とすることが肝要である。
【0058】
また本発明の接合方法の実施の形態は、大面積の半導体素子の接合に好適に適用することができる。特に半導体素子の被接合面(塗膜ないしこれから形成される金属接合層と接触する面。塗膜は通常半導体素子の底面全面をカバーするように形成される)の面積が9mm
2以上である場合に、本発明の接合方法の実施の形態が好適であり、被接合面の面積が25mm
2以上である場合により好適であり、特に被接合面の面積が36〜400mm
2である場合に好適である。
【0059】
[予備乾燥工程]
他方の被接合部材が載置された塗膜を加熱して焼結する際に、余分な有機成分を除去する目的で、塗膜上に他方の被接合部材を載置する前又は後に(載置工程の前又は後に)、塗膜を予備乾燥する予備乾燥工程を実施してもよい。予備乾燥は塗膜から溶剤の一部を除去することを目的としており、溶剤が揮発し、かつ金属ナノ粒子が焼結を実質的に起こさないような条件で乾燥する。このため、予備乾燥は塗膜を60〜150℃で加熱することによって実施することが好ましい。この加熱による乾燥は大気圧下で行ってもよいし、減圧ないし真空下で行ってもよい。また、次に説明する焼結工程において、焼結温度までの昇温速度が7℃/分以下であれば、焼結温度までの昇温をもって予備乾燥工程を実施することができる。基板や金属粒子の成分として酸化されやすい金属が構成成分として含まれている(例えば、銅や銅合金が基板の金属や、金属粒子として使用することを想定する)場合、酸化防止の観点から不活性雰囲気中で実施することが好ましい。
【0060】
[焼結工程]
載置工程を実施して必要に応じて予備乾燥工程を実施した後、2つの被接合部材にサンドイッチされた塗膜を1.5℃/分〜10℃/分の昇温速度で室温から200〜350℃の焼結温度まで昇温し、その焼結温度で1分以上2時間未満の時間保持して、前記塗膜から金属接合層を形成する。この金属接合層は、接合強度に優れ、またボイドが少ない。従ってこの焼結により、2つの被接合部材を強固に、高い信頼性をもって接合することができる。
【0061】
焼結工程における焼結温度まで加熱する際の昇温速度は、高い接合強度を有し、ボイドの少ない金属接合層を有する接合体を形成する観点から、2℃/分〜6℃/分であることが好ましく、2.5℃/分〜4℃/分であることがより好ましい。またこのような昇温速度であれば、焼結温度までの昇温をもって予備乾燥工程を兼ねることができる。
【0062】
焼結温度は、形成される金属接合層の接合強度やコストの観点から、220〜300℃であることが好ましい。焼結温度で保持する時間は、形成される金属接合層の接合強度やコストの観点から、1〜90分であることが好ましい。また、焼結温度までの昇温及びその焼結温度での保持の際に、被接合部材間に塗膜を圧縮する方向の圧力を加える必要はないが、より緻密な焼結膜を形成させる目的で、印加圧力5MPa以下の圧力を加えることは妨げない。
【0063】
また、焼結工程は大気雰囲気中で実施しても窒素雰囲気などの不活性雰囲気中で実施してもよいが、特に基板や金属粒子の成分として酸化されやすい金属が構成成分として含まれている(例えば、銅や銅合金が基板の金属や、金属粒子として使用することを想定する)場合、酸化防止の観点から不活性雰囲気中で実施することが好ましく、更にコストの観点から、焼結工程を窒素雰囲気中で実施することがより好ましい。
【0064】
焼結後に形成される金属層は、マクロ領域でみれば、ボイドは視認されない緻密な金属層となっているが、X線透過像でみれば、ごく微少な径のボイドを有していることが確認される。通常ボイドは可能な限り少ないことが好ましいとされていたが、本発明に従うペーストはむしろ小粒子径のボイドがある程度は存在している方が、高い接合強度を得ることが出来るようになる。とはいうものの、ボイドが多すぎると接合部における疲労寿命に悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。X線透過像で算出されるボイドの占有割合は、10%以下であるのがよく、好ましくは5%以下、一層好ましくは3%以下であるのがよい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0066】
<接合用金属ペースト(実施例1〜5、比較例1〜7)の調製>
[金属ナノ粒子の調製]
5Lの反応槽に水3400gを入れ、この反応槽の下部に設けたノズルから3000mL/分の流量で窒素を反応槽内の水中に600秒間流して溶存酸素を除去した後、反応槽の上部から3000mL/分の流量で窒素を反応槽中に供給して反応槽内を窒素雰囲気にするとともに、反応槽内に設けた撹拌羽根付き撹拌棒により撹拌しながら、反応槽内の水の温度が60℃になるように調整した。この反応槽内の水に28質量%のアンモニアを含むアンモニア水7gを添加した後、1分間撹拌して均一な溶液にした。この反応槽内の溶液に有機化合物として飽和脂肪酸であるヘキサン酸(和光純薬工業株式会社製)45.5g(銀に対するモル比は1.98)を添加して4分間撹拌して溶解した後、還元剤として50質量%のヒドラジン水和物(大塚化学株式会社製)23.9g(銀に対して4.82当量)を添加して、還元剤溶液とした。
【0067】
また、硝酸銀の結晶(和光純薬工業株式会社製)33.8gを水180gに溶解した硝酸銀水溶液を銀塩水溶液として用意し、この銀塩水溶液の温度が60℃になるように調整し、この銀塩水溶液に硝酸銅三水和物(和光純薬工業株式会社製)0.00008g(銀に対して銅換算で1ppm)を添加した。なお、硝酸銅三水和物の添加は、ある程度高濃度の硝酸銅三水和物の水溶液を希釈した水溶液を狙いの銅の添加量になるように添加することによって行った。
【0068】
次に、上記の銀塩水溶液を上記の還元剤溶液に一挙に添加して混合して、攪拌しながら還元反応を開始させた。この還元反応の開始から約10秒で反応液であるスラリーの色の変化が終了し、攪拌しながら10分間熟成させた後、攪拌を終了し、吸引濾過による固液分離を行い、得られた固形物を純水で洗浄し、40℃で12時間真空乾燥して、(ヘキサン酸で被覆された)銀ナノ粒子の乾燥粉末を得た。なお、この銀ナノ粒子中の銀の割合は、加熱によりヘキサン酸を除去した後の重量から、97質量%であることが算出された。また、この銀ナノ粒子の平均一次粒子径を透過型電子顕微鏡(TEM)により求めたところ、17nmであった。
【0069】
[金属粒子]
金属粒子として、走査型電子顕微鏡により測定した平均一次粒子径が800nmの銀粒子であるAG−3−60(DOWAハイテック株式会社製)を用意した。
【0070】
[接合用金属ペーストの調製]
下記表1に記載の金属成分及び非金属成分を表1に記載の配合割合(質量%)で混練して、実施例1〜5及び比較例1〜7の接合材を調製した。表1では、非金属成分を溶剤として記載している。
【0071】
[接合強度及びボイドの評価用接合体の作製]
上記で調製した実施例1〜5及び比較例1〜7の各接合材を10mm×10mm(厚さ1mm)の銅基板にメタルマスク(開口部2.5mm×2.5mm、厚さ70μm)で塗布した。銅基板上に形成された各接合材の塗膜上に、2mm×2mm(厚さ0.3mm)の、底面(被接合面)が正方形形状のSi素子を載置して、0.47Nの力を1秒かけた。これをN
2雰囲気中で、25℃から250℃まで3℃/分で昇温させ、250℃で60分間、焼成して銀接合層を形成し、接合体を得た。
【0072】
[接合体のシェア強度の評価]
SERIES4000(DAGE社製)を用い、
図1に示すようにして、上記で得られた接合体のシェア強度を測定した。具体的には、接合体は、銅基板3と、その上に形成された銀接合層2と、その上に形成され銀接合層2により銅基板3と接合しているSi素子1とからなる。このSi素子1の側面から、シェアツール4で5mm/minに設定して銅基板3の水平方向に力をかけ、破断したときの力をSi素子1の底面の面積で割って、接合体のシェア強度を求めた。なお、銅基板3から高さ50μmの位置に、シェアツール4の下端が当たるようにして上記試験を行った。
【0073】
[ボイド評価]
各接合体のSi素子−銀接合層−銅基板の接合部を、マイクロフォーカスX線透視装置(SMX−16LT、島津製作所製)で、撮影した。得られた画像を画像処理ソフト(商品名:ペイントショップ)で2値化した。
図2は、実施例3における接合用金属ペーストを用いて形成した接合部を、マイクロフォーカスX線透過装置で撮影した結果である。
図3は、比較例4における接合用金属ペーストを用いて形成した接合部を、マイクロフォーカスX線透過装置で撮影した結果である。その後、ボイド率を決定した。得られた粒子のシェア強度およびボイド率は表1に併せて示す。
【0074】
【表1】
【0075】
<接合用金属ペースト(実施例6及び比較例8)の調製>
(金属ナノ粒子の調製)
5Lの反応槽に水3400gを入れ、この反応槽の下部に設けたノズルから3000m
L/分の流量で窒素を反応槽内の水中に600秒間流して溶存酸素を除去した後、反応槽の上部から3000mL/分の流量で窒素を反応槽中に供給して反応槽内を窒素雰囲気にするとともに、反応槽内に設けた撹拌羽根付き撹拌棒により撹拌しながら、反応槽内の水の温度が60℃になるように調整した。この反応槽内の水に28重量%のアンモニアを含むアンモニア水7gを添加した後、1分間撹拌して均一な溶液にした。この反応槽内の溶液に有機化合物として飽和脂肪酸であるヘキサン酸(和光純薬工業株式会社製)45.5g(銀に対するモル比は1.98)を添加して4分間撹拌して溶解した後、還元剤として50重量%のヒドラジン水和物(大塚化学株式会社製)23.9g(銀に対して4.82当量)を添加して、還元剤溶液とした。
【0076】
また、硝酸銀の結晶(和光純薬工業株式会社製)33.8gを水180gに溶解した硝
酸銀水溶液を銀塩水溶液として用意し、この銀塩水溶液の温度が60℃になるように調整し、この銀塩水溶液に硝酸銅三水和物(和光純薬工業株式会社製)0.00008g(銀に対して銅換算で1ppm)を添加した。なお、硝酸銅三水和物の添加は、ある程度高濃度の硝酸銅三水和物の水溶液を希釈した水溶液を狙いの銅の添加量になるように添加することによって行った。
【0077】
次に、上記の銀塩水溶液を上記の還元剤溶液に一挙に添加して混合して、攪拌しながら
還元反応を開始させた。この還元反応の開始から約10秒で反応液であるスラリーの色の変化が終了し、攪拌しながら10分間熟成させた後、攪拌を終了し、吸引濾過による固液分離を行い、得られた固形物を純水で洗浄し、40℃で12時間真空乾燥して、(ヘキサン酸で被覆された)銀微粒子の乾燥粉末を得た。なお、この銀微粒子中の銀の割合は、加熱によりヘキサン酸を除去した後の重量から、97重量%であることが算出された。また、この銀微粒子の平均一次粒子径を透過型電子顕微鏡(TEM)により求めたところ、17nmであった。
【0078】
[金属粒子]
金属粒子として、走査型電子顕微鏡写真(SEM像)により求めた平均一次粒子径が800nmの銀粒子であるAG−3−60(DOWAハイテック株式会社製)を用意した。また比較として、走査型電子顕微鏡写真(SEM像)により求めた平均一次粒子径が300nmであるAG−2−1C(DOWAハイテック株式会社製)を用意した。
【0079】
[接合用金属ペーストの調製]
下記表1に記載の銀粒子及び溶剤、並びにその他の成分を表1に記載の配合割合(質量
%)で混練して、実施例1及び比較例1の接合材を調製した。
【0080】
[金属粒子の熱機械分析]
銀微粒子及びAG−3−60を、表1の実施例1についてのこれらの銀粒子の配合割合と同じ質量割合(20:72=21.7:78.3)で、合計100g計量した。また銀微粒子及びAG−2−1Cを、表1の比較例1についてのこれらの銀粒子の配合割合と同じ質量割合(20:72=21.7:78.3)で、合計100g計量した。
【0081】
それぞれについて、計量後、へらで撹拌し、混練脱泡機で30秒撹拌した。混練脱泡機の容器の公転速度は1400rpm、自転速度は700rpmとした。
【0082】
撹拌された銀粒子を、上端が解放された内径5mmの円筒型容器にそれぞれ0.5g入れ、2000Nの荷重を20秒かけてφ5mmで3.5〜3.7mm厚の円柱状のサンプルを成形した。
【0083】
得られた各サンプルについて、以下の条件で熱機械分析を行った。
メーカー:SII(セイコーインスツルメンツ株式会社)
型番:TMA/SS6200
昇温速度:3℃/min
測定温度:30〜700℃
測定荷重:700mN(プローブ面積:φ3mmなので0.1MPa相当)
測定雰囲気:窒素を熱機械分析装置内に200mL/minの流量で流した。
【0084】
[評価用接合体の作製]
上記で調製した実施例1及び比較例1の各接合材を30mm×30mm(厚さ1mm)の銅基板にメタルマスク(開口部13.5mm×13.5mm、厚さ150μm)で塗布した。銅基板上に形成された各接合材の塗膜上に、13mm×13mm(厚さ0.3mm)の、底面が正方形形状のSi素子を載置した。これをN
2雰囲気中で25℃から250℃まで3℃/分で昇温させ、当該温度で60分間、無加圧で焼成して銀接合層を形成し、接合体を得た。
【0085】
<ボイド評価>
各接合体のSi素子−銀接合層−銅基板の接合部を、超音波顕微鏡(C−SAMD−9500、sonoscan社製)で、プローブ(トランスデューサー)として50MHzのものを用いてSi素子側から撮影した。得られた画像を画像処理ソフト(商品名:ペイントショップ)で2値化した後、Si素子の銀接合層と接触する面における、その輪郭を構成する辺からの距離が接触面の中心から前記辺までの距離の20%以内の領域A、すなわちSi素子の各辺から1.3mm以内の領域における、前記銀接合層との間にボイドが生じている面積割合を求めた。黒い部位はボイドなしと判断し、白い部位はボイドありと判断した。
【0086】
実施例6の接合材を用いた場合の領域Aにおけるボイド率は8.1%であり、比較例1の接合材を用いた場合の領域Aにおけるボイド率は45.2%であった。
【0087】
【表2】
接合面積が大きい場合であっても端部におけるボイドの発生を低減し、均一性のある接合層を形成できる接合ペーストおよび該ペーストを用いた接合方法を提供する。一次粒子径の個数平均値が10〜100nmである金属ナノ粒子(A)を含む接合用金属ペーストであって、ペーストを窒素雰囲気中3℃/分の昇温速度で40℃から700℃まで昇温したときにおける、減量値の累積値(L