特許第6845499号(P6845499)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845499
(24)【登録日】2021年3月2日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】ナノニトロセルロース及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 5/02 20060101AFI20210308BHJP
   C08B 5/06 20060101ALI20210308BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20210308BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20210308BHJP
   C08B 1/04 20060101ALN20210308BHJP
【FI】
   C08B5/02
   C08B5/06
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   !C08B1/04
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-234914(P2016-234914)
(22)【出願日】2016年12月2日
(65)【公開番号】特開2018-90694(P2018-90694A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 賢
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 美也子
(72)【発明者】
【氏名】松永 猛裕
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 靖子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴士
【審査官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102391379(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101838332(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 5/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素量6.76〜14.14%の、直径が14〜30nmの繊維状であるナノニトロセルロースから構成される、BET比表面積が50〜900m/gである繊維状ナノニトロセルロース。
【請求項2】
繊維状ナノセルロースゲルに濃度20〜80%の硫酸を加え、混合・撹拌した後、遠心脱水して得られた、硫酸前処理ナノセルロースゲルを、硫酸と硝酸との混酸でニトロ化し、その後、洗浄し、凍結乾燥することを特徴とする、繊維状ナノニトロセルロースの製造方法。
【請求項3】
前記ニトロ化を自転・公転ミキサー内で行う、請求項2に記載の繊維状ナノニトロセルロースの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の繊維状ナノニトロセルロースを有効成分とする、無煙火薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノニトロセルロース(以下「n-NC」ということがある)及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニトロセルロース(以下「NC」ということがある)は、危険物第5類に指定され、無煙火薬(砲弾や銃器の発射薬)として使用されるほか、塗料、医薬、接着剤、セルロイド等の用途分野においても使用されている。
【0003】
従来のNCは、セルロースとしての綿に硝酸と硫酸からなる混酸を反応させて製造するのが通常である。その際、セルロースを構成するグルコースは1単位分子当たり最大3カ所で硝酸エステル化(ニトロ化=硝化)される。硝化反応は極めて速く、生成したNCは、洗浄して酸を除去した後、真空乾燥や空気乾燥により乾燥させる。硝化により製造されたNCは、窒素の含有量により、13%以上のものを強綿薬、10%未満のものを脆綿薬、それらの間のものを弱綿薬と称せられる。
【0004】
微細なNCを得るための従来の研究としては、既存のNCを溶媒に溶かして、エレクトロスピニング法(電界紡糸法)により、径が90〜150, 400〜500nmなどのナノファイバー状のNCを製造したもの(非特許文献1参照)、有機溶媒に溶かしたNCをガラス基板上に滴下、乾燥してサブミクロンサイズ(直径200〜900nm)の粒子状NCを製造したもの(非特許文献2参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.R. Sovizi, S.S. Hajimirsadeghi, B. Naderizadeh, Effect of particle size on thermal decomposition of nitrocellulose, J. Hazard. Mater. 168 (2009) 1134-1139. doi:10.1016/j.jhazmat.2009.02.146
【非特許文献2】X. Zhang, B.L. Weeks, Preparation of sub-micron nitrocellulose particles for improved combustion behavior, J. Hazard. Mater. 268 (2014) 224-228. doi:10.1016/j.jhazmat.2014.01.019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、従来のNCは、比表面積が大きくないため燃焼性能が十分でなく、煙火等に使用される割薬、打揚薬への応用展開が困難であること等の問題点が存在することを認識した。そして、従来のものよりも径が細く比表面積の高いn-NCが得られれば、上記のような問題点を解決できる可能性があることを着想した。
【0007】
本発明は、上述のような従来技術の問題点についての認識やそれらの問題点を解決しようとする着想を背景としてなされたものであり、従来のものよりもBET比表面積の高いn-NCの製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、従来のものよりもBET比表面積の高いn-NCを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述のような課題のもとでの研究過程で、エレクトロスピニング法や滴下法について検討したが、次のような問題点を認識した。
(ア)エレクトロスピニング法で製造されるNCは、径が90〜500nm程度、比表面積は4.8〜26.9m2/g程度であり、径が50nm以下や比表面積が80m2/g以上のものは製造できない。
(イ)エレクトロスピニング法では、高電圧を印加するので、火薬を製造する際には、発火爆発に対する安全対策が不可欠である。
(ウ)エレクトロスピニング法では、紡糸前に一旦溶媒に溶解する必要があるが、特殊な溶媒が必要であるし、さらに、ニトロ化が低いものは溶解が困難であるので、用途に合わせた様々なニトロ化の(窒素量の)NCを製造することは困難である。
(エ)滴下法では、製造されるNCの比表面積は4〜18.2m2/g程度に過ぎず、また、大量生産に向かない手法である。
【0009】
本発明者は、さらに検討を進め、NCの原料のセルロースとして従来全く使用されなかったナノセルロースゲル(以下「n-Cゲル」ということがある)を用いること、n-Cゲルをニトロ化する前に、硫酸で前処理を行うことで、n-Cゲルの膨潤を促進させニトロ化の進行に効果があること、ニトロ化の際にもセルロースがナノ構造を有するためニトロ化率が高まる可能性があること、製造されるn-NCは比表面積が大きいため、燃焼性能の向上が期待できることなどの着想を得た。そして、本発明者は、n-Cゲルを原料としてBET比表面積の高いn-NCを製造できることを知見した。
【0010】
本発明は、上記のような認識や着想、知見などに基づくものであり、この出願によれば、以下の発明が提供される。
<1>窒素量6.76〜14.14%の、直径が14〜30nmの繊維状であるナノニトロセルロースから構成される、BET比表面積が50〜900m/gである繊維状ナノニトロセルロース。
<2>繊維状ナノセルロースゲルに濃度20〜80%の硫酸を加え、混合・撹拌した後、遠心脱水して得られた、硫酸前処理ナノセルロースゲルを、硫酸と硝酸との混酸でニトロ化し、その後、洗浄し、凍結乾燥することを特徴とする、繊維状ナノニトロセルロースの製造方法。
【0011】
本発明は、次のような態様を含むことができる。
<3>前記ニトロ化を自転・公転ミキサー内で行う、<2>に記載の繊維状ナノニトロセルロースの製造方法
<4><1>に記載の繊維状ナノニトロセルロースを有効成分とする、無煙火薬
【発明の効果】
【0012】
本発明のn-NCは、従来のNCよりも高いBET比表面積を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例で用いたn-Cの電子顕微鏡写真。
図2】実施例により得られたn-NCの電子顕微鏡写真。
図3】実施例、比較例により得られたn-NC(凍結乾燥および加熱乾燥)の示差走査熱量測定(DSC)を示すグラフ。
図4】n−NC又はNCを容器内で点火、燃焼した際の容器内圧力変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のn-NCは、従来のNCよりも高いBET比表面積を有している。その窒素量は通常、6.76〜14.14%の範囲が理論上可能であるが、実際は9.0〜13.7%である(なお、n-NCを含むNCの窒素量の理論的最大値は14.14%で、市販のNCの最も高い窒素量は13.5%程度である。)。本発明のn-NCは、好適には、直径が14〜30nmの繊維状である。
本発明のn-NCは、高いBET比表面積を有するため、燃焼性能が良好であることが期待できる。
以下では、本発明のn-NCの製造について説明する。なお、本明細書では、酸の濃度、窒素含有率、含水率、混合割合、みかけの収率等の%は、特に言及しない場合は質量%を意味する。また、前後2つの数値を〜で挟む数値範囲は、それらの数値である場合も含む。
【0015】
(n-Cゲル)
本発明のn-NCの製造方法では、出発物質としてn-Cゲルを使用する。n-Cゲルやその調製方法は、特許第5206947号公報に記載されている。n-Cゲル(含水率が通常94〜96%程度)は、そのまま用いるか、含水量が70%から94%未満程度まで機械的処理(圧縮)による脱水もしくは遠心脱水してから使用することが好ましい。
【0016】
(n-Cゲルの硫酸前処理)
硫酸前処理は、n-Cゲルの膨潤を促進させ、後述のニトロ化処理においてニトロ化の進行に効果がある。硫酸の濃度は限定するものではないが、好ましくは20〜80%、より好ましくは30〜70%である。前処理の硫酸の濃度が20%より低い場合、ニトロ化の進行効果が小さい。濃度が80%より高い場合、前処理工程やニトロ化処理工程でn-Cが溶解し、みかけの収率が低下する。
硫酸前処理を行わない場合、n-Cはニトロ化処理によりほとんど溶解してしまい、有効なn-NCは得られない。
【0017】
(ニトロ化処理)
n-Cのニトロ化処理では、硫酸前処理後のn-Cゲルに硝酸と硫酸との混酸を加え、混合、撹拌してニトロ化を進める。
混酸における硫酸:硝酸の100%濃度換算での割合は、限定するものではないが、90:10〜70:30(好ましくは、85:15〜75:25)とすることができる。混酸に使用する硝酸は、濃度が高い方が高い窒素量のn-NCの合成に有利である。好ましい硝酸の濃度は60〜90%である。混酸に使用する硫酸は、濃度が好ましくは25〜75%のものである。
ニトロ化に用いる混酸の硫酸と硝酸の濃度100%に換算した合計量に対するナノセルロースゲル量の比は、限定するものではないが、0.05〜0.4g/ml、好ましくは0.1〜0.35g/mlとすることができる。この比が小さい方が高いみかけの収率や高い窒素量のn-NCを得ることができる。
混酸を加えたn-Cはゲル状であるので、ニトロ化を進行させるためには、ゲル状物に対して有効な混合、撹拌手段を用いることが望ましい。そのような混合、撹拌手段としては、限定するものではないが、自転・公転ミキサーを挙げることができる。混酸・n-C混合ゲルは、混合、撹拌中に昇温する場合が有るので、好ましくは40℃を超えないように間欠的又は連続的に冷却する。
【0018】
(ニトロ化処理後の任意工程:洗浄処理、乾燥処理)
ニトロ化処理後のn-NCは、必要に応じて、洗浄処理や乾燥処理を行うことができる。そのような洗浄処理や乾燥処理としては、従来のニトロ化処理後のNCに対して採用されているものを使用することができる。
洗浄処理としては、水洗浄や煮沸洗浄があり、n-NC中の混酸が除去される。
乾燥処理では、遠心脱水等の適宜の手段により脱水した後、n-NCが凝集しないように乾燥を行うことにより50〜900m2/gのBET比表面積のn-NCとすることができる。そのような乾燥手段としては凍結乾燥が好ましい。
凍結乾燥では、n-NC中の水分の少なくとも一部を炭素数1〜4程度の低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール及びその異性体)に置換してから凍結し、真空下(1〜5Torr.好ましくは2〜4Torr)で乾燥するのが高い比表面積を得るうえで好ましい。
【0019】
(n-NC)
本発明のn-NCは、原料のn-Cとほぼ同等か又はそれよりも直径がやや細くなった繊維状のものである。それ故、そのBET比表面積は、原料のn-Cと同程度以上の50〜900m2/gとすることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明の内容はこの実施例に限定されるものではない。
【0021】
<実施例1:n-NCの製造例1>
(1)n-Cゲルの作製
含水量が約95%のn-Cゲルを作製した。
(2)n-Cゲルの脱水
上記(1)で作製したn-Cゲルを遠心分離機((株)久保田製作所製 テーブルトップ遠心機5420)を用いて10分間遠心脱水し、含水量が約92%の脱水n-Cゲル(原料ゲル)を得た。
(3)硫酸前処理(2回)
上記(2)で得た脱水n-Cゲル16gと濃度65%の硫酸16mLを自転公転ミキサー(ARE310、THINKY製)で10分間混合・撹拌した後、遠心分離機((株)久保田製作所製テーブルトップ遠心機5420)で遠心脱水し、一次硫酸前処理n-Cゲルを得た。
この一次硫酸前処理n-Cゲルに濃度65%の硫酸16mLを加え、再度、自転公転ミキサー(ARE310、THINKY製)で10分撹拌した後、遠心分離機((株)久保田製作所製テーブルトップ遠心機5420)で遠心脱水し、二次硫酸前処理n-Cゲルを得た。
(4)混酸の調製
ドラフト内で、氷温に冷却しながら、表1中に記載の量の硝酸(濃度70%)に硫酸(濃度98%)を徐々に加えて混酸を調製した。調製後の混酸は4℃程度に保持した。
(5)ニトロ化
上記(3)で得られた硫酸前処理n-Cゲルを上記(4)で調製した混酸140mLに加え、4℃程度になるまで冷却保持した。
4℃程度に保持された溶液を自転公転ミキサー(ARE310、THINKY製)、で10分間撹拌した後、温度が30℃程度まで上昇した溶液を30分間氷水で4℃程度まで冷却した。これらの撹拌と冷却を5回繰り返し、ニトロ化を完了して、未洗浄n-NCゲルを得た。
(6)水洗浄
上記(5)で得た未洗浄n-NCゲルを3L容器に入れ、純水3L程度を注水後、ガラス棒で撹拌し、n-NCゲルが沈殿するまで30分〜12時間放置し、上澄みを廃棄した。これらの注水、撹拌、沈殿、及び、上澄み廃棄を3〜4回繰り返し、n-NCゲルをpH7まで洗浄を進めた。
pH7まで洗浄を進めたn-NCゲルを遠心分離機((株)久保田製作所製テーブルトップ遠心機5420)で5分間脱水し、水洗浄n-NCゲルを得た。
(7)煮沸洗浄
上記(6)で得た水洗浄n-NCゲル1gあたり10mL以上注水し、還流装置付のナスフラスコを用いて8時間煮沸洗浄を行った後、遠心分離機((株)久保田製作所製テーブルトップ遠心機5420)で遠心脱水した。これらの注水、煮沸洗浄、遠心脱水をpH7で安定するまで数回繰り返し、煮沸洗浄n-NCゲル(生成ゲル)を得た。
(8)凍結乾燥
上記(7)で得た煮沸洗浄n-NCゲル1gに炭素数1〜4程度の低級アルコール1mLを添加し、自転公転ミキサー(ARE310、THINKY製)で撹拌した後、遠心分離機((株)久保田製作所製テーブルトップ遠心機5420)で遠心脱水した。これらの添加、撹拌、遠心脱水を3〜4回繰り返した。
得られたn-NC1gに低級アルコール0.5mLを添加し、自転公転ミキサー(ARE310、THINKY製)で撹拌し、冷蔵庫に入れて冷却し、完全に凍結させた。凍結後、半解凍し、ナスフラスコに入れた状態で真空乾燥器にセットし、炭素数1〜4程度の低級アルコールと水分が完全に揮発するまで凍結乾燥を行い、羽毛状のn-NCを得た。
(9)製造されたn-NCについて
上記(8)で得た実験#27のn-NCについて、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM-7400)で観察したところ、平均直径は20nm程度であり、原料のn-Cと同様のナノ繊維構造を有するものであった。また、BET比表面積を測定したところ、103m2/gであり、原料のn-Cの比表面積100〜130m2/gと同程度であった。また、窒素含有量は、13.7%程度であった。
【0022】
【表1】
【0023】
エレクトロスピニング法で作製したNCの直径Xは90〜500nmであり、NCを、直径Xnm、長さYμm、密度ρ(g/cm3;通常1.65g/cm3程度)、表面積S(m2)、重量V(g)とすると、比表面積=S/V=[π・X・Y+π(X/2)^2・2]/[π(X/2)^2・Y・ρ]=4/(ρX)+2/(ρY)、ここでY≫Xであるため、比表面積≒4/(ρX)x103(m2/g)となる。該式により算出した比表面積は、4.8〜26.9m2/gであることから、本発明の実施例のn-NCは、エレクトロスピニング法で作製したn-NCよりも4倍程度以上の比表面積を有するものと言える。
なお、実施例1のn-NCについて、その平均直径20nmに基づいて同様に算出した比表面積は121m2/gである。上記実測値103m2/gは、平均直径に基づく比表面積より少し低い値となっているが、これは繊維同士の多少の重なりによるものと考えられる。
下記の実施例4〜7のn-NCについてはBET比表面積を測定していないが、その繊維の直径はn-Cと同等か又はそれより僅かに小さくなっている。それ故、凍結乾燥などの凝集が防止される乾燥方法を採用することにより、実施例1と同様のBET比表面積が得られると言える。
また、n-Cゲルとしては繊維直径が3〜100nmのものが得られるので、それらの繊維直径のn-Cゲルを用いれば、BET比表面積が50〜900m2/gの範囲内のn-NCを合成することも可能である。
【0024】
<実施例2:n-NCの示差走査熱量測定>
実施例1の実験#27のn-NCと同じ製造方法で得た、凍結乾燥n-NC、および、加熱乾燥以外は実施例1と同じ製造方法で得た加熱乾燥n-NC(比較例)について示差走査熱量測定を行った。測定結果を図3に示した。加熱乾燥n-NCについては、乾燥の際に凝集する。よって得られた試料は比表面積が小さいため、ピークが広がってしまい、火薬として性能が出せない。一方、凍結乾燥を行った凍結乾燥n-NCでは、鋭いピークが得られ、比表面積が大きく、火薬として性能が出せることが本結果から予想できる。
【0025】
<実施例3:n-NCの燃焼試験>
実施例1の実験#27のn-NC又は市販のNC(窒素量13.4%)0.2gを点火装置を備えた100ccの耐圧密閉容器に導入し、密閉後点火した。図3に点火後の時間経過に伴う容器内圧力変化を示す。n-NCはNCに比べ、最高圧力が高く、また、最高圧力に達するまでの時間が短かった。このことから、n-NCは、NCに比べ燃焼性能が向上していると考えられる。
【0026】
<実施例4:n-NCの製造例2、硫酸前処理条件の影響調査>
硫酸前処理の条件およびニトロ化の条件を表2のとおり変更し、実施例1の実験#27と同様にしてn-NCを製造した。硫酸濃度が65%で1回処理した場合にみかけの収率(=煮沸洗浄n-NCゲル(生成ゲル)/脱水n-Cゲル(原料ゲル))が最も高く210%となった。同濃度で2回処理した場合には、窒素含有率が11.6%と高くなった。
これらの実施例からみて、硫酸前処理後の水分濃度51〜60%がみかけの収率の点で好ましいと言える。また、窒素濃度を高くする点では2回処理することが好ましい。
【0027】
【表2】
【0028】
<実施例5:n-NCの製造例3、ニトロ化条件の影響調査1>
ニトロ化条件における硫酸と硝酸の100%濃度換算での量比等を表3のとおりに変更し、実施例1の実験#27と同様にしてn-NCを製造した。混酸に用いる硫酸量の比を高くすると高い収率が得られた。混酸に用いる硫酸量の比が84(実験#6)の場合、みかけの収率と窒素含有率がバランス良く、高くなった。
【0029】
【表3】
【0030】
<実施例6:n-NCの製造例4、ニトロ化条件の影響調査2>
ニトロ化条件におけるn-Cゲル量の混酸(100%濃度換算)量に対する比等を表4のとおりに変更し、実施例1の実験#27と同様にしてn-NCを製造した。用いるn-Cの量を少なくすると、収率や窒素含有率が高くなった。その傾向は、n-Cゲル/混酸の比が0.2g/ml以下の場合に特に著しい。
【0031】
【表4】
【0032】
<実施例7:n-NCの製造例5、ニトロ化条件の影響調査3>
ニトロ化条件における反応時間を表5のとおりに変更し、実施例1の実験#27と同様にしてn-NCを製造した。反応時間が45分の場合に収率や窒素含有率が最も高くなった。反応時間が90分程度以上に長くなると、収率や窒素含有率が45分の場合よりも低くなった。これらのことから、高いみかけの収率を得るニトロ化処理時間は10〜30分(好ましくは10〜20分)であり、高い窒素含有率を得るニトロ化処理時間は30〜60分(好ましくは40〜50分)であると言える。
【0033】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のn-NCは、従来のものよりも高いBET比表面積を有するものであり、無煙火薬、塗料、医薬、接着剤、セルロイド等の分野において利用することが期待される。
図1
図2
図3
図4