【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27−28年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(個人型研究さきがけ)「生細胞膜分子動態を観る極限時空間分解能AFMの創成」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ステージは、前記ステージをX方向及びY方向と直交するZ方向に相対的に移動させるZアクチュエータを介して前記可動土台に支持されることを特徴とする請求項2又は3に記載のスキャナ。
前記可動土台における前記Zアクチュエータを介して前記ステージが支持される面とは反対の面に、前記Zアクチュエータ及び前記ステージの総重量と略等しい重量のカウンターバランスが取り付けられることを特徴とする、請求項4に記載のスキャナ。
前記第3内枠は、X−Z平面に平行な2枚の平板からなる側壁部と、Y−Z平面に平行な2枚の平板からなり2枚の前記側壁部を連結する接続部と、を備える略矩形の枠体であり、
前記板バネが、Y−Z平面と平行に2枚の前記側壁部の内側面を接続するように設けられることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のスキャナ。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡(SPM)は機械的探針を機械的に走査して試料表面の情報を得る走査型顕微鏡であって、走査型トンネリング顕微鏡(STM)、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型磁気力顕微鏡(MFM)、走査型電気容量顕微鏡(SCaM)、走査型近接場光顕微鏡(SNOM)、走査型熱顕微鏡(SThM)などの総称である。走査型プローブ顕微鏡は、試料ステージと、プローブと、該試料ステージまたは該プローブを走査のために変位させるスキャナと、プローブで起こる物理量の変化を検出する検出器とを、原理上の共通の要素として有している。走査型プローブ顕微鏡は、プローブと試料とを相対的にXY方向にラスター走査し所望の試料領域の表面情報をプローブを介して得て、モニタ上にマッピング表示することができる。なお、本明細書では、試料の高さ方向をZ方向とし、Z方向と直交する面内において直交する2方向をX方向及びY方向とする。
【0003】
走査型プローブ顕微鏡の典型的なものとして、原子間力顕微鏡が挙げられる。原子間力顕微鏡では、プローブとしてカンチレバーチップ(カンチレバーの先端に極めて微小な探針が付与された部材)が用いられる。
【0004】
図1は、走査のために試料ステージ側を変位させるタイプの原子間力顕微鏡の主要部分の構成例を示す図である。
図1に示すように、試料ステージ変位型の装置では、顕微鏡筐体100上に、試料が配置されるステージ122を走査するためのスキャナ200が設けられる。スキャナ200は、コントローラ102からの制御信号に応じてZ方向(図の上下方向)に変位可能なZスキャナと、X−Y方向(図の紙面に垂直な平面に沿った直交する2方向)に変位可能なX−Yスキャナとを有して構成される。カンチレバーチップ110は、カンチレバー112と探針114とを有し、その基部が励振用圧電体115等を介して顕微鏡筐体100に固定される。
【0005】
コントローラ102によりスキャナが制御され、試料が変位すると、カンチレバー112に変化が生じ、その変化が光センサユニット116によって検出され、各測定点のデータから、試料表面の起伏の様子がコンピュータ104により画像化されて、モニタ106に表示される。原子間力顕微鏡の各部の構造やフィードバック制御については、例えば、特許文献1、2などに詳細に説明されている。
【0006】
図16は、従来から用いられているスキャナ300の構造の一例を示している。スキャナ300は、外枠310の内側に、Y方向に撓むことができる板バネ302を介して内枠304が支持され、内枠304の内側に、X方向に撓むことができる板バネ305を介して土台部307が支持された構造を有する。外枠310の内側面と内枠304の外側面の間には、印加する電圧に応じてY方向に伸縮するYアクチュエータ303が設けられ、Yアクチュエータ303の伸縮に応じて内枠304及び内枠304に支持されている部材は外枠310に対してY方向に相対的に移動する。内枠304の内側面と土台部307の外側面の間には、印加する電圧に応じてX方向に伸縮するXアクチュエータ306が設けられ、Xアクチュエータ306の伸縮に応じて土台部307及び土台部307に支持されている部材は内枠304及び外枠310に対してX方向に相対的に移動する。土台部307の上には印加する電圧に応じてZ方向に伸縮するZアクチュエータ308を介してステージ309が設けられる。Zアクチュエータ308の伸縮に応じてステージ309およびステージ309に配置された試料は土台部307及び外枠310に対してZ方向に相対的に移動する。このような構造のスキャナ300は、Yアクチュエータ303とXアクチュエータ306を制御信号により駆動してステージ309をX−Y方向に変位させ、Zアクチュエータ308を制御信号により駆動してステージ309をZ方向に変位させる。
【0007】
走査型プローブ顕微鏡の時間分解能を高める(別の表現では、1フレームをスキャンするのに要する時間を短縮する)には、スキャナの応答の律速となるスキャナ自身の共振周波数(固有振動数)を高めることが重要となる。この点、上述の構造のXYZスキャナ300は、比較的単純な構造により共振ピークの数を減らすことが可能であり、スキャナの強度(剛性)を高めることによって共振周波数が比較的高くすることが可能であることから、高速の走査型プローブ顕微鏡に用いられている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0008】
走査型プローブ顕微鏡による測定対象は様々であり、旧来から測定されてきた金属、半導体、セラミックスなどの材料の表面の他、近年では、医学・生物学研究の分野において細胞、タンパク質分子なども測定対象とされている。従来のタンパク質分子の測定は、細胞から取り出したタンパク質分子を支持基板上に固定してイメージングしたものであり、細胞中において実際に機能している分子をイメージングしたものではなかった。細胞中において実際に機能している分子をイメージングすることを想定した場合、マイクロメートルスケールの細胞全体をイメージングすることと、その細胞の中のタンパク質分子が存在する領域においてナノメートルスケールのタンパク質分子をイメージングすることを両立する必要がある。
【0009】
上記の従来型のスキャナ300では、ナノメートルスケールの走査範囲で高速のスキャンを実現しているが、走査範囲を拡げようとした場合、Yアクチュエータ303やXアクチュエータ306を伸び係数(単位電圧当たりの伸縮量、圧電定数ともいう)がより大きいものとする必要がある。しかしながら、Yアクチュエータ303やXアクチュエータ306の伸び係数を大きくすると、応答速度や位置精度が低下するという問題がり、広範囲の測定と高速・高精度の測定を両立することは困難であった。
【0010】
以上のような広範囲の測定と高速・高精度の測定の両立に関する問題は、原子間力顕微鏡のみならず、ステージをスキャナで変位させるタイプの走査型プローブ顕微鏡において共通に存在する問題である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔第1実施形態〕
以下に、図を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡の構成を説明する。なお、本明細書において、走査プローブ顕微鏡の構成を示した各図面では、その主要な特徴を説明するために構成要素の形状、寸法等を誇張したり変形したりして描いている場合があり、図面に描かれた形状は実物の形状を忠実に描いたものとは限らない。
図1は、本発明の第1実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡の構成を概略的に示した図であって、走査型プローブ顕微鏡の具体例として原子間力顕微鏡1の構成例を示している。
【0029】
原子間力顕微鏡1は、プローブとしてカンチレバーチップ110(カンチレバー112の先端に極めて微小な突起針である探針114が付与された部材)を用い、探針114と試料表面との間の相互作用によるカンチレバー112の変化(DCモード(接触モードや非接触モード)での原子間力によるカンチレバー先端部分の変位や、ACモード(タッピングモードと称される場合もある)でのカンチレバーの振動の変化など)を通じて、試料表面の起伏の様子を画像化する顕微鏡である。
【0030】
図1に示したように、原子間力顕微鏡1は、顕微鏡筐体100、カンチレバーチップ110、光センサユニット116、ステージ122、スキャナ200、コントローラ102、コンピュータ104、及びモニタ106を備える。
【0031】
カンチレバーチップ110は、上述のとおり、カンチレバー112の先端に極めて微小な探針114が付与された部材である。カンチレバーチップ110は、ACモードでの測定を実施するために、カンチレバー112を振動させるための励振用圧電体115を介して顕微鏡筐体100に固定されている。
【0032】
スキャナ200は、ステージ122を支持し、ステージ122を支持ベースとなる顕微鏡筐体100に取り付けられたプローブに対し相対的に、X方向、Y方向、及びZ方向に移動させる。スキャナ200は、顕微鏡筐体100に着脱自在に取り付けられる。スキャナ200が顕微鏡筐体100に取り付けられた状態において、ステージ122はカンチレバー112の先端にある探針114と対向する位置に配置される。ステージ122には、原子間力顕微鏡1による測定対象である試料(または試料を保持した試料台)が固定される。
【0033】
図2〜
図5は、スキャナ200の構造を、ステージ122とともに示している。
図2は、スキャナステージユニット120の構成を示す斜視図である。
図3は、スキャナステージユニット120の構成を示す平面図である。
図4は、スキャナ200の構成を示す一部拡大図である。
図5は、スキャナ200の
図4におけるA−A’での断面図である。
【0034】
スキャナ200は、広域XYスキャナ220の中に、広域XYスキャナ220よりも走査範囲が狭い狭域XYスキャナ230が入れ子となった状態で支持され、これらの広域XYスキャナ220と狭い狭域XYスキャナ230とが外枠210内に収められた構造を有する。そして、ステージ122は、Zアクチュエータ240を介して狭域XYスキャナ230により支持される。
【0035】
外枠210は、剛性の高い枠体であり、例えばインバーなどの金属で形成されている。外枠210の外形寸法は、縦横(X方向及びY方向)各50mm、例えば厚さ(Z方向)5mm程度に形成される。外枠210には顕微鏡筐体100との位置合わせのためのガイド孔212が設けられる。このガイド孔212にネジを通して顕微鏡筐体100に固定することにより、スキャナ200を顕微鏡筐体100の正しい位置に取り付けることができる。外枠210は、強度を維持するのに十分な厚みを有しつつ、内側にスキャナ200を収容するための開口を有する。
図3に示すように、外枠210は、Y−Z平面に平行な内側面214及び215と、X−Z平面に平行な内側面216とを有している。
【0036】
図3に示すように、広域XYスキャナ220は、第1内枠222、広域Yアクチュエータ224、第2内枠226、及び広域Xアクチュエータ228を備える。
第1内枠222は、コの字型の枠体であり、側壁部222a、接続部222b、及び側壁部222cを備える。側壁部222a及び側壁部222cは、X−Z平面に平行な平板部である。また、接続部222bは、Y−Z平面に平行な平板部であり、側壁部222aと側壁部222cとを連結する。第1内枠222は、側壁部222a及び側壁部222cのY方向の両端において、外枠210におけるY−Z平面に平行な内側面214及び215と、4枚の板バネ223を介して接続されている。板バネ223は板面がX−Z平面と略平行になる(換言すると、板面がY方向と略直交する)ように設けられており、この板バネ223が撓むことにより第1内枠222は外枠210に対しY方向に移動できるが、X方向及びZ方向の移動は規制される。
【0037】
第1内枠222の側壁部222cの外側面は、X−Z平面に平行となっている。側壁部222cの外側面と、外枠210におけるX−Z平面に平行な内側面216とは対向するように配置され、その間に広域Yアクチュエータ224が配置される。広域Yアクチュエータ224は、例えばピエゾ素子などの圧電素子で形成される。広域Yアクチュエータ224は、側壁部222cの外側面と外枠210の内側面216との間隙と略同一な長さのフリー長(制御信号を印加しない自然な状態での長さ)とされる。広域Yアクチュエータ224は、コントローラ102からの制御信号に応じて伸縮し、板バネ223をY方向に撓ませつつ、第1内枠222を外枠210に対しY方向に相対的に移動させる。広域Yアクチュエータ224は、最大の電圧(例えば100ボルト)を印加したときに、Y方向にマイクロメートルスケール(例えば10マイクロメートル)の変位が生じる伸び係数とするとよい。
【0038】
第2内枠226は、矩形の枠体であり、側壁部226a、側壁部226b、側壁部226c、及び側壁部226dを備える。側壁部226a及び側壁部226cは、X−Z平面に平行な平板部である。また、側壁部226b及び側壁部226dは、Y−Z平面に平行な平板部であり、それぞれ側壁部226aと側壁部226cとを連結する。
【0039】
側壁部226aは、X方向における中央付近において、側壁部222aにおけるX−Z平面に平行な内側面と、板バネ227を介して接続されている。同様に側壁部226cも、X方向における中央付近において、側壁部222cにおけるX−Z平面に平行な内側面と、板バネ227を介して接続されている。板バネ227は板面がY−Z平面と平行になる(換言すると、板面がX方向と略直交する)ように設けられており、この板バネ227が撓むことにより第2内枠226は外枠210及び第1内枠222に対しX方向に移動できるが、Y方向及びZ方向の移動は規制される。
【0040】
側壁部226dの外側面は、Y−Z平面に平行となっており、外枠210におけるY−Z平面に平行な内側面215と対向するように配置される。側壁部226bの外側面と外枠210の内側面214との間に広域Xアクチュエータ228が配置される。広域Xアクチュエータ228は、例えばピエゾ素子などの圧電素子で形成される。広域Xアクチュエータ228は、側壁部226bの外側面と外枠210の内側面214との間隙と略同一な長さのフリー長とされる。広域Xアクチュエータ228は、コントローラ102からの制御信号に応じて伸縮し、板バネ227をX方向に撓ませつつ、第2内枠226を外枠210及び第1内枠222に対しX方向に相対的に移動させる。広域Xアクチュエータ228は、最大の電圧(例えば100ボルト)を印加したときに、X方向にマイクロメートルスケール(例えば10マイクロメートル)の変位が生じる伸び係数とするとよい。
【0041】
このような構成により、広域XYスキャナ220は、外枠210の内側において、制御信号に応じた広域のXYスキャンを実現する。
【0042】
図4に示すように、狭域XYスキャナ230は、第3内枠232、狭域Yアクチュエータ234、可動土台236、可動土台カウンターパート237及び狭域Xアクチュエータ238を備える。
【0043】
第3内枠232は、略矩形の枠体であり、側壁部232a、接続部232b、側壁部232c及び接続部232dを備える。側壁部232a及び側壁部232cは、X−Z平面に平行な平板部である。また、接続部232b及び接続部232dは、Y−Z平面に平行な平板部であり、それぞれ側壁部232aと側壁部232cとを連結する。接続部232b及び接続部232dは、側壁部232a及び側壁部232cは、それぞれY方向の両端において、第2内枠226の側壁部226b及び側壁部226dにおけるY−Z平面に平行な内側面と、板バネ233を介して接続されている。板バネ233は板面がX−Z平面と略平行になる(換言すると、板面がY方向と略直交する)ように設けられており、この板バネ233が撓むことにより第3内枠232は広域XYスキャナ220に対しY方向に移動できるが、X方向及びZ方向の移動は規制される。
【0044】
側壁部232cの外側面は、X−Z平面に平行となっている。側壁部232cの外側面と、側壁部226cにおけるX−Z平面に平行な内側面とは対向するように配置され、その間に狭域Yアクチュエータ234が配置される。狭域Yアクチュエータ234は、例えばピエゾ素子などの圧電素子で形成される。狭域Yアクチュエータ234は、側壁部232cの外側面と側壁部226cの内側面との間隙と略同一な長さのフリー長(制御信号を印加しない自然な状態での長さ)とされる。狭域Yアクチュエータ234は、コントローラ102からの制御信号に応じて伸縮し、板バネ233をY方向に撓ませつつ、第3内枠232を広域XYスキャナ220に対しY方向に相対的に移動させる。狭域Yアクチュエータ234は、最大の電圧(例えば100ボルト)を印加したときに、Y方向にナノメートルスケール(例えば700ナノメートル)の変位が生じる伸び係数とするとよい。
【0045】
可動土台236は、略直方体のブロックである。可動土台236のX方向の両端部は、側壁部232a及び側壁部232cの内側面と板バネ239を介して接続されている。ここで、可動土台236は、側壁部232a及び側壁部232cにおけるX方向の一端付近に接続される。板バネ239は板面がY−Z平面と平行になる(換言すると、板面がX方向と略直交する)ように設けられており、この板バネ239が撓むことにより可動土台236は広域XYスキャナ220に対しX方向に移動できるが、Y方向及びZ方向の移動は規制される。
【0046】
可動土台236におけるX−Y平面と平行な第一面にZアクチュエータ240を介してステージ122が配置される。Zアクチュエータ240は例えばピエゾ素子などの圧電素子で形成され、印加される制御信号に応じてZ方向に伸縮する。Zアクチュエータ240には、コントローラ102により、測定モードに応じた制御信号が印加される。例えば、タッピングモードでは、カンチレバーの振動の変化が一定となるように制御する信号が加えられ、XYスキャンに伴う試料表面とカンチレバーとの距離の変換に追随して、Z方向の位置を変化させる。
【0047】
図5に示したように、可動土台236における第1面とは反対の第2面には、Zアクチュエータ240とステージ122を合わせた重量と略等しい重量のカウンターバランス242が配置される。カウンターバランス242は、狭域Xアクチュエータ238にて駆動される負荷重量のZ方向におけるバランスを取る。カウンターバランス242は、Zアクチュエータ240と同様のカウンターアクチュエータ242aと、ステージ122と同様のカウンターステージ242bとにより構成される。カウンターアクチュエータ242aには、コントローラ102により、Zアクチュエータ240に印加されるのと同じ制御信号が印加され、制御信号に応じてカウンターアクチュエータ242aはZアクチュエータ240と同様に伸縮する。このような構造及び制御により、Zアクチュエータ240の伸縮に伴って狭域Xアクチュエータ238の負荷重量の重心がZ方向に変動することを防ぐことができる。このようにして、狭域Xアクチュエータ238はZ方向におけるバランスを保ってX方向の変位を実現することができる。その結果、第3内枠232の内側に配置された可動土台236、可動土台カウンターパート237等からなる構造体の共振周波数が高まり、高速走査の実現に寄与することができる。なお、構成及び制御を簡略化すべく、カウンターバランス242をZアクチュエータ240とステージ122を合わせた重量と略等しい重りとしてもよいが、Zアクチュエータ240の伸縮による重心移動を抑制する観点では、上述のカウンターアクチュエータ242aを備える構成がより好ましい。
【0048】
図4に戻り、可動土台カウンターパート237は、略直方体のブロックである。可動土台カウンターパート237のX方向の両端部は、側壁部232a及び側壁部232cの内側面と板バネ239を介して接続されている。ここで、可動土台カウンターパート237は、側壁部232a及び側壁部232cにおけるX方向の他端(つまり可動土台236が接続されていない側の端部)付近に接続される。板バネ239は板面がY−Z平面と平行になるように設けられており、この板バネ239が撓むことにより可動土台236は広域XYスキャナ220に対しX方向に移動できるが、Y方向及びZ方向の移動は規制される。
【0049】
可動土台カウンターパート237は可動土台236と略等しい重さとされる。そして、可動土台カウンターパート237の上には、Zアクチュエータ240、カウンターバランス242、及びステージ122の合計重量に略等しい重量の重り(図示せず)が取り付けられる。
【0050】
可動土台236と可動土台カウンターパート237の間に狭域Xアクチュエータ238が配置される。狭域Xアクチュエータ238は、例えばピエゾ素子などの圧電素子で形成される。狭域Xアクチュエータ238は、可動土台236と可動土台カウンターパート237の間隙と略同一な長さのフリー長とされる。狭域Xアクチュエータ238は、コントローラ102からの制御信号に応じて伸縮し、板バネ239をX方向に撓ませつつ、可動土台236と可動土台カウンターパート237をX方向に互いに反対向きに押すことになる。上述のように、可動土台236と可動土台カウンターパート237は略等しい重量であり、可動土台236により支持ざれるZアクチュエータ240、カウンターバランス242、及びステージ122の合計重量と略等しい重量の重りが可動土台カウンターパート237に取り付けられることから、狭域Xアクチュエータ238は、バランスを保って(両側に等しい負荷を伴って)X方向へ駆動することができる。その結果、第3内枠232の内側に配置された可動土台236、可動土台カウンターパート237等からなる構造体の共振周波数が高まり、高速走査の実現に寄与することができる。狭域Xアクチュエータ238は、最大の電圧(例えば100ボルト)を印加したときに、可動土台236についてX方向にナノメートルスケール(例えば700ナノメートル)の変位が生じる伸び係数とするとよい。
【0051】
このような構成により、狭域XYスキャナ230は、広域XYスキャナ220の内側において、制御信号に応じた狭域のXYスキャンを実現する。狭域XYスキャナ230の走査範囲は広域XYスキャナ220の228による走査範囲よりも狭くなるが、狭域XYスキャナ230は走査時に駆動する重量物が軽量であること、構造が単純であることなどから広域XYスキャナ220よりも共振周波数が高く、高速の走査が可能である。また、狭域XYスキャナ230の狭域Yアクチュエータ234や狭域Xアクチュエータ238は、広域XYスキャナ220の広域Yアクチュエータ224や広域Xアクチュエータ228よりも伸び係数が小さいため、走査範囲は狭くなるものの、高い位置精度での走査が可能となる。
【0052】
外枠210、第1内枠222、板バネ223、第2内枠226、板バネ227、第3内枠232、板バネ233、可動土台236、可動土台カウンターパート237、及び板バネ239は、例えばインバーなどの金属で形成一体として成形される。外枠210の内側における広域XYスキャナ220や狭域XYスキャナ230が配置されない隙間の部分には衝撃を吸収する目的でウレタン樹脂等の緩衝材を充填するとよい。
【0053】
図1に戻り、光センサユニット116は、カンチレバー112の先端にある探針114と試料表面との相互作用に基づくカンチレバー112の変位を検出し、その変位に基づく信号を出力する。光センサユニット116は、例えば、光てこ式光学センサとして知られるセンサを備えてもよい。この光てこ式光学センサは、カンチレバー112の背面に、必要に応じてレンズ、ミラー等の光学系を介して、レーザ光を照射し、その反射光をフォトダイオードにて受光する。そして、光てこ式光学センサは、フォトダイオード上のレーザ光スポットの移動としてカンチレバー112の変位を検出する。
【0054】
スキャナ200は、コントローラ102と接続されており、カンチレバー112の変位を検出する光センサユニット116はコンピュータ104に接続されている。また、コンピュータ104にはモニタ106が接続されている。コントローラ102は、例えば、半導体レーザ駆動回路、プリアンプ回路、発振回路、AC/DC変換回路、フィードバック回路、走査制御回路、アクチュエータ駆動回路等を含んでいる。コントローラ102、コンピュータ104、及びモニタ106は、原子間力顕微鏡機構の制御駆動や信号処理を行ない、最終的に試料の凹凸情報をモニタ106上に表示し、これにより、使用者は試料の表面情報に関する知見を得ることができる。
【0055】
実際の測定においては、はじめに、狭域XYスキャナ230を狭域走査の基準位置(例えば狭域走査の中心位置)に固定した状態で、広域XYスキャナ220を用いて広域走査を行い、マイクロメートルスケールでの試料表面の観察を行う。この広域走査は比較的低速(例えば0.5秒/フレーム程度)であるが、試料の広い範囲を1つの画像内にとらえることができる。続いて、広域走査により得た画像内において、狭域走査の対象とすべき着目箇所を特定する。そして、当該着目箇所が狭域走査の基準位置となるよう広域XYスキャナ220の広域Yアクチュエータ224と広域Xアクチュエータ228に電圧を印加する。つまり、広域XYスキャナ220は、狭域走査を行う位置へのオフセットを実現する。そしてこの状態で狭域XYスキャナ230により狭域走査を行う。狭域走査は、比較的高速(例えば30ミリ秒/フレーム)であり、着目箇所の動態を可視化することができる。
【0056】
図1には、液体中での観察の様子が描かれており、スキャナステージユニット120の試料付近からカンチレバーチップ110の近傍に、水滴Wが垂らされており、試料とカンチレバーチップ110は共に水中に位置している。このように、原子間力顕微鏡1は、生きた生物試料を観察する時の必須の要件である液体中観察が可能である。なお、大気中での測定を行う場合には、この水は不要である。
【0057】
〔第2実施形態〕
広範囲の測定と高速・高精度の測定の両立に関する問題は、走査を行うX方向およびY方向だけでなく、試料の高さの方向であるZ方向においても生じ得る。本発明の第2実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡は、Z方向に関して広範囲の測定と高速・高精度の測定の両立を可能とする。
【0058】
第2実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡の概略構成は、第1実施形態と同様であるが、Z方向について広域Zアクチュエータを備える点で異なっている。
図6は、本発明の第2実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡1)の構成を模式的・概略的に示した図である。
【0059】
図6に示したように、第1実施形態と同様、カンチレバー112が顕微鏡筐体100により支持される。顕微鏡筐体100は支柱100aを有し、その支柱100aにスキャナが取り付けられる。本実施形態のスキャナ500は、広域Zアクチュエータ501、支持プレート502、XYスキャナ503、可動土台503a、及び狭域Zアクチュエータ504を備える。スキャナ500は、第1実施形態におけるスキャナ200と同様に、コントローラと接続されて駆動される。
【0060】
広域Zアクチュエータ501の一端は、支柱100aに固着される。広域Zアクチュエータ501の他端は、支持プレート502に固着される。支持プレート502は、扁平且つ高剛性の板材であり、
図6に示したように、XYスキャナ503を支持する。XYスキャナ503は、可動土台503aをX方向及びY方向に移動させる。なお、XYスキャナ503は、第1実施形態におけるスキャナ200と同様に広域XYスキャナと狭域XYスキャナとが入れ子となった構成としてもよいし、単独のXYスキャナとしてもよい。
【0061】
可動土台503aは、狭域Zアクチュエータ504を介してステージ122支持する。狭域Zアクチュエータ504は、可動土台503aとステージ122の間に配され、ステージ122をZ方向に、広域Zアクチュエータ501よりも狭い走査範囲で移動させる。
【0062】
広域Zアクチュエータ501は、例えばピエゾ素子などの圧電素子で形成される。広域Zアクチュエータ501は、XYスキャナと支持ベースである顕微鏡筐体100との間に配され、XYスキャナ503を支持ベースに対してZ方向に相対的に移動させる。広域Zアクチュエータ501は直接又は間接的に、XYスキャナ503、可動土台503a、狭域Zアクチュエータ504、及びステージ122を支持する。このような構成により、広域Zアクチュエータ501は、ステージ122を狭域Zアクチュエータ504よりも広い範囲でZ方向に移動させることになる。
【0063】
一方、狭域Zアクチュエータ504は、広域Zアクチュエータ501に支持された状態で、ステージをZ方向に移動させる。狭域Zアクチュエータ504の走査範囲は広域Zアクチュエータ501による走査範囲よりも狭いが、駆動する重量物がステージのみで軽量であることから広域Zアクチュエータ501よりも共振周波数が高く、高速の走査が可能である。また、狭域Zアクチュエータ504は、広域Zアクチュエータ501よりも伸び係数が小さいため、Z方向の分解能を高めることができる。
【0064】
実際の測定においては、はじめに、狭域Zアクチュエータ504を基準位置(例えば狭域走査の中心位置)に固定した状態で、広域Zアクチュエータ501を用いて、大きなZ方向の走査範囲で、試料の大まかな形状を概ねマイクロメートルスケールで観察する。この広域Zアクチュエータ501を用いた走査は、広域Zアクチュエータ501の周波数特性などがフィードバック制御の帯域を制限し、低速(例えば10秒/フレーム程度)となるが、広いZ方向範囲にわたり大きな構造を有する試料を(例えば細胞など)を1つの画像内にとらえることができる。
【0065】
続いて、広域走査により得た画像内において、狭域走査の対象とすべき着目箇所を特定する。この着目箇所は、Z方向の変化(つまり試料の凹凸)が比較的小さい領域(例えば細胞膜の表面分子)とされる。そして、当該着目箇所が狭域走査の基準位置となるよう広域Zアクチュエータ501に電圧を印加する。つまり、広域Zアクチュエータ501は、狭域走査を行うZ方向位置へのオフセットを実現する。また、XY方向に関しても、狭域走査の対象とすべき着目箇所にオフセットするとともに広域走査時よりも走査範囲を狭める。そしてこの状態でXYスキャナ503と狭域Zアクチュエータ504とを用いて狭域走査を行う。狭域走査は、比較的高速(例えば30ミリ秒/フレーム)であり、着目箇所をナノメートルスケールで観察することができる。また、高速走査が可能であることから、着目箇所の動態を可視化することができる。
【実施例】
【0066】
X方向に一次元的に走査を行いつつ、Y方向に走査線を順次移動させるラスター走査においては、X方向の走査が最も高速となり、全体の走査速度の律速となる。つまり、X方向の走査が画像のフレームレート、時間分解能を制限する主要な要因となる。スキャナが制御信号に従って正確に変位することができるのは、周波数特性において共振ピークが現れる周波数未満の周波数である。そこで、以下で説明する実施例1では、
図2〜
図5に示す構造のスキャナ200を製作して原子間力顕微鏡に適用し、広域XYスキャナ220と狭域XYスキャナ230のX方向走査の周波数特性(ゲイン対周波数)を従来のスキャナにおけるX方向のX方向走査の周波数特性(比較例1)と比較した。
【0067】
〔実施例1〕
図2に示した構造のスキャナ200を用いた。広域Xアクチュエータ228の伸び係数は、40nm/V(つまり0〜100ボルトを印加した最大走査範囲としては4μm)であり、狭域Xアクチュエータ238の伸び係数は、7nm/V(つまり0〜100ボルトを印加した最大走査範囲としては700nm)であった。なお、Y方向の走査範囲に関しては、広域Yアクチュエータ224の最大走査範囲は8μmであり、狭域Yアクチュエータ234の最大走査範囲は1.5μmであった。
【0068】
広域XYスキャナ220によるX走査の周波数特性を
図7に示す。図示された周波数特性において、横軸は、Xスキャナを駆動する三角波の周波数(駆動周波数)を示し、縦軸は、各駆動周波数での変位(ゲイン)を示している。広域XYスキャナ220によるX走査の周波数特性は、約3.5kHzに最初の共振ピークを持つ。この周波数に最初の共振ピークを持つ場合、広域XYスキャナ220による最大の走査範囲(X方向4μm、Y方向8μm)について縦横各100ピクセルの画像を、0.6秒/フレームで取得することができる。後に比較例を示す従来型のスキャナ400と比較して同程度の走査範囲を同程度の速度で走査することが可能である。
【0069】
また、狭域XYスキャナ230によるX走査の周波数特性を
図8に示す。狭域XYスキャナ230によるX走査の周波数特性は、約60kHzに最初の共振ピークを持つ。この周波数に最初の共振ピークを持つ場合、狭域XYスキャナ230による最大の走査範囲(X方向700nm、Y方向1.5μm)について縦横各100ピクセルの画像を、33ミリ秒/フレームで取得することができる。これはフレームレートに換算すると、約30fpsであり比較的滑らかな動画像として原子間力顕微鏡1等の測定結果を取得することができることを意味している。
【0070】
〔比較例1〕
比較例1として使用したスキャナ400の構造を
図9に示す。スキャナ400は、外枠410の内側に、Y方向に撓むことができる板バネ402を介して内枠404が支持され、内枠404の内側に、X方向に撓むことができる板バネ405を介して土台部407が支持された構造を有する。外枠410の内側面と内枠404の外側面の間には、印加する電圧に応じてY方向に伸縮するYアクチュエータ403が設けられる。また、外枠410の内側面と土台部407の外側面の間には、印加する電圧に応じてX方向に伸縮するXアクチュエータ406が設けられる。土台部407の上には印加する電圧に応じてZ方向に伸縮するZアクチュエータ408を介してステージ409が設けられる。Xアクチュエータ406の伸び係数は、70nm/V(つまり0〜100ボルトを印加した最大走査範囲としては7μm)であった。なお、Y方向の最大走査範囲は6μmであった。Xアクチュエータ406によるX走査の周波数特性を
図10に示す。従来型のスキャナ400によるX走査の周波数特性は、約7kHzに最初の共振ピークを持つ。この周波数に最初の共振ピークを持つ場合、スキャナ400による最大の走査範囲(X方向7μm、Y方向6μm)について縦横各100ピクセルの画像を、0.3秒/フレームで取得することができる。
【0071】
以上で実施例1と比較例1の周波数特性を示した通り、広域XYスキャナ220では従来型のスキャナと同程度の広域走査を同程度の速度で実現できる。一方、狭域XYスキャナ230では、ナノメートルスケールの走査範囲について、滑らかな動画像を取得できる程度の高速走査が実現できる。このように、スキャナ200によれば、広範囲の測定と高速・高精度の測定を両立することができる。応用例としては、例えば、スキャナ200を
図1に示したような液体中の測定系に適用すれば、細胞の外観イメージングと、生きた細胞中でのタンパク質分子の動態イメージングとを、シームレスに行うことが可能となる。
【0072】
〔実施例2〕
XY方向だけでなくZ方向についても、アクチュエータの周波数特性において共振ピークが現れる周波数は走査速度に影響を及ぼす。そこで、以下で説明する実施例2では、
図6に示す構造のスキャナ500を製作して原子間力顕微鏡に適用し、広域Zアクチュエータ501と狭域Zアクチュエータ504のZ方向走査の周波数特性(ゲイン対周波数)を従来のスキャナにおけるZ方向走査の周波数特性(比較例2)と比較した。
【0073】
実施例2では、
図6に示した構造のスキャナ500を用いた。広域Zアクチュエータの伸び係数は、25nm/V(つまり0〜100ボルトを印加した最大走査範囲としては2.5μm)であり、狭域Zアクチュエータ504の伸び係数は、10nm/V(つまり0〜50ボルトを印加した最大走査範囲としては500nm)であった。
【0074】
広域Zアクチュエータ501によるZ走査の周波数特性を
図11(a)に示す。図示された周波数特性において、横軸は、広域Zアクチュエータ501を駆動する三角波の周波数(駆動周波数)を示し、縦軸は、各駆動周波数での変位(ゲイン)を示している。広域Zアクチュエータ501によるZ走査の周波数特性は、約1kHzに最初の共振ピークを持つ。この共振ピークはフィードバック制御の帯域を制限する可能性があるが、縦横各100ピクセルの画像を、従来の広域走査において大きな構造を有する試料を観察する場合と同程度の10秒/フレーム程度で取得することができる。
【0075】
また、狭域Zアクチュエータ504によるZ走査の周波数特性を
図11(b)に示す。狭域Zアクチュエータ504によるZ走査の周波数特性は、約150kHzに最初の共振ピークを持つ。この周波数に最初の共振ピークを持つ場合、この共振ピークはフィードバック制御の帯域の律速とはならず、例えば33ミリ秒/フレーム程度で取得することができる。これはフレームレートに換算すると、約30fpsであり比較的滑らかな動画像として原子間力顕微鏡1等の測定結果を取得することができることを意味している。また、狭域Zアクチュエータ504は、広域Zアクチュエータ501よりも伸び係数が小さいため、Z方向の分解能を高めることができる。
【0076】
〔比較例2〕
比較例2として
図12に示したような従来型のスキャナ600を用いた。スキャナ600は、広域Zアクチュエータを有さず、伸び係数が比較的大きな単一のZアクチュエータ604を備える。Zアクチュエータ604は、XYスキャナ603により支持される。スキャナ600におけるZアクチュエータ604の伸び係数は、21nm/V(つまり0〜50ボルトを印加した最大走査範囲としては1.05μm)であった。比較例2のZアクチュエータ604によるZ走査の周波数特性を
図13に示す。従来型のスキャナ604によるZ走査の周波数特性は、約80kHzに最初の共振ピークを持つ。この周波数に最初の共振ピークを持つ場合、この共振ピークはフィードバック制御の帯域の律速とはならず、比較的高速で画像を取得することができる。しかし、Zアクチュエータの伸び係数が比較的大きいことから、Z方向の分解能は実施例2における狭域Zアクチュエータ504より劣る。
【0077】
以上で実施例2と比較例2の周波数特性を示した通り、広域Zアクチュエータを用いた走査では大きな構造を有する試料を従来と同程度の速度で測定できる。また、狭域Zアクチュエータを用いた走査では、ナノメートルスケールの走査範囲について、滑らかな動画像を取得できる程度の高速・高分解能の走査が実現できる。このように、広域Zアクチュエータと狭域Zアクチュエータを備えるスキャナによれば、広範囲の測定と高速・高精度の測定を両立することができる。
【0078】
〔実施形態の変形〕
なお、上記に本発明の各実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、スキャナを原子間力顕微鏡に適用しているが、原子間力顕微鏡以外のプローブ顕微鏡に適用することも可能であり、プローブ顕微鏡以外の顕微鏡にも、その測定原理に影響を及ぼさない限りにおいて適用可能である。
【0079】
また、上記の第1実施形態では、スキャナ200によってステージ122がX方向、Y方向、及びZ方向に移動可能な例を示したが、Z方向に関してはステージではなくプローブ側が移動するように構成してもよい。
【0080】
また、上記の第1実施形態では、スキャナ200によってステージ122がX方向、Y方向、及びZ方向に移動可能な例を示したが、スキャナ200によりプローブを移動させるように構成してもよい。
【0081】
また、上記の第1実施形態では、第1内枠222をコの字型の枠体として、広域Yアクチュエータ224が第1内枠222の欠けた部分を通って外枠210の内側面に接する構成としたが、第1内枠222を矩形の枠体とし、広域Yアクチュエータ224が外枠210に代えて第1内枠222の内側面と接するように構成してもよい。
【0082】
また、上記の第1実施形態では、可動土台236と重量が等しい可動土台カウンターパート237を第3内枠232の内側に配置し、狭域Xアクチュエータ238を可動土台236と可動土台カウンターパート237の間に配置したが、可動土台カウンターパート237を設けずに、狭域Xアクチュエータ238を第2内枠226と第3内枠232との間に配置する構成としてもよい。
【0083】
また、上記の第2実施形態においても、Z方向におけるバランスを保つためのカウンターバランスを備える構成としてもよい。例えば、
図14に示すように、広域Zアクチュエータ501を支持プレート502の一方の面に固着するとともに、XYスキャナ503を直接指示する構成とするとよい。そして、支持プレート502の他方の面には、広域Zアクチュエータ501と同じ特性を有するカウンター広域Zアクチュエータ505を設けるとよい。カウンター広域Zアクチュエータ501は、支持プレート502とは反対側の面で、XYスキャナ503、可動土台503a、狭域Zアクチュエータ504、及びステージ122(並びに試料)の総重量と重量が等しいカウンターバランス506を支持するとよい。なお、支持プレート502は顕微鏡筐体100の支柱100aに取り付けられる。このようにすれば、広域Zアクチュエータ501を用いた場合におけるZ方向におけるバランスが維持され、アンバランスに伴うXYスキャナ503の帯域低下を抑制することができる。
【0084】
以上で説明したように、本発明の各実施形態に係るスキャナによれば、高速高分解能の狭域走査と、広範囲の粗動走査とを両立することができる。
【0085】
なお、例えば
図15に例示したような、XとYのそれぞれについて広域のアクチュエータ(701、703)と狭域のアクチュエータ(702、704)を重ねた機械的直列構成のスキャナ700によっても広域走査と狭域走査を両立することは可能である。しかしながら、このような機械的直列構成では、X方向又はY方向の一方の走査(
図15の構成ではY方向の走査)について、他方の走査のための広域及び狭域のアクチュエータをステージ705とともに駆動することが必要となる。このため、一方の走査方向について狭域走査及び広域走査の駆動帯域が必ず低下することになり、高速走査を実現することができない。このため、機械的直列構成のスキャナでは、原子・分子レベルの高速撮影を実現することが困難である。
【0086】
また、特開2001−305036号公報に開示されているような円筒型のスキャナを重ねて用いる構成によっても広域走査と狭域走査を両立することは可能である。しかし、円筒型のスキャナはX方向とY方向の走査が干渉しやすいというデメリットがある。このため、円筒型のスキャナを重ねて用いる構成では、原子・分子レベルの高速撮影を実現することが困難である。
【0087】
これらのような、狭域の微動走査と、広域の粗動走査とを両立することのできる他のスキャナ構成に対し、内枠と外枠を用いた入れ子構造を採用した本発明に係るスキャナは、微動走査をX方向、Y方向ともに高速化することができ、高速高分解能の狭域走査が実現できる。さらに、狭域走査の構成を小型化すれば広域走査についても高速化することができる。また、内枠と外枠を用いた入れ子構造によりX方向とY方向の走査が干渉し難い。このため、本発明に係るスキャナによれば、原子・分子レベルの高速撮影が可能となり、原子・分子の動態を捉えることが可能となる。
【0088】
また、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。