(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一般式(1)中、Aは2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物から選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸残基であり、Bは2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジメチルベンジジン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンから選ばれる少なくとも1種のジアミン残基であり、前記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基のいずれか一方又は両方にフッ素原子を含有している請求項2記載のポリイミド前駆体溶液の製造方法。
ポリイミド前駆体から得られるポリイミドの15μm厚における450nmでの光透過率が80%以上であり、熱膨張係数が60ppm/K未満である耐熱ポリイミドを与える請求項1〜3いずれか1項記載のポリイミド前駆体溶液の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、高耐久性、耐熱性に優れた特性を有する材料であり、電子材料用途や各種ディスプレイ用途、自動車用途等に広く使用されている。ポリイミドは、その前駆体であるポリイミド前駆体(ポリアミド酸又はポリアミック酸ともいう。)溶液を基材上に塗布し、熱処理によって乾燥・イミド化して得られる。
【0003】
ここで、ポリイミド前駆体は、一般的にその原料であるテトラカルボン酸二無水物等の酸成分とジアミン等とを溶媒中で反応することにより得られるが、その製造において使用される反応溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の非プロトン系極性溶媒が一般的に用いられている(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
上記溶媒は汎用性が高い一方、ポリイミド前駆体溶液を塗布しポリイミド膜を形成する場合に発泡が生じやすいことから、発泡を抑制する手段としてN,N,N’,N’−テトラメチルウレアを必須とし、上記DMAcやNMP等の非プロトン系極性溶媒及びジエチレングリコールアルキルエーテルなどのグリコールエーテル類から選択される溶媒との混合溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させてポリアミド酸を得る方法が特許文献4に開示されている。
【0005】
しかし、DMAcやNMPでポリイミド前駆体を反応させようとする場合、反応に長時間を要するため生産効率が劣るという面がある。また、DMAcは発がん性が疑われ、NMPは生殖毒性が疑われるため人体に悪影響を及ぼす可能性があることも懸念され、これらの反応溶媒に代えて生産効率が良く、安全上の問題が少ない他の溶剤でのポリイミド前駆体やポリイミドの製造が望まれている。
【0006】
ポリイミドの中には、高い耐熱性、寸法安定性に加え無色かつ透明な特性を与えるものがあり、その特徴を生かしてこれをディスプレイやタッチパネル用途に適用する試みが行われている。しかし、ポリイミド前駆体溶液をディスプレイやタッチパネル用途に適用してポリイミド膜を形成する場合に、どのような性状のポリイミド前駆体溶液を用いるかによってポリイミド膜の形成のしやすさや形成されるポリイミド膜の特性、特に外観や光透過性に影響を与えることから、このような用途に適したポリイミド前駆体溶液の提供が望まれていた。なお、広く知られているポリイミドの多くはフィルム化した場合、黄色がかったものとなるが、それと異なりほぼ着色していないもの、例えばYIが20以下のものを本明細書においては無色透明と表現する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、人体に安全な溶媒を使用しポリイミド前駆体の原料を容易に溶解することによりポリイミド前駆体溶液を製造することができ、製造工程における作業環境の改善、製造設備の簡素化が可能になり、かつ、無色透明なポリイミド前駆体溶液を長時間加熱することなく室温で短時間に製造することを可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、ポリイミド前駆体と溶媒とからなるポリイミド前駆体溶液において、前記ポリイミド前駆体は、フッ素含有ポリイミド前駆体であり、前記溶媒は、N元素を有さず、脂環式ラクトン構造又は脂環式ケトン構造を含む分子からなる溶媒を含有する溶媒を用いることで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリイミド前駆体と溶媒とからなるポリイミド前駆体溶液であって、前記ポリイミド前駆体は、その構造中にフッ素原子を含有するフッ素含有ポリイミド前駆体であり、前記溶媒は、N元素を有さず、脂環式ラクトン構造又は脂環式ケトン構造を含む分子からなる溶媒を含有し、前記ポリイミド前駆体溶液の25℃における粘度が500〜350,000cPの範囲であるとともに、固形分濃度15wt%のポリイミド前駆体溶液を10mm厚の石英セルで測定したYI値が20以下であることを特徴とするポリイミド前駆体溶液である。
【0011】
また、本発明は、ポリイミド前駆体と溶媒とからなるポリイミド前駆体溶液であって、前記ポリイミド前駆体は、下記一般式(1)で表される構造を有し、
【化1】
(一般式(1)中、Aはテトラカルボン酸残基を表し、Bはジアミン残基を表すが、Aのテトラカルボン酸残基及びBのジアミン残基のいずれか一方又は両方にフッ素原子を含有している。)
前記溶媒は、N元素を有さず、脂環式ラクトン構造又は脂環式ケトン構造を含む分子からなる溶媒を含有する、上記ポリイミド前駆体溶液である。
【0012】
また、本発明は、酸成分とジアミン及び/又はジイソシアネートとを溶媒中で反応して得られるポリイミド前駆体溶液の製造方法であって、
前記酸成分及びジアミン及び/又はジイソシアネートの少なくとも一成分にフッ素原子を有するモノマーを用い、
前記溶媒に、N元素を有さず、脂環式ラクトン構造又は脂環式ケトン構造を含む分子からなる溶媒を用いることで、
ポリイミド前駆体溶液の25℃における粘度を500〜350,000cPの範囲とし、固形分濃度15wt%でのポリイミド前駆体溶液を10mm厚の石英セルで測定したYI値を20以下とすることを特徴とするポリイミド前駆体溶液の製造方法である。
【0013】
更に、本発明は上記ポリイミド前駆体溶液又は上記ポリイミド前駆体溶液の製造方法によって得られたポリイミド前駆体溶液を基材上に塗布し、イミド化するポリイミドフィルムの製造方法である。
【0014】
また、本発明は、表面粗さRaが0.3〜30nmの支持基材上に、上記ポリイミド前駆体樹脂溶液を塗布、イミド化するポリイミド層が積層された積層体の製造方法でもある。
【0015】
本発明は、上記積層体の製造方法により支持基材とポリイミド層とからなる積層体とした後、ポリイミド層上に更に機能層を付与し、支持基材とポリイミド層との界面で分離することで機能層付ポリイミドフィルムを製造する方法も包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、人体に有害であり、発がん性や生殖毒性が疑われるDMAcやNMPを使うことなく、有害性の少ない作業環境下で、テトラカルボン酸二無水物等とジアミン又はジイソシアネートを容易に溶解してポリイミド前駆体溶液を製造することができ、かつ、そのポリイミド前駆体溶液を加熱することなく室温で短時間に製造することができる。
また、その結果、本発明によれば、ポリイミド前駆体溶液の製造において長時間の加熱を伴わないため、製造工程の管理が容易になり、不純物の混入による着色等や温度変化による変形等の影響を受ける可能性が低減し、無色透明なポリイミドフィルム及びポリイミド積層体製造における歩留まり向上及び品質の安定性向上が容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体と溶媒とからなる。
前記ポリイミド前駆体は、イミド結合を有する高分子の前駆体であり、その構造中にフッ素原子を含有するフッ素含有ポリイミド前駆体であればよい。
前記ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸残基及び/又はトリカルボン酸残基と、ジアミン残基及び/又はジイソシアネート残基とを有し、前駆体を構成する構造単位中に水素原子が置換されたフッ素原子とを有するフッ素含有ポリイミド前駆体が挙げられる。
前記溶媒は、N元素を有さず、脂環式ラクトン構造又は脂環式ケトン構造を含む分子からなる溶媒を含有する。
前記ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸及び/又はトリカルボン酸と、ジアミンとが脱水縮合した構造を有し、前記テトラカルボン酸残基及び/又は前記トリカルボン酸残基、並びに、前記ジアミン残基のいずれか又は全てにフッ素原子を含有するものであってもよい。
本発明のポリイミド前駆体溶液は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるものであり、そのいずれか一方又は両方に含フッ素化合物が含まれる。
【0018】
本発明におけるポリイミド前駆体は、反応後にポリイミド構造を有する分子構造を与えるものであり、前記分子構造は、イミド結合だけでなく、アミド結合を有するものであっても良い。
本発明において、ポリイミドは、ポリアミドイミドをも含む。 本発明におけるトリカルボン酸は、例えばトリメリット酸等の、ジアミンと反応してイミド結合及びアミド結合を容易に生じるものが好ましい。
本発明におけるポリイミド前駆体を更に具体的に述べると、例えば、ポリイミド前駆体は下記一般式(1)で表される。
【化2】
本発明における好ましいポリイミド前駆体は、一般式(1)中、Aはテトラカルボン酸残基であり、Bはジアミン残基であり、そのいずれか一方又は両方は含フッ素原子を有するものである。
一般式(1)の構造を有する化合物は、ポリアミド酸(ポリアミック酸)という。
【0019】
また、一般式(1)中、Aは、テトラカルボン酸残基であればよく、公知の芳香族テトラカルボン酸二無水物であるピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などから得られる芳香族テトラカルボン酸二無水物残基やシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンなどから得られる脂環式テトラカルボン酸二無水物残基から構成されるテトラカルボン酸残基が例示できるが、Bのジアミン残基がフッ素を含有しない場合には、下記式(2)−i〜(2)−vで表されるフッ素原子を含有するテトラカルボン酸残基が好適である。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0020】
フッ素原子を含有するテトラカルボン酸を用いる場合には、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物が好ましく用いられる。
【0021】
一般式(1)中、Bは、ジアミン残基であればよく、p−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルや2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等の公知の芳香族ジアミンやその他公知の脂肪族ジアミンなどから構成されるジアミン残基が例示できるが、Aのテトラカルボン酸残基がフッ素を含有しない場合には、下記式(3)で表されるフッ素原子を含有するジアミン残基が好適である。
【化8】
式中、nは、0又は1であり、X
1〜X
4は、それぞれ独立して、H、F、炭素数1〜5までのアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1〜5までのフッ素置換炭化水素基、Y
1〜Y
4は、n=1の場合に、それぞれ独立してH、F、炭素数1〜5までのアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1〜5までのフッ素置換炭化水素基であるが、X
1〜X
4、Y
1〜Y
4のいずれか1つはF又はフッ素置換炭化水素基である。
【0022】
フッ素原子を含有するジアミンを用いる場合には、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンが好ましく用いられる。
【0023】
上記の通り、本発明ではテトラカルボン酸二無水物及びジアミンのいずれか一方又は両方に含フッ素化合物用いるが、そのことにより透明性が優れるポリイミド前駆体溶液とポリイミドフィルムを得ることが出来る。
【0024】
本発明のポリイミド前駆体溶液における溶媒は、分子構造中に脂環式ラクトン構造又は脂環式ケトン構造を含む分子構造を有し、N元素を含まないものである。具体的にはγ―ブチロラクトン(沸点:204℃)、シクロヘキサノン(沸点:155.6℃)、シクロペンタノン(沸点:130℃)、δ-バレロラクトン(沸点:230℃)等が挙げられ、これらを1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。好ましくは、脂環式ラクトン構造を含む分子構造である、γ―ブチロラクトン、δ-バレロラクトンであり、これらの溶媒の中でも、γ―ブチロラクトンが特に好ましい。
【0025】
溶媒は、その沸点が100〜240℃の範囲にあるものが好ましい。沸点が100℃に満たないと窒素気流下での反応中に溶媒が揮発してしまうため均一な反応が妨げられるおそれがあり、240℃を超えると熱処理してポリイミドフィルム化する際に溶媒がフィルムに残存するためフィルム物性に影響を与えるおそれがある。
【0026】
本発明のポリイミド前駆体溶液の25℃における粘度は、500〜350,000cPの範囲であることが必要であり、1500〜100,000の範囲が好ましく、2000〜50,000の範囲がより好ましい。ポリイミド前駆体溶液の粘度が500cPに満たないと均一な膜厚に製膜することが困難で、350,000cPを超えるとアプリケーター等での流延が困難なためこちらも均一な膜厚に製膜が困難となる等、ポリイミド前駆体溶液の加工性が損なわれる。
【0027】
一般的なポリイミドはフィルム状に製膜した場合、黄色を帯びた性状を示すが、本発明のその構造中にフッ素原子を含有するポリイミド前駆体の溶液は、無色かつ透明なポリイミド膜を与える。その前駆体溶液での性状について言及すると、固形分濃度15wt%のポリイミド前駆体溶液を10mm厚の石英セルで測定したYI値が20以下であることを特徴とする。
【0028】
次に、本発明のポリイミド前駆体溶液の製造方法について詳述する。
本発明は、酸成分とジアミン及び/又はジイソシアネートとを溶媒中で反応して得られるポリイミド前駆体溶液の製造方法であって、
前記酸成分及びジアミン及び/又はジイソシアネートの少なくとも一成分にフッ素原子を有するモノマーを用い、
本発明のポリイミド前駆体溶液は、先ず、ジアミン又はジイソシアネートを溶媒に溶解させた後、その溶液にテトラカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はこれらの無水物を加え、ポリイミド前駆体を製造する。この場合において、モノマーの溶媒への溶解順序は逆であってもよい。溶媒としては、上記した分子構造中に脂環構造及びケトン基の両方の構造を有する有機溶媒の1種若しくは2種以上を用いることができ、それを用いることによりジアミン又はジイソシアネート及びテトラカルボン酸二無水物モノマーを容易に溶解することができる。
本発明のポリイミド前駆体溶液の製造方法に用いる酸成分は、公知のものを用いることができるが、アミンと反応してイミド結合を生じ得るテトラカルボン酸若しくはトリカルボン酸又はこれらの無水物が好ましい。
【0029】
なお、本発明の効果を阻害しない範囲で上記分子構造中に脂環構造及びケトン基の両方の構造を有する有機溶媒と合わせてジアミン又はジイソシアネート及びテトラカルボン酸二無水物等の上記モノマーを容易に溶解することができる汎用の有機溶媒を併用することもできる。具体的には、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、n-メチルピロリジノン、2−ブタノン、ジグライム、キシレン、トリエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。但し、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、n-メチルピロリジノン等のN元素を含有する場合であっても、その割合は全溶剤中30wt%以下とすることが好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0030】
ポリイミド前駆体溶液の製造は、原料モノマーにテトラカルボン酸二無水物とジアミン又はジイソシアネートのいずれか一方にフッ素原子を有するモノマーを用い、N元素を有さず、脂環式ラクトン構造又は脂環式ケトン構造を含む分子からなる溶媒を含有する溶媒を用いる以外限定されるものではない。本発明で規定する溶媒を用いれば、原料モノマーへの溶解並びにポリイミド前駆体とするための反応も室温で十分進行させることができ、特に反応にあっては、比較的短時間で終了させることができるのでポリイミド前駆体溶液の生産効率にも優れる。
さらに、本発明で規定する溶媒を用いれば、得られるポリイミド前駆体の黄色度が低い、即ち着色が少ない。さらにまた、当該ポリイミド前駆体溶液をイミド化すると、黄色度が低く着色が少ないポリイミドフィルムを得ることができる。
【0031】
本発明のポリイミド前駆体溶液の製造方法では、ポリイミド前駆体溶液の25℃における粘度が500〜350,000cPの範囲であるとともに、固形分濃度15wt%のポリイミド前駆体溶液を10mm厚の石英セルで測定したYI値が20以下、より好ましくは10以下とすることが必要であるが、これら粘度や前駆体状態での光学特性は上記反応条件を適宜コントロールすることで制御し得る。反応温度は、室温(25℃)±20℃の範囲が好ましく、10〜30℃の範囲がより好ましい。また、反応時間は1〜10時間の範囲が好ましい。反応時間は短時間である方が生産効率の点からは望ましいので8時間以内とすることが望ましいが、分子量(粘度)制御のしやすさの観点から2〜8時間の範囲が更に好ましい。反応温度や時間が上記範囲から外れると良好な生産効率のもとで、ポリイミド前駆体溶液の特性を上記所望の範囲にコントロールすることが困難となる恐れがある。
【0032】
本発明のポリイミドフィルムは、特に限定されるものではないが、例えば、ポリイミドフィルムの原料であるポリイミド前駆体溶液を、アプリケーターを用いて任意の支持基材上に流延塗布し、支持基材上で加熱乾燥することにより自己支持性を有するゲルフィルムとした後、更に高温で熱処理してイミド化させてポリイミドフィルムとする方法が一般的である。
【0033】
支持基材としては、イミド化するときの熱処理温度に耐えることができれば材質は特に限定されないが、無機材料や金属、耐熱有機フィルム等が挙げられる。具体的には、ガラスや樹脂フィルム、銅箔等の金属箔を用いることができる。支持基材にガラスや樹脂フィルムを使用した場合には、イミド化後に支持基材上に形成されたポリイミドフィルムを剥離することでフィルム性状のポリイミドフィルムを得ることができ、支持基材に金属箔を使用した場合には、金属箔をエッチング等により除去する方法が例示される。支持基材との剥離性やポリイミドフィルムの透明性の観点から、基材の表面粗さRaは0.3〜30nmの範囲のものを用いることが好ましい。
【0034】
流延の方法は、特に限定されず、所定の厚み精度が得られるのであれば、公知の方法、例えば、スピンコーター、スプレーコーター、バーコーターや、スリット状ノズルから押し出す方法が適用できる。また、樹脂溶液の塗布面となる基体や基材の表面に対して適宜表面処理を施した後に、塗布を行ってもよい。
【0035】
基材上にポリイミド前駆体を塗布した後の乾燥条件は150℃以下で2〜30分、また、イミド化のための熱処理は130〜360℃程度の温度で0.5〜60分程度行うことが適当である。この熱処理における昇温時の最高加熱温度(最高到達温度)より20℃低い温度から最高到達温度までの高温加熱温度域での加熱時間(以下、高温保持時間という。)を60分以内とすることが好ましい。この高温保持時間が60分を超えると、工程の生産効率が悪くなることと、着色等によってポリイミドフィルムの透明性が低下する可能性がある。透明性を維持するためには高温保持時間は短い方が良いが、時間が短すぎると熱処理の効果が十分に得られない可能性がある。最適な高温保持時間は、加熱方式、基材の熱容量、ポリイミドフィルムの厚み等によって異なるが、0.5〜60分とすることが好ましく、2〜50分の範囲が特に好ましい。
【0036】
上記熱処理によるイミド化によって、支持基材上にポリイミド層が形成された積層体を得ることができる。
【0037】
また、上記熱処理によって得られるポリイミドフィルムは、熱重量分析における1%熱分解温度Td1が500℃以上、15μmの膜厚における450nmでの光透過率が80%以上で、かつ、熱膨張係数が60ppm/K未満ある。熱重量分析における1%熱分解温度Td1が500℃に満たないと、耐熱性が要求される用途での使用が制限され好ましくなく、光透過率が80%未満である場合は、表示素子として有機EL素子を用いた場合、有機ELの発光層から出る光(波長が主に380nmから780nmである。)がポリイミドフィルムを十分透過しない。上記特性を充足することで、例えば、ボトムエミッション構造のEL表示装置に好適に用いることができる。
【0038】
本発明のポリイミドフィルムは、上記特性に加え、更にガラス転移温度が330℃以上でとすることができる。ガラス転移温度が上記温度未満であると、表示素子の搭載時の熱により、ポリイミドフィルムが変形する恐れがある。
【0039】
ポリイミドフィルムの膜厚は、制限されないが5〜30μmの範囲が好ましく、10〜20μmの範囲がより好ましい。
【0040】
本発明において、上記支持基材上にポリイミド層が形成された積層体は、支持基材とポリイミドフィルムとを容易に分離(剥離)することができる。
【0041】
このような積層体とするには、上記で例示したポリイミド前駆体溶液を用い、適当な支持基材上の流涎塗布することによって得られる。分離(剥離)のしやすさは、例えば人の手で容易に剥離することができる程度であり、これを剥離強度で表すと、ポリイミド層と支持基材との界面における接着強度が0.1〜20N/mの範囲である。剥離強度の範囲は限定されるものではないが、積層体をロール・ツー・ロール方式で搬送する際のポリイミド層と支持基材の界面での剥離を防止するためには、0.1N/m以上とすることがよい。一方、剥離を容易とするためには、20N/m以下にすることがよい。
【0042】
本発明の積層体は、そのポリイミド層上に更に機能層を設けることができる。支持基材とポリイミド層とが積層された積層体上に機能層を設けるようにすれば、薄いポリイミド層であっても、機能層の形成が容易となり、機能層を設けた後に、支持基材とポリイミド層との界面で分離することで機能層付ポリイミドフィルムを製造することができる。この方法は、ポリイミドフィルムの厚みが20μm以下の薄い機能層付ポリイミドフィルムを製造する場合に特に有利である。
【0043】
ここで、機能層とは、液晶表示装置や有機EL表示装置、電子ペーパー、タッチパネル等の表示装置、照明装置、検出装置、又はその構成部品を構成する層や各種機能性材料層を構成するものであって、具体的には、電極層、発光層、ガスバリア層、接着層、粘着層、薄膜トランジスタ、配線層、透明導電層等の1種又は2種以上を組み合わせたようなものを意味する。
機能層を設けたポリイミドフィルムは、有機EL照明装置で用いたり、ITO等が積層された導電性フィルム、水分や酸素等の浸透を防止するガスバリアフィルム、フレキシブル回路基板の構成部品、タッチパネル、蒸着マスク、ファンアウトウェハーレベルパッケージ(FOWLP)用基板などの各種機能を有した機能性材料として用いられる。好適には、フレキシブルデバイスとして用いられる。
【0044】
機能層を設けたポリイミドフィルムをフレキシブルデバイスというが、これは人手で曲げられる程度の屈曲性を有する電子機器用素子または電子機器用部材である。フレキシブルデバイスが電子機器に搭載される形態は、曲率が使用時に変化する屈曲用途でもよく、曲率が変化しない固定曲面でもよく、また平面でもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明するが、本発明は、こらら実施例の内容に限定されるものではない。
【0046】
先ず、ポリイミド(前駆体)を合成する際のモノマーや溶媒の略語、及び、実施例中の各種物性の測定方法等を以下に示す。
【0047】
TFMB:2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル
DAPE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
m−TB:2,2’−ジメチルベンジジン
HF−BAPP:2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン
TPE−R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
6FDA:2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
CBDA:シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物
GBL:γ−ブチロラクトン
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0048】
<粘度、分子量>
粘度は、恒温水槽付のコーンプレート式粘度計(トキメック社製)にて、25℃で測定した。また、GPCにより測定した重量平均分子量(Mw)を表に示した。
【0049】
<光透過率、黄色度:YI>
光透過率は、分光光度計(島津製作所製UV−3600 Plus)にて、300〜800nm各波長の透過率を測定した。
また、YI値は同装置で測定したX,Y,Z値からYI=100(1.28X−1.06Z)/Yの式から算出した。
溶液の黄色度は10mm角のガラスセルに溶液を入れ、同様にYI値を測定、算出した。
【0050】
<熱膨張係数:CTE>
3mm×15mmのサイズのポリイミドフィルムを、熱機械分析(TMA)装置にて5. 0gの荷重を加えながら一定の昇温速度(10℃/min)で30℃から280℃の温度範囲で昇温・降温させて引張り試験を行い、250℃から100℃への温度変化に対するポリイミドフィルムの伸び量の変化から熱膨張係数(ppm/K)を測定した。
【0051】
<ITO製膜性>
作製したポリイミドフィルムに、ITO(インジウム酸化錫)をスパッタリングで100nmの厚みで製膜した。
○:ITO電極の密着性が良く、導電膜が均一に形成される。
【0052】
<剥離性>
ポリイミドフィルム単独及び機能層を設けたポリイミドフィルムの厚み0.7mmのガラスからの剥離可否を示す。
○:支持基材からポリイミドフィルム単独及び機能層を設けたポリイミドフィルムが破れることなく剥離することができる。
【0053】
[実施例1]
(ポリイミド前駆体溶液A)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコにTFMB8.4914gを溶媒70gのγ―ブチロラクトンに溶解させた。次いで、この溶液に6FDA1.4680gを加え撹拌し、続けてPMDA5.0406gを加え、固形分が15wt%になるように15gのγ―ブチロラクトンを加えて、室温で5時間攪拌して重合反応を行った。反応後、粘稠な透明のポリイミド前駆体溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体溶液の特性を表1に示す。
【0054】
上記で得られたポリイミド前駆体溶液Aを厚み0.7mm、表面粗さRa=1.4nmのガラス基板上にアプリケーターを用いて熱処理後の膜厚が10〜15μmとなるように塗布し、30分をかけて90℃から360℃まで昇温させ、ポリイミドフィルムAを得た。
得られたポリイミドフィルムAについて、各種評価を行った結果を表3に示す。
【0055】
[実施例2〜7,比較例1〜7]
ポリイミド原料のジアミン、テトラカルボン酸二無水物の原料並びに重合条件(溶媒、重合時間)を表1に示すものに変更した以外は実施例1と同様に重合反応を行い、ポリイミド前駆体溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体溶液の特性を表1及び表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
なお、各実施例で得られたポリイミド前駆体溶液の外観を目視判定したところ、実施例1〜7、比較例1、比較例5及び6で得られたポリイミド前駆体溶液の外観は無色から淡黄色透明であったが、比較例2で得られたポリイミド前駆体溶液の外観については、透明性は示したものの黄色に着色していた。
また、フッ素を含有しない酸成分及びジアミンを使用した比較例3及び比較例4においては、使用した溶媒ではモノマーが溶解しきれず重合が十分進行しなかった。また、比較例7においては、使用した溶媒では粘度、分子量が上がらず重合が十分進行しなかった。
【0059】
(ポリイミドフィルムの評価)
各ポリイミド前駆体溶液を用いて実施例1と同様にポリイミドフィルムを製膜し、得られたポリイミドフィルムについて、各種評価を行った結果を表3及び表4に示す(実施例F1〜F7及び比較例F1〜F2及びF5〜F6)。なお、比較例3、4及び7に対応するポリイミド前駆体J、K及びLからはポリイミドフィルムを成膜することはできなかった。
また、実施例F1のポリイミドフィルムについて1%熱重量減少温度(Td1%)を確認したところ、519℃であった。
1%熱重量減少温度(Td1%)は、窒素雰囲気下で5〜10mgの重さのポリイミドフィルムを、SEIKO製の熱重量分析(TG)装置TG/DTA6200にて一定の昇温速度(10℃/min)で30℃から550℃まで昇温させたときの重量変化を測定し、200℃の重量を基準(0%)として重量減少率が1%の時の温度を1%熱重量減少温度(Td1%)とした。
比較例F1のポリイミドフィルムは、製膜することは可能であったものの、ポリイミド前駆体溶液Dの樹脂粘度が実施例の前駆体溶液に比べ極めて高く、加工性が悪かった。
【0060】
【表3】
【表4】