特許第6846106号(P6846106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6846106
(24)【登録日】2021年3月3日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】DKK1発現促進剤および美白剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/97 20170101AFI20210315BHJP
   A61K 36/725 20060101ALI20210315BHJP
   A61K 36/9062 20060101ALI20210315BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20210315BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210315BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   A61K8/97
   A61K36/725
   A61K36/9062
   A61P17/00
   A61P43/00 105
   A61Q19/02
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-174214(P2015-174214)
(22)【出願日】2015年9月3日
(65)【公開番号】特開2017-48155(P2017-48155A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年8月3日
【審判番号】不服2020-2248(P2020-2248/J1)
【審判請求日】2020年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】木曽 昭典
【合議体】
【審判長】 佐々木 秀次
【審判官】 冨永 みどり
【審判官】 大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−013481(JP,A)
【文献】 特開平07−126149(JP,A)
【文献】 特開2005−029494(JP,A)
【文献】 YAMAGUCHI Yuji, et al,Mesenchymal−epithelial interactions in the skin: increased expression of dickkopf1 by palmoplantar fibroblasts inhibits melanocyte growth and differentiation,The Journal of Cell Biology,2004年 4月26日,Volume 165, Number 2,p.275−2855.YAMAGUCHI Yuji, et al,Dickkopf 1 (DKK1) regulates skin pigmentation and thickness by affecting Wnt/β−catenin signaling in keratinocytes,The FASEB Journal,2008年 4月,Vol.22,p.1009−1020
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00- 8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
月桃葉部、および/またはタイソウからの抽出物を有効成分とすることを特徴とする、真皮に対するDKK1発現促進剤。
【請求項2】
月桃葉部、および/またはタイソウからの抽出物を有効成分とすることを特徴とする、真皮に対するDKK1発現促進作用に基づく美白剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DKK1発現促進剤および美白剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Wnt(ウイント)シグナル経路は、線虫から哺乳動物まで広く保存されている細胞内シグナル経路である。Wntシグナル経路では、分泌タンパク質であるWntが、細胞膜上に存在するWnt受容体に結合することにより、シグナルが伝達される。表皮においては、Wntシグナル経路の活性化により、メラノサイトの分化・増殖およびメラニン合成を促進することが知られている。
【0003】
一方、Wntシグナル経路を阻害する因子として、WntとWnt受容体との結合を阻害する分泌タンパク質であるDKK1(Dickkopf 1)が知られている。DKK1は、皮膚においては真皮の皮膚線維芽細胞より分泌され、表皮に存在するメラノサイトの分化および増殖を抑制し、メラニンの合成を抑制することが知られている(非特許文献1参照)。また、DKK1は、表皮のケラチノサイト(表皮角化細胞)の増殖を促進し、メラノサイトからのメラニンの取り込みを抑制することも知られている(非特許文献2参照)。
【0004】
DKK1は、掌蹠(手のひら・足のうら)部位の線維芽細胞での発現が高いことが知られており、一般に肌の色は人種により大きく異なるのに対し掌蹠部位は人種を問わず白い理由は、掌蹠部位におけるDKK1発現量の高さに一因があると考えられている。
【0005】
したがって、皮膚線維芽細胞においてDKK1の発現を高めることができれば、Wntシグナル経路の活性化を阻害することで、表皮における色素沈着を抑制することができると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Cell Biol., 2004, vol.165, no.2, pp.275-285
【非特許文献2】FASEB J., 2008年, vol.22, issue 4, pp.1009-1020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全性に優れた天然物由来成分の中からDKK1発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするDKK1発現促進剤、および当該天然物由来成分のDKK1発現促進作用に基づく美白剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のDKK1発現促進剤は、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、およびビワからなる群より選択される1種または2種以上の天然物からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。また、本発明の美白剤は、DKK1発現促進作用に基づくものであり、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、およびビワからなる群より選択される1種または2種以上の天然物からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、およびビワからなる群より選択される1種または2種以上の天然物からの抽出物を有効成分として含有させることにより、作用効果に優れ、かつ安全性の高いDKK1発現促進剤および美白剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態のDKK1発現促進剤は、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、およびビワからなる群より選択される1種または2種以上の天然物からの抽出物を有効成分として含有するものである。また、本実施形態の美白剤は、DKK1発現促進作用に基づくものであり、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、およびビワからなる群より選択される1種または2種以上の天然物からの抽出物を有効成分として含有するものである。
【0011】
ここで、本実施形態における「抽出物」には、上記天然物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0012】
本実施形態のDKK1発現促進剤および美白剤において使用する抽出原料は、月桃(学名:Alpinia speciosa (Wendl.) K. Schum.)、甘草、タイソウ(生薬名)、ローヤルゼリー、およびビワ(学名:Eriobotrya japonica Lindley)である。
【0013】
月桃(Alpinia speciosa (Wendl.) K. Schum.)は、ショウガ科ハナミョウガ属に属する多年生常緑草本であり、九州南部からインドにまで分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。月桃は、沖縄ではサンニンと呼ばれ、琉球王朝以来の伝統菓子であるムーチーに利用されるほか、ハーブとしても利用されている。抽出原料として使用する部位は、葉部である。
【0014】
甘草は、マメ科グリチルリーザ(Glycyrrhiza)属に属する多年生草本である。甘草には、グリチルリーザ・グラブラ(Glychyrrhiza glabra)、グリチルリーザ・インフラータ(Glychyrrhiza inflata)、グリチルリーザ・ウラレンシス(Glychyrrhiza uralensis)、グリチルリーザ・アスペラ(Glychyrrhiza aspera)、グリチルリーザ・ユーリカルパ(Glychyrrhiza eurycarpa)、グリチルリーザ・パリディフロラ(Glychyrrhiza pallidiflora)、グリチルリーザ・ユンナネンシス(Glychyrrhiza yunnanensis)、グリチルリーザ・レピドタ(Glychyrrhiza lepidota)、グリチルリーザ・エキナタ(Glychyrrhiza echinata)、グリチルリーザ・アカンソカルパ(Glychyrrhiza acanthocarpa)等、様々な種類のものがあり、これらのうち、いずれの種類の甘草を抽出原料として使用してもよいが、特にグリチルリーザ・グラブラ(Glychyrrhiza glabra)、グリチルリーザ・ウラレンシス(Glychyrrhiza uralensis)、及びグリチルリーザ・インフラータ(Glychyrrhiza inflata)を抽出原料として使用することが好ましい。
【0015】
本実施形態において、抽出原料として使用する甘草の構成部位は、葉部である。ここで、甘草は、その根部が古代より薬用又は甘味料の原料として利用され、グリチルリチンその他の有用成分が含有されていることが知られており、一般に「甘草」といえばその根部を指す。しかし、本実施形態においては、根部を利用した後の残部に着目した結果、甘草の葉部からの抽出物がDKK1発現促進作用を有することを見出したものである。なお、根部に含まれるグリチルリチンその他の有用成分は、甘草の葉部には含有されていない。
【0016】
タイソウ(体棗,生薬名)は、クロウメモドキ(Rhamnaceae)科ナツメ(学名:Zizyphus jujuba Miller var.inermis Rehder)の成熟した果実部である。ナツメは、南ヨーロッパ、中国等の東アジアに自生する落葉小高木であり、タイソウは、これらの地域から容易に入手することができる。タイソウは、緩和、強壮、利尿等の効用を有していることが知られており、食欲不振、下痢、動悸等に用いられている。
【0017】
ローヤルゼリーは、ヨーロッパ、アフリカ等に分布しているミツバチ科ミツバチ属に属するヨーロッパミツバチ(学名:Apis melifera L.,別名:セイヨウミツバチ)又はトウヨウミツバチ(学名:Apis indeca Radoszkowski)のうちの若い働き蜂の咽頭腺からの分泌物であり、女王蜂となる幼虫や成虫となった女王蜂に給餌されるものである。
【0018】
ビワ(Eriobotrya japonica Lindley)は、バラ科ビワ属に属する常緑高木であり、中国南西部原産であり、長崎、千葉、鹿児島等で栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、幹部、枝部、花部、果実部、種子部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0019】
上記の天然物からの抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0020】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0021】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0022】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0023】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比が9:1〜1:9(容量比)であることが好ましく、8:2〜2:8(容量比)であることがさらに好ましい。また、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族ケトンとの混合比が9:1〜2:8(容量比)であることが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水と多価アルコールとの混合比が5:5〜1:9(容量比)であることが好ましい。
【0024】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0025】
以上のようにして得られる、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、またはビワからの抽出物は、優れたDKK1発現促進作用および美白作用を有しているため、DKK1発現促進剤および美白剤の有効成分として用いることができる。なお、本実施形態において、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、およびビワからの抽出物が有する美白作用は、DKK1発現促進作用に基づいて発揮されるものである。
【0026】
本実施形態のDKK1発現促進剤および美白剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等の幅広い用途に使用することができる。
【0027】
なお、本実施形態においては、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、またはビワからの抽出物のうちのいずれか一つを上記有効成分として用いてもよいし、これらの2種以上を混合して上記有効成分として用いてもよい。月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、またはビワからの抽出物を混合して上記有効成分として用いる場合、その配合比は、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、およびビワからの抽出物が有するDKK1発現促進作用の程度等により適宜調整すればよい。
【0028】
本実施形態のDKK1発現促進剤および美白剤は、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、もしくはビワからの抽出物またはこれらの混合物のみからなるものでもよいし、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、もしくはビワからの抽出物またはこれらの混合物を製剤化したものでもよい。
【0029】
本実施形態のDKK1発現促進剤および美白剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。美白剤は、他の組成物(例えば、皮膚化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0030】
本実施形態のDKK1発現促進剤および美白剤を製剤化した場合、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、もしくはビワからの抽出物またはこれらの混合物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0031】
なお、本実施形態のDKK1発現促進剤および美白剤は、必要に応じて、DKK1発現促進作用を有する他の天然抽出物等を、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、もしくはビワからの抽出物またはこれらの混合物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0032】
本実施形態のDKK1発現促進剤および美白剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態の美白剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0033】
本実施形態のDKK1発現促進剤は、有効成分である月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、またはビワからの抽出物が有するDKK1発現促進作用を通じて、皮膚線維芽細胞におけるDKK1の発現を促進し、かかるDKK1のWntシグナル経路阻害作用により、表皮におけるメラノサイトの分化および増殖を抑制し、メラニンの産生を抑制することができるとともに、ケラチノサイト(表皮角化細胞)におけるメラノサイトからのメラニン取り込みを抑制することができる。そのため、本実施形態のDKK1発現促進作用によれば、真皮の線維芽細胞においてDKK1の発現を促進することにより、表皮での色素沈着を予防、治療または改善することができる。また、前述したWntシグナル経路の異常な活性化は、大腸がんにおける発がんの一因と考えられており、大腸がん細胞ではDKK1が不活性化されていることが知られている。そのため、本実施形態のDKK1発現促進剤は、DKK1の発現を促進することにより、Wntシグナル経路の不活性化を通じた大腸がんの治療または改善の用途にも使用し得る。ただし、本実施形態のDKK1発現促進剤は、これらの用途以外にもDKK1発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0034】
本実施形態の美白剤は、有効成分である月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、またはビワからの抽出物が有するDKK1発現促進作用を通じて、真皮の線維芽細胞においてDKK1の発現を促進することにより、表皮での色素沈着を予防、治療または改善することができる。
【0035】
ここで、従来の美白剤として、メラノサイトにおけるメラニン産生抑制作用やメラノサイトの分化・増殖抑制作用に基づくもののほか、表皮角化細胞の増殖促進作用やメラニン取り込み抑制作用に基づくものなどが提案されていた。これらは、いずれも表皮を対象として作用するものであり、また紫外線の曝露に起因したメラニン等の色素沈着を抑制するものであった。これに対し、本実施形態のDKK1発現促進剤および美白剤は、真皮の線維芽細胞に作用するものであり、また、掌蹠部位のように、紫外線の曝露の有無によらずメラニンの増加を予防できる点において、従来の美白剤とは異なるものである。
【0036】
本実施形態のDKK1発現促進剤および美白剤は、優れたDKK1発現促進作用を有するため、例えば、皮膚外用剤または飲食品に配合するのに好適である。この場合に、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、もしくはビワからの抽出物またはこれらの混合物をそのまま配合してもよいし、月桃葉部、甘草葉部、タイソウ、ローヤルゼリー、もしくはビワからの抽出物またはこれらの混合物から製剤化したDKK1発現促進剤もしくは美白剤を配合してもよい。
【0037】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、美容液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0038】
また、飲食品とは、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではなく、経口的に摂取される一般食品、健康食品、機能性食品、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品、栄養機能食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。
【0039】
また、本実施形態のDKK1発現促進剤および美白剤は、優れたDKK1発現促進作用を有するので、これらの作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0040】
なお、本実施形態のDKK1発現促進剤および美白剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例】
【0041】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。なお、下記試験例においては、被験試料として、表1に示す製品の凍結乾燥品(試料1〜5)を使用した。
【0042】
【表1】
【0043】
〔試験例1〕DKK1mRNA発現促進作用試験
上記天然物抽出物(試料1〜5)について、以下のようにしてDKK1mRNA発現促進作用を試験した。
【0044】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有ダルベッコMEM(DMEM)培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×105 cells/mLの細胞密度になるよう10%FBS含有DMEM培地で希釈した後、60mmシャーレ(FALCON社製)に5mLずつ播種し(5×105 cells/シャーレ)、一晩培養した。
【0045】
培養後に培地を除去し、被験試料(試料1〜5,試料濃度は下記表2を参照)を溶解させた10%FBS含有DMEM培地を各シャーレに5mLずつ添加し、37℃・5%COにて24時間培養した。なお、コントロールとして、試料無添加の10%FBS含有DMEM培地を用いて同様に培養した。培養後、培地を除去し、ISOGEN(ニッポンジーン社製,Cat. No. 311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0046】
この総RNAを鋳型とし、DKK1および内部標準であるGAPDHについて、mRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社製)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製,code No. RR063A)によるリアルタイム2Step RT−PCR反応により行った。DKK1mRNAの発現量は、「被験試料添加」および「試料無添加」にてそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求めた。得られた値から、下記式によりDKK1mRNA発現促進率(%)を算出した。
【0047】
DKK1 mRNA発現促進率(%)=A/B×100
式中の各項はそれぞれ以下を表す。
A:被験試料添加での補正値
B:試料無添加での補正値
結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、月桃葉部抽出物(試料1)、甘草葉部抽出物(試料2)、タイソウ抽出物(試料3)、ローヤルゼリー抽出物(試料4)、およびビワ抽出物(試料5)は、いずれも優れたDKK1mRNA発現促進作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のDKK1発現促進剤および美白剤は、従来の美白剤とは異なり真皮を対象として作用するものであり、皮膚の黒化、シミ、ソバカス等の色素沈着の予防または改善に大きく貢献できる。