特許第6845497号(P6845497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6845497-不純物ドープダイヤモンド 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845497
(24)【登録日】2021年3月2日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】不純物ドープダイヤモンド
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20210308BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20210308BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20210308BHJP
   C01B 32/25 20170101ALI20210308BHJP
【FI】
   C30B29/04 G
   H01L21/205
   C23C16/27
   C01B32/25
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-141305(P2016-141305)
(22)【出願日】2016年7月19日
(65)【公開番号】特開2018-12611(P2018-12611A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】大曲 新矢
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 仁
(72)【発明者】
【氏名】山田 英明
(72)【発明者】
【氏名】茶谷原 昭義
(72)【発明者】
【氏名】杢野 由明
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/104272(WO,A1)
【文献】 特開2004−031022(JP,A)
【文献】 特表2004−538230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C23C 16/00−16/56
C01B 32/00−32/991
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドに不純物がドープされている、不純物ドープダイヤモンドであって、
二次イオン質量分析法で測定した不純物濃度が、5×1020cm-3以上、1×1022cm-3以下の範囲にあり、
X線構造解析に基づき下記式(1)で算出される結晶格子歪み(Δa/a)は、ベガード則に基づく結晶格子歪みからのずれが、100ppm以内である、不純物ドープダイヤモンド。
結晶格子歪み(Δa/a)=(adoped−aref)/aref×100(%) (1)
doped:不純物ドープダイヤモンドの格子定数
ref:ダイヤモンド標準試料の格子定数(3.567Å)
【請求項2】
前記不純物が、ホウ素及びリンの少なくとも一方である、請求項1に記載の不純物ドープダイヤモンド。
【請求項3】
厚みが0.01μm〜1mmの範囲にある、請求項1または2に記載の不純物ドープダイヤモンド。
【請求項4】
前記不純物ドープダイヤモンドの厚みの最大値と最小値との差が、当該最大値の10%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の不純物ドープダイヤモンド。
【請求項5】
基板の上に形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の不純物ドープダイヤモンド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の不純物ドープダイヤモンドを含む、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドに不純物がドープされた、不純物ドープダイヤモンドに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、高絶縁破壊電界(>10MV/cm)、高速キャリア移動度(電子:4500cm2/Vs、正孔:3800cm2/Vs)、物質中最高の熱伝導率(22W/cmK)等の優れた物性を有しており、さらに、化学的安定性及び耐放射線性にも優れているため、高温・極限環境下で動作するパワーデバイス材料としての応用が期待されている。
【0003】
ダイヤモンドをパワーデバイス材料などに応用するためには、ホウ素などの不純物をダイヤモンド結晶中に高濃度でドープして、ダイヤモンド結晶を低抵抗化する必要がある。ダイヤモンド結晶中にホウ素などの不純物をドープする方法としては、マイクロ波CVD法等が広く使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、炭素を主成分とする半導体ダイヤモンドであって、窒素原子及びホウ素原子を含有し、その濃度がどちらも1000ppm以上であることを特徴とする半導体ダイヤモンドが記載されている。特許文献1に開示された方法によれば、マイクロ波CVD法を用い、窒素源、ホウ素源、及び炭素源を含む原料ガスを製膜することにより、ホウ素がドープされた、単結晶構造を有するホウ素ドープダイヤモンド膜が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−266020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば特許文献1に記載されたような方法を用いることにより、ホウ素がドープされた、不純物ドープ単結晶ダイヤモンドが得られると考えられる。しかしながら、従来の不純物ドープ単結晶ダイヤモンドは、不純物を高濃度(例えば、不純物濃度が5×1020cm-3以上)で含有させると、ベガード則で予想される結晶格子定数とのずれが大きくなり、電気抵抗値が大きくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、不純物を高濃度で含んでいるにも拘わらず、結晶格子定数とベガード則による理論値とのずれが非常に小さく、電気抵抗値の小さい不純物ドープダイヤモンドを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ダイヤモンドに不純物がドープされている不純物ドープダイヤモンドにおいて、二次イオン質量分析法で測定した不純物濃度が、5×1020cm-3以上、1×1022cm-3以下の範囲にあり、X線構造解析に基づき下記式(1)で算出される結晶格子歪み(Δa/a)は、ベガード則に基づく結晶格子歪みからのずれが、100ppm以内である不純物ドープダイヤモンドは、高濃度の不純物を含んでいるにも拘わらず、電気抵抗値が非常に低いことを見出した。
結晶格子歪み(Δa/a)=(adoped−aref)/aref×100(%) (1)
doped:不純物ドープダイヤモンドの格子定数
ref:ダイヤモンド標準試料の格子定数(3.567Å)
【0009】
そして、本発明者等は、これらの不純物ドープダイヤモンドは、熱フィラメントCVD法を採用することにより、好適に製造できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0010】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ダイヤモンドに不純物がドープされている、不純物ドープダイヤモンドであって、
二次イオン質量分析法で測定した不純物濃度が、5×1020cm-3以上、1×1022cm-3以下の範囲にあり、
X線構造解析に基づき下記式(1)で算出される結晶格子歪み(Δa/a)は、ベガード則に基づく結晶格子歪みからのずれが、100ppm以内である、不純物ドープダイヤモンド。
結晶格子歪み(Δa/a)=(adoped−aref)/aref×100(%) (1)
doped:不純物ドープダイヤモンドの格子定数
ref:ダイヤモンド標準試料の格子定数(3.567Å)
項2. 前記不純物が、ホウ素及びリンの少なくとも一方である、項1に記載の不純物ドープダイヤモンド。
項3. 厚みが0.01μm〜1mmの範囲にある、項1または2に記載の不純物ドープダイヤモンド。
項4. 前記不純物ドープダイヤモンドの厚みの最大値と最小値との差が、当該最大値の10%以下である、項1〜3のいずれかに記載の不純物ドープダイヤモンド。
項5. 基板の上に形成されている、項1〜4のいずれかに記載の不純物ドープダイヤモンド。
項6. 項1〜5のいずれかに記載の不純物ドープダイヤモンドを含む、電子デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不純物を高濃度で含んでいるにも拘わらず、電気抵抗値の小さい不純物ドープダイヤモンドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】参考例1、実施例1,2及び文献における、ホウ素ドープ単結晶ダイヤモンドのホウ素濃度と結晶格子歪み(Δa/a)の値(%)とをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の不純物ドープダイヤモンドは、ダイヤモンドに不純物がドープされている、不純物ドープダイヤモンドである。本発明において、不純物ドープダイヤモンドの結晶構造は、単結晶でもよいし、多結晶でもよい。例えば、不純物ドープダイヤモンドを成膜する基板として、単結晶ダイヤモンド基板を用いると、不純物ドープ単結晶ダイヤモンドが得られる。また、例えば、多結晶ダイヤモンド基板を用いると、不純物ドープ多結晶ダイヤモンドが得られる。なお、不純物ドープ多結晶ダイヤモンドの合成には、異種基板(Si、SiC、GaN、WCなど)を用いてもよい。異種基板上に、ダイヤモンド微粒子を用いて所謂「傷つけ処理」を施すことにより、ダイヤモンドの核生成を促し、不純物ドープ多結晶ダイヤモンドを成長させることができる。なお、傷つけ処理は、基材によっては不要な場合がある。
【0014】
本発明の不純物ドープダイヤモンドにおいては、二次イオン質量分析法で測定した不純物濃度が、5×1020cm-3以上、1×1022cm-3以下の範囲にある。さらに、X線構造解析に基づき下記式(1)で算出される結晶格子歪み(Δa/a)は、ベガード則に基づく結晶格子歪みからのずれが、100ppm以内であることを特徴とする。
結晶格子歪み(Δa/a)=(adoped−aref)/aref×100(%) (1)
doped:不純物ドープダイヤモンドの格子定数
ref:ダイヤモンド標準試料の格子定数(3.567Å)
【0015】
従来の不純物ドープダイヤモンドにおいては、不純物濃度が5×1020cm-3以上という高濃度になると、ベガード則に基づく結晶格子歪みからのずれが100ppmを大きく超えるため、結晶格子歪みが大きくなるという特徴を有している。これに対して、本発明の本発明の不純物ドープダイヤモンドにおいては、不純物濃度が、5×1020cm-3以上、1×1022cm-3以下の範囲という高濃度であるにも拘わらず、ベガード則に基づく結晶格子歪みからのずれが100ppm以内と小さいという特徴を有している。
【0016】
本発明の不純物ドープダイヤモンドにおいて、二次イオン質量分析法(SIMS)で測定した不純物濃度としては、特に制限されないが、好ましくは8×1020cm-3以上、1×1022cm-3以下の範囲程度が挙げられる。不純物ドープダイヤモンドにおける不純物の濃度は、二次イオン質量分析法により測定した値であり、具体的な測定条件は、後述の実施例に記載の通りである。
【0017】
本発明の不純物ドープダイヤモンドの電気抵抗値としては、特に制限されないが、後述の電子デバイスとして好適に用いる観点からは、例えば温度25℃における電気抵抗値としては、好ましくは30mΩcm以下、より好ましくは25mΩcm以下、さらに好ましくは5mΩcm以下が挙げられる。なお、電気抵抗値の下限値としては、通常、0.1mΩcm程度である。電気抵抗値は、ホール効果によって測定した値であり、具体的な測定条件は、後述の実施例に記載の通りである。
【0018】
本発明の不純物ドープダイヤモンドは、ダイヤモンドの炭素原子の一部が不純物原子によって置換された結晶構造を有している。ダイヤモンドに含まれる不純物としては、ダイヤモンド中において、結晶構造を保持できるものであれば、特に制限されず、好ましくはホウ素及びリンが挙げられ、特に好ましくはホウ素(特に、ホウ素単独)が挙げられる。不純物ドープダイヤモンドにおいて、不純物は1種類単独で含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。
【0019】
本発明の不純物ドープダイヤモンドの製造方法としては、例えば、熱フィラメントCVD法により好適に製造することができる。なお、従来、不純物ドープダイヤモンドの合成法として、熱フィラメントCVD法を用いることも考えられたが、単結晶構造を有する不純物ドープダイヤモンドを合成しようとすると、フィラメントを構成する金属元素(例えば、タングステンフィラメントを構成するタングステン)もドープされるため、単結晶構造を備える不純物ドープダイヤモンドについては、好適に製造することはできないと考えられた。特に、不純物を高濃度でドープする場合には、単結晶構造を備える不純物ドープダイヤモンドが合成できるとは考えられなかった。
【0020】
ところが、本発明者らが検討を重ねたところ、意外にも、熱フィラメントCVD法を採用することにより、単結晶構造を有する不純物ドープダイヤモンドが好適に得られることを見出した。さらに、本発明者らは、熱フィラメントCVD法を採用することにより、長時間にわたる合成によっても、高濃度の不純物(例えば、二次イオン質量分析法で測定した不純物濃度が5×1020cm-3以上)がドープされた不純物ドープダイヤモンドを合成することができ、チャンバー内に煤が堆積せず、単結晶構造の結晶品質に優れた不純物ドープダイヤモンドが得られることを見出した。また、不純物ドープダイヤモンドの厚膜化、大面積化も可能であることを見出した。
【0021】
例えば、熱フィラメントCVD法により製造された不純物ドープダイヤモンド中には、通常、熱フィラメントを構成する金属元素(例えば、後述のタングステンなど)が含まれている。一方、マイクロ波CVD法により合成された不純物ドープダイヤモンドには、このような金属元素は含まれない。
【0022】
なお、本発明の不純物ドープダイヤモンドには、上記のような不純物に加えて、当該不純物とは異なる金属元素を含んでいてもよい。熱フィラメントCVD法により本発明の不純物ドープダイヤモンドを製造した場合には、通常、フィラメントを構成する金属元素が不純物ドープダイヤモンド中に含まれる。金属元素の具体例としては、タングステン、タンタル、レニウム、ルテニウム等が挙げられる。
【0023】
不純物ドープダイヤモンドに金属元素が含まれる場合、金属元素の濃度としては、特に制限されないが、例えば1×1016〜1×1020cm-3程度の範囲が挙げられる。なお、不純物ドープダイヤモンドにおける金属元素の濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した値である。
【0024】
本発明の不純物ドープダイヤモンドの厚みとしては、特に制限されないが、例えば0.01μm〜1mm程度、より好ましくは0.1〜500μm程度が挙げられる。例えば、マイクロ波CVD法によって不純物ドープダイヤモンドを合成する場合、チャンバー内に煤が発生しやすいため、例えば0.1μm〜1mm程度の厚膜とすることが可能な不純物濃度としては、1.2×1020cm-3が限界であるとされている(例えば、Appl.Phys.Lett.100(2012)122109を参照)。一方、熱フィラメントCVD法により製造すれば、不純物濃度が5×1020cm-3以上である場合にも、不純物ドープダイヤモンドのに厚みを0.1μm〜1mm程度とすることが可能である。
【0025】
本発明の不純物ドープダイヤモンドの厚みの最大値と最小値との差は、当該最大値の10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。熱フィラメントCVD法により不純物ドープダイヤモンドを合成すれば、このような厚み均一性の高い不純物ドープダイヤモンドとすることもできる。
【0026】
本発明の不純物ドープダイヤモンドは、例えば、熱フィラメントCVD法などを用いて基板の上に形成することができるため、基板の上に形成された形態を有していてもよい。基板の具体例としては、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、3C炭化シリコン、イリジウム、プラチナなどが挙げられる。
【0027】
本発明の不純物ドープダイヤモンドは、不純物を上記のような高濃度で含有しており、さらに、ベガード則に基づく結晶格子歪みからのずれが小さく、電気抵抗値が小さいことから、ダイオード、トランジスタなどの電子デバイス用材料(特に、パワーデバイス用材料)として好適である。すなわち、本発明によれば、不純物ドープダイヤモンドを含む電子デバイスを提供することができる。本発明の不純物ドープダイヤモンドを利用した電子デバイスとしては、例えば、ショットキーダイオード、PN接合ダイオード、電界効果トランジスタ、深紫外線ディテクター、電子エミッタなどが挙げられる。
【0028】
本発明の不純物ドープダイヤモンドを熱フィラメントCVD法で製造する際の製造方法としては、例えば、以下の工程を備える方法が挙げられる。
工程(1):基板及びフィラメントが配置された真空容器中に、炭素源及び不純物源を含むキャリアガスを導入する工程
工程(2):キャリアガスをフィラメントで加熱して、不純物を含むダイヤモンドを基板上に製膜する製膜工程
【0029】
工程(1)において、真空容器中に配置するフィラメントを構成する金属としては、フィラメントを構成できるものであれば特に制限されない。金属元素の具体例としては、タングステン、タンタル、レニウム、ルテニウム等が挙げられ、これらの中でもタングステンが好ましい。金属元素は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
工程(1)において、真空容器中に配置する基板としては、後述の工程(2)において、キャリアガスに含まれる炭素源と不純物とが基板上に製膜されて、ダイヤモンドの結晶構造を有する不純物ドープダイヤモンドを成長させることができるものであれば、特に制限されない。基板の具体例としては、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、3C炭化シリコン、イリジウム、プラチナなどが挙げられる。
【0031】
工程(1)においては、真空容器中を真空状態とした後、炭素源及び不純物源を含むキャリアガスを導入する。炭素源としては、ダイヤモンドを形成できるものであれば特に制限されず、例えば、メタンなどが挙げられる。炭素源は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、不純物としては、ダイヤモンド中において、結晶構造を保持できるものであれば、特に制限されず、好ましくはホウ素及びリンが挙げられ、特に好ましくはホウ素が挙げられる。例えばホウ素源としては、ホウ素としてダイヤモンド中にドープされて、ダイヤモンドの結晶構造を保持できるものであれば、特に制限されず、好ましくはトリメチルボロン、ジボランなどが挙げられる。また、リン源としては、リンとしてダイヤモンド中にドープされて、ダイヤモンドの結晶構造を保持できるものであれば、特に制限されず、好ましくはホスフィンなどが挙げられる。不純物ドープダイヤモンドにおいて、不純物は1種類単独で含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。
【0032】
キャリアガスとしては、特に制限されず、例えば、水素ガスを使用することができる。キャリアガス中における炭素源の濃度としては、好ましくは0.5〜5.0体積%程度、より好ましくは1.0〜3.0体積%程度が挙げられる。また、キャリアガス中における炭素源に対する不純物源の濃度としては、不純物ドープダイヤモンド中に含ませる不純物濃度に応じて適宜設定すればよい。例えば、不純物ドープダイヤモンドにおける不純物の濃度を5×1020cm-3以上、1×1022cm-3以下とする観点からは、キャリアガス中における炭素源に対する不純物源の濃度としては、好ましくは100ppm以上、より好ましくは1000〜20000ppm程度、さらに好ましくは5000〜10000ppm程度が挙げられる。
【0033】
工程(2)においては、キャリアガスをフィラメントで加熱して、不純物ドープダイヤモンドを基板の上に製膜する製膜工程を行う。フィラメントの加熱温度は、使用するフィラメントを構成する金属元素の種類や、不純物ドープダイヤモンド中に含有させる不純物の濃度に応じて、適宜設定すればよく、好ましくは2000〜2400℃程度、より好ましくは2000〜2200℃程度が挙げられる。
【0034】
工程(2)における真空容器内の全圧としては、特に制限されず、例えば10〜100Torr程度、より好ましくは10〜80Torr程度が挙げられる。
【0035】
工程(2)における基板の温度としては、特に制限されず、例えば700〜1100℃程度、より好ましくは700〜900℃程度が挙げられる。
【0036】
工程(2)における製膜時間は、目的とする厚み等に応じて適宜選択すればよく、通常3〜50時間程度である。
【0037】
工程(2)の製膜工程においては、ダイヤモンドにおける不純物の濃度を5×1020cm-3以上、1×1022cm-3以下とすることができる。前述の通り、本発明の不純物ドープダイヤモンドの製造方法においては、キャリアガス中における炭素源に対する不純物源の濃度を、好ましくは100ppm以上とすることにより、不純物ドープダイヤモンドにおける不純物の濃度を5×1020cm-3以上、1×1022cm-3以下となるように調整することができる。
【0038】
本発明の不純物ドープダイヤモンドの製造方法において、ホウ素を高濃度でドープする場合、キャリアガス中における炭素源の濃度を0.1〜5.0体積%、真空容器内の全圧を10〜80Torr、基板の温度を700〜900℃とした上で、基板の前処理におけるオフ角を0.5〜3°に設定することにより、5×1020cm-3以上という高濃度のホウ素を含むホウ素ドープダイヤモンドを、特に好適に製造することができる。
【0039】
以上の工程(1)及び工程(2)により、本発明の不純物ドープダイヤモンドを好適に製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0041】
<参考例1及び実施例1,2>
単結晶ダイヤモンド基板(100)の表面上に、熱フィラメント化学気相成長法(熱フィラメントCVD法)によりホウ素ドープ単結晶ダイヤモンドを製膜した。参考例及び実施例における製膜条件は以下の通りである。
(製膜条件)
・キャリアガス:水素97体積%、メタン3体積%(炭素源)であり、メタンに対するトリメチルボロン(ホウ素源)の体積濃度(気相中[B/C]gas、ppm)は、それぞれ表1に記載の通りである。
・全圧:30Torr
・フィラメント材料:タングステン純度99.95%
・フィラメント温度:2200℃
・基板温度:1100℃
・基板サイズ:3mm×3mm
・製膜時間:10時間
・ホウ素ドープ単結晶ダイヤモンドの膜厚:それぞれ、表1の通りである。
・基板前処理のオフ角:2.5°
【0042】
【表1】
【0043】
[ホウ素濃度の測定]
上記の参考例1及び実施例1,2で得られたホウ素ドープダイヤモンドに含まれるホウ素濃度を二次イオン質量分析法(SIMS、Cs+イオン加速電圧15.0kV)により測定した。結果を表2に示す。
【0044】
[結晶格子歪みの測定]
上記の参考例1及び実施例1,2で得られたホウ素ドープ単結晶ダイヤモンドの結晶格子歪みΔa/a(%)をX線回折法(XRD)により測定した。また、測定された結晶格子歪みΔa/a(%)の値と、ベガード則に基づく結晶格子歪み(%)との差分から、測定された結晶格子歪みΔa/a(%)のベガード則からのずれ(ppm:差分(%)を1万倍した値)を算出した。これらの結果をそれぞれ表2に示す。
【0045】
なお、格子定数を求めるには、XRDパターンの回折角2θを測定し、Braggの式:λ=2d×sinθから面間隔dを算出する。ここで、λはX線の波長である。精度の高いd値を求めるためには、高角度の回折角(2θ)を測定する。ダイヤモンドの場合は、(113)面または(004)面からの回折を解析に用いる。ここでは、(113)面を用いた。ダイヤモンドの面間隔と格子定数の関係は、d=a/√(h2+k2+l2)、ただし、a:格子定数、h,k,l:ミラー定数である。不純物ドープダイヤモンド膜と基板がホモエピタキシャル成長している場合、(113)面または(004)面からの回折ピークは、膜と基板で分離して現れるため、それらを解析に用いることができる。なお、不純物ドープダイヤモンドを厚膜成長し、分離して単層膜として測定する場合、(113)面または(004)面からの回折ピークは分離せず、不純物ドープダイヤモンドのみのピークとして現れる。
【0046】
結晶格子歪み(Δa/a)は、次の式(1)により算出した。
結晶格子歪み(Δa/a)=(adoped−aref)/aref×100(%) (1)
doped:不純物ドープダイヤモンドの格子定数
ref:ダイヤモンド標準試料の格子定数(3.567Å)
【0047】
また、文献(Diamond & Related Materials 17 (2008) 1302-1306)に記載されている、マイクロ波CVD法で製造された従来のホウ素ドープダイヤモンドにおけるホウ素濃度と結晶格子歪み(Δa/a)の値(文献値1〜5)を表2に示す。また、参考例1、実施例1,2及び当該文献における、ホウ素濃度と結晶格子歪み(Δa/a)の値とをプロットしたグラフを図1に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
従来のホウ素ドープダイヤモンドにおいては、ホウ素濃度が1×1020cm-3未満では、ホウ素濃度と結晶格子歪み(Δa/a)との関係は、実質的にベガード則に従うことが知られているが、ホウ素濃度が5×1020cm-3以上程度になると、原子半径モデルに従う(ベガード則からの解離が大きい)ことが知られている(前述の文献を参照)。これに対して、表2及び図1のグラフに示されるように、実施例1,2のホウ素ドープダイヤモンドは、例えばホウ素濃度が1×1021cm-3であっても、ホウ素濃度と結晶格子歪み(Δa/a)との関係は、実質的にベガード則に従うことが確認された。また、後述の通り、実施例1,2のホウ素ドープダイヤモンドにおいては、高濃度の不純物を含んでいるにも拘わらず、低抵抗を示している。
【0050】
[電気抵抗値の測定]
上記の参考例1及び実施例1,2で得られたホウ素ドープダイヤモンドの電気抵抗値を、van der Pauw法によるホール効果(25℃)により測定した。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
図1