(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脂肪族ポリカーボネートは様々な刺激で容易に分解することが知られている。例えば、アルカリ水溶液との接触や250℃程度の加熱により、容易に分解する。この性質を利用して、脂肪族ポリカーボネートを含む樹脂組成物から得られた成形体の樹脂表面から脂肪族ポリカーボネートのみを除去することにより、樹脂表面の粗化を行うことが期待できる。しかしながら、例えば加熱により脂肪族ポリカーボネートのみを除去しようとする場合、一般的な熱可塑性樹脂の軟化温度は200℃未満であるため、脂肪族ポリカーボネートを熱分解させる際に、樹脂も軟化してしまい、成形体の形状を維持できないという問題がある。
【0005】
脂肪族ポリカーボネートに有機オニウムカチオンを有する塩を添加することで熱分解温度を低下させる試みが行われているが、開示されている添加剤のうち、分解開始温度を200℃未満まで下げることができるものは限られており、またそれらの添加剤は工業的に入手しにくく、非常に高価であるという問題がある。
【0006】
本発明は、より簡便な手段で、脂肪族ポリカーボネートを含む樹脂組成物の樹脂表面から脂肪族ポリカーボネートのみを除去することにより、樹脂表面の粗化を行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、脂肪族ポリカーボネートにアルカリ金属化合物を添加することにより樹脂表面粗化用組成物が得られることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.脂肪族ポリカーボネートとアルカリ金属化合物を含有する樹脂表面粗化用組成物。
項2.アルカリ金属化合物が、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である項1に記載の樹脂表面粗化用組成物。
項3.アルカリ金属塩が、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属酢酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である項2に記載の樹脂表面粗化用組成物。
項4.アルカリ金属化合物の含有量が脂肪族ポリカーボネートに対し10ppm以上5000ppm以下である項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂表面粗化用組成物。
項5.脂肪族ポリカーボネートがエポキシドと二酸化炭素の交互共重合体である項1〜4いずれか1項に記載の樹脂表面粗化用組成物。
項6.項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂表面粗化用組成物と基材樹脂を含む樹脂組成物。
項7.項6に記載の樹脂組成物の成形体に含まれる脂肪族ポリカーボネートを分解する工程を含む、表面が粗化された表層を有する樹脂成形体の製造方法。
項8.項6に記載の樹脂組成物の成形体を加熱する工程を含む、表面が粗化された表層を有する樹脂成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂表面粗化用組成物は、脂肪族ポリカーボネート及びアルカリ金属化合物を含む。脂肪族ポリカーボネートが本来は直ちに分解が起こるはずのアルカリ化合物と接触しているにも関わらず分解されることなく、長期間保存出来る上、熱分解温度を大幅に低下させることができるため、基材樹脂が熱の影響を受けない温度でも脂肪族ポリカーボネート樹脂を熱分解させることが出来る。
【0010】
したがって、本発明を用いることで様々な樹脂の表面粗化が加熱のみによって実現可能になり、樹脂成形体への機能の付与が簡便な操作のみで可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明にかかる樹脂表面粗化用組成物は、脂肪族ポリカーボネートとアルカリ金属化合物を含有する。
【0013】
脂肪族ポリカーボネートとしては、特に限定されず、例えば、エポキシドと二酸化炭素とを交互共重合させたもの,ジオールと炭酸エステルとを重縮合させたもの、環状カーボネートを開環重合させたもの等が挙げられるが、重合反応のしやすさの観点から、エポキシドと二酸化炭素とを交互共重合させたものが好ましく用いられる。なお、エポキシドと二酸化炭素とを交互共重合させた脂肪族ポリカーボネートとは、エポキシドと二酸化炭素とをモノマー構造単位として交互に重合した構造を有する脂肪族ポリカーボネートであり、ジオールと炭酸エステルとを重縮合させた構造を有する脂肪族ポリカーボネートとは、ジオールと炭酸エステルとをモノマー構造単位とする脂肪族ポリカーボネートであり、環状カーボネートを開環重合させた脂肪族ポリカーボネートとは、環状カーボネートをモノマー構造単位とする脂肪族ポリカーボネートである。
【0014】
前記エポキシドとしては、二酸化炭素と重合反応して主鎖に脂肪族を含む構造を有する脂肪族ポリカーボネートとなるエポキシドであれば特に限定されず、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、3−ナフチルプロピレンオキシド、3−フェノキシプロピレンオキシド、3−ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3−ビニルオキシプロピレンオキシドおよび3−トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド等が挙げられる。これらのエポキシドの中でも、二酸化炭素との高い重合反応性を有する観点から、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドが好ましい。これらのエポキシドは、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
脂肪族ポリカーボネートとしては、より具体的には、例えば、ポリプロピレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリシクロヘキセンカーボネート等が好ましく挙げられる。
【0016】
前記脂肪族ポリカーボネートの質量平均分子量の下限は、好ましくは5000、より好ましくは10000、特に好ましくは100000であり、上限は、好ましくは1000000、より好ましくは750000、特に好ましくは500000である。つまり、5000〜1000000が好ましい。脂肪族ポリカーボネートの質量平均分子量が5000未満の場合、樹脂の粘性が低くなりすぎ、基材樹脂と均一に混合することが困難になる恐れがある。また、脂肪族ポリカーボネートの質量平均分子量が1000000を超える場合、脂肪族ポリカーボネートと基材樹脂との相溶性が悪くなり、適度な分散状態を取れなくなる恐れがある。なお、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(日本ウォーターズ製Waters2695 セパレーションモジュール)を用いて、30mmolのN,N−ジメチルホルムアミド臭化リチウム溶液中40℃にて測定(基準として標準ポリスチレンを使用)して算出した値である。
【0017】
脂肪族ポリカーボネートは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0018】
前記脂肪族ポリカーボネートの製造方法としては、前記エポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で重合反応させる方法等が挙げられる。
【0019】
前記金属触媒としては、例えば、亜鉛系触媒、アルミニウム系触媒、クロム系触媒、コバルト系触媒等が挙げられる。これらの中でも、エポキシドと二酸化炭素との重合反応において、高い重合活性を有することから、亜鉛系触媒またはコバルト系触媒が好ましく用いられ、高分子量体を得るという観点から、亜鉛系触媒、とりわけ有機亜鉛系触媒が特に好ましく用いられる。
【0020】
前記有機亜鉛系触媒としては、例えば、酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛触媒;一級アミン、2価のフェノール、2価の芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシ酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸等の化合物と亜鉛化合物とを反応させることにより得られる有機亜鉛触媒等が挙げられる。これらの有機亜鉛触媒の中でも、より高い重合活性を有することから、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒であることが好ましく、酸化亜鉛とグルタル酸と酢酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒であることがより好ましい。
【0021】
重合反応に用いられる前記金属触媒の使用量は、エポキシド1モルに対して、好ましい下限は0.0001モルであり、より好ましい下限は0.001モルである。好ましい上限は0.2モルであり、より好ましい上限は0.05モルである。金属触媒の使用量が0.0001モル未満の場合、重合反応が進行しにくくなる恐れがある。また、金属触媒の使用量が0.2モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなる恐れがある。
【0022】
前記重合反応において必要に応じて用いられる反応溶媒としては、特に限定されるものではなく、種々の有機溶媒を用いることができる。
【0023】
前記有機溶媒としては、具体的には、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。
【0024】
前記反応溶媒の使用量は、反応を円滑にさせる観点から、エポキシド100質量部に対して、100〜10000質量部であることが好ましい。
【0025】
前記重合反応において、エポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で反応させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、オートクレーブに、前記エポキシド、触媒、および必要により反応溶媒を仕込み、混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が挙げられる。
【0026】
前記重合反応において用いられる二酸化炭素の使用圧力は、特に限定されないが、好ましい下限は0.1MPaであり、より好ましい下限は0.2MPaであり、特に好ましい下限は0.5MPaである。好ましい上限は20MPaであり、より好ましい上限は10MPaであり、特に好ましい上限は5MPaである。二酸化炭素の使用圧力が0.1MPaより低い場合、重合が進行しなくなってしまう恐れがあり、20MPaを超える場合、使用圧力に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0027】
前記重合反応における重合反応温度は、特に限定されないが、好ましい下限は0℃であり、より好ましい下限は20℃であり、特に好ましい下限は30℃である。好ましい上限は100℃であり、より好ましい上限は95℃であり、さらに好ましい上限は90℃であり、よりさらに好ましい上限は80℃であり、特に好ましい上限は60℃である。重合反応温度が0℃未満の場合、重合反応に長時間を要するおそれがある。また、重合反応温度が100℃を超える場合、副反応が起こり、収率が低下するおそれがある。
【0028】
重合反応時間は、重合反応条件により異なるために一概にはいえないが、通常、1〜40時間であることが好ましい。
【0029】
本発明に用いられるアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属塩(例えばアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属無機酸塩など)、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属アミド、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属フェノキシド、アルカリ金属アルキル等が例示でき、アルカリ金属塩およびアルカリ金属水酸化物が好ましい。また、アルカリ金属化合物としては、例えばリチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、セシウム化合物等が好ましく挙げられる。
【0030】
アルカリ金属炭酸塩としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等が挙げられる。アルカリ金属カルボン酸塩としては、例えば、アルカリ金属酢酸塩が挙げられ、より具体的には、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム等が挙げられる。アルカリ金属無機酸塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、ホウ酸ナトリウム等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が挙げられる。アルカリ金属水素化物としては例えば水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等が挙げられる。アルカリ金属アミドとしては例えばナトリウムアミド、カリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムヘキサメチルジシラジド等が挙げられる。アルカリ金属アルコキシドとしては例えばナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、カリウムtert−ブトキシド等が挙げられる。アルカリ金属フェノキシドとしては例えばリチウムフェノキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド等が挙げられる。アルカリ金属アルキルとしては例えばメチルリチウム、ブチルリチウム等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性や分解温度の低下効果の高さの観点から、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属カルボン酸塩及びアルカリ金属水酸化物がより好ましい。
【0031】
アルカリ金属化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記の脂肪族ポリカーボネートとアルカリ金属化合物とは、所望の組み合わせで用いることができる。つまり、上記の所望の1種又は2種以上の脂肪族ポリカーボネートと1種又は2種以上のアルカリ金属化合物とを適宜組み合わせて用いることができる。
【0032】
アルカリ金属化合物の含有量は、脂肪族ポリカーボネートに対し、好ましい下限は10ppmであり、より好ましい下限は30ppmであり、さらに好ましい下限は40ppmであり、特に好ましい下限は50ppmである。好ましい上限は5000ppmであり、より好ましい上限は3000ppmであり、さらに好ましい上限は2500ppmであり、特に好ましい上限は2000ppmである。アルカリ金属化合物の含有量がこの範囲(10〜5000ppm)であれば、樹脂表面粗化用組成物の保存安定性を確保しつつ、十分な熱分解開始温度の低下効果を得ることが出来る。なお、ここでのppmは質量比を示す。
【0033】
アルカリ金属化合物は、例えば固体、水溶液、有機溶媒へ溶解させた溶液、有機溶媒へ分散させた懸濁液等の形態で添加することが出来る。中でも、脂肪族ポリカーボネートと均一に混合させる観点から、水溶液、又は有機溶媒へ溶解させた溶液の形態での使用が好ましい。つまり、アルカリ金属化合物の水溶液又は有機溶媒溶液を脂肪族ポリカーボネートと混合することが好ましい。有機溶媒溶液とする際に用いる有機溶媒としては、下述する脂肪族ポリカーボネートを溶解させることが出来る溶媒と混和する溶媒が好ましい。脂肪族ポリカーボネートとアルカリ金属化合物を混合する方法としては、一度溶媒に溶解させて混合したのち、溶媒を除去する方法や、ロール、押出機、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダーなどを用いて溶融混練する方法が挙げられる。脂肪族ポリカーボネートを分解させずに混合する観点から、溶媒に溶解させて混合する方法が好ましい。
【0034】
混合に使用する溶媒としては、脂肪族ポリカーボネートを溶解させることが出来る溶媒であれば特に限定されず、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。
【0035】
前記脂肪族ポリカーボネートとアルキル金属化合物を含有する樹脂表面粗化用組成物には、脂肪族ポリカーボネート、アルカリ金属化合物以外の添加剤を含んでいてもよい。
【0036】
添加剤としては、香料、着色剤、顔料、防かび剤、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を用いることが出来る。これらの添加剤は後述する成形体の加熱処理によって脂肪族ポリカーボネートが消失した後も、基材樹脂に残留し効果を発揮する。
【0037】
添加剤を使用する場合の含有量は脂肪族ポリカーボネート100質量部に対し、0.1質量部〜10質量部が好ましい。
【0038】
このように混合して得られた組成物を、樹脂表面粗化用組成物として用いることができる。混合して得られた組成物が溶媒を含む場合には、好ましくは、さらに溶媒を除去して得られるものを、樹脂表面粗化用組成物として用いることができる。
【0039】
本発明は、前記の樹脂表面粗化用組成物と基材樹脂を含む樹脂組成物をも提供する。
【0040】
前記基材樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリビスフェノールAカーボネート等のポリカーボネート樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリフェニレンオキシド等のポリエーテル樹脂、三酢酸セルロース、エチルセルロール等のセルロース樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエン等のビニル系樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。この中でも、脂肪族ポリカーボネートの分解温度において熱の影響を受けにくい、軟化温度が160℃以上の樹脂、または熱(光)硬化性樹脂が好ましい。
【0041】
樹脂表面粗化用組成物と基材樹脂を含む樹脂組成物の製造方法としては、基材樹脂の種類によって異なるが、例えば、樹脂表面粗化用組成物を基材樹脂とともに溶媒に溶解させて混合したのち、溶媒を除去する方法、基材樹脂モノマーに樹脂表面粗化用組成物を溶解させた後に基材樹脂の重合反応を行う方法、樹脂表面粗化用組成物を含む溶液を基材樹脂の表面に塗布する方法、ロール、押出機、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダーなどを用いて樹脂表面粗化用組成物と基材樹脂とを溶融混練する方法が挙げられる。
【0042】
樹脂表面粗化用組成物の使用量は、基材樹脂100質量部に対し、乾燥質量換算で、1質量部〜20質量部が好ましく、5質量部〜10質量部がより好ましい。樹脂表面粗化用組成物の使用量がこの範囲であると、基材樹脂の本来の物性を損なうことなく、表面を粗化することができる。
【0043】
樹脂表面粗化用組成物と基材樹脂を含む樹脂組成物を製造する際は、他の添加剤を加えてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、抗菌剤、核剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤、充填剤、光増感剤、光重合開始剤、硬化促進剤、硬化触媒等を用いることもできる。
【0044】
添加剤の量は、基材樹脂100質量部に対して0.1質量部〜20質量部が好ましく、1質量部〜10質量部がより好ましい。添加剤の使用量がこの範囲であると、基材樹脂の本来の物性を損なうことなく、添加剤の機能を発揮することが出来る。
【0045】
本発明はまた、樹脂表面粗化用組成物と基材樹脂を含む樹脂組成物(好ましくは当該樹脂組成物の成形体)について、含有される脂肪族ポリカーボネートを分解する工程を含む樹脂表面粗化方法を提供する。また、樹脂表面粗化用組成物と基材樹脂を含む樹脂組成物を成形する工程と、樹脂表面粗化用組成物中の脂肪族ポリカーボネートを分解する工程を含む、樹脂表面粗化方法を提供する。
【0046】
さらに、樹脂表面粗化用組成物と基材樹脂を含む樹脂組成物の成形体に含まれる脂肪族ポリカーボネートを分解する工程を含む、表面が粗化された表層を有する樹脂成形体の製造方法をも提供する。また、樹脂表面粗化用組成物と基材樹脂を含む樹脂組成物の成形体を加熱する工程を含む、表面が粗化された表層を有する樹脂成形体の製造方法をも提供する。
【0047】
樹脂表面粗化用組成物と基材樹脂を含む樹脂組成物を成形して得られる成形体は、加熱により、含有される脂肪族ポリカーボネートが分解されるため、容易に表面が粗化される。また、分解開始温度が従来技術に比べて低くなっており、好ましい。例えば、200℃以下、あるいは195℃以下の加熱によっても、好ましく脂肪族ポリカーボネートが分解される。加熱温度の下限は、含有される脂肪族ポリカーボネートが分解できる限り、特に制限されない。例えば80℃以上、90℃以上、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、150℃以上程度が例示できる。
【0048】
前記成形体の形態としては、特に限定されず、ストランド状、フィルム状、シート状、平板状、ペレット状、繊維状等の任意の形状が可能である。
【0049】
前記成形工程における成形方法としては特に限定されず、射出成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法、ガス注入射出成形法、発泡射出成形法、インフレーション成形法、Tダイ成形法、カレンダー成形法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、回転成形法、FRP成型法、積層成型法、溶融流涎法、溶融注型法、トランスファー成形法、プリプレグ積層プレス成形法、プリプレグオートクレーブ成形法、マッチドダイ成形法、ハンドレイアップ成形法、SMC(Sheet Molding Compound)プレス成形法、BMC(Bulk Molding Compound)成形法、レジンインフュージョン成形法、フィラメントワインディング成形法、引き抜き成形法、ピンワインディング成形法等が挙げられる。
【0050】
成形体がフィルム又はシートである場合、インフレーション成形法、Tダイ成形法、カレンダー成形法により異なる樹脂との多層構成の少なくとも1層として製膜すること、又は押出ラミネート法、熱ラミネート法、ドライラミネート法などで製膜することにより多層化することができる。また、得られたフィルム又はシートを、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法などにより一軸又は二軸に延伸して用いることができる。
【0051】
上記の通り、樹脂表面粗化用組成物中の脂肪族ポリカーボネートを分解することにより、成形体の表面を粗化することができる。
【0052】
脂肪族ポリカーボネートを分解する方法としては、加熱による熱分解が好ましい。加熱方法としては、特に限定されず、熱風加熱方式、抵抗加熱方式、赤外線加熱方式、マイクロ波加熱方式、誘電加熱方式、誘導加熱方式、アーク加熱方式、電子ビーム加熱方式、プラズマ加熱方式、レーザー加熱方式等が用いられる。
【実施例】
【0053】
以下に、製造例、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
なお、本製造例で得られたポリカーボネートの質量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、以下の方法で測定した。
【0055】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(日本ウォーターズ製Waters2695 セパレーションモジュール)を用いて、30mmolのN,N−ジメチルホルムアミド臭化リチウム溶液中40℃にて測定し、標準ポリスチレンを基準にして算出した。また、本実施例等で得られたポリカーボネートを含む樹脂の熱分解挙動は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製TG/DTA7220を用い、大気雰囲気下、10℃/分の昇温速度で室温から300℃まで昇温することで行った。熱分解開始温度は、試験加熱開始前の質量を通る横軸に平行な線と、分解曲線における屈曲点間の勾配が最大となるように引いた接線との交点とした。
【0056】
[製造例1](有機亜鉛触媒の製造)
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、ディーンスターク管、還流冷却管を備えた500mL容の四つ口フラスコに、酸化亜鉛38.6g(0.5mol)、グルタル酸61.5g(0.5mol)、酢酸0.57g(0.01mol)およびトルエン350gを仕込んだ。次に、反応系内に100mL/minの流量で窒素を流しながら、55℃まで昇温し、同温度で4時間攪拌して反応させた。その後、110℃まで昇温し、さらに同温度で2時間攪拌して共沸脱水させ、水分を除去した後、室温まで冷却して、有機亜鉛触媒を含むスラリー液を得た。
【0057】
[製造例2](ポリプロピレンカーボネートの製造)
攪拌機、ガス導入管、温度計を備えた1L容のオートクレーブの系内をあらかじめ窒素雰囲気に置換した後、製造例1により得られた有機亜鉛触媒を含むスラリー液117.3g(有機亜鉛触媒を135mmol含む)、炭酸ジメチル500g、プロピレンオキシド78.3g(1.35mol)を仕込んだ。次に、攪拌下、二酸化炭素を加え、反応系内が1MPaとなるまで二酸化炭素を充填した。その後、60℃に昇温し、反応により消費される二酸化炭素を補給しながら8時間重合反応を行なった。反応終了後オートクレーブを冷却して脱圧し、その後、反応溶液をろ過し減圧乾燥してポリプロピレンカーボネート120gを得た。得られたポリプロピレンカーボネートの質量平均分子量は、236000(Mw/Mn=10.0)であった。
【0058】
[製造例3](ポリエチレンカーボネートの製造)
プロピレンオキシド78.3g(1.35mol)に代えて、エチレンオキシド59.4g(1.35mol)を使用した以外は製造例2と同様の操作を行い、ポリエチレンカーボネート95.0gを得た。得られたポリエチレンカーボネートの質量平均分子量は、197000(Mw/Mn=3.60)であった。
【0059】
[製造例4](ポリシクロヘキセンカーボネートの製造)
プロピレンオキシド78.3g(1.35mol)に代えて、シクロヘキセンオキシド120g(1.35mol)を使用し、反応温度を60℃から80℃に変更した以外は、製造例2と同様の操作を行い、ポリシクロヘキセンカーボネート65.3gを得た。得られたポリシクロヘキセンカーボネートの質量平均分子量274000は(Mw/Mn=7.12)であった。
【0060】
(実施例1)
20mL容ガラスバイアルに製造例2で得られたポリプロピレンカーボネート2.0gを量りとり、メチルエチルケトン8.0gを加え溶解させ、均一な溶液を作成した。そこに0.1mol%水酸化カリウム水溶液40μg(水酸化カリウムの添加量として、ポリプロピレンカーボネートに対し110ppm)を加え撹拌し、得られた溶液を80℃で15分間加熱し、溶媒を除去した。得られた樹脂表面粗化用組成物の熱分解開始温度を測定したところ、
図1より156℃であった。
また、得られた樹脂表面粗化用組成物を80℃のオーブン中で24時間放置し、分解の有無を確認したところ、分解は起こっていなかった。
【0061】
(実施例2〜12)
添加剤(アルカリ金属化合物)の種類、量、脂肪族ポリカーボネートの種類を表1に従い変化させ、樹脂表面粗化用組成物を調製し、それぞれの熱分解温度を測定した。結果を表1に示した。
【0062】
(比較例1〜5)
添加剤の種類、量、脂肪族ポリカーボネートの種類を表1に従い変化させ、樹脂表面粗化用組成物を調製し、それぞれの熱分解温度を測定した。結果を表1に示した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1中、PPCはポリプロピレンカーボネートを、PECはポリエチレンカーボネートを、PCHCはポリシクロヘキセンカーボネートを、それぞれ示す。「形態」は、用いたアルカリ金属化合物の形態を示す。また、ppmは脂肪族ポリカーボネートに対するアルカリ金属化合物の質量比を示す。
【0065】
表1より実施例1〜10と比較例1を比べると、アルカリ金属化合物を添加した場合、添加しない場合に比べて大幅に分解開始温度が低下していることが分かった。一方、比較例2、3から、アルカリ金属水酸化物ではない水酸化物を添加しても、分解温度を低下させることが出来ないことがわかった。また、アルカリ金属の種類に注目すると、分解温度を低下させる効果はLi<Na<K<Csの順に大きくなることが分かった。実施例11、12から、脂肪族ポリカーボネートの種類に関係なく、同じような効果が得られることがわかった。
【0066】
(実施例13)(芳香族ポリカーボネート樹脂の表面粗化)
芳香族ポリカーボネート(帝人製パンライト)2.0gをテトラヒドロフラン18.0gに溶解させ、そこに実施例1で得られた樹脂表面粗化用組成物0.2gを加え、攪拌した。得られた溶液をガラス基板上にバーコーターで塗布し、80℃で30分間乾燥させ、100μm厚のフィルムを作成した。得られたフィルムを電気炉内で、180℃で30分間加熱し、その後、表面を表面粗さ計(ミツトヨ社製サーフテストSJ−411)で評価した。結果を
図2に示す。
【0067】
(比較例6)
実施例1で得られた樹脂表面粗化用組成物を用いない以外は、実施例13と同様にしてフィルムを作成し、表面粗さを評価した。結果を
図2に示す。
【0068】
(比較例7)
実施例1で得られた樹脂表面粗化用組成物に代えて、製造例2で得られたポリプロピレンカーボネートを用いた以外は、実施例13と同様にしてフィルムを作成し、表面粗さを評価した。結果を
図2に示す。
【0069】
基材の芳香族ポリカーボネートと実施例1で得られた脂肪族ポリカーボネートを含む樹脂表面粗化用組成物とは非相容のため、フィルムに成形した際に海島構造をとる。そのため、脂肪族ポリカーボネートを含む樹脂表面粗化用組成物が完全に分解すると、実施例13の結果(
図2)から分かるように、その箇所が空隙となり、下に凸のシグナルが多く見られる。一方、比較例7では、何も加えていない比較例6より表面は粗化されているが、上に凸のシグナルが多く、これは脂肪族ポリカーボネートが分解されずに残っていることを表している(
図2)。
【0070】
(実施例14)エポキシ樹脂の表面処理
3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製セロキサイド2021P)6.75gに実施例1で得られた樹脂組成物1gを加え、攪拌した。不溶物を除去し、酸無水物(新日本理化社製リカシッドMH−700)を2.25g加え、2時間攪拌した後、トリフェニルホスフィン0.3gを加え、さらに1時間攪拌した。得られた溶液をガラス基板上にバーコーターで塗布後、120℃で5時間加熱し熱硬化させ、100μm厚のフィルムを作成した。得られたフィルムを180℃で30分間加熱し、その後、表面を表面粗さ計(ミツトヨ社製サーフテストSJ−411)で評価した。結果を
図3に示す。
【0071】
(比較例8)
実施例1で得られた樹脂表面粗化用組成物を添加しない以外は、実施例14と同様にしてフィルムを作成し、表面粗さを評価した。結果を
図3に示す。
【0072】
(比較例9)
実施例1で得られた樹脂表面粗化用組成物に代えて、製造例2で得られたポリプロピレンカーボネートを用いた以外は、実施例14と同様にしてフィルムを作成し、表面粗さを評価した。結果を
図3に示す。
【0073】
これらの結果から、アルカリ金属化合物を添加した脂肪族ポリカーボネートを樹脂表面粗化用組成物として用いると、比較的穏やかな加熱のみによって、樹脂表層を非常に微細に粗化することができることがわかった。