特許第6846925号(P6846925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6846925
(24)【登録日】2021年3月4日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】製造性に優れた快削電磁鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210315BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20210315BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   C22C38/00 303S
   C22C38/60
   H01F1/147 166
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-251223(P2016-251223)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-104753(P2018-104753A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】細田 孝
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−113667(JP,A)
【文献】 特開2013−028855(JP,A)
【文献】 特開2007−051343(JP,A)
【文献】 特開2001−073101(JP,A)
【文献】 特開2006−152354(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0333451(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105483532(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
H01F 1/12− 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.030%以下、Si:0.5〜3.5%、Mn:0.05〜0.50%、P:0.030%以下、S:0.050〜0.200%、Cr:6.0〜10.0%、N:0.030%以下を含有し、さらにAl、Ti、VおよびNbの中の1種または2種以上を合計で0.005〜0.800%含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼であり、該鋼中に、快削性付与化合物として長径400μm以下の(Cr、Mn)硫化物が106μm2の範囲に40個以上分散して存在し、式(1)の大きさは1.2〜5.0であり、かつ式(2)の大きさは30以上であることを特徴とする耐鋼塊割れ性および熱間加工性の製造性に優れる快削電磁鋼。
ただし、
式(1):Mn/S
式(2):8Si+8Al+Cr+4Ti+4V+2Nb+2(Mn/S)−16(C+N)
【請求項2】
請求項1の化学成分を有し、かつ、式(1)および式(2)の大きさに加えて、質量%で、Te:0.030%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼であり、該鋼中に、快削性付与化合物としては(Cr、Mn)硫化物とその周りを囲むように存在するTe化合物からなる長径300μm以下の複合介在物であり、106μm2の範囲に30個以上分散して存在し、式(3)は0.15以上であり、式(4)は0.95以下であることを特徴とする耐鋼塊割れ性および熱間加工性の製造性に優れる快削電磁鋼。
ただし
式(3):Te/S
式(4):55Te−{2Al+2Ti+4V+4Nb+(Mn/20S)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、ソレノイド、電磁弁などの各種電磁アクチュエーターや電磁センサーの部材として使用できる、非鉛で環境負荷も少なく、優れた耐食性および被削性を有し、さらに良好な製造性を兼ね備えた快削電磁鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼には優れた磁気特性、被削性、耐食性、そして材料が安価で安定供給可能という観点から、良好な製造性も要求される。良好な製造性で、磁気特性と耐食性を損なわずに優れた被削性を有するPb添加電磁鋼はすでに市場に出ている。しかし、近年の製造業ではPbの有毒性を考慮し、Pbの使用は避けられている。Pb代替快削元素としてSを添加し、硫化物を被削性改善物質として、鋼中に分散させる例がある。しかしながら、このものは、上記した磁気特性、被削性、耐食性の他に良好な製造性などの各種要求特性は劣化する。そこで、非Pbで、かつ優れた磁気特性、被削性、耐食性、熱間加工性などの良好な製造性という全てを兼ね備えた材料が求められている。
【0003】
従来技術として、例えば、Ti422によって磁気特性、耐食性を損なうことなく快削性を付与した材料が提案されて特許されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この提案の特許は、安価でかつ安定供給という観点からは、製造性に関して詳細な検討はされていない。また、この提案は0.15質量%以下のPbの添加も許容している点に問題がある。
【0004】
この電磁鋼は、Pbを使用することなく(Cr,Mn)SおよびTeの添加によって磁気特性および耐食性を損なうことなく、快削性を付与した材料が提案されて特許されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この提案の特許は、被削性を担うSの添加量が0.040質量%以下と少なく、そのために被削性向上が必ずしも十分でない問題がある。
【0005】
この電磁鋼は、Pbを使用することなく、(Cr、Mn)SおよびTeの添加によって磁気特性および耐食性を損なうことなく快削性を付与した材料であり、被削性を担うS添加量も多く、Pb添加鋼と同等の以上の被削性を有する提案の出願である(例えば、特許文献3参照。)。この提案の出願は、製造性のうち熱間加工性は考慮しているものの、単に製造可能というレベルのものであり、安価に安定して供給するという観点からは、さらなる製造性の向上が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4544977号公報
【特許文献2】特許第5730153号公報
【特許文献3】特開2016−113667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願の発明が解決しようとする問題は、ソレノイド、電磁弁などの各種電磁アクチュエーターや電磁センサー部材などは、まず優れた軟磁気特性が要求される。さらに、その他にも、使用環境に対して十分な耐食性や、精密加工や量産加工に対応できる被削性も要求される。こうした要求に対応するべく、鉄鋼材料においては、耐食性を損なわずに大幅に被削性を向上させることから、Pbの添加が古くから利用されている。しかし、環境負荷への低減を考慮すると、Pbの使用は避ける必要がある。そこで、Pb代替の快削元素としてSを添加する方法が用いられている。ただし、Sの添加は必須特性である磁気特性および耐食性を劣化させ、さらに低融点化合物の形成助長によって、素材の製造性までも著しく阻害してしまい、安定供給の面および製造コストの面で問題が生じる。こうした問題を解決するために、Pbを添加せずに十分な耐食性と被削性を有し、さらに安定的に供給できる優れた製造性を有した快削電磁鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本願発明の手段は、第1として、環境負荷が小さく、かつ十分な耐食性と磁気特性を有し、さらに、素材の製造性である耐鋼塊割れ性および熱間加工性などに優れた快削電磁鋼とするために、次の5点の手段をとることとする。
1.環境負荷低減のため、非Pb鋼とする。
2.硫化物あるいは硫化物とTe化合物からなる複合化合物を鋼中に分散させてPb鋼同等以上の被削性を有するものとする。
3.S添加による磁気特性の劣化をSi添加量およびCr添加量を調整することで回避する。
4.Cr、Mn、Sの組成、および式(1)であるMn/Sの値を制御し、Sを硫化物として固定して熱間加工性を確保しながら、Crリッチとすることで、良好な耐食性を得る。
5.Al、Ti、Nb、Vの中の1種または2種以上の組成、および下記の式(2)によってフェライト安定度を高め、優れた磁気特性ならびに製造性である耐鋼塊割れ性および熱間加工性を確保する。
【0009】
第2として、次の6.の1点の手段をとることとする。
6.Teの組成、および式(3)、式(4)による制限により、被削性および磁気特性を向上させつつ、Te添加による熱間加工性の劣化を抑制する。
すなわち、下記の第1の手段、第2の手段の発明とする。
【0010】
第1の手段では、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.5〜3.5%、Mn:0.05〜0.50%、P:0.030%以下、S:0.050〜0.200%、Cr:6.0〜10.0%、N:0.030%以下を含有し、さらにAl、Ti、VおよびNbの中の1種または2種以上を合計で0.005〜0.800%含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼であり、該鋼中に、快削性付与化合物として長径400μm以下の(Cr、Mn)硫化物が106μm2の範囲に40個以上分散して存在し、式(1)の大きさは1.2〜5.0であり、かつ式(2)の大きさは30以上であることを特徴とする耐鋼塊割れ性および熱間加工性の製造性に優れる快削電磁鋼である。
ただし、
式(1):Mn/S
式(2):8Si+8Al+Cr+4Ti+4V+2Nb+2(Mn/S)−16(C+N)
【0011】
第2の手段では、請求項1の化学成分を有し、かつ、式(1)および式(2)の大きさに加えて、質量%で、Te:0.030%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼であり、該鋼中に、快削性付与化合物としては(Cr、Mn)硫化物とその周りを囲むように存在するTe化合物からなる長径300μm以下の複合介在物であり、106μm2の範囲に30個以上分散して存在し、式(3)は0.15以上であり、式(4)は0.95以下であることを特徴とする耐鋼塊割れ性および熱間加工性の製造性に優れる快削電磁鋼である。
ただし
式(3):Te/S
式(4):55Te−{2Al+2Ti+4V+4Nb+(Mn/20S)
【発明の効果】
【0012】
上記の手段の発明は、Pbを有さない非Pb鋼であるので、環境負荷が低減されて小さく、(Mn、Cr)Sからなる硫化物あるいは該硫化物とその周りを囲むTe化合物からなる複合化合物を鋼中に分散させていることで、Pb鋼と同等以上の被削性を有し、保磁力が低く、かつ耐食性に優れ、S添加による磁気特性の劣化をSiおよびCrの添加量を調整することで回避しており、Cr、Mn、Sの組成、および式(1)であるMn/Sを制御し、Sを硫化物として固定して熱間加工性を加工しつつ、Crリッチとすることによって、良好な耐食性が得られ、かつAl、Ti、Nb、Vの組成および式(2)によってフェライト安定度を高めることで優れた磁気特性ならびに製造性である耐鋼塊割れ性および熱間加工性を確保しており、Teの組成および式(3)、式に(4)よる制限により被削性および磁気特性を向上させつつ、Te添加による熱間加工性の劣化を抑制する効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明を実施するための形態に先立って、本願発明における化学成分および各条件について説明する。なお、化学成分は質量%で示す。
【0014】
C:0.030%以下
Cは、不可避不純物であり、0.030%より多いと得られた電磁鋼の磁気特性、耐食性および快削性を劣化する。そこで、Cは0.030%以下とする。
【0015】
Si:0.5〜3.5%
Siは、固有抵抗および磁気特性の向上に役立つ元素である。そのために、Siは0.5%以上とする。しかし、Siは3.5%より多いと過剰添加で磁気特性が悪化し、材料の靱性および加工性が劣化する。そこで、Siは0.5〜3.5%とする。
【0016】
Mn:0.05〜0.50%
Mnは、Sと結合して硫化物を形成し、被削性を向上させる元素である。そこで、Mnは0.05%以上とする。しかし、Mnは0.50%より多いと磁気特性が劣化する。そこで、Mnは0.05〜0.50%とする。
【0017】
P:0.030%以下
Pは、不可避不純物であり、0.030%より多いと得られた電磁鋼の熱間加工性および磁気特性が劣化する。そこで、Pは0.030%以下とする
【0018】
S:0.050〜0.200%
Sは、Mnと結合して硫化物を形成し、被削性を向上する元素である。そのためにはSは0.050%以上とする必要がある。しかし、Sは0.200%より多いと磁気特性および耐食性が劣化する。そこで、Sは0.050〜0.200%とする。
【0019】
Cr:6.0〜10.0%
Crは、耐食性の向上に必須の元素であり、また、保磁力を低減して軟磁気特性を改善する元素である。そのためには、Crは6.0%以上とする。しかし、Crは10.0%より多いと、Crの効果は飽和し、かつ過剰添加により保磁力が上昇して劣化する。そこで、Crは6.0〜10.0%とする。
【0020】
N:0.030%以下
Nは、不可避不純物であり、0.030%より多いと得られた電磁鋼の磁気特性が劣化し、窒化物生成による被削性が悪化する。そこで、Nは0.030%以下とする。
【0021】
Al、Ti、V、Nbの少なくとも1種または2種以上を含み、その合計は:0.005〜0.800%
Al、Ti、V、Nbは、いずれも選択元素であり、鋼塊割れ、熱間加工性、耐食性、被削性、磁気特性に関与する元素である。ところで、これらの元素の1種または2種以上の合計が0.005%以上であると、フェライト相の安定化により、これらの鋼塊割れ、熱間加工性、耐食性、被削性、磁気特性の劣化は回避できる。一方、これらの元素の1種または2種以上の合計が0.800%より多いと、上記の効果は飽和し、炭窒化物の形成によって、熱間加工性、耐食性、被削性、磁気特性が劣化する。そこで、Al、Ti、V、Nbの少なくとも1種または2種以上を含み、その合計は0.005〜0.800%とする。
【0022】
1.2≦:式(1):≦5.0、ただし、式(1)=Mn/S
式(1)は、熱間加工性および耐食性に関与する値である。式(1)の値が1.2より小さいと熱間加工性が悪化する。一方、式(1)の値が5.0より大きいと耐食性が悪化する。そこで、1.2≦式(1)≦5.0とする。
【0023】
式(2):≧30、ただし、式(2)=8Si+8Al+Cr+4Ti+4V+2Nb+2(Mn/S)−16(C+N)
式(2)は、熱間加工性に関与する値である。式(2)の値が30より小さいと熱間加工性が悪化する。そこで、式(2)≧30とする。
【0024】
Te:≦0.030%
Teは、Te化合物の生成およびTe硫化物の形態制御で、被削性、磁気特性および熱間加工性に関与する元素である。Teが0.030%以下であると、Te化合物の生成およびTe硫化物の形態制御で、被削性、磁気特性が向上する。一方、Teが0.030%を超えると熱間加工性が悪化する。そこで、Teは0.030%以下とする。
【0025】
式(3):≧0.15、ただし、式(3)=Te/S
式(3)の値は、Te化合物の低融点に伴う熱間加工性に関与する。そこで、式(3)の値を0.15以上とすることにより、Te化合物の低融点化を抑えて熱間加工性を確保する。そこで、式(3)の値は0.15以上とする。
【0026】
式(4):≦0.95、ただし、式(4)=55Te−{2Al+2Ti+4V+4Nb+(Mn/20S)}
式(4)は、鋼塊割れ、被削性および磁気特性に関与する値である。つまり、式(4)の値が0.95より大きいと、鋼塊割れを起こし、被削性および磁気特性を劣化する。そこで、式(4)の値は0.95以下とする。
【0027】
ここで、発明の実施の形態について、以下に記載することとする。表1に記載の化学成分からなり、式(1)〜式(4)を満足する実施例であるNo.1〜14の発明例の快削電磁鋼と、表2に記載の発明例の比較例であるNo.15〜36の電磁鋼を、それぞれ100kgVIM(真空誘導溶解法)にて鋼塊を溶製し、得られた鋼塊を径20mmの棒材に形成した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
上記で得られた発明例の鋼塊および比較例の鋼塊に含有される介在物の構成を確認するために、EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、これらの鋼塊から形成した径20mmの棒材のL断面に観測された快削性付与化合物の硫化物およびTe化合物を観察および分析して、これらの発明例を表3に比較例を表4にそれぞれ示した。すなわち、表3および表4の観測された介在物の欄において、Teを添加していない鋼からなる材料については、106μm2の範囲に長径400μm以下の(Cr、Mn)Sが分散して40個以上あれば、評価を○とし、40個未満では評価は×とした。Te添加材については、106μm2の範囲に30個以上の(Cr、Mn)Sとその周りを囲むように存在するTe化合物からなる長径300μm以下の複合介在物が存在していれば、評価を○とし、30個未満の(Cr、Mn)Sとその周りを囲むように存在するTe化合物からなる長径300μm以下の複合介在物が存在する場合は評価を×とし示した。
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
発明例の表3および比較例の表4における耐鋼塊割れ性の評価は、鋼の100kgをVIMで溶解して、円柱状インゴットに鋳造し、インゴット上端から約250mmの位置で輪切りにし、切断端面を浸透探傷によるカラーチェックで割れを探傷し、このカラーチェックにて鋼塊中心に割れが確認された範囲の面積を測定した。鋼塊割れ率=割れ発生面積/カラーチェックの被験面積とする計算にて定量化して表示した。鋼塊割れ率が10%未満であれば良好であるので評価を○とし、鋼塊割れ率が10%以上では悪いので評価を×として、それぞれ表3および表4に示した。
【0034】
熱間加工性の評価は、耐鋼塊割れ性の評価後に、上端から250mmで切断したインゴットのうち、上端側を使用して、15mm角の長さ110mmの角材を採取し、これらを1150℃で均質化熱処理した後、径8mmの棒で長さ100mmのグリーブル試験片へ加工して熱間加工性の評価試験を実施した。これらのグリーブル試験片をグリーブル試験機を用いて1000℃、1050℃、1100℃の各温度に加熱した後、毎秒50mmの引張速度で引張試験を行って絞り値を測定した。上記の各加熱温度で絞り値を測定し、絞り値が全て70%以上を評価で○とし、それ以外は、たとい1つの加工温度の絞り値が70%以上であっても、他の2つ加工温度の絞り値のうちの1つのでも絞り値70%未満であれば絞り値の評価を×とし、それぞれ表3および表4に示した。
【0035】
上記以外の評価用の試験片には、耐鋼塊割れ性の評価後に、それらのインゴットの上端から250mmで切断してそれらのインゴットのうちの下端側を使用して、径60mmと径20mmの棒材に鍛伸して、次いで熱処理として750〜850℃で焼鈍し、グリーブル試験片を除く下記の磁気特性、被削性および耐食性の各試料を作製した。
【0036】
磁気特性の評価は、径20mmの棒材を外径13mm、内径9mm、厚さ5mmからなる磁気リングに機械加工し、さらに、750〜900℃で真空磁気焼鈍を施した後に、直流磁気測定装置にて保磁力を測定した。保磁力130A/m未満の評価を○とし、保磁力130A/m以上のものの評価を×とした。
【0037】
被削性の評価は、径60mmの棒材の断面を旋盤で平滑化し、被削性評価を実施した。評価方法はドリル穿孔試験で、これは、深さ10mmの穿孔までに要する時間を測定し、その所要時間が10.5秒未満のものの評価を○とし、10.5秒以上のものの評価を×とした。
【0038】
上記のドリル穿孔試験の詳細な試験条件は、以下の通りである。
ドリル:SKH51、径5mm
切削油:なし
推力:414N
回転数:1190rpm
【0039】
耐食性の評価は、径20mmの棒材から、径12mmで長さ21mmの腐食試験用の試料を作製した。この試験片に50ppmの希薄塩水を35℃で16時間噴霧する塩水噴霧試験を実施し、試験片の表面を観察し、長径3mm以上の点状錆の数が20個以下のものの評価を○とし、長径3mm以上の点状錆の数が21個以上のものの評価を×とした。
【0040】
本願の第1の手段(すなわち請求項1)の発明例のNo.1〜5および第2の手段(すなわち請求項2)の発明例のNo.6〜14は、表1に示すように、式(1)の値が1.2〜5.0の範囲にあり、式(2)の値が30以上で、かつ第2の手段(すなわち請求項2)の発明例のNo.6〜14は、式(3)の値が0.15以上で、式(4)の値が0.95以下である。さらに本願の第1の手段(すなわち請求項1)の発明例のNo.1〜5および第2の手段(すなわち請求項2)の発明例のNo.6〜14は、表3に示すように、106μm2中に観測された介在物(Cr、Mn)Sの個数は、第1の手段の発明例のNo.1〜5のいずれもが長径400μm以下の硫化物の個数が40個以上であり、第2の手段の発明例のNo.6〜14のいずれもが長径300μm以下の硫化物の個数が30個以上であり、これらの本願の発明例は、いずれもが、耐鋼塊割れ性の鋼塊割れ率が10%以下で評価は○で、熱間加工性の1000℃、1050℃、1100℃での絞り値が70%以上で評価が○で、磁気特性の保磁力が130A/mより小さく評価が○で、被削性の穿孔時間が10.5secより短時間で評価が○で、耐食性の点状錆数が20個以下で評価が○である。
【0041】
一方、本願の第1の手段(すなわち請求項1)の比較例のNo.15〜26および第2の手段(すなわち請求項2)の比較例のNo.27〜36について検討する。なお、比較例のNo.37は、鉛添加鋼であって参考例である。
【0042】
比較例のNo.15は、表2に示すように、Cの質量が0.033%と、本発明のCの質量の上限の0.030%よりも多いので、表4に示すように、耐食性が劣化し点状錆数が20個よりも多く評価が×である。
【0043】
比較例のNo.16は、表2に示すように、Siの質量が3.7%と、本発明のSiの質量の上限の0.50%よりも多いので、表4に示すように、磁気特性が悪化し、保磁力が141A/mと、本発明の130A/m未満よりも多く評価が×である。
【0044】
比較例のNo.17は、表2に示すように、Mnの質量が0.61%と、本発明のMnの質量の上限の0.50%よりも多いので、表4に示すように、磁気特性が劣化し、保磁力が138A/mと、本発明の130A/m未満よりも多く評価が×である。
【0045】
比較例のNo.18は、表2に示すように、Pの質量が0.048%と、本発明のPの質量の上限の0.030%よりも多いので、表4に示すように、熱間加工性が劣化し、1000℃、1050℃の絞り値が64%、68%と、本発明の下限値の70%よりも少なく評価が×である。
【0046】
比較例のNo.19は、表2に示すように、Sの質量が0.247%と、本発明のSの質量の上限の0.200%よりも多く、表4に示すように、熱間加工性が劣化し、1000℃、1050℃、1100℃の絞り値が65%、59%、68%と、本発明の下限値の70%よりも少なく評価が×となった。そこで、磁気特性の保磁力の評価以下は行わなかった。
【0047】
比較例のNo.20は、表2に示すように、Sの質量が0.037%と、本発明のSの質量の下限値の0.050%よりも少ないので、表4に示すように、介在物の個数が34個と本発明の40個以上を満足しないので介在物の評価は×であり、被削性の穿孔時間が悪く、本発明の上限値の10.5secよりも多く評価が×である。
【0048】
比較例のNo.21は、表2に示すように、Crの質量が11.1%と、本発明のCrの質量の上限値の10.0%よりも多いので、表4に示すように、磁気特性の保磁力が悪く、本発明の上限の130A/mよりも多く評価が×である。
【0049】
比較例のNo.22は、表2に示すように、Al、Ti、V、Nbの合せた質量が0.819%と、本発明のこれらの合せた質量の上限値の0.800%よりも多いので、表4に示すように、磁気特性の保磁力が150A/mであり、本発明の上限の130A/mを超えており評価が×である。
【0050】
比較例のNo.23は、表2に示すように、Nの質量が0.045%と、本発明の0.030%よりも多いので、表4に示すように、磁気特性の保磁力が150A/mであり、本発明の上限の130A/mを超えており評価が×である。
【0051】
比較例のNo.24は、表2に示すように、式(1)の値が0.7と、本発明の下限値の1.0よりも小さいので、表4に示すように、熱間加工性の1000℃と1050℃の絞り値が65%、69%と、本発明の絞り値の上限値の70%より少ないので熱間加工性の評価が×である。
【0052】
比較例のNo.25は、表2に示すように、式(1)の値が5.5と、本発明の上限値の5.0よりも大きいので、表4に示すように、耐食性の点状錆数が27と、本発明の耐食性の点状錆数の上限値の20よりも大きいので耐食性の評価が×である。
【0053】
比較例のNo.26は、表2に示すように、式(2)の値が27と、本発明の下限値の30よりも小さいので、表4に示すように、耐鋼塊割れ性の鋼塊割れ率が13%と、本発明の鋼塊割れ率の上限値の10%よりも大きいので耐鋼塊割れ性の評価が×である。
【0054】
比較例のNo.27からは、発明例2の比較例である。比較例のNo.27は、表2に示すように、化学成分のTeの質量が0.045%と、発明例2の上限値の質量の0.030%よりも多いので、表4に示すように、熱間加工性の絞り値の1000℃、1050℃、1100℃の値が57%、62%、64%と、いずれも本発明の熱間加工性の各温度の絞り値の70%よりも小さいので熱間加工性の評価が×である。
【0055】
比較例のNo.28は、表2に示すように、式(3)の値が0.12で、本発明の下限値の0.15より小さいので、表4に示すように、熱間加工性の絞り値の1000℃、1100℃の値が64%、69%と、いずれも本発明の熱間加工性の各温度の絞り値の70%よりも小さいので熱間加工性の評価が×である。
【0056】
比較例のNo.29は、表2に示すように、式(4)の値が1.02で、本発明の上限値の0.95より大きいので、表4に示すように、熱間加工性の絞り値の1000℃の値が66%と、本発明の熱間加工性の各温度の絞り値の70%よりも小さいので熱間加工性の評価が×である。
【0057】
比較例のNo.30は、表2に示すように、Mnの質量が0.58%で、本発明のMnの質量の上限値の0.50%より大きいので、表4に示すように、磁気特性の保磁力が133A/mと、本発明の磁気特性の保磁力の130A/mよりも大きいので磁気特性の評価が×である。
【0058】
比較例のNo.31は、表2に示すように、Cの質量が3.8%で、本発明のCの質量の上限値の3.5%より大きいので、表4に示すように、磁気特性の保磁力が142A/mと、本発明の磁気特性の保磁力の130A/mよりも大きいので磁気特性の評価が×である。
【0059】
比較例のNo.32は、表2に示すように、Crの質量が10.4%で、本発明のCrの質量の上限値の10.0%より大きいので、表4に示すように、磁気特性の保磁力が149A/mと、本発明の磁気特性の保磁力の130A/mよりも大きいので磁気特性の評価が×である。
【0060】
比較例のNo.33は、表2に示すように、Nの質量が0.036%で、本発明のNの質量の上限値の0.030%より大きいので、表4に示すように、磁気特性の保磁力が149A/mと、本発明の磁気特性の保磁力の130A/mよりも大きいので磁気特性の評価が×である。
【0061】
比較例のNo.34は、表2に示すように、式(1)の値が5.3で、本発明の式(1
)の値の上限値の5.0より大きいので、表4に示すように、耐食性の点状錆数が24と
、本発明の耐食性の点状錆数の上限値の20個よりも大きいので耐食性の評価が×である。
【0062】
比較例のNo.35は、表2に示すように、式(2)の値が28で、本発明の式(2)の値の下限値の30より小さいので、表4に示すように、耐鋼塊割れ性の鋼塊割れ率が16と、本発明の耐鋼塊割れ性の鋼塊割れ率の上限値の10よりも大きいので耐鋼塊割れ性の評価が×である。
【0063】
比較例のNo.36は、表2に示すように、Sの質量が0.023%と、本発明のSの質量の下限値の0.050%よりも少ないので、表4に示すように、介在物の個数が25個と本発明の30個以上を満足しないので介在物の評価は×であり、被削性の穿孔時間が悪く、本発明の上限値の10.5secよりも多く評価が×である。
【0064】
比較例のNo.37は、参考例であり、鉛添加鋼であって、表2に示すように、Pbの質量で0.12%含有しているが、表4に示すように、106μm2中に観測された長さ300μm2以下のPb介在物の個数は観測されず評価は×である。なお、耐鋼塊割れ性、熱間加工性、磁気特性、被削性および耐食性の評価はいずれも○である。