【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「ナノ・マイクロポアを用いたInSECTシステムの開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記解析工程で解析した傾き、前記傾きの標準偏差、及び/又はサンプルの体積分布を、予め測定した各種サンプルのイオン電流の値から解析した傾き、前記傾きの標準偏差、及び/又はサンプルの体積分布と対比し、サンプルの種類を判別する判別工程、
を更に含む、請求項3に記載の分析方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、サンプルの分析方法(以下、「分析方法」と記載することがある。)、及びサンプル分析用デバイス(以下、「デバイス」と記載することがある。)について説明する。
【0016】
実施形態に係るデバイスは、サンプルが移動する移動部、移動部の途中に形成されサンプルが通過する際のイオン電流の値を測定する測定部、測定部で測定したイオン電流の値からイオン電流の経時変化を解析する解析部、を少なくとも含んでいれば、どのような構造であってもよい。
【0017】
図1は、デバイスの実施形態の一例を示す図である。
図1に示すデバイス1は、基板2、基板2上に形成されたサンプルが移動する移動部3、移動部3の途中に形成され、サンプルが通過する際のイオン電流の値を測定する測定部4、測定部4で測定したイオン電流の値からイオン電流の経時変化を解析する解析部5を少なくとも含んでいる。
【0018】
図1に示すデバイス1は、移動部3の一端にはサンプル投入部31、移動部3の他端にはサンプル回収部32が接続している。なお、
図1に示す実施形態の移動部3、サンプル投入部31、及びサンプル回収部32は、基板2に形成された流路である。また、必要に応じて、予め測定したサンプルのイオン電流の値から解析した傾き、数理モデル等を記憶する記憶部6、解析部5で解析した結果に応じてサンプルの種類を判別する判別部7を設けてもよい。また、移動部3に電場をかけるための駆動部8も、必要に応じて設けてもよい。
図1に示すデバイス1では、駆動部8はサンプル投入部31に挿入する第3電極81、サンプル回収部32に挿入する第4電極82、電圧印加手段83を含んでいる。
【0019】
測定部4は、第1電極41及び第2電極42、電流計43を少なくとも含んでおり、第1電極41及び第2電極42からの電流を電流計43で測定すればよい。また、移動部3に電場をかけるための駆動部8と測定部4の電圧を釣り合わせた状態にし、釣り合った状態からの電流の差分を検出することでより高感度検出を行う場合は、測定部4に電圧印加手段44、可変抵抗45、固定抵抗46、更に、必要に応じて増幅手段を含ませることで、測定したイオン電流の差分のみを測定できるようにしてもよい。なお、
図1に示す実施形態では、移動部3に接続する第1測定流路33に第1電極41を挿入し、第1測定流路33とは反対側から移動部3に接続する第2測定流路34に第2電極42を挿入しているが、第1測定流路33及び第2測定流路34に代え、移動部3を挟むように一対の測定用電極を形成してもよい。その場合、測定部4の第1電極41及び第2電極42は不要で、形成した測定用電極と電流計43を、電線等で接続すればよい。なお、後述するとおり、第1測定流路33及び第2測定流路34(又は、一対の電極)は、移動部3を挟んで非対称の位置に形成することが好ましい。
【0020】
移動部3を形成した基板2は、微細加工技術を用いて製造することができる。
図2は、デバイス1の製造手順の一例を示す断面図である。
(1)基板2の上に、エッチング可能な材料21を化学蒸着で形成する。
(2)ポジ型フォトレジスト22をスピンコータで塗布する。
(3)移動部3を形成する箇所に光が照射するように、フォトマスクを用いて露光・現像処理し、流路を形成する部分のポジ型フォトレジスト22を除去する。
(4)移動部3を形成する箇所の材料21をエッチングし、移動部(流路)を形成する。
(5)ポジ型フォトレジスト22を除去することで、基板2上に移動部3を形成する。
【0021】
基板2は、半導体製造技術の分野で一般的に用いられている材料であれば特に制限は無い。基板2の材料としては、例えば、Si、Ge、Se、Te、GaAs、GaP、GaN、InSb、InP等が挙げられる。
【0022】
ポジ型フォトレジスト22としては、TSMR V50、PMER等、半導体製造分野で一般的に使用されているものであれば特に制限はない。また、ポジ型に代え、ネガティブ型フォトレジストを用いてもよく、SU−8、KMPR等、半導体製造分野で一般的に使用されているものであれば特に制限はない。フォトレジストの除去液は、ジメチルホルムアミドとアセトン等、半導体分野で一般的な除去液であれば特に制限はない。
【0023】
基板2の上に堆積し、移動部3を形成する材料21としては、電気絶縁性の材料であれば特に制限は無く、例えば、SiO
2、Si
3N
4、BPSG、SiON等が挙げられる。なお、
図2に示す製造工程は、エッチング可能な材料21を用いて移動部3を形成しているが、材料21として、上記のポジ型フォトレジストやネガティブ型フォトレジスト等の感光性樹脂を用いてもよい。感光性樹脂を用いる場合は、基板2上に感光性樹脂を塗布し、移動部を形成できる形状のフォトマスクを用い、露光・現像により、感光性樹脂で流路を形成すればよい。
【0024】
図2に示す方法は、基板2上に基板2とは異なる材料を堆積して移動部3を形成する方法であるが、その他の方法であってもよい。例えば、移動部3を形成する鋳型を微細加工技術で作製し、鋳型を転写することで、移動部を含む基板を一体的に形成してもよい。鋳型を転写する材料としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、硬質ポリエチレン製等のプラスチック等の電気絶縁性材料が挙げられる。なお、転写して作製した移動部を含む基板は、取扱いの利便性を向上するため、ガラス、プラスチック等の補助基板に貼り付けてもよい。また、微細加工技術に代え、3Dプリンタを用いて移動部を含む基板を形成してもよい。
【0025】
第1電極41及び第2電極42の材料としては、アルミニウム、銅、白金、金、銀、チタン等の公知の金属などの導電性材料を用いればよい。また、第1電極41及び第2電極42に代え、測定用電極を基板側に形成する場合は、移動部3を形成する材料21、または、移動部を一体的に形成した基板上にマスクをして、前記電極用の材料を蒸着することで作製すればよい。
【0026】
電流計43は、一般的に使用されている電流計を用いればよい。電圧印加手段44は直流電流が流せればよく、公知の直流電圧源を用いればよい。例えば、電池等を用いればよい。増幅手段も、一般的に使用されているアンプを用いればよい。
【0027】
可変抵抗45及び固定抵抗46を用いた場合、移動部3中の測定領域の電位差と、固定抵抗46の両端の電位差を釣り合った状態にし、サンプルが移動部3に入った際の過渡電流の発生及びイオン電流の変化(定常電流からの変化)を、釣り合った状態からのズレとして測定することができるので、検出感度を高めることができる。なお、本願において「測定領域」とは、移動部3の途中の第1測定流路33と第2測定流路34の間の部分(又は、一対の測定用電極の間の部分)を意味する。また、「過渡電流」とは測定部4に瞬間的に流れるイオン電流を意味し、「定常電流」とは測定領域に定常的に流れているイオン電流を意味する。より具体的には、一定電圧下(駆動部8を駆動している状態)で可変抵抗45の抵抗値を操作することで、固定抵抗46と可変抵抗45の各電位差を変化させることができる。移動部3中の測定領域の電位差と、固定抵抗46の両端の電位差が釣り合うことで、キルヒホッフの法則に基づき、移動部3中の測定領域と、固定抵抗46と第1電極41及び第2電極42を含む回路には電流が流れない状態が作られる。この状態でサンプルが流入すると、サンプル流入によるイオン電流の変化は、イオン電流が流れない状態からの差分として測定することができる。可変抵抗45及び固定抵抗46は、市販されているものを用いればよい。
【0028】
解析部5は、測定部4で測定したイオン電流の値から、イオン量(サンプルから漏出したイオン量を含む)の経時変化を解析できる演算手段を含んでいる。なお、
図1に示す実施形態では、解析部5と測定部4とは回路で繋がっていない。これは、電流計43で測定した値を記憶媒体等に格納し、記憶媒体等に格納した値を解析部5で解析してもよいためである。勿論、測定部4と解析部5を回路で繋ぎ、電流計43で測定した値を直接解析部5に送り、解析してもよい。解析部5で解析する方法としては、イオン電流の値から傾きを解析する方法、サンプル内の電荷を放出しながら流路を移動するサンプルのイオン電流の数理モデル(以下、単に「数理モデル」と記載することがある。)を用いた解析方法、機械学習を用いた解析方法等が挙げられる。
【0029】
図3〜5を用いて、イオン電流の値から傾きを解析する方法について説明する。
図3は、
図1に示すデバイス1を用いて測定したイオン電流の値(強度)を示している。
【0030】
先ず、測定の前に、PBS、リン酸バッファー、TBEバッファー等の緩衝液を毛管現象で流路に導入し、次いで、サンプル液をサンプル投入部31に投入する。次に、駆動部8を用いて電圧を印加すると、サンプルが、サンプル回収部32に向けて移動する。サンプル投入部31と移動部3の境界付近(
図3中のaの位置)にサンプルが移動すると、測定部4は先ず過渡電流を測定する。次に、サンプルが、aの位置から移動部3と第1測定流路33の接続部分(
図3中のbの位置)の付近に移動するまで、測定部4はイオン電流(定常電流)を測定する。そして、サンプルが測定領域(
図3のbからcの位置)に位置する時、測定部4はイオン電流の大きな変化を測定する。そして、サンプルが、cの位置から移動部3とサンプル回収部32の境界付近(
図3中のdの位置)に移動するまで、測定部4はイオン電流(定常電流)を測定し、そして、サンプルがサンプル回収部32に出る際に、測定部4は過渡電流を測定する。本明細書において、「測定したイオン電流の値から傾きを解析する」とは、測定領域をサンプルが通過した際に、イオン電流が大きく変化した部分の傾きを解析することを意味する。
【0031】
図4は、イオン電流の値から傾きを解析する方法の一例を示す図で、具体的手順は以下のとおりである。
(A)サンプルが移動部3を通過する際のイオン電流の値(強度の変化)を測定する。
(B)サンプルが測定領域以外の移動部を通過した際のイオン電流の値から、近似直線(ベースライン、
図4(B)中の直線)を演算する。
(C)サンプルが測定領域に入った時のイオン電流の大きな下向きの変化とベースラインが交わる点(
図4(C)の△)、サンプルが測定領域から出た時のイオン電流の大きな上向きの変化とベースラインが交わる点(
図4(C)の□)を演算する。そして、演算した両点の中点(△及び□の横軸(時間軸)の中点。
図4(C)の○)を演算する。
(D)サンプルが測定領域から出た時のイオン電流の大きな上向きの変化とベースラインが交わる点(
図4(C)の□)を通り、イオン電流の大きな上向きの変化に近似する近似直線を演算する(
図4(D)の鎖線)。そして、イオン電流の強度が鎖線からそれる点を演算する(
図4(D)の○)。
(E)
図4(C)及び
図4(D)で求めた2つの○を結んだ線の傾き(
図4(E)の点線)を演算する。
【0032】
図5は、イオン電流の値から傾きを解析する方法の他の例を示す図で、具体的手順は以下のとおりである。
(A)
図4(A)と同様である。
(B)
図4(B)と同様である。
(C)サンプルが測定領域に入った時のイオン電流の大きな下向きの変化とベースラインが交わる点(
図5(C)の△)、サンプルが測定領域から出た時のイオン電流の大きな上向きの変化とベースラインが交わる点(
図5(C)の□)を演算する。
(D)サンプルが測定領域に入った時のイオン電流の大きな下向きの変化とベースラインが交わる点(
図5(C)の△)を通り、イオン電流の大きな下向きの変化に近似する近似直線を演算する(
図5(D)の左側の鎖線)。そして、イオン電流の強度が鎖線からそれる点を演算する(
図5(D)の左側の○)。
また、サンプルが測定領域から出た時のイオン電流の大きな上向きの変化とベースラインが交わる点(
図5(C)の□)を通り、イオン電流の大きな上向きの変化に近似する近似直線を演算する(
図5(D)の右側の鎖線)。そして、イオン電流の強度が鎖線からそれる点を演算する(
図5(D)の右側の○)。
(E)
図5(D)で求めた2つの○を結んだ線の傾き(
図5(E)の点線)を演算する。
【0033】
なお、
図4及び
図5に示すイオン電流の値から傾きを解析する方法は単なる例示であって、その他の方法で解析してもよい。また、後述する実施例で示すとおり、解析部5(解析工程)は、傾きの解析に加え、個々のサンプルから傾きを解析した際の標準偏差、サンプルの体積分布について解析を行ってもよい。また、傾きは、
図4及び
図5に示す方法で解析した傾きをそのまま用いてもよいし、傾きをサンプルの体積で割った値を用いてもよい。傾きをサンプルの体積で割った値を用いると、サンプルの大きさにばらつきがある場合の分析に有用である。
【0034】
解析部5は、パソコン等のコンピュータを接続することで形成してもよいし、デバイス1にCPU等の演算手段を組み込んで形成してもよい。
【0035】
図6は、分析方法の原理を説明するための図である。
図6(A)はサンプルが非生物サンプルの場合、
図6(B)はサンプルが生物サンプルの場合、のイオン電流の強度の変化を示している。サンプルが測定領域を通過する際、サンプルが大きいほどイオン電流の強度の変化幅(ベースラインとの距離)が大きくなる。そして、サンプルが測定領域を通過している間は、サンプルの大きさに変化がなければ、イオン電流の強度は、
図6(A)に示すとおり通常同じである。しかしながら、本発明者らは、サンプルが生物サンプルの場合、サンプルが測定領域を通過する間にイオン電流の強度が変化する(傾く)ことを新たに見出した。生物サンプルが測定領域を通過する間にイオン電流の強度が傾く理由は、移動部3にかかる電場の影響により、サンプルに穿孔が形成され、サンプルの内容物が外に漏れだすことで、移動部3に満たされる溶液中のイオン量が変化したためと考えられる。したがって、実施形態に係るデバイス又は分析方法で分析が可能な生物サンプルとしては、電圧をかけることで穿孔が形成されるものであれば特に制限はなく、細菌、酵母、細胞等が挙げられる。
【0036】
従来の微小サンプルの測定用デバイスは、サンプルの測定感度を挙げるため、測定領域の体積は少ない(測定領域が短い)方が好ましいとされてきた。しかしながら、
図6に示すように、実施形態に係るデバイス又は分析方法では、サンプルが測定領域を通過した時のイオン電流の傾きを解析している。したがって、誤差を少なくするためには、測定領域は所定の長さがあることが好ましい。例えば、測定対象サンプルの大きさ(
図5(D)の左側の○とベースラインの電流値の差が粒子の体積と比例関係を持つことをもとに演算した平均粒子径)を1とした場合、測定領域の長さは、40〜80とすることが好ましく、60〜80とすることがより好ましい。40より短いと傾きを計算する領域が少なくなり、傾きを解析し難くなる。一方、80より長いと測定領域の全体の抵抗値が大きくなり、サンプルが測定領域に入った時の抵抗値の変化が相対的に小さくなり、その結果、イオン電流の下向きの変化が小さくなるため好ましくない。測定領域の長さは、
図2に示す製造工程において、フォトマスクの形状で調節することができる。
【0037】
次に、数理モデルを用いた解析方法について、説明する。
図7は、数理モデルを構築するにあたっての概念図である。
図7Aは、サンプルが測定領域(Lは測定領域の長さを表す)を通過する際に、サンプルから電荷を有する内容物Qが外に漏出する場合の概念図である。一方、
図7Bは、ポリスチレン等、サンプルが測定領域を通過する際に、サンプルから電荷を有する内容物Qが外に漏出しない場合の概念図である。また、tはサンプルが移動部(測定領域)を移動する時間軸を表し、t
1はサンプルの頭部が測定領域に到達する時間、t
2はサンプル尾部が測定領域に到達する時間、t
3はサンプル頭部が測定領域の出口に到達する時間、t
4はサンプル尾部が測定領域の出口に到達する時間、を表す。
【0038】
そして、電場が存在するバッファー溶液中において、荷電粒子が一定速度vで移動するときの運動方程式、測定領域(断面積S、長さL)のイオン電流密度、時刻tにおける荷電量Q等を総合的に勘案し、t
1<t<t
2、及び、t
2<t<t
3におけるイオン電流等の数理モデルを構築した。
【0040】
本明細書において、「数理モデル」と記載した場合、少なくとも上記式(3)〜(5)を意味し、必要に応じて上記式(1)及び(2)を加えてもよい。そして、解析部(解析工程)は、上記数理モデルを用いて、以下の手順で解析を行う。
・実験の際の実測値である、t
1、t
2、I
1、I
2を式(3)〜(5)に代入する。また、用いたサンプルの半径(a)及びバッファー溶液の電荷密度を式(3)〜(5)に代入する。
・上記値を数理モデルに代入することで、v、β、ζを計算する。なお、本実施形態では、t
2<t<t
3のデータを数理モデルにより解析をしているが、t
1<t<t
2のデータからサンプルの移動速度vを求める場合は、実測値であるI
1、I
2の値を式(1)〜(2)に代入してvについて解けばよい。
・上記式(3)の変数であるγ、式(4)の変数であるQ
0を調整し、測定したイオン電流の値と上記式(3)が、t
2<t<t
3の区間で最小二乗フィットするγ及びQ
0を求める。
・同じ種類のサンプルであれば、サンプルから漏出するイオン量は同じになると推定できる。一方、異なる種類のサンプルであれば、サンプルから漏出するイオン量は異なると推定できる。そのため、サンプルの種類が異なれば、t
2<t<t
3の区間で最小二乗フィットするγ及びQ
0の値も異なる。したがって、γ及びQ
0の値を比較することで、サンプルの種類を判別できる。
【0041】
次に、機械学習を用いた解析方法について説明する。機械学習を用いた解析は、同じ種類のサンプルから測定したイオン電流の値を複数準備し、公知の機械学習手順を用いてサンプルを判別するための判別基準等を抽出し、アルゴリズムを発展させる方法で行えばよい。例えば、測定したイオン電流の値を機械学習する方法としては、国際公開第2017/110753号、特開2017−120257号公報等を参照することができる。
【0042】
記憶部6は、解析した傾き、更に、必要に応じて、傾きの標準偏差、サンプルの体積分布、傾きをサンプルの体積で割った値等、数理モデル及びサンプル種類に応じた変数であるγ、Q
0等の値、機械学習のアルゴリズム等を記憶できれば特に制限はなく、公知の揮発性メモリ、不揮発性メモリ等を用いればよい。
【0043】
判別部7は解析部5で解析した解析結果と、記憶部6に記憶したデータを対比し、サンプルの種類を判断できれば特に制限はなく、CPU等が挙げられる。例えば、解析部5で解析した傾きと、記憶部6に記憶した傾きとを対比し、サンプルの種類を判別すればよい。判別部7は、必要に応じて、傾きの標準偏差、サンプルの体積分布、傾きをサンプルの体積で割った値等に基づき、サンプルの判別を行ってもよい。また、数理モデルに基づき解析を行う場合は、解析した変数γ、Q
0と、記憶部6に記憶した変数γ、Q
0とを対比し、サンプルの種類を判別すればよい。また、機械学習に基づき解析を行う場合は、記憶部6に記憶した機械学習のアルゴリズムにより測定したイオン電流の値を解析し、測定したサンプルの種類を判別部7で判別すればよい。
【0044】
駆動部8の第3電極81及び第4電極82は、第1電極41及び第2電極42と同様の材料で形成すればよい。また、駆動部8に含まれる電圧印加手段83も、測定部4の電圧印加手段44と同様の直流電圧源を用いればよい。なお、上記のとおり、生物サンプルに電圧を印加すると、生物サンプルに穿孔が形成されると考えられる。
図1に示す駆動部8は、第3電極81をサンプル投入部31に挿入し、第4電極82をサンプル回収部32に挿入している。そのため、電圧印加手段83により移動部3に電圧を印加することで、サンプルが電界から受ける力により投入したサンプルをサンプル投入部31からサンプル回収部32に輸送(泳動)させる作用と、サンプルが生物サンプルの場合は、生物サンプルに穿孔を生じさせる作用を奏する。なお、駆動部8の電圧印加手段83は、印加する電圧の大きさを調整可能としてもよい。調整可能な電圧印加手段83としては、市販されている電圧調整が可能な直流電圧源を用いてもよいし、電池を用いる場合は、複数の電池を直列で接続すればよい。電圧を調整することで、生物サンプルの穿孔の形成程度を調整できると考えられる。なお、駆動部8における電圧印加手段83の向き(+、−の向き)は
図1に示す方向に限定されず、サンプルの表面電荷に応じて逆方向としてもよい。又は、電圧印加手段83の向きは固定し、サンプル回収部32をサンプル投入部として用い、サンプル投入部31をサンプル回収部として用いてもよい。電圧印加手段83の向きを
図1に示す向きと逆にした場合は、移動部3中の測定領域の電位差と、固定抵抗46の両端の電位差を釣り合った状態にするために、電圧印加手段44の向きも逆にすればよい。
【0045】
なお、
図1に示す駆動部8は、サンプルの駆動と穿孔の2つの作用を同時に実施できるので好ましい形態ではあるが、サンプルが移動部3を移動し穿孔が形成できれば特に制限はない。例えば、シリンジポンプ等を用いて移動部3をサンプルが移動できるようにするとともに、測定領域に電圧を印加する電極を形成することで、測定領域において生物サンプルに穿孔を形成してもよい。
【0046】
なお、サンプルを分散する緩衝液については、濃度が濃すぎると、生物サンプルに穿孔が形成され内容物が外に漏れ出しても、イオン電流の測定値に反映しにくくなることが想定される。したがって、緩衝液の濃度は、投入したサンプルをサンプル投入部31からサンプル回収部32に移動させる作用を奏する範囲内で、可能な限り薄くする等、適宜調節することが好ましい。
【0047】
図8は、デバイスの実施形態のその他の例を示す図である。
図8中、
図1と同じ番号は同じ機能を有する構成要素を意味する。
図8に示すデバイス1−1は、基板2上に移動部3(流路)を形成することに代え、基板23に測定領域に相当する貫通孔(ナノポア)24を形成し、基板23の一方の面側の少なくとも貫通孔24を含む面とで緩衝液を充填する第1チャンバーを形成できる第1チャンバー部材25、基板23の他方の面側の少なくとも貫通孔24を含む面とで緩衝液を充填する第2チャンバーを形成できる第2チャンバー部材26とで、移動部3を形成している。デバイス1−1は、更に、測定部9、解析部5を少なくとも含んでいる。また、必要に応じて、記憶部6、判別部7を設けてもよい。なお、
図8に示す実施形態では、解析部5と測定部9とは回路で繋がっていないが、
図1に示す実施形態と同様に測定部9と解析部5を回路で繋いでもよい。
【0048】
第1チャンバー部材25及び第2チャンバー部材26は、電気的および化学的に不活性な材料で形成することが好ましく、例えば、ガラス、サファイア、セラミック、樹脂、ゴム、エラストマー、SiO
2、SiN、Al
2O
3などが挙げられる。
【0049】
第1チャンバー部材25及び第2チャンバー部材26は、貫通孔24を挟むように形成されて、第1チャンバーに投入したサンプルが、貫通孔24を通り第2チャンバーに移動できるように形成されている。なお、図示はしていないが、第1チャンバー部材25及び第2チャンバー部材26には、緩衝液及びサンプル液を充填・排出、電極及び/又はリードを挿入するための孔を必要に応じて形成してもよい。
【0050】
測定部9は、第1チャンバー内の緩衝液と接する箇所に形成された第5電極91、第2チャンバー内の緩衝液と接する個所に形成された第6電極92、電流計93を少なくとも含んでいる。第5電極91及び第6電極92を形成する材料は、第1電極41及び第2電極42と同じでよい。第1電91及び第6電極92は、貫通孔24を挟むように形成し、直流電流を印加することで緩衝液中のイオンを輸送する。したがって、第5電極91は、第1チャンバー内の緩衝液に接する場所に形成されていればよく、基板23の面上、第1チャンバー部材25の内面、又は第1チャンバー内の空間にリードを介して配置すればよい。第6電極92も第5電極91と同様に、第2チャンバー内の緩衝液に接する場所に形成されていればよく、基板23の面上、第2チャンバー部材26の内面、又は第2チャンバー内の空間にリードを介して配置すればよい。なお、
図8に示す例では、第5電極91は第1チャンバー部材25の内面に、第6電極92は第2チャンバー部材26の内面にそれぞれ形成されているが、第5電極91及び第6電極92は、第1チャンバー部材25及び第2チャンバー部材26に形成した孔から挿入してもよい。
【0051】
第5電極91は、リードを介して電源94、アース95に接続している。第6電極92は、リードを介して電流計93、アース96に接続している。なお、
図8に示す例では、電源94は第5電極91側に、電流計93は第6電極92側に接続しているが、電源94と電流計93は、同じ電極側に設けてもよい。
【0052】
電源94は、第5電極91及び第6電極92に直流電流を通電できるものであれば特に制限はなく、電圧印加手段83と同様の直流電圧源を用いればよい。電流計93は、第5電極91及び第6電極92に通電した際に、発生するイオン電流を経時的に測定できるものであれば特に制限はなく、電流計43と同様に、市販の電流計を用いればよい。なお、
図8には図示していないが、必要に応じてノイズ除去回路や電圧安定化回路等を設けてもよい。
【0053】
デバイス1−1の貫通孔24をサンプルが通過すると、貫通孔24を流れているイオン電流がサンプルにより遮断され、イオン電流が減少し、
図3と同様にイオン電流が変化する。イオン量の経時変化は、解析部5で上記と同様に解析すればよい。なお、
図8に示すデバイスは、貫通孔24がイオン量の経時変化を解析するための測定領域に相当する。所期の測定領域の長さとするためには、基板23の厚さを適宜調節すればよい。
【0054】
デバイス1−1はデバイス1と異なり、測定部9は駆動部の役割も果たすことから、別途駆動部を設けなくてもイオン電流の値を測定することができる。勿論、デバイス1−1においても、駆動部と測定部を別々に設けてもよい。その場合、貫通孔24を挟むように
図1と同様の測定部4の第1電極41と第2電極42を設け、駆動部8の第3電極を第1チャンバーの貫通孔24以外の部分、第4電極82を第2チャンバーの貫通孔24以外の部分に形成すればよい。
【0055】
基板23は、半導体製造技術の分野で一般的に用いられている電気絶縁性の材料であれば特に制限は無い。例えば、Si、Ge、Se、Te、GaAs、GaP、GaN、InSb、InP、SiN等が挙げられる。また、基板23は、SiN、SiO
2、HfO
2等の材料を用い、固体メンブレンと呼ばれる薄膜状、または、グラフェン、酸化グラフェン、二酸化モリブデン(MoS
2)、窒化ホウ素(BN)等の材料を用い、2次元材料と呼ばれるシート状に形成してもよい。貫通孔24は、貫通孔24を形成する部分を電子線描画法により描画を行い、反応性イオンエッチング等により形成すればよい。
【0056】
図9(A)は、サンプルの分析方法の手順の一例を示すフローチャートである。
1.緩衝液に分散したサンプルを、デバイス1(1−1)に投入する(S100)。
2.サンプルが移動部を移動した時のイオン電流の値を測定する(S110)。
3.測定したイオン電流の値から、イオン量の経時変化(例えば傾き、数理モデルを用いた変数)を解析する(S120)。
【0057】
上記の工程により解析したイオン量の経時変化から、サンプルが生物サンプルであるのか、或いは、非生物サンプルであるのか判別できる。
【0058】
図9(B)は、サンプルの分析方法の手順の他の例を示すフローチャートである。
図9(B)に示す手順では、
3.(S120)において、経時変化として傾きを解析し、傾きの解析に加え、必要に応じて、傾きの標準偏差、サンプルの体積分布、傾きをサンプルの体積で割った値も解析する。
4.解析した傾き、傾きの標準偏差、サンプルの体積分布、傾きをサンプルの体積で割った値等を、予め解析した各種サンプルのイオン電流の値から解析した傾き、傾きの標準偏差、サンプルの体積分布、傾きをサンプルの体積で割った値等と対比し、サンプルの種類を判別する(S130)。
【0059】
後述する実施例に示すとおり、サンプルの種類に応じて、傾きの標準偏差、サンプルの体積分布等が異なる。したがって、
図9(B)に示す分析方法では、生物サンプルの種類も判別できる。また、数理モデルを用いて変数γ、Q
0を求める方法や機械学習を用いた方法でも、生物サンプルの種類を判別できる。
【0060】
以下に実施例を掲げ、実施形態を具体的に説明するが、この実施例は具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は、本願で開示する発明の範囲を限定、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0061】
〔デバイス1の作製〕
<実施例1>
以下の手順により、デバイス1を作製した。
(1)厚さ600μmのシリコン基板2(フェローテックシリコン社製 直径76mm)を準備した。
(2)ネガ型フォトレジストSU−8 3005(MICRO CHEM社製)をスピンコータにより塗布した。
(3)フォトリソグラフィにより、移動部を形成する箇所に光が照射するように、フォトマスクを用いて露光した。露光後は、SU−8 developer(MICRO CHEM社製)を用いてレジストを現像した。現像後は、超純水を用いてリンスし、スピンドライヤーで水分を飛ばし乾燥させ、鋳型を作製した。
(4)作製した鋳型に、ポリジメチルシロキサン(東レ社製、SILPOT184)を流し込み、硬化させた。
(5)硬化したPDMSを鋳型から取り外し、次いで、市販のカバーガラス(厚み:0.17mm)をPDMSに密着させた。
図10は、作製した基板の写真で、移動部3の長さは150μm、幅は3.0μm、深さは8.2μmであった。第1測定流路33及び第2測定流路34の深さは8.2μm、移動部3との接続部分の長さは3.0μmで、移動部3と第1測定流路33の角度は約60°であった。また、移動部3を挟んだ第2測定流路34と第1測定流路33の位置のズレ(第1測定流路33の端部と第2測定流路34の端部の長さ)は、80μmであった。サンプル投入部31及びサンプル回収部32の深さは8.2μmであった。
(6)次に、駆動部8を作製した。第3電極81及び第4電極82は、電線(オヤイデ電気社製FTVS−408)の皮を剥いで金属部分を露出させて作製した。電圧印加手段83は、電池を挿入した電池ボックス(誠南工業社製)を用いた。第3電極81はサンプル投入部31に、第4電極82サンプル回収部32に挿入した。
(7)次に、測定部4を作製した。第1電極41及び第2電極42は、電線(オヤイデ電気社製FTVS−408)の皮を剥いで金属部分を露出させて作製した。増幅手段は、FEMTO社製Variable Gain Low Noise Current Amplifierを用いた。電圧印加手段44は、電池を挿入した電池ボックス(誠南工業社製)を用いた。可変抵抗45は、BI Technologies社製精密ポテンションメーターを用いた。電流計43は、増幅手段で増幅したシグナルをUSB−DAQ(National Instruments社製)を用いてPC用の電気信号に変換し、Lab View(National Instruments社製)を用いて作成したソフトウェアで読み取った。固定抵抗46は、金属皮膜抵抗(1kΩ パナソニック製)を用いた。第1電極41は第1測定流路33に、第2電極42は第2測定流路34に挿入した。
【0062】
〔デバイス1を用いた測定1:非サンプルとサンプルの比較〕
<実施例2>
5×TBEバッファー(Life Technologies社製のTiris、和光社製のホウ酸、及び和光社製のEDTAが、それぞれ、0.45M、0.45M、及び0.01Mとなるように蒸留水に溶解させたもの)に、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus;ATCC 700699)及び蛍光マイクロビーズ(Polyscience社製Fluoresbrite)を分散することで、非生物サンプルと生物サンプルの混合サンプル液を作製した。黄色ブドウ球菌は、細胞膜染色試薬FM1−43(サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific Inc.)社製)を混合サンプル液に加えることで染色した。なお、黄色ブドウ球菌及び蛍光マイクロビーズの大きさは、ほぼ同じ(直径約1μm)である。次に、5×TBEバッファーを毛管現象により移動部(流路)に導入し、作製したサンプル液30μlをサンプル投入部31に投入し、駆動部8に50Vの電圧を印加した。また、測定部4には、18Vの電圧を印加した。可変抵抗45を操作し、駆動部8及び測定部4の見かけ上の抵抗を釣り合った状態にし、サンプルが移動部3を移動した際のイオン電流の値を測定した。
【0063】
図11(A)は測定したイオン電流の値の生データ、
図11(B)は黄色ブドウ球菌のイオン電流の値、
図11(C)は蛍光マイクロビーズのイオン電流の値を示している。また、
図11(B)に黄色ブドウ球菌の蛍光顕微鏡写真、
図11(C)に蛍光マイクロビーズの蛍光顕微鏡写真も併せて示す。なお、測定領域をサンプルが通過する際のシグナルは、測定と同時に蛍光顕微鏡で観察することで、黄色ブドウ球菌又は蛍光マイクロビーズの何れのシグナルであるのか確認を行いながら測定した。
図11(D)は
図11(B)及び
図11(C)の測定結果を20個ずつ重ね合わせたイオン電流の値を示している。
図11(D)から明らかなように、非生物サンプル(蛍光マイクロビーズ)と生物サンプル(黄色ブドウ球菌)では、サンプルが測定領域を通過する際の傾きが明らかに違うことを確認した。
【0064】
〔デバイス1を用いた測定2:生物サンプルの比較〕
<実施例3>
サンプルとして、以下の菌を用いた以外は、実施例2と同様にイオン電流の値を測定し、それぞれ、測定結果を20個重ね合わせた。
(A)表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis;ATCC 14990)
(B)実施例2と同様の黄色ブドウ球菌(ただし、染色をしていない。)
(C)殺菌(熱変性)した黄色ブドウ球菌(上記黄色ブドウ球菌を、オートクレーブを用120℃で20分加熱した。)
【0065】
図12(A)は表皮ブドウ球菌、
図12(B)は黄色ブドウ球菌、
図12(C)は熱変性した黄色ブドウ球菌、の測定結果を示している。
図12(A)〜(C)の結果から、菌の状態(生菌または殺菌)にかかわらず、測定領域を通過する際のイオン電流は傾きを示した。この結果から、生物サンプルの場合、生死の状態にかかわらず、非生物サンプルと区別できることが明らかとなった。
【0066】
〔デバイス1を用いた測定3:データ解析の例〕
<実施例4>
図13(A)は、実施例2で測定した黄色ブドウ球菌の体積を横軸、電流[pA]/時間[ms]を縦軸にプロットした図である。なお、横軸の体積は
図5(D)の左側の○とベースラインの電流値の差が粒子の体積と比例関係を持つことをもとに演算した値である。また、縦軸の傾き(slope angle)は
図4に示す手順で求めた値で、電流[pA]/時間[ms]は傾きの単位(単位時間当たりの電流値の変化)を表す。したがって、
図13(B)及び(C)に示すように、細菌の大きさが異なる場合であっても、傾きを体積で割ることで、
図13(D)に示すように同じように比較できることが明らかとなった。
【0067】
〔デバイス1を用いた測定4:様々な細菌の判別〕
<実施例5>
サンプルとして、以下の菌を用いた。
(A)実施例3と同様の表皮ブドウ球菌。グラム陽性。球菌。
(B)実施例3と同様の黄色ブドウ球菌。グラム陽性。球菌。
(C)枯草菌(Bacillus subtilis;ATCC 6633)。グラム陽性。桿菌。
(D)大腸菌(Escherichia coli;タカラバイオ社製JM109)。グラム陰性。桿菌。
各サンプルは、実施例2と同様の手順でイオン電流の値を測定した。そして、個々の菌について、
図4に示す手順で傾きを解析し、横軸をサンプルの体積、縦軸を[傾き/サンプルの体積]としてプロットした。
【0068】
図14(A)〜(D)は、上記サンプル(A)〜(D)のプロットと[傾き/サンプルの体積]の分布、
図14(E)は各サンプルの[傾き/サンプルの体積]、
図14(F)は各サンプルの[傾き/サンプルの体積]のばらつき(標準偏差)を表す。
図14(E)に示すように、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、及び枯草菌(B.subtilis)は、[傾き/サンプルの体積]のみを見た場合は、サンプルの判別は困難であるが、標準偏差(サンプルのばらつき)及び/又はサンプルの体積分布も併せて対比することで、細菌の種類を判別できることが明らかとなった。
【0069】
また、
図14(A)及び(B)の球菌と、
図14(C)及び(D)の桿菌とでは、
図14(A)〜(D)に示すプロット及び
図14(F)に示す標準偏差から明らかなように、球菌の方が[傾き/サンプルの体積]のばらつきが大きかった。この結果より、[傾き/サンプルの体積]及び標準偏差を解析することで、サンプルが球菌であるのか、或いは、桿菌であるのか判別することもできる。
【0070】
更に、
図14(E)に示すように、グラム陰性菌である大腸菌の[傾き/サンプルの体積]の値は、グラム陽性菌である表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌及び枯草菌の値より、大きかった。細菌の細胞表層の膜厚は、グラム陰性菌の場合は10nm程度、グラム陽性菌の場合は10〜100nm程度である(青木健次編著、「基礎生物学テキストシリーズ4 微生物学」、第4版、(株)化学同人、2010年9月20日、p55−56)。グラム陰性菌の方が[傾き/サンプルの体積]の値が大きかった理由として、細胞膜が薄いことから、駆動部により電場をかけることでグラム陽性菌より細胞膜に穿孔があきやすく、細胞内物質が移動部により多く漏れ出したためと考えられる。
【0071】
〔デバイス1を用いた測定5:数理モデルを用いた解析〕
<実施例6>
サンプルとして、以下の菌を用いた。
(A)実施例5と同様の枯草菌。
(B)実施例5と同様の大腸菌。
(C)実施例2と同様の黄色ブドウ球菌。
(D)バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(ATCC 700699)
各サンプルは、実施例2と同様の手順でイオン電流の値を測定した。
図15(A)乃至(D)は、順に、枯草菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌のイオン電流の測定結果を示すグラフである。
【0072】
次に、以下の数理モデルに、表1に示す実測値、定数を代入し、t
2<t<t
3の区間で最小二乗フィットするγ及びQ
0を求めた。なお、求めたγ及びQ
0の値も表1に示す。
【0073】
【数4】
【0074】
【表1】
【0075】
なお、上記表1の中で、t
1、t
2、I
1、I
2は実測値、aは黄色ブドウ球菌の大きさを基準として決定したサンプルの半径、ρ
0は5×TBEバッファーから見積もられる電解質の電荷密度、v、βおよびζは前述の値を数理モデルに代入して得られる計算値である。ここで、aの値は、サンプルに依らず一定値としている。aの値を一定値とした場合、サンプルのイオン電流の変化を測定し、測定結果から求めた最小二乗フィットするγ及びQ
0は、aの値を基準値とした相対的な値として得られる。相対的なγ及びQ
0の値は、サンプルが同じであれば同じ値になり、サンプルが異なれば異なる値となる。したがって、aの値を一定値としても、サンプルの判別に支障はない。勿論、サンプルの大きさを正確に測定できる場合は、aとして実際のサンプルの大きさを代入してもよい。
【0076】
上記表1に示すように、最小二乗フィットするためのγ及びQ
0の値は、枯草菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌で明らかに異なっており、数理モデルを用いた解析でも、異なる種類のサンプルの判別ができた。
【0077】
なお、薬剤耐性菌は、マイクロ流路や孔をサンプルが通過する際のイオン電流の変化では判別できず、DNAを用いた判別法が一般的に用いられてきた。一方、本明細書で開示する方法により、薬剤耐性を獲得したバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌の判別ができた。その理由としては、黄色ブドウ球菌はバンコマイシン耐性を獲得した後は細胞壁が厚くなることが知られており、黄色ブドウ球菌とバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌が移動部を移動する際に、穿孔から漏出するイオン量が異なり、漏出したイオン量の差を解析できたためと考えられる。
【0078】
以上のとおり、測定領域を通過する際のイオン電流の値を測定するデバイスを用いたサンプルの分析方法において、測定領域を通過する際のサンプルから漏出したイオン量も含めてイオン量の経時変化を解析することで、より詳細な分析ができることが明らかとなった。