(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845688
(24)【登録日】2021年3月2日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】スイッチデバイス及びスイッチ回路
(51)【国際特許分類】
H01L 27/088 20060101AFI20210315BHJP
H01L 21/8234 20060101ALI20210315BHJP
H01L 27/06 20060101ALI20210315BHJP
H01L 21/822 20060101ALI20210315BHJP
H01L 27/04 20060101ALI20210315BHJP
H03K 17/687 20060101ALI20210315BHJP
H01L 21/8238 20060101ALI20210315BHJP
H01L 27/092 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
H01L27/088 331G
H01L27/06 102A
H01L27/04 D
H03K17/687 G
H01L27/092 B
H01L27/088 331D
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-256111(P2016-256111)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-110142(P2018-110142A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2019年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】308033711
【氏名又は名称】ラピスセミコンダクタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079119
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 元彦
(74)【代理人】
【識別番号】100147728
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 信司
(72)【発明者】
【氏名】笛木 洋一
【審査官】
市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0256678(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0001351(US,A1)
【文献】
特開2005−312004(JP,A)
【文献】
特開平05−198666(JP,A)
【文献】
特開2002−299467(JP,A)
【文献】
特開2012−004254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/088
H01L 21/822
H01L 21/8234
H01L 21/8238
H01L 27/04
H01L 27/06
H01L 27/092
H03K 17/687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の基板からなる第1ウェルと、
前記第1ウェル内に設けられた前記第1導電型とは反対導電型の第2導電型の第2ウェルと、
前記第2ウェル内に設けられた前記第1導電型の第3ウェルと、
前記第3ウェル内に設けられ、ゲートに印加される制御信号に応じてオン又はオフとなり、ソース及びドレイン間の信号の伝送又は遮断を行うスイッチングトランジスタと、
電源電圧の印加を受ける電源端子と、前記電源端子及び前記第2ウェルの間に接続された抵抗部と、からなり、前記抵抗部と前記第2ウェル及び前記第3ウェルの接触領域とを介して前記電源電圧を前記スイッチングトランジスタのバックゲートに印加する電圧印加手段と、
前記第3ウェル内に設けられ、前記制御信号に応じてオン又はオフとなり、前記スイッチングトランジスタの前記バックゲートと前記スイッチングトランジスタの前記ソース又はドレインとの接続又は遮断を行う第1の基板電位制御トランジスタと、
を備えることを特徴とするスイッチデバイス。
【請求項2】
第1導電型の基板からなる第1ウェルと、
前記第1ウェル内に設けられた前記第1導電型とは反対導電型の第2導電型の第2ウェルと、
前記第2ウェル内に設けられた前記第1導電型の第3ウェルと、
前記第3ウェル内に設けられ、ゲートに印加される制御信号に応じてオン又はオフとなり、ソース及びドレイン間の信号の伝送又は遮断を行うスイッチングトランジスタと、
電源電圧の印加を受ける電源端子と、前記電源端子及び前記第2ウェルの間に接続された抵抗部と、からなり、前記抵抗部と前記第2ウェル及び前記第3ウェルの接触領域とを介して前記電源電圧を前記スイッチングトランジスタのバックゲートに印加する電圧印加手段と、
前記第1ウェル内に設けられ、ゲートに前記制御信号を反転した反転信号の印加を受けてオン又はオフとなり、前記スイッチングトランジスタのバックゲートと接地電位との間の接続又は遮断を行う第2の基板電位制御トランジスタと、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のスイッチデバイス。
【請求項3】
前記抵抗部は、一端が前記電源端子に接続され且つ他端が前記第2ウェルに接続された抵抗素子からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のスイッチデバイス。
【請求項4】
第1導電型の基板からなる第1ウェルと、
前記第1ウェル内に設けられた前記第1導電型とは反対導電型の第2導電型の第2ウェルと、
前記第2ウェル内に設けられた前記第1導電型の第3ウェルと、
前記第3ウェル内に設けられ、ゲートに印加される制御信号に応じてオン又はオフとなり、ソース及びドレイン間の信号の伝送又は遮断を行うスイッチングトランジスタと、
電源電圧の印加を受ける電源端子と、前記電源端子及び前記第2ウェルの間に接続された抵抗部と、からなり、前記抵抗部と前記第2ウェル及び前記第3ウェルの接触領域とを介して前記電源電圧を前記スイッチングトランジスタのバックゲートに印加する電圧印加手段と、
前記第1ウェル内の前記第2ウェル及び前記第3ウェルから離間した位置に設けられた前記第2導電型の第4ウェルと、
を備え、
前記抵抗部は、前記第4ウェル内に設けられ、ゲートに印加されるバイアス電圧に応じてオン又はオフとなり、前記電源端子と前記第2ウェル及び前記第3ウェルの接触領域との間の接続又は遮断を行う抵抗トランジスタからなることを特徴とするスイッチデバイス。
【請求項5】
前記抵抗トランジスタのゲートに前記バイアス電圧を印加するバイアス電圧供給部を備え、
前記バイアス電圧供給部は、前記バイアス電圧の電圧値を変更可能に構成されていることを特徴とする請求項4に記載のスイッチデバイス。
【請求項6】
第1導電型の基板からなる第1ウェルと、前記第1ウェル内に設けられた前記第1導電型とは反対導電型の第2導電型の第2ウェルと、前記第2ウェル内に設けられた前記第1導電型の第3ウェルと、を有するトリプルウェル構造の領域の前記第3ウェルの表面に形成され、ゲートに印加される制御信号に応じてオン又はオフとなり、ソース及びドレイン間の信号の伝送又は遮断を行うスイッチングトランジスタと、
電源電圧の印加を受ける電源端子と、
前記第2ウェルと前記第3ウェルとの接触領域に形成され、前記スイッチングトランジスタのバックゲートにアノードが接続された寄生ダイオードと、
前記電源端子と前記寄生ダイオードのカソードとの間に接続された抵抗部と、
ソース及びドレインが前記スイッチングトランジスタのバックゲートとソース又はドレインとの間に接続され、ゲートに前記制御信号の印加を受ける第1の基板電位制御トランジスタと、
を備えることを特徴とするスイッチ回路。
【請求項7】
第1導電型の基板からなる第1ウェルと、前記第1ウェル内に設けられた前記第1導電型とは反対導電型の第2導電型の第2ウェルと、前記第2ウェル内に設けられた前記第1導電型の第3ウェルと、を有するトリプルウェル構造の領域の前記第3ウェルの表面に形成され、ゲートに印加される制御信号に応じてオン又はオフとなり、ソース及びドレイン間の信号の伝送又は遮断を行うスイッチングトランジスタと、
電源電圧の印加を受ける電源端子と、
前記第2ウェルと前記第3ウェルとの接触領域に形成され、前記スイッチングトランジスタのバックゲートにアノードが接続された寄生ダイオードと、
前記電源端子と前記寄生ダイオードのカソードとの間に接続された抵抗部と、
ソース及びドレインが前記スイッチングトランジスタのバックゲートと接地電位との間に接続され、ゲートに前記制御信号を反転した反転信号の印加を受ける第2の基板電位制御トランジスタと、
を備えることを特徴とするスイッチ回路。
【請求項8】
前記抵抗部は、一端が前記電源端子に接続され且つ他端が前記寄生ダイオードのカソードに接続された抵抗素子からなることを特徴とする請求項6又は7に記載のスイッチ回路。
【請求項9】
前記抵抗部は、ソース及びドレインが前記電源端子と前記寄生ダイオードのカソードとの間に接続され、ゲートにバイアス電圧の印加を受ける抵抗トランジスタからなることを特徴とする請求項6又は7に記載のスイッチ回路。
【請求項10】
前記抵抗トランジスタのゲートに前記バイアス電圧を印加するバイアス電圧供給部を備え、
前記バイアス電圧供給部は、前記バイアス電圧の電圧値を変更可能に構成されていることを特徴とする請求項9に記載のスイッチ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチデバイス及びスイッチ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信において、信号の送受信に冗長性を持たせて確度の高い通信を実現するため、アンテナダイバシティと呼ばれる技術が用いられている。アンテナダイバシティでは、フェージング効果のない信号を受信するため、複数のアンテナを設置して受信を行う。その際、複数のアンテナの中から通信に適したアンテナを選ぶためのスイッチ回路が用いられる。このようなスイッチ回路としては、例えば複数のスイッチ素子(例えばMOSトランジスタ)から構成される2入力2出力のDPDT(Dual Port Dual Throw)タイプのスイッチ回路が用いられている。
【0003】
複数のMOSトランジスタをスイッチ素子として用いたスイッチ回路において、NMOSトランジスタの基板電位を制御するため、トリプルウェル構造を採用したスイッチ回路が知られている。例えば、このようなトリプルウェル構造を用いたスイッチ回路として、オフリーク電流の発生を抑えるため、PMOSトランジスタ及びNMOSトランジスタを直列にした回路2つを並列に接続し、NMOSトランジスタのゲートにクロック信号を供給し、PMOSトランジスタのゲートにクロック信号を反転した信号を供給するスイッチ回路が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−191657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バルク(基板)型CMOSデバイスでは、一般的に基板電位が必要とされており、P型基板の場合には基板電位がGND(接地)電位に固定される。従って、入出力信号電圧の範囲は電源電圧VDDレベルからGNDレベルの間に制限される。これは無線用の高周波スイッチについても同様であり、NMOSトランジスタを用いたスイッチは直流的なバイアスをかけて使用するため、例えば直流バイアス電圧をVDD/2にとることにより、入出力信号電圧のダイナミックレンジを確保することが必要となる。この際、通常NMOSトランジスタの基板電圧はGNDであるため、バックバイアス効果で閾値電圧Vthが上昇しスイッチの損失特性が悪化してしまうという問題があった。スイッチの損失特性を改善するため、昇圧回路を用いてゲート電圧を引き上げる方法が考えられるが、その場合、クロックによるノイズの影響や、消費電流及び回路規模が増大するといった問題があった。
【0006】
また、高周波用のアンテナダイバシティに用いられるDPDTタイプのスイッチ回路では、回路を構成する複数のスイッチの各々は、送受信パワーによらず損失特性が広帯域に亘って小さいことが特に要求される。従って、かかる高周波用のスイッチ回路は、上記従来技術のようなバルク型CMOSデバイスに内蔵するスイッチ回路として構成することが困難であり、高性能な専用ICを別途用いたシステムとして実現することが多い。そのため、外部部品が必要となり、システム全体の規模及びコストが増大してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るスイッチデバイスは、第1導電型の基板からなる第1ウェルと、前記第1ウェル内に設けられた前記第1導電型とは反対導電型の第2導電型の第2ウェルと、前記第2ウェル内に設けられた前記第1導電型の第3ウェルと、前記第3ウェル内に設けられ、ゲートに印加される制御信号に応じてオン又はオフとなり、ソース及びドレイン間の信号の伝送又は遮断を行うスイッチングトランジスタと、電源電圧の印加を受ける電源端子と、前記電源端子及び前記第2ウェルの間に接続された抵抗部と、からなり、前記抵抗部と前記第2ウェル及び前記第3ウェルの接触領域とを介して前記電源電圧を前記スイッチングトランジスタのバックゲートに印加する電圧印加手段と、
前記第3ウェル内に設けられ、前記制御信号に応じてオン又はオフとなり、前記スイッチングトランジスタの前記バックゲートと前記スイッチングトランジスタの前記ソース又はドレインとの接続又は遮断を行う第1の基板電位制御トランジスタと、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るスイッチ回路は、第1導電型の基板からなる第1ウェルと、前記第1ウェル内に設けられた前記第1導電型とは反対導電型の第2導電型の第2ウェルと、前記第2ウェル内に設けられた前記第1導電型の第3ウェルと、を有するトリプルウェル構造の領域の前記第
3ウェルの表面に形成され、ゲートに印加される制御信号に応じてオン又はオフとなり、ソース及びドレイン間の信号の伝送又は遮断を行うスイッチングトランジスタと、電源電圧の印加を受ける電源端子と、前記第2ウェルと前記第3ウェルとの接触領域に形成され、前記スイッチングトランジスタのバックゲートにアノードが接続された寄生ダイオードと、前記電源端子と前記寄生ダイオードのカソードとの間に接続された抵抗部と、
ソース及びドレインが前記スイッチングトランジスタのバックゲートとソース又はドレインとの間に接続され、ゲートに前記制御信号の印加を受ける第1の基板電位制御トランジスタと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、損失特性が良好で且つ装置規模を抑えたスイッチデバイス及びスイッチ回路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】高周波スイッチ100の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施例1のスイッチ回路10の構成を示す図である。
【
図3】スイッチ回路10のデバイス構造を示す図である。
【
図4】スイッチ回路10のノード部11の構成を示す図である。
【
図5】Gainの周波数特性を電源と疑似ダイオードとの間に抵抗が挿入されている場合と挿入されていない場合とを比較して示す図である。
【
図6】電源と疑似ダイオードとの間に抵抗が挿入されている場合のGainの周波数特性を示す図である。
【
図7】実施例2のスイッチ回路20の構成を示す図である。
【
図8】スイッチ回路20のデバイス構造を示す図である。
【
図9】スイッチ回路20のノード部21の構成を示す図である。
【
図10】電源と疑似ダイオードとの間にトランジスタが挿入されている場合のGainの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。なお、以下の各実施例における説明及び添付図面においては、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符号を付している。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明のスイッチ回路を含む高周波用スイッチ100の構成を示すブロック図である。高周波用スイッチ100では、スイッチSW1〜SW4がオン又はオフすることにより、ポートPT1〜PT4から高周波信号の入出力が行われる。本発明のスイッチ回路は、例えばスイッチSW1に相当するものである。
【0013】
図2は、本発明の実施例1のスイッチ回路10の構成を示す回路図である。スイッチ回路10は、バルク(基板)型のCMOSデバイスに内蔵されており、スイッチデバイスとしての性質を有する。スイッチ回路10は、Nチャネル型MOSトランジスタ(NMOSトランジスタ)であるトランジスタNM1、NM2及びNM3を有する。
【0014】
トランジスタNM1は、RF(Radio Frequency)信号の入出力をオン又はオフ(伝送又は遮断)するためのメインスイッチとして機能するスイッチングトランジスタである。トランジスタNM1のソースは、RF信号の入力ポートであるポートPT1に接続されている。同様に、トランジスタNM1のドレインは、RF信号の入力ポートであるポートPT2に接続されている。トランジスタNM1のゲートは、トランジスタNM2のゲートに接続されるとともに、第1制御電圧Vcontの印加を受けるノードn2に接続されている。第1制御電圧VcontはトランジスタNM1及びNM2のオン又はオフを制御する制御電圧であり、ハイレベル(以下、Hレベル)又はローレベル(以下、Lレベル)の電圧レベルを有する。例えばHレベルはVDD電源の電圧レベル(電源電圧VDD)に対応し、Lレベルは接地電位GNDの電圧レベルに対応している。
【0015】
トランジスタNM2は、トランジスタNM1のバックゲートの電圧をコントロールするバックバイアスコントロール用スイッチとしての機能を有するトランジスタである。トランジスタNM2のソース及びバックゲートは、トランジスタNM1のバックゲート及びトランジスタNM3のドレインに接続されている。トランジスタNM2のドレインはポートPT1に接続され、ゲートはノードn2に接続されている。
【0016】
トランジスタNM3は、トランジスタNM1及びNM2のバックゲートをGND(接地電位)に固定するためのスイッチとしての機能を有するトランジスタである。トランジスタNM3のソースはGNDに接続され、ゲートは第2制御電圧Vcont_bの印加を受けるノードn3に接続されている。第2制御電圧Vcont_bは、第1制御電圧Vcontを反転した電圧であり、トランジスタNM3のオン又はオフを制御する制御電圧である。
【0017】
図3は、各トランジスタを含むスイッチ回路10のデバイス構造(すなわち、スイッチデバイス)の断面を示した概略図である。スイッチ回路10は、P型(第1導電型)の第1ウェルであるP型基板PS、第1ウェル内に設けられたN型(第1導電型とは反対導電型の第2導電型)の第2ウェルであるN型ウェルNW、及び第2ウェル内に設けられたP型(第1導電型)の第3ウェルであるP型ウェルPWからなるトリプルウェル構造を有する。
【0018】
トランジスタNM1及びNM2は、トリプルウェル構造の第3ウェルであるP型ウェルPWに形成されている。トランジスタNM3は、トリプルウェル構造の外側のP型基板PSに形成されている。
【0019】
第2ウェルであるN型ウェルNWと第3ウェルであるP型ウェルPWとの接触領域には、寄生ダイオードが形成される。以下、N型ウェルNWとP型ウェルPWとの接触領域に形成される寄生ダイオードを疑似ダイオードD1と称する。この疑似ダイオードD1にN型ウェルNWからP型ウェルPWに向かう方向(すなわち逆方向)に電圧が印加されると、接触領域に空乏層が形成され、ジャンクション容量を有する状態(疑似的なキャパシタの状態)となる。
【0020】
再び
図2を参照すると、第1バイアス電圧源VB1は、トランジスタNM1にバイアス電圧を供給するバイアス供給源であり、抵抗R3を介してトランジスタNM1のソース及びポートPT1に接続されている。また、第1バイアス電圧源VB1は、抵抗R2を介してトランジスタNM1のドレイン及びポートPT2に接続されている。
【0021】
疑似ダイオードD1のアノードは、トランジスタNM1のバックゲート、トランジスタNM2のソース及びバックゲート、及びトランジスタNM3のドレインに接続されている。
【0022】
抵抗R1は、一端が疑似ダイオードD1のカソードに接続され、他端がVDD電源(電源電圧VDD)に接続された抵抗素子である。すなわち、本実施例のスイッチ回路10では、VDD電源と疑似ダイオードD1との間に、抵抗R1が挿入されている。
【0023】
次に、本実施例のスイッチ回路10の動作について説明する。
【0024】
まず、ノードn2にLレベルの第1制御電圧Vcontが印加され、ノードn3にHレベルの第2制御電圧Vcont_bが印加されると、トランジスタNM1及びNM2がオフ状態となり、トランジスタNM3がオン状態となる。このとき、ノードn1は、トランジスタNM3によってGNDに固定されるため、スイッチ回路10は全体としてオフ状態となり、ポートPT1及びPT2はアイソレーション状態となる。
【0025】
次に、ノードn2にHレベルの第1制御電圧Vcontが印加され、ノードn3にLレベルの第2制御電圧Vcont_bが印加されると、トランジスタNM1及びNM2がオン状態となり、トランジスタNM3がオフ状態となる。このとき、ノードn1は、トランジスタNM2によってトランジスタNM1のソース電位に固定される。従って、トランジスタNM1はバックバイアス効果の影響を受けないため、トランジスタNM1の閾値電圧Vthは上昇せず、ポートPT1及びPT2の間の損失は、低周波領域においては悪化しない。
【0026】
一方、疑似ダイオードD1に逆方向電圧が印加されることにより、ノードn1には疑似的なキャパシタが付加された状態となる。この疑似的なキャパシタは、損失特性を悪化させる要因となり得る。すなわち、仮に本実施例のスイッチ回路10とは異なり、VDD電源と疑似ダイオードD1との間に抵抗R1が設けられていなかった場合、ノードn1の周波数特性が悪化し、トランジスタNM1のソースノード又はドレインノードの高周波信号にトランジスタNM1及びNM2のバックゲートが追従できない状態となる。
【0027】
しかしながら、本実施例のスイッチ回路10では、VDD電源と疑似ダイオードD1との間に抵抗R1が挿入されているため、以下の理由により、高周波領域においても損失特性の悪化を抑えることが可能である。
【0028】
図4は、
図1の破線で囲まれた部分(ノードn1に沿った部分、以下ノード部11)を簡略化して示す図である。抵抗R_m2onは、トランジスタNM2がオン状態である場合のオン抵抗を示している。また、疑似キャパシタC1は、VDD電圧印加時における疑似ダイオードD1の寄生容量を示している。
【0029】
図4のノード部11において、仮に抵抗R1が挿入されておらず、疑似キャパシタC1がVDD電源に直接接続されている場合、ノードn1の周波数特性は、次式(1)のように示される。ここで、fcはカットオフ周波数である。
fc = 1/(2*π*R_m2on*C1) ・・・ (1)
【0030】
図5は、抵抗R1が挿入されている場合と挿入されていない場合とにおける、利得(Gain)の周波数特性の比較を模式的に示すグラフである。抵抗R1が挿入されていない場合、カットオフ周波数fcよりも高域側では、−20dB/decの傾きでGainは減少していく。
【0031】
一方、
図4に示すように、疑似キャパシタC1とVDD電源との間に抵抗R1が挿入されている場合、ノードn1の周波数特性は、次式(2)〜(4)のように示される。
f1 = 1/(2*π*(R1+R_m2on)*C1) ・・・(2)
f2 = 1/(2*π*R1*C1) ・・・ (3)
G2 = R_m2on/(R1+R_m2on) ・・・ (4)
【0032】
図6は、抵抗R1が挿入されている場合における、Gainの周波数特性を模式的に示すグラフである。ここで、f1は高域カットオフ周波数である。高周波領域において、Gainは減少していくが、所定の周波数f2で減衰量が制限される。G2は、減衰量が制限された後のGainを示している。
【0033】
図5に示すように、抵抗R1が挿入されていない場合には、カットオフ周波数fc以降Gainは−20dB/decの傾きで減衰を続けるが、抵抗R1が挿入されている場合には、所定の周波数f2を境にGainは式(4)のG2(すなわち、R_m2on/(R1+R_m2on))にとどまる。これにより、高周波領域で本実施例のスイッチ回路10を使用する場合、使用帯域BWにおけるGainの低下が抑制される。
【0034】
すなわち、本実施例のスイッチ回路10では、VDD電源と疑似ダイオードD1との間に挿入された抵抗R1により、疑似ダイオードD1のキャパシタとしての働きが阻害され、ノードn1の電位が入出力信号のレベルに応じて変動可能(応答可能)な状態となる。これにより、ノードn1の高域周波数特性が悪化せず、ノードn1の電位はトランジスタNM1のソースノード又はドレインノードの高周波信号に追従可能となる。従って、バックバイアス効果によるトランジスタNM1の閾値電圧Vthの上昇を抑え、高周波領域でのポートPT1及びPT2の間の損失特性の悪化を改善し、良好な損失特性を得ることが可能となるのである。
【0035】
以上のように、本実施例のスイッチ回路10では、トランジスタNM1のバックバイアスコントロールを行うことに加え、トランジスタNM1及びNM2のバックゲートへの電源電圧VDDの供給、すなわちトリプルウェル構造におけるN型ウェルNWへの電源電圧の供給を抵抗R1を介して行う。これにより、ノードn1の高周波領域での特性を改善し、トランジスタNM1のソースノード又はドレインノードの動作に追従させることが可能となる。この結果、バックバイアス効果によるトランジスタNM1の閾値電圧Vthの上昇を抑え、高周波領域でのポートPT1及びPT2の間の損失特性の悪化を改善して良好な損失特性を得ることができる。
【0036】
また、本実施例のスイッチ回路10は、バルク型CMOSデバイスに内蔵されているため、専用ICを別途用いたシステムとして構成する場合や昇圧回路を用いた場合と比べて、装置規模を抑えることが可能となる。
【実施例2】
【0037】
図7は、本発明の実施例2のスイッチ回路20の構成を示す回路図である。スイッチ回路20は、疑似ダイオードD1とVDD電源との間に抵抗R1の代わりにトランジスタPM4を挿入し、トランジスタPM4のゲートにバイアス電圧を印加する第2バイアス電圧源VB2が接続されている点で、実施例1のスイッチ回路10と異なる。
【0038】
トランジスタPM4は、Pチャネル型MOSトランジスタ(PMOSトランジスタ)であり、ソースがVDD電源に接続されている。トランジスタPM4のゲートは、電圧値が可変な電圧源である第2バイアス電圧源VB2の正極端子に接続されている。第2バイアス電圧源VB2の負極端子は、GNDに接続されている。トランジスタPM4は、ゲートにバイアス電圧の印加を受けてオン状態となり、そのオン抵抗によりVDD電源と疑似ダイオードD1との間に接続された抵抗部として機能する。
【0039】
図8は、各トランジスタを含むスイッチ回路20のデバイス構造(すなわち、スイッチデバイス)の断面を示した概略図である。スイッチ回路20は、実施例1のスイッチ回路10と同様、第1ウェルであるP型基板PS、第1ウェル内に設けられた第2ウェルであるN型ウェルNW、及び第2ウェル内に設けられた第3ウェルであるP型ウェルPWからなるトリプルウェル構造を有する。
【0040】
トランジスタNM1及びNM2は、トリプルウェル構造の第3ウェルであるP型ウェルPWに形成されている。トランジスタNM3は、トリプルウェル構造の外側のP型基板PSに形成されている。
【0041】
トランジスタPM4は、第1ウェル内の第2ウェル及び第3ウェルから離間した位置に設けられた第4ウェルであるN型ウェルNW2に形成されている。
【0042】
実施例1と同様、第2ウェルであるN型ウェルNWと第3ウェルであるP型ウェルPWとの接触領域には寄生ダイオードが形成され、当該接触領域は疑似ダイオードD1として機能する。すなわち、N型ウェルNWからP型ウェルPWに向かう方向(逆方向)に電圧が印加されると、空乏層が形成され、ジャンクション容量を有する疑似的なキャパシタの状態となる。
【0043】
再び
図7を参照すると、トランジスタPM4のドレインは、疑似ダイオードD1のカソードに接続されている。
【0044】
次に、本実施例のスイッチ回路20の動作について説明する。
【0045】
まず、ノードn2にLレベルの第1制御電圧Vcontが印加され、ノードn3にHレベルの第2制御電圧Vcont_bが印加されると、トランジスタNM1及びNM2がオフ状態となり、トランジスタNM3がオン状態となる。このとき、ノードn1は、トランジスタNM3によってGNDに固定されるため、スイッチ回路20は全体としてオフ状態となり、ポートPT1及びPT2はアイソレーション状態となる。
【0046】
次に、ノードn2にHレベルの第1制御電圧Vcontが印加され、ノードn3にLレベルの第2制御電圧Vcont_bが印加されると、トランジスタNM1及びNM2がオン状態となり、トランジスタNM3がオフ状態となる。このとき、ノードn1は、トランジスタNM2によってトランジスタNM1のソース電位に固定される。従って、トランジスタNM1はバックバイアス効果の影響を受けないため、トランジスタNM1の閾値電圧Vthは上昇せず、ポートPT1及びPT2の間に損失は、低周波領域においては悪化しない。
【0047】
一方、疑似ダイオードD1に逆方向電圧が印加されることにより、ノードn1には疑似的なキャパシタが付加された状態となる。この疑似的なキャパシタは、損失特性を悪化させる要因となり得る。すなわち、仮に本実施例のスイッチ回路20とは異なり、VDD電源と疑似ダイオードD1との間にトランジスタPM4が設けられていなかった場合、ノードn1の周波数特性が悪化し、トランジスタNM1のソースノード又はドレインノードの高周波信号にトランジスタNM1及びNM2のバックゲートが追従できない状態となる。
【0048】
しかしながら、本実施例のスイッチ回路20では、VDD電源と疑似ダイオードD1との間にトランジスタPM4が挿入されているため、以下の理由により、高周波領域においても損失特性の悪化を抑えることが可能である。
【0049】
図9は、
図7の破線で囲まれた部分(ノードn1に沿った部分、以下ノード部21)を簡略化して示す図である。抵抗R_m2onは、トランジスタNM2がオン状態である場合のオン抵抗を示している。また、疑似キャパシタC1は、VDD電圧印加時における疑似ダイオードD1の寄生容量を示している。
【0050】
図9のノード部21において、仮にトランジスタPM4が挿入されておらず、疑似キャパシタC1がVDD電源に直接接続されている場合、ノードn1の周波数特性は、次式(5)のように示される。ここで、fcはカットオフ周波数である。
fc = 1/(2*π*R_m2on*C1) ・・・ (5)
【0051】
トランジスタPM4が挿入されていない場合、カットオフ周波数fcよりも高域側では、−20dB/decの傾きでGainは減少していく。
【0052】
一方、
図9に示すように、疑似キャパシタC1とVDD電源との間にトランジスタPM4が挿入されている場合、トランジスタPM4のオン状態時のオン抵抗を抵抗R_m4onとすると、ノードn1の周波数特性は、次式(6)〜(8)のように示される。
f1 = 1/(2*π*(R_m4on+R_m2on)*C1) ・・・(6)
f2 = 1/(2*π*R_m4on*C1) ・・・ (7)
G2 = R_m2on/(R_m4on+R_m2on) ・・・ (8)
【0053】
図10は、トランジスタPM4が挿入されている場合における、Gainの周波数特性を模式的に示すグラフである。ここで、f1は高域カットオフ周波数である。高周波領域において、Gainは減少していくが、所定の周波数f2で減衰量が制限される。G2は、減衰量が制限された後のGainを示している。
【0054】
トランジスタPM4が挿入されていない場合には、カットオフ周波数fc以降Gainは−20dB/decの傾きで減衰を続けるが、トランジスタPM4が挿入されている場合には、トランジスタPM4のオン抵抗により、所定の周波数f2を境にGainは式(8)のG2(すなわち、R_m2on/(R_m4on+R_m2on))にとどまる。
【0055】
すなわち、本実施例のスイッチ回路20では、VDD電源と疑似ダイオードD1との間に挿入されたトランジスタPM4のオン抵抗により、疑似ダイオードD1のキャパシタとしての働きが阻害され、ノードn1の電位が入出力信号のレベルに応じて変動可能(応答可能)な状態となる。これにより、ノードn1の高域周波数特性が悪化せず、ノードn1の電位はトランジスタNM1のソースノード又はドレインノードの高周波信号に追従可能となる。従って、バックバイアス効果によるトランジスタNM1の閾値電圧Vthの上昇を抑え、高周波領域でのポートPT1及びPT2の間の損失特性の悪化を改善し、良好な損失特性を得ることが可能となるのである。
【0056】
また、第2バイアス電圧源VB2は電圧値が可変な電圧源であるため、トランジスタPM4のゲート電圧を変化させることにより、トランジスタPM4のオン抵抗を変化させることが可能である。従って、式(6)における高域カットオフ周波数を適切な値に調整することが可能となる。
【0057】
以上のように、本実施例のスイッチ回路20では、トランジスタNM1のバックバイアスコントロールを行うことに加え、トランジスタNM1及びNM2のバックゲートへの電源電圧VDDの供給、すなわちトリプルウェル構造におけるN型ウェルNWへの電源電圧の供給をトランジスタPM4を介して行う。これにより、ノードn1の高周波領域での特性を改善し、トランジスタNM1のソースノード又はドレインノードの動作に追従させることが可能となる。
【0058】
また、本実施例のスイッチ回路20では、トランジスタPM4のゲート電圧を変化させることにより、トランジスタPM4のオン抵抗を変化させ、高域カットオフ周波数を適切な値に調整することが可能である。従って、各々の入力信号の周波数に対応したカットオフ周波数に調整することにより、バックバイアス効果によるトランジスタNM1の閾値電圧Vthの上昇を抑え、高周波領域でのポートPT1及びPT2の間の損失特性の悪化を改善して良好な損失特性を得ることができる。
【0059】
また、本実施例のスイッチ回路20は、バルク型CMOSデバイスに内蔵されているため、専用ICを別途用いたシステムとして構成する場合や昇圧回路を用いた場合と比べて、装置規模を抑えることが可能となる。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施例では、メインスイッチのトランジスタとしてNMOSトランジスタを用いる例について説明したが、PMOSトランジスタをメインスイッチのトランジスタとして用いても良い。また、NMOSトランジスタ及びPMOSトランジスタのトランスファーゲートを用いることも可能である。
【0061】
また、上記実施例では、第1バイアス電圧源VB1が、抵抗R2及びR3を介してトランジスタNM1のソース及びドレインとポートPT1及びポートPT2とに接続されている構成について説明したが、抵抗の代わりにインダクタを用いても良い。
【0062】
また、上記実施例1では、N型ウェルNWとVDD電源との間に抵抗R1を挿入した構成について説明したが、これとは異なり、例えば入出力信号の使用周波数帯のみをターゲットとしてフィルタや共振回路を挿入することも可能である。
【0063】
また、上記実施例では、トランジスタNM1のソースがポートPT1に接続され、ドレインがポートPT2に接続されている例について説明した。しかしこれとは逆に、トランジスタNM1のドレインがポートPT1に接続され、ソースがポートPT2に接続されている構成としても良い。
【符号の説明】
【0064】
10,20 スイッチ回路
11,21 ノード部
D1 疑似ダイオード
NM1〜3、PM4 トランジスタ
R1〜R3 抵抗
VB1,VB2 バイアス電圧源
PT1〜4 ポート
SW1〜4 スイッチ