特許第6846697号(P6846697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人東京理科大学の特許一覧 ▶ 三和テッキ株式会社の特許一覧 ▶ 帝人株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000002
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000003
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000004
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000005
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000006
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000007
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000008
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000009
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000010
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000011
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000012
  • 特許6846697-締結治具、及び補強装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6846697
(24)【登録日】2021年3月4日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】締結治具、及び補強装置
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20210315BHJP
【FI】
   E04B1/58 F
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-723(P2017-723)
(22)【出願日】2017年1月5日
(65)【公開番号】特開2018-109326(P2018-109326A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2019年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(74)【代理人】
【識別番号】100149892
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 弥生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 治
(72)【発明者】
【氏名】塚野 香
(72)【発明者】
【氏名】前田 英朗
【審査官】 湊 和也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−011163(JP,A)
【文献】 特開平01−036843(JP,A)
【文献】 特開昭61−257562(JP,A)
【文献】 特開平08−199734(JP,A)
【文献】 特開2004−250918(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3170442(JP,U)
【文献】 米国特許第05904438(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/18、24、26、34、58
E04C 5/00−5/20
E04H 9/02
F16B 7/00−7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の繊維から成る複数本のストランドを非捻転状態で束ねた組紐構造を有する合成繊維ロープの端部に対して締結する合成繊維ロープの締結治具であって、
第一の端部から第二の端部に向けて内径が漸増するテーパー状の内部空所を有し、前記第一の端部側の開口から前記合成繊維ロープの一端を受け容れるスリーブとしてのロープ保持部材と、
前記ロープ保持部材の第二の端部側の開口から差し込まれることにより、該ロープ保持部材内に保持された前記合成繊維ロープの一端面から前記ストランドの前記組紐構造が維持された状態でその中心部に差し込まれる楔部材と、
を備え
前記合成繊維ロープの一端部は、前記ロープ保持部材の前記テーパー状の内面と前記楔部材の外面との間で挟圧保持されることを特徴とする合成繊維ロープの締結治具。
【請求項2】
複数本の繊維から成る複数本のストランドを非捻転状態で束ねた合成繊維ロープの端部に対して締結する合成繊維ロープの締結治具であって、
常時において拡径状態にあり、外力により弾性的に縮径可能な第一の端部と、内径が固定された第二の端部とを備え、前記第一の端部側の開口から前記合成繊維ロープの一端を受け容れるスリーブとしてのロープ保持部材と、
前記ロープ保持部材の第二の端部側の開口から差し込まれることにより、該ロープ保持部材内に保持された前記合成繊維ロープの一端面からその中心部に差し込まれる楔部材と、
内部において前記楔部材を相対回転可能に支持すると共に、前記ロープ保持部材の第二の端部側の外面に装着されて前記第一の端部側を加圧して縮径させる加圧部材と、
を備えたことを特徴とする合成繊維ロープの締結治具。
【請求項3】
複数本の繊維から成る複数本のストランドを非捻転状態で束ねた組紐構造を有する合成繊維ロープの端部に対して締結する合成繊維ロープの締結治具であって、
前記合成繊維ロープの一端面から前記ストランドの前記組紐構造が維持された状態でその中心部に差し込まれる楔部材と、
第一の端部に設けた開口から延びるテーパー状の内部空所内に前記楔部材を収容した前記合成繊維ロープの一端部を受け容れるロープ保持部材と、を備え、
前記ロープ保持部材は、前記内部空所を含めて軸方向に沿って分割された複数の分割片から構成されており、
前記合成繊維ロープの一端部は、前記ロープ保持部材の前記テーパー状の内面と前記楔部材の外面との間で挟圧保持されることを特徴とする合成繊維ロープの締結治具。
【請求項4】
前記内部空所は、前記ロープ保持部材の第二の端部側が閉止した有底の空所であり、
前記ロープ保持部材の前記第二の端部側には、構造物に対して直接又は間接的に接続する被接続部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の合成繊維ロープの締結治具。
【請求項5】
複数本の繊維から成る複数本のストランドを非捻転状態で束ねた合成繊維ロープの端部に対して締結する合成繊維ロープの締結治具であって、
前記合成繊維ロープの一端面からその中心部に差し込まれる楔部材と、
第一の端部に設けた開口から延びるテーパー状の内部空所内に前記楔部材を収容した前記合成繊維ロープの一端部を受け容れるロープ保持部材と、を備え、
前記ロープ保持部材は、前記内部空所を含めて軸方向に沿って分割された複数の分割片から構成されており、
前記ロープ保持部材の第二の端部に設けた第二の開口により外部空間と連通すると共に、構造物に対して直接又は間接的に接続する接続部材の一部を保持する接続部材保持部を備え、該接続部材保持部の内径は第二の開口の内径よりも大径であることを特徴とする合成繊維ロープの締結治具。
【請求項6】
構造物のフレーム内に対角線状に配置されることにより前記構造物を補強する構造物の補強装置であって、
複数本の繊維から成る複数本のストランドを非捻転状態で束ねた合成繊維ロープと、
該合成繊維ロープの軸方向の各端部に締結された請求項1乃至5の何れか一項に記載の締結治具と、
前記各締結治具の第二の端部側を前記フレームに対して夫々接続する接続部材と、
前記フレームに接続された前記合成繊維ロープの張力を調整する張力調整部材と、を備えたことを特徴とする構造物の補強装置。
【請求項7】
前記フレームに取り付けられるガセットを備え、該ガセットは前記合成繊維ロープをその長手方向と交差する軸線を中心として自在に回動するように支持する
ことを特徴とする請求項6に記載の構造物の補強装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物等を補強するブレース材(筋交い材)等として合成繊維ロープを用いる場合に、合成繊維ロープと建築物等を接合するために好適に使用される治具、及びこの治具を用いた建築物の補強装置に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物や軽量鉄骨造の建築物を補強するために、建築物の柱間や梁間に対角線状にブレース材を設置することが一般的に行われている。ブレース材を設置することによって、建築物の水平方向の揺れに対する強度を向上させることができる。ブレース材には木製や金属製等、湾曲や屈曲しない硬質の材料を用いることが多いが、近年では、自在に湾曲や屈曲させることが可能な材料も用いられている。特許文献1にはブレース材として自在に湾曲や屈曲が可能な炭素繊維やアラミド繊維等の強化繊維を用いることが記載されている。特許文献1においては、構造物と接合するための接合部品に対してブレース材を2つ折り状に曲げた状態で一体化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−301524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、強化繊維の非常に細い糸束を数十〜数百単位で束ね、接着剤を付着させてロープ状に成形し、更にその表面にコーティングを施してブレース材の本体を作成している。このため、ブレース材の本体の製造工程が煩雑であり、高コスト化するという問題がある。また、炭素繊維やアラミド繊維は軽量且つ高強度であるが、繊維自体はせん断力に弱いという特徴がある。仮に、上記接着剤やコーティングをせずに強化繊維をブレース材として使用した場合には、接合部品との間にせん断力が加わって強化繊維が切断する虞がある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、合成繊維ロープを建築物の補強装置として使用する場合に、合成繊維ロープと建築物等を締結する新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数本の繊維から成る複数本のストランドを非捻転状態で束ねた組紐構造を有する合成繊維ロープの端部に対して締結する合成繊維ロープの締結治具であって、第一の端部から第二の端部に向けて内径が漸増するテーパー状の内部空所を有し、前記第一の端部側の開口から前記合成繊維ロープの一端を受け容れるスリーブとしてのロープ保持部材と、前記ロープ保持部材の第二の端部側の開口から差し込まれることにより、該ロープ保持部材内に保持された前記合成繊維ロープの一端面から前記ストランドの前記組紐構造が維持された状態でその中心部に差し込まれる楔部材と、を備え、前記合成繊維ロープの一端部は、前記ロープ保持部材の前記テーパー状の内面と前記楔部材の外面との間で挟圧保持されることを特徴とする。

【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、合成繊維ロープを構成する繊維、及びストランドが楔部材の中心軸方向(合成繊維ロープに作用する張力の方向)に沿った方向へ延びるように両部材を締結し、合成繊維ロープにせん断力が極力作用しないようにした新規な締結方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係るロープブレースの使用状態を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るガセットの斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係る合成繊維ロープを示す平面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る締結治具を示す図であり、(a)は、締結治具に対してアイ金具を接続した状態を示す平面図であり、(b)は締結治具に対してターンバックルを接続した状態を示す平面図である。
図5】(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係る合成繊維ロープと楔部材との関係を示す図である。
図6】本発明の第二の実施形態に係る締結治具を分解して示した斜視図である。
図7】本発明の第二の実施形態に係る締結治具の縦断面図であり、(a)は結合前の状態を示し、(b)は結合時の状態を示す図である。
図8】本発明の第三の実施形態に係る締結治具の縦断面図である。
図9】本発明の第三の実施形態に係るロープ保持部材の分解斜視図である。
図10】(a)〜(d)は、締結治具の組み立て手順を説明する図である。
図11】本発明の第四の実施形態に係る締結治具の縦断面図である。
図12】本発明の第四の実施形態に係るロープ保持部材の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。なお、図中同一又は相当部分には同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0009】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態に係るロープブレースについて説明する。図1は、ロープブレースの使用状態を示す図である。本実施形態に係るロープブレースは、荷重を支える部材として合成繊維ロープを使用する点に特徴がある。
ロープブレース1(補強装置)は、建築物等の構造物に固定されるガセット10と、引っ張り荷重を支える合成繊維ロープ20と、合成繊維ロープ20の各端部に締結される締結治具100と、締結治具100をガセット10に接続するアイ金具210を備える。
ロープブレース1は、建築物等の構造物のフレームF内に対角線状(筋交い状)に配置されることにより、構造物を補強する。ここで、例えば構造物のフレームFは、構造物の横方向に隣り合う2本の柱P(P1、P2)と、上下方向に隣り合う2つの梁L(下階梁L1、上階梁L2)とを含む架構であってもよい。或いは、構造物の屋根を構成するフレームであってもよい。
【0010】
(ガセット)
合成繊維ロープを建築物等の構造物に取り付けるガセットについて説明する。図2は、ガセットの斜視図である。ガセット10は、柱Lと梁Pに夫々固定される2枚の取付片11、11と、取付片11、11の間に配置されたロープ接続片15とを備える。ガセット10は、図1に示したように、柱P1と下階梁L1との交差部、又は柱P2と上階梁L2との交差部に配置される。
取付片11、11は概略矩形、平板状の鋼板から構成されており、2つの取付片11、11は夫々の平板面が互いに直交するようにL字状に、溶接等により組み合わせられている。
夫々の取付片11、11には、柱Pや梁Lに対して取付片11、11をボルトにより固定するための複数(図では10個)のボルト穴12が貫通形成されている。
ロープ接続片15は平板状の鋼板から構成されており、2つの取付片11、11に対しては、両取付片と直交するように(つまり、構面VPと略並行となる向きに)溶接等により取り付けられている。
ロープ接続片15の面内には、アイ金具210を取り付けるための接続穴16が貫通形成されている。
【0011】
(合成繊維ロープ)
図3は、合成繊維ロープを示す平面図である。
合成繊維ロープ20は、長手方向に加わる荷重を支持する本体部21と、本体部21を被覆して保護する被覆部25とを備える。
本体部21は、数万本の繊維からなる複数本(例えば16本)のストランド22を、非自転構造となるように編み上げる(又は非捻転状態で束ねる)ことにより作成されたもので、いわゆる組紐である。本体部21を構成する繊維としては、アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)、炭素繊維、ガラス繊維、及びポリエステル繊維の少なくとも一つを用いることができる。
ここで、本発明でいうアラミドとは、1種又は2種以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、該芳香族基は2個の芳香環が酸素、硫黄又はアルキレン基で結合されたものであってもよい。また、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、クロルキなどのハロゲン基等が含まれていてもよい。さらには、これらアミド結合は限定されず、パラ型、メタ型のどちらでもよい。
かかるアラミドの具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドなどが挙げられる。
【0012】
また、アラミド繊維としては、パラ型のアラミド繊維であることが好ましく、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、テイジンアラミドB.V.製、「トワロン」、登録商標)、又は共重合型の芳香族ポリアミド繊維であるコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)製、「テクノーラ」、登録商標)を用いることができる。中でも汎用的なポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(「トワロン」)を用いることが最適である。
被覆部25は、本体部21を紫外線から保護したり、本体部21に対してせん断力が加わること等から保護する。被覆部25には例えばポリエステル繊維を用いることができる。被覆部25も本体部21と同様に複数本の繊維からなる複数本のストランドを非自転構造となるように編み上げる(又は非捻転状態で束ねる)ことにより形成されるが、被覆部25は本体部21よりも長手方向への伸び率が高くなるように編み上げられる。
【0013】
(締結治具)
合成繊維ロープの端部に対して締結される締結治具について説明する。
図4(a)、(b)は、締結治具と接続金具を示した平面図である。図4(a)は締結治具に対してアイ金具を接続した状態を示しており、図4(b)は締結治具に対してターンバックルを接続した状態を示している。
締結治具100は、軸方向の一端部(第一の端部)に設けた第一開口110aから延びるテーパー状の内部空所(ロープ保持部112)内に合成繊維ロープ20の一端部を受け容れるロープ保持部材110と、合成繊維ロープ20の一端面からその中心部に差し込まれることにより、合成繊維ロープ20と共にロープ保持部材110内に収容される楔部材120と、を備えている。
【0014】
ロープ保持部材110は、軸方向の一端に第一開口110aを、他端に第二開口110bを有し、軸方向に貫通した中空部を備えるスリーブ状である。ロープ保持部材110は、軸方向の一端側に中空のロープ保持部112を備える。ロープ保持部112は、軸方向の一端側から他端側に向けて内径が漸増するテーパー面112aを有している。ロープ保持部材110は、軸方向の他端側外面にアイ金具210等を接続するための雄ネジ部114を備えている。
【0015】
楔部材120は概略円錐形状であり、先端が尖った頂部側がロープ保持部材110の軸方向の一端部側(図中下端部側)に位置するようにロープ保持部112内に収容される。また、楔部材120の底部側(基端部側、図中上端部側)の外径は第一開口110aの内径よりも大きく、ロープ保持部112内に収容された楔部材120は第一開口110aからの離脱を阻止される。
楔部材120は、その頂部から合成繊維ロープ20の一端部の中心部内に挿入された状態で、その外周面とテーパー面112aとの間で合成繊維ロープを挟圧することにより、合成繊維ロープ20をロープ保持部材110内に固定する。
この時、合成繊維ロープを構成する繊維、及びストランドが楔部材の中心軸方向(合成繊維ロープに作用する張力の方向)に沿った方向へ延びるように挟圧保持されることにより極力、せん断力を受けることがないように組み込むことができる。
【0016】
(アイ金具)
締結治具100をガセット10に接続するアイ金具210は、軸方向の一端部にロープ保持部材110の雄ネジ部114と螺合する雌ネジ部212を備え、軸方向の他端部に、ガセット10のロープ接続片15に対して回動自在に接続されるアイ部214を備えている。
アイ部214には、アイ金具210をロープ接続片15に対して構造用ピン又はボルトにより取り付けるための挿通穴216が貫通形成されている。ガセット10のロープ接続片15の接続穴16と、アイ部214の挿通穴216を連通させた状態にて、各穴内に構造用ピンを挿入し、構造用ピンに抜け止め用のナットを締結することによって、ガセット10とアイ金具210とが一体化される。また、アイ金具210は、構造用ピンを中心としてガセット10に対して回動自在に接続される。
【0017】
(ターンバックル)
合成繊維ロープの張力を調整するターンバックル(張力調整部材)について説明する。
図1に示したように、合成繊維ロープ20の長手方向の一方の端部に設けた締結治具100にはアイ金具210が直接接続されるが、他方の端部に設けた締結治具100とガセット10との間には、合成繊維ロープ20の張力を調整するターンバックル220(張力調整部材)が挿入される。
図4(b)に示すように、ターンバックル220は、軸方向に貫通した中空部を有するロッドパイプ221と、ロッドパイプ221の各端部に夫々接続される2つの接続ネジ部材223、227とを備える。
ロッドパイプ221の軸方向の一端部には左ネジ(逆ネジ)の雌ネジ部222Lが形成され、軸方向の他端部には右ネジ(正ネジ)の雌ネジ部222Rが形成されている。ロッドパイプ221は角筒状であり、手や工具等を用いて軸周りに回転させることが可能である。
【0018】
接続ネジ部材223は、軸方向の一端部にロープ保持部材110の雄ネジ部114と螺合する右ネジ(正ネジ)の雌ネジ部224を備え、軸方向の他端部に雌ネジ部222Lと螺合する左ネジ(逆ネジ)の雄ネジ部226を備える。また、軸方向の中間部には、手やスパナ等の工具によって軸周りに回転可能とする角柱部225を備える。
接続ネジ部材227は、軸方向の一端部に雌ネジ部222Rと螺合する右ネジ(正ネジ)の雄ネジ部228を備え、軸方向の他端部に接続アイ部229を備える。接続アイ部229は、アイ金具210のアイ部214と同様の構成であり、面内に挿通穴229aを備える。接続アイ部229は、接続ネジ部材227をガセット10に対して構造用ピン又はボルトにより取り付けるための部位である。接続ネジ部材227は、アイ金具210をガセット10に取り付けるのと同様の方法により、ガセット10に取り付けられる。
【0019】
ターンバックル220の各端部に締結治具100とガセット10を接続した後、ロッドパイプ221を、2つの接続ネジ部材223、227に対して相対回転させることにより、ロープブレース1の全体を伸縮させ、合成繊維ロープ20の張力を調整することができる。
【0020】
(ロープブレースの使用方法)
以上の構成を備えたロープブレースの使用方法について説明する。
合成繊維ロープ20を締結治具100に締結する方法について説明する。
まず、合成繊維ロープ20の一端部を第一開口110aからロープ保持部112内に挿入し、第二開口110bから一旦外部に引き出した状態とする。続いて、合成繊維ロープ20の一端面からその中心部に楔部材120を差し込む。
【0021】
図5(a)、(b)は、合成繊維ロープと楔部材との関係を示す図である。
合成繊維ロープ20を締結治具100に締結する際には、図5(a)に示すように本体部21の撚りを極力解かずにストランド22の形状を維持した状態にて合成繊維ロープ20の中心部に楔部材120を挿入するか、図5(b)に示すように、本体部21の撚りを繊維レベルまで解きほぐした上で、繊維が楔部材120の周囲に均等に配置されるように合成繊維ロープ20の中心部に楔部材120を挿入する等の方法を採用できる。或いは、図5(a)、(b)の中間的な態様として、ストランド22の形態自体を保持した状態にて、本体部21の撚り込みを解きほぐした上で、ストランド22が楔部材120の周囲に均等に配置されるように合成繊維ロープ20の中心部に楔部材120を挿入してもよい。なお、合成繊維ロープ20に作用する引っ張り荷重を締結治具100によって均等に支持し、強度を最大化するためには、本体部21の撚り込みを解きほぐすがストランド22の形態を維持した状態にて、楔部材120を打ち込むことが望ましい。
また、合成繊維ロープ20を締結治具100に固定する際には、合成繊維ロープ20の本体部21のみをロープ保持部112内に挿入してもよいし、被覆部25ごとロープ保持部112内に挿入してもよい。
図4において、楔部材120とその外周を覆った状態にある合成繊維ロープ20とを第一開口110a側に軸方向移動させると、合成繊維ロープ20が楔部材120とテーパー面112aとの間に挟持され、合成繊維ロープ20が締結治具100に締結される。合成繊維ロープ20の他方の端部も同様に処理する。
【0022】
締結治具100に合成繊維ロープ20を締結した後、締結治具100のロープ保持部材110に対してアイ金具210又はターンバックル220を接続する。
図1及び図4(a)に示すように、合成繊維ロープ20の長手方向の一方の端部に取り付けた締結治具100のロープ保持部材110には、アイ金具210を締結する。即ち、ロープ保持部材110の雄ネジ部114にアイ金具210の雌ネジ部212を螺着して両部材を締結する。
図1及び図4(b)に示すように、合成繊維ロープ20の長手方向の他方の端部に取り付けた締結治具100のロープ保持部材110には、ターンバックル220を接続する。すなわち、ロープ保持部材110の雄ネジ部114に接続ネジ部材223の雌ネジ部224を螺着して両部材を締結する。接続ネジ部材223の雄ネジ部226には、ロッドパイプ221の雌ネジ部222Lを螺着する。ロッドパイプ221の雌ネジ部222Rには、接続ネジ部材227の雄ネジ部228を螺着する。
【0023】
合成繊維ロープ20の長手方向の各端部に取り付けられたアイ金具210のアイ部214と接続ネジ部材227の接続アイ部229を夫々ガセット10に取り付ける。
ここで、ガセット10は、予め柱P1と下階梁L1との交差部、及び柱P2と上階梁L2との交差部に固定しておく。即ち、ガセット10の各取付片11、11を夫々柱P1と下階梁L1の側面に密着させた状態にて、ボルトにより両部材を接合する。柱P2と上階梁L2へのガセット10の接合も同様に行う。ガセット10はフレームF内に対角線状に(筋交い状に)設置する。
一方のガセット10に対してアイ金具210を取り付ける。即ち、アイ部214の挿通穴216とガセット10の接続穴16とを連通させた状態にて、両穴に構造用ピンの軸部を挿通し、構造用ピンの軸部の端部にナットを締結することにより、ガセット10とアイ金具210とを回動可能に一体化する。他方のガセット10に対しては、ターンバックル220の接続ネジ部材227を取り付ける。即ち、接続ネジ部材227の挿通穴229aとガセット10の接続穴16とを連通させた状態にて、両穴に構造用ピンの軸部を挿通し、構造用ピンの軸の端部にナットを締結することにより、ガセット10と接続ネジ部材227とを回動可能に一体化する。
最後に、ターンバックル220のロッドパイプ221を回転させることにより、合成繊維ロープ20を所定の張力となるように緊張させる。
【0024】
(効果)
本実施形態においてはブレースとして合成繊維製のロープを使用する。合成繊維ロープは、非常に軽量であり、また柔軟性を有するため、折り曲げた状態や巻き取られた状態等、非常にコンパクトな形態での保管や運搬が可能である。従って、本実施形態に係るロープブレースは、狭い箇所への搬入や設置が容易である。
また、合成繊維ロープは、カッターナイフにより所望の長さに切断して使用することができるので、設置箇所に応じて長さを容易に調整することができる。
上記、一本のロープブレースを、図1に示した架構内に対角線状に設置した場合、壁倍率を2.0倍相当にまで引き上げることができる。上記ロープブレースは軽量且つコンパクトでありながら、高い補強効果を得ることができる。
なお、上記ロープブレースは、木造建築物の他、鉄骨造建築物にも使用することができる。また、ロープブレースの設置箇所は建築物の壁の内部だけではなく、屋根やその他の各所に設置することができる。もちろん、建築物は新築、既存を問わない。
【0025】
締結部材に対しては、合成繊維ロープを湾曲又は屈曲させずに接続するので、合成繊維ロープにせん断力が作用することを極力防止できる。即ち、ロープブレースに使用する合成繊維ロープは軽量且つ高強度であるが、繊維自体はせん断力に弱いという特徴がある。本実施形態においては、合成繊維ロープを構成する繊維及びストランド(合成繊維ロープに作用する張力の方向)が、これを締結する締結部材の軸方向に沿った方向へ延びるように両部材を接続し、合成繊維ロープにせん断力が極力作用しないようにするので、合成繊維ロープを接着剤やコーティング剤により補強しなくとも、合成繊維ロープの断線を防止できる。
合成繊維ロープの能力を十分に発揮させるため、楔部材を用いて合成繊維ロープを固定する場合は、合成繊維ロープの一部分に対して引っ張り応力が集中することを回避することが望ましい。
引っ張り応力の集中を回避するためには、合成繊維ロープとスリーブの内周面又は楔部材の外周面との接触面積を増大させることが考えられる。接触面積の増大には、スリーブの内径及び楔部材の外径を増大させることや、軸方向長を延長することが考えられる。また、テーパー角が小さくなるようにスリーブの内形状及び楔部材の外形状を設計することによっても、引っ張り応力の集中を回避することができる。
また、事前にテーパー面と楔部材の外周面の少なくとも一方に弾性変形するゴム系の樹脂などを塗布したり、弾性変形するゴム系樹脂等から形成されるチューブやテープによって合成繊維ロープを被覆すること等によっても、応力集中を緩和できる。
【0026】
(第二の実施形態)
本発明の第二の実施形態に係る補強装置について説明する。図6は、本発明の第二の実施形態に係る締結治具を分解して示した斜視図である。図7は、本発明の第二の実施形態に係る締結治具の縦断面図であり、(a)は結合前の状態を示し、(b)は結合時の状態を示す図である。
本実施形態に係る締結治具は、外力により縮径するスリーブ状のロープ保持部材と、ロープ保持部材の外側に装着することにより、ロープ保持部材を加圧して縮径させる加圧部材とを備える点に特徴がある。なお、締結治具以外の部材は第一の実施形態と同様であるため、特にその説明はしない。
【0027】
締結治具300は、常時において拡径状態にあり、外力により弾性的に又は可塑的に縮径可能な可変径部314(第一の端部)と、内径が固定された固定径部318(第二の端部)とを備え、可変径部314側の第一開口310aから合成繊維ロープ20の一端部を受け容れるスリーブとしてのロープ保持部材310と、ロープ保持部材310の固定径部318側の第二開口310bから差し込まれることにより、ロープ保持部材310内に保持された合成繊維ロープ20の一端面からその中心部に差し込まれる楔部材120と、内部において楔部材120を相対回転可能に支持すると共に、ロープ保持部材310の固定径部318側の外面に装着されて可変径部314を加圧して縮径させる加圧部材330と、を備えている。
【0028】
(ロープ保持部材)
ロープ保持部材310は、軸方向一端に第一開口310aを、軸方向他端に第二開口310bを備え、軸方向に貫通する中空空間であるロープ保持部312を備えたスリーブ状である。
ロープ保持部材310は、軸方向の一端部に外力により縮径する可変径部314を備え、軸方向他端部に内外径が固定された固定径部318を備える。
可変径部314は、外力により縮径させた後に外力を取り除けば元の形状に復帰する弾性変形可能な構成としてもよいし、外力により縮径させると塑性変形して、外力を取り除いても元の形状には復帰しない可塑的な構成としてもよい。
【0029】
可変径部314の側面には、軸方向の一端縁から他端部に向けて延びると共に中空部の内外を連通させる1つ又は複数のスリット(或いは、切り込み線)315が形成されている。
スリット315が形成されることにより可変径部314には、楔部材120との間で合成繊維ロープ20を挟圧保持する1つ又は複数の係合片316が形成される。
可変径部314は、常時においては(外力が加わっていない状態においては)スリット315の幅が幅広となっていること(或いは、各係合片316が外径側に位置していること)により内外径が拡大した拡径状態にある。可変径部314は、外力により内径方向に圧縮されること(或いは、各係合片316が内径側に押圧されること)によりスリット315の幅が幅狭となって内外径が縮小した縮径状態となる。
【0030】
図6に示すスリット315は、ロープ保持部材310の軸方向の一端縁から軸方向に沿って直線的に形成されているが、スリット315は可変径部314の内外径を縮径させることができる形状であれば、ロープ保持部材310の軸方向に対して傾斜した方向(例えば螺旋状やギザギサ状)に形成されてもよい。
【0031】
可変径部314に対応するロープ保持部材310の中空部内には、ロープ保持部材310の軸方向の一端面に形成された第一開口310aから合成繊維ロープ20の一端部を受け入れて保持するロープ保持部312が形成されている。
可変径部314が縮径したとき、ロープ保持部312の内周面には軸方向の一端部から他端部に向かって内径が漸増するテーパー面312aが形成される。
なお、可変径部314が縮径したとき、係合片316の周方向に隣接する端面同士は必ずしも密着している必要はなく、微少な隙間が形成されてもよい。
固定径部318の外周面には、加圧部材330を締結する雄ネジ部319(締結部)が形成されている。
【0032】
(加圧部材)
加圧部材330は、少なくとも軸方向の一端面に形成された第一開口330aを有する有底筒状の部材であり、軸方向の一端側に楔部材120を収容する中空の楔収容部332を、中間部に中実の角柱部334を、他端部側にアイ金具210の雌ネジ部212、又は接続ネジ部材223の雌ネジ部224と螺着する雄ネジ部336を備えている。雄ネジ部336は、第一の実施形態のロープ保持部材110が備える雄ネジ部114(図4)と同様の構成である。
【0033】
楔収容部332は、楔部材120の頂部側が軸方向の一端側(第一開口330a側)となるように楔部材120を収容する。加圧部材330は、楔部材120が軸周りに相対回転可能、且つ軸方向に進退可能となるように、楔部材120の底部側(基端部側)を楔収容部332の内底面332aによって支持する。
内底面332aには、例えばコイルバネ338が取り付けられる。コイルバネ338の中空内部に楔部材120の底部側(基端部側)を挿入することにより、加圧部材330は楔部材120を軸周りに相対回転可能、且つ軸方向に進退可能に支持する。
楔収容部332の軸方向一端側の内面は可変径部314を加圧する加圧面332b(加圧部)であり、軸方向他端側の内面にはロープ保持部材310の雄ネジ部319に螺着する雌ネジ部340が形成されている。
【0034】
加圧部材330は、軸方向の一端に設けた第一開口330aから、ロープ保持部材310を、その軸方向他端部側から楔収容部332内に受け入れる。加圧部材330は、楔収容部332内にロープ保持部材310を受け容れる過程で、加圧面332bによってロープ保持部材310の各係合片316を内径方向に加圧する。即ち、加圧部材330は、ロープ保持部材310の外側に嵌合される。
楔収容部332内にロープ保持部材310が挿入される過程で、楔部材120は、ロープ保持部材310の第二開口310bからロープ保持部312内に差し込まれる。これにより、楔部材120は、ロープ保持部312内に保持された合成繊維ロープ20の一端面からその中心部に差し込まれる。
楔収容部332の内径は軸方向に一定でもよいが、一端部から他端部に向けて内径が漸減又は漸増する構成としてもよい。楔収容部332は、加圧部材330の第一開口330aからロープ保持部材310を受け入れたときに、可変径部314を縮径させることができればよい。
角柱部334は、例えばスパナ等に係合する六角柱形状であり、角柱部334をスパナ等に嵌合させた状態にて加圧部材330を軸周りに回転させることを可能とする。
【0035】
(締結治具の使用方法)
以上の構成を備えた締結治具の使用方法について説明する。
ロープ保持部材310のロープ保持部312内に、第一開口310aから合成繊維ロープ20(図3)の一端部を挿入する。ロープ保持部材310には、被覆部25を剥離していない状態の合成繊維ロープ20を挿入してもよいし、被覆部25を剥離して本体部21のみを挿入してもよい。また、本体部21は、図5(a)に示したように各ストランド22が形状を維持している状態であってもよいし、図5(b)に示すように繊維レベルまで解きほぐされた状態であってもよい。
続いて、ロープ保持部材310を加圧部材330に締結する。即ち、ロープ保持部材310を軸方向の他端部側(固定径部318側)から加圧部材330の第一開口330aより楔収容部332内に挿入する。ロープ保持部材310が楔収容部332内に挿入される過程で、ロープ保持部材310の夫々の係合片316は加圧面332bと接触し、可変径部314の内外径は縮径する。
また、楔部材120は、ロープ保持部材310が楔収容部332内に挿入される過程で、合成繊維ロープ20の一端面からその中心部に挿入されていく。楔部材120は、内底面332aによって軸周りに相対回転可能に支持されているので、楔部材120は合成繊維ロープ20内に挿入される過程で加圧部材330に対して相対回転し、合成繊維ロープ20の形態が崩れることを防止する。
加圧部材330の雌ネジ部340をロープ保持部材310の雄ネジ部319に締結すると、ロープ保持部材310のロープ保持部312内に、軸方向の一端側から他端に向かって内径が漸増するテーパー面312aが完成する。この状態で、合成繊維ロープ20を軸方向一端部側に(合成繊維ロープ20をロープ保持部312から引き抜く方向に)引っ張ることで、楔部材120は合成繊維ロープ20と共に軸方向一端部側に移動し、合成繊維ロープ20がテーパー面312aと楔部材120との間で強固に挟圧保持される。
【0036】
(効果)
以上のように本実施形態によれば、楔部材が加圧部材に一体化されているので、楔部材の紛失を防止できる。また、加圧部材の装着前においては、ロープ保持部材の軸方向一端側の内径が拡径しているので、合成繊維ロープを挿入しやすいという利点もある。
なお、合成繊維ロープをロープ保持部材内に挿入する際には、合成繊維ロープの一端部をチューブやテープによって被覆しておくことが望ましい。上記措置をとることによって、ロープ保持部材の縮径時に合成繊維ロープがスリットから外部にはみ出すことを防止し、合成繊維ロープを構成する繊維の切断を防止できる。上記措置をとる場合に弾性変形するゴム系の樹脂等の材料から形成されたチューブやテープを用いれば、合成繊維ロープに対する局所的な応力集中を緩和することができる上、合成繊維ロープとテーパー面との摩擦力を高めて、ロープ保持部による合成繊維ロープの保持力を向上させることができる。
【0037】
(第三の実施形態)
本発明の第三の実施形態に係る合成繊維ロープの締結治具について説明する。図8は、本発明の第三の実施形態に係る締結治具の縦断面図である。図9は、本発明の第三の実施形態に係るロープ保持部材の分解斜視図である。本実施形態に係る締結治具においては、ロープ保持部材を軸方向に沿って分割した複数の分割片から構成した点に特徴がある。
締結治具400は、軸方向の一端(第一の端部)に設けた第一開口410aから延びるテーパー状の有底の内部空所(ロープ保持部412)内に合成繊維ロープ20の一端部を受け容れるロープ保持部材410と、合成繊維ロープ20の一端面からその中心部に差し込まれることにより、合成繊維ロープ20と共にロープ保持部412内に収容される楔部材120とを備えている。本実施形態におけるロープ保持部材410は、ロープ保持部412を含めて軸方向に沿って分割された複数の分割片420(420a、420b)から構成されている。
【0038】
(ロープ保持部材)
ロープ保持部材410は、軸方向の一端側の内部にロープ保持部412を備え、他端側の外部にアイ金具210を間接的に接続するための雄ネジ部414(被接続部)を備える。
ロープ保持部412は、軸方向一端(第一の端部)に設けた第一開口410aから延びる有底の中空部である。ロープ保持部412には、軸方向の一端部から他端部に向かって内径が漸増するテーパー面412aが形成されている。ロープ保持部412は、楔部材120が挿入された状態の合成繊維ロープ20の一端部を受け容れる。
テーパー面412aは、楔部材120との間で合成繊維ロープ20を挟圧保持する。
ロープ保持部材410は、軸方向に沿って二分割された2つの分割片420a、420bにより形成される。ロープ保持部材410は、軸心を含み軸方向に沿って延びる平面によって二分割されている。なお、ロープ保持部材410を形成する分割片の数は3以上であってもよい。本例においては、雄ネジ部414を含むロープ保持部材410の全体を二分割した構成としているが、ロープ保持部材410は、雄ネジ部414の全体を一方の分割片に備えるように分割されてもよい。
各分割片420a、420bのうち、ロープ保持部412及び雄ネジ部414を回避した部位、具体的にはロープ保持部412を間に挟んで幅方向(直径方向)の両端部には、両分割片420a、420bを一体化させるための締結穴416(締結部)が形成されている。一方の分割片420aの穴はボルト418の軸部が挿通される貫通穴416aであり、他方の分割片420bの穴は貫通穴416aから突出したボルト418の軸部を螺着する雌ネジが形成されたネジ穴416bである。
【0039】
(使用方法)
締結治具の組み立て方法について説明する。
図10(a)〜(d)は、締結治具の組み立て手順を説明する図である。なお、説明の便宜上、図10(c)、(d)ではロープ保持部材内にある合成繊維ロープの記載は省略した。
まず、図10(a)に示すように、合成繊維ロープ20の長手方向一端面からその中心部に楔部材120を打ち込む。この際、楔部材の外周面に均等に繊維ロープの繊維やストランドが配置された状態となる。
図10(b)に示すように、楔部材120の打ち込まれた合成繊維ロープ20の長手方向一端部を、分割片420b側のロープ保持部412内に楔部材と共に収容する。このとき、合成繊維ロープ20がロープ保持部412からはみ出すことによる繊維のせん断を防止すると共に、ロープ保持部412内への収納を容易とするために、合成繊維ロープ20及び楔部材120が軸方向の他端部寄りに位置するように、即ち、両部材がロープ保持部412の大径側に位置するように配置する。
図10(c)に示すように、分割片420bに対してボルト418により分割片420aを締結して、両分割片420a、420bを一体化したロープ保持部材410を形成する。即ち、図9に示すように分割片420aの貫通穴416aと分割片420bのネジ穴416bとを連通させて、ネジ穴416bにボルト418を螺着することにより、両分割片を一体化してロープ保持部材410を形成する。
最後に図10(d)に示すように、合成繊維ロープ20を軸方向一端側に(合成繊維ロープ20を締結治具400から引き抜く方向に)引っ張って、合成繊維ロープ20と楔部材を第一開口410a側に移動させる。楔部材120が合成繊維ロープ20と共にロープ保持部412内で第一開口410a側に移動することにより、楔部材120の側面とテーパー面412aとの間隔が狭くなり、楔部材120とテーパー面120aとの間で合成繊維ロープ20を挟圧保持することができる。
【0040】
締結治具400の雄ネジ部414には、図8に示すように、アイ金具210を接続するか、又は図4(b)に示すターンバックル220の接続ネジ部材223を接続する。
その他の使用方法は第一の実施形態と同様である。
【0041】
(効果)
本実施形態によれば、ロープ保持部材を軸方向に沿って分割された複数の分割片から構成したので、内部空所を、第二の端部側が閉止した有底の空所としても、ロープ保持部を開放することができ、ロープ保持部内に合成繊維ロープと楔部材を挿入することができる。合成繊維ロープの一端を第一開口から挿入しなくとも合成繊維ロープをロープ保持部内に収容することができるので、合成繊維ロープの収容に係る作業が簡便となる。また、合成繊維ロープをロープ保持部内に収容する際に、合成繊維ロープの端面が第一開口に接触してばらけるといった不具合を回避できる。
なお、合成繊維ロープをロープ保持部材内に挿入する際には、第二の実施形態と同様に合成繊維ロープの一端部をチューブやテープによって被覆しておくことが望ましい。
【0042】
(第四の実施形態)
本発明の第四の実施形態に係る合成繊維ロープの締結治具について説明する。図11は、本発明の第四の実施形態に係る締結治具の縦断面図である。図12は、本発明の第四の実施形態に係るロープ保持部材の分解斜視図である。
本実施形態に係る締結治具においては、ロープ保持部材を軸方向に沿って分割した複数の分割片から構成すると共に、アイ金具等を接続する接続部材を分割片とは独立した部材とした点に特徴がある。以下、第三の実施形態と同一の構成についての説明は省略する。
締結治具500のロープ保持部材510は、軸方向の他端側(第二の端部側)に設けた第二開口510bにより外部と連通すると共に第二開口510bよりも内径が大きい中空の接続部材保持部512を備えている。締結治具500は、接続部材保持部512内に係止される被係止部521及び第二開口510bから外部に露出してアイ金具210又はターンバックル220と接続する雄ネジ部522(被接続部)有した接続部材520を備える。
また、ロープ保持部材510は、ロープ保持部412、及び接続部材保持部512を含めて軸方向に沿って分割された複数の分割片530(530a、530b)から構成されている。
【0043】
(ロープ保持部材)
ロープ保持部材510は、軸方向の一端部に中空のロープ保持部412を備え、他端部に中空の接続部材保持部512を備える。ロープ保持部412は第一開口410aにより外部空間と連通し、接続部材保持部512は第二開口510bにより外部空間と連通する。本例において両保持部は連通しており、ロープ保持部材510は軸方向に貫通した形状である。なお、両保持部は非連通であってもよい。
接続部材保持部512の内径は、第二開口510bの内径よりも大きくなるように形成されている。本例に示す接続部材保持部512は、軸方向の他端から一端に向かって内径が漸増するテーパー状の係止面512aを備えている。接続部材保持部512の内面形状は、ロープ保持部材510の軸心を中心とする回転体形状である。
【0044】
(接続部材)
接続部材520は、軸方向の一端部に接続部材保持部512内に収容されて係止される被係止部521を備え、他端部にアイ金具210やターンバックル220に螺着する雄ネジ部522を備えている。また、接続部材520は、被係止部521と雄ネジ部522との間に角柱部523を備える。角柱部523は例えば六角柱状であり、雄ネジ部522にアイ金具210やターンバックル220を螺着する際に手やスパナ等の工具を利用して、アイ金具210やターンバックル220に対する接続部材520の相対回転を防止することができる。
本例に示す被係止部521はその外面に、軸方向の中間部から一端部に向かって外径が漸増するテーパー状の被係止面521aを備えている。被係止面521aは、係止面512aに係止される部位である。被係止部521は円錐台、即ち回転体であり、接続部材保持部512の係止面512aに係合する形状である。
被係止部521の外径は、第二開口510bの内径よりも大径である。即ち、被係止部521の外径は、軸方向中間部(又は軸方向他端部に位置する雄ネジ部522)の外径よりも大径である。被係止部521が接続部材保持部512内に保持された場合、被係止部521は第二開口510bを通過することができないため、ロープ保持部材510は接続部材520の離脱を阻止する。
なお、接続部材520には雄ネジ部522の代わりに図4に示すアイ金具210のアイ部214に相当する部分を備え、接続部材をガセット10に直接接続するようにしてもよい。
【0045】
(使用方法)
締結治具の組み立て方法は第三の実施形態(図10)とほぼ同様である。本実施形態が第三の実施形態と異なる点は、楔部材120の打ち込まれた合成繊維ロープ20をロープ保持部412内に収容する際(図10(b))に、接続部材520の被係止部521を分割片530bの接続部材保持部512内に収容する点である。
図12の分解斜視図に示すように、楔部材120、合成繊維ロープ20、及び接続部材520を分割片530bに配置した後に、2つの分割片530a、530bをボルト418により締結して、ロープ保持部材510を形成する。接続部材520の雄ネジ部522は第二開口510bを介してロープ保持部材510の軸方向他端側に突出する。ここで、接続部材520の被係止部521の外径は第二開口510bの内径よりも大きいため、接続部材保持部512内に保持された接続部材520を軸方向の他端部側に引き抜こうとしてもテーパー状の被係止面521aがテーパー状の係止面512aに係止されるので、接続部材520をロープ保持部材510から離脱させることはできない。
【0046】
(効果)
第三の実施形態においては、雄ネジ部を含めてロープ保持部材を軸方向に沿って2分割したので、2つの分割片を一体化させたときにネジ山がずれて接続ロッド等の他の部材との螺着が困難となる虞があった。本実施形態においては、分割片と接続部材とを別個の部材としたので、接続部材を軸方向に分割されない部品とすることができる。従って、接続部材のネジ山が不連続になることはないので接続ロッド等の他の部材との接続精度を維持することができ、螺着が容易である。
また、接続部材保持部の係止面と接続部材の被係止面は互いに係合する回転体形状であり、両者の間に作用する荷重が周方向に均等に分散されるので、接続部材の偏摩耗及び破断を効果的に防止する。
【0047】
(本発明の実施態様例と作用、効果のまとめ)
第一の態様に係る合成繊維ロープの締結治具100は、複数本の繊維から成る複数本のストランド22を非捻転状態で束ねた合成繊維ロープ20の端部に対して締結する合成繊維ロープの締結治具であって、第一の端部から第二の端部に向けて内径が漸増するテーパー状の内部空所(ロープ保持部112)を有し、第一の端部側の開口(第一開口110a)から合成繊維ロープの一端を受け容れるスリーブとしてのロープ保持部材110と、ロープ保持部材の第二の端部側の開口(第二開口110b)から差し込まれることにより、ロープ保持部材内に保持された合成繊維ロープの一端面からその中心部に差し込まれる楔部材120と、を備えたことを特徴とする。
このような構成によれば、合成繊維ロープを構成する繊維、及びストランドが楔部材の中心軸方向(合成繊維ロープに作用する張力の方向)に沿った方向へ延びるように両部材を締結し、合成繊維ロープにせん断力が極力作用しないようにするので、合成繊維ロープの断線を防止できる。
【0048】
第二の態様に係る合成繊維ロープの締結治具100は、複数本の繊維から成る複数本のストランド22を非捻転状態で束ねた合成繊維ロープ20の端部に対して締結する合成繊維ロープの締結治具であって、常時において拡径状態にあり、外力により弾性的に縮径可能な第一の端部(可変径部314)と、内径が固定された第二の端部(固定径部318)とを備え、第一の端部側の開口(第一開口310a)から合成繊維ロープの一端を受け容れるスリーブとしてのロープ保持部材310と、ロープ保持部材の第二の端部側の開口(第二開口310b)から差し込まれることにより、ロープ保持部材内に保持された合成繊維ロープの一端面からその中心部に差し込まれる楔部材120と、内部において楔部材を相対回転可能に支持すると共に、ロープ保持部材の第二の端部側の外面に装着されて第一の端部側を加圧して縮径させる加圧部材330と、を備えたことを特徴とする。
このような構成によれば、合成繊維ロープを構成する繊維、及びストランドが楔部材の中心軸方向(合成繊維ロープに作用する張力の方向)に沿った方向へ延びるように両部材を締結し、合成繊維ロープにせん断力が極力作用しないようにするので、合成繊維ロープの断線を防止できる。
また、本態様に係るロープ保持部材は、加圧部材の装着前においては、軸方向一端側の内径(可変径部314の内径)が拡径しているので、ロープ保持部材内に合成繊維ロープを挿入しやすいという利点がある。
【0049】
第三の態様に係る合成繊維ロープの締結治具400は、複数本の繊維から成る複数本のストランド22を非捻転状態で束ねた合成繊維ロープ20の端部に対して締結する合成繊維ロープの締結治具であって、合成繊維ロープの一端面からその中心部に差し込まれる楔部材120と、第一の端部に設けた開口(第一開口410a)から延びるテーパー状の内部空所(ロープ保持部412)内に楔部材を収容した合成繊維ロープの一端部を受け容れるロープ保持部材410と、を備え、ロープ保持部材は、内部空所を含めて軸方向に沿って分割された複数の分割片420a、420bから構成されていることを特徴とする。
このような構成によれば、合成繊維ロープを構成する繊維、及びストランドが楔部材の中心軸方向(合成繊維ロープに作用する張力の方向)に沿った方向へ延びるように両部材を締結し、合成繊維ロープにせん断力が極力作用しないようにするので、合成繊維ロープの断線を防止できる。
また、本態様に係るロープ保持部材は、ロープ保持部材を軸方向に沿って複数の分割片に分割したので、ロープ保持部を開放することができる。合成繊維ロープの一端を第一開口から挿入しなくとも合成繊維ロープをロープ保持部内に収容することができるので、合成繊維ロープの収容に係る作業が簡便となる。また、合成繊維ロープをロープ保持部内に収容する際に、合成繊維ロープの端面が第一開口に接触してばらけるといった不具合を回避できる。
【0050】
第四の態様に係る合成繊維ロープの締結治具400において、内部空所(ロープ保持部412)は、ロープ保持部材410の第二の端部側が閉止した有底の空所であり、ロープ保持部材の第二の端部側には、構造物に対して直接又は間接的に接続する被接続部(雄ネジ部414)が形成されていることを特徴とする。
本態様においては、ロープ保持部材を軸方向に沿って分割された複数の分割片から構成したので、内部空所を、第二の端部側が閉止した有底の空所としても、ロープ保持部を開放することができ、ロープ保持部内に合成繊維ロープと楔部材を挿入することができる。なお、分割片は、被接続部を含むロープ保持部材の全体を二分割した構成としてもよいし、被接続部の全体を一方の分割片にのみ備える構成としてもよい。
【0051】
第五の態様に係る合成繊維ロープの締結治具500は、ロープ保持部材510の第二の端部に設けた第二の開口510bにより外部空間と連通すると共に、構造物に対して直接又は間接的に接続する接続部材520の一部を保持する接続部材保持部512を備え、接続部材保持部の内径は第二の開口の内径よりも大径であることを特徴とする。
本実施形態においては、分割片と接続部材とを別個の部材としたので、接続部材を軸方向に分割されない部品とすることができる。従って、仮に接続部材としてネジ山を有する部材を用いたとしてもネジ山が不連続になることはないので、他の部材との接続精度を維持できる。
【0052】
第六の態様に係る構造物の補強装置(ロープブレース1)は、構造物のフレームF内に対角線状に配置されることにより構造物を補強する構造物の補強装置であって、複数本の繊維から成る複数本のストランド22を非捻転状態で束ねた合成繊維ロープ20と、合成繊維ロープの軸方向の各端部に締結された締結治具100〜500と、各締結治具の第二の端部側をフレームに対して夫々接続する接続部材(ガセット10、アイ金具210)と、フレームに接続された合成繊維ロープの張力を調整する張力調整部材(ターンバックル220)と、を備えたことを特徴とする。
このような構成の補強装置は、上記各態様の締結治具が備える効果を享受できる。
【0053】
第七の態様に係る構造物の補強装置(ロープブレース1)は、フレームFに取り付けられるガセット10を備え、ガセットは合成繊維ロープ20をその長手方向と交差する軸線を中心として自在に回動するように支持することを特徴とする。
このような構成の補強装置は、上記各態様の締結治具が備える効果を享受できる。
【符号の説明】
【0054】
1…ロープブレース、10…ガセット、20…合成繊維ロープ、100…締結治具、110…ロープ保持部材、120…楔部材、210…アイ金具、220…ターンバックル、230…アイ金具、300…締結治具、310…ロープ保持部材、330…加圧部材、400…締結治具、410…ロープ保持部材、420a、420b…分割片、430…接続ロッド、440…接続ネジ部材、500…締結治具、510…ロープ保持部材、520…接続部材、530a、530b…分割片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12