【文献】
A.Aurola, V.marochkin, M.Goloveva, T.Tuuva,Novel silicon drift detector design enabling low dark noise and simple manufacturing,Journal of Instrumentation, Institute of Physics Publishing,英国,Institute of Physics Publishing,2015年 2月26日,10 C02047,1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
板状の半導体部を備え、該半導体部の一面に、信号を出力するための信号出力電極と、該信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の曲線状電極とが設けられた半導体検出器において、
前記半導体部に発生する電荷を収集するための収集電極を備え、
前記複数の曲線状電極は、前記半導体部内に前記信号出力電極に向かって電位が変化する電位勾配が生成されるように、電圧が印加され、
前記収集電極は、隣接する一対の曲線状電極の間に位置する前記半導体部の一部分に、前記一対の曲線状電極に沿った弧状に埋め込まれており、前記一部分に接触した状態で設けられていること
を特徴とする半導体検出器。
前記収集電極は、前記複数の曲線状電極の内で前記信号出力電極からの距離が前記信号出力電極から前記収集電極までの距離よりも短い位置にある曲線状電極に接続されていること
を特徴とする請求項1に記載の半導体検出器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の半導体検出器では、表面で収集した電荷を半導体検出器外へ流すためのボンディングパッドを表面に設けてある。表面の電荷を半導体検出器外へ流すことにより、表面電流が低減され、ノイズが低減される。しかしながら、ボンディングパッドを表面に設ける場合、ボンディングによるダメージで半導体検出器の作成の歩留まりが低下するという問題がある。また、特許文献1に開示されたリバー構造を有するSDDでは、SiO
2の作成状態によってSiとSiO
2 との界面の状態が変わり、高い効率で電荷を収集することは困難である。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、表面電流低減のための構成が原因で歩留まりを低下させることのない半導体検出器、放射線検出器及び放射線検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る半導体検出器は、板状の半導体部を備え、該半導体部の一面に、信号を出力するための信号出力電極と、該信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の曲線状電極とが設けられた半導体検出器において、前記半導体部に発生する電荷を収集するため
の収集電極を備え、前記複数の曲線状電極は、前記半導体部内に前記信号出力電極に向かって電位が変化する電位勾配が生成されるように、電圧が印加され、前記収集電極は、隣接する一対の曲線状電極の間に位置する前記半導体部の一部分に
、前記一対の曲線状電極に沿った弧状に埋め込まれており、前記一部分に接触した状態で設けられていることを特徴とする。
【0007】
半導体部の表面に発生した電荷は弧状の収集電極によって収集され、表面電流が低減される。
【0008】
本発明に係る半導体検出器は、前記収集電極は、前記複数の曲線状電極の内で前記信号出力電極からの距離が前記信号出力電極から前記収集電極までの距離よりも短い位置にある曲線状電極に接続されていることを特徴とする。
【0009】
半導体部の表面を流れる電荷は、半導体部の表面との電位の違いによって収集電極に収集される。更に、収集電極に電位を与えるための構成を単純にすることができる。
【0012】
本発明に係る半導体検出器は、前記収集電極は、前記信号出力電極からの距離が前記信号出力電極から前記一対の曲線状電極までの距離よりも短い位置にある曲線状電極に接続されていることを特徴とする。
【0013】
収集電極に接続された曲線状電極の電位は、収集電極が設けられた位置の半導体部の表面の電位と異なる。収集電極と半導体部の表面との間に電位差が発生する。
【0014】
本発明に係る半導体検出器は、前記複数の曲線状電極は、前記信号出力電極に遠い曲線状電極から前記信号出力電極に近い曲線状電極へ向けて順々に電位が単調に変化するように電圧が印加されることを特徴とする。
【0015】
曲線状電極の電位は順々に増加又は減少し、半導体部内に電位勾配が生成される。
【0016】
本発明に係る半導体検出器は、導電材で形成されており、一部が一の曲線状電極に接して該曲線状電極の上に設けられ、他の一部が前記収集電極に連結されている導電部を更に備えることを特徴とする。
【0017】
収集電極が曲線状電極に接続され、曲線状電極に電圧を印加するための経路を通って電荷が半導体検出器外へ流れる。
【0018】
本発明に係る放射線検出器は、本発明に係る半導体検出器と、該半導体検出器が実装された回路基板と、前記半導体検出器及び前記回路基板を保持するベースプレートとを備えることを特徴とする。
【0019】
半導体検出器の構造が単純になり、半導体検出器の歩留まりが向上する。このため、半導体検出器を用いた放射線検出器のコストが低下する。
【0020】
本発明に係る放射線検出装置は、放射線を検出する本発明に係る半導体検出器と、該半導体検出器が検出した放射線のエネルギーに応じた信号を出力する出力部と、該出力部が出力した信号に基づいて、前記放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部とを備えることを特徴とする。
【0021】
半導体検出器の歩留まりが向上することにより、半導体検出器を用いた放射線検出装置のコストが低下する。
【0022】
本発明に係る放射線検出装置は、放射線を照射された試料から発生する放射線を検出する放射線検出装置において、試料へ放射線を照射する照射部と、前記試料から発生した放射線を検出する本発明に係る半導体検出器と、該半導体検出器が検出した放射線のエネルギーに応じた信号を出力する出力部と、該出力部が出力した信号に基づいて、前記放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、該スペクトル生成部が生成したスペクトルを表示する表示部とを備えることを特徴とする。
【0023】
半導体検出器の歩留まりが向上することにより、半導体検出器を用いた放射線検出装置のコストが低下する。
【発明の効果】
【0024】
本発明にあっては、収集電極に収集された電荷は、曲線状電極に電圧を印加するための経路を通って半導体検出器外へ流れる。半導体部の表面で発生する表面電流を低減するための構成が単純になる。従って、半導体検出器の歩留まりが向上し、放射線検出装置のコストが低下する等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る半導体検出器1の模式的な平面図である。
図2は、
図1中のII−II線で半導体検出器1を切断した断面構造及び半導体検出器1の電気的な接続態様を示すブロック図である。
図3は、
図1中のIII−III線で半導体検出器1を切断した模式的な断面図である。半導体検出器1は、SDDである。半導体検出器1は、Si(シリコン)からなる円板状のSi層11を備えている。Si層11の成分は例えばn型のSiである。Si層11は半導体部である。Si層11の一面の中央には、放射線検出時に信号を出力する電極である信号出力電極14が設けられている。信号出力電極14の成分は、Si層11と同じ型のSiであり、リン等の特定の不純物がドープされている。また、Si層11の一面には、多重のリング状電極(曲線状電極)12が設けられている。リング状電極12の成分は、Si層11とは異なる型のSiである。例えば、リング状電極12の成分は、ホウ素等の特定の不純物がSiにドープされたp+Siである。リング状電極12は、Si層11に接して設けられている。複数のリング状電極12はほぼ同心であり、複数のリング状電極12のほぼ中心に信号出力電極14が位置している。図中には五つのリング状電極12を示しているが、実際にはより多くのリング状電極12が設けられている。なお、リング状電極12の形状は円環が変形した形状であってもよく、多重のリング状電極12は同心でなくともよい。また、信号出力電極14は、多重のリング状電極12の中心以外の位置に配置されていてもよく、Si層11の一面の中央以外の位置に配置されていてもよい。半導体検出器1の形状はドロップレット型であってもよい。Si層11の形状は、円板状以外の形状であってもよく、正方形、長方形又は台形等の形状であってもよい。
【0027】
Si層11の他面には、バイアス電圧が印加される電極である裏側電極16がほぼ全面に形成されている。裏側電極16の成分はSi層11とは異なる型のSiである。例えば、Si層11の成分がn型のSiであれば、裏側電極16の成分はp+Siである。Si層11の一面の信号出力電極14及びリング状電極12が形成されていない部分、並びにリング状電極12の一部の上には、絶縁膜15が形成されている。絶縁膜15の成分は、例えばSiO
2 である。
図1では、絶縁膜15を省略している。裏側電極16は、電圧印加部31に接続されている。また、多重のリング状電極12の内、最も内側のリング状電極12と最も外側のリング状電極12とは、電圧印加部31に接続されている。
【0028】
電圧印加部31は、最も内側のリング状電極12の電位が最も高く、最も外側のリング状電極12の電位が最も低くなるように、電圧を印加する。また、半導体検出器1は、隣接するリング状電極12の間に、所定の電気抵抗が発生するように構成されている。例えば、隣接するリング状電極12の間に位置するSi層11の一部分の成分を調整することで、二つのリング状電極12が接続される電気抵抗チャネルが形成されている。即ち、複数のリング状電極12は、電気抵抗を介して数珠つなぎに接続されている。このような複数のリング状電極12に電圧印加部31から電圧が印加されることによって、夫々のリング状電極12は、外側のリング状電極12から内側のリング状電極12に向けて順々に単調に増加する電位を有する。即ち、リング状電極12の電位は、信号出力電極14に遠いリング状電極12から信号出力電極14に近いリング状電極12へ向けて順々に増加する。なお、複数のリング状電極12の中に、電位が同じ隣接する一対のリング状電極12が含まれていてもよい。複数のリング状電極12の電位によって、Si層11内には、段階的に信号出力電極14に近いほど電位が高く信号出力電極14から遠いほど電位が低くなる電界(電位勾配)が生成される。更に、電圧印加部31は、裏側電極16の電位が最も内側のリング状電極12と最も外側のリング状電極12との間の電位になるように、裏側電極16に電圧を印加する。このように、Si層11の内部には、信号出力電極14に近づくほど電位が高くなる電界が生成される。
【0029】
信号出力電極14には、前置増幅器21が接続されている。前置増幅器21には、主増幅器32が接続されている。半導体検出器1は、全体的に円板状になっており、裏側電極16が形成されている側の面が放射線の入射面となるように使用される。半導体検出器1の形状は、円板状以外の形状であってもよい。X線、光子一般(UV及び可視光を含む)、電子線又は他の荷電粒子線等の放射線は、裏側電極16を通過してSi層11内へ入射し、Si層11内で吸収された放射線のエネルギーに応じた量の電荷が発生する。発生する電荷は電子及び正孔である。発生した電荷は、Si層11の内部の電界によって移動し、一方の種類の電荷は、信号出力電極14へ集中して流入する。本実施形態では、信号出力電極14がn型である場合、放射線の入射によって発生した電子が移動し、信号出力電極14へ流入する。信号出力電極14へ流入した電荷は電流信号となって出力され、前置増幅器21へ入力される。前置増幅器21は、電流信号を電圧信号へ変換し、主増幅器32へ出力する。主増幅器32は、前置増幅器21からの電圧信号を増幅し、半導体検出器1へ入射した放射線のエネルギーに応じた強度の信号を出力する。主増幅器32は、本発明における出力部に対応する。
【0030】
図4は、半導体検出器1を備える放射線検出器2の模式的斜視図であり、
図5は、放射線検出器2の模式的断面図である。放射線検出器2は、円筒の一端に切頭錐体が連結した形状のハウジング25を備えている。ハウジング25の先端には、放射線を通過させる窓26が設けられている。ハウジング25の内部には、半導体検出器1と、回路基板22と、遮蔽板23と、冷却部28と、ベースプレート24とが配置されている。ベースプレート24はステムとも言う。冷却部28は例えばペルチェ素子である。半導体検出器1は、回路基板22の表面に実装されており、窓26に対向する位置に配置されている。回路基板22には、配線が形成され、前置増幅器21が実装されている。遮蔽板23は、冷却部28と回路基板22との間に配置されており、冷却部28の吸熱部分に熱的に接触している。冷却部28の放熱部分はベースプレート24に熱的に接触している。
【0031】
ベースプレート24は、冷却部28が載置されて固定される平板状の部分と、ハウジング25の底部を貫通している部分とを有している。半導体検出器1を実装した回路基板22は遮蔽板23を介在させて冷却部28に固定されており、冷却部28がベースプレート24に固定されていることによって、ベースプレート24は半導体検出器1及び回路基板22を保持している。遮蔽板23は、X線を遮蔽する材料で形成されている。遮蔽板23は、冷却部28又はベースプレート24に放射線が入射した場合に冷却部28又はベースプレート24から発生したX線を、半導体検出器1へ入射しないように遮蔽する。半導体検出器1の熱は、回路基板22及び遮蔽板23を通じて冷却部28に吸熱され、冷却部28からベースプレート24へ伝わり、ベースプレート24を通じて放射線検出器2外へ放熱される。更に、放射線検出器2は、ハウジング25の底部を貫通した複数のリードピン27を備えている。リードピン27は、ワイヤボンディング等の方法で回路基板22に接続されている。電圧印加部31による半導体検出器1への電圧の印加と、前置増幅器21から主増幅器32への信号の出力とはリードピン27を通じて行われる。
【0032】
図6は、放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。放射線検出器2には、半導体検出器1及び前置増幅器21が含まれている。電圧印加部31及び主増幅器32は、放射線検出器2の外部に配置されている。前置増幅器21は、一部が放射線検出器2の内部に含まれており、他の部分が放射線検出器2の外部に配置されていてもよい。放射線検出装置は、試料5を保持する試料保持部51と、X線、電子線又は粒子線等の放射線を試料5へ照射する照射部33と、照射部33の動作を制御する照射制御部34とを備えている。照射部33から試料5へ放射線が照射され、試料5では蛍光X線等の放射線が発生する。放射線検出器2は、試料5から発生した放射線が半導体検出器1へ入射することができる位置に配置されている。図中には、放射線を矢印で示している。前述したように、主増幅器32は、半導体検出器1が検出した放射線のエネルギーに応じた信号を出力する。主増幅器32には、出力した信号を処理する信号処理部41が接続されている。信号処理部41は、主増幅器32が出力した各値の信号をカウントし、放射線のエネルギーとカウント数との関係、即ち放射線のスペクトルを生成する処理を行う。信号処理部41は、本発明におけるスペクトル生成部に対応する。
【0033】
信号処理部41は、分析部42に接続されている。分析部42は、演算を行う演算部及びデータを記憶するメモリを含んで構成されている。信号処理部41は、生成したスペクトルを示すデータを分析部42へ出力する。分析部42は、信号処理部41からのデータを入力され、入力されたデータが示すスペクトルに基づき、試料5に含まれる元素を同定する処理を行う。分析部42は、試料5に含まれる各種の元素の量を計算する処理を行ってもよい。分析部42には、液晶ディスプレイ等の表示部44が接続されている。表示部44は、分析部42による処理の結果を表示する。また、表示部44は、信号処理部41に接続されており、信号処理部41が生成したスペクトルを表示する。更に、放射線検出装置は、全体の動作を制御する制御部43を備えている。制御部43は、電圧印加部31、主増幅器32、照射制御部34及び分析部42に接続されており、各部の動作を制御する。制御部43は、例えば、パーソナルコンピュータで構成されている。制御部43は、使用者の操作を受け付け、受け付けた操作に応じて放射線検出装置の各部を制御する構成であってもよい。また、制御部43及び分析部42は同一のコンピュータで構成されていてもよい。
【0034】
図1〜
図3に示すように、本実施形態では、隣接する一対のリング状電極12の間に位置するSi層11の一部分に接触して、電極131が設けられている。
図1には、電極131a、131b及び131cの三つの電極131が設けられた例を示している。電極131が設けられた部分には絶縁膜15が無く、電極131はSi層11の表面に接している。Si層11がn型の場合には、電極131はリン等の不純物がドーピングされた領域を含んでいる。
図1及び
図3には、リング状電極12の間隙の内で三つの間隙の夫々に電極131が設けられた例を示している。
図1に示すように、平面視で電極131の形状はドット状であり、リング状ではない。また、特定のリング状電極12の上には、導電材でなる導電部132が設けられている。リング状電極12上の導電部132が設けられた部分の一部には絶縁膜15が無く、導電部132はリング状電極12に接触している。
図1〜
図3には、三つのリング状電極12の夫々の上に導電部132が設けられている例を示している。また、導電部132の一部は、Si層11の一面に沿って外側へ延伸し、電極131に連結している。即ち、電極131は、より信号出力電極14に近いリング状電極12に導電部132を介して接続されている。電極131が接続されたリング状電極12と信号出力電極14との間の距離は、電極131と信号出力電極14との間の距離よりも短い。
図1及び
図3に示した例では、電極131が接触しているSi層11の一部分を間に挟んだ一対のリング状電極12よりも一つ内側のリング状電極12に、電極131が接続されている。この例では、電極131が接続されたリング状電極12と信号出力電極14との間の距離は、Si層11の一部分を間に挟んだ一対のリング状電極12と信号出力電極14との間の距離よりも短い。
【0035】
電極131が接触している位置でのSi層11の表面の電位は、Si層11のこの位置での部分を間に挟んだ一対のリング状電極12の内側のリング状電極12の電位に対して若干高くなっている。電極131は、より信号出力電極14に近いリング状電極12に導電部132を介して接続されているので、より信号出力電極14に近いリング状電極12と同じ電位となっている。このため、電極131の電位は、電極131が接触している位置でのSi層11の表面の電位よりも高くなっている。Si層11の表面では、SiとSiO
2 との界面に、半導体検出器1へ入射する放射線には由来しない電荷が発生する。発生する電荷は電子及び正孔である。発生した電荷は、Si層11の内部の電界によってSi層11の表面を移動し、表面電流が発生する。実際には、正孔はすぐにリング状電極12に収集され、電子は、電極131への導電経路がある場合に電極131へ流れる。表面電流を引き起こした電荷が信号出力電極14へ流入した場合は、放射線に由来しない信号が信号出力電極14から出力され、ノイズが発生する。電極131は、Si層11の表面よりも電位が高いので、Si層11の表面に発生した電子は電極131に収集される。これによって、表面電流が低減される。電極131は、本発明における収集電極に対応する。電極131に収集された電子は信号出力電極14へ流入することは無いので、放射線に由来しない電子が信号出力電極14へ流入することが抑制される。
【0036】
本実施形態に係る半導体検出器1と、電極131及び導電部132を備えていないSDDとで、信号出力電極14から出力される電流を比較する実験を行った。実験では、電圧印加部31からリング状電極12に電圧を印加し、放射線が入射していない状態で、信号出力電極14から出力される電流を測定した。
図7は、信号出力電極14から出力される電流の測定結果を示す特性図である。横軸は最も信号出力電極14から遠いリング状電極12に印加されたバイアス電圧を示し、縦軸は信号出力電極14から出力される出力電流を示す。また、本実施形態に係る半導体検出器1から得られた出力電流の測定結果を実線で示し、電極131及び導電部132を備えていないSDDから得られた出力電流の測定結果を破線で示す。
【0037】
放射線が入射していない状態で信号出力電極14から出力される出力電流には、信号出力電極14へ流入した表面電流の電子による電流が含まれる。
図7に示すように、電極131及び導電部132を備えていないSDDに比べて、本実施形態に係る半導体検出器1では、出力電流が減少している。Si層11の表面で電子が電極131に収集されることにより、表面電流が低減され、信号出力電極14へ流入する電子が減少し、出力電流が減少していることが明らかである。表面電流を引き起こす電子の信号出力電極14への流入が減少することにより、放射線に由来しない信号が信号出力電極14から出力されることが抑制され、ノイズが低減される。ノイズが低減されることにより、放射線検出の精度が向上される。
【0038】
また、
図7に示すように、電極131及び導電部132を備えていないSDDでは、バイアス電圧の絶対値の増加に応じて出力電流も増加する。電極131及び導電部132を備えていないSDDでは、バイアス電圧の絶対値の増加に応じた出力電流の増加率がX線照射量の積算値の増加に伴って増大することが確認された。このことから、電極131及び導電部132を備えていないSDDでは、X線照射によって表面電流が増大し、経年劣化が進行することが推測される。本実施形態に係る半導体検出器1では、出力電流はより小さく、また、バイアス電圧の絶対値の増加に応じた出力電流の増加率もより小さい。このため、X線照射による表面電流の増大が抑制され、経年劣化がより緩やかである。従って、本実施形態に係る半導体検出器1は、電極131で表面電流を収集することによって、経年劣化が抑制され、寿命が長くなる。半導体検出器1を備えることにより、出力する信号に含まれるノイズが小さく長寿命の放射線検出器2が得られる。
【0039】
本実施形態では、電極131に最も近いリング状電極12よりも信号出力電極14との間の距離が短いリング状電極12に電極131が接続されていることにより、Si層11の表面と電極131との電位差が大きくなり、効率良く電子が収集される。特に、電極131が接触しているSi層11の一部分を間に挟んだ一対のリング状電極12の間の位置で発生した電子は、効率的に電極131に収集される。また、複数の箇所に電極131が設けられていることにより、Si層11の表面の様々な箇所で発生する電子は複数の箇所で電極131に収集され、効果的にノイズが低減される。また、本実施形態では、SiとSiO
2 との界面の状態等の制御の難しい半導体検出器1の状態が変化したとしても、発生する電子と電極131との距離が短いので、効率良く電子が収集される。
【0040】
また、本実施形態では、電極131の形状は非リング状であるので、隣接するリング状電極12の間には電極131が設けられていない部分が存在する。収集電極がリング状である場合は、複数のリング状電極に電位差を与えるために半導体検出器の外部に回路を設ける必要があり、技術上の難易度が高く、コストが上昇する。本実施形態では、電極131が非リング状であることにより、半導体検出器1内に電気抵抗を形成する等、容易に複数のリング状電極12に電位差を与えるための構造を作ることができる。例えば、電極131が設けられていない部分に電気抵抗チャネルを形成することによって、隣接するリング状電極12の間を接続する電気抵抗を容易に形成することが可能である。
【0041】
電極131に収集された電子は、導電部132を通じてリング状電極12へ流れ、リング状電極12から電圧印加部31へ流れる。このため、収集した電子を半導体検出器1外へ流すためのボンディングパッドが不必要となる。表面電流を低減するための構成が単純になり、表面電流を低減するための構成が原因で半導体検出器1の作成の歩留まりが低下することが無くなる。このため、半導体検出器1の歩留まりが向上し、半導体検出器1のコストが低減される。従って、半導体検出器1を備えた放射線検出器2及び放射線検出装置のコストも低減される。
【0042】
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係る半導体検出器1の模式的断面図である。本実施形態では、電極131は、隣接する一対のリング状電極12の間に位置するSi層11の一部分に埋設されている。電極131は導電部132に連結されている。半導体検出器1のその他の構成は、実施形態1と同様である。また、半導体検出器1を備えた放射線検出装置の構成は、実施形態1と同様である。電極131の電位は、電極131が設けられた位置でのSi層11の電位よりも高くなっている。Si層11の表面で発生した放射線に由来しない電子は、電極131に収集される。本実施形態では、電極131がSi層11に埋設されてあることにより、電極131が単にSi層11の表面に接触している場合に比べて、より効果的に電極131に電子が収集される。放射線に由来しない電子が信号出力電極14へ流入することがより効果的に抑制され、よりノイズが低減される。また、実施形態1と同様に、収集した電子を半導体検出器1外へ流すためのボンディングパッドが不必要となり、表面電流を低減するための構成が単純となる。半導体検出器1の歩留まりが向上し、半導体検出器1のコストが低減される。
【0043】
なお、実施形態1及び2では、複数の電極131が直線状に配置された形態を示したが、複数の電極131は非直線状に配置されていてもよい。例えば、平面視で、電極131a又は131bは、電極131cと信号出力電極14とを結ぶ線に対して、電極131a又は131bと信号出力電極14とを結ぶ線が約90度の角度をなすような位置に配置されていてもよい。また例えば、電極131a、131b及び131cの夫々と信号出力電極14とを結ぶ線が互いに約120度の角度をなすような位置に電極131a、131b及び131cが配置されていてもよい。また例えば、電極131a、131b及び131cの夫々と信号出力電極14とを結ぶ線は互いにランダムな角度をなしてもよい。また、実施形態1及び2では、一対のリング状電極12の間に位置するSi層11の一部分に一つの電極131が設けられた形態を示したが、一対のリング状電極12の間に位置するSi層11の一部分に複数の電極131が設けられていてもよい。また、一つのリング状電極12に複数の電極131が接続されていてもよい。また、実施形態1及び2では、電極131に最も近い内側のリング状電極12よりも一つ内側のリング状電極12に電極131が接続されている例を示したが、電極131は、より信号出力電極14に近いリング状電極12に接続されていてもよい。この場合は、Si層11の表面と電極131との電位差がより大きくなる。
【0044】
(実施形態3)
図9は、実施形態3に係る半導体検出器1の模式的な平面図である。実施形態1及び2と同様に、Si層11の一面には、信号出力電極14と、多重のリング状電極12が設けられている。隣接する一対のリング状電極12の間に位置するSi層11の一部分に電極131が設けられている。特定のリング状電極12の上には、導電部132が設けられており、導電部132はリング状電極12に接触している。導電部132の一部が外側へ延伸して電極131に連結していることによって、電極131は、より信号出力電極14に近い位置にあるリング状電極12に導電部132を介して接続されている。電極131よりも外側に位置しているリング状電極12は、周方向に一部が分断している。一部が分断しているリング状電極12は、形状がリング状ではないが、便宜上、ここではリング状電極12と言う。Si層11の表面には、リング状電極12が分断することによってリング状電極12が設けられていない分断部分121が形成されている。半導体検出器1のその他の構成は、実施形態1又は2と同様である。また、半導体検出器1を備えた放射線検出装置の構成は、実施形態1及び2と同様である。
【0045】
実施形態1及び2と同様に、電極131の電位は、電極131が設けられている位置でのSi層11の電位よりも高くなっている。Si層11の表面では、入射する放射線に由来しない電子が発生し、発生した電子は電極131に収集される。特に、電極131が設けられているSi層11の一部分を間に挟んだ一対のリング状電極12の間の位置で発生した電子が電極131に収集される。実施形態1と同様に、放射線に由来しない電子が信号出力電極14へ流入することが抑制され、ノイズが低減される。また、実施形態1及び2と同様に、収集した電子を半導体検出器1外へ流すためのボンディングパッドが不必要となり、表面電流を低減するための構成が単純となる。半導体検出器1の歩留まりが向上し、半導体検出器1のコストが低減される。
【0046】
本実施形態では、電極131よりも外側に位置しているリング状電極12の一部が分断しているので、電極131よりも外側にあるSi層11の表面で発生した電子は、分断部121を通って、より電位が高い内側へ流れ、電極131に収集される。電極131は、より外側で発生した電子を収集することができるので、一つの電極131で電子を収集する効率が向上する。このため、本実施形態では、実施形態1及び2に比べて電極131の数を減少させることができる。
【0047】
(実施形態4)
図10は、実施形態4に係る半導体検出器1の模式的な平面図である。
図11は、
図10中のXI−XI線で半導体検出器1を切断した模式的な断面図である。
図12は、
図10中のXII−XII線で半導体検出器1を切断した模式的な断面図である。実施形態1〜3と同様に、Si層11の一面には、信号出力電極14と、多重のリング状電極12が設けられている。電極131は、隣接する一対のリング状電極12の間に位置するSi層11の一部分に埋設されている。特定のリング状電極12の上には、導電部132が設けられており、導電部132はリング状電極12に接触している。導電部132は、外側へ延伸した延伸部133に連結されている。延伸部133は導電性である。延伸部133は電極131に連結されている。即ち、電極131は、より信号出力電極14に近いリング状電極12に延伸部133及び導電部132を介して接続されている。
図10では、電極131、導電部132及び延伸部133をハッチングで示している。
図10に示すように、導電部132は、他の導電部132に連結された延伸部133と平面視で重ならないような形状になっている。
図11及び
図12に示すように、延伸部133とSi層11及びリング状電極12との間には、絶縁膜15が設けられている。
図10では、絶縁膜15を省略している。
【0048】
図10に示すように、平面視で電極131の形状は弧状である。例えば、平面視で電極131の形状は、リングの周方向の一部が分断した形状になっている。隣接する一対のリング状電極12の間に位置するSi層11の一部分には、一対のリング状電極12の間に電極131が全く存在していない非電極部17が含まれている。非電極部17には、例えば、一対のリング状電極12の間に接続される電気抵抗チャネルが設けられている。非電極部17には、電気抵抗チャネルが設けられていなくてもよい。
図11及び
図12に示すように、電極131は、延伸部133と連結されている部分以外の部分は、絶縁膜15で覆われている。半導体検出器1のその他の構成は、実施形態1又は2と同様である。また、半導体検出器1を備えた放射線検出装置の構成は、実施形態1及び2と同様である。
【0049】
実施形態1〜3と同様に、電極131の電位は、電極131が設けられた位置でのSi層11の電位よりも高くなっている。Si層11の表面で発生した放射線に由来しない電子は、電極131に収集される。実施形態1〜3と同様に、放射線に由来しない電子が信号出力電極14へ流入することが抑制され、ノイズが低減される。また、実施形態1〜3と同様に、収集した電子を半導体検出器1外へ流すためのボンディングパッドが不必要となり、表面電流を低減するための構成が単純となる。半導体検出器1の歩留まりが向上し、半導体検出器1のコストが低減される。
【0050】
本実施形態では、電極131の形状が弧状になっているので、形状がドット状である場合に比べて、Si層11のより多くの部分が電極131に接触している。このため、Si層11の表面で発生した放射線に由来しない電子は、より確実に電極131に収集される。また、電極131の形状がリング状ではなく、弧状であることによって、隣接する一対のリング状電極12の間に位置するSi層11の一部分には、非電極部17が含まれている。非電極部17に、一対のリング状電極12が接続される電気抵抗チャネルが設けられている場合は、電極131と電気抵抗チャネルが重なり合うことが無くなる。重なり合った電極131と電気抵抗チャネルとの間で電荷が相殺することが無く、電極131と電気抵抗チャネルとは互いに影響を及ぼさずに機能する。
【0051】
(実施形態5)
図13は、実施形態5に係る半導体検出器1の模式的な平面図である。実施形態1〜4と同様に、Si層11の一面には、信号出力電極14と、多重のリング状電極12が設けられている。複数の電極131が、隣接する一対のリング状電極12の間に位置するSi層11の一部分に設けられている。
図13には、隣接する一対のリング状電極12の間に三個の電極131が設けられた例を示している。隣接する一対のリング状電極12の間に設けられた電極131の数は、二個であってもよく、四個以上であってもよい。電極131の形状は平面視でドット状である。なお、電極131の形状は平面視で弧状であってもよい。
【0052】
特定のリング状電極12の上には、導電部132が設けられており、導電部132はリング状電極12に接触している。導電部132は、外側へ延伸した延伸部133に連結されている。延伸部133は導電性である。隣接する一対のリング状電極12の間に設けられた複数の電極131は、複数の延伸部133に1対1に連結されている。即ち、各電極131は、個別に、より信号出力電極14に近いリング状電極12に延伸部133及び導電部132を介して接続されている。半導体検出器1のその他の構成は、実施形態1又は2と同様である。
図13では、絶縁膜15を省略している。また、半導体検出器1を備えた放射線検出装置の構成は、実施形態1及び2と同様である。
【0053】
実施形態1〜4と同様に、電極131の電位は、電極131が設けられた位置でのSi層11の電位よりも高くなっている。Si層11の表面で発生した放射線に由来しない電子は、電極131に収集される。実施形態1〜4と同様に、放射線に由来しない電子が信号出力電極14へ流入することが抑制され、ノイズが低減される。また、実施形態1〜4と同様に、収集した電子を半導体検出器1外へ流すためのボンディングパッドが不必要となり、表面電流を低減するための構成が単純となる。半導体検出器1の歩留まりが向上し、半導体検出器1のコストが低減される。
【0054】
本実施形態では、隣接する一対のリング状電極12の間に複数の電極131が設けられているので、電極131が単数である場合に比べて、より多くの位置で電荷が電極131に収集される。このため、Si層11の表面で発生した放射線に由来しない電子は、より確実に電極131に収集される。また、各電極131が弧状である形態では、Si層11のより多くの部分が電極131に接触し、Si層11の表面で発生した放射線に由来しない電子は、更に確実に電極131に収集される。
【0055】
なお、以上の実施形態1〜5では、半導体部(Si層11)がn型半導体でなりリング状電極12がp型半導体でなる例を示したが、半導体検出器1は、半導体部がp型半導体でなりリング状電極12がn型半導体でなる形態であってもよい。また、実施形態1〜5では、放射線により発生した電子が信号出力電極14へ集中して流入する形態を主に示したが、半導体検出器1は、放射線により発生した正孔が信号出力電極14へ集中して流入する形態であってもよい。この形態では、電圧印加部31は、信号出力電極14に遠いリング状電極12から信号出力電極14に近いリング状電極12へ向けて順々に電位が単調に減少し、裏側電極16の電位が最も内側のリング状電極12と最も外側のリング状電極12との間の電位になるように電圧を印加する。Si層11の表面では、SiとSiO
2 との界面で発生した正孔が信号出力電極14へ向けて移動し、表面電流が発生する。電極131は、設けられた位置でのSi層11よりも電位が低く、正孔を収集する。
【0056】
また、以上の実施形態1〜5では、複数の曲線状電極が多重のリング状電極12である形態を示したが、半導体検出器1は、リング状以外の形状の曲線状電極を備えた形態であってもよい。夫々の曲線状電極は、信号出力電極14までの距離が互いに異なる。複数の曲線状電極は、電圧印加部31から電圧が印加され、順々に異なる電位を呈し、Si層11内に電位勾配を生成させる。例えば、各曲線状電極の形状は弧状であってもよい。
【0057】
また、電極131の形状は、非リング状であれば、ドット状又は弧状以外の形状であってもよい。また、半導体検出器1は、電子又は正孔以外の電荷を電極131で収集する形態であってもよい。また、放射線検出装置は、照射部33を備えておらず、外部から入射した放射線を検出する形態であってもよい。